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トーレンス TD321 + SME 3010-R

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 個人的偏見で、わがシトロエン2CVとは異次元の存在たるドイツ車嫌いの僕なれど、なぜかドイツの響きにはひかれるものがある。シーメンスしかり、H&Sしかり。トーレンスは元来スイス産なれど、このドイツ製TD321は一聴して、はからずもドイツの響きを感じさせつつ、「完璧」をひけらかさない「可愛いさ」がある。サーフェイスノイズはさらっと軽く、ややブライト。響きは秋の空を想起させるほど、澄んでいる。
 涼しい表情は「知」が勝った印象で、スケール感こそやや小振りながら、それなりにアルゲリッチの鋭角的な表現もこなしてしまう。引き締まって、凛々しいフィッシャー=ディスカフの口許。奥に素直にひろがる音場。総じて辛口の味わい。暗騒音も、けっこう明瞭に聴かせてしまうディティールへのこだわりもある。チャーネット・モフェットのベースも運指がはっきりしてくる。メリハリがありながらメタリックな付帯音はなく自然だ。さすがにリファレンスプレーヤー、マイクロのドスンと来る本物の重量感はないものの、リズムに乗ってくる反応の速さはある。エモーショナルな激しさは、やや距離を置いて表現してくるクールな面も覗かせた。それだけに、『シエスタ』では、かすかに醒めたところを残したような理知的な響きが、むしろ内向する哀愁を際立たせた。
 軽量級とはいえ、トーレンスは依然としてトーレンスであり、プレーヤー作りの伝統的ノーハウが随所に散りばめられている。ディスクと聴き手のあいだに、より緊密な繋がりが生まれ、使い手の意志に鋭敏に寄り添い馴染んでくれるシステムでもあろう。

H&S EXACT

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 音が出た瞬間、その気負いをそぐような、静かで醒めた鳴り方に驚く。妙に柔らかく、自己主張を喪失した、突き放すような無表情、冷たい違和感の漂う響きは聴きなれたエグザクトの音ではなかった。
 そう、きっとS/Nの良さが圧倒的であるがゆえに、周辺機器のマスキングをまともにくらって、拒絶反応を起しているに違いなかった。極度に神経質なのだ。折り目正しく丁重なる忌避、寡黙なる拒絶の壁が慇懃無礼に目の前にそり立つ。しかし、これはけして本来の音ではない。音楽の、響きの行間に潜む透明な震え、沈黙の、底なしの静寂感がここでは何かによって犠牲がなっているのだ。物理的には申し分ない。耳を測定器にして聴けば、これだけでも他をさりげなく圧倒するに充分である。しかし、この鏡のような抽象性は、使い手が何かを写しこむことを強烈に要求するがゆえの無表情のようにも思えてくる。

ヴェンデッタリサーチ SCP-2A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 一聴して温かい温度感をもった柔らかい音でほっとさせられる。弾力性に富みながら反応の速さを兼ね備え、ハイエンド、ローエンドともよく延びたワイドレンジ感が、優しい繊細感を伴って再現される。
 柔軟でありながら現実的な存在感を失わず、音楽の立体構築を明らかにする卓抜な表現力は、同社のヘッドアンプのもつ良さを継承していると聴けた。多様な組合せにも鋭敏に反応しつつ、自らの美点を巧みに維持する包容力がある。響きには有機的なつながりが濃密に存在するが、情報量の多い緻密さがあるために、使いこなし次第では分析的な細密描写も可能である。
 C280Lとの組合せでは、やや過剰な粘りけがつく部分もあり、透明感、鮮度感がやや弱められる傾向があった。ウォームな表現の中に、組み合わせるシステムのクォリティをさりげなく聴かせてしまうあたり、潜在能力の高さの証左と聴いた。

ヤマハ GTR-1B

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 ヤマハのGTR1Bは、オーディオファイルのスタンダードのラックとして、その使用実績は相当に高いはずだ。しかし、これとて「完璧」ではありえない。盲信しては前進はない。ステレオサウンドの試聴室に常備されたGTR1Bは原則として、試聴時、ラック内には何も収納せず、天板上に試聴機を置くのみとしている。なぜ?
 それは、ラックを含んだ全体の振動モードをできるだけ単純化しようという考えからである。現実の使用では物を入れる。そのとき、いかなる工夫をすべきか、どうしたら効果的な共振の整理ができるか(あるいは響きのコントロールの一手段として「振動」をどう取り込んでしまうか)、そういった、ケースバイケースの思考のヒントを導くためにも、とりあえずラック1台に対して試聴機は1つ、つまり1対1の関係を崩さないことを原則として守る。
 ある程度音量をあげていくと、音圧の影響を受けやすいボックス状の、このラックは見た目以上に共振していることが、手を触れてみるとよくわかる。天板の裏や側板は、音楽の複雑な空気の振動を受けて、あるいは床を伝わってくる振動によってあおられ、驚くほど共振している。こうした分厚く堅い、つまりQ(共振峰)の高い材質は、相対的に「カンカン」したピッチの高い共鳴、共振を起こしやすい。事実、このラックは、機器にそういった付帯音をのせる傾向がある(したがって、本誌の通常の試聴時には、その対策を独自に施している)。

