Category Archives: 筆者 - Page 136

パイオニア Exclusive Model 2301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 同じエクスクルーシヴのシリーズだが、構造もホーンロードで全く違うにしても、3301とは全く対照的といえるほど正反対の音に作られている。3301がどちらかといえば中〜高域にバランスの重心を置いた、少し乱暴に分類すればハイあがりの傾向の音であるのに対して、2301は中〜低域に重点を持たせてハイをやわらかく作った、今日的にみれば決してレインジの広くないスピーカーだ。フロアータイプの作り方だが、ブロック一段を寝かせた上に乗せて、ほとんど部屋のコーナー近くにセッティングしたが、なかなか緻密で腰のしっかりした音を鳴らす。フロントロードホーンという構造のせいか、ローエンドの量感は少々不足するので、150Hzターンオーバーのトーンコントロールで補整を試みたが、ホーンの中〜低域のエネルギーが相当に大きいらしく、ブーストがあまり効果的に利かない。同様に8kHzターンオーバーでハイエンドを補整してみてもあまり利き目がないところから、ユニット自体が本質的にナロウレインジでまとめられていることがわかるが、中域の密度の高い、そしておそらくは木製ホーンの良さでもある金属的な弱点のない声の暖かな表現はなかなかのものだ。能率がおそろしく高いのでハイパワーのアンプは不必要だが、音量を上げてもL200Bのようにスカッとのびてまではくれなかった。

ダイヤトーン DS-90C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ものすごく大きい、という感じのする大型フロアータイプだ。ただし音質は大型だからというこけおどし的なところがなく、正攻法で作られたまさにダイヤトーンの音だ。とはいうものの、DS30Bのところでも書いたように、今回のダイヤトーンに関して言うかぎり、従来のいわゆるダイヤトーンの音がずいぶん傾向を変えた、という印象だ。もちろん、音色そのものが変わったのではない。全音域に手抜きのない、密度をたっぷり持たせた音はまさにダイヤトーンなのだが、同時に従来の製品が持っていた中域のよく張った、ときとして張りすぎた感じの作り方がぐっと抑えられた。それと共に、あるいはそのために聴感上のバランスがそう感じさせるのかもしれないが、トゥイーターのハイエンドも従前の製品よりはレンジをひろげてあるように聴きとれる。相当のハイパワーにもびくともしない耐入力を持っているようだが、それでいて小音量に絞っても全体のバランスや質感があまり変らない点は立派だ。大型ウーファーの弱点になりがちな音の重さもないが、ローエンドの伸びはもう少し欲しい。このクラスになるとCA2000のクラスではもはや少々役不足という感じで、セパレートのハイパワーアンプが欲しくなる。台は不要。左右にかなりひらく方が爽やかさが出る。部屋はデッドぎみに調整する方がよかった。

ビクター SX-11

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音にかすみがかかっている。音色対比はついている。
❷あいまいにらなず、奥の方にひけてもいるが、鮮明さははもう一歩だ。
❸フラジオレットの効果は、他のひびきにうめこまれて、はっきりしない。
❹ピッチカートのひびきが過度にふくらみすぎている。
❺たっぷりと腰のすわったひびきだが、もう少し鮮明でもいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はかなり大きい。表情を強調しがちだ。
❷ファゴットの響きがあいまいになる傾向がある。
❸総体的に響きが重くなりすぎて、「室内オーケストラ」らしさが不足だ。
❹表情がどうしてもわざとらしくなってしまう。
❺くっきり示しはするが、とってつけたようなところがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶響きは風呂場の中でのようにきこえる。
❷接近感をいくぶん誇張気味に示す。わざとらしい。
❸声が前にたって、オーケストラの響きがひっこみすぎる。
❹はった声が、どうしてもメタリックなものとなる。
❺きこえはするものの、音色的に多少異質だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右からの響きがふくらみ、左がひっこむ。
❷声量の差がもう少しはっきり示されてもいいだろう。
❸残響をひきずりすぎるためか、言葉がたちにくい。
❹響きそのものに、もう少し軽みがほしい。
❺のびることはのびるが、とってつけたようなところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は、かなりくっきり、わかりやすくつく。
❷後方からくるが、響きは重く、しめりがちである。
❸響きは、浮遊せずに、しめりがちである。
❹音色的に、いくぶんかげりがちで、はれやかさが不足している。
❺力づくで前にでてくる。ピークは刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶広々とした気配が不足している。透明感もたりない。
❷くまどりがきつすぎないか。せりだし方は積極的だが。
❸響きがまとまりすぎていて、広がりがたりない。
❹きこえるが、誇張感がないとはいいがたい。
❺他の響きの中にうめこまれがちで、効果が示されにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されすぎているというべきだろう。
❷響きの厚みは示されるものの、イーグルスのサウンドとしては異色だ。
❸響きは、乾ききらず、重く、力をもっている。
❹ひきずりがちだ。シャープな反応がほしい。
❺言葉がたちにくい。いくぶんごりおし気味になる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力はあるものの、迫力を誇張気味である。
❷この部分の響きの特徴は、必ずしもきわだたせない。
❸響きの骨だけを示しているとでもいうべきか。
❹一応の動きは示すものの、反応はシャープとはいえない。
❺音像的に差がありすぎて、多少不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重く、切れが鈍いところがあり、はえない。
❷力は十全に示すものの、音の見通しがつきにくい。
❸はなはだ積極的にはりだすものの、効果的とはいえない。
❹へだたりがもう少し感じられればいいのだろうか。
❺リズムが重く、印象として鈍いものとなる。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてきて、距離感がほとんどない。
❷尺八らしい響きの特徴がでにくい。
❸ごくかすかにしかきこえず、ものたりない。
❹力はあるものの、響きに広がりが不足している。
❺ききとれるが、対比感は稀薄というべきだろう。

JBL 4343

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきにあかるさがあり、鮮明で、あいまいさがない。
❷奥の方で力をもって、輪郭たしかに提示される。
❸個々のひびきへの対応のしかたがしなやかで、無理がない。
❹たっぷり、余裕をもったひびきで、細部の鮮明さはとびぬけている。
❺ひびきに余裕があり、クライマックスへのもっていき方はすばらしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレとロザリンデの位置関係から、ひろがりが感じられる。
❷声のなまなましさは他にあまり例がないほどだ。
❸声のつややかさが絶妙なバランスでオーケストラのひびきと対比される。
❹はった声もしなやかにのびていく。こまかいニュアンスをよく伝える。
❺オーケストラの個々のひびきを鮮明に提示する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに妙な癖がないので、すっきりと鮮明だ。
❷声量差をデリケートに示し、言葉はあくまでも鮮明だ。
❸残響をすべてそぎおとしているわけではないが、言葉の細部は明瞭だ。
❹ソット・ヴォーチェによる軽やかさを十全に示す。
❺声のまろやかさとしなやかさ、それにここでの軽やかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の音色的特徴を誇張するようなことは、まったくない。
❷シンセサイザーのひびきのひそやかなしのびこみはすばらしい。
❸ひびきはこのましく浮びあがり、飛びかう。
❹前後のへだたりが充分にとれ、ひろがりが感じられる。
❺もりあがり方に不自然さはまったくなく、ピークは力にみちてみごとだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかな音のしのびこみ方が絶妙だ。透明なひびきのよさがきわだつ。
❷ギターの進入と前進、途中での音色のきりかえが鮮明。
❸このひびき特徴をあますところなく伝える。
❹わざとらしさがない。ひびきはきらりと光る。
❺ギターとのコントラストの点でも充分だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶反応の鋭さによってさわやかなサウンドがもたらされる。
❷充分なひびきの厚みが示され、効果的だ。
❸ハットシンバルが金属でできていることをひびきの上で明快に示す。
❹ドラムスによるアタックは鋭く、声との対比もいい。
❺言葉のたち方は自然で、楽器によるひびきとのコントラストも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はふくれすぎず、くっきりしている。
❷不自然な拡大・誇張はないが、充分になまなましい。
❸消え方をすっきりと示す。しかしこれみよがしにはならない。
❹反応は、シャープであり、しかも力強い。
❺音像的な対比にはいささかの無理もない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを示し、しかもひろがりも感じさせる。
❷ブラスは、輝きと力のある音で示され、中央をきりひらいていくる。
❸横に拡散しすぎることはないが、力のあるひびきでききてをおそう。
❹後へのへだたりはすばらしい。見通しも抜群だ。
❺リズムの提示は、力感にみちていて、このましい。

座鬼太鼓座
❶ほどよい位置から、しかし鮮明にきこえてくる。
❷尺八の特徴的な音色をよく示し、独特のなまなましさを感じさせる。
❸きこえて、輪郭もあるが、これみよがしではない。
❹充分にスケールゆたかだ。この大太鼓のただならぬ大きさを感じさせる。
❺充分に効果的にきこえて、雰囲気ゆたかなものとしている。

インフィニティ Quantum 4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 非常に独特の軽やかでキメのこまかくよくひろがる音がする。音像が空間によく浮かび、奥行きも十分に感じられる。イギリス製のスピーカーにはよくこういう傾向の音が聴かれるが、イギリス系のそれが概して誇張のない自然な音に支えられて、スピーカーの向う側に、いささかミニチュアライズされた、しかしいかにもほんものの原音場が展開したかのような錯覚を感じさせるのにくらべると、インフィニティの展開する音場は、それよりもスケールが大きいかわりにどこか人工的な匂いがあって、しかしこの人工的なひろがり感はこれなりに楽しませる。トゥイーターの特殊な構造のせいか、コンデンサー・ヘッドフォンで聴くような一種キメの細かい音がするが、反面、トゥイーターがつねにピチピチという感じのノイズを空間にちりばめているうよで、たとえばルボックスのあのひっそり、かつしっとりした感じが得にくい。中域あたりの力がもう少し欲しく思われて連続可変型ののレベルコントロール(ノーマルの指定がない)を調整してみたが、いろいろなレコードの平均をとると、結局中点あたりに落ちつく。台に乗せずにインシュレーターを介して床に直接置き、背面を適度にあけると、音のひろがりと奥行きがよく出て、リズムが軽く浮き上る。組合せは4000DIIIやCA2000の傾向が、やはりこのスピーカーをよく生かす。

