Daily Archives: 1990年12月15日

アポジー Centaurus

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 アポジーは、スピーカーシステムの低域から高域まで、アルミリボンという一つの素材を用いることによっていわゆるフルレンジリボンという言葉を定着させた。
 もちろん、これはたとえばコーン型ユニットでいうところのフルレンジ(一個のユニットで全帯域を受けもち、ネットワーク素子を必要としないもの)とは異なる。僕自身も使用しているカリパーシグネチュアーもフルレンジリボン型だけれど、2ウェイ構成であり、ネットワークをもっている。
 つまり、アポジーのいうフルレンジというのは、低域にもリボンを使ってるという、その画期的な事実を強調するための、いわば意味の異なるフルレンジなのだ。しかも、その低域は箱型のエンクロージュアをもたないため、設計が悪いと出がちな『箱』独特のクセから解放されたよさが聴ける。そういう事実があったからこそ、新しい時代のスピーカーと言われることになったと僕は思う。
 たとえば、リボンによるラインソース(細長い音源)は、高域の繊細感と浸透力を両立させて、平面振動板による低域はふわりとひろがる奥行き感を巧みに演出していた。おそらく、こういう絶妙なバランスは、他ではめったに聴くことができないアポジー独自の個性だと言いきることもできるはずだ。
 そのアポジーから、なんとコンベンショナルの箱型のエンクロージュアと、ダイナミック型ユニット組み合わせたハイブリッドシステム、ケンタゥルスが登場したのだ。僕は度肝を抜かれた。本当に、そう言ってもけして大袈裟じゃないほどびっくりしたのだ。
 ここではアポジー・ステージ1で採用された約60cmの長さを持つリボン型ユニットに、ポリプロピレンのダイアフラムを持つ20cmウーファーが組み合わされている。アポジーは、どちらかといえば静的な描写によるコントラストを基調とした端正な表現を得意とするスピーカーであり、低域にコーン型特有の表現法を取り込んだ場合のバランスの崩れに対する懸念がまっ先にたったのが正直なところ。
 しかし、一聴すると使いこなしが難しそうだという第一印象をいだくものの、一般家庭での平均的な音圧レベルでは、とてもバランスがいいと感じる。さりげなくピンポイントで定位する音像や、音程の変化で楽器の位置や大きさが変化しない良さはなかなかのものだ。
 ハイブリッド化の恩恵で、インピーダンスは4Ω、したがってプリメインアンプでもドライブ可能だ。すっきりとしたデザインに合わせて、たとえばオーラデザインのVA40あたりで鮮度の高い、繊細に澄んだ響きを楽しんでみるのもいいだろう。ただし、ボリュウムを上げ過ぎると、バッフル/エンクロージュアの音が出始めるので要注意だ。

