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ダイヤトーン DS-503

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「Best Products 話題の新製品を徹底解剖する」より

 コーン型ウーファーの振動板材料に早くからハニカム構造振動板を採用したダイヤトーンの技術は、これを発展させアラミドハニカム振動板とダイアフラムとボイスコイルボビンを一体成型をする新技術によるボロンのドーム型ユニットを組み合わせた大型4ウェイブックシェルフ型システムDS505を昨年登場させ、デジタルオーディオ時代に対応するスピーカーシステムのありかたを提示し、反響を呼んだ。今回は、この設計方針に基づく第2弾製品として、3ウェイ構成のブックシェルフ型システムDS503が発売された。
 システムとしての特長は、従来からブックシェルフ型の高級機種には完全密閉型エンクロージュアを採用する伝統があり、これがダイヤトーンの特長であったわけだが、本機では初めてバスレフ型が採用されている点が目立つ。エンクロージュアは、包留柄接ぎ方式を採用し、ポート部分にはアルミパイプダクトを採用しているのが特長。
 ユニット構成は、新スキン材採用の32cmウーファーをベースに、ダイヤトーン・ユニファイド・ダイアフラムと名付けられた一体成型型直接駆動振動板採用で、新設計の65mmボロンドーム型スコーカーと同構造の23mmボロンドーム型トゥイーターの組合せである。ダイヤトーンDUDユニットの他の特長としては、ハードドーム型で一般的な手法である振動板の内側に制動材などによるダンピング処理がなく、そのうえ振動板前面のイコライザーもない設計があげられる。この利点は、アンプ関係の裸特性を向上してNFB量を少なくする設計と共通点がある。前面に障害物がなく、フリーダンプの振動板によるダイナミックで活き活きとした再生能力は、DUDユニットの隠された特長であり、魅力である。
 ネットワークはスピーカーシステムの成否を握る重要なポイントだが、本機では圧着方式配線と2分割型新固定方法の採用で、単純な従来の固定方法とは一線を画した成果を得ている。
 DS503は、床から30cm程度の台に乗せて最良のバランスとなる。低域は豊かで紙独特のノイズがなくクリアーである。中域のエネルギー感はたっぶりとあり、インパクトの強烈な再生能力は凄い。音の表情は505よりフレキシブルで親しみやすいが、併用装置による変化はかなり大きい。

オルトフォン T-20

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 トロイダルコアを採用した低インピーダンス専用昇圧トランスで、バイパススイッチの付いたモデルだ。
 聴感上の帯域バランスはトランスとしてはワイドレンジ志向型で、豊かで適度に芯のある低域、クッキリと粒立つ硬質な中域とスッキリと伸びた高域に特徴があり、音にコントラストをつけ、リアルに音を聴かせるタイプだ。音場感はシャープに拡がり、音像定位もクリアーにまとまる。音の表情には少し固さがあるが、分解能はSTA6600Lよりも一段上で、低域の力強さでも優れる。
 試みにFR7fを使うと、トランスの性質が相当に強く、空芯MC型独特の鮮明さと反応の速さは抑えられ気味で、力強い低域とクッキリとコントラストのついた明快型のFR7fになる。

オルトフォン STA-6600L

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 トランス本体を筐体の上部に取付けた6600以来のロングセラーを誇る製品。
 帯域バランスはヘッドアンプに比べれば狭いとはいえ、ナチュラルに伸び、やや柔らかい低域と程よく硬めの高域がバランスを保ち、中域に量感があるのはトランスならではの独特の味だ。
 MC20は、豊かで柔らかな低域が安定感のあるファンダメンタルを作り、適度に密度感のある中域とスッキリと粒立つ高城は安心して聴けるオルトフォンらしい魅力だ。4種のプログラムソースを、それなりに見事にまとめて聴かせる性能は、長期にわたるロングセラーの実力を示すものだ。
 試みにFR7fと66Sの組合せを使ってみると、細やかさ分解能の高さ表情の豊かさといったカートリッジの特徴をよく出す。

オルトフォン MCA-10

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 MC10カートリッジの開発にあわせて登場したヘッドアンプで、電源はバッテリー動作。フロントパネルの小型メーターは、ヘッドアンプ出力とバッテリーチェック共用である。
 聴感上の帯域バランスは、ヘッドアンプとして無理にワイドレンジを狙わず、スムーズなレスポンスをもったトランス的なニュアンスをもつタイプだ。低域は柔らかく豊かだが、音の芯が弱くソフト。中域は程よい厚みがあり、中高域には少し硬質なところがあり、マスキングのせいか高域はゆるやかに下降して聴こえる。
 MC20はそれなりに特徴を出すが、独特の豊かさやしなやかさが今一歩の印象であり、バランスは良いが不満も残る。FR7fにすると低域の力強さはあるがソフトな雰囲気になる。

