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スペンドール BCII

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるいさわやかな音のピッチカートだ。少し細すぎるかもしれない。
❷輪郭はしっかりしているが、ひびきにもうひとつ力がほしい。
❸それぞれのひびきの特徴を鮮明に示してこのましい。
❹第1ヴァイオリンの音にもう少し艶がほしい。低音弦のまとまりはいい。
❺もりあがり方に無理はない。クライマックスで示される力も一応のものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ひびきはさわやかで、音楽的なまとまりもいい。
❷音色的な対比は鮮明だが、ふかぶかしたひびきがほしい。
❸「室内オーケストラ」ならではの軽やかさは示す。
❹きわめてさわやかだ。すっきりとした提示はこのましい。
❺鮮明だ。軽く、キメ細かいひびきがいきる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶定位は大変にいい。一種なまなましさもある。
❷言葉が、重くならず、しかもすっきりたつ。
❸少し後にひきぎみのロザリンデとクラリネットの対比がとてもいい。
❹はった声がしなやかさを失わないのはいい。表情の誇張がない。
❺うたいてとオーケストラとのバランスがよくとれている。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに軽やかさと敏捷さがあるために、不自然さがない。
❷声量をおしたからといって、言葉が不鮮明になったりしない。
❸残響がまったく切りおとされているというわけではないが、言葉は鮮明だ。
❹各声部のからみを不明瞭になることなく示す。
❺声のしなやかさを示しつつ、自然にのびる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンの硬さとポンの柔らかさの対比を充分につける。
❷後方からのきこえ方は、ひろがりを感じさせてこのましい。
❸浮遊感は充分だ。ひびきにべとつきがないためといえよう。
❹充分に前後のへだたりがとれている。ひろがりの点でも不足ない。
❺ピークでは少しきついが、ぬけはいい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶はるけきひびきが、静かに、ひろがり、さわやかだ。
❷その中央から、次第に姿を拡大してくるギターのひびきが効果的だ。
❸くっきりとひびきの輪郭を示して、まことに効果的である。
❹ここでのひびきに輝きがある。アクセントをつけている。
❺うもれない。しかし、きわだちすぎない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴をすっきりと示す。
❷もう少し力強くてもいいが、一応の効果はあげる。
❸ひびきは、乾いているが、薄くないのがいい。
❹くっきりはずんだひびきで示されるドラムスがいい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方は自然だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にかなりふくらむ。少しふくらみすぎか。
❷オンでとったなまなましさがあり、しかし極端にならないのがいい。
❸音の消え方の提示にこだわりすぎているのかもしれない。
❹少し甘い。ひびきそのものに力不足なところがあるからだろう。
❺音像的な対比ということでは、充分とはいいがたい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきに、腰のすわった力があれば、さらにはえただろう。
❷一応つっこんではくるが、ひびきは金属的になりがちだ。
❸拡大して示すものの、せりだしてはこない。
❹前後のへだたりを示し、見通しの点でも悪くない。
❺アタックの強さを示しきれず、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶すっきり示す。程よい距離感も示せている。
❷ひびきのキメ細かさが、ここでは有効な働きをしている。
❸一応きかせはするが、輪郭はあいまいだ。
❹スケールのゆたかさは、ついに示しきれない。
❺きこえはするが、ひびきのアクセントたりえない。

オーレックス SS-930S

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶まろやかな、力の感じられるピッチカートは、悪くない。
❷くっきりした輪郭をもった低音弦のスタッカートはいい。
❸音色対比に、誇張感がなくていい。低音弦のまとまりがいい。
❹たっぷりひびく第1ヴァイオリンのフレーズに魅力がある。
❺力をもったクレッシェンドは迫力にとむ。クライマックスも効果的だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像的にはほどよくまとまり、ピアノのひびきのゆたかさがいい。
❷音色対比は、自然で、きまじめなところがある。
❸「室内オーケストラ」のひびきとしてはいくぶんふくらみすぎか。
❹もう少ししなやかでもいいかもしれない。
❺木管楽器のひびきに対しての反応はいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶このまろやかさをあきらかにし、言葉をきわめて鮮明に示す。
❷アイゼンシュタインの声の質は、なかなかいい。
❸たっぷりしたオーケストラのひびきと声との対比は自然だ。
❹歌のこまかい表情をわざとしらくしないのがいいが、はった声は幾分硬い。
❺オーケストラと声とのバランスに無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに肉がつきすぎて、低い方の声がせりだしがちだ。
❷声量をおとしたところでの、鮮明さがほしい。
❸言葉の細部の提示ということでは、いま一歩だ。
❹各声部のからみはさらに明瞭であってほしい。
❺「ラー」はのびるが、いくぶん誇張気味だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンというひびきの硬質な性格をよく示す。
❷奥出のひびきは、弱音ながら、積極性がある。
❸広さを感じさせはするが、音の飛び方はたりない。
❹前後のへだたりはとれるが、さらにひびきの敏捷さがほしい。
❺ピークは力をもったひびきで大きくもりあがり、迫力にとむ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶暖色系だが、粒のこまかいひびきが、すっきりひろがる。
❷中央から、くっきりたちあがってくるギターの音はいい。
❸このひびきはもっとくっきり提示されるべきだろう。
❹このひびきの輝き方は、不足ぎみである。
❺うめこまれはしないが、効果的とはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの音がはりだしすぎのように感じられる。
❷ひびきの厚みを示すが、さらに切れが鋭くてもいいだろう。
❸さらにからっとしたひびきで示されることが望ましい。
❹ドラムスの音にエネルギーは感じられるが、重い。
❺バック・コーラスの言葉のたか方は、ものたりない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力は示すが、音像的に大きすぎるようだ。
❷オンのなまなましさはあるが、誇張感がなくもない。
❸消える音の尻尾を拡大して示す傾向がある。
❹必ずしもシャープに対応しきれているとはいえない。
❺音像対比は十全とはいいがたく、不自然さがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが総じて重く、力はあるが、鈍さがついてまわる。
❷ブラスのひびきは、力をもってせりだす。
❸フルートによるひびきは、力にみちているが、横にはひろがらない。
❹後へのひきはかなりとれている。しかし、見通しは充分とはいいがたい。
❺リズムの刻みがさらに積極的に前にでてほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置は、比較的近くに感じられる。
❷尺八固有のひびきに対応するためには、より一層肉がおちてもいいだろう。
❸ひびきの輪郭はあいまいになるが、きこえる。
❹消える音の尻尾を示し、一応のスケールゆたかな感じもわかる。
❺ききとれなくはないが、アクセントとして充分な働きをしていない。

