Category Archives: スピーカーシステム - Page 56

デンオン SC-107

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 国内のスピーカーシステムとしては、異例の海外製スピーカーユニットを採用したモデルとして成功を収めたデンオンのSC104の上級モデルが、SC107として発売されることになった。
 本機は、やや大型のブックシェルフ型システムだが、前面ネットの部分が色調として明るくなったために、外観からは既発売のSC104とシリーズをなすモデルとはわからない。
 ユニット構成は、3ウェイ・3スピーカー型で、各ユニットは、ユニットメーカーとしてヨーロッパで定評が高いデンマーク・ピアレス社製である。
 ウーファーは、口径25cmユニットを2個並列動作で使用している。コーンは、多孔質の紙に制動剤を塗ってある。スコーカーは、口径10cmユニットで、フレームは軽金属のダイキャスト製でバックチャンバーは一体化してある。コーンは、裏面に制動剤を塗ってあり、アルミ製ボイスコイル、発泡ウレタンのロールエッジ付である。
 なお、バックチャンバー内部には、リング状にグラスウールが入っている。トゥイーターは、口径5cmのコーン型ユニットが2個並列使用である。コーン紙は、制動剤が塗ってあり、センターキャップは薄いアルミ箔を成形して高域レスポンスを伸ばしたタイプである。
 LCネットワークは、ウーファー用Lだけが直径1mmの銅線をフェライトコアに巻いて抵抗値を抑えてあり、その他は空芯コイルである。コンデンサーは、すべてプレーン箔型を使用している。
 エンクロージュアは、完全密閉型で、5個のユニットは、ブチル系のパテを使って空気もれのないようにセットしてある。エンクロージュア材質は、リアルウッドの化粧板を張った、板厚20mmの硬質パーチクルボードが全面に採用してある。レベルコントロールは、エンクロージュアのリアパネルにあり、トゥイーターレベルだけが、連続可変で±2dBの狭い範囲だけ変化させるタイプである。
 本機は、トゥイーター、ウーファーともにパラレル駆動を採用した点に特長があるが、リニアリティを向上し、ダイナミックレンジを広くしようとの目的で、この方式が採用されたとのことで、とくにウーファーのパラレル駆動は、スピーカーシステムとして、設置場所の条件による影響を受け難いメリットがあるとしている。
 SC107の音色は、やや柔らかみがあるウォームトーン系である。低域から中低域は質感は柔らかいタイプだが、量感があり、豊かさが魅力である。中域は、さほど粒立ちが細かいタイプではないが、適度の張りがあり、ヴォーカルなどの音像は明快である。高域は、適度にハイエンドで帯域コントロールされているようである。トータルなバランスがよく、充分に抑揚があり、ハーモニーを豊かに再生するのがこのシステムの魅力である。

パイオニア CS-516

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 型番末尾に16がつくスピーカーシステムは、すでにCS616が発表されている。本機は、基本的にはCS616のスコーカーを外して2ウェイ化したシステムと考えてよい。
 低音は、国内製品としては珍しく浅いコルゲーションつきコーンの25cmユニットであり、高音は4・5cm口径のストレートコーン使用のコーン型である。エンクロージュアは、左右専用型のバスレフ方式を採用している。
 このシステムは、ダイナミックでアクティブな音が魅力的だ。音楽を外側から確実に掴み、聴かせどころをピシッと駄あたりは、かなりバタ臭い印象である。ともかく、聴いてみなさい! 楽しい音のスピーカーだよ。というのがピッタリである。

パイオニア CS-655

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 完全密閉型エンクロージュアと、3ウェイ構成を採用している点では、CS755と共通性があるが、使用ユニットは、すべてこのシステム専用に開発されたようで、その意味での関連性はない。
 ウーファーは、25cm口径のユニットで、設計の基本はCS755のウーファーと同様である。スコーカーは、ダイアフラム背面のバックチャンバーに特殊発泡吸音材を使用した無共振設計で、口径6・5cmのドーム型。トゥイーターは、チタンダイアフラムを採用した2・5cmドーム型だ。エンクロージュアは、針葉樹パーチクルボードを使ったエッジレス構造で、ユニット配置は、CS755同様に左右対称の専用型である。

パイオニア CS-755

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 今秋発表されたパイオニアの新しいスピーカーシステムは、異なった2つの性格をもったシリーズにわけることができる。一方は3桁の型番の末尾2桁が55であるシリーズであり、他方は同じく、16のつくシリーズである。
 CS755は、3モデル発表された55シリーズの真中に置かれたシステムである。エンクロージュアは完全密閉型で、ユニット構成は3ウェイ・3スピーカーという、もっともオーソドックスなタイプだ。ウーファーは、30cm口径で、磁気回路は直径156mmの大型フェライト磁石を採用し、ポールピースに銅キャップをつけ、磁気歪を低くしている。また、振動系の重量バランスと動的な変形防止の目的でマスバランスボイスコイルリングを使用している。スコーカーは、口径6・5cmのドーム型で振動板はベリリウムで、支持には、デュアルサスペンション方式を採用している。トゥイーターは、同様に2・5cm口径のベリリウム振動板を使うドーム型である。
 CS755は、聴感上の帯域が広く、各ユニットはスムーズにつながり、レスポンスがフラットな印象が強い。音色はスッキリと明るく、粒立ちが細かく、透明なことでは、従来のパイオニアのシステムとは、一線を画した質的向上が感じられる。

