ソニー SCD-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 131号(1999年6月発行)
「待望のSACDプレーヤー第1号機ソニーSCD1を聴く」より

 SACDがついに具体的に商品として、その姿を現わした。本誌の発行元であるステレオサウンド社では、オーディオファイルでもある原田社長が、ことのほか熱心に、早くからその誕生を切望されていた。従来のCDの足を引っ張るから、あまり騒がないで欲しいといった批判もあったと聞くが、それはあまりにも近視眼的な意見だと思う。私は、この技術革新の時代を全面的に肯定するものではないが、ここ15年間のデジタル技術の進歩は目覚ましい。現在のCDフォーマットはすでに16年以上も経過している。1982年当時のパソコンと現在のそれを比べてみれば、その差は天と地ほどもある。16ビット/44・1kHzというフォーマットは当時としては精一杯のものであったとしても、決して十全とは言えなかったもので、フォーマットで音の可能性の上限が決まるデジタルにあっては、そのままでよいはずはないだろう。デジタル技術の進歩により、プロ機器の上位フォーマット化やビットストリーム技術が生まれ、それに伴ってより高密度のマスター録音情報を16ビット/44・1kHzの器のなかに収録するマッピング技術なども、CDの音質を向上させてきたことはご存じの通りである。CDも当初からするとたいへん音がよくはなった。しかし、それはあくまでCDの限界のなかでのことで、基本的なブレークスルーを果たすための上位フォーマットの誕生は時間の問題であったと言うべきであろう。
 このような技術的な背景を持つにいたった今日の時点で、CDフォーマットに加え、新たなスーパーCDフォーマットが生まれたのは、自然な流れと受け止めるべきだろう。それがこのSACDの登場であり、やがて発売されるDVDオーディオでもある。
 私は、CDが誕生した1982年秋に、すでにその必要性を感じていたほどだし、1985年夏に上梓した拙著《オーディオ羅針盤》(音楽之友社刊)のP164『CDの完成度』の項のなかで「スーパーCD」の登場を希望的にほのめかしてもいる。
 以上の経緯から、私自身がSACDをどう考えているかがお解りいただけるのではないだろうか。
 しかし、これが即、音の良さや音楽の感動につながるという短絡的思考は危険である。これは、あくまで、メディアの持つ物理的な可能性が拡大したというだけの話であって、よい音、よい録音音楽には、素晴らしい演奏の存在と、高い質とセンスによる録音制作の持つウェイトのほうがはるかに大きいという、いつの時代にも当然の事実の認識こそが大切である。
 今回、SACDプレーヤーの歴史的1号機であるSCD1を聴いたが、時期的に第1回新譜の一部による試聴という限られた条件では、本当の実力は解らないと思う。私の場合、たまたま、自身が制作した北村英治と塚原小太郎のデュオ・アルバム『ドリーム・ダンシング』を、DSD方式のハードディスク録音機からのCDと、ソニーとSMEがテスト・プレスしてくれたSACD(非売品)の2枚を比較できた。プリ・マスタリング工程は違うため、厳密なものではないが、その差をある程度の確度を持って聴けたのは幸いであった。
 結論から言えば、その差は僅差とも大差とも言えるもので、ソニーの出井社長の言葉を借りれば、凡庸なワインと最高のそれとの微妙な味わいの差と言っていいだろう。解る人にはかけがいのない貴重な差であり、解らない人には違うような気がするという程度かもしれない。しかし、長年培った本誌と読者とのコンセンサスからすれば、これは明らかに大差と言っていい。
 わが家ではマッキントッシュのXRT20と私流の4チャンネル・5ウェイシステム、本誌の試聴室ではSCD1と同時発売のソニーのフルシステムで聴いたのだが、いずれのシステムによっても差は歴然であった。しなやかな高音域の質感、透明な空間感、そして、低音の音触、音色感の明確な判別はまさに旬の味わいだ。また、このSCD1のノーマルCDプレーヤーとしての出来栄えも素晴らしいものだと思う。強いて欠点と言えば、アクセスが遅いことで、CDとSACDを切り替えた時には30秒以上もかかる。しかし、実際にわが家で1週間ほど使った現在では、これも必ずしも欠点とは言えないような気がしてきた。つまり、試聴などの場合はともかく、音楽を真摯に聴こうとする者にとっては、この音の出るまでの時間が心の準備につながり、集中につながるからである。あまりにも日常的にイージーになっていたCDプレーヤーが、いつの間にかわれわれから奪っていたサムシングを取り戻してくれることを実感したものである。50万円のCDプレーヤーとして、SACD機能をおまけと考えても、これは高く評価できるプレーヤーであった。

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