ルボックス BX350

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶からっとしたひびきで示されるピッチカート。あいまいさのないのがいい。
❷くまどりたしかな、力をもったスタッカートだ。音に力がある。
❸拡大して示しはするが、ひびきの特徴をよくとらえている。
❹腰のすわった第1ヴァイオリンのひびきはなかなか魅力的だ。
❺クライマックスは力にみちているが、弦にはもう少ししなやかさがほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はくっきりしている。たしかなひびきがいい。
❷必要充分に音色的対比を示してこのましい。
❸さわやかさが感じられる。ひびきのふくらみすぎないのがいい。
❹これみよがしにならず、きれいに示す。
❺フルートのひびきがさわやかでいい。あいまいにならないよさがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶舞台のひろがりを感じさせるひびきだ。声は少し硬めだが。
❷接近感を、無理なく、自然に、なまなましく示す。
❸声とオーケストラのバランスは折目正しく、すっきりさわやかだ。
❹うたう声も硬めだが、言葉のたちあがり方はいい。
❺声と楽器のひびきのとけあい方が自然だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位がいい。横一列に並んでいる感じがわかる。
❷余分なひびきをひきずっていないので、言葉は鮮明だ。
❸言葉の輪郭をくっきり示すが、几帳面にすぎるかもしれない。
❹ソット・ヴォーチェになった時に、もう少し声のまろやかさがほしい。
❺音の消え方が幾分段取り的になりがちだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的にも、音場的にも、充分にコントラストがついている。
❷奥へのひびきが充分で、シンセサイザー固有のひびきへの対応もいい。
❸浮遊感は必ずしも充分とはいえない。提示される空間は広い。
❹前後のへだたりがとれている。ひびきの明るさがいい。
❺ピークで示される力は充分だ。ひよわにならないよさか。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方で左右に、かすみがたなびくようにひろがる。
❷❶の中央から力をもったひびきで次第に前におしだしてくる。
❸ひびきの特徴を確実におさえたよさがある。
❹ひびきに充分な輝きがあり、効果的だ。
❺うめこまれてはいないが、ことさらきわだつわけではない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶くっきり思いきりのいいひびきが、ここでいきる。
❷サウンドに厚みが感じられ、ここで求められる効果が感じとれる。
❸ひびきの特徴の示し方にあいまいさがなく、このましい。
❹ドラムスのつっこみは、力があり、みごとだ。
❺言葉は、いささかもあいまいにならず、すっきりたつ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶中身がぎっしりつまった筋肉質なひびきのよさがいきる。
❷オンで録音したが故のなまなましさを示すが、誇張感はない。
❸必ずしも消える音の尻尾を充分に示すとはいえない。
❹細かい音の動きに対しての反応はシャープで、効果的だ。
❺不自然な音像差がなく、ひびきに力が感じられる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを充分に感じさせてこのましい。
❷ブラスのつっこみは、鋭く、前にでる。
❸前に力をもってはりだして、効果的である。
❹後方へのへだたりがとれ、音の見通しはきわめていい。
❺力感があり、くっきりとめりはりをつける。

座鬼太鼓座
❶自然な距離感を、無理なく示す。しかもすっきりとした提示だ。
❷尺八のひびきとしては、いくぶん異色ながら、まずまずだ。
❸ここでのひびきの輪郭を強調しすぎているかもしれない。
❹ひびきは力をもって特徴的だが、大太鼓らしさは稀薄だ。
❺くっきりと示して、充分に効果をあげる。