クリプシュ KB-WO Klipsch Horn

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

「Kホーン」というのが50年代後半の米国超豪華型システムとして、本物かどうかの判別の決め手といわれた。それほどまでにKホーンは高級ファンから高いイメージで迎えられていた。
 Kホーンとは、クリブシュホーンの略称であり、40年代にKホーンとして左右の壁面を開口に利用した折返し型コーナーホーンを発明した人の名をつけたものだ。各社の最高級大型システムが採用し、一時期米国製の豪華型はほとんどすべてKホーンまたはその亜流としてあふれたほどだ。
 当然クリプシュ自体のシステムがあったが、各社それぞれ力いっぱい宣伝し力を注いだからオリジナルは永い間ややかすんでいたという皮肉な状態だった。
 60年代に入りやがてステレオが普及してARなどのブックシェルフ型の普及と共に超大型システムがすっかり凋落したあと、最近になってこのクリブシュホーンのオリジナル製品は米国でもやっと脚光を浴びてきつつある。このクリプシュK−B−WOは木目を美しく出した家具調のオーソドックスなスタイルに38cmでドライブするKホーンと、中音、高音にそれぞれホーン型ユニットを配した3ウェイシステムだ。Kホーンの大きな特徴たる低音の豊かさは、ちょっと想像できないほど力強く、アタックのシャープな深い低音エネルギーをいとも楽々と再生してくれる。いや、こうした音そのものの類いまれなすばらしさ以上に、オリジナル・クリプシュホーンとしてもつ十分すぎる価値を保っていよう。

ダイヤトーン DS-25B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 コーン型ユニットを使う2ウェイ構成であり、エンクロージュア形式がバスレフ型となると、もっともダイヤトーンが得意とする伝統的なノウハウを生かせるスピーカーシステムである。ウーファーは、25cm口径で、ボイスコイル部分にゴムのダンプリングをつけ、クロスオーバー付近の特性を改善しているのは、DS40Cのウーファーと同様な手法である。トゥイーターは、5cm口径のコーン型で、コーン紙背面のバックチャンバーの容積が大きく、チャンバー内の残響を抑えるとともに、残響時間の不均一を防ぐスリット上のオリフィスを設けたサブフレームを取つけ音響制動をかけた無共振チャンバーを採用、振動系はコーン紙中央にチタン製ダイアフラムを使い分割振動を抑えている。
 DS25Bは、音に活気があり表情が明るく、伸びやかな魅力がある。基本的には、正統派のシステムだけに、物理特性的に不足感はなく、質的にもこのクラスでは抜群の高さがあることは特筆すべきことで、かつての発売時点でのDS251の再来と感じさせるダイヤトーンの快心作だ。

アルテック 620A Monitor

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう20年も前に焼跡の中に立ったバラックの並ぶ、銀座の裏のちっぽけなジャズ喫茶の紫煙にけむる奥から聴えたディキシーを、本物の演奏とすっかり間違えさせたのが、アルテックの603Bだった。それ以来アルテックの15インチ・コアキシャルは、深く脳裏にきざみこまれた。やがてレコード会社でモニター用に鳴っている604Eに耳を奪われて、一生のうちに一度はこのアルテックの15インチ・コアキシャルを自分の手元で、と心に誓った。だから僕にとっては、アルテック604Eは他のいかなる愛用者にも劣らぬ、もっとも強いあこがれそのものとして、オーディオの象徴的な存在であった。その後アルテックのシステムを仕事の上で接触することはあっても、高価なこのユニットは、なかなか手にできなかった。
 604Eが8Gとなってワイドレンジ化した際に、やっと20年の念願かなって入手できたとき、それはやはり何にも増して感激に満ちたわが部屋での音出しであったし、それは20年前のあのディキシーランドと同じキッド・オリーの10インチ・モノーラル盤で始めたものだ。トロンボーンの雄大な力強さは、やはりこの604−8Gでなければ出せ得ない響きだった。しかし、ステレオ版になって604は、より以上の真価を発揮してくれた。それはもうしばしばいわれるように、コアキシャル独特のユニット配列から得られるステレオ音像の定位の確かさで、業務用としてアルテック・コアキシャルでなければならぬ理由も、ただこの一点が大きくものをいいそうだ。

スペンドール BCII

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 イギリスのスペンドール・オーディオ・システム社は、英国のBBC放送局のモニター仕様によるスピーカーBCIを開発して以来、それを基礎にしてさらに改良を加えたBCII、BCIIIという、家庭用のハイファイ・スピーカーを製品化してきた、比較的新しいメーカーである。しかし、これらのシステムは一聴すればわかることだが、まさに英国の伝統的なスピーカー技術をしっかりと受け継いでいる。
 同社のスピーカーシステムの中で、最も家庭で使いやすい製品、私自身が最も音が充実していてバランスのいいシステムと考えているのは、BCIIである。このスピーカーが持つ素晴らしいハイフィデリティ・リプロダクションと、魅力とあえていってもいいような、素晴らしい品位を持った音楽的な音とが、巧みに結びついて、まさにソフィスティケィテッドなヨーロッパサウンドを醸し出してくれる。いかにも音楽好きな英国人らしい、レコード音楽の再生を熟知した音のバランスが聴ける。もともと英国は、音楽の市場として世界一であり、英国の演奏会でデビューすることが、世界の檜舞台といわれているように、音楽を聴くマーケットとして、英国の歴史は大変に古く、それに呼応してハイファイ・リプロダクション・システムの歴史もかなり長い。そういう英国の長年の伝統をバックグラウンドに持つスペンドールを一流品として推したい。
 社長スペンサーと夫人ドロシーの名をとって〝スペンドール〟というブランド名を冠しているところも、心にくいところである。

