オーディオテクニカ ATH-5

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ATH3が中低域に厚みを持たせて高域をおさえた、いわば丸みのある豊かでソフトな音に仕上げていたのに対して、ATH5は、より高価であることを意識してか、高域のレインジをぐっと広げた作り方をして、聴きようによっては、同じメーカーの同じシリーズとは思えにくいほど違う音に仕上げてある。たとえば管弦楽の斉奏などでATH3が音をひとつの固まりのように、言いかえればややモノフォニック的に聴かせたのに対して、ATH5はディテールがよく浮き出して音を空間にひろげて聴かせる。が反面、ヴォーカルなどではATH3よりも肌ざわりが冷たいし、それよりも聴き馴れた歌手の声が少し変って聴こえることから、中〜高域にやや固有の音色のつきまとうことが感じとれる。ATH3は能率がかなり良かったが、こちらはその点では水準なみというところ。デザインやかけ心地についてはATH3のところで書いたことと

コス ESP/10B

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 小型とはいいながらVUメーターの二個並んだ、凝ったアダプターが付属していて、価格も破格といえる。かけ心地の面でも、国産のコンデンサータイプが概して重さを抑えて、耳への当りを柔らかく軽快に作っているのに対して、ずしりと重さを感じさせ、耳への当りもやや強目にできている。アダプターにはパワーの入れすぎに対する保護回路が入っているとの説明だったが、この回路が、意外なことにあまり音量を上げないうちに作動してしまう。クラシックのオーケストラでも、もう少し音量がほしいというあたりで音が出なくなってしまうほどだから、ましてポップスでは、気持のいい、といえるほどの音量まではとても上がらない。国産のコンデンサータイプの方が格段に大音量が得られる。KOSSのダイナミックタイプのあの充実した密度の高い、そして最高にパワーに強い作り方を楽しんだあとだけに、どうにもふに落ちない気持だった。

ヤマハ HP-1

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 基本的にはHP2の音の延長線上にあることが容易に聴きとれて、強調感のない穏やかで品位の高い、しっとりした再生音がどんなプログラムソースにも一貫して好感を与える。HP2よりも音のスケール感がひとまわり向上し、音の密度も増し、音像がいっそう明確に姿をあらわしてくる。ただ、たとえばテストソースの中のベーゼンドルファーやスタインウェイの音色でさえ、どこかヤマハピアノの音色に近寄ってしまうように聴こえるというのは、ひと言でいえば音の艶を少しおさえすぎているためではないかと思う。そのことと関連して、ステレオで鳴った音が広い空間にひろがり、漂い、余韻をひいて消えてゆくあのデリカシーがいまひとつ物足りない。ユニットの径がHP2より大きいため、パッドもひとまわり大きく、ユニットの重量も増しているが、ヤマハ三機種の中ではこれが最もかけ心地が優れていると感じた。

フォンテック・リサーチ minifon A-4/MK4

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 国産の中では破格に高価な製品だ。正直のところ私には、この高価格がどういう理由からなのかよくわからないのだが、ともかく大づかみにはA4の延長線上での音の作り方で、そのことからいっそう、このメーカーの音に対する姿勢が明確に聴きとれる。A4のところでも書いたことと一部重複した言い方になるが、ヘッドフォンに限らずオーディオ機器全般の、こんにちの広帯域化の傾向にあえて背を向ける、という言い方が不適当なら、抵抗している、といんうのがフォンテックのポリシーのように思える。ともかく高域がおさえぎみにコントロールされていて、高域の伸びた再生装置でときとして聴かれる高音楽器のハイキーな、あるいは金属的な鳴り方をおそらく嫌っているのだろうと思う。ダイナミックタイプでこれをやったら、解像力の悪い鈍い音にしかならないが、コンデンサータイプの反応の良さを知って作っているのだろう。