オルトフォン STM-72Q

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 低インピーダンス専用に、開発された小型昇圧トランスで、型番末尾のQはCD4システムに対応できるワイドレンジ型の設計であることを示している。
 昇圧比は1対60とオルトフォンのトランスでもっとも大きいが、帯域バランスはナチュラルで、さして狭い感じはない。音の傾向は過度にスムーズさを持ちながらスッキリとした伸びやかさがあり、全体にまとまりの良いタイプだ。ロッシーニの軽快さと華やかさ、ドボルザークのプレゼンス、峰純子のダイレクトらしい鮮度感、さらにカシオペアのパワー感などを完全にではないが、それなりに聴かせる性能は、価格から考えれば見事という他はない。
 試みにFR7fを使うと音の細部が見えず木炭画のような粗い音になった。

リン Pre PreAmp

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 ASAK・MC型カートリッジ専用のセパレート電源付ヘッドアンプである。
 低インピーダンス用のためMC20と組み合わせると、無理に帯域を伸ばした印象がないトランス的な性質と、中高域から高域での美しい輝きをもち、全体としては重く量感のある低域をベースとした独特の穏やかな安定感のある音が、このアンプの特徴であることがうかがわれる。
 試みにASAKとFR66Sを組み合わせると、適度にソリッドさがある低域をベースにクッキリと音像を立たせる中域、シャープで少し硬質な高域が巧みにバランスをした硬質な音ながら安定感があり、引締まった立派な音を聴かせる。音場は適度にクリアーで音像定位はシャープであ1り、反応はキビキビして速い。

ラックス 8025

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 無酸素銅線のコイルとトロイダルコアを採用し、独特なプラグイン方式の構造をもったステレオ昇庄トランスである。入力は切替なしに3〜40Ωをカバーするタイプで昇圧比は1対10・5、トランスとしては比較的類型の少ない、入出力が逆相の反転トランスである。
 帯域バランスは低域を抑えた細身のシャープなタイプで、高域は素直に伸びている。音に適度にコントラストをつけ引締まった明快なサウンドであり、分離はトランスとしては優れる。
 MC20は軽快でクッキリとコントラストをつけた音だが、少しスケールが小さく、305はよりナチュラルな帯域感をもち、適度に繊細でありながら音の芯がクッキリとし、楽器固有の音をそれらしく聴かせるが、やや小さくまとまる。

インプレスラボラトリー Model 999

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 3〜50Ωのユニバーサル型昇圧トランスだが切替スイッチはなく、接点を最少限に抑えた性能志向型。
 帯域バランスは、柔らかな低域をベースとしてナチュラルに伸びた、トランスとしては広帯域型だ。中高域に適度に輝くキャラクターがあって音を爽やかにスッキリと聴かせるが、逆に、中域は少し抑え気味に感じられ、全体に音を少し小さくまとめ、音場感もスピーカーの奥に拡がるタイプ。
 MC20は、爽やかで適度に反応が速くシャープな音だ。音色はニュートラルで軽く、滑らかさが特徴。
 305になるとMC20と異なり全体に音の輪郭をクッキリとつけるタイプとなり、305にしては線が太くメリハリ型で弦楽器は硬質さがあり、ボーカルの無声音を少し強調する。

長谷川工房 V-81G

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 非常に高価格な1・5Ωと40Ω切替型のトランスで、受注生産のいわば特注品のスペシャリティ製品だ。
 帯域バランスはナチュラルに伸び、トランスとしてはワイドレンジ型である。音の粒子は非常に細かく独特の抑えた艶があり、クォリティはトップクラスだ。
 音色は軽く、明るく、少し控えめの素直な表情と音場感をスピーカーの奥に拡げ、全体に音を整理して細く美しく聴かせる点はHTM60Eと共通だが、クォリティは比較にならない。
 MC20を軽快でスッキリと聴かせるし、305も爽やかで、いかにも現代型MCらしくワイドレンジで音場感の拡がりをきわだたせて見せる。とくにXSD15を艶やかに軽く聴かせるのは、本来と異なった音だが一種の不思議な魅力だ。

長谷川工房 HTM-60E

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 1・5Ωと40Ω切替型の昇圧トランスである。
 聴感上のバランスは低域を抑えた細身のスッキリと滑らかなタイプだ。音の粒子は細かく、独特の艶やかさがあり、リアルに音楽を聴かせるタイプではなく、美しくキレイに聴かせる典型的な製品だ。音場感はスピーカーの奥に距離をおいて拡がり、音像は比較的に小さくまとまるが、輪郭はソフトでスッと定位する感じで、聴きやすい独特の雰囲気がある。MC20は全体に薄化粧の印象となり、線が細く、MC30的なニュアンスとなる。
 305は、分離のよい滑らかでスムーズな音だが、
昇圧比が小さいようで、少しゲイン不足気味になる。両者の音の姜は少なく全体に美しい素直な音になり、スケールを小さくまとめる。