ダイヤトーン DS-35B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ブックシェルフ型システムのベストセラー機種であるDS28Bの上級モデルとして開発されたブックシェルフ型のシステムである。したがって最近のバスレフ型エンクロージュアを採用することが多い傾向に反して、本機は完全密閉型である。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムで、中音用は10cmコーン型、高音用は3cm口径のドーム型である。ウーファーは、機密性に富み腰が強いコルゲーション付コーン紙と耐熱性が高いボイスコイルボビンとコイルの組合せで、磁気回路は低歪化されている。スコーカーは、エッジ部分にリニアリティが高いポリエステルフィルムにダンピング処理を施して使い、パルシブな入力に対して立上がりの良い再生を可能としている。また、磁気回路はウーファー同様な低歪磁気回路である。トゥイーターのダイアフラム材質には、ガラス繊維強化プラスチック、GFRPを使っている。また、音色は、レーザーホログラフィーでの振動解析や、新しく導入されたインパルス応答による累積スペクトラムなど最新の技術とヒアリングにより検討されている。
 エンクロージュアは、分散共振型で補強桟は不均一に配置してあり、箱鳴りを抑えた設計である。
 DS35Bは、タイトで明快な低音をベースとして、粒立ちがよく、エネルギー感のある中域と滑らかに伸びた高域が巧みにバランスし、密度が濃い音を聴かせる。この音は、個性を聴かせるタイプではなく、オーソドックスな安定感、充実感が魅力であり、併用するアンプ、カートリッジで、かなり結果としての音をコントロールできる余裕があるようだ。価格帯から考えるともっとも正統派のシステムで信頼性が高い。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLパラゴン家の中に持ち込んでみてわかったのは、この「パラゴン」ひとつで部屋の中の雰囲気が、まるで変ってしまうということだった。なにせ「幅2m強、高さ1m弱」という大きさからいっても、家具としてこれだけの大きさのものは、少なくとも日本の家具店の中には見当らない見事な仕上げの木製であるとて、この異様とも受けとめられる風貌だ。日本人の感覚の正直さから予備知識がなかったら、それが音を出すための物であると果してどれだけの人が見破るだろうか。何の用途か不明な巨大物体が、でんと室内正面にそなえられていては、雰囲気もすっかり変ってしまうに違いなかろう。「異様」と形容した、この外観のかもし出す雰囲気はしかし、それまでにこの部屋でまったく知るはずもなかった「豪華さ」があふれていて、未知の世界を創り出し新鮮な高級感そのものであることにやがて気づくに違いない。パラゴンのもつもっとも大きな満足感はこうして本番の音に対する期待を、聴く前に胸の破裂するぎりぎりいっばいまでふくらませてくれる点にある。そして音の出たときのスリリングな緊張感。この張りつめた、一触即発の昂ぶりにも、十分応えてくれるだけの充実した音をパラゴンが秘めているのは、ホーンシステムだからだろう。ホーン型システムを手掛けることからスタートした、ジェイムズ・B・ランシングの、その名をいただくシステムにおいて、正式の完全なオールホーンを探すと、現在入手できるのはこのパラゴンのみだ。だから単純に「JBLホーンシステム」ということだけで、もはや他には絶対に得られるべくもない、これ限りのオリジナルシステムたる価値を高らかに謳うことができる。このシステムの外観的特徴ともいえる、左右にぽっかりとあく大きな開口が見るからにホーンシステム然たる見栄えとなっている。むろんその堂々たる低音の響きの豊かさが、ホーン型以外何ものでもないものを示しているが、ただ低音ホーン型システムを使ったことのない平均的ユーザーのブックシェルフ型と大差ない使い方では、その真価を発揮してくれそうもない。パラゴンが、その響きがふてぶてしいとか、ホーン臭くて低い音で鳴らないとかいわれたり、そう思われたりするのも、その鳴らし方の難しさのためであり、また若い音楽ファン達の集る公共の場にあるパラゴンの多くは、確かに良い音とはほど遠いのが通例である。しかしこれは、決して本来のパラゴンの音ではないことを、この場を借り弁解しておこう。優れたスピーカーほどその音を出すのが難しいのはよく言われるところで、パラゴンはその意味で、今日存在するもっとも難しいシステムといっておこう。パラゴンの真価は、オールホーン型のみのもつべき高い水準にある。
 パラゴンは、米国高級スピーカーとしておそらく他に例のないステレオ用である。正面のゆるく湾曲した反射板に、左右の中音ホーンから音楽の主要中音域すべてをぶつけて反射拡散することによりきわめて積極的に優れたステレオ音場を創成する。この技術は、これだけでもう未来指向の、いや理想ともいえるステレオテクニックであろう。常に眼前中央にステージをほうふつとさせるひとつの方法をはっきり示している。

KEF Model 5/1AC, 104AB, 103

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 #5/1ACは、デュアル・チャンネルのパワーアンプとデバイダーを内蔵したモニタースピーカーだが、その原形は1950年代までさかのぼり、英国BBC放送局の研究スタッフと、KEFの社長レイモンド・クックとの長期に亙る共同研究の結果完成したモニタースピーカーLS5/1Aが基本になっている。
 LSというモデル名は、BBC放送局で正式に採用されるモニタースピーカーだけに与えられる。中でもLS5/1Aは、NHKでのAS−3001(市販名は2S−305。現在は改良型のAS−3002が主力)に相当するマスターモニターの主力機としてBBCで長期間活躍している。これをもとに、いっそうの耐ハイパワー化と、解像力に優れた現代のモニターに成長させた製品がKEF#5/1ACで、これを機にKEFでは、一般市販用の〝C〟シリーズに加えて、新たに〝リファレンス〟シリーズを作りはじめた。その名のとおり音質比較の基準としても使えるだけの優れた特性のシリーズとして、まず#104が発表され、小型であるにもかかわらずフラットでワイドな周波数特性で世界の注目を集めた。またKEFはこれらのシリーズ開発のプロセスで、コンピューターによる全く新しいスピーカーの測定・解析法を考案し、今ではこの方法が、日本でも多くのメーカーによってとり入れられて成果が上がっている。
 104に続いて発表された103は、指向性改善のためにスピーカーバッフルの向きを変えられること、そしてより一層にハイパワーに耐えることに特徴がある。最近になって、さらに進んだ解析の結果ネットワークを改良した104ABを発表したが、低音ユニットと高音ユニットり音のつながりが明らかに改善されて、見事に洗練された繊細で自然な音を聴かせる。イギリスのスピーカーの概してハイパワーに弱い性格はKEFも同様だが、家庭用として常識的な音量で鳴らすかぎり、このこまやかで上品な音質は、音を聴き込んだファンには理解されるにちがいない。