パイオニア Monitor 10

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 最近では数少ない密閉型と「モニター」という命名から、おそらくナマ録の際のモニター用を意図して作られたものだと思う。一般の鑑賞用としてはオープンエアタイプの方が快適だが、ナマ録では逆に外部の音に対する遮音性の良さと、かなりの大音量に耐える作り方が必要だ。ことにハイパワーでのモニターの際は、中〜高域での強調感や音の圧迫感をなるべく避けなくては、長時間のモニターで疲労が劇しくなる。その意味からは、音量を思い切り上げて聴いたとき、2〜3kHzを中心にして耳の感度の最も良い中〜高域で、もう少し抑えの効いた音の方がさらに好ましいと感じたが、しかし大づかみにはなかなかうまいバランスに仕上げてあると思った。重量が530gと平均よりかなり重いのも、耳あての調整機構がやや凝りすぎといいたいほど大仰なのも、遮音(密閉度)の良さを最良に保つための配慮なのだろう。やや特殊な目的のためのヘッドフォンといえる。

オーディオテクニカ ATH-8

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ATH7とくらべると、こちらの方が意図的な強調感がなくなって、総体にフラットな感じにコントロールされている。が、それを他のメーカーのコンデンサータイプの中に混ぜて聴いてみると、一種明るく軽い華やぎが感じとれて、これがオーディオテクニカのポリシーあるいは個性であることがわかる。しかし、ATH7の音が、ことにクラシック系のプログラムソースの場合にときとして少々華やかすぎる傾向のあるのにくらべると、ATH8は、その明るさは弱点とはならずむしろ良い意味での個性として聴き手を楽しませる。ソニーが一種湿ったような暗色の音でどこか客観的に音楽を分析させるとすれば、テクニカの音は逆に音楽を積極的に聴き手に伝える。ただそこに、もう少し柔らかく自然な表情が出てくれば、この音はさらに高い完成度に仕上るだろうと思った。LEDによるアダプターのパワー表示はおもしろいアイデアだと思った。

スタックス SR-X/MK3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 とうぜんのことながら、SR44と聴きくらべると、これは全く同じ個性、同じ音色での延長線上にある。その上で、音のバランスやキメのこまかさやレインジの広さ、そして、大音量での音のくずれのなさ、などすべての面で、確実にグレイドアップされている。SR44のところで書いたと同じように、まさに日本人独特の繊細な神経で練り上げた、慎重で、、ていねいで、行儀のよい音がする。そうした良さを認めた上であえていえば、テストソースに使ったDGGのベルリン・フィルハーモニーの、あるいは菅野録音とベーゼンドルファーの、要するにドイツのオーケストラや楽器の持っている音の構築のしっかりした、そして独特の脂の乗ったような照りというか艶というか、そうした音色は、このスタックスにかぎらず国産のヘッドフォンでは私の納得できるような音色ではついに聴くことができなかった。これが結局日本の音というのだろうか。

フォンテック・リサーチ minifon A-4

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 コンデンサータイプのヘッドフォンの中では、かなりユニークで、独特の主張を持った音色だと思った。とくに中高音域から上の最高音域を、なだらかにおさえてあって、この点に限って言っても、たとえばスタックスやソニーがバランスを重んじて高域をフラットな感じにコントロールし、オーディオテクニカは中〜高域にかけて一種の華やかさを持たせ、さらにナポレックスになるとハイエンドをやや強調さえしている、というように、ほかのメーカーが概して、コンデンサーならではの高域のレインジの広さを意識して作っているのに対して、フォンテックは、カタログ上でも高域のレインジをあまり広く表示していないことからもわかるように、むしろ高域をソフトにおさえる作り方を明確なポリシーとしていると聴きとれる。その結果、ステレオの音場も、広げるよりもむしろ中央に凝縮させるような求心的な聴こえかたになる。渋い音、というのだろうか。

オーレックス HR-710

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 アダプター不要のエレクレット型としては最も安価な製品だが、たとえば周波数レインジの広いこと、とくに高域が繊細に素直によく伸びている点で、同価格のダイナミック型では聴けない味を持っているところは、やはりコンデンサータイプだけのことはある。あまりボリュウムを上げずに聴くかぎり、やや音が遠くできこえる傾向はあるもののおとなしく耳当りのやわらかで疲れない音がする。ヘッドフォン端子からよりもスピーカー端子から直接とる方が、おとかじっかりとクリアーになる。能率はかなり低く、ボリュウムを相当に上げる必要があるが、音量を上げてゆくと、中高域にかなりおしつけがましい圧迫感が出てくるので、絞って聴く方がよさそうだ。かけ心地の面では、見た目のデザインを含めてなかなかよく考えられている。ただし、ダイナミック型の同クラスのオーディオテクニカやヤマハやエレガにくらべて格別に優れているということはない。