フィデリックス LN-2

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 006P電池を4個使う左右独立型電源採用のヘッドアンプで、シンプルな回路構成で高性能化するため、入力と出力が逆相の反転アンプを使用している。
 聴感上の帯域バランスは低域を抑え、高域に向ってフラットなレスポンスをもち、音色は寒色系で線が細く、クッキリと輪郭をつけるシャープな音が特徴。
 MC20はソリッドで締まった音となり音像を小さくシャープに定位させ、奥行きもスッキリと見通せるが、独特の中低域の豊かさは抑えられ、音が整理されて出るタイプだ。
 305では、一段と爽やかで分離が良くなる。カートリッジの分解能をダイレクトに聴かせる性能をもつが、少し表情は硬い。なお、電源投入時のポップ雑音は強大で、使用上注意が必要。

試聴を終えて

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 前号(No.59)と今号の2回にわたって掲載したMC型カートリッジ用の昇圧トランスとヘッドアンプのテストリポートは、MC型カートリッジが数多く華やかに登場し、プリメインアンプでも出力電圧の低いMC型カートリッジをダイレクトに使用可能になったという現状をふまえて企画された。そこで、MC型カートリッジ専用の昇圧手段である昇圧トランスとヘッドアンプが、どのような性能と魅力をもつのか。また、オプショナルなアクセサリーとして構入してまで使うべきだろうかを探ることを目的として、その概況をリポートすることにした。
 したがって、各昇圧トランスとヘッドアンプは、それぞれの試聴条件が比較的に同一になるように、最低限度の常識ともいえる注意をして実際の試聴にあたっている。
 試聴テストに使用した機器は別表の通りだ。カートリッジは、ローインピーダンス型としてオルトフォンMC20II、他にフィデリティリサーチFR7f、ハイインピーダンス型としてデンオDL305、他にEMT/XSD15を使用し、他にミディアムインピーダンス型のオーディオテクニカやヤマハの製品も使用した。また特定のカートリッジの専用モデルとして開発されたトランス/ヘッドアンプについては、専用カートリッジでの試聴はもちろん、インピーダンス的に問題のない(前号270頁参照)他のカートリッジでも試聴している。
 ターンテーブルはマイクロのエアーベアリング方式のSX8000を使用し、トーンアームを3本取付けた。オルトフォンMC20IIにはオーディオクラフトAC3000MC、デンオンDL305にはデンオンDA401を組合わせ、EMT/XSD15、フィデリティリサーチFR7fなど比較用にはフィデリティリサーチFR66Sを組み合わせたが、タイプによってはAC3000MCでもチェックしている。なお、ヤマハHA2は専用ヘッドシェルの使用が前提条件であるため、DL305はこの場合のみAC3000MCに組み合わせした。
 ヘッドアンプはAC/DCをとわず、試聴別に3時間以上通電してヒートアップをおこない、AC電源を使用するヘッドアンプの物理的なAC極性はすべてチェックしている。一方、昇圧トランスやヘッドアンプの出力をコントロールアンプに送るRCAピンコードは、各メーカーの付属品もしくは指定のタイプを使い、特に指定のない場合には、ステレオサウンド試聴室で常用しているピンコード(長さ50cm)を使った。このピンコードは、数多くの機器間の接続用としてひどい偏りのない、つまり、現状でやや高いレベルで平均的な性能の、特殊構造でない製品である。
 また、電流容量の十分に大きいテーブルタップを使用し、全国どこでも入手可能なやや太い平行線コードをスピーカーケーブルに使用するなど、特別な方法は一切とっていない。
 テストした昇圧トランス/ヘッドアンプと比較し、概略のグレードをチェックする目的で、MCポジションをもつブリメインアンプのビクターA-X5D、テクニクスSU-V7、サンスイAU-D907Fの3機種も用意した。この中でAU-D907Fだけは、このクラスのブリメインアンプに一般的なハイゲインイコライザーではなく、専用ヘッドアンプを内蔵してしいる。
 約60機種の昇圧トランス/ヘッドアンプをテストしての全般的な感想としては、進歩が著しいMC型カートリッジと比べ、昇圧トランス/ヘッドアンプともに、製品開発の目的が明確でない製品や、現状ではすでに旧態化した製品が存在することが第一にあげられる。やはり、昇圧トランス/ヘッドアンプは、コンポーネントシステムとしてはオプショナルな別売アクセサリーであるためか、進歩の激しい他の分野と比べ、やや陽のあたらぬ場所的な印象を受けるのかもしれない。
 それにしても、問題の多い製品が散見されるのは事実だ。今回のテストの対象からは除外したが、AC電源コードがアンプ内部で配線されてなく、バイパススイッチも動作しないといった極めてひどいキット製品があった。また、トランスでも、HIGH/LOWの表示が昇圧比の大小なのか、入力レベルの大小なのか、試用しないと不明の製品が散見された。
 現在の昇圧トランスとヘッドアンプは、価格的にも1万円未満から20万円を超す製品まで、非常に広範囲の価格に分布しているが、価格対性能・音質の比較は、カートリッジと似て、スピーカーシステムやアンプほど明確な差は感じられない。つまり、高価格だから性能・音質が優れるという結果は少なく、特に、5~10万円あたりの価格帯でこの傾向が強い。
 比較用プリメインアンプとの対比で昇圧トランスとヘッドアンプを考えると、昇圧トランスでは約3万円が、トランスとしての魅力を聴かせはじめる境界線であり、1万円程度の製品は、低インピーダンスのMC型用として、主にSN比を稼ぐための使用にメリットを見出すべきだ。
 また、ヘッドアンプは、技術進歩が激しい分野だけに、少し古い製品はアンプとして旧態化したことが聴感上で聴き取れ、比較的新しい製品でも、特別の目的以外は、アンプ側にMCポジションがあるのなら、わざわざ単体製品を購入してまで使用するメリットは少ないようだ。簡単にいえば、比較用プリメインアンプにみ組合わせて、さすがに専用ヘッドアンプと思わせるのは、プリメインアンプに匹敵した価格の製品で、実用上は、トータルのコンポーネントシステムとしてかなりアンバランスを生じる。
 おおよそに区別した価格帯別に、今回の試聴で好結果が得られた製品のリストを挙げておくが、これはあくまでも、ステレオサウンド試聴室で、別掲の試聴用コンポーネントシステムを使ったときの結果で、一応の参考としてお考えいただきたい。
 最後に、今回のテストを通じて浮びあがった、昇圧トランス/ヘッドアンプの問題点、注意点をまとめておきたい。
 従来は問題にされなかったことだが、昇圧トランス/ヘッドアンプの入出力の位相関係を等閑視してはいけない。今回の試聴では、入力と出力の位相の関係をチェックする初めての試みをおこない、発表することにした。
 カートリッジの位相の表示は、一般的に水平振幅にカッティングされたディスクを使い、中心方向から外周方向に針先が動いた場合に+側に発電する端子を+として表示する例が多い。しかし現状では、各メーカー間で完全な統一はなく、逆の場合もある。ステレオサウンドにある各種MC型カートリッジを、トーンバースト波のカッティングされたレコードを使いチェックした結果では、±表示が逆の、位相が反転している、いわば逆相カートリッジがいくつかあった。今回使用した製品では、EMT/XSD15、TSD15、フィリップスG925XSS、アントレーEC15の3種が逆相で、古い製品の中には、ソニーの〝プロ〟になる以前のXL55、初期のヤマハMC1なども反転型だ。
 一方、昇圧トランスとヘッドアンプでは、入力と出力の位相が反転する逆相タイプとして、次のような製品があった。
 昇圧トランスでは、オーディオニックスTH7559、ラックス8025、スペックスSDT77とSDT1000。
 ヘッドアンプではオーディオニックスADNIII、フィデリックスLN2、フィリップスEG1000、ヤマハHA1。
 入力系の正相と逆相の位相関係は、トータルなコンポーネントシステムの音質を変化させる大きな要素である。一部の製品に見受けられる、音質的な特徴を得るために反転型を採用するといった使い方は、たしかに効果的ではある。しかし、特に昇圧トランスの場合には、技術的アプローチから考えても、本質的には避けるべき手段である。
 また、昇圧トランス/ヘッドアンプともに、その出力をアンプに送る出力コードが必要だが、このコードの種類により、音が大幅に変化することにも気をつけていただきたい。これは、アームコード、機器間接続用のRCAピンコードも同様で、注意したい問題点だ。特定の音に焦点を合わせてチューニングをとる場合には、音を変える要素は大きなメリットとなる。しかし、今回のような比較試聴上では、この変化量がテスト結果を支配する要素となるだけに、たとえ専用コードを使用した場合でも、音質的にアンバランスを生じたときは、他のコードでもチェックしている。特別の場合には、かなりキャラクターの強い昇圧トランスが、一般的なRCAピンコードでナチュラルな音を聴かせた例もあり、特殊な構造や線材を使ったタイプは、いかに高性能であろうが、誤った使用法だけは避けたいものだ。

