井上卓也
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より
テープデッキ関係はいうに及ばず、ディスクを中心とする、いわゆるコンポーネントシステムでも、カセットデッキなしでは何事も語れないともいえるほど、カセットデッキは普及し、ラジオカセットやモノーラルの小型レコーダーまでを含めれば、もはやカセットは、オーディオではなく、日用品となったといってもよいであろう。
この数多くのカセットデッキやテープレコーダーの頂点に立つものが、ナカミチ1000である。ことオーディオコンポーネントの分野に限っても、カセットデッキの極限に挑戦し、市販のオープンリール38センチ・2トラックデッキに迫り、追抜く、性能と音をもつといわれたこのモデルの存在は、それだけでも大変に素晴らしいことであるし、その性能の高さと音質の良さが、カセットデッキが、オーディオのプログラムソースとして使用可能であると、それまで不信感のあった無数のユーザーの信頼を得ることができ、数多くのメーカーを刺激して、今日のカセットデッキ全盛の時代を招いた原動力になっていると思う。
録音モニター可能な3ヘッド構成、ワンタッチで軽快に作動するテープ走行系のコントロールボタン、センターチャンネルマイク、ドルビーをはじめとするノイズリダクションやリミッター類といった機能に加えて、ヘッドアジマス調整用の発信器と、LEDを使う調整チェック装置など、テープを使うユーザー心理を見抜いた卓越した設計が随所に見られる。やはり、世界の高級ファンにこの高価格をもちながら認められ、愛用されているのは、まさしくこのデッキの実力以外の何ものでもない。
700は、基本型を1000に置き、デザインを変えて、コストダウンしたデッキである。ナカミチとしては第2位にランクされるモデルであるが、カセットデッキとしては、文字通り高級デッキであることに変わりはなく、価格を考えての実質的な魅力は、一般的には700のほうが、むしろ多いはずである。
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