Category Archives: スピーカーシステム - Page 56

ダイヤトーン DIATONE F1

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ダイヤトーンの新スピーカーシステムは、意表をつくような独得のデザインと仕上げをしたエンクロージュアを採用した、まったくの新ラインの新製品である。
 エンクロージュアは、バスレフ型だが、ウーファーとトゥイーターの中間にバスレフのダクトを突出させてユニット間の干渉による混変調歪を軽減させる方式が採用されている。この方式を具体化する表現方法として、積極的にデザインのなかにこの方式の特長を生かす方法がとられ、見方によれば唐突とも受け取れるが、目的はさきに採用された独得の磁気回路構造を採用してユニットの歪を軽減した考え方と同じであり、トランスデューサーとしての物理特性を改善する目的と考えられる。
 エンクロージュアは、内部補強桟を不均一に配置した分散共振型で特定帯域でのいわゆる箱鳴きを抑えている。独得なダクト部分は中音ホーンとも受け取られやすいエクスポーネンシャル状のテーパー付である。
 システムとして高能率化が大きなポイントとなっていると発表されているが、実際に聴感上の能率が高く、キビキビして応答性が速い音を聴かせる。低域は伸びやかでよく弾み、充分の量感があり、中域から高域は、硬質さがなく透明感があり、ナチュラルである。しなやかで活き活きと屈託なく音を出してくれるあたりは、従来にない新しい時代の音であり、ダイヤトーンの試みは十分な成功を収めているようだ。

ダイヤトーン DS-25B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 一台3万円を切る最近の国産品の中で、オンキョーM1と対照的だが共になかなかよくできたスピーカー。以前のDS251よりも音の表情にメリハリをつけた印象だが、しかしダイヤトーンらしく適度に抑制が利いている。能率が割合高いので、ローコストのアンプと組み合わせても力不足にならない点、この価格ランクとしての性格をよくわきまえている。ただ個人的にはもう少し楽しい感じで鳴ってくれると一層良いと思う。

セレッション UL6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 イギリスの小型スピーカーの中に、えてして高域の細いやや腺病質的な音質があるが、セレッションの製品にはそういう弱点が少なく、中域のしっかりした上品な艶のある音色で、音楽をとても生き生きと聴かせる。この小さい箱を見た目の印象からは驚くほどの低音も出る。ごく質の良いセカンドスピーカーが欲しいと相談されたら、一〜二に推したい。

ロックウッド Major

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 タンノイの38cmコアキシャルスピーカー385HPDをユニットとして使っているが、エンクロージュアが特殊バスレフで、ロックウッドのシステムとしての独自性を持っている。きわめて豊かな低音再生が得られ、タンノイの音をさらに豊潤な響きにしている。タンノイ本家のアーデン相当のシステムであるが、価格はほぼ倍もする。この差を認めるか認めないかは難しいところだが、独自性は認めたい。

アルテック A7-500-8

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 A5の廉価品といってもよいが、その実力はワン・アンド・オンリーのもので、大ホールでの再生に真価を発揮すると同様、家庭に持ち込んでみても悠然として、スケールの大きな、きわめて雰囲気の豊かな音を再生する。これはクロスオーバーが500Hzだが、この下に800HzのA7−8もある。ウーファーは同じ416−8Aだが、ホーンが異る。ヴォイス・オブ・シアターと名前通りの豊潤なサウンドである。

ダイヤトーン 2S-305

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 ダイヤトーンの代表的スピーカーシステムであり、日本のスピーカーの代表的な傑作といってもよい製品である。モニタースピーカーとして開発され、国内のスタジオで今でも多くが活躍している。305Dというウォルナットフィニッシュのものもあるが、こちらのほうは3万5千円安い。エンクロージュアのフィニッシュの違いだから好みで選べばよい。2ウェイのウェルバランスドなサウンドは、きわめて品がいい。