●テストに使用したレコード
ロッシーニ:《弦楽のためのソナタ集》アッカルド(v)他フィリップス25PC70-71
ドヴォルザーク:交響曲第九番《新世界より》ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー グラモフォンMG1199
峰純子《ジェシー》 ロブスターLDC1026
カシオペア《アイズ・オブ・マインド》 アルファALR28016
●テストに使用した機器
スピーカーシステム/JBL♯4343BWX
コントロールアンプ/マークレビンソンML7L
パワーアンプ/スレッショルドStasis3
ターンテーブル/マイクロSX8000十RY5500
トーンアーム/オーディオクラフトAC3000MC, デンオンDA401, フィデリティリサーチFR66S
カートリッジ/デンオンDL305, オルトフォンMC20MKII, フィデリティリサーチFR7f, EMT XSD/TSD15 他に各社代表的MC型多数
MCポジション比較用ブリメインアンプ
ビクターA-X5D, テクニクスSU-V7, サンスイAU-D907F

ヤマハ HA-2

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 ヘッドシェル内部に初段アンプを組込み、金属接点スイッチ、信号ケーブルなどに起因する歪を解消しょうという構想のアンプで、本体内部にRIAAイコライザーも備えたヘッドアンプイコライザーである。
 基本的にはフラットに伸びたレスポンスと、反応が速くダイレクトでシャープに粒立つ音で、一般のアンプと較べ、一段と鮮明で制約のない伸びやかさが特徴。
 MC20は芯の明解な低域とクッキリと緻密さのある中域、抜けの良い高域が特徴でコントラストの利いた音になり、305は全体に穏やかで、落着いた音だ。
 両者の音の傾向は相当に変わるが、原因の多くは組合わせたトーンアームの性質に関係がありそうだ。305はHA2用シェル付でアームはAC3000MC使用。

「でも、〝インターナショナル〟といっていい音はあると思う」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
特集・「サウンド・オブ・アメリカ 憧れのスーパー・アメリカン・サウンドを聴く」より