オットー SX-P1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 まず大掴みに言って、国産スピーカーの中では音のバランスはかなり良い方に属する。概して中〜高域を張りぎみに作る傾向のある国産の中で、たとえばオーケストラのトゥッティでも弦が金属的になるようなことがなく声部のバランスも悪くないし、キングズ・シンガーズのコーラスの、Fa、ra、ra……の声も、ハスキイになったり耳ざわりにやかましく張ったりするようなことがない。そういう意味で、かなり慎重に時間をかけて練り上げられた、真面目な作り方のスピーカーであることはわかる。ただ、音域全体に、ことに中域以下の低域にかけて、かなり重さが感じられ、たとえばベースの音も、ブンとかドンとかいうよなにことばで形容できるような鳴り方をする。この鈍さを除きたいと思って、置き方をいろいろくふうしてみた。興味あることに、ふつうはブロックなどの台に乗せる方が音の軽さが出てくる筈だが、このスピーカーはそうするとかえって、低域のこもりが耳につくようになる。床に直接のまま、背面を壁からかなり離し、トリオLS707のときのように壁面にウレタンフォームをいっぱいに置いて部屋をデッドに調整する方がいいことがわかった。また、カートリッジは455Eよりは4000DIII、アンプもCA2000の傾向の方が、音の重さが救われて、反応のよさや明るさがいくぶん増すと感じられた。

マランツ Model 920

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 音は直接に関係のないことだが、このスピーカーの形は独特で、しいていえばブックシェルフ型のキャビネットとそれに最適のスタンドとを、はじめから一体に設計したともいえるデザインだ。市販されているブックシェルフ型のスピーカーのほとんど90%以上は、そのまま床に置いたのではどうにも音のバランスをくずしてしまう。そのためにユーザーがそれぞれにくふうしてスタンドを調達しなくてはならない現状で、このマランツの方法はひとつの興味ある解決策として拍手を送る。ところでかんじんの音質だが、総体に明るく、音離れがよく(音がスピーカーの箱のところに張りついたような感じがしないで、鳴った音が箱からパッと離れてこちらにやってくる)、そしていくらか乾いた傾向の鳴り方をする。その意味で明らかにアメリカの西海岸のスピーカーに共通の性格を持っている。アコースティカル・プラグという名で、バスレフの開孔部をふさいでいるスポンジを引き抜くと、低域がさらに明るくよく弾むが、部屋の特性によってはいくらかラフな感じになり、孔を閉じるといくらか重い低音になる。中〜高域の質感はこのクラスとしてはもう一息緻密さが欲しいが、、バランス的には優れている。壁からやや離して設置したが、その状態で、4000DIIIやCA2000のような明るい傾向の組合せがこのスピーカーをよく生かした。

「テスト結果から私の推すスピーカー」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 前号でも価格のランク別に推薦スピーカーを列挙したが、それとは別に、無条件で推薦できる製品として、前回はセレッションのDITTON66をあげた。同じ意味で今回のテストからあげるなら、JBL♯4343とKEF♯105をためらわずに推す。この二つのどちらか、あるいは両方があれば、私自身はこんにち得られるレコードのどんな新しい録音でも、そこから音楽の内容を聴きとることに十分の満足をもってのぞむことができるし、これらのスピーカーがあれば、アンプやカートリッジの音質の判定にも相当の自信をもつことができる。言うまでもないことだがこのどちらも、いわゆるモニター仕様で設計されて、こんにちの時点でそれぞれ(少なくとも商品として)最高のレベルで完成している優れたスピーカーといえる。無条件で、と書きはしたが、しかし、いま「少なくとも商品として」と断ったように、大きさや形や価格の制約の中で作られる、言いかえれば個人が時間も規模も経済性も無視して作りあげるスピーカーとは違う現実の製品としては、やはり価格のランクの中で、という前提を忘れるわけにはいかない。
          *
 そこで前回に準じて、価格帯別に推薦機種を列挙してみる。
■30万円台以上の中から
 JBL L200B クラシックには少し苦しいが、ポップス、ジャズに関するかぎりやはり素晴らしい音で楽しませる。
 オンキョー セプター500 国産の大型としてはたいへんに完成度が高い。
 これ以外に、ヤマハFX1は試聴記にも書いたように、もう少し量産が進んでからの結果を見守りたい。
■20万円台の製品から
 タンノイ ARDEN

■18万円付近の中から
 インフィニティ QUANTUM4
 ダイヤトーン DS90C

■10〜15万円まで
 スペンドール BCII
 ルボックス BX350

■8〜10万円
 エクスクルーシヴ♯3301
 次点としてマランツ ♯920

■5万円前後
 B&W DM4/II
 BSW(ボリバー) MODEL18
 デンオン SC105

■4万円前後
 サンスイ SP−L150
 ダイヤトーン DS30B

■ミニスピーカーグループの中から
 これはテストしたスピーカーすべてが、それぞれに良かった。
 ロジャース LS3/5A
 スペンドール SA1
 JR JR149
 ヤマハ NS10M
 なおテストリポートには掲載されていないが、参考品として試聴した十数機種の中で、イギリス・ロジャースの新製品「コンパクトモニター」は、バランスの良い響きの美しさがとても印象深かった。同社のBBCモニターLS3/5Aのような緻密さには及ばないが、反面、大きさで無理をしていないせいか鳴り方にゆとりがあり、クラシックの弦を中心にとても楽しめるスピーカーだと思ったので、あえて追記させて頂く次第。 

サンスイ SP-G200

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 トリオのLS707もそうだったが、このスピーカーも、どちらかといえばリスニングルームがデッドなほうがいい。また、これはキャスターのついたフロアータイプだが、いろいろと設置条件をかえてみると、20センチほどの低めの台に乗せる方が、中域から低域の音離れがよくなるように思った。キャスターのままでは、中〜低域の固まりをもっと解きほぐしたくなる。ただ、ホーントゥイーターの2シェイのためにハイエンドをあまり伸ばしていないせいか、右の置き方をすると、ほんらいの中音域重視のいわゆるカマボコ型的な特性がいっそう強調されるので、低域と高域の両端を、それぞれトーンコントロールやイクォライザーで多少補正する方が楽しめる音になる。ヴォーカルで男声の場合には発声が明瞭で音が良く張り出すが、バルバラのような女声を中ぐらいの音量で鳴らすと、ウーファーとトゥイーターのつながりのあたりにもう少し密度が欲しいような気もする。ただし音量を上げてゆくとむしろ中域(おそらくトゥイーターのカットオフ附近)は張り出して、コントラストの強い傾向の音になる。アンプ、カートリッジは、CA2000+4000DIIIのような明るい傾向が合い、さらりとした適度な華やかさが出る。455EやKA7300Dのような系統は、スピーカーの持つ性格をおさえすぎるようだ。

パイオニア Exclusive Model 3301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たいへん独特な形をしたスピーカーで、総体にややハードな音色だが、バランスはかなりいいし、べとつきのない音離れの良い明るい鳴り方はひとつの特徴だ。専用(別売)のスタンドに乗せて聴いたが、おそらくそのせいばかりではなく本質的に、軽く反応のよい低音は、概してもたつくことの多い国産の低音の中では特筆ものだ。重低音の量感がもう少し欲しく思われて、背面を壁に近づけてみたが、量感的にはもうひと息というところ。ただそうしても低音が重くなったり粘ったりしない点は良い。クラシックのオーケストラや弦合奏でも、いくらか硬質な、そして中〜高域にエネルギーの片寄る傾向がいくらかあるものの、一応不自然でない程度までよくコントロールされている。音量を上げても音のくずれがなく、よくパワーが入るし音のバランスもくずれない。ただ、ヴォーカルを聴くと、中〜高域に一ヵ所、ヒス性のイズをやや強調するところがあって、子音に火吹竹を吹くようなクセがわずかにつく。MIDのレベルを絞るとそれがなくなることから中域のユニットの弱点だと思うが、しかしMIDレベルを0から−1でも絞るとバランスが明らかにくずれるので絞れない。この辺にもうひと息、改善の余地がありそうで、ぜひそうしてほしい佳作だと思う。アンプやカートリッジをあまり選り好みせず、それぞれの音色をよく鳴らし分けた。

ヤマハ FX-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶すっきり、さわやかに提示する。ひびきとしてのまとまりはいい。
❷低音弦のスタッカートが過度にせりださないのがいい。
❸誇張感がまるでなく、鮮明にひびきの特徴を示して、見事だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズのキメこまかさはすばらしい。
❺しなやかなひびきで、力をもって充分にもりあげる。力強く鮮明だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、力をもって、ゆたかにひびく。音像もほどほどだ。
❷さわやかなひびきでそれぞれ音色を鮮明に示す。
❸ひびきが大きくふくらみすぎないのはいい。
❹ここで感じられるキメ細かさはさわやかだ。
❺とりわけフルートの音色はこのましい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶すっきりした無駄のない声の提示は大変になまなましい。
❷接近感の示し方にも無理や誇張がない。
❸声とオーケストラの位置関係、音色対比等、見事だ。
❹声のなまなましさは特徴的だが、はった声は幾分硬くなる。
❺オーケストラと声のバランスはいとも自然だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声のまろやかさをたもちつつ、鮮明だ。
❷声量の変化を不自然にならずに示してこのましい。
❸余分なひびきをひきずっていないので、言葉の細部をくっきり示す。
❹各声部のからみあいは、あいまいになることなく、明瞭に示されている。
❺自然なのびやかさがあり、誇張感は皆無だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶透明感のあるひびきで、すっきりと対比される。
❷奥の方からのシンセサイザーのひびきは、実にすっきりしている。
❸浮遊感の点で申し分ない。飛びかい方もまず十全だ。
❹前後のへだたりを充分に示し、広々とした空間を提示する。
❺ピークへのもりあげは確実で、圧倒的な迫力を感じさせる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分に透明なひびきが前後左右にすっきりとひろがり、すばらしい。
❷❶との対比の上でのこのひびきの特徴を十全に示している。
❸くっきり、輪郭明らかに提示して、効果的だ。
❹透明度の高いひびきで、輝きをすっきり示す。
❺ギターのはりだし方も自然で、対比の面でも有効だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶さわやかなサウンドは、ここできける音楽によくあっている。
❷ひびきがいささかも重くなることがなく、充分に厚みを示す。
❸ハットシンバルのひびきのすっきりしたぬけはすばらしい。
❹ドラムスの切れ味鋭いつっこみがみごとだ。
❺バック・コーラスの声の重なり具合を鮮明に示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶くっきり提示され、ひびきがふくらまないのがいい。
❷ひびきの中味がぎっしりつまっているので、なまなましい。
❸消える音を誇張はしないが、すっきり示している。
❹細かい音の動きに対しての反応は、実にシャープだ。
❺さまざまな面での対比ではほとんど不自然さは感じられない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきにあいまいさがなくくっきりしているのがいい。
❷ブラスのひびきは、それ本来の輝きをもって、つっこんでくる。
❸拡散しすぎず、積極的に前にでてきて、効果的だ。
❹後へのひびきは充分にとれていて、広々と感じられる。
❺ひびきが明るく、はずみがあるので、くっきりめりはりがつく。