エレクトロボイス Sentry IVA

菅野沖彦

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 エレクトロボイスは、名実ともに一流メーカーと呼ぶにふさわしいアメリカの名門である。本社はミシガン州ブキャナンにあり、一九二七年創立以来、数々の高級スピーカーユニットおよびPAシステムを世に送り出してきた。同時に、量高級スピーカーシステム、パトリシアンに代表される家庭用の大型フロアータイプや、近年ではブックシェルフ型まで幅を広げ、製品化してきたのである。
 現在では、残念ながらパトリシアンは製造中止になってしまったが、今日発売されているスピーカーシステム中、最も高級なモデルがこのセントリーIVAである。外観は、明らかにプロフェッショナル・ユースであり、かつてのパトリシアンに見られたような、ファニチュアライクなフィニッシュは見られない。この点では、一流品として登場する他のスピーカーに比べて、少し味けなさすぎるという印象を持たれるかもしれないが、しかし、現在のエレクトロボイスからすれば、やはりこの機種を挙げるべきだろう。
 アルテックのA7に一脈通じるシステムだが、同社のドライバーユニット、あるいはスピーカーエンクロージュアづくりの、長年のノウハウの蓄積が凝縮した高級スピーカーシステムといえるだろう。
 エレクトロボイスとしては、私はやはり一時代前につくっていた、きわめて緻密な木工技術をいかした家具調の大型スピーカーシステムの再現を、いま希望したいところだが、同社の歴史、実力からこのシステムを一流品として挙げておきたい。

JBL 4343, 4350

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 その音を耳にした瞬間から、価格や大きさのことなど忘れてただもう聴き惚れてしまう。いい音だなあ、凄いなあ、と感嘆し、やがて音の良し悪しなど忘れて音楽の美しさに陶酔し茫然とし、鳴り止んで我に返って改めてああ、こういうのを本当に良い音というのだろうな、と思う……。スピーカーの鳴らす音の理想を書けば、まあこんなことになるのではないか。それは夢のような話であるかもしれないが、少なくともJBL#4350や#4343を、最良のコンディションで鳴らしたときには、それに近い満足感をおぼえる。
 JBLの創始者ジェイムズ・B・ランシングは、アルテックのエンジニアとしてスピーカーの設計に優れた手腕を発揮していたが、シアター用を中心として実質本位に、鋳物の溶接のあともそのままのアルテックの加工法に対して、もっと精密かつ緻密な工作で自分の設計をいっそう生かすべく、J・B・ランシング会社を設立した。その最初の作品である175DLHは、ショートホーンに音響レンズという新理論も目新しかったが、それにもまして鋳型からとり出したホーンの内壁をさらに旋盤で精密に仕上げるという加工法、また、アルニコVと最上級のコバルト鉄による漏洩の極度に少ない高能率の磁気回路の設計や、油圧によるホーン・ダイアフラムの理想的な整形法に成功したことなどにあらわれるように、考えられる限りの高度で最新の設計理論と、材料と手間を惜しまない製造技術によって、1950年代の初期にすでに、世界で最も優れたスピーカーユニットを作りあげていた。続いて設計された375ドライバーユニットは、直径4インチという大型のチタンのダイアフラムと、24000ガウスにおよぶ超弩級の磁気回路で、今に至るまでこれを凌駕する製品は世界じゅうにその類をみない。375のプロ・ヴァージョンの#2440は、#4350の高域ユニットとして使われているし、175の強力型であるLE85のプロ用#2420が、#4343の高域用ユニット、という具合に、こんにちの基礎はすでに1950年代に完成しているのである。驚異的なことといえよう。
 JBLのユニット群は、エンクロージュアに収めてしまうのがもったいないほどのメカニックな美しさに魅了される。1950年代はむろん飛び抜けて斬新で現代的な意匠に思えたが、四半世紀を経た今日でも相変らず新しいということは、不思議でさえある。が、その外形は単に意匠上のくふうだけから生れたのではなく、理想的な磁気設計や振動板の材質や形状、それらを支えて少しの振動も許さないダイキャストの頑強なフレーム構造……など、高度な性能を得るための必然から生まれた形であり、その性能が今日なお最高のものであるなら、そこから生まれた外観がいまなお新しいのも当然といえるだろう。
 JBLのエンクロージュア技術も、ユニットに劣らず優れている。最大の特長は、裏蓋をはじめとしてどこ一ヵ所も蓋をとれる箇所がなく、ひとつの「箱」として強固に固められていること。そしてユニットのネットワーク類はすべて、表からはめ込む形でとりつけられる。現在では多くのメーカーがこれに習っているが、長いあいだこの手法はJBLの独創であった。それはエンクロージュアが絶対に共振や振動を生じてはならないものだ、というJBLの信念が生んだ考案である。その考案を生かすべくJBLのエンクロージュアは板と板の接ぎ合わせの部分が、接着ではなく「溶接」されている。JBLではこれをウッドウェルド(木の溶接)と呼ぶ。パーティクルボードまたはチップボードは、木を叩解したチップ(小片)を接着剤で練り固めたものだ。その一端を互いに突き合わせ高周波加熱すると、接触部の接着剤が溶解して、突き合わせた部分は最初から一枚だった板のように溶接されてしまう。だからJBLのエンクロージュアは、輸送や積み下ろしの途中で誤って落下した場合つき合わせた角がはがれるよりも板の広い部分が割れて破壊する。ふつうのエンクロージュアなら、接着した角の部分がはがれる。そのくらいJBLのエンクロージュアは、堅固に作られている。
 ユニットやエンクロージュアへのそうした姿勢からわかるように、JBLのスピーカーシステムは、今日考えられる限りぜいたくに材料と手間をかけて作ったスピーカーだ。多くのメーカーには商品として売るための何らかの妥協がある。JBLにもJBLなりの妥協がないとはいえないが、しかし商品という枠の中でも最大限の手間をかけた製品は、そうザラにあるわけではない。JBLが高価なのは、有名料でもなければ暴利でもなく、実質それだけの材料も手間もかかっているのだ。JBLだからと、ユニットだけを購入してキャビネットを国産で調達しようとする人に私は言おう。ロールスロイスが優れているのは、エンジンだけではないのだ、と。あなたはエンジンだけ買ってシャーシやボディを自作して名車を得ようというのか。材質も加工法も全然違うエンクロージュアに、ユニットだけを収めてもそれはJBLの音とは全然別ものだ。
 JBLの栄光に一層の輝きを加えた作品が、新しいプロ用モニタースピーカー#4350であり#4343である。どちらも、低・中・高の3ウェイにさらにMID・BASSを加えた4ウェイ。#4350は低音用の38センチを2本パラレルにした5スピーカー。こういう構成は従来までのスピーカーシステムにあまり例をみない。その理由について解説するスペースがないが、JBLは必要なことしかしない、と言えば十分だろう。こんにちのモニタースピーカーに要求される性能は、広く平坦な周波数特性。ひずみの少ない色づけ(カラーレイション)の少ない、しかも囁くような微細な音から耳を聾せんばかりのハイパワーまで、鋭敏に正確に反応するフィデリティ、そして音像定位のシャープさ……。そうした高度な要求に加えてモニタースピーカーは、比較的近接して聴かれるという条件を負っている。こういう目的で作られた優れたスピーカーが、過程での高度なレコード観賞にもまた最上の満足感をもたらすことはいうまでもない。
 #4350も#4343も、外観仕上にグレイ塗装にブラック・クロスのスタジオ仕様と、ウォルナット貼りにダークブルーのグリルがある。どちらのデザインも見事で、インテリアや好みに応じていずれを選んでも悔いは残らない。

