Category Archives: 国内ブランド - Page 118

ヤマハ NS-451

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 この価格やサイズやユニット構成の製品に、高価格帯のような音のスケール感や積極的な魅力を望むことは無理であることを断わった上で、正攻法に、まじめに取り組んで成功したスピーカーだといってよいと思う。弦、管、打、いずれの楽器にもヴォーカルにも、ことさらの強調も不足もあまり感じさせずに、一応納得のゆくバランスを聴かせる。音はどちらかといえばソフトな方で、たとえば1000Mのあの鮮鋭な音よりは690の系統に近いが、小型の割には音の肉づきがよく、やせた感じ、貧弱な感じがしないで、どんなレコードをかけても安心して音楽に身をゆだねておくことができる。当り前のことながら国産のこの価格帯には、このことひとつでもまだ満足できる製品が少ない。使いこなし上の注意としてはあまり低くない台(30~60cm)に乗せ、背面を壁にやや近づけて低音の量感を補う方がよさそうだ。カートリッジは、オルトフォンVMS系では弦に良いがピアノには少し柔らかすぎ。シュアーV15/IIIの系統の方がその面ではよかった。

採点:88点

パイオニア CS-T3

瀬川冬樹

ステレオサウンド 37号(1975年12月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(下)最新40機種のテスト」より

 同クラスの他社製品と比較して飛びぬけて能率がよく、ふてぶてしいほどアクの強い音を鳴らす。パワーをぐんぐん加えても腰がくだけない。きわめて攻撃的な音である。とうぜん弦や女性シンガーのやわらかな艶っぽさ、色っぽさなどという要求をまるで受けつけない。ためしにトゥイーターを絞りこんでみたがこれはウーファーそのものの性格で、むしろ逆にレベルセットを目盛4ぐらい(やや強調ぎみ)にセットしてこのハードな音色を徹底させてしまう方が救われる。高め(50cm)の台に乗せるより、ブロック1個分ぐらいの低い台の方が音が落ちつくが、それで本質が変るわけではなく、クラシック系は敬遠したいスピーカーだ。そういう音のわりには、音像の並び方が一列横隊的で、平面に投影されたようなきこえ方をする。二万円しか出せないユーザーはこんな音を好むだろう、みたいな作り方にはあまり好感が持てなかった。ロックやソウルの愛好家が、ほんとうにこういう音で満足できるのだとしたら、私は考え方を変えなくてはならないのだが。

採点:65点

ヤマハ NS-1000M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 テクニクス7といろいろな意味で対照的。総体に抑制を利かせてゼイ肉のない、鋭角的かつ鮮鋭な音。テクニクスの暖かさ、豊かさに対して細身で冷徹。箱の共鳴音もほぼ完全に抑えているので、ハイパワーでも音のくずれや濁りが少なく、低音のファンダメンタルの音域でも音階の動きが明瞭に再現される。反面、低音楽器の低次倍音領域(200~500ヘルツ附近)でやや抑えすぎのような印象もある。音の肉附きを少しそぎ落しすぎのような印象もある。要するに総体に抑制を利かせた細身の音質。しかし音の品位はすばらしい。Nす690などと切換えて聴くと、こちらの方が金属的な音がするが、これにかぎらずJBLでもタンノイでも、金属系の振動板を持ったスピーカーは、角がとれてこなれるまで一年あるいはそれ以上を要する。したがって本当に長期に亘って鳴らし込まないと正当な評価ができないわけだが、しかし現状でも、クリアーそのものにすべての音を正確に鳴らし分ける解像力が、新しい魅力だといえるだろう。

