Daily Archives: 1972年11月20日

マイクロ

マイクロの広告
(スイングジャーナル 1972年12月号掲載)

micro

ソニー TC-9000F-2

菅野沖彦

スイングジャーナル 12月号(1972年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 2トラ/38。いうまでもなく、数多いテープ規格の一つ。1/4インチ巾のテープ上に2本の録音帯をもって毎秒38cmの速度でとばして録音再生をおこなう磁気録音方式のことである。オープン・リール・タイプとして、今、アマチュアに最も普及している規格は、4トラ/19であろう。トラック数が倍で、スピードが半分というわけだ。トラック数が倍ということは、それだけ一本あたりの録音帯の巾は狭い。磁気録音の規格上録音帯の巾は広いほど、走行速度が速いほど、物理的には有利であり、高性能の録音が可能なのである。その反面、テープの経済性では不利であり、同じ収録時間を得るには4トラ/19より2トラ/38はスペースで倍、走行速度で倍、都合4倍のテープを消費することになるのは止むを得ない。いい音を得るためにはお金がかかるのだ。2チャンネル・ステレオでは2トラックの場合は、片道録音、4トラックの場合は往復録音であることはいうまでもない。2トラックが4トラックよりも便利な点は編集が可能ということも見逃せない。4トラックでは、往きの録音である部門を編集しようと思うと帰りの録音帯も一諸に切ってしまうから編集を考える場合には、帰りの2トラックは遊ばせておかねばならないという不都合がある。結局、片道しか便のないということで、経済的にも、音質的にも無駄をするというわけだ。
 こんなことを総合して考えた時、2トラック式が必要なことは理解できるだろうし、カセットの性能が向上してくるにつけ、カセットと2トラック式の間にはさまった従来の4トラックがやや中途半端な性格にならざるを得ないという最近のテープ界の実情もあわせて理解していただけるのではないかと思うのである。
 そこで、高度な音質を求めるアマチュアに2トラック式のオープン・リール・デッキが見直されはじめ、今、一つのブームを作りそうな気配を感じるのは私だけではないだろう。従来からも、高級マニアの間で、このテープ・デッキを持って優秀なハイ・ファイ性を楽しんでおられる人たちがいたが、これから、ますますそうしたファンが増えつつあるのだ。
 機を見るに敏なメーカーは、早速この2トラック式のテープデッキに力を入れ始め、従来20万円級のものしかなかった市場に、ティアックやパイオニアが10万円を少々超えた値段で製品をつくるようになったわけだ。ここに紹介するソニーのTC9000F2は、23万円という価格でそうした普及型の2トラック・デッキではないが、テープレコーダーの専門メーカーとしてのソニーのコンシュマー用の製品の中での最高級機にふさわしい風格をもったデッキである。録音は2トラックの19cmと38cm。再生はこれに4トラックの2チャンネルが加わる。つまり録音機としては2トラックに徹しているけれど再生は、従来の4トラック・ステレオのミュージック・テープのプレイバックをも考慮したものだ。ヘッドは、F&Fと称するソニーのフェライト・ヘッドを使い、駆動はデュアル・キャプスタンによるクローズド・ループ式。もちろん3モーター式で、操作は軽く確実なリレー式だ。電源は50、60Hz両用で扱いやすい。
 使ってみた感じでは、このクラスの製品としては、もう一つ徹底して高級なマニア用であってもよいのではないかという気がしないでもない。つまりバイアス・セットは、ノーマルと同社のSLHとの切換ということになっているが、いろいろなテープが存在する現状からして、そして使う人がかなりの技術をもった人にターゲットをしぼれるはずだから、イコライザーと共に半固定可変式というところまで踏み切ってもよいだろう。10万円ちょっとのデッキが出るという現状からすると、20万円を超えるものでは、そこまで踏み切ってもよいようにも思う。また早おくりのスピードも少々遅い。ローディングは、キャプスタンとヘッドハウジングがくっつきすぎてやや厄介。エレクトロニクスのS/Nはよくトランスポートの特性をよく発揮する。音質は、デリケートなニュアンスと透明感、ややまるまったハイエンドに一つ不満があるが、2トラ/38の醍醐味を味わえる高品位のものだった。美しいデザインはソニーらしい手馴れたもので、現代的な感覚がさえて好ましいものだった。