 全試聴が終らないうちに不本意ながら入院ということになってしまいまして、聴けないシステムが何機種か出て、最後の総括の部分のみなさんのお話に加われなかったために、お三方のご意見をいちおう読ませていただいたうえで、私個人の感じたことを談話でしゃべらせていただきたいと思います。
 まず、今回のテーマの〈アメリカン・サウンド〉ということについて、二、三、申しあげておきたいんですけれども、私自身がここ数年来、スピーカーの音の分類をするためには、第一に、その音の生れた風土・地理、第二にその音を生んだ時代、あるいは世代、第三に技術的な進歩、という、まあ大きくわけて三つの座標軸でとらえるようにしている。
 そういう意味では、西ドイツや日本のような小さな国がひとつの地域としてとらえられるにしても、アメリカという国はあまりにもひろい。お三方がそれぞれのかたちで指摘しておられるように、アメリカという国を,ごくおおまかに分けたとしても、東海岸があり、西海岸があり、そしてシカゴを中心とした中部といったような三つの地域にわけて考えなくては片手落ちになるわけで、〈アメリカン・サウンド〉と一括して論じることにはやや無理があるんではないかという気がまずいたします。
 次の第二の点として、これは岡先生が発言しておられるように、アメリカのスピーカーの発達の歴史をたどっていきますと、アルテックに代表されるトーキー・サウンドから発生した音と、もうひとつはパナロープを例にあげておられたような家庭用の電気蓄音機から発生した音という、まあごく大ざっぱなわけかたであるにしても、ふたつのちがいがあるこのこと自体も、一括して論じるというわけにはなかなかいきにくい、ひとつの要因ではないか、と思います。
 第三点として、とくに時代、あるいは世代のちがいとなると、これもお三方がそれぞれに指摘しておられるように今回試聴し得たスピーカーのなかでも、アルテックのA4を古いほうとして、新しいほうでは、たとえばインフィニティに代表されるところまで、アルテックの原型から考えれば、半世紀ぐらいも時代がはなれているわけで、その点でもなかなか〈アメリカン・サウンド〉という一言で一括しにくい部分がある、というように私は考えました。
 以上の点を前提としたうえで、しかし、私自身が個人的に考えている〈アメリカン・サウンド〉というイメージ、あるいは〈アメリカン・サウンド〉という言葉を聞いたときに、とっさに思い浮かぶこと、をもうすこし具体的に述べてみます。菅野さんが発言しておられたと思うんですけれども、やはりアメリカのよき時代ですね。たとえば第2次大戦以前の30年代、それも30年代後半から、それと第2次大戦の終った50年代、のふたつの繁栄した、ゆたかであった時代に代表される、そういうものをやはり〈アメリカン・サウンド〉というふうに受けとめてみたい、という気がするわけです。
 それを具体的に言いますと、たとえば、アメリカの自動車でいえばキャディラックのような大型の、大排気量の、車にのったときの乗り心地のよさのような、ぜいたくに根ざした快さ、、快適さ、いかにもお金がかかっているという、そういうところが、まず第一に、第二に、同じようなことですけれども、音のリッチネストいいますか、音がこよなく豊かである。第三にははなやかさ、一種独特のきらめいた、はなやかなサウンド。第四に音の明るさ──どこまでも、くったくなく、朗々と鳴る気持のよさ、だいたい、そんなような音を私個人は、どうしても思い浮かべてしまう。
 そして、それを具体的な音、スピーカーにあてはめてみると、やはり、古い世代のアルテックに代表されるものではないか、という気はいたします。
 もうひとつ私は前期の理由によって、試聴には加われませんでしたけれども、ほかで何度か聴いた音で言えば、エレクトロボイスの音ですね。これも上手に鳴らしたときの音というのは、以上、申しあげたような各要素が、やはり聴きとれるんではないか、という気がします。
 またJBLのパラゴンであっても、そして今は製造中止になってしまったハーツフィールドであっても、やはり、お金を充分にかけた、そこからくる、ゆたかで、明るく、はなやかである、という音をやはり持っていると思うので、そういうのは、やはり〈アメリカン・サウンド〉だろう、とはっきり言ってよろしいかと思います。
 さて、次の問題にうつるまえの簡単な補足をつけ加えておきますと、以上のようなスピーカーは本質的な意味でのワイドレンジではないのではないか。たとえば、いまあげた、ハーツフィールド、パラゴン、パトリシアン、これらは、それぞれの時代では、たしかに、アメリカのスピーカーのなかでのワイドレンジの製品であったにちがいないけれども、しかし、同時代に、これは今回の話題ではないけれども、たとえばイギリスがモニタースピーカーなどで追求していた、ほんとうの意味でのワイドレンジとは、ずいぶん質のちがっている、耳にきこえる感じというのは、いわゆる「ワイドレンジ、ワイドレンジした」音ではなくて、たとえば、プログラムソースのアラなどが耳につきにくいというような音、あるいは、それに関連して、ノイズや歪みを極力おさえて、まろやかに、つまり、さきほどの話によれば、ぜんたくな、快適さといいますか、そういうものをやはり信条としていた、というふうに思います。それが私の考える〈アメリカン・サウンド〉です。