エレクトロボイス Interface:A

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 部屋のアコースティック特性の補正をするイコライザーがつき、後面にもユニットをもったユニークな製品で、左右一組として売られるのもリーゾナブルだ。堅実な重厚さをもった響きは、品位が高いし、やや重く、暗いサウンドのイメージはあるが、その落着きがむしろこのシステムの魅力だと思う。安っぽい華美な響きがなく、しっかりした音像が頼もしい。ワイドレンジながら、いたずらにそれを誇張することがない。

JBL L26

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 JBLのスピーカー・メーカーとしての真価は、ホーンドライバーユニットを使ったシステムだと私は思っている。このシステムのようなコーンのものは、JBLとして決して本格派とはいえない。しかし、そこにさえ、JBLらしさがはっきり現われているのはさすがで、このL26にも小さいスケールながら、JBLらしいよく弾む低音、明解な高域の魅力が聴ける。ブックシェルフの標準的な位置に価いするシステムだ。

デンオン SC-107

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 まず、あかぬけしたデザインに国産品らしからぬ、洗練さを感じさせられるだろう。私個人としては、国産スピーカーシステム中のベストデザインだと思う。これで箱のつくりにもう一つ緻密さが加われば特級品だ。ユニットはデンマークのピアレス製で、マルチユニットとして成功した例である。きわめてバランスのよい、地味だが聴くほどに味わいのある、音楽を音楽として快く鳴らしてくれる快作だ。

コーラル FX-10

井上卓也

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 マルチウェイシステムとは別に、コーラルは、全域ユニットをたえず作りつづけていることに特長があるメーカーである。
 このモデルは、F60シリーズとして知られる一連の全域ユニットのなかの、10F60を、トールボーイ型のバスレフエンクロージュアに入れたシステムで、全域型として使うが、さらに、ワイドレンジ化へのグレイドアップのために、トゥイーターを取付可能なスペースが、あらかじめ用意されている。このためのユニットには、ホーン型のH60とドーム型のHD60があり、H60には、スラント型音響レンズAL601を、さらに追加できる。
 このシステムは、全域型ユニットファンならずとも、何故か、ホッとするような安定感のあるスピーカーらしい音である。帯域は広くはないが、表情がナチュラルであり、伸びやかさもある楽しめる音である。

ヤマハ NS-L325

井上卓也

ステレオサウンド 42号(1977年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプを完全に一新したニューラインに発展させたヤマハから、スピーカーシステムの新顔が一機種発売された。
 モデルナンバーに、同社で初めてアルファベット文字を付けた、NS−L325は開発に着手してから3年以上の年月が、かけられたとのことで、プロトタイプ段階から数えても18ヶ月という機関が費やされたという。ローコストに新しい需要層を開拓した、NS451が発売された当時から予測として、1ランク上の価格帯に、仮称NS651が発表されるのではないかという声もあったが、おそらく、NS1000、NS690IIという正統派のシステムと新しいサウンドを求めた、NS451、NS500の接点として、予定したシステムが、発展して、この新システムとなったのではないだろうか。
 構成は、3ウェイ・3スピーカーシステムであるが、各ユニットには、現在までのヤマハのシステムに原点を見出すことができるタイプが採用されている。ウーファーは、25cm型で、NS500系と思われるユニットであり、スコーカーは、12cmコーン型でバックキャビティ付きの新ユニットである。また、トゥイーターは、NS690/690II系の23mm口径で、タンジェンシャルエッジまでを一体成型したソフトドーム型である。なお、ウーファーの磁気回路には、アルニコ系磁石とセンターポールに低歪化、インピーダンスの平坦化のため、銅キャップ処理がおこなわれている。
 エンクロージュアは、バスレフ型で、材料に高密度パーティクルボードを使い、バッフル版で18mm、他の部分は、15mmの板厚があり、仕上げは、シャイニーオークだ。
 このシステムは、タップリと量感のあるやや柔らかい低域をベースとし、活発で、輝きがある中高域が巧みにバランスした音である。中域は、3ウェイらしくエネルギーがあり、明快であるが、緻密さが、もう少しあってもよいように思う。全体の音色は明るいタイプで若々しい印象がある。