テクニクス SB-7000 (Technics7)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 かなり複雑な構成のオーケストラ曲でも、パートごとの音の動きや和音の積み重なりや、一音一音のニュアンスに至るまで、みごとに解像して聴かせてくれる。当り前といいたいところだが、こういう鳴り方のスピーカーはそんなにザラにあるわけではない。ステレオのひろがりも音像定位もきわめて満足すべき結果を示した。ただ、この製品は、フロアータイプであるにもかかわらず、ブロックなど堅固な台を30センチ以上積んで、できればスピーカーとの間にインシュレーターを挿入して、キャビネットの振動を床に伝えないようにすることが望ましい。また、背面及びキャビネットの両サイドを左右の壁面から十分に離した方がいい。あらゆる面でヤマハ1000Mと対照される製品だが、ヤマハのクールな鳴り方に対して暖かい音。ただし低音の豊かさが楽器によってはやや締りの不足を感じさせたり、わずかながら箱鳴り的な鳴り方に聴こえる。9万円の製品には高望みかもしれないが、さらにここに極上の品位やつやがくわわれば最高水準に仕上がるはず。

トリオ LS-700

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 少し前までの国産スピーカーが総じて持っていた饒舌さをこの製品はまだ持っている。たとえばオーケストラを鳴らしてみると、実際の演奏以上にスピーカーの各ユニットがよく鳴り響くという感じで、スケールの大きな反面、騒々しさと紙一重のところまで音を派手やかに鳴らす。また、総体にピッチを上げたような感じにも聴こえる。一言でいえば、にぎやかな音、とでもいう感じである。バランス的にはいわゆる逆カマボコ型あるいはドンシャリ型と呼ばれるタイプで、低音と高音の両端をやや強調して中域をおさえる方向にまとめられている。この意味では少し前のイギリス系のスピーカーなどに聴かれた作り方を意識しているのかもしれない。この系統の作り方には、やや手綱をゆるめた感じの鳴り方がともなうため、よけいに音の締りが不足のように思える。ただLS700の音には、どこか硬い芯があって、そこが何となくチグハグな印象であった。音のバランスや音像の立ち方を引き立てるには、組合せや置き方を十分研究する必要がある。

パイオニア CS-T88

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 T66と並べて鳴らしてみた。低音から高音までの全域にわたってバランスのいい、やかましさのない音質は明らかに同じ兄弟だが、そこに練り上げられた音のまろやかさ、スケール感、音像の再現の確かさが加わって、すばらくしよくこなれた、完成度の高いスピーカーに仕上っていることが感じられる。総体にいわゆるカマボコ特有の、つまり中域の密度の高いそして高域のオーバートーン領域にかけてやや抑えこんだ感じの、丸味のある緻密な音で、それはことにピアノの音など、打鍵の音に余分な夾雑音をつきまとわせたりしないで、コロンと鳴る丸味のあるタッチが気持よく鳴ってくれる。ヴォーカルも、上ずったりハスキーになったりせずに、キメこまかくニュアンスもよく出てくれる。ただ、木管の音や肉声の持っている一種あたたかく湿った、ふくらみのある艶、のような要素が、どうも十分に鳴ってくれるとはいえず、そこがもうひとつ何か足りないと感じる要素のひとつかもしれない。レベルセットは指定どおりが最良。高めの台が良好。

フォステクス A-300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 こまかな一音一音に鋭敏に反応するというタイプとは正反対の、いわばおっとり型というのか。総体に音像を大掴みにとらえて、線を太く鳴らす傾向である。だからといっていわゆる耳あたりの良さとか柔らかさというのではなく、たとえばオーケストラを鳴らしたとき、全体のバランスは一応過不足なく捉えているものの、演奏の微妙な表情あるいは繊細なニュアンスをも、どことなく一色に塗りつぶしてしまうという傾向があるし、パワーを上げてゆくと、おっとり型にしては意外にどこか硬い芯があって、どうやら相当に自己主張の強い、いわゆるカラーレイションの強いスピーカーであることがわかってくる。聴感上の周波数バランスでいうと、ハイをどこまでものばすというタイプでなく、むしろおさえこんでしまう方向で、爽やかさの出にくいタイプである。この傾向は、スピーカーのレベルコントロールでは直すことができなかったので、やはり製品自体の個性だと思う。置き場所の変化にはあまり敏感でない方。