 さて、私がJBLの4345の試聴のところで、やや不用意に〝インターナショナル・サウンド〟という言葉を使ってしまったために、あとで総論の部分を読ませていただきますと、お三方の誤解をややまねいたような気がいたしますので、そのことについて、補足をさせていただきたいと思います。
 たとえば、JBLでも、今しがた例にあげたパラゴンにせよ、それから、それとは、また、まったく方向のちがう4676システム、といったような音になりますと、これは、やはり、私はアメリカならではの音、アメリカ以外の国では決して生れることのないサウンドだと思います。
 そして、私が〝インターナショナル・サウンド〟という言葉を使った、その使いかたがやや不用意だったために、誤解をまねいたようです。この場合、言葉の意味にあまりこだわってもらっては困るわけです。常日頃、私がスピーカーを論じる場合に、一貫して主張し続けてきたことですけれども、世界的な音の流れとして、たとえば10年という時間をさかのぼってみますと、当時はまだ明らかにイギリスの、たとえば、やや線の細い、繊細な音、ドイツのコリッとした音、アメリカの華麗な音、といったようなわけかたが、はっきりできた。それに対して、近年の、ことにそれは技術的な進歩によってスピーカーの特性の解析の技術がたいへんすすんだこと、そして、もうひとつは、プログラムソースを作る側、もっとさかのぼって言えば、音楽を演奏する側、などの感覚的な変化、楽器の変化なども含めて言えることですけれども、音楽的に正しく再生するには、指向特性を含めての、真の意味でのワイドレンジであり、歪あを極力すくなく、トランジェントをよく、そして、位相特性までも含めた平坦な特性、物理的な意味で、理想に近い特性を各国のメーカーとも目指しはじめた。
 目指しはじめたことによって、各国から数多く作り出されるスピーカーのなかで、そうした条件をみたすことに、からくも成功したスピーカーの音というものが、だんだん、ひとつの地域の独特のサウンドではなくて、国際的に、あるいは、みなさんのお話のなかの最後に〝コスモポリタン〟という言葉が出ていましたが、このほうが適当か、という気もいたしますけれども、そうしたように、特定の地域の、あるいは特定のジェネレーションのカラー、特定の技術によるカラーといったものが、だんだんうすめられてきて、音のバランスとか音の鳴りかたが、たいへんよく似てきているということを申しあげたいわけです。それを特に私が、JBLの4345のところで申しあげたのは、今回、試聴に用意されたそれぞれのスピーカー、および今回は種々の理由によって用意できなかったアメリカのスピーカーを全部ふくめたうえで、やっぱりJBLの4345というのは、とびぬけて、物理特性を理想に近づけることに成功した、数少ない例のひとつだということを言いたかったために、〝インターナショナル・サウンド〟などというような、言葉を使ってしまったわけです。
 で、ありながら、菅野さんや、ほかのかたのご指摘にありますように、私が、それだから、JBLが無国籍のスピーカーだと言おうとしているのでは決してなくて、あくまでも、これはJBL製であり、アメリカの西海岸製のスピーカーであり、そのことは、百も承知のうえで、アメリカが作り得た、〝コスモポリタンな〟あるいは〝インターナショナルな〟音、ということを言いたかっただけの話なのです。アメリカのそれ以外のスピーカーというのは、たとえばアルテックのA4に代表される、アメリカの古き良き時代のトーキー・サウンド、あるいは、インフィニティに代表されるようなアメリカの古い伝統を全く断ち切ったところから生れてきた、まったく耳あたらしいサウンドといったようなものが、オーバーに言えば、無数にあるわけです。そういう点で私は、JBLの4345をのぞいたそれぞれのスピーカーというのは、やっぱり、アメリカの国のそれぞれの地域、世代、技術、そしてそれらをふくめた音を求める傾向、といったものが、はっきりと現われていると思う。それか今回試聴に参加して、たいへん興味ぶかく感じたことです。
 多少個人の発言につっかかような言いかたになるんだけど、菅野さんが「あいつは自分の考えている音の世界があって、それを〝インターナショナル・サウンド〟だと思っている、ということは不遜である」と、いうようなたいへん、きつい発言をなさっている。
 まあ、菅野氏とは個人的に仲がいいから、あえて、すこし売られたケンカを買わせていただくけれども、私は決して自分の考えている音が即〝インターナショナル〟だとは思っていません。
 ですから、決して、もちろん私自身の音の世界というものは確固として持っているけれども、それをインターナショナルなどと思うどころか、それはもう、私の鳴らしかた、私の音の世界だというふうにわり切っているわけです。それと、客観的といいますか、要するにその主観的な要素が入らない物理特性のすぐれた音、そういったものを〝インターナショナル〟ないし〝コスモポリタン〟と言っていいのだろうと思うので、傲慢と言われたことについては、私は、とんでもない、と一言抗議させていただきたい、と思います。