ヤマハ HP-1000

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 HP1000という命名から想像すると、おそらくスピーカーのNS1000に相当するようなヘッドフォンを意図して開発されたものだろうと思う。手にとった感じはズシリと重量感があり、HP1の軽快なイメージとはかなり異なる。密閉型ではパイオニアやKOSSなど500g級があるが、オープンエアタイプで500gというのはこれ一機種だ。耳にかけて首を振るとヘッドフォンの重さで頭が振られてしまう。基本的にはHP1と同じ原理のフラットダイナミックだが、その音質はさすがにぐんと密度が増した印象で、たとえが適当がどうかわからないが、同じヤマハのスピーカーで、NS690と1000エムを比べたようなクォリティの違いが聴きとれる。音のひとつひとつがしっかりと形造られ安定している。パワーにも全く強い。海外製品に聴きとれる一種の音の艶や色合いを避けた、いかにも日本の製品の鳴らす音だ。

コス Dynamic/10

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 KOSSの製品としては最も新しいそうだが、完全密閉型という構造から推して、前出のPRO/4AAのところでも書いたようにあくまでも一般鑑賞用としてよりも、プロ用のモニターとしての用途が主であると私は解釈したい。少なくともヘッドフォンをかなりの頻度で使う私自身、自宅での音楽の鑑賞には、密閉型は疲労が大きすぎて好ましく思えない。ただイヤカップにKOSSのサインが入っているというようにこれは自信作とのことで、たしかに、音の緻密でバランスのよいこと、また、比較的小さめの音量から圧倒的なハイパワーに至るまで、音の滑らかさを損なわずに一貫したトーンバランスを保って少しの危なげもなく鳴る点、さきのPRO/4AAよりも一段と品位の高い音質であることは容易に聴きわけられた。その意味では、単にプロの現場に限らず、外部騒音の大きな場所での鑑賞、あるいは逆に深夜周囲に迷惑をかけないためにも有用な製品といえる。

ヤマハ HP-2

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 HP1と共通の、イタリアの鬼才マリオ・ベリーニのデザインだが、ユニットの大きさが違うせいで、パッド部分の直径がHP1より小さく、総体に重量も軽くなっている。実に微妙なもので、これだけの差でHP1とかなりかけ心地が違う。どちらかといえばHP1の重さとバンドの圧力の方が耳にしっくりくる(或いはHP2の方がイヤパッドが小さいために、バンド圧を強くすると耳たぶを圧迫しすぎるようになることを避けたのかもしれない)。いずれにしてもこういうキメの細かい作り方が音質にもあらわれていて、この価格帯の中では目立ってバランスが良く、音の品位の高いことが好ましい。全帯域にわたって強調感が少なくおとなしい音なので、長く聴いて疲労感が少ない。ただ、欲をいえば音の艶をいくらかおさえすぎていて、トーンコントロールなどの高域の倍音領域にはほんの少し味つけをして聴いた方が楽しめるように思った。

ビクター HP-660

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 中〜高域に一種の華やぎの感じられる音色だが、バランス的には、どのプログラムソースに対してもどこかおかしいというようなことはもなく、周波数レインジも十分とはいえないまでも高・低領域によく伸びている。耐入力は十分あって、かなり音量を上げても音がくずれるようなことがなかった。ただ、この価格ということを頭に置かなくてはいけないのだろうが、どこか品位を欠く音色で、楽器のもっている音色の格調の高さが出にくいのは致し方のないところだろうか。ステレオのひろがりと定位はふつうだが、どちらかといえば「耳もとで鳴っている」感じが強く、音が耳もとを離れて空間に漂うようには鳴ってくれない。もうひとつ、イヤパッドの形が耳たぶをややおさえすぎる感じがあって長時間かけ続けていると疲労感の増す傾向のあることも、音を耳もとに意識させる一因かもしれない。デザイン的には、ヘッドバンドを含めて総体に大げさでない作り方は好ましい。