KEF Model 105

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶細く、薄いひびきのピッチカート。もう少し音に力があってもいいだろう。
❷低音弦のスタッカートならではの力が感じとりにくい。ひびきが遠い。
❸特徴あるひびきの提示は鮮明だが、力のある音がほしい。
❹第1ヴァイオリンの艶のあるひびきはなかなか魅力的だ。
❺クレッシェンドへの対応のしかたは充分だが、もうひとつ力に不足する。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像はふくらまず、くっきり定位してこのましい。
❷あざやかに対比させてこのましい。ひびきに深みがほしい。
❸「室内オーケストラ」ならではのひびきの軽やかさへの反応がいい。
❹ひびきは、細く、薄くなりがちだが、しなやかさを失わないのがいい。
❺木管楽器のひびきへの対応は大変にいい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のなまなましさを、キメこまかに示す。定位もいい。
❷言葉のたちあがり方がいい。人物の動きも鮮明だ。
❸声とオーケストラのひびきのとけあい方は自然だ。
❹はった声が、硬くはならないが、薄くなる。ニュアンスに欠ける。
❺オーケストラと声のバランスに無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶上下のバランスがよく、すっきりときこえる。定位もいい。
❷声量をおとしても言葉が不鮮明にならないのはいい。
❸残響が充分に切りおとされているので、すっきりと細部が示される。
❹ソット・ヴォーチェでの各声部のからみは明瞭だ。
❺自然にのびて声のしなやかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶対比は必ずしも十全とはいいがたいが、まずまずだ。
❷奥の方でのひびきの広がりはきわめていい。
❸軽く、色にすれば青い色がこきみよく浮きあがる。
❹前後のへだたりは充分で、広々としている。
❺ピークでの力不足は明らかで、迫力に欠ける。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかなひびきの奥の方でのひろがりは美しい。
❷❶との音の質的・性格的対比が充分とはいいがたい。
❸このひびきの特徴を充分に示しているとはいいがたい。
❹このましく光って、ここでのアクセントたりえている。
❺うめこまれてはいないが、エフェクティヴとはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきの特徴は示すが、全体的なサウンドは薄味だ。
❷個々のひびきが分離してきこえ、厚みを感じさせにくい。
❸ひびきの切れはいいが、力強さに不足している。
❹ドラムスの音色的な特徴はいいが、力感という点でたりない。
❺バック・コーラスでの声の重なり方をよく示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像としてのまとまりはいいが、迫力がたりない。
❷オンのなまなましさを十全に伝えきれていない。
❸音の尻尾に対しての反応のしかたは、甘い。
❹シャープに対応できているが、力強さに欠ける。
❺音像的な対比の面ではまずまずというべきだろう。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックに充分な強さがないので、切れこみが弱くなる。
❷浅いひびきで、力が不足するために、つっこみがたりない。
❸横にはひろがるが、前に進む力がたりない。
❹奥へのひきはとれているが、トランペットのひびきは刺激的になる。
❺ひびきが総じて腰高なために、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶充分な距離感を示しえている。ある種のなまなましさがある。
❷尺八の音色的な特徴に対しての反応は、このましい。
❸一応ききとれはするものの、ひびきの輪郭はぼける。
❹どう考えてもスケールゆたかとはいいがたい。
❺硬質なひびきの特徴をよく示して、有効だ。

サンスイ SP-G200

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶幾分乾いた音だが、すっきりと示すところはいい。
❷へだたったところでひびいているようにきこえるが、くまどりはつく。
❸木管群とヴァイオリンのフラジオレットの対比にもう少し鮮明さがほしい。
❹第1ヴァイオリンのひびきに艶が不足し、低音弦がふくらみすぎる。
❺クライマックスでの高音弦は硬質になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像がいくぶん大きくふくれるのが気になる。
❷音色的な対比はつくものの、ひびきにキメ細かさがほしい。
❸「室内オーケストラ」らしい繊細さと軽やかさが不足ぎみだ。
❹ここでのひびきの特徴は示すが、粗い。
❺木管楽器特有のしなやかなひびきがききとりにくい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶特にアデーレの方の声が硬くはって、耳ざわりだ。
❷接近感を誇張ぎみに示す。声に反響がついている。
❸声が硬くなってはりだす。木管にひびきの丸やかさがたりない。
❹かなり硬い。声のしなやかさがききとりにくい。
❺さまざまなひびきがもう少しとけあってきこえてもいいだろう。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸がなく横一列に並んでいるのがわかるのはこのましい。
❷声量をおとした分だけ言葉が不明瞭になる。
❸残響をひきずりがちなため、もうひとつくっきりしない。
❹重くひきずりはしないが、声本来のしなやかさがたりない。
❺もう少し自然に、やわらかいひびきでのびてもいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比は一応つくが、硬軟の差が示されにくい。
❷後方からしのびこむひびきのキメが粗い。
❸横にはひろがるが、奥へのひきはたりない。
❹横長の音場だ。そのために音の飛びかい方が充分でない。
❺積極的に前にはりだしてくるものの、ピークのひびきは硬い。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきがもう少しキメこまかいと、さらにはえるだろうが。
❷ギターの音像がもともと横に大きくひろがっている。
❸積極的にひびくが、そのひびきの実在感が不足する。
❹ひびきの光り方がさらに積極的でもいいだろう。
❺他のひびきにうめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターのひびきだったら、もう少し輝いてもいい。
❷ひびきがとけあって厚みを感じさせるようになっていない。
❸ハットシンバルのひびきはもう少し乾いていてもいいだろう。
❹ひきずらないのはいいが、きりっとした力がほしい。
❺バック・コーラスの効果はさほどでもない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。入れものの中でひびいているかのようだ。
❷クローズアップ感を強調する傾向がある。
❸消える音の尻尾をゆたかにひびかせる。
❹細かい音に対しての反応は、もう少し敏捷であってほしい。
❺音像的な対比の面で少なからず不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ある種のはなやかさはあるが、アタックは甘い。
❷積極性はあるが、ひびきが刺激的になりがちだ。
❸横へのひろがりは充分だが、前へのせりだし方がたりない。
❹前後のへだたりが不足しているので、ここでの効果は不充分だ。
❺一応のめりはりはつけるものの、ひびきははずみがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置はかなり近い。へだたりがない。
❷尺八の音色的な特徴の提示ということではもう一歩だ。
❸かすかな音できこえるものの、輪郭はさだかでない。
❹スケール感は示すが、ひびきに力がほしい。
❺かなり効果的にきこえる。ひびきのアクセントたりえている。