サンスイ SP-G300

菅野沖彦

スイングジャーナル 2月号(1977年1月発行)
「SJ選定新製品」より

 ジャズをリアルにきいて、音楽的実体験をするのが私の理想である。音楽的実体験とは自分が、音楽する行為であって〝今、レコードを聴いている〟などというさめた、なまぬるいものではない。自分の頭の中、心の中、身体中にみなぎる音の表現が、スピーカーから出てくるそれと完全に同化し一体化することといっていいかもしれない。コルトレーンのレコードをかける時はコルトレーンになりきり、ロリンズではロリンズになりきるのだ。八城一夫が弾くピアノは自分が弾いているのである。こうなりきれるには、その演奏表現が自分と同化できるものでなくては駄目で、異質な表現、異なる呼吸、くい違うリズムが演奏されるとこの行為は破壊され、私は音楽から完全にはずれ、おいてけぼりを喰い、しらける。趣味のあわないセンスも決定的に、この行為を不可能にする。好きなアーティストや好きなレコードとは、この行為を可能にしてくれるものだと思っている。音楽の理解とは、こういうことなのではないかと思うのだ。嫌いだ、合わないという断を下す前には、自分自身が、その音楽の次元に至っていないことをも謙虚に内省すべきであるし、努力してその音楽と一体になるべく自分を磨くぺきだとも思う。しかし、どうしても自分に合わないものは必らず存在するものだろう。
 レコードは反復演奏が可能なために、こうした一体行為への努力をするには都合がいい。もちろん、一度も聴いたことのないアーティストの演奏会で、初めての出合いで一体化し得ることもまれにあるし、そんな時の喜びは、もう筆舌に尽し難い。
 レコードをかけて、この一体化の行為を営む時に、私にとって再生装置のクォリティや録音制作の質と性格は大変に重要なのである。それがジャズである場合、私は、どうしても、高い音圧レベル、大きな耐入力をもった余祐あるスピーカー・システムが必要なのだ。ちょっとパワーを入れると歪んだり、危っかしくなるようなスピーカーは、せっかく、好きなアーティストと素晴しい録音であるにもかかわらず、私のしたい一体化の行為、つまり、音楽的実体験に水が注がれてしまう。私が使うリアルとか、リアリティとかいう言葉は、この音楽的実体験という意味であって、決して、生と似ているという狭い範囲の意味ではない。生と似ていることそのものは結構であるがたとえ、生と比較して違いがあっても、この実体験が出来れば、私はレコードと再生装置に100%満足する。むろん、この実体験の基本的な感覚は生の音楽を聴くことにより、下手ながら楽器を弾くことにより育ったものであるが……。
 このサンスイの新しいスピーカー・システムは、私に、この実体験をさせてくれた。抜群の許容入力と堂々たる音圧レベル。まず、この最低条件をよく満たしてくれた。いくら、この条件が満たされたからといって、アンバランスな帯域特性や、耳障りな音色の癖がひどくてはやはり白けるが、この点も、まず、私の感覚に大きな異和感を生じさせない。小レベルのリニアリティーもよく、敏感にピアニッシモに反応するしスタガーに使われているという2つのウーハーとツイーターのつながりもスムースで快い。難をいえば、低音に、もう一つ、柔軟さと軽やかさがほしい。ツイーターとのつながりからも感じられるのだが、このウーハーの中音から高音へかけての質と、ネットワークによるコントロールは見事であって、それだけに、低音に欲が出るのである。実体験をしている最中に、いい意味で一体化からはぐらかされることがある。それは、あまりにも素晴しい音がスピーカーから出る時だ。聴きほれるというのだろう。このサンスイSP−G300には、そこまでの魅力はない。幸か不幸か、私の音感覚のほうが、このスピーカーよりちょっぴり洗練されているらしいと思いながら、しかし、全く白けることなくジャズを体験することが出来たのである。