パイオニア SE-300

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 7〜800Hzから1kHz近辺──つまりピアノの中央Cの約2オクターブ上あたりの周辺──にエネルギーが集中して、低域も高域もあまり伸ばしていない、いわゆるカマボコ型のナロウレインジのバランスらしく、ことにピアノの打鍵音で、頭の芯をコンコンと叩かれるような圧迫感があって、音量を上げるとやかましい傾向がある。この音だけをしばらく聴いていると多少聴き馴れて、それほど変には思わなくなるが、しかしやや力で押しまくる感じの鳴り方はあまり快適とはいいがたい。トーンコントロールで高・低領域をかなり補強してやるとバランスは一応よくなるが、高域があまり伸びていないせいか、音の繊細な感じが出にくく、どちらかといえば音像が頭の中に集まる傾向のきこえ方で、ステレオの音場の広がりや奥行きもあまりよく出ない。ヘッドバンドやパッドのデザインは良好で、耳によくフィットし、かけ心地は悪くない。

ESS MK-1S

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 スピーカーではすでにトゥイーターとして実用化されているハイルドライバーの応用という特殊型だ。中音域は広い音域にわたって全体に自然だが、高音域のごく上の方(おそらく10数kHz)にややピーク製の強調感があって、ヴォーカルの子音がややササクレ立つなど、固有の色が感じられる。が、そのことよりも、弦のトゥッティなどでことに、高音域で音の粒が不揃いになるように、あるいは滑らかであるべき高音域にどこかザラついた粒子の混じるように感じられ、ヨーロッパ系のヘッドフォンのあの爽やかな透明感でなく、むしろコスHV1Aに近い印象だ。低音がバランス上やや不足なので、トーンコントロール等で多少増強した方が自然に聴こえる。オープンタイプらしからぬ腰の強い音。かけ心地もかなり圧迫感があって、長時間の連続聴取では疲労が増す。直列抵抗を入れた専用アダプターがあるが、スピーカー端子に直接つないだ方が音が良いと感じた。

ゼンハイザー HD-224X

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 今回テストに加わったゼンハイザーは全部で4機種だが、この224Xだけは完全密閉型という点で、他の3機種とは使用目的が違うと思う。その理由はパイオニアのモニター10やKOSSのPROその他のところで書いたとおりだが、ゼンハイザーがオープンタイプとは別に密閉型を用意しているのもそのためだと思う。ところでこの音質は、たしかにオープンのシリーズとは違うとは言うものの、KOSSなどとくらべるとこれは明らかにアメリカ対ヨーロッパの音のちがいが感じられて、KOSSの音には中低域の充実した力があるのに対して、ゼンハイザーには中〜高域に独特の艶としなやかさがあり、ことにステレオの音場のひろがりを、アメリカ系のヘッドフォンよりも爽やかに展開する。ただ、聴取時にトーンコントロール等で低音をわずかに補う方がバランスが良くなると感じた。

スタントン Model XXI

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ヘッドバンドの部分にブルージーンズふうの布が巻いてあり、耳あてのパッドやコードや多ネクターも、とてもしゃれたブルーでまとめられて、カジュアルな雰囲気を強調したとても素敵なデザインだ。明るいブルーと、ハウジング部分のアルミニウムのコントラストも美しく、ちょっと類のない楽しい製品といえる。この軽快な見かけからも、おそらくごく気軽な聴き方を想定していると思われ、中低音域にふくらみを持たせて高音域をあまり強調せずに、聴きやすいソフトな音にまとめてある。ただ、高域の耳当りのやわらかな割に芯はしっかりして、レインジも狭くないので、トーンコントロールで高域を多少補整して聴くと、適度に繊細でキメのこまかい感じも出てくる。低音は、コスの製品のような一種の重量感あるいは充実感には欠けてやや軽い点がどこかアメリカの製品らしからぬ鳴り方に思えるが、むしろ見た目の印象に似て好ましい。