JBL 4333A, L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 JBLのスタジオモニター・シリーズの中で最初に評価されたのが#4320であることはよく知られているが、さかのぼればその原形は、プロフェッショナル部分を設立するよりはるか以前のC50SM型モニタースピーカーにはじまっている。C50SMにはS7(LE15A+LE85の2ウェイ)とS8(LE15A、375、075の3ウェイ)の二つの型があった。エンクロージュアのデザイン(外観および外形寸法)は#4320も全く同じだがC50SMの構造は密閉箱だったため、低音の伸びが悪く寸詰まりの感じで、良いスピーカーだという印象があまり残っていない。そのC50SM−S7を位相反転型に改良し、クロスオーバー周波数を800Hzに変更(S7は500Hz)したものが#4320だと思えばいい。こまかいことをいえばユニットその他相異はあるが大づかみにはそういう次第で、したがって#4320はプロ部門設立と同時にある日突然生まれたモニターではなく、C50SM−S7以来の十数年のつみ重ねがあったわけだ。
 #4320は、低域およびウーファーとトゥイーターのクロスオーバー附近での音質の問題点が指摘された結果、#4330および31に改良された。さらに高域のレインジを拡げるためにスーパー・トゥイーター#2405を加えた3ウェイモデルの#4332、#4333が作られた。しかしこのシリーズは、聴感上、低域で箱鳴りが耳につくことや、トゥイーターのホーン長が増してカットオフ附近でのやかましさがおさえられた反面、音が奥に引っこむ感じがあって、必ずしも成功した製品とは思えなかった。
 #4333を基本にして、エンクロージュアの板厚を、それまでの3/4インチ(約19mm)から、1インチ(25mm強)に増し、補強を加えて作ったコンシュマーモデルのL300は、家庭用スピーカーとしては大きさも手頃だし、見た目にもしゃれていて、音質はいかにも現代のスピーカーらしく、繊細な解像力と徴密でパワフルな底力を聴かせる。音のぜい肉を極力おさえた作り方で、ダブついたような鳴り方を全くせず、やや線の細い鋭敏でシャープな音がする。
 こうしてL300が完成してみると、#4333の問題点、ことにエンクロージュアの弱体がかえっていっそう目立ちはじめた。そのことにJBLもとうぜん気付いたのだろう。#4333のエンクロージュアの板厚と強度を増すと同時に、位相反転のチューニングを変更し、タテ位置にもヨコ位置にも自由に使えるよう、ユニットの取付け方にくふうを凝らすなど、こまかな改良を加えた#4333Aを発売した、という次第である。#4333よりはL300が格段に良かったのに、そのL300とくらべても#4333Aはむしろ優れている。従来、内蔵ネットワーク型とマルチアンプドライブ専用型とに分かれていた#4332と33とが、#4333Aでは兼用型となったのも便利だ。