エレクトロ・アクースティック EL160

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より

 西独のエレクトロアクースティックといえば455EというMM型カートリッジを思い出す。ふっくらとした温かみのある響きながら、骨格の確かな造形力、重厚な色彩感があった。
 同社のスピーカーシステムは、すでに上級機、170ー4πが紹介されたが、無指向性リボントゥイーターを天板上にいただいたユニークな外観とその高い完成度、確固たる響きに驚かされたのも記憶に新しい。
 今回試聴したEL160は型番からもわかるように、170ー4πのすぐ下位に位置する製品である。
 20cm口径ウーファーのトリプルドライブ、10cm口径コーン型スコーカー、そして2・5cm口径のチタンドームトゥイーターによる4ウェイ・5スピーカー構成をとる。写真ではわかりにくいが、エンクロージュアの作りは精度感があり、質感の高いものだ。
 これは、ドイツ音楽あるいはロマン派の音楽を愛好する人たちにとって、必要の存在である。こうした構成のスピーカーで、かくも引き締まった音像とオーケストレーションの音楽的構築性を、良き時代の剛直さ、典雅さとともに再現しうるスピーカーは少ない。たとえば4344などの大型システムのようなスケール感はないものの、トールボーイ型のプロポーションが活き、音場の広がり感が自然である。特に高い天井を想起させる気配、漂う空気の重層感が見事に再現された。
 ミクロ的に聴けば、音の粒子は特別超微粒子というわけではないが、充分に磨かれ、しっかりした芯をもっている。そのため、音像の輪郭には、脆弱な細さ、曖昧さがない。決然たる硬質感のある潔癖な響きで、ここで聴いたヴァイオリンコンチェルトでは、オーケストラとソリストの位置関係に歪みやぶれがなく、ビタッときまる定位感にも潔い快感があった。弦の響きには厳格な艶がのり、けして倍音過多のうわずった輝きがない。歌い上げる情感には、己を律する厳しさが影のようにつき、オーバーエクスプレッションへ墜落することがない。そうした抑制のきいた表現のためか、聴き手が音楽の内面に自然に吸い込まれていく過程をスムーズなものにしてくれる。
 格別ワイドレンジ・ハイスピードではないが、そんなことはどうでもいい。そう思わせる音楽的な訴求力がある。
 こうした傾向は、ベートーヴェンやブラームスといった硬質な悲しみが浸透した音楽では、他のスピーカーでは得難い世界を聴かせてくれるに違いない。
 その一方で、ジャズ系のソースに対しても、やわなワイドレンジスピーカーでは出し得ない、冷たく、暗い闇にうずくまる、孤独な魂の震えを抉りだすような鳴り方は貴重だ。これは音楽を心で聴くための存在といえる。

グリフォン Phonostage

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 デンマーク2R社製。フォノ1、ライン1の入力切替と、24ポイントの左右独立型アッテネーター、バイパススイッチをもつフロントパネルには、完全にL/Rを分離したシールドケースに収められた増幅部が独立して取り付けられている。デュアルモノ構成、純A級ノンNFB方式のアンプはディスクリート構成だが、線材による配線は廃され、かつプリント基板は信号系と電源系を分離した構造をとる。別筐体の電源部も左右独立型としている。

H&S EXACT

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 西独カートリッジ・クリニック社製ヘッドアンプ内蔵イコライザー。初段のみ差動増幅とし、以降全段ピュアコンプリメンタリー構成。イコライザーは低域をNF型、高域をCR型としたCRーNF型を採用。選別された高品位パーツを使用し、商用電源のノイズ対策にも充分な配慮がなされている。入力感度3段切替可能。入力抵抗、入力容量も変更可能だが、低インピーダンスカートリッジも100Ωの設定値で使用することを推奨している。

新藤ラボラトリー 7A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 ゴールドパネルに深みのあるグリーンのケース、それは写真でみるよりずっと美しく、不思議な調和さえみせていた。
 音楽が鳴り始めるや、あるかなきかの記憶を彩るほんのりと甘酸っぱい響きがあたりを満たし、あわてた。
 羊水に浮遊するような非現実的な暖かさと柔らかさ、耳は測定器として作動することを記憶喪失のように忘れはて、ただ流れる音楽に身をゆだねることに誘い込む。現代を生きるものが忘れた何かを呼び戻してくれる響き──。
 ハイフィデリティを第一義とする冷静な視線をもった、先端をいくものたちが、内に隠しもつ空虚。ここには、その虚をつく大切なものがひそんでいた。過去に失われたものたちの残像、現実から離れた速度感をもった時間の流れのなかで、おだやかにみつめようとする作者の柔らかな視線がここにはあった。