パイオニア Exclusive Model 3301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに、さわやかな力がある。
❷くっきりと、くまどりたしかな低音弦のひびきはなかなかいい。
❸誇張感なく、それぞれのひびきの特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンは、たっぷりと、ゆたかにひびく。
❺力をもってのもりあがりはいいが、高音弦が少し硬い。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音は、ゆたかでまろやかだが、音楽的にはふくらみすぎない。
❷積極的に、あかるく、音色の対比をあきらかにする。
❸腰が重い音ながら、「室内オーケストラ」らしいひびきを示す。
❹わざとらしくなることなく、このひびきの特徴を伝える。
❺ひびきのキメ細かさがいい。わざとらしくなっていない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のなまなましさを粒の細かいひびきであきらかにする。
❷誇張感のない接近感はいい。定位もわるくない。
❸クラリネットと声との対比に不自然さがない。
❹声のまろやかさと艶やかさがもう少し感じられてもいいだろう。
❺バランスよく、わざとらしくないのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸のないのはいいが、定位の点でもうひとつくっきりしてほしい。
❷腰のすわったひびきがここではマイナスに作用している。
❸残響の強調はないが、鮮明さの点でもう一歩だ。
❹吸う息がかなりなまなましくきこえる。
❺のびは自然でわざとらしさがなく、ひろがりを感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比も、音場的対比も、充分についている。
❷後方からのしのびこみは自然で、クレッシェンドも確実だ。
❸ひびきそのものがもう少し軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりが充分なので、広々と感じられる。
❺ひっそりとしのびこんで、たくましくクレッシェンドする。音が前に出る。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶横へのひろがりは、確実だ。あやふやさがない。音質的にはこのましい。
❷❶との音色的対比は充分について、積極的に前にせりだしている。
❸わざとらしくならず、確実にその存在を主張する。
❹他のひびきとのバランスがいいので、効果的だ。
❺不自然にきわだつことなく、充分に効果をあげる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶高い音と低い音とのバランスがとてもいい。
❷ひびきに力が感じられるので、厚みをよく示す。
❸ひびきに確実さがあり、あやふやにならないのがいい。
❹ベース・ドラムが示す力感は、大変にいい。言葉のたち方も充分だ。
❺バック・コーラスの効果がよく示されている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くひかれたダブルベースならではの迫力を感じさせる。
❷オンでとったなまなましさがあるが、誇張感はない。
❸音の尻尾をきわだたせはしないが、充分だ。
❹シャープに、力強く反応していて、このましい。
❺音色的、音像的、音場的対比の点で充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶歯切れのいい、はずみをもった、明るいひびきだ。
❷充分な力感をもって、中央をきりひらいてくる。
❸積極的で、力をもって、前にはりだしてくる。
❹前後のへだたりは充分にとれていて、見通しもいい。
❺ひびきに確実さがあり、めりはりがついている。

座鬼太鼓座
❶距離感も充分で、しかもすっきりきこえる。
❷音色的な点での問題点はほとんどない。
❸不自然にならずきこえて、ひびきの輪郭もわかる。
❹大太鼓ならではのスケール感をつつがなく示す。
❺ほどよくきこえて,わざとらしさがない。