オットー SX-661

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 551のところでも書いたが、OTTOのスピーカーは、このシリーズから注目すべき水準に仕上ってきた。551とくらべると、こちらの方がいっそう中~高域が抑制され、相当にパワーを上げて鳴らしても、刺激的な音の成分がきわめてよく除かれている。大編成のオーケストラを、フォルテのアベレージ90dBていどのパワーで聴き続けても、やかましくないし聴き疲れしない。発売当初の製品は、この面でやわらかさ、繊細さの度がやや過ぎた嫌いがあったが、今回試聴した市販品では、音の粒立ちも適度に改善され、こまやかなニュアンスが非常によく出て、音楽のバランスを失わずに、単に無難という線をたしかに越えたところで自然に色づけ少なく、いつまでも聴いていたい、と思うような魅力を保って鳴らす。総体には繊細型、おとなし型のヨーロッパ型だが、この価格の国産品としてぜひ一度は耳にして欲しい注目作だ。割合高い台に乗せて、壁面から離し気味にして、しかもやや低音を補整して鳴らすのがこれを生かすコツといえる。

ビクター FB-5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 従来のバックロードホーンの大半は、ホーンの設計の不備による共鳴や箱の共振で、低音がどろどろと鳴り響いておよそ音楽と無縁の珍妙な音を鳴らすのが多かった。それで低音に関しておよそあらゆるいじわるテストを試みた。海外の名機といわれる製品でも、無伴奏のチェロなどで、低音域のどこかの音階で共鳴からくる不自然なふくらみが出てきやすいが、FB5は、実によくコントロールされた、明るくよく弾みしかも不自然さの少ない低音を聴かせる。小型のバックロードホーンの性質上、ブックシェルフのような重低音のファンダメンタルは出にくいが、ブックシェルフとはひと味もふた味も違うしっかりした低音が出る。ただ、低音をここまで注意深く仕上げたにしては、中~高域にもっと質の高いユニットを開発して、これより高価になっても、もう一ランク上の製品をぜひとも仕上げるべきだと思った。設置場所は共鳴をおさえたしっかりした壁面と床が必要。

デンオン S-270MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 S170よりもすべての点でスケールが大きく、音に厚みとゆとりが増してきて、S170で感じられた中域のおさえられた傾向も270ではなくなって、前帯域にわたってバランスがいい。VS270以来の改良のつみ重ねが実って、さすがに完成度の高いシステムに仕上ってきている。VSのころはトゥイーターがホーン型だったのをコーン型に替えているが、これは弦楽器やヴォーカル系では、音の鮮明さを失わずにしかもやかましさやクセの少ない、さわやかに目の前に展開するというコーン型の利点が生かされている。反面、ピアノ及び打楽器の系統での立上りの輪郭がわずかながら甘くなるのは止むをえないことなのだろうか。しかし全体として音のバランスの良さは、あらゆるプログラムソースが一応それなりに聴けることから評価できる。あとは、国産スピーカーに共通に望むことだが、音の艶あるいは思わず聴き惚れさせる魅力、またとの彫りの深さや雰囲気などのいずれかの魅力をこれに加えてゆくことだろう。

ダイヤトーン DS-28B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 ダイヤトーンと聞くとまず中域のよく張った硬質な音を思いえがく。過去の一連の製品がそういう路線で作られていた。ところがこの287Bから、このメーカーにしては異色といいたいほど、中域をおさえて、新しいバランスを作りはじめた。初期のロットと比較しても、さらに中域をフラットにコントロールしはじめたような傾向が聴きとれる。また高域のレインジもよくのびてきて、したがって以前のダイヤトーンにくらべると、音に爽やかさが増して、キメのこまかな、楽器の音色や奏法上の音のニュアンスの変化がより正しく聴きとれるようになった。アンプやカートリッジの音色の差やグレイドの差をそのままさらけ出してしまう点、物理特性も相当に良いことが想像される。もちろんSX551のところでも書いたように、本質はやはりダイヤトーンである。国産のスピーカーのこの価格帯で、先発のヤマハのNS670やビクターのSX5/IIを追って、SX551と並んで好敵手あらわる、という印象。