AKG K240

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 K140も低音が豊かな点が特徴のひとつだったが、K240の場合には、振動系にスピーカーでいえばドロンコーンの一種のような構造が採用されているとかで、そういう意図から読みとるまでもなく低音の量感がずば抜けている。もっとも、国産の一部に聴かれる貧血性のように低音の欠如したバランスに鳴らされてしまうと、しばらくのあいだはK240の低音がばかにオーバーのようにさえ思えることがあるが、しかしこれ一機種をしばらくのあいだ聴き込んでみれば、この低音は豊かでこそあれ決して音楽のバランスをこわすようなオーバーな鳴り方でないことが理解できる。こういう低域に埋もれなくするためか高域にもいくぶん強調が聴きとれ、それが独特の輝きのある音色として特徴づけられるがさすがにAKG,この音楽の鳴り方はほんものの響きだ。イヤパッドの径が大きく、耳ぜんたいをすっぽりくるむように当りが柔らかく、かけ心地も良い。

ゼンハイザー HD-424X

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ゼンハイザーの4機種をみて驚くことは、ローコストから高級機まで細部のデザインは異なるのに、ヘッドバンドは全く共通のあっけないほどシンプルなプラスチックでありながら、どの機種も耳にかけたときの圧迫感のない気持の良いかけ心地で、こんなに簡単な構造でこれほどみごとにフィットするのに、なぜほかのヘッドフォンがあんなに仰々しい凝ったしかけをしているのかと思いたくなる。422Xは高価であることを意識してか、頭の当たる部分にパッドを巻いたりユニット背面にピカピカのネームプレートをつけたりしているが、むしろそれさえ装飾過剰に思われる。しかし音質はさすがに、オープンタイプ三機種の中で最も繊細で自然だ。中〜高域に固有の艶があるがそれも音色を生かす助けになり、広い帯域とあいまってステレオのひろがりも実に爽やかだ。低域に豊かな弾みのあるところも、聴き手の心をなごませて、音楽を聴く楽しさに没頭できる。

コス PRO/4AA

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 前出のパイオニアのモニター10と同じように、完全密閉型という構造とPRO……という命名からみても、最近ではすっかり定着した鑑賞用のオープンエアタイプとは全く違う目的、つまり録音スタジオ等で、目的の音以外が耳に入ってくることを防ぎたいというモニター的な用途に作られていると解釈すべきだと私は思っている。その意味で、このPRO/4AAはさすがに長いあいだ作られているだけあって、イヤパッドの耳への密着のよさや、重量に対するヘッドバンドの圧力の強さのバランスもよく、遮音効果は相当に大きい。また音質は、いわばスタジオモニタースヒーカーの音をヘッドフォンで再現したというおもむきで、思わず冷汗の出るような音量でも少しもくずれをみせず、力強く充実感のある腰の強い、しかもヘッドフォンならではのディテールの鮮明な音を聴かせる。他社製品から聴くことのできないエネルギー感は、新しいポップス系の音楽に最適だ。

ピカリング OA-3

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 コスHV/1Aのところで書いたことのくりかえしになるが、アメリカ東海岸側で作られるスピーカーは、一般的にいってハイエンド(高音の倍音領域)での強調感を嫌って、むしろハイエンドを丸め込んだバランスに作る傾向が強い。HV/1Aはむしろ例外的といえるが、このピカリングOA3は右の意味でまさしく東海岸的といえるハイエンドをおさえこんだナロウレインジ型だ。したがって、たとえばオーケストラの弦合奏部分で、チェロのオーバートーンが一瞬浮き上るというような(ベイヤーのところで書いたような)繊細な味わいは聴かせてくれないが、反面、思い切ってパワーを放り込んで鳴らしても、高音に金属的な線の細さがなく、全く危なげのないソフトなしかし腰の強い音を聴かせる点が特徴だ。しかしイヤパッドのビニールレザーの質感とヘッドバンドの圧力の強さは、いかにも耳たぶを圧迫する感じで、少なくとも私の耳にはきつすぎる。