ヤマハ HA-3

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 自社開発低雑音ICを使ったヤマハ初のヘッドアンプ。入力切替は2段で、一般のMC型はLOWを使うが、入力インピーダンス100ΩのHIGHはmVオーダーの高出力用だ。入出力は逆相の反転アンプである。
 聴感上の帯域バランスはワイドレンジ型で、ハイエンドとローエンドを抑えたナチュラルなレスポンスだ。音色は明るく、音の粒立ちはシャープで硬質な美しさをもつが、良く磨かれているために表面的な光沢として浮かび上がらないのがよい。低域は柔らかく穏やかで、反応はさして速くないが、安定感のあるベーシックトーンをつくる。
 MC20は適度に抑制の利いたシャープさがあり、305はmV級出力用のHIGHの方がナチュラルで反応の速い音になる。

ビクター MC-T100

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 独自のIC製造技術を応用したマイクロコイルを針先に近くおいたダイレクトカップル方式MC型MC1、MC2E用に開発された高インピーダンス専用のトランス。カートリッジインピーダンスは20〜40Ω。
 帯域バランスは、低域は少し抑え気味だが中域から高域はナチュラルに伸び、中高域にキラッと輝くキャラクターがある。
 305は帯域バランスがなかなか良く、音源は少し遠いが音場感は拡がり、音像もナチュラルである。スケール感はやや小さい。
 テクニカAT34EIIにすると、帯域バランスはスッキリとまとまり、安定感のある低域、密度のある中域がピタリとマッチ。位相差によるプレゼンスを自然に聴かせる音場感、定位のシャープさも相当に優れる。

ウエスギ U·BROS-5/TypeH

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 基本構造はタイプLと同様だが、高インピーダンスの40Ω専用トランス。バイパス機構はピンプラグを入出力ともに差し替えるシンプルな機構を採用。
 基本的な音の傾向はタイプLと似て、音を端正に聴かせるクォリティの高さと音楽の実体感を両立させたタイプだが、このタイプHの方が反応が速く、フレキシビリティがあり、滑らかでリラックスした雰囲気がある。
 305は、素直に伸びたfレンジ、程よく明るい音色とナチュラルな分解能があり、最先端をゆくトランスデューサーにありがちな素気なさがないのが良い。
 XSD15は、鋭角的なシャープさが少し抑えられ、豊かな低域ベースの余裕タップリの熟成のきいた立派な音を聴かせる。

ウエスギ U·BROS-5/TypeL

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 入出力系に最小限度のRCAピン端子を使い切替スイッチを除いた性能志向型昇圧トランスで、3Ωの低インピーダンス専用モデル。
 帯域バランスは素直に伸びたナチュラルなレスポンスを聴かせ、低域は豊かで分解能が優れ、中域の密度感、高域のクリアーさはテスト機中トップランクで、全体に音を磨き端正に聴かせる特徴がある。
 MC20は、低域の芯がクッキリとし力強さがあり、中域から高域は音が整然と並ぶ印象となる。4種のプログラムソースは、それぞれのディスクの特徴を素直に引出して聴かせる。
 FR7fは、全体の輪郭の線は太くなるが、低域はソリッドで豊かさがあり、適度にストレートで発電系の優れた特徴を音として聴かせる性能をもっている。

ソニー HA-50

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 同社のMC型カートリッジXL44との組合せ用として発売されたヘッドアンプ。人力インピーダンスは100Ω、利得は26dBである。MC20は、フラットに伸びた広帯域型のレスポンスとソリッドで引締まったシャープでクッキリとした音である。音色は明るく、程よくパワー感があり、各プログラムソースを明快に整然とこなす力量は見事だ。
 305になるとMC20とは逆に音の粒子が細かく繊細でスムーズな音に変わる。音場感はスピーカーの奥に拡がり、音像も小さく少し距離感がある。基本的クォリティが高く、長時間聴いても疲れない音である。
 試みにXL55PROとFR66Sを使う。重量級の低域ベースの力強い押出しの良い音で、力強いMC型を代表する立派な音だ。