オットー SX-551

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 注目すべき製品が現われた。失礼ながらオットーといえば、スピーカーの方ではまず三流以下、という印象が否めなかったが、今回のこのシリーズは、海外のスピーカーとならべて比較しても聴き劣りしない立派な作品だ。国産品の水準がここまで上ったのかと、感無量である。決してほめすぎではないだろう。第一に帯域バランスが非常によい。中域がややおさえかげんで、やかましさや圧迫感のない、力強さよりも細身で繊細な美しさを聴かせるタイプで、その意味ではヨーロッパ系の音に似ている。SX661よりは中域が張っているが、たとえばダイヤトーンの28Bとくらべるとずいぶん中域をおさえているなと思う。したがって圧迫感のない、軽やかな美しい音質に仕上がっている。パワーを上げてゆくと中~高域にややこなれない硬質の音が軽微ながら聴きとれ、そこが今後の改良のポイントになりそうだが、中程度以下の音量では品位の高い、質感の良い、聴き惚れさせるスピーカーである。音の品位に重点を置いてアンプやカートリッジを選ぶべきだ。

パイオニア CS-T66

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 音のバランス、という点ではこの価格帯の製品としては欠点が指摘しにくいほどよくまとまっている。芯の強い、中味の濃い音質ともいえる。むろんキャビネットの大きさやユニットの構成から考えても、スケール感など十分とはいいかねるが、あくまでも価格とのかねあいで点数の上がるうまい作り方だ。しかし、総体には表情がやや硬い。音の余韻あるいは響きをややおさえすぎたような感じがあって、良くいえば抑制が利いているが、しかしもう少し柔らかく楽しい表情が生きてきてもよさそうに思う。たとえば金管など太さも腰の強さも適度に漂う感じが出にくい。総じてクラシック系の場合、目の前に幕を一枚引いたようなもどかしさがあり、たとえばダイヤトーン28Bと比較すると、28Bは突然眼の前がひらけたように爽やかに感じられる。レベルコントロールをパイオニアの指定よりも、高音で一目盛上げ、中音で一~二目盛おさえる方が、クラシック系では好ましかった。

Lo-D HS-340MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 日立のスピーカーは、従前の製品には一種弱々しい感じがあったが、新しい製品は一変して、硬質の、線の太い、力強い音を鳴らしはじめた。例えばHS500の高音には、金属の細い弦がピンと張りつめて振動しているのがわかる、というような、爽やかな濃やかこさが聴きとれたが、新シリーズのトゥイーターの音は、それより表情が固くいわば清涼感のような要素が出にくいし、ことに肉声の唇のぬれた感じ、声の艶、あるいは空間にひろがってゆくような又は漂うようなひろがりや繊細なニュアンスを、一切断ち切ってしまうような鳴り方をする。低音はたしかに以前のような薄手の弱々しい感じではなくなったが、しかし聴感上の低音の豊かさが不足している。このクラスとしてはファンダメンタルがよく出ているのだが、おそらく低音楽器の低次の倍音領域のエネルギーが不足しているのだろう、楽器の弾みや豊かな表情が出にくいタイプである。全域を通して歪みっぽい音をよく抑えているのはさすがローディストーションの命名に恥じない。

デンオン S-170MKII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 きわめて大掴みに言えばビクターSX3IIと同じ傾向の音質。しかし細かく聴いてゆけばその性格には対照的といえるほどの違いがあり、その意味でSX3IIと比較しながらの方が説明がしやすい。第一にSX3よりも音の線が細い。たとえばオーケストラ曲で、SX3が音を渾然と溶合させて聴かせるのに対してS170は各パートあるいは各音を分解、あるいは分析的に聴かせる。中域をおさえぎみにバランスをとっているためか、やかましさや圧迫感のない、しかもよくひろがり、耳あたりの柔らかな割には音の鮮度を落さずに、明晰な鳴り方をする。オーケストラでもジャズでも、低音の土台となるベースや低音楽器のファンダメンタル領域の鳴り方では、SX3の方がピッチが低いように聴こえ、シンバルのような楽器でも170の方が帯域が上に寄る感じである。あまり高くない台に乗せ、場合によってはトーンで低音をやや補う方がよいと思う。ただ、このランクにしては聴感上の能率が非常に低いのはデメリットだろう。