コス HV/1A

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 高音域のそれもかなり高い周波数のあたりと思うが、やや強調された独特の音色があって、そのために一聴して非常にキメの細かい印象の音を鳴らす。これがアメリカの、しかも東海岸の──ということはスピーカーでいえばKLHやARを例にあげるまでもなく概してハイエンドの強調を嫌う傾向のあると理解していたあの東海岸の──音とはちょっと信じがたいほどだ。しかもこのHV/1Aは別にごく新しい製品ではなく、数年前からこの音で作り続けられている。現に私もこの同じシリーズのHV/1LCをもう2年前から常用ヘッドフォンのひとつにしている。話が前後したがHV/1Aの特徴はハイエンドにあるのではなく、それを支える全域に亙ってよくコントロールされた緻密で解像力の高い音色にある。かなりのハイパワーにもその特色はくずれをみせない。ヘッドバンドの圧力はやや強い方なので長時間に亙るとやや耳たぶに疲労の残るのが使用上の弱点。

トリオ KH-92

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 構造的には国産のフラットダイナミック型という点で、また価格的にも前出のヤマハHP1、ビクターHP−D50、フォステクスT50などが比較の対象になりそうだ。フォステクスのところでもそのことを書いたが、こうして4機種をくらべると、ヤマハが最も中庸で、ビクターは高低両端をやや強調し、フォステクスは中高域強調型であるのに対して、トリオはそうした音のバランス面でいうとビクターとフォステクスの折衷型、つまり高低両端も十分に伸ばしながら中〜高域にも張りを持たせたくっきり型の音といえる。したがって、音像が適度に艶を持って、くっきりと張り出しながらステレオの空間的なひろがりもほどよく再現し、聴いていてかなり楽しめる。これも本体が重い方である割には、パッドの面積の大きいためか、実際ほど重さを感じさせず、かけ心地はまあまあだが、ヘッドバンドとユニットの結合部分がゆるすぎて、簡単にずり落ちてくるのはいただけない。

ゼンハイザー HD-414X

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 ゼンハイザーのヘッドフォンの中では、いちばん早くから知られていた美しい製品だが、今回同じメーカーの4機種の中で聴きくらべるとこれが最も能率が高い。またそのこととおそらく関連があると思うがこの414Xが最も中域が張り出して音像がくっきりとややコントラストの強い鳴り方をする。ただ、それは国産の多くにありがちだったようなクラシックのオーケストラの斉奏(トゥッティ)でのバランスをくずすような張り出し方とは明らかに違って、単にゼンハイザーの中でのわずかの個性の差という範囲にとどまる。たとえばHD400と瞬時に聴き比べると、400の方がおとなしく自然にきこえるが、411を単独に聴き込んでゆくにつれて、ことに豚量をやや絞って鳴らしたときでも緻密さを失わず繊細かつ艶やかな独特の音色は、いつまでも頭から外したくなくなるほどの魅力を持っている。このシンプルな構造で耳にピタリとフィットするのも心にくい。

フォステクス T-50

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 これもいわゆるフラットダイナミック型で、国産では価格的にたとえば前出のビクターHP−D50あたりが比較の対象になりそうだ。音質の面では、まず大づかみなバランスにはさして弱点はなく、全域に亙って広い帯域がよくコントロールされている。しかし前述のビクター,あるいはヤマハHP1あたりとくらべると、フォステクスが最も中域に密度のあることがわかる。ヤマハが聴感上わりあいフラットに聴こえるのに対して、ビクターは高・低両端がいくぶん強調されたように聴こえ、フォステクスがその反対になる、というような個性のちがいが聴きとれる。このように高・低両端をややおさえ込んだ音は、概してステレオの空間的なひろがりや音の漂う感じが薄れる傾向にあるが、反面、ヴォーカルなどで一種の近接感が出てくるので、この辺が好みの分れ目になる。本体の重量はかなり重い方だが、パッドや圧力の配分がうまいためか、実際の重さほどは負担を感じさせない。