座鬼太鼓座
❶充分に奥の方にひけていて、しかも鮮明だ。
❷音色的に問題がないばかりではなく、吹き方までわかるかのようだ。
❸必要充分なきこえ方をして、まずいうことはない。
❹ことさらスケール感を強調はしないが、迫力にとむ。
❺ふちをたたいていると思える音の性格をよく伝えている。

オンキョー Scepter 500

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりとしたピッチカートだが、もう少し力がほしい。
❷くまどりたしかな低音弦のスタッカートで、強調感のないのがいい。
❸音色の特徴をわざとらしくなく示してさわやかだ。
❹第1ヴァイオリンのびびきはキメこまやかだ。
❺しなやかさをたもったまま迫力のあるクライマックスをきずく。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、いくぶん大きめだ。ピアノならではの力を示してほしい。
❷音色的な対比をキメ細かく、しなやかに示す。
❸「室内オーケストラ」らしいひびきのまとまりがあるとなおいい。
❹この第1ヴァイオリンのひびきへの対応はみごとだ。
❺木管楽器の音色を細やかに、さわやかに示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のキメ細かいのはいいが、音像は大きめだ。
❷かなりオンでとっている感じがする。子音がめだちがちだ。
❸声とクラリネットのコントラストは、自然でいい。
❹はった声もまろやかさをたもってこのましい。
❺三者三様の声とオーケストラとのバランスがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに過度の肉がついていないので、凹凸はない。
❷声量をおとしたからといって、言葉の細部があいまいになっていない。
❸ひびきに軽やかさがたもたれているので、さわやかだ。
❹低い方のパートがいくぶんふくらみがちだが、明瞭さはたもたれている。
❺「ラー」は、自然にのびて、しなやかでいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音の硬質な性格が、さらに徹底して示されるべきだろう。
❷シンセサイザーによるひびきは、いくぶん湿りけをおびてきこえる。
❸充分にひびきが浮きあがっているとはいいがたい。
❹前後のへだたりはとれ、個々のひびきはかなり質的に高い。
❺キメ細かさ優先だが、ピークでは迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきのひろがり方は、実に微妙だ。キメもこまかい。
❷もう少し積極的にはりだしてきてもいいように思う。
❸まろやかなひびきで、輪郭をあきらかにする。
❹キメ細かなひびきにより、輝きを明らかにする。
❺ことさら輝きを主張することはないが、うめこまれてはいない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い方のひびきがふくらみぎみだ。もう少しこりっとしてもいいだろう。
❷厚みを示すより、ひびきは横にひろがりがちだ。
❸ひびきの乾き方ということでは、もう一歩だ。
❹ドラムスは、重めのひびきにより、切れが鈍い。
❺声は、総じて、楽器のひびきにおされがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きく、ひびきの中味が空洞化しているかのようにきこえる。
❷オンでとったことを強調するが、なまなましさにはつながりにくい。
❸消える音の尻尾を拡大して示す傾向がある。
❹細かい音に対しての反応ということでは、いま一歩だ。
❺両ベーシストの、音色的対比はよく示すが、音像的対比では不充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶切れ味鈍く、アタックの強さが示しきれていない。
❷ブラスのつっこみ方がやはり甘くなる。
❸フルートによるひびきは、拡散しがちだ。
❹奥行きはとれているが、ひびきはかげりがちだ。
❺充分な反応は示すが、リズムの刻みに鋭さがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八までの距離感は充分に提示できている。
❷音色的にも尺八の尺八ならではの特徴を明らかにしている。
❸輪郭をぼかすことなく、このひびきをききとらせる。
❹スケールゆたかにきかせはするが、消える音を明示するとはいいがたい。
❺ここでのひびきの硬質な性格をよく示している。

ビクター S-3000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 スタジオモニター用として徹底的にスタジオマンの意見がとり入れられているということで、とうぜん、一般民生用とは多少異なった作り方が随所にみられる。まず総体に、かなりハードな音色だ。中音域にエネルギーを凝縮させたようなバランスで、おそろしく明瞭度が高い。歪を極力おさえたというが、そのせいか、音のクリアーなことは相当なもので、しかもそれがかなりのハイパワーでも一貫してくずれをみせない点は見事なものだ。おそらくディスク再生よりも、こういう性格はテープの再生ないしはスタジオモニターのようにマイクからの直接の再生の際に、より一層の偉力を発揮するのにちがいない。こういうスピーカーを家庭に持ちこんでディスク再生する場合を想定して、置き方や組合せの可能性をいろいろ試みた。別売のスタンドがアルで一応それに乗せ、背面は壁にかなり近づける。低音を引締めてあるため、こうしても音がダブついたりしない。レベルコントロールは、ノーマルよりも-3ぐらいまで絞った方がいい。部屋はやデッドぎみに調整した。カートリッジもたとえばピカリング4500Qのように、ややハイ上りの音で、アンプもCA2000の系統で徹底させてしまう方が、メリハリの利いたくっきり型、鮮明型として、つまりなまじ変な情緒を求めない方が統一がとれると感じた。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ロジャースのLS3/5Aと同じく数ヵ月前に自家用に加えたので、素性はかなりよく掴んでいるつもりだが、テストサンプルと比較しても、特性がよくコントロールされているし、バラつきは感じられない。音のバランスがとてもよく、やや甘口の鳴り方ながら、あまり音を引締め過ぎるようなところがなくことにオーケストラや室内楽やヴォーカルを、それほど大きな音量にしないで鳴らすかぎりは誇張のないとても美しく自然な響きで聴き手を心からくつろがせる。パワーにはあまり強くない。すべての音を、良いステージで聴くようなやや遠い感じで鳴らすので、ピアノの打鍵音を眼前で……というような要求には無理だ。かなり以前の──というより初期の──製品には、ハイエンドの冴えがもう少しあったような気もするが、この点は比較したわけではなく、以前ほど印象が強くなくなったせいかもしれない。専用の(別売)スタンドが最もよく、前後左右になるべくひろげて、ただしスピーカーからあまり遠くない位置で聴く方がいい。離れるにつれて音像が甘くなり、評価の悪くなるスピーカーだと思う。カートリッジは455Eがとてもよく合う。価格のバランスをくずせばEMTもいい。アンプはやさしい表情と音像のくっきりしたクォリティの高いものを組み合わせたい。

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 聴き手(リスナー)の前方、左右2ヶ所に設置された1対のスピーカーから、もしも理想的にステレオの音の再生されるのを聴けば、ただの2点から音が出ているとはとうてい信じ難いほど、あたかも歌手はそこに立って唱っているようだし、ピアノトリオはおのおのの楽器が実際に、右、左、中央と並んでいるかのよう。オーケストラを鳴らせば、広いホールに管弦楽団が奥行きさえともなって並び、前方の空間いっぱいにひろがり、満ちあふれ、まるでスピーカーの背面の壁がくずれ落ちて、その向う側にほんとうに演奏会場が現出したかと錯覚するくらいにリアルなプレゼンス(臨場感=あたかも聴き手が実演の場に臨んでいるかのような感じ)が得られる。
 ただし、そういう感じを体験するには、かなり理想的に作られたスピーカーを用意し、そのスピーカーをよく生かすアンプリファイアーやレコードプレーヤーを慎重に組合せ調整し、そして前後左右に少なくとも2.5メートル以上ひろげたスピーカーから、同じ間隔ほど離れて中央(左右のスピーカーから等距離)のところに座って聴く、という条件を守ることが最少限必要になる。むろんレコードも、音楽的に優れていると共にステレオの音場再現に気を配って録音されたものを選ぶ必要もある。
 KEF105は、上記の聴き手(リスナー)との関係位置の配慮されたスピーカーで、グリルクロスを取ると、中〜高音用のハウジング中央に、聴き手との関係位置調整用のインジケーターランプが点灯するようになっていて、スピーカーを正しく耳の方向に調整できるようになっている。このスピーカーの指定する聴き方を守るかぎり、従来聴き馴れたレコードのすべてを、もういちど全部聴き直してみなくてはならないと思うほど、レコード音楽の新しい世界を聴かせてくれる。「’78のために」というテーマに推すゆえんである。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥195,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
パワーアンプ:ラックス 5M20 ¥210,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:SME 3009/S3 ¥65,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS455E ¥29,800
計¥1,075,900

JBL 4343(組合せ)

菅野沖彦

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 JBLのスピーカーは大きな可能性をもっている。高級機機というのはみんなそうだが、それを持てばそれでいいというものではなく、それを使いこなしていく可能性が大きいと理解すべきだろう。この4343は、JBLの本格的な4ウェイ・4スピーカー・システムで、使いこなしの如何によっていかようにも、使用者の感性と嗜好を反映した音を出してくれるだろう。そして、このホーン・ドライバー・システムは特に、ある程度の期間、鳴らし込まないと、本当の音が出てこない事も知っておくべきである。いわゆるエイジングといわれるものだが、この影響は大きい。新品スピーカーは、どこか硬く、ぎこちのない鳴り方をするが、使い込むにしたがって、しっとりと、高らかに鳴るようになるものなのである。これをドライブするアンプは、ケンソニック社のプリ・アンプ……というよりは、同社でもいっているようにフォノ・イクォライザー・アンプC220とモノーラル・パワー・アンプM60×2を用意する。片チャンネル300Wものアンプが果して必要なのだろうかと思われる向きもあるかもしれないが無駄ではない。そして、もしトーン・コントロールを必要とする場合には、別に、グラフィック・イクォライザーを(例えばビクターのSEA7070)をそろえるといいだろう。今年の新製品から、ソニーの超弩級プレイヤーシステムPS−X9を選んだが、たしかにマニアを惹きつける魅力をもったプレイヤーだ。その重量級のメカニズムから生れる音は、まさにソリッドで堂々とした風格がある。しかし、あまりに、抑制が利いていて、戸惑うほどである。このぐらいのシステムになれば、テープデッキも、カセットというのでは少々アンバランス。勿論、日常の便利に、カセット・デッキも1台は欲しいが、ここでは、スカーリーの2TR38cm/secのマスター・レコーダーを組合せ、次元のちがう圧倒的なサウンドの世界を味わっていただこうというわけだ。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥730,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-220 ¥220,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:テクニクス Technics 38T ¥65,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-X9 ¥380,000
オープンリールデッキ:スカーリー 280B2 ¥2,700,000
計¥5,385,000