サンスイ LM-033

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 011、022と聴きくらべると、さすがに大型になっただけのことはあって、低域の豊かさが格段に向上してくる。もちろん低音だけでなく全体のスケール感が大型になって、011が小型の割には朗々とよく鳴るという感じであるのに対して、033はもっと楽々と音が出てくる感じになる。中音域は011のやや抜けた感じよりも022のどちらかといえば張り出す印象に近く、022ほどではないにしてもクラシックのオーケストラの強奏でむずかにキャンつく傾向が聴きとれる。やはり本質的にポピュラー系の音感でまとめられたスピーカーであることを感じる。ただし中域から高域にかけての音のバランスや質感が改善されれば、クラシック系もこなせるだけの素質は持っている。この製品はあまり高くない(30~40センチの)台に乗せ、背面を壁に密着させて置く方がバランスがよかった。011との価格差を考えあわせると、022よりは033の方が、あきらかに高価になっただけの値打があると思う。

ビクター SX-3II

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 良きライバルであるダイヤトーンのDS251/IIが中域のよく張った鮮明さで売っているのに対し、SX3/IIはどちらかといえばヨーロッパ的な柔らかな響きを大切にした作り方で、耳あたりよくソフトなバランスに仕上がっているので、ちょっと聴くとこもったような感じもするが、長い時間聴きこんでゆくにつれて、柔らかな中にも適度の解像力があって、ことにクラシック系の弦や声を主体としたプログラムに対しては、しっくり聴き込むに耐える完成度の高い音質だといえる。本誌28号でテストしたSX3に望んだ注文がほとんどかなえられて、以前の製品に比較して、中域の密度も増してきたし、やや抑えられているとはいうものの渋い艶も聴きとれる。この価格帯では内外を通じて眺めても、注目製品のひとつと言っていい。背面や側面を部屋の壁からなるべく離す方が音質の生きるタイプ。床の上に直接置いたり出窓や床の間に置いたりすると、音がこもってしまい、せっかくの音質が生かされにくい。

マランツ Marantz 4GII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 エレクトロ・リサーチと価格が近く、しかも生まれが同じカリフォルニアだから、つい比較してしまうことになる。能率はE-Rよりも聴感上で4~5dB高く、組み合わせるアンプはパワーの面で楽になる。E-Rが中域をやや抑えぎみだったのに対し、こちらは中域がよく張っている。輸入品を国産の同価格製品とくらべるのは少し気の毒かもしれないが、E-Rと同様にパワーにやや弱い傾向を示し、アン・バートンのバックのベースの音で、裏蓋ごとビリつくような音がで出たので、音量をおさえかげんで聴いた。総体にダウンタウン的イメージ、要するに音に品格が欠ける。音楽の大づかみな印象を的確にとらえて元気に鮮明によく鳴るが、いくらか手綱を緩めすぎたという感じ。もうひと息、磨かれた品位が加われば抜群の音質に仕上がるのに、と言いたくなるスピーカー。したがって細かなことにこだわらずに気楽に鳴らすという目的ならそれなりに十分楽しめる音、といえる。ただし、この値段であえてこれを選ぶ理由はやや希薄。