オンキョー Integra A-755

岩崎千明

スイングジャーナル 12月号(1972年11月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 秋葉原でベストセラーのひとつとして、発表以来2年間、いまもって売れに売れているインテグラ725のオンキョーが、また、ベストセラーを狙う新型アンプを発表した。
 インテグラ755である。
 725が発表された時、これに接して、このクオリティーの高さと、それに対するペイとの比、つまり、コスト・パーフォーマンスという点で当時のアンプ市場で、画期的ともいえる注目すべき製品であったことを察し、いち早くそれを伝えたものだった。
 今回の新製品755も、また現時点におけるこのクラスのアンプの中にあって、725同様の地位を占めるに違いないことを予感し、それは725の場合のように、広くファンに伝えるべきが義務でもあると思う。
 インテグラ・シリーズと銘うったオンキョーのアンプは、725出現より約1年前からスタートを切った。しかし、そのあまりにオーソドックスなあり方と企画は必ずしもメーカー側の思惑どおりにはかどることがなかった。
 しかし、そのアンプ設計方針の手がたい正攻法は、725においてはっきりと実を結んだ。「コンピューターによる時定数の決定」という謳い文句は、宣伝だけのものではなく、アンプ設計の重要なポイントとしてクローズ・アップされてきたのはトランジスター・アンプ時代になってからである。それは段間直結が普及し、低音域が飛躍的にのぴトランジスター自体の改善により高域が目覚ましい帯域を獲得するや、ますます重要なファクターとなってきたのである。負帰還技術を駆使する現代の高性能アンプにとって、ハダカ特性、つまり負帰還をかける以前の回路の位相特性が、完成された状態のアンプのすべてをすら決定してしまうからである。インテグラ・シリーズにおいて、この点を追求したオンキョーのアンプ設計陣の狙いは正しかった。インテグラの725以後の製品がトランジスター・アンプにありがちだった「固い音」を一掃したのは、かつて位相特性を重視した設計の結実であり、勝利なのであるといえよう。
 725以後のオンキョーのアンプのすべてに、この格段の向上がみられ、すぐ続いて出た733は、さらにハイグレードの高性能をそなえた高級志向のアンプとして、725同様ハイレベルのマニアに柏手をもって迎えられ、725と並んでオンキョーのアンプ作りの見事な成果として実績を挙げて今日に到っている。
 ただ、それぞれについて、ひとこと注文をつけるなら、725はコンパクトにまとめたそのデザインが、物足りないし、733は価格的にもうちょっと購入しやすくして欲しいという点を加えたい。
 ところが この両者の長所をそっくり受け継いで、さきの注文をそっくりそのまま受け入れて、実現した新製品が出た。それが、今回の755なのである。こういえば、755がいかにすぐれ、いかにコスト・パーフォーマンスの点でも優れた製品かをお判りいただけるのではないかと思う。
 実際に内容をみると、まさに両者のイイところをそのまま組み合せたともいいたいほどで、プリ・アンプ部は725直系、パワー・アンプはハイ・パワーで鳴る733直系なのである。
 メーカー発表のデータの信頼度というのはそのままメーカーそれ自身の信頼度となるが、技術的にまじめなオンキョーの姿勢そのまま、755のデータは、私自身のチェックによっても発表値を少しも下まわることなく、きわめて高い信頼性を誇る。
 透明で暖みある音といわれるように、SJ試聴室においてフリーダム・レーベルの69年録音のスタンリー・カウエルのピアノが文字通り透明なひびきを室内いっぱいにみたし、ウッディ・ショーのペットがシャープに突ききさり、62年録音のニュージャズ・レーベルのバイアードの「ハイフライ」はプレゼンスも生々しく、楽器のサウンドを克明にえぐり出してくれたのである。