ダイヤトーン DS-40C

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ダイヤトーンの新しいフロアー型システムは、既発売の3ウェイ構成のフロアー型DS50Cのシリーズ製品として開発された、2ウェイ構成のシステムである。
 エンクロージュアのプロポーションは、いわゆるトールボーイ型で、一般的なブックシェルフ型システムをタテ方向に伸ばしたようなタイプであり、床面積をあまり広く占有しないため設置上での制約が少ない利点がある。バッフルボード上のユニット配置は、変調歪みが少なく、椅子に座ったときに、音軸が耳の位置とほぼ同じ高さになるように位置ぎめされている。
 低音用の30cmウーファーは、バスレフ型エンクロージュア専用に設計してあり、クロスオーバー周波数付近の特性を良くするために、コーン紙はコルゲーション入りのいわゆるカーブドコーンを使っている。また、ボイスコイルにゴム製のダンプリングを付け、一種のメカニカルフィルターとして、ウーファーの高域特性をコントロールしている。エッジは、熱硬化性樹脂と念弾性樹脂を混合し、数回にわたりコーティングしたクロスエッジで、さらにその上から特殊なダンピング処理をしてある。
 磁気回路は、今回もっとも重点的に改良された部分である。一般の低歪磁気回路は、ポールピースに銅キャップをつける方法や硅素鉄板の積層材を使う方法があるが、ダイヤトーンで新しく開発した方法は、ポールピースに特殊な磁性合金でつくったリングをつける方法で、磁気回路での非直線歪みが、ボイスコイルにリアクションをして音の歪みとして再生されることを大幅に低減している。歪率の低下は、周波数によっては、1/10と発表されている。
 磁気回路のマグネットには、ダイヤトーンは、ウーファーに限りフェライトマグネットを使わないのがポリシーであったが、新しい低歪磁気回路の開発により、フェライトマグネットを採用しても低歪磁気回路の採用で、総合的な性能としては鋳造マグネットを上廻る、として、初めてフェライトマグネットが採用されているのも、新しいシステムの特長であろう。
 トゥイーターは、5cm口径のコーン型ユニットだが、センタードームが円錐形の独特な形状をしているためにセミ・ドーム型と呼ばれている。磁気回路は、クロスオーバー付近の特性を良くするために、磁束密度14000ガウスの強力磁気回路による磁気制動と、バックチャンバー容積を大きくして振動系を臨界制動で動作させている。なお、バックチャンバーは、楕円形でチャンバー内の残響をコントロールして、トランジェントの悪化を防いでいる。
 DS40Cは、バスレフ型の豊かな低音の味わいと、2ウェイらしいスッキリとした音がバランス下、ダイヤトーンらしい音である。低歪化のためか、クロスオーバー付近の硬さがなく、量的に不足しないのがメリットで、音像定位は明瞭で安定しているのは、ダイヤトーンの伝統である。

オンキョー Scepter 10

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 型番こそ高級システムのセプター名称をもっているが、スピーカーシステムとしての性格は、個性を聴かせるモデルとして定評が高い、M6、M3の延長線上にある製品のように思われる。
 エンクロージュア形式は、バスレフ型でユニット構成は2ウェイ・2スピーカーだが、低音に大口径ウーファー、高音に、音響レンズ付のトゥイーターというよりもハイフレケンシーユニットと呼びたい本格的なドライバーユニットとホーンを組み合わせたユニットが使用されている。
 ウーファーは、38cm口径の大型ユニットで、180φ×95φ×20mmのフェライト磁石を使い、11000ガウスの高い磁束密度を誇り、ポールピース部分には銅のショートリングを装着し低歪化している。
 コーン紙はコルゲーションつきで物理特性が異なった2種類のウレタンフォームを7対3の比率で貼合せた特殊成形の2層発泡ウレタンエッジと耐熱性樹脂積層板を使う薄型ダンパーでサスペンションされている。ボイスコイルは、直径78mmのロングボイスコイルで、コーン紙との接合部にアルミ補強リングをつけ、コーン紙のつりがね振動防止と中低域の音色改善を計っている。
 トゥイーターは、ダイアフラム材質に、高域再生用として理想的な高度をもつ厚さ20ミクロンのチタン箔をドーム型に成形し、ポリエステルフィルムを使ったフリーエッジ構造や2重スリットのイコライザーの併用で、高域のレスポンスを伸ばし、硬く、軽い特長は、過渡特性を一層改善し鋭い立上がり特性を得ている。ホーンは、カットオフ500Hzのアルミダイキャスト製ショートホーンで、ハイインパクト・スチロール樹脂製の共振が少ない大型音響レンズと組み合わせて、30度の指向周波数特性が20kHzまで、軸上特性にほぼ等しい結果を得ている。
 トゥイーターのレベルコントロールは、一般のタイプとは異なり、モードセレクターと名づけられている。ポジションは3段切替型で、①ウーファーとトゥイーターが密結合の状態で、クロスオーバー付近のレスポンスはやや盛りあがり気味で、メリハリが効いた幾分ハードな音、②ウーファーとトゥイーターつながりが、音圧周波数特性でフラットになる設定、③中低域に、やや厚みをもたせ、トゥイーターレベルを抑え気味にしたソフトな再生パターンに変化することができる。
 エンクロージュアは、容積が160リットルあり、バッフルボードは20mm厚の米松合板を、側板には針葉樹材チップボードを使い、補強材を組込んで減衰波形の美しいエンクロージュアとし、外装はローズウッド木目仕上げで、フロアー型システムらしいデザインにまとめ上げている。
 出力音圧レベル95dB、最大入力100Wであるから、最大出力音圧レベルは115dBとオーケストラの最強音圧に匹敵する。

ビクター S-755

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、大口径ウーファーをベースとした3ウェイシステムというよりは、中口径フルレンジユニットの低域と高域をそれぞれ専用ユニットで補ったシステムというほうが適当であろう。
 20cmシングルコーン型ユニットは、250Hzから8kHzの幅広い帯域を受持っている。コーン紙は、新開発のSP1コーンで、ハイヤング率、軽量タイプである。
 ウーファーは、このクラスとしては異例に大口径な38cm型で、SP1を使ったコーン紙は、ボイスコイルとの結合部にコンプライアンスをもたせ、機械的なハイカットフィルターとして、ネットワーク用の大きなコイルがウーファーと直列に入り、直流抵抗が増加することを防ぎ、併せて価格を抑えるのに役立っている。トゥイーターは、スコーカーに同軸型に組込まれた4cm口径のコーン型で、フェイズ・リンク・コアキシャル方式である。
 このシステムは、スケールの大きな落着いた音である。低域は豊かで安定し、高域のやや輝く感じが低域とバランスをとり、アクセントを効果的につけている。

サンスイ SP-G300

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 新しい価格帯に登場したフロアー型スピーカーシステムである。構成は、ユニークな、同口径で異った性質の2本のウーファーを並列駆動する低音、本格的なコンプレッション型ドライバーユニットと音響レンズつきホーンを組合せた高音を採用した2ウェイ・バスレフ型である。
 低域、高域ともに、充分に伸びた聴感の帯域は、近代型モニターシステム的であり、とくに低域の音の姿、かたちをナチュラルに表現し、スケール感が大きいのは、フロアー型ならではの魅力である。また、ホーン型ユニットが受持つ帯域は、いわゆるホーン的な感じが皆無で、特定のカラリゼーションがないのは珍しい。音でなく、音楽を楽しむスピーカーである。