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その4)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第3の高音や超高音のレスポンスを改善するぷらんのうち、超高音だけをスーパートゥイーターで補うプランは、ほとんどの既製のスピーカーシステムに応用することができるだろう。トゥイーターを追加して高音を改善するプランでは、まず比較的大型のフロアー型が考えられる。つまり、2ウェイ構成でクロスオーバー周波数がおよそ500〜800Hzにあるタイプだ。また、中口径以上のシングルコーン型、ダブルコーン型、それにメカニカル2ウェイ型などのユニットを使用したシステムもトゥイーターを追加して高音を改善するプランに相応しい。
 したがって、大型2ウェイシステムでは、クロスオーバー周波数がおよそ4000〜7000Hzとしてトゥイーターを追加することになる。スーパートゥイーターを一般のスピーカーシステムに追加する場合には、7000Hz以上が普通の使用法であり、ときには、15、000Hzあたり以上で使う例も見受けられそうだ。
 シングルコーン型に代表されるシステムにトゥイーターを追加する場合には、ユニットが小口径ならクロスオーバー周波数は2、500Hz以上のことが多く、30cm型や38cm型ユニットの場合でも改善を望む周波数帯域が高音のみでよければ、同様に使うことになる。ただし、より本格的に中音を含めた広い周波数帯域を改善する目的があれば、ドライバーユニットをホーンと組み合わせた、より高度な性能をもつユニットを選び、500〜1、500Hzあたりでクロスオーバーさせて使うべきである。
 追加するトゥイーターの種類、性質はバラエティに富む。使用帯域を1kHz以下まで希望すれば、本格的なホーン型ユニットの使用しかないが、高音だけを改善する目的ではホーン型、コーン型、さらにドーム型やコンデンサー型の使用が可能となり、音色的な変化範囲もかなり大幅にコントロールできる。
 このプランは、いずれの場合にも単なるマルチウェイ方式としてLC型ネットワークで使用できる。ユニットと同じメーカーの製品でなくても、クロスオーバー周波数が適当であったり、切り替え型でかなりのクロスオーバー周波数を選択できるLC型ネットワークも市販されているため、これらを使用されたい。
 しかし、ベースとなるスピーカーシステムのユニットと追加したトゥイーターをよりアクティブに追込み、その性能をフルに引き出そうとするには、マルチアンプがより望ましい。とくに、最近のエレクトロニック・クロスオーバーは、連続的にクロスオーバー周波数が可変できるバリアブルクロスオーバー型や、クロスオーバー周波数付近のレスポンスを細かく調整するQコントロール、さらにはフェイズシフター、独立して低音だけをブーストする低音コントロールなどを備え、LC型ネットワークでは望むことができないコントロールができるようになっている。

●スピーカーシステム
 ジョーダンワッツ Juno
 オーラトーン 5C
 アルテック A7-500-8
●トゥイーター
 KEF T27
 パイオニア PT-R7

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その3)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第2の中音用ユニットを加えるプランは、ベースとなるシステムが2ウェイ構成であるときに使いやすい。実際に、現在シリーズ製品としてメーカーから発売されているブックシェルフ型システムのなかには、同じウーファーとトゥイーターを使用し、上級モデルにはコーン型スコーカーを加えて3ウェイ構成としている例が多い。エンクロージュアの外形寸法では、2ウェイにくらべて3ウェイ構成のほうが、コーン型スコーカーのバックキャビティを必要とするために1サイズ大きくなるが、ウーファー用としてのエンクロージュア内容積では変わらず、低音の性能はほぼ同じと考えてよい。
 かつて、JBLのシステムにあったL88PAには、中音用のコーン型ユニットとLCネットワークが、M12ステップアップキットとして用意され、これを追加して88+12とすれば、現在も発売されている上級モデルのL100センチュリーにグレイドアップできる。実用的でユーモアのある方法が採用されていたことがある。
 ブックシェルフ型をベースとして、スコーカーを加えるプランには、JBLの例のように、むしろLCネットワークを使いたい。マルチアンプ方式を採用するためには、もう少し基本性能が高い2ウェイシステムが必要である。例えば、同軸2ウェイシステムとして定評が高いアルテック620Aモニターや、専用ユニットを使う2ウェイシステムであるエレクトロボイス セントリーVなどが、マルチアンプ方式で3ウェイ化したい既製スピーカーシステムである。この2機種は、前者には中音用として802−8Dドライバーユニットと511B、811Bの2種類のホーンがあり、後者には1823Mドライバーユニットと8HDホーンがあり、このプランには好適である。
 また、アルテックの場合には、511BホーンならN501−8A、811BならN801−8AというLCネットワークが低音と中音の間に使用可能であり、中音と高音の間も他社のLC型ネットワークを使用できる可能性がある。エレクトロボイスの場合には、X36とX8、2種類のネットワークとAT38アッテネーターで使えそうだ。
 マルチアンプ方式では、クロスオーバー周波数の選択、ユニットの出力音圧レベルやボイスコイルインピーダンスの制約がないために、スコーカーユニットの追加は大変に容易である。つまり音色の傾向さえ選択を誤らねば、他社のユニットホーンの採用も可能であり、実は、このように他社のユニットが自由に選べるのがマルチアンプ方式の本当の魅力だ。中音ユニットの音色傾向は、構造にも関係するが、ドライバーユニットなら主に振動板であるダイアフラム材質により左右される。アルテックが現在の主流である軽金属のダイアフラムであることにくらべて、エレクトロボイスは伝統的に硬質フェノール樹脂製のダイアフラムを採用している特長があり、これが、エレクトロボイスのサウンドの特徴になっている。このタイプのダイアフラムは、よくPA用と誤解されやすいが誤りであり、ナチュラルで軽金属ダイアフラムの苦手な弦やボーカルに優れた再生能力をもつ。
 その他のバリエーションには、3ウェイ構成のシステムの低音と中音の間に、主にコーン型の中低音ユニとを加える方法がある。この場合には、追加したユニットを置く位置がポイントになる。この方法は、クロスオーバー周波数が低くなるため、マルチアンプ方式のほうにメリットは大きいものがある。

●スピーカーシステム
 アルテック 620A Monitor
 エレクトロボイス SentryV
●ドライバー
 アルテック 802-8D
 エレクトロボイス 1823M
●ホーン
 アルテック 511B
 エレクトロボイス 8HD
●コントロールアンプ
 GAS Thoebe
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:GAS Son of Ampzilla
 中音域:GAS Grandson
 高音域:GAS Grandson

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その2)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 このところ、ヨーロッパ系を中心として、国内製品のスピーカーシステムにも超小型の主に2ウェイ構成の製品が増加の傾向がみられる。その多くは、10cm口径程度のウーファーとソフトドーム型トゥイーターを組み合わせているがこの種のシステムは、ウーファーを追加してマルチアンプ方式で3ウェイ化するために大変な魅力的な存在である。追加するウーファーに専用アンプを用意する、2チャンネルのマルチアンプ化をおこなうのがもっとも好ましい方法であるが、そのバリエーションとして、最近復活しはじめた3D方式もある。低音の指向性がゆるやかなこと、波長が長いために左右チャンネルの位相の狂いが少ないことなどを利用して、低音だけは両チャンネルの信号をミックスして1本のウーファーで再生するのがこの3D方式である。
 超小型システムをベースとし、ウーファーを加える方法は、ベースとなるシステムがこの種の製品独特な音像定位のクリアーさとステレオフォニックなプレゼンスの再現に魅力があるため、わずかに追加したウーファーにより低音を補えば、かなりのフロアー型システムに匹敵するスケール感の大きい、それでいてプレゼンスのある音を再生することができるはずである。この場合には、スピーカーと聴取位置との距離は短いほうが超小型システムの特長が活かされる。
 小型のブックシェルフ型をベースとして、超小型システムと同じアプローチが可能だ。このタイプになれば、ウーファーの口径ももっと大きいものが使用可能で標準的に部屋にセットしてもさらに大音量でフロアー型の音が楽しめる。
 その他のバリエーションとしては、小口径シングルコーンユニットを採用した超小型や小型システムをベースとして、まずウーファーを追加して低音の改善を計り、その次にトゥイーターを加えて3ウェイ化するアプローチがある。広い帯域を中音ユニットに受け持たせるため安定した音が独特の魅力だ。

●スピーカーシステム
 パイオニア CS-X3
 ブラウン “Output Compact” L100
 ヴィソニック David50
●ウーファー
 KEF B139MKII
●プリメインアンプ
 サンスイ AU-607
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:サンスイ BA-2000
 中高音域:サンスイ AU-607(パワーアンプ部)

●スピーカーシステム
 ヤマハ NS-10M
 セレッション Ditton 11
 ロジャース LS3/5A
●ウーファー
 セレッション G15C
●プリメインアンプ
 マランツ Model 1180
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 パイオニア D-70
●パワーアンプ
 低音域:マランツ Model 170DC
 中高音域:マランツ Model 1180(パワーアンプ部)

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(アルテック A5)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 アルテックA5システムは、一般によく知られているA7−500−8システムを内容的に一段とグレイドアップしたタイプで、ザ・ボイス・オブ・ザ・シアターシリーズ業務用スピーカーシステムのなかでは、A7とならび、実用上、家庭内に持込んでコンシュマー用として使用できるもっとも小型な製品である。
 現在、国内でA5システムと呼ばれているタイプは、A5Xシステムといわれるタイプをベースとして、ハイフレケンシーユニットと組み合わせるホーンを、マルチセルラ型から大型セクトラルホーン311−90に置換え、コンシュマー用に相応しい指向性を得ようとしたシステムである。
 もともとA5システムは、開発された時点においては、現在のタイプとはまったく異なったより大型のエンクロージュアを採用しており、システムとしては、ウーファーと高音用のドライバーユニットの基本的な構造や規格で同じであることに類似点があるのみであるから、このA5システムも、A5シリーズのヴァリエーションのひとつとして考えてもよいと思われる。
 エンクロージュアは、A7−500−8システムと共通のフロントホーンとバスレフ型を複合した独特の828Bで、ウーファーは、416−8Bの強力型ユニットである515Bを組み合わせている。このユニットは、コーン紙を含む振動系は、ほぼ416−8Bと同等だが、磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用した強力なタイプで、出力音圧レベルは105dBと発表されている。
 高音用には、振動系が改良され、モデルナンバーが異なる291−16Aが指定されていたこともあったが、現在では、オリジナルともいうべき288−16Gドライバーユニットと311−90セクトラルホーンを組み合わせて使用している。
 クロスオーバー周波数は、より大型のドライバーユニットとホーンの組合せにもかかわらず、より小型なA7−500−8システムと同じ500Hzが指定されている。LC型ネットワークは、超大型のN500F−Aがマッチする。この場合の聴感上の特長は、A7−500−8にくらべ中音のエネルギー感と密度が格段に優り、低音も引締まった充実した響きで、いかにも業務用システムらしい堂々とした音が得られる点である。
 また、A5システムは、フロントホーン付の828Bエンクロージュアを採用し、高音ユニットとのエネルギー的、音色的つながりが意図されていると同時に、低音と高音の両ユニット間の位相が調整されている特長があることも見落とせない重要なポイントとしてあげることができる。
 マルチアンプ化のプランには、GASのアンプをベースにDBシステムズのエレクトロニック・クロスオーバーを使う。家庭用としての使用では、クロスオーバー周波数を指定より下げてみるのも大変に興味深い。

