ソニー SCD-1

井上卓也

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「待望のSACDプレーヤー第1号機ソニーSCD1を聴く」より

 現行CDを超える情報量をもつ、いわゆるスーパーCDの登場は待望久しいものがあるが、現在、2つの方式が提唱されているスーパーCDのうち、ソニーとフィリップスがCDに続き、ふたたび共同開発を行なったスーパーオーディオCD(SACD)が、この5月に発売された。
 個人的には、SACDに対しては、82年のCD登場のときと同様に、ピュアオーディオ用の非常に情報量が多いプログラムソースが誕生したという単純な受け止め方をしており、当然のことながら、現行CDに替わるものではなく、CDと共存していく新しいプログラムソースであるはずである。
 80年代初めにCDが誕生したときと同じく、SACD、DVDオーディオを含めて、プログラムソースを作るソフト側にも再生するハード側にも何ら問題はない、との発言を公式の場で聞いたことがあるが、はたしてそのとおりであるのか、少なからず疑問があるようだ。
 原理的な高域再生限界をサンプリング周波数の半分とすれば、リニアPCM方式のDVDオーディオでは、96kHzサンプリングで48kHz、192kHzで96kHz、SACDでは約1・4MHzと想像に絶する値になるわけで、この際だって優れた超高域再生能力を、いかに、より素晴らしい音楽を聴くために活用できるかが重要である。
 そこで、注意しなくてはいけないのは、従来の可聴周波数限界といゎれた20kHzまでを再生するのと同様に、例えば、100kHzまでをフラットに再生しなければならない、と考えることである。
 確かに音楽を、より原音に近似して聴くためには、100kHzあたりまでのレスポンスを考える必要があるという論議は、古くモノーテルLP時代から真面目に行なわれていたことである。次世代のプログラムソースであるSACDとDVDオーディオはともに、フォーマット的には100kHzまでを収録できるだけの器として出来上がったわけで、これは、今世紀末の非常に大きなエポックメイキングなオーディオ史に残る快挙ではある。しかし、可聴周波数限界といわれる20kHz以上の再生は、単純に考えるよりもはかかに多くの問題を含んでいるようである。
 単純に考えても、40kHz付近の帯域では標準電波のデジタル放送が行なわれていることからわかるように、20kHzを大きく超える領域の信号は、例えばスピーカーケーブルから空間に輻射されることになる。また、同じ筐体の内側に2チャンネル再生ぶんの回路を収納すれば、超高域のチャンネルセバレーションに問題が生じることになり、現在のアンプの筐体構造では解決は至難と思われ、将来的にはモノーラル構成アンプのリモートコントロール操作の方向に進み、コスト高につながるであろう。
 とくにパワーアンプは、30kHz以上でも可聴帯域内と同様の定格出力を得ようとすると、出力素子の制約が大きいため、ハイパワー化(数10W以上)の実現は至難だろう。
 20kHzを超える高周波(スピーカーで再生すれば超音波)との付き合いは、オーディオ始まって以来の未体験ゾーンだけに、動植物、酵母菌などの微生物、人間自体への影響も含めて考慮すれば、ある種の帯域コントロールは必要不可欠ではなかろうか。
 幸いなことに、SACD/CDコンパチブルプレーヤーSCD1は、50kHz以上のレベルを抑え、100kHzで−26〜30dB下げるローパスフィルターの付いたスタンダード出力端子と、さらに高域から効くローパスフィルターを備えたカスタム出力端子の2系統を備えている。
 SACDでは超高域のコントロールはフォーマット上で規定されておらず、再生機側でケース・バイ・ケースで高域再生限界を決められるのは、適材適所的な、将来に多くの可能性を秘めた見事な解答と思われる。
 SCD1は、単純に一体型CDプレーヤーとしても、トップランクの実力を備えた見事な新製品である。電気的、機械的にSN比の高い静かな音は、CDに記録されていながら聴きとりにくかった空気感や気配を聴かせながら、従来のソニー製品とは一線を画し、音楽の表現が活き活きと楽しく表情豊かに聴かれるのが楽しい。同社CDP−R10やDAS−R10のような重厚.さはないが、一体型の枠を超えた注目の新製品である。
 SACDの再生では、反応が速く音場感情報が多い点では、ゾニーのフルシステムでの音が新時代のデジタルサウンドの魅力を聴かせる。本誌リファレンスシステムでは、基本的に音像型の音で安定感はあるが、セッティングによっては薄味の音になりやすい。SACDの再生はソースそのものの情報量が多いだけに、機器の設置方法は非常に重要になる。

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