フィリップス EG 1000

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 AC電源100V使用、入力インピーダンス135Ωのヘッドアンプで入出力は逆相の反転アンプである。
 帯域バランスはヘッドアンプとしては必要以上にワイドレンジ化を狙ったタイプではなくナチュラルでスムーズに伸びたレスポンスをもつ。全体に音はソフトで滑らかであり、音の粒子は細かく抑えた光沢がある。
 MC20は暖色系の響きが豊かな低域と少し線を太く聴かせる中域から高域に特徴があり、デッサン的に音を聴かせる。305では、滑らかで適度にシャープさがあう、フワッと包み込まれるような独特のプレゼンスがあり、表情も豊かでそれなりにリラックスして楽しめる音だ。925にするとスケールが大きく、低域は豊かで芯があり、艶やかでプレゼンスに優れる。

フィリップス EG 9000

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 筐体上部の3系統のアーム切替とパスを含み3Ωと40Ωに切替えるダ円形のバーチカル型スイッチに特徴がある昇圧トランス。
 聴感上の帯域バランスは、ナチュラルに伸びたトランスとしてはワイドレンジ志向型で、柔らかな低域と軽快さがあり、反応が速いフレッシュな中高域から高域が特徴である。音の粒子は細かく滑らかでスッキリと粒立ち、細身で爽やかな印象は独特の魅力がある。
 MC20は、オルトフォンSTA6600Lを軽快にしたサウンドとなる。305はこのトランスとマッチングが良く、スムーズに伸びたワイドレンジ感と、適度に反応が速く、フレッシュでスッキリとした美しい音を聴かせる。音場感の拡がり、音像定位もシャープで小気味のよい音だ

トリオ KHA-50

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 セパレート型電源方式を採用した独自のハイスピード設計によるヘッドアンプ。′
 帯域バランスは、アンプとしてはワイドレンジ型ではなく、ナチュラルに伸びたレスポンスだ。音色はニュートラルでキャラクターは少なく、表情は少し抑え気味だが、素直さが特徴。
 MC20は、ややハイエンドを抑えたバランスと穏やかで落着いた表情が特徴。音場は距離をおいて拡がるタイプで音像は少し大きい。
 305は、素直に高域が伸びた適度に軽快でスムーズな音だ。音の分離も水準以上でMC20の鉄芯入りとの差を一応聴かせる。ドボルザークは少し難しいが、他の3曲はそれなりに楽しめる。
 ヤマハMC5にすると少し高域は穏やかだが低域の独特味は明瞭に聴かれる。

フィリップス EG 8000

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 EG9000の実用モデルとして開発された昇圧トランスで、スピーカーの音圧でトランスが振動しない重量級設計の筐体、ノイズレスリッツ線の出力コード付。入力インピーダンスは3Ωと40Ωの2段切替型だ。
 帯域バランスは、量的には豊かだが、少し重さのある低域をベースに、輝きのある中域とナチュラルな高域が、やや低域に偏ったバランスをつくる。
 MC20は中低域の響きが豊かで中高域に独特のキャラクターのあるキレイな音になり、305は、柔らかい雰囲気と中高域の華やかな輝きが音に加わる。
 G925XSにすると、柔らかいが重い低域と明るくシャープな高域がバランスし、フワッと明るい個性的な中域が独特のサウンドキャラクターをつくる。

トーレンス PRA 990

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 トーレンスのMC型カートリッジ付アーム用に開発されたヘッドアンプで、ゲインは、2Ω用と22Ω用の2段切替スイッチ付。
 帯域バランスは誇張感がないナチュラルなタイプで、音色は柔らかく暖かく、音を滑らかに、細かく美しい雰囲気のなかに聴かせるタイプで、ハイフィデリティ志向型の多い国内のヘッドアンプとは異なったキャラクターをもつ。
 MC20は、適度に間接音を含んだ響きの美しい音で、しなやかでキレイな音だ。音の表情はナチュラルで少し真面目なタイプだ。
 XSD15にするとスケールが大きく穏やかで、余裕があり、安定感のある音になる。独特のシャープで鋭角的なパワー感はなくなるが、このおおらかなEMTの音もなかなか良い。

スペックス SDT-1000

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 SDX1000MC型カートリッジの性能を最大に発揮させる目的で開発された低インピーダンス専用トランスで、1対100の高い昇圧比と入出力が逆相の反転トランスが特徴である。
 聴怒上ではトランスとしてはワイドレンジ型でスケール感も充分あり、寒色系のソリッドで引締まった低域をベースにクッキリとコントラストをつける密度感のある中域、スッキリと伸びた高域が、シャープなレスポンスを示す。
 MC20は、タイトな低域とクッキリと粒立つ中高域が特徴で、ロッシーニの明るく華やかな色彩感や、峰純子の少し大きいがシャープな音像定位、クリアーに抜けるピアノ、ベースの豊かさはトランス独特の魅力的なキャラクターだ。個性派のユニークなトランス。