ビクター S-777

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近では珍しい同軸型ユニットを使ったフロアー型システムである。このユニットは、基本的に既発売のバックローディングホーン型エンクロージュアを採用した、フロアー型システムFB7のユニットを同軸化したと考えてよい。
 30cm口径のウーファーは、軽量で腰が強い米国ホーレー社製コーンで等価質量35gと軽く、直径10cmのエッジワイズ巻ボイスコイルは、アルニコV型マグネットをスタックした内磁型の磁気回路と組み合わされ、95dBの出力音圧レベルを得ている。トゥイーターは、開口部にドリップ型イコライザーをもつ、700Hzカットオフのアルミホーンと直径38mm、厚さ40ミクロンの米国製強力アルミ合金のダイアフラムを使い、アルニコV型マグネット使用の磁気回路で14000ガウスの磁束密度を得ている。このトゥイーターは、ホーン部分がウーファーの磁気回路を貫通して組立てられ同軸化している。ウーファーとトゥイーターの相対的な位置は、新測定法フェイズ・モアレ伝送パターンから決定され、位相干渉が少ないフェイズ・リンク・コアキシャル型とし、整った波面が放射状に伝送され、また周波数による音像移動が少なく、安定した音像定位を得ている。
 エンクロージュアは、バスレフ型で、内部の定在波を減らすために、バッフルボードはやや上方に傾斜させあわせて椅子に座ったときに音軸が耳の位置にくるようにユニットの配置がしてある。
 このシステムは、全体に引締まったクリアーな音である。聴感上では、やや中域が薄い傾向があるが、質的に充分磨かれ緻密さがあるのがよい。音の反応が速く活気があり、キビキビした印象は、新鮮で気持がよい。

ソニー SS-G7

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーのユニット設計に、アポロ計画をはじめ、宇宙船の開発に応用されたNASTRANと呼ばれるコンピューター技法を導入し、聴感とデータの徹底的な検討により完成した注目すべきソニーの新製品である。
 ユニット構成は、3ウェイ・3スピーカー方式で、使用ユニットはバッフルボード面に、一線に配置されるインライン方式であるが、本機ではさらにたくユニットの音源位置を垂直線上に揃える、ブラムライン方式としている。各ユニットの音源の位置を揃える利点は、聴感上の定位感が明瞭になると同時に臨場感が豊かになることが確認されている。
 30cm口径のウーファーは、音源を揃えるために、巨大な、自動車のアルミホイールを思わせる形状の特殊成形アルミ合金フレームを採用している。コーン紙は、半頂角60度カーボコーンで、コルゲーションが設けられ、ボイスコイル直径は、10cmと大口径である。磁気回路は、直径25mm×20mmのアルニコ系鋳造磁石を14個使った内磁型で、T型ポールには特殊鋼材を使い低歪化してある。
 スコーカーは、コーン型とドーム型の中間的なバランスドライブ型で、口径は10cm、磁気回路には、120φ×70φ×17tmmの大型フェライト磁石とT型ポールピース採用である。このT型ポールピースは、磁気ギャップ内の磁束分布を均一化でき、磁場の非対称による歪みを低くできる。
 トゥイーターは、口径3・5cmのバランスドライブ型で、ダイアフラムには厚さ20ミクロンのチタンを深絞り一体成形して使用し、エッジ部分は人工皮革を採用して金属的な鳴りを抑えている。磁気回路はアルニコ系磁石を壺型ヨークと組み合わせて、16000ガウスの磁束密度を得ている。
 エンクロージュアは、バスレフ型で、バッフルボードは厚さ30mmの硬質カラ松材パーチクルボードを使用し、中高域の拡散効果を目的として格子状の加工が施してある。ACOUSTICAL GROOVEDを略してAGボードと名づけられたこの加工により、聴感上の臨場感を向上することができる。また、エンクロージュアの各壁面の放射周波数帯域を分散することにより、箱鳴りといわれて敬遠されていた現象を音色的に有効に利用している。エンクロージュア内部は、高密度フェルトを壁面に密着させ、板共振を抑え、定在波の発生を防ぐために、多量の吸音材を入れてある。
 このシステムは、各ユニットが音色的にも周波数レスポンス的にもよくつながり、音が安定している特長がある。聴感上では、さしてワイドレンジと感じないが、必要な場合には充分な帯域の伸びがわかるタイプである。音の密度は濃く、力感もあって、大人っぽい完成度の高さが、このシステムの魅力といえよう。

サンスイ SP-G300

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイのフロアー型システムには、現在バックロードホーン型エンクロージュア採用のSP707J、バスレフ型エンクロージュア採用のSP505Jがあるが、いずれも使用ユニットは米JBL製のフルレンジユニットであり、そのシステムをベースとしてマルチスピーカー化する可能性を残した、いわば基本型といった性格が強い製品である。
 今回、新しく発売されるSP−G300は、最初から自社開発のユニット使用を前提として企画されたコンプリートなフロアー型システムで、開発にあたっては、かなりJBLのモニターシステムの影響を受けていることが、そのユニット構成、規格からも知ることができよう。
 トールボーイ型をしたエンクロージュアは、バスレフ型で西独ブラウンのスピーカーシステムと同様に、コーナーが大きくRをとってあるために、全体の印象は穏やかな感じがあり、SP707Jなどとはかなり異なっている。
 ユニット構成は、2ウェイ・3スピーカー方式で、ウーファーは、30cm口径のユニットを2個並列使用、トゥイーターは音響レンズ付のホーン型が採用されている。
 ウーファーは、ちょっと見には、単純なパラレル駆動と思われやすいが、それぞれコーン紙の形状が異なっており、性質の違ったユニットであることがわかる。タテ位置に2個取りつけてある下側のウーファーは、低域共振周波数が低く、振動系の質量が重いタイプで、本来のウーファーとしての低音を受持ち、上側のウーファーは、やや低域共振周波数が高く、振動系の質量が軽いタイプで、低音の高いパートから、トゥイーターにクロスオーバーする帯域を受持っている。このユニットは、いわばスコーカー・ウーファーと考えてもよいものだ。
 一般的には、ウーファーは重低音を要求すれば中低域に欠点が生じやすく、中低音を要求すれば重低音不足となりやすい傾向があるが、逆の声質をもつ2個のウーファーをコントロールして並列駆動として使う方法は、大変に興味深いものがある。
 考え方を変えれば、38cmウーファー1個を追い込むよりは、実効的なコーン面積がそれと等しい異なった種類の30cmウーファー2個をコントロールするほうが、ある場合には、むしろ好結果が得やすいのかもしれない。この場合にはその成功例といえる。
 トゥイーターは、本格派のハイフレケンシーユニットで、ショートホーンとスラントタイプ音響レンズの組合せで、SP6000で使用されたユニット発展型と考えてもよいのかもしれない。
 このシステムは、表情が豊かで、伸びやかな音である。ややウォームトーン型だが、低域が安定しよく響き、よくハモる。中域以上は、ホーン型とは思われないほどの細やかさと滑らかさがある。小音量でもバランスを保つのは実用上の利点で、JBLと異なった音であることが好ましい。