●スピーカーシステム
 アルテック A5
●コントロールアンプ
 GAS Thaedra
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 DBシステムズ DB-3+DB-2
●パワーアンプ
 低音域:GAS Ampzilla II
 中高音域:GAS Son of Ampzilla

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その1)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 既製のスピーカーシステムに専用ユニットを追加してマルチアンプ駆動するアプローチは、
 ①低音のレスポンスを改善し、よりスケール感が豊かな音を得ることを目的として、ウーファーまたはスーパーウーファーを使う。
 ②中音のエネルギー的なバランスの改善を主目的としてスコーカーを使う。
 ③高音のレスポンスや歪率、指向性を改善する目的で、トゥイーター、またはスーパートゥイーターを使う。
この3種類が基本的なアプローチの考え方として存在することになる。
 第1の低音を改善するためにウーファーを既製のシステムに加えるプランは、もっともマルチアンプ方式のメリットを活かした方法である。ほとんどの既製のスピーカーシステムは、3ウェイ構成が限度であり、エンクロージュアも商品として外形寸法的な制約があるため、フロアー型システムで38cmが多ウーファーを採用していても、予想より低音の周波数レスポンスは伸びていないのが一般的である。したがって、ハートレーやエレクトロボイスの超大口径スーパーウーファーは、ユニットを収納するエンクロージュアの設置場所に制約がないか、もしくは部屋の壁をバッフルとして利用できる場合は、ほとんどの大型を含むスピーカーシステムの超低音の周波数レスポンスの改善に効果がある。
 このようにウーファーを加えるプランは、既製システムとのクロスオーバー周波数が100〜200Hz程度と低くなるため、LCネットワークのほうが高価格になりやすく、マルチアンプ方式がもっとも得意とする舞台である。

マルチアンプの実際

瀬川冬樹

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「マルチスピーカー マルチアンプのすすめ」より

■スピーカーシステムの最終目標を立てる
 すでに何度も書いたように、マルチスピーカーシステムあってのマルチアンプ、なのだから、自分としてどういうスピーカーシステムが欲しいか、をある程度はっきりさせておく必要がある。そしてこの項では、既製品、完成品を別にして、3項で分類した三つの中の最後の、長期計画による自作スピーカーシステムを中心に述べる。
 たとえばフルレインジ型のユニットを、ひと頃よく流行したバックロードホーンバッフルやその変形の、日曜大工によるエンクロージュアに収めたり、簡単なLCネットワークを自作してトゥイーターを追加する、といった形もむろんスピーカーシステムの「自作」には違いない。が、少なくともマルチアンプ・ドライブを前提としたスピーカーシステムの場合は、見かけは別としても実質的には、3項で紹介したHQDシステムのような根本精神──いわゆる商品性や経済性からみて、メーカーの作ろうとしない最高のシステムを目ざす──だけは一本の芯として通したいと思う。かつてわたくしがマルチスピーカーの自作に熱をあげていた時期には、経済的にも技術的にも貧しいながら、少なくとも自分にとって最高のスピーカーシステムを目標としていた。そしてその当時の基本的な考え方自体は、十数年後のいまでも集成する必要がないと考えるので、まずそれからご紹介してみたい。

■中〜小口径のフルレインジスピーカーからスタートして、最後には4WAYシステムに発展させる
 この案の基本は、かつて「ステレオサウンド」誌の創刊号や、「ラジオ技術」増刊号〝これからのステレオ〟(いずれも昭和四十一年暮の発行)などに書いた。あれからもう十年以上も経ってしまったのかと、いささか感無量の思いだ。
 全体の構想は、コーン型による最低音と中低音、そしてホーン型による中高音と最高音、の4WAYである。いまになってみれば、JBLのモニターシリーズの最高クラスの二機種である♯4350Aと♯4343がこの考え方で作られているが、このシリーズが発表されたとき、あれ俺のアイデアが応用されたのかな? と錯覚したほどだった。
 その考えというのはこうだ。当時わたくしの部屋はごくふつうの木造の六畳和室だった。こういう聴取条件で、しかしできるだけ良い音(はじめにも書いたように装置の存在を忘れさせるような、いかにも実演を聴いているかと錯覚させるようなクォリティの高い音)を聴こうと思うと、十分に周波数レインジの広い、しかも歪みの少なく指向性に優れた、要するに、妥協のない本もののフィデリティを追求しなくてはだめであることを、それまでのスピーカー遍歴から感じていた。そのころも一般的には、六畳のような狭い部屋には、それ相応の小さなスピーカーの方が良く、大型を持ち込んでもまともな音は出ない、と言われていた。が、わたくしはその逆を考えた。
 六畳ということは、第一にスピーカーに非常に近づいて聴くことになる。したがって、音の歪みや、低音から高音に至るまでの広い周波数帯域の中で音のつながりが良くなかったり、エネルギー的に欠けた帯域があれば、それは広い場所で部屋の響きに助けられてアラの出にくい状態でよりも、はるかに耳につきやすい。
 第二に、部屋の壁面からの反射による響きの豊かさの助けを殆ど期待できないから、指向性の鋭い──ということはエネルギーバランスに片寄りのある──ユニットでは音が貧弱にきこえたり、やわらかにひろがる自然な響きが得られにくい。全音域に亘って指向性を広く確保しなくはならない。
 第三に、音の豊かさは低音域をいかに豊かに、自然に、しかも充実したエネルギーで鳴らすか、にも大きくかかっている。六畳とはいえ、和室では低音がどんどん逃げていってしまうから、ある程度しっかりしたウーファーでなくては低音がやせてしまい、ひいては音域全体の豊かさ、柔らかさ、あるいは音の深みを欠くことになる。むろん六畳では決して大きな音量を出し続けることはできないが、かえって小音量だからこそ、できるだけ振動板の面積の大きい大口径のウーファーを、できるだけ(部屋のスペースのゆるすかぎり)大きなエンクロージュアに収める方がいい。エンクロージュアのタイプは、位相反転型のヴァリエイションが聴感上の自然さでは最も優れている。密閉型ではどうしても音が詰まりかげんで、伸び伸びと明るい響きが得られない。ホーンバッフルは音にくせをつけやすいし、本当に低音を延ばそうとすれば六畳には収まらない大型になってしまう。本当はプレーンバッフル(平らな板だけのバッフル)が最も良い音を出すが、これもかなり大型(たとえば3m×2m以上)にしないと最低音が不足する。
 さて、全体の構想はこうして決まり、ことにウーファーに関してはかなり具体的になっているが、その当時は一般に、ウーファーといっても低くても500Hz、高い場合には1kHz以上までを、一本の大口径スピーカーに受け持たせていた。しかしわたくしはここに疑問を持った。
 ウーファー、というといかにも「低音」だけを鳴らすスピーカーのように思える。が、500Hzといえば、ピアノのキイでいえば中音ハ音の1オクターヴ上(C5≒523Hz)になる。このあたりはもう、楽器でいえば「低音」どころか、〝メロディーの音域〟として最も活躍しているところだ。ふつうは、メロディーとしてはその2オクターヴ下のC3(約130Hz)あたりからの3オクターヴくらいが最もよく使われる。となると、「ウーファー」として、つまり本来「低音」を鳴らすために設計された大口径の、重い振動板を持ったスピーカーに、こんな大切な帯域を受け持たせるのはおかしいのじゃないか。ひとつの裏づけとして、たとえば16センチから20センチぐらいの、いわゆる中口径、小口径のフルレインジ(全音域)型として設計されたスピーカーの音は、ことに人の声やピアノのメロディーの音域でのタッチなどが、いかにも自然で軽やかなのはなぜか。
 そう思って、これらコーン型スピーカーをよく調べてみると、たとえば38センチ口径なら約300Hz附近から、16センチでも約2kHzぐらいから、それぞれ上の特性は急激に劣化しているものが多い。いいかえれば、16センチ級のスピーカーは、人の声や音楽のメロディーの音域ではかなり良い音を聴かせるが、音楽の低音のほんとうのファンダメンタル(基音)の領域になると、そのエネルギーの豊かさや深味という点ではどうしても大口径ウーファーにかなわない。それなら、2〜300Hzを境にして、最低音を38センチ、そして1〜2kHzまでを中〜小口径の優秀な全音域(フルレインジ)型に、それぞれ受け持たせてみたらどうか──。
 ここでひとつの問題が発生した。高くとも300Hz、できれば150Hz以下、というような低いクロスオーバー周波数では、もしもLCネットワークを設計しようとすれば、3項に書いたように特性上でも経済上からも問題が多すぎる。ここはどうしても、マルチアンプ・ドライブをするべきだ。
 これで中〜低域の構想は決まった。ここに至るまでに、たとえば2〜300Hz以上なら、コーン型を避けてホーン型の良いスピーカーを使ってはどうかという考えも出たが、仮にクロスオーバーを300Hzとしても、そのためにはカットオフ周波数を150Hz程度に設計したホーンを使わなくてはならない。すると、六畳ぐらいの部屋はお化けのような大きさのホーンになってしまうし、そのぐらいの大きさのホーンになると、ホーンの長さによる位相の遅れや、音のくせを防ぐことがかえって困難だから、やはりコーン型の中から良いものを選ぶべきだ……。
 次に問題は高音域だ。たとえば低音に38cmの、そして中音に16cmのそれぞれのコーン型を使って、最高音だけホーン型を使った3WAYスピーカーはすでにたくさん試みられて珍しくなかったが、その殆どが、クロスオーバー周波数を、下が500Hz附近、上を4kHz附近にとっていた。が、下の500Hzはすでに書いたように不合理だ。上の4kHzとういのも、16センチという口径でそこまで受け持たすのは理論的にも無理だし過去の経験でも聴感上も良い音がしない。またホーントゥイーターでも、4kHzというクロスオーバーはどっちつかずだ。
 さきに書いたように、1〜2kHzから最高音域までを、一本のホーン型スピーカーで受け持てるようなものがあるといいが……といろいろ探してみると、結局JBLのLE175DLHがそれにあてはまりそうだという結論になった。国産にはこういう目的に合う製品がなかった。
 細かないきさつはいろいろあるが省略して結論だけ書くと、LE175DLHは中低音域とのつながりは良いが、最高音域がこのままではどうにも足りないことがわかった。しかし高音域といっても、楽器の出せるファンダメンタルはせいぜい4kHz(ピアノの最高音のキイが約4180Hz)で、その1オクターヴ上までを175に受け持たせ、8kHz以上のオーヴァートーンの繊細な美しさ、あるいはステレオのプレゼンスを支配する音の雰囲気感のようなところを、専用のスーパートゥイーターで分担するのがいいだろうと考えた。
 こうして、最低音と中低音のあいだと、中高音と高音のあいだをマルチアンプで、そして最高音域用のスーパートゥイーターだけはLCネットワークで、という4WAYのシステムができ上り、しばらくのあいだは、各帯域のユニットを少しずつ入れかえたりして楽しんでいた。このころ使ったユニットとしては、ウーファーにはパイオニアPW38A(のちにJBL LE15Aに交換)、ミッドバスには、ダイヤトーンP610A、ナショナル8PW1(現テクニクス20PW09)、フォスター103Σの2本並列駆動、最後のころはジョーダンワッツのA12システム(いまは製造中止になった美しい位相反転型エンクロージュア、現在のJUNOに相当?)を、一時は二本積み重ねてたりした。
 中高音は前述のとおりJBLのLE175DLH、そして最高音用には、テクニクスの5HH45を2本ずつ使ってみたり、デッカ・ケリーのリボントゥイーターを使ってみたりした(マーク・レビンソンのようにホーンを外すという知恵がなくて、必ずしも満足がゆかなかった)。JBLの2405はまだ出ていなかったし、075は最高音域のレインジが狭くてこれも全面的に満足というわけにはゆかなかった。
 その頃は、こうした考え方に合致するユニット自体が殆ど作られていず、また、あまりにもいろいろの国のキャラクターの違うユニットの寄せ集めでは、周波数レインジやエネルギーバランスまではうまくいっても、かんじんの音色のつながりにどうしてももうひとつぴしりと決まった感じが得られなくて、やがて、帯域の広さでは不満が残ったが相対的な音の良さで、JBLのLE15A(PR15併用のドロンコーン位相反転式エンクロージュア入り)、375ドライヴァーに537−500ホーン、および075という、JBL指定の3WAYになり、やがてそれをマルチアンプ・ドライブし、次に4333をしばらく聴いたのちに4341で今日まで一応落ちつく……というプロセスが、大まかに言ってここ十年あまりのわたくしのスピーカー遍歴だった。そう、もうひとつこれとは別系列に、KEFでアセンブリーしたイギリスBBC放送局のモニタースピーカーLS5/1Aの時代が併行しているが。
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 長々と脱線しているかのように思われるかもしれないが、右の考え方の基本は、いまでも改める必要を感じないし、少なくともいまでは十年前よりも、この考え方に適したユニットがもう少し増えていて、もしもこれから、わたくしの考えと同じ構想のマルチアンプ4WAYシステムをやってみようと思われる方には、ここまでの考え方をそのまま発展させて頂いて少しもかまわない。そして右の4WAYは、一時にすべてを完成させないでも、何回かに分けて、少しずつステップアップしながら、大きく成長させてゆくことのできるメリットを持っている。それはたとえば次のようなプロセスを踏む。
●第一段階 16ないし25センチの全音域ユニットによって、シングル・スピーカーシステムを構成する。あらかじめ同じものを2本並列駆動するのもよい。
●第二段階 トゥイーターを加えて高域のレインジをひろげると共に、楽器の微妙な音色を支配するオーヴァートーン(倍音)の領域を補強する。これによって、ステレオ再生にリアリティを添える音の空間的な広がりの再現性が増し、いかにも眼の前に広い演奏空間が現出したかのようなプレゼンスを体験するようになるこの段階では良質のLCネットワークと、良質のアッテネーターによる。
●第三段階 ウーファーを加える。38cm口径以上の大口径。ユニットによって最適のエンクロージュアは異なるが、原則として、内容積200リッター前後の位相反転型。一例として、本誌(ステレオサウンド)6号で試作したユニヴァーサル型(バッフル交換型)エンクロージュアの図を示す。第一段階のフルレインジスピーカーを、はじめにこのエンクロージュアにとりつけておいて、あとからウーファー追加の際に、ミッドバス用として内容積20ないし40リッター程度のエンクロージュアを追加すると、わりあい無駄なくゆく。この段階でマルチアンプ化する。クロスオーバー周波数は、ウーファーとスクォーカーとの特性やエネルギーバランスや、音色のつながりなどの点から、試聴によって100ないし300Hzの範囲にきめる。300Hz以上まで使うことはあまりおすすめしないが、スクォーカーの低音域のエネルギーが少ない場合、あまりクロスオーバー周波数を下げると、つなぎ目の附近で音が薄くなるのでこの点に注意する。
●第四段階 中〜高域用のホーンドライヴァーを追加する。クロスオーバーは1kHz附近と8kHz附近。1kHzのポイントは、LCネットワークでも慎重に設計・調整すれば、うまくゆく(JBLのモニターシリーズはLCネットワークだ)が、アマチュアがやる場合には、エレクトロニック・クロスオーバーの方が概して失敗が少ない。
 以上で、アマチュアの自作を前提とした4ウェイシステムは完成する。第二から第四までの段階に分けたが、むろん一度にここまで完成させても少しもかまわない。具体的な接続の方法や調整のヒントなどは4項でもちょっとふれたが、ここからのあとのページにも紹介されるだろうし、また、このあとに企画されているハイテクニックシリーズの続篇で、機会があったら実験してご報告しよう。
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 ところで、わたくしの考えるマルチアンプシステムでは、あと二つほどのヴァリエイションが考えられる。その一は、ミッドバス以上には、完成品のスピーカーシステムの中から、比較的小型でよくまとまっているもの──例えばヴィソニックのDAVID50やブラウンのL100、またはロジャースのLS3/5Aやスペンドールのミニモニター、あるいはJR149など、おもに最近のヨーロッパで作られたいわゆるミニスピーカーをそのまま使い、重低音域だけ、大型ウーファーを追加するという方帆であり、その二は、さきの4WAYといまのミニスピーカーのいずれの場合でも、ウーファーのみ左右共通のいわゆる〝3D方式〟として経費と設置スペースを節約する、という方法である。