パイオニア Exclusive Model 2301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるく、くっきりピッチカートが示される。あいまいでないよさがある。
❷力をもった、低音弦のスタッカートならではのひびきがきかれる。
❸自然な、無理のないバランスで、それぞれのひびき特徴を示す。
❹たっぷりひびく第1ヴァイオリンはなかなかいい。
❺次第に迫力をましていく音楽の流れにうまく対応できている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノのたっぷりしたひびきがこのましい。音像もほどほどだ。
❷音色的な対比は自然で、誇張感がまったくない。
❸ひびきに力があり、しかもまとまりもいい。
❹しなやかに対応できていて、充分に効果的だ。
❺木管楽器のキャラクターをよく示している。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレを呼ぶ声の強さを、硬くならずによく示している。
❷表情のくまどりをたしかに、しかし誇張感なく、よく示す。
❸手前のクラリネットと声の対比があざやかだ。
❹はった声が、もう少しまろやかでもいいように思う。
❺オーケストラと声とのバランスははなはだいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくれがちだ。もっとこりっとしてもいいだろう。
❷声に肉がつきすぎて、言葉のたち方が弱くなる。
❸残響をひきずっているというわけではないが、言葉はたちにくい。
❹特にソット・ヴォーチェでは、ひびきの軽さの不足が気になる。
❺のびていて、ポツンと切れるようなことはない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶特にピンという音の硬質な性格をよく示している。
❷後方からのひびきは、しゃっきりたって、その後クレッシェンドする。
❸浮き方に力がある。もうひとつ軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりは充分で、ひびきの飛びかい方もいい。
❺ピークで示される力にみちたひびきは圧倒的といっていい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきそのものの性格は暖色系だが、粒はこまかく、さわやかだ。
❷くっきり、力をもったひびきで、中央から前に進んでくる。
❸このましいバランスで、実在感たしかに示される。
❹ことさらきわだつわけではないが、充分に光って有効だ。
❺うめこまれることなく、キラリと光って、ひびきのアクセントたりうる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い音がせりだしすぎないよさがある。
❷ひびきの厚みを腰のすわった音でよく示す。
❸ハットシンバルの金属的なひびきの提示はみごとだ。
❹ドラムスのアタックは、シャープで、力があってこのましい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方も申し分ない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にまとまりがよく、力にみちたひびきがいい。
❷オンのなまなましさが顕著で、誇張した嫌味はない。
❸消え方の提示もあぶなげがなく、効果的だ。
❹シャープな反応はこのましく、迫力にとんでいる。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶横へのひろがりもあり、アタックは強い。
❷金管ならではの輝きのあるひびきをよく示す。
❸力にみたちひびきで、積極的に前にはりだす。
❹後方からきこえるトランペットがひろがりを暗示する。
❺鋭く刻まれるリズムは、めりはりをつけて、有効だ。

座鬼太鼓座
❶充分な距離感を示す。しかもなまなましさを失わない。
❷くっきり示されるが、尺八の音色的特徴をあいまいにしない。
❸きこえて、しかもひびきの輪郭をぼかさない。
❹大太鼓のスケール豊かなひびきによく対応できている。
❺有効な働きをしている。しかしわざとらしくなっていない。

アコースティックリサーチ AR-17

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 質感は必ずしも上等とはいえないが、つまり本来しっとりと艶やかに鳴って欲しいドイツ・グラモフォンやEMI録音のオーケストラや弦合奏の音でも、いささか乾いた傾向のそっけない音で鳴らしてしまう性質がある。がそれを別として、クラシックからポップスに至るどのテストソースを鳴らしても、ことにかなりの音量で鳴らしても、国産の一部のスピーカーにありがちの、ことさら中〜高域を張り出さしたためにヒステリックな音に聴こえたり、あるいはこれみよがしの店頭効果を狙ったり、または中域から低域にかけてのどこか箱の中にこもるような、要するに音域のどこかに不自然さを感じさせるような要素がほとんど感じられず、すべてのプログラムソースを、ひととおり気持よく聴けるという点は、やはりさすがだと思わせる。とはいっても、アメリカの東海岸で作られるスピーカーの大半がそうであるように、聴感上は高域をおさえこんで丸めてあり(それが聴きやすさの一因でもあるが)、また小型であるだけに低域の量感も十分とはいえない。台はやや高め(約50センチ)で、背面を壁につけるのがよかった。音の艶を補うにはSTS455Eがいいかと思ったが、逆にピカリングXSV3000などのように中域の密度の濃い音でドライブする方が、ことにシェフィールドのダイレクトカットなどのソースで一種説得力のある音が得られた。

セレッション Ditton 33

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきが薄い。ピッチカートは音が糸の上をわたっているかのようだ。
❷ひびきはふくらみがちで、本来の力に不足する。
❸フラジオレットのひびきがその特徴を強調する。
❹多少これみよがしに第1ヴァイオリンがひびく。表情を誇張ぎみだ。
❺高音弦が幾分メタリックにひびき、迫力に欠ける。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、かなり大きくふくらむ。
❷音色的特徴を拡大して示す傾向がなくもない。
❸ひびきがふくらみすぎる。もう少しキメ細かさがほしい。
❹ひびきの特徴を示しはするが、これみよがしになりがちだ。
❺ソロをとる楽器がきわだって前にでる。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声は風呂場の中のようにきこえて自然でない。
❷接近感をこれみよがしに示すが、音像は大きい。
❸うたった声も風呂場の中のようだ。クラリネットは音色を誇張する。
❹声のなめらかさがなく、はった声はメタリックになる。
❺ひびきをばらばらに示して、とけあう感じが不足する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の音がふくらみがちで、鮮明さに欠ける。
❷あたかも声が余分なひびきをひきずってきているかのようだ。
❸言葉のたち方が充分でないところがある。
❹ひびきに軽やかさがたりないので、明瞭とはいいがたい。
❺のびてはいるが、自然なのびとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比を、これみよがしに示すにとどまる。
❷奥へのひきはとれるが、クレッシェンドに自然さが欠ける。
❸浮遊感は一応示すが、提示される空間は、むしろ横にひろがりがちだ。
❹前の音と後の音との間で質的に違うところがある。
❺ピークでは硬く、メタリックなひびきになりがちだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきは、かすかとはいいがたく、かなり積極的だ。
❷ギターの音像が大きいので、せりだしてくる効果がいきない。
❸ひびきに力がないので、空虚さがついてまわる。
❹きわめて特徴的なひびき方をする。このひびきがきわだつのは事実だが。
❺くっきり、きわめて特徴的にくっきり示される。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶バスが強調されがちで、そのためにさわやかさに欠ける。
❷ここで求められる効果は示すが、いかにもひびきが重い。
❸ひびきが充分に乾いているとはいいがたい。
❹ドラムスのひびきは、ひきずりがちでシャープさがたりない。
❺言葉がもう少しすっきりたってくれた方がいい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像が極端に大きい。ひびきに力がほしい。
❷いくぶん拡大気味に示すが、なまなましいとはいいがたい。
❸音の尻尾は充分に示すものの、それがスケール感の提示にはならない。
❹反応がさらにシャープなら、より一層の迫力をうみだせるのだろうが。
❺音像的な対比の点で少なからぬ問題がある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきのひろがりは示すが、ドラムスのつっこみに鋭く反応してほしい。
❷太くひろがってきこえてくるので、本来の効果から遠い。
❸大きく横にひろがるものの、はりだすわけではない。
❹もうひとつひきが充分でない。ひびきの目がかなりつんでいる。
❺ひびきがさらにこりっとするといいのだろうが。