オンキョー E-213A OAK

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 音の輪郭をすべて太く鳴らす傾向があるが、低音から高音までのバランスがわりあい良く、なかなかよく練り上げられたスピーカーであることが感じられる。音量の強弱にもよく追従し、音色に統一感がある点はよい。クラシックのオーケストラを鳴らしても、やかましさや圧迫感を感じさせず、いやな音を出さないようよくコントロールされていることがわかる。オーケストラの厚みは出にくいにもかかわらず、弦のソロでも繊細さあるいはシャープなイメージがやや出にくく、総体に音を大づかみに、弦の一本一本が太いという感じで鳴る。この価格で多くを望むのは無理な注文だとは思うが、音の質に磨きをかけて、もっと光沢のある洗練された質感が出せるようになれば第一級のスピーカーになると思う。小型のスピーカーに共通の注意だが、低音の量感を補うため、背面は固い壁に近接させた方がいいタイプ。OAKシリーズになってから、以前の製品よりデザインも垢ぬけて、しゃれたイメージが出てきたのは長所。

オーレックス SS-350W

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 耳ざわりなピークや歪みなどの成分を、注意深くとり除きあるいは抑えこんだという印象で、低音から高音にかけて目立ったでっぱりもなく、とうぜん中域がキャンついたりせず、低音のボンつきもなく、高域のシリつきもない、というように、ともかく欠点はできるだけ耳につかないように作ろうという意図は明瞭にくみとれる。その意味で優等生的、といってよいと思う。ただしこの優等生、私見私見でいためつけられた青白い坊やみたいに、どことなく生気に乏しい。演奏の熱っぽさ、魂の燃焼、そういう精神の高揚が、どんなレコードからも感じられない。ベルリン・フィルの演奏も、できの悪いときのN響のような、よそよそしい印象になり、ベートーヴェンを聴くよりも学習しましょうという鳴り方をする。心で感動するよりも頭の方が悪働きしてしまう感じだ。音に若々しさ、躍動感、生気がない。といって老成した円熟という音でもなく、試験勉強の坊やと書いたが、それよりも無気力な万年係長とでもいう方がふさわしいのかもしれない。

サンスイ LM-022

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 011とくらべると、第一に低音の迫力が増したために全体にスケールがひとまわり大きくなって聴こえる。第二に、011では中音域をややおさえすぎた感じで、聴感上では、プログラムによっては中域が少々不足の感じではあったのが、022ではその点がよく埋まってきた。この二点が、6千円アップのメリットである。反面、クラシック系のソースでは中~高域がキャンつく感じが強く、またトゥイーターから鳴ってくるスクラッチノイズを聴いても011より質が粗くやや耳ざわりの傾向があって、総じて音のとらえ方では011の方がすぐれているのではないかと思われる。製品の企画自体、本質的にポピュラー系の再生に焦点を合わせていると思われるが、そうしたプログラムについても、011とくらべて全面的にこちらがいいとは言いきれない。ペアで1万2千円の差は、このクラスでは無視できない価格差だが、それだけの値打があるか、と聞き直られれば、さあ、どうももう一息なのだが、と言いたい感じ。

オンキョー Quart Lam-III

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 上方の、ことに下町のおばはんの会話に、一種鼻にかかったような発声を聴きとることがある。この製品が関西生まれだからなどとこじつけるつもりは全然ないが、音を聴いていると、その関西ことば特有のおもしろさのような音色が聴きとれるように思えるところが、何とも妙だ。こじつけだと言われれば右の表現は撤回してもいいが、しかしいわゆる物理尺度をあてはめて評価するには、このスピーカーの音はやや特殊な部類に入る。おそらく製品の規格のねらいが、オーソドックスな音とは逆の個性を強調する方向を目ざしているのだろうと思う。箱の独特の構造のゆえか、低音はとても豊かに鳴りひびく。楽器の鳴らす本当の低音とは違うおもしろさだ。中~高音域は、そういう低音の鳴り方に負けないよう、鮮明な鳴り方をする。スピーカーが作り出す音色を楽しむと言う製品だから、使いこなしも各自の創意を加えて独特であってよい。聴感能率はかなり高いから、小出力のアンプでも十分な量感を出せる点が大きなメリット。