グリフォン Phonostage

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 およそ国産の製品からは絶対に聴くことができないような、あるいはアメリカやドイツの響きとも一線を画した、これは北欧の気候風土の影響を色濃く漂わせた個性豊かな響き、ということができる。オルトフォンのカートリッジがもつ独特の匂い、あるいはアクともいえるものを、けして浮き上がらせず、響きに溶け込ませてしまうことのできる貴重な存在だ。
 間接音成分のたっぷりした響きは、中間色的な複雑な響きが薄く幾重にも重なってできたような、独特の深みがある陰影感をみせ、あたかもアメ色のツヤがのった、贅沢な透明感を聴かせる。これは、ディテールを鋭角的に掘り起し、スケスケの薄いガラスのような透明感を聴かせるアンプとは、一線を画す、別世界の音だ。
 まさに暗がりの情念ともいうべきものがめらめらと燃えているような、くすんだ微光を感じさせる耽美的な瞑想感が魅力的。

ヴェンデッタリサーチ SCP-2A

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「スーパーアナログコンポーネントの魅力をさぐる フォノイコライザーアンプ12機種の徹底試聴テスト」より

 カリフォルニア州バークレーに本拠を置き、設計は初期のマークレビンソンのアンプ設計者としても有名なジョン・カールの手になる。FETによるシンメトリカル・カスコード回路を踏襲したノンNFB回路を特徴とする。カートリッジロードは最適値を10〜200Ωまで連続可変可能。独立型電源も含め完全なツインモノ構成をとる。本体は非磁性体シャーシによりL/Rに分離されている。電源部はヘッドアンプSCP1より格段に強化されている。

サウンドオーガナイゼーション Z021

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 細いスチールパイプで組み上げられている構造上、音圧の影響は受けにくいだろう。しかし、けして皆無ではあり得ない。叩けば結構金属的な「鳴き」がある(当然ではあるが)。ひとつ不思議なのは、肝心のプレーヤーを直接置くトップパネルの材質で、とても薄く、とても軽いのだ。これはリンの主張で、LP12はとにかく軽い台に設置したほうがベターだという。なぜだろう。これまでの常識とは逆行する理論だ。堅くて重い物質がもつ、払拭し難い鋭い共振を嫌ってのことだろうか。真偽のほどは不明であり、謎として残った。たとえば異種金属をあわせたときにダンプ効果があるように、Qの異なった素材をうまく組み合わせ、しかもそれぞれが大きな質量を持たなければ、共振のエネルギー自体も弱く、コントローラブルになるのかもしれない。
 その音だが、たしかに音の輪郭にメリハリはつくし、中高域の分解能が向上したかのように聴こえるときもある。音楽的な抑揚もよくついて、弾みのある表情豊かな響きにはなる。他に、変化として、まず低域はやや軽くなる傾向をみせ、総じて響きの密度がわずかに「疎」になるような印象。弦の響きの表面に、わずかに金属的な響きがつく。音場のスケールがやや小さくなる。聴感上、音の反応がシャープになり、ハイエンドの伸びが増したようになる。サーフェイスノイズのピッチが上がる。強い響きに強引さがなくなる反面、求心力がやや後退する。冷たい響きの温度感が、やや上昇する。低域のリズム楽器の輪郭はつくが、実体感、押し出しがやや希薄化する。音像はふやけず、フォーカシングはシャープ。しかし、神経質な感じは全くない。以上のような傾向が、ミクロ的ではあるが聴取し得た。

ターゲット・オーディオ TT4

早瀬文雄

ステレオサウンド 90号(1989年3月発行)
「アナログプレーヤー徹底試聴 アナログ再生を楽しむプレーヤー4機種を自在に使いこなす」より

 リン指定の台と、基本的には似た構造だが、ノイズのピッチをわずかに下がる印象がある。音場の空気感もいい。響きの輪郭に、ごく僅かに、華麗な輝きがつくようで、音楽がよく歌う。あるいは、表情の変化がよくつくような印象。響きに腰高感もなく、低域の骨格は結構しっかりしている。毎日出てくる、いわばプラスのエネルギーをもった響きの直進性もいい。スチールパイプに、薄く軽い化粧板を乗せた(ピンポイントで支持)だけなので、叩くと、ちょっとしたスラップスティックがはじまるが、きたない共振は意外に少なかった。
 ラスクのように、「負」のエネルギー感が醸し出す静寂感を出にくいが、反面、はつらつとした生命感を感じさせる良さがある。充分に明るさがありながら、陰影感の表現は、リン指定の台より深みがつく印象がある。全体にリンよりダークな雰囲気。これはリン同様、良い意味で響きに味をつけて、楽しく音楽を聴かせてくれる、いわば楽器的なラックといえるかもしれない。
 ちなみに、ヘイブロックのプレーヤーを設置して聴いてみたが、音楽に明るい表情がついて、根暗の少女がふっと、穏やかな微笑みをみせたような、いわくいいがたい雰囲気となった。