菅野沖彦
ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より
世界初のDSD録音方式によるスーパーCD”SACD”を再生するプレーヤーである。開発者らしい力作で、高剛性メカニズムを採用した高級プレーヤーだ。アクセスタイムが少々遅すぎるのが気になるが、それもせっかちな人にとってであって、このくらいのほうがよいとも言える。CDもしっかりした質感で再生する。
菅野沖彦
ステレオサウンド 137号(2000年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング863選」より
世界初のDSD録音方式によるスーパーCD”SACD”を再生するプレーヤーである。開発者らしい力作で、高剛性メカニズムを採用した高級プレーヤーだ。アクセスタイムが少々遅すぎるのが気になるが、それもせっかちな人にとってであって、このくらいのほうがよいとも言える。CDもしっかりした質感で再生する。
菅野沖彦
ステレオサウンド 133号(1999年12月発行)
特集・「ジャンル別・価格帯別 ザ・ベストバイ コンポーネントランキング798選」より
SACDプレーヤーの1号機で、CDプレーヤーとしてもなかなかの力作である。アクセスタイムが長く、慣れないとイライラさせられるかもしれないが、集中して聴くには、これもいいと思う。いかにも新世代のプレーヤーらしい精緻さを感じさせる音だが、柔軟な質感や曖昧模糊とした雰囲気の魅力には欠ける。
井上卓也
ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「待望のSACDプレーヤー第1号機ソニーSCD1を聴く」より
現行CDを超える情報量をもつ、いわゆるスーパーCDの登場は待望久しいものがあるが、現在、2つの方式が提唱されているスーパーCDのうち、ソニーとフィリップスがCDに続き、ふたたび共同開発を行なったスーパーオーディオCD(SACD)が、この5月に発売された。
個人的には、SACDに対しては、82年のCD登場のときと同様に、ピュアオーディオ用の非常に情報量が多いプログラムソースが誕生したという単純な受け止め方をしており、当然のことながら、現行CDに替わるものではなく、CDと共存していく新しいプログラムソースであるはずである。
80年代初めにCDが誕生したときと同じく、SACD、DVDオーディオを含めて、プログラムソースを作るソフト側にも再生するハード側にも何ら問題はない、との発言を公式の場で聞いたことがあるが、はたしてそのとおりであるのか、少なからず疑問があるようだ。
原理的な高域再生限界をサンプリング周波数の半分とすれば、リニアPCM方式のDVDオーディオでは、96kHzサンプリングで48kHz、192kHzで96kHz、SACDでは約1・4MHzと想像に絶する値になるわけで、この際だって優れた超高域再生能力を、いかに、より素晴らしい音楽を聴くために活用できるかが重要である。
そこで、注意しなくてはいけないのは、従来の可聴周波数限界といゎれた20kHzまでを再生するのと同様に、例えば、100kHzまでをフラットに再生しなければならない、と考えることである。
確かに音楽を、より原音に近似して聴くためには、100kHzあたりまでのレスポンスを考える必要があるという論議は、古くモノーテルLP時代から真面目に行なわれていたことである。次世代のプログラムソースであるSACDとDVDオーディオはともに、フォーマット的には100kHzまでを収録できるだけの器として出来上がったわけで、これは、今世紀末の非常に大きなエポックメイキングなオーディオ史に残る快挙ではある。しかし、可聴周波数限界といわれる20kHz以上の再生は、単純に考えるよりもはかかに多くの問題を含んでいるようである。
単純に考えても、40kHz付近の帯域では標準電波のデジタル放送が行なわれていることからわかるように、20kHzを大きく超える領域の信号は、例えばスピーカーケーブルから空間に輻射されることになる。また、同じ筐体の内側に2チャンネル再生ぶんの回路を収納すれば、超高域のチャンネルセバレーションに問題が生じることになり、現在のアンプの筐体構造では解決は至難と思われ、将来的にはモノーラル構成アンプのリモートコントロール操作の方向に進み、コスト高につながるであろう。
とくにパワーアンプは、30kHz以上でも可聴帯域内と同様の定格出力を得ようとすると、出力素子の制約が大きいため、ハイパワー化(数10W以上)の実現は至難だろう。
20kHzを超える高周波(スピーカーで再生すれば超音波)との付き合いは、オーディオ始まって以来の未体験ゾーンだけに、動植物、酵母菌などの微生物、人間自体への影響も含めて考慮すれば、ある種の帯域コントロールは必要不可欠ではなかろうか。
幸いなことに、SACD/CDコンパチブルプレーヤーSCD1は、50kHz以上のレベルを抑え、100kHzで−26〜30dB下げるローパスフィルターの付いたスタンダード出力端子と、さらに高域から効くローパスフィルターを備えたカスタム出力端子の2系統を備えている。
SACDでは超高域のコントロールはフォーマット上で規定されておらず、再生機側でケース・バイ・ケースで高域再生限界を決められるのは、適材適所的な、将来に多くの可能性を秘めた見事な解答と思われる。