ダイヤトーン DS-22BR

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 中域のよく張った、ダイヤトーン製品に共通のバランスがこのスピーカーにも一貫して聴きとれる。ローコストの製品の中には、中~高音のやかましさを抑えるために適度に中域を抜くという手の使われる場合があるが、このスピーカーの場合は全くオーソドックスに、低音から高音まで、中身のいっぱい詰ったゴマ化しのない音がする。聴感上の周波数レインジは必ずしも広いとはいえないが、この価格でよくここまで本格的にとりくんだものだと感心させられる。したがって、カートリッジやアンプの音色の違いを正直に鳴らし分ける。これと対照的なエレクトロリサーチの300と聴きくらべると、ダイヤトーン独特の張りつめたような音質がことさら硬質に感じられて、音楽の柔らかな表情をどこか一本調子で鳴らすという傾向が少し気になるので、そうした面を少しでも補うには、アンプやカートリッジに、音の表情の豊かな、ニュアンスの濃やかな製品を組み合わせるように工夫したい。やや高めの頑丈な台にのせる。背面は固い壁がよい。

サンスイ LM-011

瀬川冬樹

ステレオサウンド 36号(1975年9月発行)
特集・「スピーカーシステムのすべて(上)最新40機種のテスト」より

 ポピュラー系の音楽、ことにヴォーカルに焦点を合わせた作り方らしく、この系統のプログラムの場合には、のびのびと元気のよい、芯のしっかりした音で、なかなか魅力的に鳴ってくれる。いわゆる「音離れのいい」タイプで、左右にひろげたキャビネットのあいだに音像がよくひろがる。定位もわるくない。聴感上の能率は中の上。あまりパワーの大きくないアンプと組み合わせても、音量感の不足は一応感じない。クラシック系のソースはややニガ手のタイプのようで、弦や声の滑らかさ、緻密さ、あるいは溶け合う和音の柔らかな響きが出にくい。こうした面は、このスピーカーの価格や性格を考えあわせればもちろん無理な注文だと思うので、あくまでも前記の長所を生かして使う製品なのだろう。箱が小型だから低音の厚みを補うために、背面を固い壁面に近づけて設置する方がいい。音離れのよさを生かすにはやや高めの台、音に落ちつきを求めるなら逆に低めの台にのせる。カートリッジはシュアーのV15/IIIの系統がよく合う。

グレース F-9E

岩崎千明

スイングジャーナル 7月号(1975年6月発行)
「ベスト・バイ・コンポーネントとステレオ・システム紹介」より

 グレースはグレース・ケリーのグレースと同じ綴り、などというと年が判っちゃうかな?。グレースのグレースは高尚とかいうが、実はグレイからもじられたグレースというのが多分本当だろう。
 グレイというのは、昨年来、日本市場にも再度10何年ぶりにお目見えした超豪華プレイヤーについていたアームのブランド名だ。しかし再度と知っているオールド・マニアにとっては、グレイはオイルダンプド・アームの本家としてモノーラル時代に世界を圧した業務用アームの老舗である。この誇りあるのれんの重さは当時にあっては並ぶべきものが全くなかったほどだった。
 やがてステレオ期になって、軽針圧カートリッジ時代に入るとぷっつりと姿を消して、その名も絶えてしまったのが本家の米国グレイ社であった。マイクロトラックというブランド名の重量級プレイヤーについている武骨なオイルダンプ・アームは、まぎれもなくグレイ社の製品であったのを懐かしむ者もいたはずだ。本家のグレイが落ちぶれたのに対して日本のグレースは、ステレオになるやMM型カートリッジの秀作F5、F6とヒットを送りさらに400シリーズから発展した500シリーズの軽量級パイプ・アームが市場を長い期間独占していた。
 こうした成功は決して僥倖によるものではなくて、ひとつの製品を土台にしてその改良を絶えず行ない、さらにその集積を次の新製品とする、という偉大なる努力を間断なく続けてきた結果のF9シリーズは、それらの技術的姿勢の賜物というべきだろう。だからこのF9も決して他社のように新製品のための新型ではない。技術の積み重ねが得た止むに止まれずに出てきた新製品なのである。
 F9はMM型メカニズムとして従来のF8と全く異るというわけではないが、その磁気回路とコイルとの組合せによって成立する構造は従来のF8には盛り切れなくなって達した新機構ということができる。それは、しばしばいわれるように、シュアーV15がタイプIIIになって新らたなるメカとなったことと共通しているといえようか。だから wv9は、よくシュアーのV15IIIと比較されることもあるが、その違いはF9の基本的特性が素晴らしくのび切ったハイエンドを秘めているのに対してV15タイプIIIは必ずしも数万ヘルツまで帯域が確保されているとはいい難い。それどころか最近多くなったCD4ディスクへの対応という点ではV15タイプIIIはもっとも弱い立場にあるともいわれる。F9のデーターにみるフラットな再生ぶりは、類がないものだ。