ソニー SS-G7

菅野沖彦

スイングジャーナル 1月号(1976年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ソニーが私の感覚のアンテナにひっかかるスピーカーを出してくれた。長年にわたって同社は、スピーカー・システムに力を入れてはきたが、不幸にして、これはいけるという感じを率直に持てたものがなかった。
それも大型システムほど不満があって、スピーカー・システム作りの困難さを推察していたのである。もっとも、同社が、ユニット作りから本腰を入れ始めたのは、比較的最近のことであるらしい。しかしながら、このソニーSS−G7のようなシステムを作ることが出来たのは、明らかに開発者の熱意と、オーディオの実体への認識が支えになったことを思わせるのである。変換器としての物理理論とデータの確認だけでは、良いスピーカーが出来ないという過去の事実を謙虚に受けとめ、より緻密な科学的分析と、録音再生のメカニズムのプロセスへの一層の理解と実体験を積み重ねた結果の、一つの成果が結実したことは同慶にたえない。
 SS−G7は、38cm口径をベースにした3ウェイ・システムで、ミッド・レンジが10cm口径のバランス・ドライブ型と同社が呼称するコーン・スピーカーだが形状は、ドームとコーンの中間的なもの、ツイーターは3・5cmのドーム型である。ウーハーのコーンはカーボコーンと称する同社のオリジナルで、炭素繊維とパルプの混合による振動系にアルニコ系鋳造マグネットによる効率のよい磁気回路、駆動ボイス・コイルは100φの強力型で、優れた耐入力特性と高いリニアリティを得ている。スコーカーはコーンだが、実効的にはドームに近く、ツイーターは、20μ(ミクロン)厚のチタン箔の振動板だ。これらのユニットは、バッフル上にプラムインラインという方式で取付けられているが、これは、各ユニットの取付位置をただバッフル平面上につけるのではなく、振動板の放射位相関係を調整し、音源の等価的位置をそろえるという考え方のものだ。エンクロージャーは位相反転型だが、造りのしっかりしたもので、バッフル面は、これまた同社らしい特別な呼称がつけられている。AG(アコースティカル・グルーヴド)ボードというそうで碁盤の目のように表面がカットされていて、これによって、指向性の改善が得られているという。 たしかに、このスピーカー・システムの音は、豊かな放射効果を感じさせるもので、プレゼンスに富み、音像の定位も明解だし、豊潤なソノリティが、楽音をのびのびと奏でるものだ。ユニット配置の工夫や、AGボードが生きているとしたら、これ1つをとっても、従来の無響室における軸上特性の測定などが、いかに微視的な氷山の一角を把えていたに等しいかが評明されるだろう。ユニットやネットワークにもやるべきことを真面目にやって、さらに、それを音響的に多角的な検討をしてシステムとしてのアッセンブルに移すというオーソドックスなスピーカー作りの基本を守りながら、聴感を重視して試行錯誤をくり返した努力の跡がはっきりわかるのである。とにかく、このスピーカー・システムは、音楽が楽しめる音であり、楽器らしい音が再現される点で、ソニーのスピーカー・システム中、飛び抜けた傑作であると同時に、現在の広く多数のスピーカー・システムの水準の中で評価しても、まず間違いなくAクラスにランクにされる優れたものだと思う。
 この、SS−G7の試聴感を率直にいえば、やはりウーハ一に大口径特有の重さと鈍な雰囲気がつきまとうのが惜しい。しかし、これは、この製品、SS−G7に限ったことではなく38cmクラスのウーハーのほとんどが持っている音色傾向であるといえよう。
今後の課題として、この中高域の質に調和した、より明るく軽く弾む低音も出せる大口径ウーハーが出現すれば文句なしに第一級のシステムといえる。しかし、この価格とのバランスを考慮して、商品として評価をすれば、これは賞讃に価いする。今後の同社のスピーカーにさらに大きな期待を抱かざるを得ない傑作だと思う。