座鬼太鼓座
❶尺八は比較的近いところにいる。音像も大きい。
❷脂っぽくなっているわけではないが、かなりふくれている。
❸きこえる。音の輪郭はさだかでなく、ぼやけがちだ。
❹ひびきはひろがるものの、力感の提示で不足する。
❺このひびきに硬質なところがあるとさらに効果的なのだろうが。

サンスイ SP-L150

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 DS30Bと同じ価格なので、どうしても比較の対象になる。全体の鳴り方は、ダイヤトーンよりも軽快で、入力に対する反応が敏捷だ。中〜高域が張り出し気味のところはDS30Bとかなり似ている。というよりもこの作り方が、国産のスピーカーには一般的だ。ダイヤトーンの場合には本誌標準の、約50センチの高めの台で、背面を壁からかなり離す方がよかったが、サンスイの場合には、まず標準台では低域が不足して、そのまま背面を壁につけてもまだ少々物足りなかったので、20センチほどの低い台で背面を壁につけるようにしてちょうどよかった。このことからも低域の特性はDS30Bとかなり違うことがわかるが、たとえばキングズ・シンガーズのコーラスのバランスの音域で、DS30Bがブレストの音がやや人工的に重く聴こえたのに対して、L150の音は自然で軽やかによく動く。高域は、30Bのところでももうひと息ハイエンドの延びが欲しいと書いたが、L150のハイエンドはよく延びて爽やかで自然によくひろがり、したがって楽器のデリケートなニュアンスをよく再現する。アンプの組合せでは、トリオ7300Dのような味の濃い音よりも、ヤマハCA2000のようなさらりとした音の方がよく生かすと感じた。カートリッジはしたがって455EやVMS20E/IIよりはエンパイア系統の方がよく合った。

ダイヤトーン DS-30B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たとえばシェフィールドのダイレクトカッティングのシリーズを、思い切ってハイパワーでドライブしたときにも、音がくずれたり腰くだけになったりせずに、男性的とでもいいたいような、いくらかハードながら力強い緻密さで鳴る。表面的な小細工を感じさせずに、全音域に亘って正攻法で押してくるような音はまさにダイヤトーンの面目躍如たるものがある。ただそれでいて、クラシックのオーケストラを聴いても、従来の製品のどこか強情な感じか抑えられて、硬質の傾向ながらバランス的には一応納得のゆく音で聴かせるところが、いくらか変ったように思える。とくに本誌標準台のような(約50センチの)高めの台に乗せて左右にかなり開いて置くと、空間への広がりの感じもよく出るようになるが、弦合奏のデリケートなニュアンスを聴きとるには、ハイエンドの延びが(以前の製品よりもかなり延びてはきたもののまだ)もうひと息という感じだ。また、高い台ではクラシックの場合に低音の量感がやや物足りないが、といって台を低くするとごく低い周波数でどこか一ヵ所、重く鈍くひきずるような共鳴音が出てくるので、やはり台は高くしたままターンオーバーを低くとったトーンコントロール等で重低音を補いたい。総体にいくらか人工的な味わいのある音色なで、本質的にはポップス系が得意なスピーカーだと思う。