ルボックス H5, H2, H1

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「SS・HOT・NEWS」より

 業務用テープレコーダーで不動の地位を確立したスイスのスチューダー社、そのコンシュマーブランドにあたる『ルボックス』から久々に新シリーズが登場した。
 今回発表されたHシリーズは、従来のシリーズとデザインコンセプトまでを含め、いろいろな点で異なったアプローチが試みられている。
 HはHumanの頭文字であり、リモートコントロールを中心にした〝シンプルな操作系〟をテーマにし、マルチルーム(最大8部屋)コントロールにも対応している。
写真からも明らかなように、旧来の、ややプロ用機器的なある種の機能美をもったクリーンなスタイルから、コスメティックな様子を盛り込んだ、化粧っ気の多い顔になった。目に飛び込んでくるルボックスの大きなエンブレムには、ザ・フィロソフィー・オブ・エレガンスと刻印されている。
 中でも、プリメインアンプH5のフロントパネルは、煩雑なデザインが多いわが国の製品と比べれば、おそろしくシンプルではある。
 シンクロケーブルでCDプレーヤー、カセットデッキなどをプリメインアンプにつないでおけば、一つのリモコンで集中操作も可能だ。同シリーズに共通したデザインコンセプトに基づき、CDプレーヤー、プリメインアンプ、カセットデッキ、それに付属のリモコンとは別に、オプション設定された液晶ディスプレイを持つリモートコントローラーH210も近日発売される。
 今回聴いた製品はプロトタイプなので、音について断定的なことは言えないが、少なくとも相当な飛躍をなし遂げていることだけは確かなようだ。
 特にCDプレーヤーに関してそのことが言える。1ビットDACを採用したH2がそれで、ディテールのニュアンスが豊かで、有機的につながった穏やかで上品な響きには見た目の印象を越えた美しさがある。
 プリメインアンプは従来の製品のような、ややクールで澄んだ冬の青空を思わせるような響きから、春の日溜まりのような温かみをもたせた音作りに変った、と僕は感じた。カセットデッキはソースに忠実な真面目なレコーディングをしてくれ、一部の国産機器のように下手な味付けはない。音の骨格を崩さない、安定した録音再生可能だが、レベルの設定にはかなり敏感なようである。
 なお、同シリーズには、ブラック、チタン、シャンペンゴールドの3つのカラーバリエーションがあり、より広いニーズに対応している。

ダリ・ダカーポ Planer One

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 デンマークのオーディオノート・ダンマーク社は1975年に設立され、現在では北欧諸国中、最大のスピーカーメーカーである。
 ダリ・ダカーポは同社のハイエンド・ブランドである。今回発表されたプレーナーワンは、アポジー/ケンタゥルス同様、細長いリボントゥイーターとコンベンショナルなダイナミック型コーンウーファーを組み合わせたハイブリッド構成をとっている。
 トゥイーターユニットは長さ102cm、幅25mmのアルミリボン、ウーハーは20cm口径のカーボン入りポリプロピレンダイアフラムをもつ。2つのユニットはクロスオーバー周波数450Hz、12 dB/octで橋渡しされている。
 システムとしては、これもアポジー・ケンタゥルス同様、4Ωのインピーダンスで、まあ普通のアンプでドライブ可能な範囲に収まっているといえる。ただし、聴感上の能率はケンタゥルスよりは低く、一聴すると穏やかな印象である。
 音場はやわらかくゆったりと広がり、相対的に音像はきりっとコンパクトに引き締まっている。
 異なる2つのユニットのつながりは比較的素直であり、いかにも異なるユニット同士を組み合わせたハイブリッドという印象は少ない。
 目がさめるような透明感や、輪郭のくっきりした立体感はない代りに、おだやかでやわらかな響きには春のさわやかな風のようなニュアンスがある。
 音量を上げていくとそれなりにパワーにも反応し、ハイブリッド型にありがちな音像の崩れも比較的少ない印象で、低域が鈍くこもるような感じもない。様々な楽器の相対的な位置関係の音程の変化による音像の移動は極小の部類に入る。神経質な感じを表に出さず、それでいてけっこう克明な表現もしてくれるところはなかなかのもの。シンプルでお洒落なデザイン、仕上げの良さを活かして、あまり大袈裟にならない組合せを作りたい。
 とくに音楽のジャンルを選ぶことはないけれど、当然のことながら、叩きつけるような迫力をこのスピーカーには望めない。
 これはプレーナー型に共通していることだけれど、音像のでき方や音場の感触というものが、ルームアコースティックの状態によってかなり影響を受ける。したがって、壁の左右の条件が違う部屋では曖昧になったり、音場の広がり方がいびつになって、なんとなく聴いていて落ち着かないといった心理的な悪影響をきたすことがある。思いどおりの音を再現することができなくても、スピーカーやアンプを疑う前にセッティングの工夫をして、定位感のコントロールをして欲しい。条件によっては、単純にシンメトリカルに壁からの距離を等しくセットしただけでは、いい結果は得にくいだろう。