タンノイ Arden, Eaton

瀬川冬樹

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 ARDENを、レクタンギュラー・ヨークとくらべてタンノイの堕落と見る人があるが、私はその説をとらない。エンクロージュアの木質や仕上げが劣るというのなら、初期のオートグラフからIIILZに至る一連の製品のあの艶のある飴色のニスの光沢──その色と艶は使い込むにつれて深みを増したあの仕上げ──にくらべれば、チークをオイル仕上げして日本で広く普及しはじめてからのレクタンギュラー・ヨークの時代から、堕落はすでに始まっていた。そういう見方をするなら、JBLも〝ハーツフィールド〟以前の高級機では、木部のフィニッシュに四通りないし五通りの種類と、それに合わせてグリルクロスが指定できた。いまはそういう時代ではない。残念なことには違いないが、しかしそれはスピーカーに限った話ではなく、もっと大局的にものを眺めなくては本質を見あやまる。
 すでにヨークの後期から、タンノイはユニットの改良に手をつけている。最大の変化はウーファーのコーン背面の補強リブの新設。それにともなって全体が少しずつ改良され、呼び方も〝デュアル・コンセントリック・モニター〟から、単にHPD385A……というように変ってきている。が、そこに流れる音の本質──あくまでも品位を失わない、繊密でしっとりした味わい──には、むしろいっそうの磨きがかけられ、現代のワイドレインジ・スピーカーの中に混っても少しも聴き劣りしないどころか、ブックシェルフのお手軽スピーカーから聴くことのできない音の密度の高い、味わいの濃い、求心的な音楽の表現で我々に改めてタンノイの良さを再認識させる。
 新シリーズはニックネームの頭文字をAからEまで揃えたことに現れるように、明確なひとつの個性で統一されて、旧作のような出来不出来が少ない。そのことは結局、このシリーズを企画しプロデュースした人間の耳と腕の確かさを思わせる。媚のないすっきりした、しかし手応えのある味わいは、本ものの辛口の酒の口あたりに似ている。

ロジャース LS3/5A

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 英国のスピーカーシステムには、モニターの名称をつけた製品が多いが、英国放送BBCで採用している正式なモニターシステムとしては、KEFのLS5/1Aがよく知られている。ロジャースのLS3/5AもBBCモニターとして採用されている超小型のシステムである。
 LS3/5Aは、低域はさほど伸びていないが腰が強くクリアーな低音であるために、聴盛上の不足はあまり感じない。また、2ウェイシステムであるがウーファー口径が小さく、トゥイーターとのクロスオーバーが低いために、中域がしっかりとしているのが特長である。ステレオフォニックな音場の拡がりは、英国の近代型システムの独得の魅力だが、このシステムも音像定位がクリアーでピシッと焦点を結んだように立上がり、まるで、音を聴くというよりは音像が見えるようにクッキリとしている。クォリティは大変に高く、アンプ、カートリッジのキャラクターをストレートに見せるあたりはやはりモニターである。

ラウザー TPI Type D

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 スピーカーシステムが、ブックシェルフ型全盛になり、ウーファー、スコーカー、トゥイーターなどの専用ユニットを組合せるマルチウェイ方式が大勢を占めようが、LP時代から一貫して中口径のフルレンジユニットのみを作り続けている英国・ラウザー社は、現在では貴重な存在といえよう。
 数ある同社のスピーカーシステムのなかで、長い伝統を誇る機種は、独得なデザインをもったTP−Iであろう。このデザインは、TP−Iが珍しいエンクロージュア形式を採用しているためで、ドライブユニットの前面には比較的短かいフロントホーン、背面は折たたみ型で全長が長いバックローディングホーンをもつ、いわば複合型ホーンエンクロージュアを、さらにコーナー型とし、部屋のコーナーに設置したときに両側の壁面と床の三面を積極的に低音用のバックローディングホーンの延長として使うタイプだ。
 使用ユニットは、振動系にラウザー独得のサブコーンつきの白いコーン紙を使う数あるユニットのなかでは強力型のPM−3である。このユニットは、あたかもSP時代の英国・フェランティ社のユニットを思わせるような超大型磁気回路にスピーカーフレームがとまっているような珍しい製品で、同社のPM−6ユニットなどにくらべると、ひとまわり大きなディフューザーつきである。このシステムの独得な音は、まさしく他のシステムでは得られぬ、かけがえのないもので、いわば麻薬的な魅力といったらよいだろう。