■ミニスピーカー+サブウーファー
いまあげたミニスピーカーは、そのままでも一応は、音楽の再生に必要な低音域を(小型の割にはびっくりするほど)よく鳴らすし、背面を壁にぴったりつけたり頑丈な本棚等にはめ込むよう設置すれば、こんな小型とは信じられないほどの量感も出せる。
 が、さきの4ウェイで紹介したような、200リッター級のエンクロージュアに収めた38センチ口径以上の大型ウーファーの鳴らす低音をここに追加することによって、これらのミニスピーカーは、単体で鳴らした場合にはときとして感じられるいくらかカン高い、どこか精いっぱい鳴っているという感じがすっかりとれて、ゆったりと余裕のある、やかましさのない伸び伸びとした音に一変する。2〜300Hzから下にウーファーを追加しただけで、最高音域の音色までがすっかり変ってしまうということは、体験した人にでないとどう説明してもわかって頂けそうにない。
 ともかく、この方法はマルチアンプによって容易に実現が可能なので、ぜひ一度体験してみることをおすすめする。

■ウーファーが一本でもよい3D方式
〝3D(スリーディー)〟というのは必ずしも国際的に通用する用語ではないが、これは、ステレオの右と左の方向感には殆ど影響のない低音域だけは、左右をブレンドして(混ぜて、つまりモノーラル接続にして)一本のウーファーで鳴らし、中音域以上はオーソドックスなステレオとして左右に分けるという方法で、良いウーファーを選び、クロスオーバーポイントの選び方や中〜高音用スピーカーのバランスのとりかたなどをよく検討すれば、二本の左右独立したウーファーを使うのと聴感上それほど変らず、しかも片チャンネル分のパワーアンプやウーファーユニットの費用と、大型エンクロージュア一台分の設置スペースが節約できる、といううまい話だ。
 この方式は、マルチアンプが以前流行した昭和四十年前後に、マルチアンプと前後して一時はかむり広く流行したが、最近ではこの方式を知っている人が少なくなってしまった。本誌の創刊号から何号かのあいだは、ときどき紹介記事が載ったこともあるし、昭和四十年七月には、「無線と実験」の別冊の形で「3Dステレオのすべて」が発刊されたこともあるので、古いオーディオマニアには懐かしい方式だろう。
 なぜこれがすたれてしまったのかは明らかでないが、昭和四十年頃では、マルチアンプ同様に多少とも技術的な理解力のある人が、アンプの一部に手を加えたりネットワークを自作したりしなくては作れなかったこともあり、また世の中が裕福になって、あえて左右をひとつにまとめるなどしなくても、誰もが一応のスピーカーをペアで所有できるようになったこともあるだろう。3Dという方式が、ことにその当時は経費の節約という面が正面に押し出されて、どことなく、貧乏人のためのシステム、みたいな劣等意識を植えつけてしまったこともわざわいしているらしい。
 たしかに、3Dは考え方としてはエコノミカルな方法には違いない。いくら大型のぜいたくなウーファーでも、同じものを二台設置できるなら、それにこしたことはない。
 が、それはどこまでも理屈であって、現実に、もしも二台のエンクロージュアと二本のウーファー、それに低音用のステレオ・パワーアンプを、一台のエンクロージュア、一本のウーファー、モノーラルのアンプ、でいいということになれば、それをステレオの1/2の費用に〝節約〟するのでなく、ステレオ用の片チャンネルの費用を2倍に使って、すべてにぜいたくをしたら、無理してステレオにするのよりも、ずっとクォリティの高い低音用のシステムができ上るということになるだろう。そう考えると、良いモノーラルのアンプや大型のウーファーの入手しやすくなった昨今、もういちど3Dシステムを見直してもよいのではないかと、わたくしは思う。
 3Dについての理論的な裏づけやその具体的な方法については、続篇でもし機会が与えられれば詳しく書かせて頂くつもりなので、ここでは要点のみ述べると、第一に人間の耳の方向感に対する判断力、第二にレコードの音溝に刻まれた低音域での位相成分、の二つを考えあわせると、だいたい150Hz近辺から以下の低音は、左右を混ぜてモノーラルとして再生しても、ステレオのエフェクトに殆ど影響を及ぼさないとされている(但しこれは、ステレオの録音・再生の初期に出された結論なので、今日の時点でもういちど厳密な追試実験をしてみないと断言はできない)。
 右のことを前提として、約150Hz以上を正確にステレオ化し、150Hz以下をフィルターによって取り出して左右をブレンド(L+R)して、モノーラルのパワーアンプを通して一本のウーファーから再生させる。
 ここで注意しなくてはならないことは、ウーファー自体が、振動系のメカニカルな共振によって高調波を発生しやすいタイプだと、電気的には150Hzまでの音しか加わらないのに、ウーファー自体からもっと高い高調波歪が発生してステレオエフェクトを損なうことがあるので、そのような場合は、ウーファーの前面にフェルト等の吸音材による高域カットのフィルターをつける必要の生じることもある。ウーファーの置き場所は、左右のスピーカーの中央がいちおうの標準だが、もともと方向感にはあまり影響を及ぼさない音域なのだから、左右のスピーカー(150Hz以上)のどちらか一方に寄せてしまってもよいし、わたくしの古い実験では、少しふざけて聴取位置のうしろ側にウーファーだけ移動させてみたこともあったが、ふつうの広さの部屋では、こんな置き方をしてみても低音は前面左右のスピーカーのところに音源があるように聴こえるのがおもしろかった。
 前述のように、この方式は改めて今日の時点で再実験してみないと、以前感じたエフェクトがそのままかどうか断言はしにくいが、しかし決していわゆるゲテの類ではない。その証拠に──といっては大げさだが、アメリカでも数年前からこの方式による重低音の再生が研究されて、すでにいくつかの製品が市販されているし、今年夏のシカゴCEショーには、JBLからセンターウーファー式のステレオスピーカーシステムも発表されるというように、マルチアンプ同様、再検討の気運がみえている。
 もし、いまの時点でこれを実験してみたいと思えば、市販されているエレクトロニック・クロスオーバー・アンプの中から、3D用出力端子の出ているソニーTA4300FまたはビクターCF7070を使って実現できる。
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 スピーカーシステムの選択は、おそらく一人一人の性格の違いと同じほど多様であり、そのヴァリエイションに応じて、それに最もふさわしいマルチアンプ・システムが選ばれる。わたくしのここにあげた例は、その無限に近い可能性の中のほんの一例にしかすぎない。ここから後のページでは、マルチスピーカー及びマルチアンプ・システムが、さまざまの角度からとりあげられるとのことだ。おそらくわたくしなどの思いもよらないシステムも登場することだろう。多くの例の中から、読者諸兄がそれぞれにご自身に最も好ましいシステムを、あるいはそのためのヒントを探し出されるにちがいない。
 しかし3項や4項でも書いたように、マルチスピーカー/マルチアンプ・システムは、パーツを選択し接続完了したところから、ほんとうの難しさ、ほんとうの楽しさが始まる。ネットワークの遮断特性や、パワーアンプの入←→出力の位相関係に応じて、ユニットの±(プラス・マイナス)を入れかえたり、ユニットを1センチ刻みで前後させたり、互いの向きをこまかく調整したり、クロスオーバー周波数や遮断特性をユニットに合わせて修整したり……ひとつひとつ書くとキリがないくらい、こまかな問題があとからあとから出てくる。そうした実技面については、実際にシステムを組み合わせて、特定の部屋の中で時間をかけて調整しながら実験をくりかえしてゆくというように、具体例に則してしか、説明することのできない性質のもので、したがってここでもそうした細かなテクニックを具体的に書くことはしなかった。その点については、今後企画されているこのシリーズの続篇で、少しずつスペースを割いて解説が加えられる筈である。この号とも併せて続篇にご期待下さるようぜひともお願いして、今回はここまでで終らせて頂く。