プロ志向に徹したマニア・ライクなシステム
 こうした技術データーの優秀性はそのまま音の上にもはっきりと感じとることができ、澄み切った音は今までになく透明で、しかも従来のような線の細さがF9になってすっかり改められ、力強さを加えていることだ。これは中高域における1dB以内とはいえレベル・ダウンがなくなったことが大きなプラスとなっているのだろう。つまり、解像度はよいが繊細すぎるといわれた点の改善である。
 こうした音色上の改良点は、そのまま再生上の水準を大きく引き上げることとなりF9になって海外製品との比較や組合せが、心おきなく可能となったのは大きな収穫だろう。
 このF9を生かすべき組合せは、この透明感と無個性といいたくなるほどのクセのない再生ぶりを生かすことだ。そのために選んだのが、これまた音の直接音表現で名をはせるテクニクスのアンプである。
 テクニクスはこうした面での再生を高いポテンシャルで実現する点、国産高級アンプ中でも無類の製品だ。かつてはSU3500で価格の割高なことがマイナスとならなかったロングセラー・アンプであることは有名だ。日進月歩の今日3500は3年を迎えて、今でも第一級なのだから。この3500以来テクニクスのアンプの優秀性はひとつの伝鋭となったくらいで、その最新作9200セパレート型アンプ、 引き続いての9400プリメイン・アンプと、どれをとっても透明そのものの再生ぶりがメカニックなプロフェッショナル・デザインと共にユーザーに強い印象を与え、多くのテクニクス・アンプの支持者を生むことになったのだ。
 プロ志向にあこがれるのはベテラン・マニアだけでなく若いファンとて同じなのだ。
 さて、このF9プラス、テクニクス・アンプとプロフェッショナル志向の強くなった組合せは、プレイヤーにデンオンの新型、コストパーフォーマンスの高いDP1700を選ぶのは妥当だろう。このアームはデンオンのプロ用直系で、F9にとってグレース・ブランドのオリジナルと同様好ましい動作が期待できよう。
 またスピーカー・システムに関してもプロフェッショナル志向という点で、サンスイのモニター・シリーズを選ぶのはごく自然な成り行き、結着といえるだろう。ここではモニター2115、つまりLE8Tのプロ用ユニットを収めたやや小型のブックシェルフ型だ。さらに大型の10インチ2120も考えられる。しかし、ただ一本でできるだけ良質の再生ということからは、この2115こそもっとも妥当なセレクトといってよい。
 このシステムで再生したラフ・テスト盤のフォノグラムの最新作「ザ・ドラム・セッション」の端正きわまりない再生ぶり、底知れぬ力に満ちたドラムのアタックと4人の個性的なサウンドと、その奏法のおりなす生々しい展開は試聴室をスタジオの現場と化してしまうほどであった。そのスケール感と定位の良きは、F9の基本的性能の良さを立証するものに他ならないといえよう。
 このシステムから流れ出るサウンドは.なぜか聴き手を引き込むようなサウンドであり、しばらくはSJ試聴室でだだただ興奮!