キャバス Brigantin

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ヨーロッパの大型フロアーシステムは、大半が英国の製品であり、それも伝統的な永いキャリアーを誇るモデルが多いなかにあって、フランス・キャバス社のトップモデル、プリガンタンは、設計時点が新しい大型システムとして珍しい存在である。
 38cmウーファーと中音、高音にドーム型を採用し、各ユニットは、音源を垂直線上に揃えたステップ状のバッフル板に取付け、位相を合わせているが、早くからORTFのモニターシステムで、この方式を使っている同社らしいところだ。このシステムは、粒立ちが細かく、充分に磨き込まれた滑らかな音である。反応が軽快で早く、独得な華やいだ明るさが魅力的で、艶めいた雰囲気を漂わせる。

アコースティックリサーチ AR-10π

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ブックシェルフ型スピーカーシステムの創始者である米AR社のブックシェルフ型システムのトップモデルである。基本的には、長くARの中心機種として高い評価を得ているAR−3a型を発展させたシステムと考えられるが、このシステムのもっとも大きな特長は、ウーファーのレベルコントロールをもつことであろう。設置条件の変化に応じて3段に変化するこのコントロールは、かなりの幅で、トータルなシステムのバランスを変えることができる。
 ハイパワーアンプとの組合せで、広い部屋で使えば驚くばかりの豊かな低低域が再生されるが、細やかさの表現でも、並のブックシェルフ型では及びもつかない繊細さも充分に聴かせてくれる。

デンオン SC-107

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 国内のスピーカーシステムとしては、異例の海外製スピーカーユニットを採用したモデルとして成功を収めたデンオンのSC104の上級モデルが、SC107として発売されることになった。
 本機は、やや大型のブックシェルフ型システムだが、前面ネットの部分が色調として明るくなったために、外観からは既発売のSC104とシリーズをなすモデルとはわからない。
 ユニット構成は、3ウェイ・3スピーカー型で、各ユニットは、ユニットメーカーとしてヨーロッパで定評が高いデンマーク・ピアレス社製である。
 ウーファーは、口径25cmユニットを2個並列動作で使用している。コーンは、多孔質の紙に制動剤を塗ってある。スコーカーは、口径10cmユニットで、フレームは軽金属のダイキャスト製でバックチャンバーは一体化してある。コーンは、裏面に制動剤を塗ってあり、アルミ製ボイスコイル、発泡ウレタンのロールエッジ付である。
 なお、バックチャンバー内部には、リング状にグラスウールが入っている。トゥイーターは、口径5cmのコーン型ユニットが2個並列使用である。コーン紙は、制動剤が塗ってあり、センターキャップは薄いアルミ箔を成形して高域レスポンスを伸ばしたタイプである。
 LCネットワークは、ウーファー用Lだけが直径1mmの銅線をフェライトコアに巻いて抵抗値を抑えてあり、その他は空芯コイルである。コンデンサーは、すべてプレーン箔型を使用している。
 エンクロージュアは、完全密閉型で、5個のユニットは、ブチル系のパテを使って空気もれのないようにセットしてある。エンクロージュア材質は、リアルウッドの化粧板を張った、板厚20mmの硬質パーチクルボードが全面に採用してある。レベルコントロールは、エンクロージュアのリアパネルにあり、トゥイーターレベルだけが、連続可変で±2dBの狭い範囲だけ変化させるタイプである。
 本機は、トゥイーター、ウーファーともにパラレル駆動を採用した点に特長があるが、リニアリティを向上し、ダイナミックレンジを広くしようとの目的で、この方式が採用されたとのことで、とくにウーファーのパラレル駆動は、スピーカーシステムとして、設置場所の条件による影響を受け難いメリットがあるとしている。
 SC107の音色は、やや柔らかみがあるウォームトーン系である。低域から中低域は質感は柔らかいタイプだが、量感があり、豊かさが魅力である。中域は、さほど粒立ちが細かいタイプではないが、適度の張りがあり、ヴォーカルなどの音像は明快である。高域は、適度にハイエンドで帯域コントロールされているようである。トータルなバランスがよく、充分に抑揚があり、ハーモニーを豊かに再生するのがこのシステムの魅力である。