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 ヴァイタヴォックスCN191コーナーホーンシステムは、英国をふくめたヨーロッパ製品のなかで、コンシュマーユースのスピーカーシステムとしてはもっとも大型なフロアーシステムである。
 エンクロージュアにはクリプッシュKタイプといわれるフロントロードホーン型の一種が採用されている。フロントロードホーンでは、その名称のように、ウーファーコーンの前面の音だけをホーンを使って放射しているが、バックローディングホーン型では、ウーファーコーンの前面の音は直接放射され、後面の音がホーンを使って、低音の一部だけをホーン効果により補うタイプである点が異なる。このクリプッシュKタイプでは、ウーファー前面からの音が、特殊な形状に折り曲げられたホーンから一度エンクロージュア背面に導かれ、さらに部屋のコーナーを低音ホーンの延長として利用し、エンクロージュア両側の開口部から前面に放射される。
 クリプッシュKタイプホーンは、ホーン型エンクロージュアらしい、厚みがあり緻密な堂々とした低音が得られる大きなメリットがある。しかし、折曲げ型ホーンのためにウーファーコーンからの中音は減衰しやすく組み合わせる中音用や中音から高音用のスピーカーユニットには、十分に低い周波数から使用できるタイプが必要である。
 ウーファーは、CN191システム用に指定されているAK157、中音から高音用には、直径76・2mmという大型軽金属製ダイアフラムと16、000ガウスの磁束密度をもつドライバーユニットS2と、アルミ合金製のセクトラルホーンCN157を組み合わせ使用する。なお最近のCN157ホーンは、ホーンのカーブが設計変更されて改良されているようで、一段と音質面でのグレイドアップが期待できる。指定LC型ネットワークは、クロスオーバー周波数500Hzの典型的な12dB型NW500である。
 しーぁぬ191は、部屋の壁面を低音ホーンの一部として利用することが前提として設計されているために、強度が十分にある、レンガやコンクリートなどの壁が相応しい。そうでない場合には、少なくとも、30mm以上の厚さの良質な板で、エンクロージュア後側の壁と接する面に使う衝立をつくり使用することが望ましい。
 マルチアンプ化のプランは、CN191がトラディショナルな英国の音をもつことを考えれば、少なくとも、スピーカーとダイレクトに結合するパワーアンプには,英国系の製品を使用したい。ここでは、QUADの2機種のパワーアンプを選んでいるが、低音用の303Jは、モノーラル構成で、出力部分にインピーダンスマッチング用のトランスをもつ特長があり、適度に最低域がカットされるため、ホーン型ウーファーには好適である。コントロールアンプその他は、管球タイプで音色的なバランスを重視して選んである。

●スピーカーシステム
 ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn
●コントロールアンプ
 ウエスギ U-BROS-1
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 ウエスギ U-BROS-2
●パワーアンプ
 低音域:QUAD 303J(×2)
 高音域:QUAD 303

