菅野沖彦
ステレオサウンド 54号(1980年3月発行)
特集・「いまいちばんいいスピーカーを選ぶ・最新の45機種テスト」より
全体の傾向として、鮮烈な音楽・演奏には物足りないが、ソフトな音楽性に持味の生きるスピーカー。ピアノの粒は丸く聴きよいが、ややもったりとして切れ味の鋭さに欠けるといった具合である。その反面、弦楽器はしなやかでよく聴かれる耳ざわりな刺激音が出ない。むしろ、なかなか魅力のある、しっとりした美しさが楽しめた。シルヴィア・シャシュのソプラノはやこもり気味で、リアリティが不足したようだ。ソプラノらしい倍音の再生が十分ではないのか、聴きようになってはメツォのようなクードになる。ジャズではリズムが鈍く、シンバルや張りのあるスネアのスキンに冴えと切れ味の不足が感じられた。ブラスも倍音の冴え、透明感が不十分であった。甘美でソフトな持味を生かす音楽、あるいはそうした音色を嗜好する人々にとっては好ましいスピーカーといえるだろう。つまり、全体のバランスや音色の点でも、滑らかさではかなり優れた水準にあると思えるからだ。生き生きした元気のよさが望まれる。
総合採点:7
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