パイオニア CS-516

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 型番末尾に16がつくスピーカーシステムは、すでにCS616が発表されている。本機は、基本的にはCS616のスコーカーを外して2ウェイ化したシステムと考えてよい。
 低音は、国内製品としては珍しく浅いコルゲーションつきコーンの25cmユニットであり、高音は4・5cm口径のストレートコーン使用のコーン型である。エンクロージュアは、左右専用型のバスレフ方式を採用している。
 このシステムは、ダイナミックでアクティブな音が魅力的だ。音楽を外側から確実に掴み、聴かせどころをピシッと駄あたりは、かなりバタ臭い印象である。ともかく、聴いてみなさい! 楽しい音のスピーカーだよ。というのがピッタリである。

パイオニア CS-655

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 完全密閉型エンクロージュアと、3ウェイ構成を採用している点では、CS755と共通性があるが、使用ユニットは、すべてこのシステム専用に開発されたようで、その意味での関連性はない。
 ウーファーは、25cm口径のユニットで、設計の基本はCS755のウーファーと同様である。スコーカーは、ダイアフラム背面のバックチャンバーに特殊発泡吸音材を使用した無共振設計で、口径6・5cmのドーム型。トゥイーターは、チタンダイアフラムを採用した2・5cmドーム型だ。エンクロージュアは、針葉樹パーチクルボードを使ったエッジレス構造で、ユニット配置は、CS755同様に左右対称の専用型である。

パイオニア CS-755

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 今秋発表されたパイオニアの新しいスピーカーシステムは、異なった2つの性格をもったシリーズにわけることができる。一方は3桁の型番の末尾2桁が55であるシリーズであり、他方は同じく、16のつくシリーズである。
 CS755は、3モデル発表された55シリーズの真中に置かれたシステムである。エンクロージュアは完全密閉型で、ユニット構成は3ウェイ・3スピーカーという、もっともオーソドックスなタイプだ。ウーファーは、30cm口径で、磁気回路は直径156mmの大型フェライト磁石を採用し、ポールピースに銅キャップをつけ、磁気歪を低くしている。また、振動系の重量バランスと動的な変形防止の目的でマスバランスボイスコイルリングを使用している。スコーカーは、口径6・5cmのドーム型で振動板はベリリウムで、支持には、デュアルサスペンション方式を採用している。トゥイーターは、同様に2・5cm口径のベリリウム振動板を使うドーム型である。
 CS755は、聴感上の帯域が広く、各ユニットはスムーズにつながり、レスポンスがフラットな印象が強い。音色はスッキリと明るく、粒立ちが細かく、透明なことでは、従来のパイオニアのシステムとは、一線を画した質的向上が感じられる。