マルチスピーカー・マルチアンプのシステムプランを考えるにあたって

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 かつて、シングルコーン型に代表されるフルレンジ型ユニットが主流を占めていた頃には、アンプとスピーカーはダイレクトに結合していたが、現在のスピーカーシステムのように、専用ユニットを使うマルチウェイシステムが登場し、LCネットワークがアンプとスピーカーの中間に入ることになった。それに対して、最近話題にのぼりはじめたマルチアンプ方式は、マルチウェイスピーカーには不可欠なLCネットワークを取り除き、再びアンプとスピーカーをダイレクトに結合してスピーカーの性能を最大限に引出そうとする方法である。
 スピーカーがマルチウェイ化に発展したことにパワーアンプを対応させ、スピーカーユニットとパワーアンプをひとつのブロックとして考えるマルチアンプ方式は、すでに4半世紀以前から考えられ、実用化されていた。その間理想的な再生方式としてたびたび話題を集めたことがあったが、高度な性能のスピーカーシステムほど高度な性能のアンプを要求し、しかも、スピーカーのユニットの数に対応させたパワーアンプが必要となると、現実的には実用性が少なく、しかも、技術的なSN比や歪率の劣化などの未解決な問題点も多かったためか、経済的にも技術的にも感覚的にも恵まれた、ごく一部のオーディオファンに支えられて現在にいたっているようだ。
 ところが、このところ、アンプ関係の技術の発展がいちじるしく、プリメインアンプの枠をこえて、機能単位に細分化し、一層の性能の向上を計るセパレート型アンプが脚光を浴び、機種のバラエティが豊かになってきた。と同時に、現在の技術に裏付けされ、各社各様に創意をこらしたエレクトロニック・クロスオーバーが製品化されてきている。それをみるとアンプ関係でのマルチアンプ方式に対する準備は、ほぼ完全にととのっているように思われる。
 マルチアンプ方式というと、言葉の意味からして、あたかもアンプが中心となった方式のように思われやすい。しかし、オーディオの初期においてはアンプは存在せず、アンプが実用化された以後においても、つねにスピーカーがその中心の存在であることに変わりはない。マルチアンプ方式の場合も、スピーカーとパワーアンプを1ブロックとして考えるが、最終的にパワーアンプの音はスピーカーを通す以外には聴けないこともあって、スピーカーが主であり、パワーアンプは従属的な立場にある。つまり、いかに優れた性能を誇るパワーアンプがあったとしても、それにバランスのとれた優れたスピーカーがなければ、結果としての音にアンプのメリットが活かせないことになるわけだ。
 スピーカー関係のジャンルでは、エレクトロニクス関係のアンプのように、新素材、新技術が豊富に開発されず、変換方式においても画期的なものが出現していない。そのため、見かけ上の発展のテンポは遅く、技術的な成果もかなりベーシックな部分が主となり、着実に積み上げていくほかはないようである。
 昨年来、スピーカー関係でとみに目立つことは、主流を占めるブックシェルフ型システムをベースとしてて、中型から大形にいたるフロアー型システムが各社から相次いで製品化されたことだ。今年の全日本オーディオフェアでの大きな話題は、参考出品として近い将来に発売されるであろうモデルを含めた、この種のフロアー型スピーカーであり、それも高級機種が各社のブースに並んでいたことである。
 これらのシステムを構成する高性能ユニットは(単売されるユニット、それにシステムを含む)、マルチアンプ化プランには絶好の対象である。これを、2〜3年以前に、各社からハイパワーのセパレート型アンプが製品化されたものの、これらのアンプでドライブするに相応しいスピーカーシステムの少なさを嘆いたのと比較すれば、隔世の感があるといっても過言ではあるまい。
 このように、スピーカーとアンプが相応しいバランスとなった現在は、再びマルチアンプ方式にとって最適の土壌を得たようである。マルチアンプ方式は、オーディオ・コンポーネントシステムにとって、複数個のスピーカーユニットと複数個のパワーアンプを組み合わせて使用する、いわば究極的な方式である。このため、オーソドックスに採用すれば、経済的な制約を無視したとしても、方式そのものを理解し、適確にコントロールするための技術的な基盤と、最適なバランスを得るための経験の豊富さ、感覚が要求されることになる。オーディオに限らず、構成要素が複雑で高度な性能をもつ機器を正しく運用するためには、それに相応しい知識とトレーニングが必要であることに変わりはない。
 マルチアンプ方式は、LCネットワークでは望みえない数多くのメリットをもっている。LCネットワークでは、ウーファーの出力音圧レベルにくらべ、スコーカーやトゥイーターの出力音圧レベルが高く、ボイスコイルインピーダンスが等しいことがミニマムの条件として基本的に存在するが、マルチアンプ方式には、このいずれに対しても制約は皆無である。したがって、組み合わせるユニットの自由度が広いうえに、クロスオーバー周波数の選択、ハイパス側とローパス側の単独調整、遮断特性の選択、さらにQコントロールによるクロスオーバー周波数付近の細かい調整などの基本的なメリットがある。また、各社各様の専用ユニットに最適にマッチするアンプを幅広い対象のなかから選択できるメリットもある。
 しかし、スピーカーユニット対応するだけのパワーアンプが必要という経済面のデメリットもある。また、実用上での初歩的な、ユニットとパワーアンプの位相関係を含む接続ミス、ダイレクトにパワーアンプとスピーカーユニットが接続されていることに起因する、トゥイーターやスコーカーの不注意によるショック性のイズによる焼損、接続コードが多くなるためのハムやTV強電界地区でのバズ妨害などのトラブル、パワーアンプ選択時のパワーや利得、さらに、レベル調整の有無など数多くの注意点が必要である。おそらく、マルチアンプ方式のファンで、トゥイーターやスコーカーを焼損した経験のない人はないであろう。
 しかし、この究極のオーディオシステムともいうべきマルチアンプ方式は、ある程度の障害を乗りこえてもチャレンジするだけの魅力を限りなく備えた独特の世界であり、今まで愛聴したディスクにこれほどの音が入っていたのかと驚かされることは、つねに経験するすることである。一度この世界に入ったオーディオファンのほとんどは、従来のLCネットワークの世界にもどることはないようである。とくに、現代のオーディオファンのように、幼少の頃から音楽や楽器のなかで育ち、学ばずして身に付けているとなれば、アンプとスピーカーをダイレクト結合し、スピーカーユニットの性能をフルに発揮させて、自らのオリジナリティのあるサウンドをつくるマルチアンプ方式は、基礎的な知識だけをマスターすれば、予想外に手軽に自らのものとできるにちがいなかろう。
 実際にマルチアンプ方式にアプローチをする場合には、そのプロセスとして各種の方法が存在することになるが、ここでは各種のマルチアンプ方式のサンプルプランを実例としてあげることにしたい。しかし、現実には、マルチアンプ方式は、実際にプランを練り、スピーカーユニットやパワーアンプ、コントロールアンプを選択して使ってみなければその成果はわからないといってもよい。そこで、スピーカーシステムやスピーカーユニットは、同一メーカーのユニットを使用することを前提とし、アンプもそれに従うことを原則として、一般のコンポーネントシステムの組合せと同じ考え方でシステムをまとめることにしている。しかし、エレクトロニック・クロスオーバーについては、すべてのメーカーで商品化されているわけではなく、まだかなりの制約があるのが現状である。
●既製スピーカーシステムをマルチアンプ化するプラン
 マルチアンプ化するに相応しいスピーカーシステムは、基本的には、構成ユニット及びシステムそのものが、かなり高度の性能をもつことが条件である。現在のスピーカーシステムには、そのすべてではないがマルチアンプ用の接続端子が付属しているモデルがかなりある。そのほとんどはフロアー型システムであるが、ブックシェルフ型システムの場合には、特別の例でもない限りマルチアンプ方式とするだけのメリットはもっていないと考える。やはり、スピーカーシステム自体の価格に比較してアンプにかける投資があまりにも大きく、それに見合うメリットは望みえないからである。
 大型フロアーシステムは、ほとんどがマルチアンプ化への対象になる。一部のコンシュマー用として製作された大型フロアーシステムのなかには、ボザークのように完全にLCネットワークがエンクロージュア内部に収納され、容易にはマルチアンプ化が望めないものもあるが、逆にプロ用のアルテックなどは、比較的簡単にマルチアンプ化ができる例である。このような大型フロアーシステムは、基本性能が高いだけにマルチアンプ化のメリットは大きい。したがって、各ユニットにマッチしたパワーアンプとクロスオーバー周波数の選択により、現時点のオーディオとしてもっとも豪華なシステムとすることが可能だ。
 これに対して、中型のフロアーシステムは、ウーファーとエンクロージュアをベースとして専用ユニットを追加し、2ウェイ、3ウェイと発展させるプランの方が、システムを単にマルチアンプ化することよりもサウンド的には制約のない楽しみ方ができるであろう。
●既製スピーカーシステムに専用ユニットを加えるプラン
 ここでは、既製のスピーカーシステムにマッチした専用ユニットを追加して、かなり大幅なシステムのグレイドアップをしようとする考え方である。マルチアンプドライブ用のアンプには、セパレート型とプリメインアンプを組み合わせて使っているが、場合によればまったく同じプリメインアンプを使うことも面白い。この場合には、4チャンネルステレオにも利用できるし、マルチアンプ化を止めたときにも無駄が少なく現実的である。
 このプランは、基本的には追加する専用ユニットが、ウーファー、スコーカー、それにトゥイーターの場合があり、3種類のアプローチがあることになる。
 第1には、最近かなり機種が増加している超小型の2ウェイシステムや小型のブックシェルフ型システムをベースとして、ウーファーを追加し、フロアー型システムに匹敵するスケール感を求める方法。いわば、低音補強型であるが、場合によれば低音での指向性が問題にならないことを利用した3D方式とすれば、1本のウーファーでもかなり効果的な低音感を得ることが期待できるだろう。
 第2は、2ウェイスピーカーシステムに同系統の本格的なホーン型ユニットを追加してスコーカーとして使い、この種のシステムに感じやすい中域のエネルギー不足を解消しようとする考え方である。基本となるユニットの性能が高いだけに、グレイドアップとしてはかなり本格的なものが期待できるだろう。この変形として、トゥイーターとスコーカーにホーン型ユニットを使った3ウェイシステムに、中低音用として中口径のウーファーかフルレンジを追加することも考えられる。例えば、JBL 4333Aに2110を加え、4343に準じたシステムを狙うことになる。
 第3は、フルレンジユニットや、クロスオーバー周波数が比較的に低い2ウェイシステムに、トゥイーターを追加して高域のレスポンスを伸ばし、ステレオフォニックな音場感を拡くしようとする考え方で、グレイドアップの基本的な方法である。
●単体ユニットによるマルチウェイシステムと専用ユニットによるマルチウェイ・マルチアンプのプラン
 単体のシングルコーン型や同軸2ウェイ型ユニットをベースとする考え方の基本は、既製スピーカーシステムに専用ユニットを追加するプランと同一である。
 専用ユニットによるマルチウェイ・マルチアンプのプランは、もっともマルチアンプ方式らしい考え方で、現在市販されているスピーカーユニットとプリメインアンプを含む、アンプのすべてが選択の対象となる。その組合せも無限にあるといってもよいほどである。ここでは、スピーカーユニットとアンプ以外に、エンクロージュアが完成したシステムの成否を決定する重要なポイントである。
 たとえば、同じ材料と接着剤を使用しても、組み立てる人の手順によって簡単に結果としての音が変化するほど微妙なものであるから、エンクロージュアが完成してからケース・バイ・ケースで手を加え、希望する音が得られるまで調整をする必要がある。したがって、指定のエンクロージュアが単売されていればそれを使うことが成功への確実な切符となる。しかし、自らの音をクリエイトするマルチアンプの大きなメリットからはやや後退したことにもなるわけである。
 ウーファー用のエンクロージュアと同様に、4ウェイシステムで中低音にコーン型ユニットを使用する場合には、このためのエンクロージュアが必要である。既製のスピーカーシステムに採用されている容積を参考にするか、そのユニットを作ったメーカーに用途を説明して適切なる回答を得ることが必要であろう。

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL 4350A)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのプロフェッショナルモニターシリーズのモニタースピーカーには、現在、30cmウーファーをベースにした4311から、38cmウーファーをパラレルドライブする大型の4350まで多くの機種がある。そのなかでは、スタジオモニターとして多く使用されている中型の4331A、4333Aは、マルチアンプ化のプランの対象として十分なクォリティの高さを備えた、優れたユニットを採用したシステムといえよう。しかし、2ウェイ構成の4331Aは、そのままマルチアンプ化することよりも、高音用に2405トゥイーターを追加して、3ウェイ化することのほうがグレイドアップの効果が高い。3ウェイ構成の4333Aでは、中音用ユニットのほうが高音用ユニットよりも高能率であり、低音を一台、中音と高音を一台のパワーアンプで駆動する2チャンネルのマルチアンプ方式には好ましくなく、完全にスピーカーユニットに対応したパワーアンプを使う3チャンネルのマルチアンプ化が必要である。むしろ、この場合は、コンシュマーユースとしての使用を前提とすれば単なるマルチアンプ化よりも、グレイドアップにおける投じた経費と結果での効率の高さにポイントをおくべきだ。マルチアンプ化は、2チャンネルとして、中音と低音の間に中低音用のコーン型ユニットを追加するか、超低音を補うために46cm型以上の専用ウーファーの追加や、3D方式なら、さらに大口径の60cm型や76cm型のウーファーを採用するプランが考えられる。
 それに対して、さらにマルチウェイ化され、4ウェイ構成になっている4343や4350は、ともに中低音用のコーン型ウーファーが採用されているのが大きな特徴だ。このため、これをベースとして中音用、高音用の能率的なバランスが保たれ、マルチアンプ方式の基本型である2チャンネル方式のために最適な条件を備えている。
 4343は、これらの条件が備わっているため、システムとして最初からスイッチ切替で2チャンネルのマルチアンプ使用が考えられており、4350では、全帯域をLC型ネットワークで使用することは考えられてなく、中低音以上と低音は、2チャンネルのマルチアンプで分割して使用することを前提とした設計である。そのために、ボイスコイルインピーダンスは、中低音以上は8Ω、低音は、ソリッドステートパワーアンプでは8Ωよりもパワーが得やすい4Ωになっている点は、見逃せないポイントである。
 マルチアンプ化は、各使用ユニットの数に応じたパワーアンプを使う本来の意味でのマルチアンプのプランを採用するのが、これらのシステムのもつ性能をさらに一段と飛躍させるためには好ましいことになる。しかし、ここでは、性能が高い、ハイパワーアンプによる2チャンネルの例をあげておく。これを使い、さらにマルチアンプ化していくことが、アプローチとしてはオーソドックスと思う。

●スピーカーシステム
 JBL 4350A
●コントロールアンプ
 マークレビンソン ML-1L
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 マークレビンソン LNC-2L
●パワーアンプ
 低音域:マランツ 510M
 中/高音域:マランツ 510M