ボザーク B-410 Moorish

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 コンポーネントアンプが高性能化し、ハイパワー化してくると、それらの高級アンプをつかってドライブするスピーカーシステムのほうは、名器として定評が高い大型システムが次々と姿を消して、世界的にみてもこれぞというスピーカーシステムは数えるほどしか残っていないし、新製品として登場する例も異例といえるほど少なくなった。
 米・ボザーク社の代表製品である、B−410コンサートグランドは、現在も生き残っている数少ない伝統的な大型フロアーシステムである。構成ユニットは、低音に30cmウーファー・B−199が4本、中音16cmメタルコーン型スコーカー・B−209Aが2本、高音5cmメタルコーン型トゥイーター・B−200Yを8本使った3ウェイ・14スピーカーのマルチウェイ・マルチスピーカーシステムの代表作である。
 ボザークのユニットは、B−410に使用されている専用ユニットが3種類と、他に全域用の20cmメタルコーン型・B−800の4種類があるだけで、創業以来、基本的な設計変更もなく、一貫して、優れたユニットは一種類、といわんばかりに同じユニットを作り続けている。ウーファーコーン紙には、羊毛を加えた独得なタイプが使用され、例外的に複数個の使用でも特性が崩れない特長があるといわれている。ウーファー以外の3種類のユニットは、コーンが継目のない軽合金製のメタルコーン型であることが特長であり、表面に特殊なゴムをコーティングして金属の共鳴を抑えているから、一般のパルプでつくったコーン紙と見誤ることもあるであろう。
 ボザークのスピーカーシステムは、普及機を除いてすべてこの4種類のユニットを組合せてつくられているが、クロスオーバーネットワークは、もっともシンプルな6dB/oct型である。このネットワークも同社のシステムの特長で、位相特性が優れ、聴感上でもっとも好結果が得られるとことだ。基本的に各専用ユニットが広帯域型であることにより、傾斜のゆるやかな6dB/oct型ネットワークの採用を可能としていると思われる。また、高音、中音のレベルコントロールを装備せず固定型であるのは、大変に使いやすいメリットになっている。
 コンサートグランドシリーズは、デザインにより、B−410がクラシックとムーリッシュ、B−310Bコンテンポラリーの3種類があり、ユニット配置は下側から低音用が2本づつ2段に並び、その上に中音用が横一列に2本、高音用は縦一列に8本が中央に置かれているが、B410クラシックだけが、左右専用型の対称配置である。
 このシステムは、エネルギー感が充分にあり、密度が濃く重厚な音が魅力である。とくに低域のレスポンスが伸び、腰の強い重低音を再生できるのは、この種の大型フロアーシステムならではの感がある。また、音量の大小によって聴感上のバランスが変化せず、小音量でも小型スピーカーと同様に扱うことができる。一般に数多くのユニットを使うシステムでは、音像定位で問題を生じやすいが、小音量のときでも音像がシャープに立つのは、このシステムの特筆すべき点だ。

モニター・オーディオ MA3 SeriesII, MA4, MA5 SeriesII, MA7

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 シリーズとしての一貫性はよい。バランスのとり方の上手なメーカーだけに、どれを聴いても帯域バランス、高域の味つけなどが巧みになされていて、効果的な鳴り方をする。最上機のMA3が質的にもっとも高く、どんなプログラム・ソースにも破綻のない再生音が得られる。最も小型のMA7は小じんまりまとまった雰囲気の再現が得られ効果的。中間機種が中途半端で、色づけが濃く楽器の音に固有のスピーカー自体の音色が結びついてくる。

モニター・オーディオ MA3 SeriesII, MA4, MA5 SeriesII, MA7

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 なじみの薄い新ブランドだが、フランスやカナダで評価がよいことを以前から耳にしていた。MA7、5、4、3と、いずれの機種にも共通した一種独特の中〜高域のツヤを持っていて、シリーズ製品としての一貫性を持たせてあることはわかる。MA3のシリーズIIでない方の製品を一年前に聴いたときは、もう少しキリッと引締った好ましい音と感じたが、今日のは外観からもトゥイーターが変わっていて、前の製品より音をゆるめてあると感じた。

エレクトロボイス Interface:A, Interface:B

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 インターフェイスAとBは明らかにシリーズである事が音に現われている。しかし、BはAのギリギリのところで守っている中域の品の悪さが、そのままでてしまう。これを、ひっくり返せば、Aの特色として表現することになるだろう。つまり、張り出した中域の豊かさが充実していて、やや粗々しいが、限界でふみ止まっているのだ。いずれの場合も付属イコライザーは使わずにすめば使わないほうが音の質はよい。