菅野沖彦
ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より
この四半世紀アメリカの高級アンプリファイヤーの部門を、マッキントッシュとともに二分する一方の最高級メーカーとして、マランツのブランドは不動の地位を確立してきた。ソウル・B・マランツによってニューヨークのロングアイランドに工場を設立されたマランツ社は、それ以来きわめて優れたテクノロジーとオリジナリティをもった最高級アンプリファイヤーづくりに徹し、#7や#9など数々の名器を生んだのである。それらの数々のアンプリファイヤーが、世界中のほとんどのアンプメーカーの行き方に与えた影響は、デザイン面あるいはサーキットの面において大なり小なりといえども計り知れないものがある。したがって、マランツの名前が、今日世界最高のブランドとして光輝いているのも当然のことだろう。
しかし、残念ながら現在のマランツは、スーパースコープ社の傘下に入り、ソウル・B・マランツが退いて同社の体質は変化し、普及機までもつくるようになったが、ただ単にブランド名だけが受け継がれたのではないことは、現在のトップランクのアンプリファイヤーを見れば理解できる。アメリカのメーカーの良いところは、ある会社を受け継ぐ、あるいは吸収するときに、そのメーカーが本質的に持っていた良さを生かす方向に進むということだ。マランツもそういう意味で、ソウル・マランツ時代のイメージが消えてはいない。特に、このP3600とP510Mという、同社の現在の最高級アンプリファイヤーは、やはり一流品としての素晴らしさを維持し、マランツの歴史に輝くオリジナリティと物理特性の良さを持っているのである。そして、デザインも明らかに昔からのマランツの血統を受け継いだものといえるし、クォリティも昔のマランツの名を恥ずかしめない実力を持つアンプリファイヤーである。パネル・フィニッシュなどには昔日のようなクラフツマンシップの成果を偲ぶことが出来ないのが残念だ。
コントロールアンプのP3600、パワーアンプのP510Mは、同社のコンシュマーユースの最高峰に位置するMODEL3600、MODEL510Mの特に優れた物理特性を示すモデルに〝プロフェッショナル〟の名を冠した機種である。フロントパネルは、厚さ8mmのアルミのムク材をシャンペンゴールドに仕上げ、プロフェッショナル・ユースとしての19型ラックマウントサイズになっている。この二つのセパレートアンプは、マランツのステータスシンボルだけに、最新のエレクトロニクス技術の粋を結集し、シンプルな回路と高級なパーツで、オーソドックスなアンプの基本を守り、音質も、マランツらしい力感と、厚みを感じさせる堂々たるもの。中高音の艶やかな輝やきは、まさにマランツ・サウンドと呼ぶにふさわしい魅力をもっている。パネル仕上などには昔日のような繊密さがないと書いたが、現時点で求め得る最高のフィニッシュであることを特筆しておこう。ソウル・マランツ時代の血統が脈々と生きていることは心強い限りである。
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