リン Helix II

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 リンといえば、そもそもアナログプレイヤー『ソンデックLP12』で有名になったメーカーだ。現社長のアイバー・ ティーフェンブルンによって1972年から活動を開始した同社は’70年代の中頃より、早くもスピーカーの製造を開始している。同社のスピーカーシステムは、それまで他メーカーが無視していたとしか思えない、現実的な使用状況を考慮した設計がされているのが特徴といえる。
 つまり、一般家庭内ではほとんどの場合、スピーカー背後の壁面にエンクロージュアが近接した状態で使用されるという事実だ。ちなみに、国産スピーカーシステムはあいも変らず、無響室の特性を重視して設計され、エンクロージュアの背後に壁がないフリースタンディングの状態で音決めされている。
 同社の高級システム、アイソバリックDMSなど、壁にぴったりと付けた状態でもすっきりとひろがる音場を壁の向こう側まで広げてくれる様は、実在錯覚としての音像、音場のシミュレーターとしてのスピーカーのあり方を再考させられる。
 今回発表されたヘリックスIIは、壁からの距離に関しては特に指定はない。いろいろ試してみたがステレオサウンドの試聴室では、スピーカー標準位置よりやや後ろに下げて聴いた方がバランスがとれるようだ。
 3kHzのクロスオーバーポイントを持つ19㎜のポリアミド・ドームトゥイーターと20cmカーボン混入ポリプロピレン・ウーファーで構成される2ウェイシステムである。単に物理的な情報量という観点からだけでものをいえば、国産スピーカーにはかなわないだろう。しかし、ヘリックスIIで聴けた音には、いい意味で、ちょっと醒めた、クールで個性的な響きがあり、これは見た目の直線的なデザインから受ける印象にも重なるものであり、組合せを考えるときにも全体の雰囲気を統一しやすいと思う。
 ポップスやフュージョン系の録音のいいディスクを楽しく聴かせてくれ、低音楽器もふやけたりリズムを重くひきずったりしない良さがある。
 ディテールをひたすら細かくひろっていくようなタイプではないけれど、全体の音のバランスや演奏者の意図を拾い落とすことがないところはさすがだ。
 編成の大きなオーケストラや、古い録音の名演名盤を中程度の音量で再生したときに、その演奏に内在する音楽のエネルギー、あるいは演奏者の勢いというべきものが、引き締まった音場の中に巧みに再現される。
 軽い感じの、澄んだ音のアンプが似合いそうで、温度感の高い、暖色系の響きを持ったアンプやCDプレーヤーとは相性が悪いかもしれない。あまり音量を上げすぎると、フロントバッフルのプラスティックの共振からくる付帯音がやや気になることがあった。しかし、これも一般的な聴取レベルでは問題ないはずだ。