ダイヤトーン DS-90C

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶幾分しめりけのある音ながら、ピッチカートはすっきりとこえる。
❷もうすこしくまどりがついてもいいだろうが、力のあるひびきでいい。
❸誇張感のないひびきで、しなやかにそれぞれの音色の特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは艶があってこのましい。
❺もりあがりには、余裕がある。たっぷりひびくクライマックスはいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノはたっぷりひびくが、音像的には多少大きい。
❷暖色系のひびき故に、木管楽器のひびきの特徴をよく示す。
❸キメ駒かなひびきはこのましいが、いくぶんふくれすぎている。
❹しなやかだが、もう少しすっきりしてもいいだろう。
❺木管のひびきへの対応がよく、ここでも効果的だ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のしなやかさ、まろやかさをよく示す。
❷アイゼンシュタインの近づく感じを誇張感なく示す。
❸オーケストラと声との、ひびき方の点でのバランスは大変いい。
❹はった声が幾分硬くなって、ニュアンスに欠ける。
❺オーケストラのひびきの特徴を鮮明に示している。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくらみがちで、定位の点が問題がある。
❷声量をおとした分だけ、言葉のたち方が鈍くなる。
❸残響をひきずりがちで、言葉の角がみえにくい。
❹ソット・ヴォーチェの声は、さらに軽やかでもいいだろう。
❺声のまろやかさは示すが、さらに敏捷であってほしい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比は充分についている。
❷シンセサイザーのひびきが独特の湿りけをおびている。
❸ひびきの湿りが歩く働いてはいないが、もう少し浮遊感がほしい。
❹前後のへだたりは充分で、提示される音場はかなり広い。
❺音に力があるので、ピークでのもりあげは圧倒的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶クォリティの高い音の後方でのひろがりは魅力的だ。
❷❶との対比の上でのここでのひびきの質がよく示されている。
❸実在感たしかに、くっきりとした音で提示される。
❹キメ細かいひびきで、効果的に輝いている。
❺うめこまれることなく、充分に自己主張しえている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの音のはりだし方が特徴的だが、12弦ギターのひびきをよく示す。
❷ツイン・ギターによるひびきの厚みは、このましく示される。
❸すっきりしたひびきで、しかも薄味にならず示される。
❹ドラムスによる力感あるひびきはいい。
❺バック・コーラスでの声の重なりをよく示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きい。低い方の音にエネルギーがかたよりすぎていないか。
❷オンでとられた音のなまなましさを伝えきれていない。
❹細かい音に対しての反応は、さらにシャープであってほしい。
❺両ベーシストの音像的な差のないのが、このスピーカーのよさだろう。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびき全体に切れ味が不足し、重くなっている。
❷ブラスの中央からのつっこみは、力があっていい。
❸申し分なくひろがるが、さらに前にはりだすべきだろう。
❹前後のへだたりはとれているが、音の見通しということでいま一歩だ。
❺めりはりは一応つけているが、音のつきはなしが弱い。

座鬼太鼓座
❶尺八の位置までのへだたりが聴感上感じとれるのがいい。
❷キメ細かいひびきで、尺八の音色をよく示す。
❸きこえるが、ひびきの輪郭を充分に示すとはいいがたい。
❹大太鼓のスケールゆたかなひびきはすばらしい。
❺ここで求められるひびきの特徴を十全に示しえている。

ビクター SX-11

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 NS10Mを聴いたあとでこれが鳴りはじめると、やはり音のスケールがぐんと違ってきて、そのことから逆にNS10Mが、ああやっぱり小さなスピーカーだったのだと思えてくる。ただ、ヤマハの全域に抑制の利いた音の音のあとでこれを聴くせいばかりでなく、ビクターのスピーカーが概して持っている(ことに、これと兄弟のSX55N=前号283ページ参照)音をことさらよく響かせるという傾向を、このSX11も持っていて、まず、とても良くなるスピーカー、という感じを抱かせるが、反面、箱の共鳴音のような響きが、長く聴くにつれて少々耳につく傾向がある。中〜高域でややハスキーな音になるが、しかしテストソースのすべてを通じて、レベルコントロールを修整する必要はそれほど感じられない。というよりも、トゥイーターのレベルを絞ると、高域が曇ってしまうので、このままのバランスで聴くべきスピーカーだと思う。ただ、SX55Nのところでもふれたと同じようにこのスピーカーも、低域でどこか粘るような音と、その反面中〜高域ではときとしてはしゃぐ傾向の声質をあわせ持っている。アンプやカートリッジを替えてみると、ラックスやトリオの系統より、ヤマハの淡泊な傾向が合うようで、とうぜんカートリッジもシュアーやアンパイアの系統がよかった。置き方は本誌標準台のままでよかった。

B&W DM4/II

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるい、すっきりしたピッチカート。ひびきに力がある。
❷くっきりと、力がある音をきかせて効果的だ。
❸各楽器の特徴あるひびきを鮮明に示す。
❹第1ヴァイオリンのひびきにもうひとつキメこまかさがほしい。
❺クライマックスへのもりあげ方にはあまり無理を感じさせない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音に力は感じられるが、音像は大きめである。
❷音色的な対比、あるいはバランスといった点で好ましい。
❸いくぶん響きが、拡大しがちで、さわやかにかける。
❹きわだつが、わざとしらさがついてまわる。
❺はりだし気味であり、多少誇張感がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶表情を強調ぎみに示す傾向があるが、鮮明ではある。
❷接近感をよく示しはするが、オン・マイク的である。
❸クラリネットの音色の特徴は強調して示される。
❹はった声は、硬くならないが、声本来の艶がなくなる。
❺個々の響きを分解して示す傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸はないが、響きがぼってりしがちである。
❷声量をおとしたことに呼応して、言葉のたち方が弱くなる。
❸残響の強調がマイナスに働いて、言葉の細部があいまいになりがちだ。
❹各声部のからみが鮮明に示せているとはいえない。
❺のびてはいるものの、いくぶん不自然なところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的なへだたりを特にきわだたせる。
❷クレッシェンドのしかたが、多少わざとらしい。
❸響きは横にひろがるが、奥行きが不充分で、浮遊感もたりない。
❹前後のへだたりはかならずしも充分とはいえない。
❺階段を一段ずつあがるようにふくらむ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶横に力をもってひろがったひびきには一種のたくましさがある。
❷ギターの音像は、さらに小さくすっきり、中央に定位するのが望ましい。
❸ひびきの輪郭があいまいになりがちなので、はえない。
❹かなりはりだす。このひびきの特徴を拡大して示す。
❺きこえることはきこえるが、めだつとはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶響きの重心が低い方にかたよっている。
❷必ずしも厚みを示すことにはならず、ばらばらになりがちだ。
❸べとつかないのはいいが、さわやかとはいえない。
❹響きに力が不足しているので、十全な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が弱く、バック・コーラスの効果も不充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶大きな箱の中でひびいているかのようにきこえる。
❷必ずしも強調感があるとはいえないが、もう少しなまなましさがほしい。
❸消えていく音をきわだたせる傾向がある。
❹反応がシャープでないために、あいまいになる。
❺特に音像的なバランスに自然さがたりない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きの切れが鈍いためか、もったりとする。
❷積極的ではあるが、響きに力がたりないので、刺激的になる。
❸かなり前の方にはりだすが、もう少しくっきりしてほしい。
❹奥行きが充分にはとれず、音の見通しがあまりよくない。
❺響きがぼやけ気味のためか、めりはりの点でもうひとつだ。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にはりだしていて、距離感があいまいになる。
❷脂っぽさはないが、尺八の音色を十全に示しているとはいいがたい。
❸きこえることはきこえるが、いくぶんあいまいだ。
❹響きに、かさかさしたところがあり、力強さがたりない。
❺音色的な対比の点で必ずしも充分とはいえない。