クリプシュ KB-WO Klipsch Horn

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

「Kホーン」というのが50年代後半の米国超豪華型システムとして、本物かどうかの判別の決め手といわれた。それほどまでにKホーンは高級ファンから高いイメージで迎えられていた。
 Kホーンとは、クリブシュホーンの略称であり、40年代にKホーンとして左右の壁面を開口に利用した折返し型コーナーホーンを発明した人の名をつけたものだ。各社の最高級大型システムが採用し、一時期米国製の豪華型はほとんどすべてKホーンまたはその亜流としてあふれたほどだ。
 当然クリプシュ自体のシステムがあったが、各社それぞれ力いっぱい宣伝し力を注いだからオリジナルは永い間ややかすんでいたという皮肉な状態だった。
 60年代に入りやがてステレオが普及してARなどのブックシェルフ型の普及と共に超大型システムがすっかり凋落したあと、最近になってこのクリブシュホーンのオリジナル製品は米国でもやっと脚光を浴びてきつつある。このクリプシュK−B−WOは木目を美しく出した家具調のオーソドックスなスタイルに38cmでドライブするKホーンと、中音、高音にそれぞれホーン型ユニットを配した3ウェイシステムだ。Kホーンの大きな特徴たる低音の豊かさは、ちょっと想像できないほど力強く、アタックのシャープな深い低音エネルギーをいとも楽々と再生してくれる。いや、こうした音そのものの類いまれなすばらしさ以上に、オリジナル・クリプシュホーンとしてもつ十分すぎる価値を保っていよう。

ダイヤトーン DS-25B

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 コーン型ユニットを使う2ウェイ構成であり、エンクロージュア形式がバスレフ型となると、もっともダイヤトーンが得意とする伝統的なノウハウを生かせるスピーカーシステムである。ウーファーは、25cm口径で、ボイスコイル部分にゴムのダンプリングをつけ、クロスオーバー付近の特性を改善しているのは、DS40Cのウーファーと同様な手法である。トゥイーターは、5cm口径のコーン型で、コーン紙背面のバックチャンバーの容積が大きく、チャンバー内の残響を抑えるとともに、残響時間の不均一を防ぐスリット上のオリフィスを設けたサブフレームを取つけ音響制動をかけた無共振チャンバーを採用、振動系はコーン紙中央にチタン製ダイアフラムを使い分割振動を抑えている。
 DS25Bは、音に活気があり表情が明るく、伸びやかな魅力がある。基本的には、正統派のシステムだけに、物理特性的に不足感はなく、質的にもこのクラスでは抜群の高さがあることは特筆すべきことで、かつての発売時点でのDS251の再来と感じさせるダイヤトーンの快心作だ。

アルテック 620A Monitor

岩崎千明

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「世界の一流品」より

 もう20年も前に焼跡の中に立ったバラックの並ぶ、銀座の裏のちっぽけなジャズ喫茶の紫煙にけむる奥から聴えたディキシーを、本物の演奏とすっかり間違えさせたのが、アルテックの603Bだった。それ以来アルテックの15インチ・コアキシャルは、深く脳裏にきざみこまれた。やがてレコード会社でモニター用に鳴っている604Eに耳を奪われて、一生のうちに一度はこのアルテックの15インチ・コアキシャルを自分の手元で、と心に誓った。だから僕にとっては、アルテック604Eは他のいかなる愛用者にも劣らぬ、もっとも強いあこがれそのものとして、オーディオの象徴的な存在であった。その後アルテックのシステムを仕事の上で接触することはあっても、高価なこのユニットは、なかなか手にできなかった。
 604Eが8Gとなってワイドレンジ化した際に、やっと20年の念願かなって入手できたとき、それはやはり何にも増して感激に満ちたわが部屋での音出しであったし、それは20年前のあのディキシーランドと同じキッド・オリーの10インチ・モノーラル盤で始めたものだ。トロンボーンの雄大な力強さは、やはりこの604−8Gでなければ出せ得ない響きだった。しかし、ステレオ版になって604は、より以上の真価を発揮してくれた。それはもうしばしばいわれるように、コアキシャル独特のユニット配列から得られるステレオ音像の定位の確かさで、業務用としてアルテック・コアキシャルでなければならぬ理由も、ただこの一点が大きくものをいいそうだ。