メリオワ Digital Center, CD-DECK, Bitstream Converter

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 メリオアは、カナダ製のお洒落なコンポーネントとして世界的にも認知された感のあるミージアテックス社のブランドで、同社には他にマイトナー・シリーズがある。
 今回シリーズに加わったのはコンパクトな筐体をもつ1ビット、ビットストリーム方式採用のその名もビットストリームコンバーターと、19ビット8倍オーバーサンプリングの D/Aコンバーターを内蔵したデジタルコントロールセンター、そしてDACレスCDプレーヤーであるCDデッキの3機種である。
カエデ材の、やや赤味のさした美しいウッドケースに、ブラックのシンプルでグラフィカルなデザインをもつパネルフェイスが組み合わされている。当初、やや見慣れないせいか違和感があったが、かつて取材のために何日か手元に置いて使用してるうちに、不思議に部屋の空気にも溶け込んでくれたことを思い出す。
 そう、これはそういう製品なのだ。ある種の個性的な存在感を持っているのに、部屋の空気をかき乱すことがない。その装置がそこにあるだけで、部屋全体の雰囲気が損なわれてしまうようなオーディオ機器とは違うのだ。
 デンマークのB&Oのように、できればワンブランドで統一して使いたいと思う。
 ビットストリームコンバーターは、フィリップスのSAA7350チップを使用し、入力はコアキシャルとオプティカルを各1系統ずつもっている。実に穏やかでマイルドな響きをつくってくれるD/Aコンバーターだ。
 メカニズムにフィリップス製CDM3を採用したCDドライブユニットのCDデッキは、オーソドックスで真面目な表現をする製品で、当たり前とはいえ、ビットスリームコンバーターと素直なマッチングをみせる。スケール感やダイナミックなコントラストは弱まるが、耳障りな付帯音やノイズ成分を丁寧に取り除いたような聴きやすさをもっている。言ってみればとても落ち着いた、大人っぽい響きということもできるだろう。
 デジタルセンターはデジタルのみ4系統の入力を持つプリアンプである。サンプリング周波数は自動選択で、コアキシャルまたはオプティカルの入力が一つ、オプティカルのみの入力が二つ、そして同軸のみの入力が一つという構成だ。当然のことながら、アナログ出力しか持たない機器は接続できない。また、オプティカルによるデジタル出力をもち、昨今、話題が集中しているDATとのダイレクトな接続が可能である。
 ボリュウムをはじめ、すべてのコントロールをデジタルで処理するDAC内蔵のデジタルセンターにCDデッキをダイレクトにつないでみると、響きは一転して、輪郭がくっきりしたコントラストの強い音になった。

マイクロメガ TRIO.CD., TRIO.BS.

早瀬文雄

ステレオサウンド 97号(1990年12月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 フランスのCDプレーヤー。ヨーロッパ圏で唯一のCDプレーヤー専用メーカーである同社の製品は、すでにCDF1プレミアムが紹介されていた。そのアナログプレーヤー的な使い勝手や音質、特に色彩感やニュアンスの豊かさはADファンからも関心を集めていた。
 ちなみに、同社のサーキット・エンジニアであるダニエル・シャー氏は、過去米国のハイエンドアンプメーカーとして知られる某社に籍を置いていたという逸材だ。
 今回発売されるモデルはソロと呼ばれる一体型、およびセパレート型のデュオCD+デュオBS(D/Aコンバーター)、そしてトップモデルであるトリオCD+トリオBSである。
 どの機種も画一的なデザインの多い国産CDプレーヤーに比べ、コンパクトながら個性と機能をうまくまとめた魅力的な製品に仕上がっていると思う。
 D/Aコンバーターには、いわゆる1ビットタイプのフィリップス・ビットストリーム方式のSAA7323チップを採用しているところも注目に値する。
 電源のオン・オフにかかわらず、コンセントを差し込んだ状態で常に通電されるアナログ回路は、デジタル部から完全に分離した電源部をもつ。出力段は低インピーダンス化が徹底して図られたディスクリート構成で、無帰還ピュアAクラス動作としている。
 ドライブメカニズムは従来通り、フィリップスである。
 各モデル共通のディスク・スタビライザーは、ケブラー繊維とカーボンファイバーディスクからなり、これに120gの真鍮製ウェイトを組み合わせたものである。
 セパレート型のトリオCD+トリオBSは、写真でご覧いただけるように3つの筐体で構成されている。一番上がディスクドライブにあたるトリオCDで、下位モデルのデュオCDから電源を取り除きシャーシ底部を強化したもので、全体のS/Nの向上を図っている。二番目と三番目がD/Aコンバーターと電源部からなるトリオBSである。トリオCDを含め、各筐体は3つの脚部のうち、手前左側がピンポイントになっており、明確なメカニカルアースがとれるように配慮されている。このピンポイントはシャーシを貫通して、天板上にその頭を出しており、コイン状にフラットになったその部分で、重ねて使用したときに上の筐体のピンポイントを受けるようになっている。したがって3つのシャーシを重ねて使用しても、メカニカルアースがとれることになる。
 セパレートタイプのトリオCD+トリオBSの組合せは国産高級機との比較で、圧倒的ともいえるディティールのニュアンスや色彩化の豊かさを誇示し、感心させられた。