SCD1は、単純に一体型CDプレーヤーとしても、トップランクの実力を備えた見事な新製品である。電気的、機械的にSN比の高い静かな音は、CDに記録されていながら聴きとりにくかった空気感や気配を聴かせながら、従来のソニー製品とは一線を画し、音楽の表現が活き活きと楽しく表情豊かに聴かれるのが楽しい。同社CDP−R10やDAS−R10のような重厚.さはないが、一体型の枠を超えた注目の新製品である。
SACDの再生では、反応が速く音場感情報が多い点では、ゾニーのフルシステムでの音が新時代のデジタルサウンドの魅力を聴かせる。本誌リファレンスシステムでは、基本的に音像型の音で安定感はあるが、セッティングによっては薄味の音になりやすい。SACDの再生はソースそのものの情報量が多いだけに、機器の設置方法は非常に重要になる。
菅野沖彦
ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「待望のSACDプレーヤー第1号機ソニーSCD1を聴く」より
SACDがついに具体的に商品として、その姿を現わした。本誌の発行元であるステレオサウンド社では、オーディオファイルでもある原田社長が、ことのほか熱心に、早くからその誕生を切望されていた。従来のCDの足を引っ張るから、あまり騒がないで欲しいといった批判もあったと聞くが、それはあまりにも近視眼的な意見だと思う。私は、この技術革新の時代を全面的に肯定するものではないが、ここ15年間のデジタル技術の進歩は目覚ましい。現在のCDフォーマットはすでに16年以上も経過している。1982年当時のパソコンと現在のそれを比べてみれば、その差は天と地ほどもある。16ビット/44・1kHzというフォーマットは当時としては精一杯のものであったとしても、決して十全とは言えなかったもので、フォーマットで音の可能性の上限が決まるデジタルにあっては、そのままでよいはずはないだろう。デジタル技術の進歩により、プロ機器の上位フォーマット化やビットストリーム技術が生まれ、それに伴ってより高密度のマスター録音情報を16ビット/44・1kHzの器のなかに収録するマッピング技術なども、CDの音質を向上させてきたことはご存じの通りである。CDも当初からするとたいへん音がよくはなった。しかし、それはあくまでCDの限界のなかでのことで、基本的なブレークスルーを果たすための上位フォーマットの誕生は時間の問題であったと言うべきであろう。
このような技術的な背景を持つにいたった今日の時点で、CDフォーマットに加え、新たなスーパーCDフォーマットが生まれたのは、自然な流れと受け止めるべきだろう。それがこのSACDの登場であり、やがて発売されるDVDオーディオでもある。
私は、CDが誕生した1982年秋に、すでにその必要性を感じていたほどだし、1985年夏に上梓した拙著《オーディオ羅針盤》(音楽之友社刊)のP164『CDの完成度』の項のなかで「スーパーCD」の登場を希望的にほのめかしてもいる。
以上の経緯から、私自身がSACDをどう考えているかがお解りいただけるのではないだろうか。
しかし、これが即、音の良さや音楽の感動につながるという短絡的思考は危険である。これは、あくまで、メディアの持つ物理的な可能性が拡大したというだけの話であって、よい音、よい録音音楽には、素晴らしい演奏の存在と、高い質とセンスによる録音制作の持つウェイトのほうがはるかに大きいという、いつの時代にも当然の事実の認識こそが大切である。
今回、SACDプレーヤーの歴史的1号機であるSCD1を聴いたが、時期的に第1回新譜の一部による試聴という限られた条件では、本当の実力は解らないと思う。私の場合、たまたま、自身が制作した北村英治と塚原小太郎のデュオ・アルバム『ドリーム・ダンシング』を、DSD方式のハードディスク録音機からのCDと、ソニーとSMEがテスト・プレスしてくれたSACD(非売品)の2枚を比較できた。プリ・マスタリング工程は違うため、厳密なものではないが、その差をある程度の確度を持って聴けたのは幸いであった。
結論から言えば、その差は僅差とも大差とも言えるもので、ソニーの出井社長の言葉を借りれば、凡庸なワインと最高のそれとの微妙な味わいの差と言っていいだろう。解る人にはかけがいのない貴重な差であり、解らない人には違うような気がするという程度かもしれない。しかし、長年培った本誌と読者とのコンセンサスからすれば、これは明らかに大差と言っていい。
わが家ではマッキントッシュのXRT20と私流の4チャンネル・5ウェイシステム、本誌の試聴室ではSCD1と同時発売のソニーのフルシステムで聴いたのだが、いずれのシステムによっても差は歴然であった。しなやかな高音域の質感、透明な空間感、そして、低音の音触、音色感の明確な判別はまさに旬の味わいだ。また、このSCD1のノーマルCDプレーヤーとしての出来栄えも素晴らしいものだと思う。強いて欠点と言えば、アクセスが遅いことで、CDとSACDを切り替えた時には30秒以上もかかる。しかし、実際にわが家で1週間ほど使った現在では、これも必ずしも欠点とは言えないような気がしてきた。つまり、試聴などの場合はともかく、音楽を真摯に聴こうとする者にとっては、この音の出るまでの時間が心の準備につながり、集中につながるからである。あまりにも日常的にイージーになっていたCDプレーヤーが、いつの間にかわれわれから奪っていたサムシングを取り戻してくれることを実感したものである。50万円のCDプレーヤーとして、SACD機能をおまけと考えても、これは高く評価できるプレーヤーであった。
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