ヤマハ FX-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 プレス発表用の資料の中に「絢爛たるラグジュリアスなキャラクタ(原文のまま)」とあったが、なるほどまさにそういう感じの音。あるいは、かつてNS1000Mが登場したころの一種ショッキングな音をフロアータイプで表現した、とでもいう感じの、全く独特の音だ。鳴ってくる音のすべてに、人工的なまばゆいばかりの光線、それもストロボフラッシュでくまなく照らし出した印象の輝かしい光沢がついてくる。はじめフロアーにじかに、背面を壁に近づけて置いてみると、ベースは箱の中でぶんぶん唸るし、それをブロックに乗せたぐらいではまだ生彩を欠いて音離れがよくないので、壁からどんどん離して、左右に思い切り開き、ブロック二段ほど高く上げて右のような音になった。音像はこれですばらしくくっきりとよく浮かぶ。ただ少々くっきりしすぎのようなところもある。バルバラの声など、おそらくウーファー領域だろうが肉がこそげ落ちすぎて暖かさがない。オーケストラの弦の音もかなり金属的だ。トゥイーターのレベルをしぼるとバランスをくずすが、おそらくエイジング不足なのだろう。かなりチリチリした音が耳についた。どうも作りたてのホヤホヤといった感じだった。もう少しエイジングの進んだ製品を聴けば、あるいは印象が変るのかもしれないが、ともかくユニークなスピーカーだ。

ロジャース LS3/5A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 いろいろの紹介記事ですでにご承知のようにイギリスBBC放送局が、出張録音や簡単なチェックのための超小型モニターとして開発した製品だが、今回はそういう背景は別として、JRやスペンドールと同じ条件で比較できるという点に興味があった。しかし同列に並べて聴きくらべてみると、価格が一ランク高いことを別にして、さすがに音の品位が違うとまず思わせる。このスピーカーはすでに自宅で半年以上使っているが、黒田恭一氏もどこかで書いておられたように、比較的近くに置いて正確に音像の中心に頭を持ってくると、あたかも眼前に精巧なミニチュアのステージが展開するかのように、音の定位やひろがりや奥行きが、すばらしく自然に正確に、しかも美しい響きをともなって聴こえるとても優秀な製品だ。今回の試聴では、設置条件をわざと違えて、JR149やSA1と同じ高さ(約50センチ)の台の上に並べて聴いたが、JRのアンビエンス効果も顔負けするほど音のひろがりもみごとだし、一音一音がいっそう磨きをかけられて底光りのする美しさに魅惑させられる。バランス的には中域をおさえてあって、大音量ではドンシャリ的に鳴る傾向があるので広い場所は避けたい。アンプ以前のクォリティをはっきり鳴らし分けるのは当然だから、十分に品位の高いカートリッジとアンプが必要。

オンキョー Scepter 500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 すべてのスピーカーに共通の、全体のバランスをみるために必ずかけるカラヤンのベートーヴェンの「コリオラン」をまず鳴らす。やや重いが荘重で、トゥッティでもやかましさのない、適度にしなやかな音が鳴ってくる。ブラームスのピアノ協奏曲(一番、ギレリス/ヨッフム)では、オーケストラのバランスにはほとんど破綻がなく、ピアノの音像はやや大きくなるが十分にたのしめる。ベートーヴェンの「七重奏曲」でも、4個の各ユニットが有機的に帯域を補いあってバランスよく、しかも広いレインジで各楽器の音色の特徴をよく鳴らし分ける。独奏楽器の十分にしなやかな表情を聴かせる。音の色あいにもうひと息、生き生きした弾みが出れば満点に近い。菅野録音の「SIDE BY SIDE 3」では、ベーゼンドルファーの特色ある音色の再現がもうひと息。ベースもいくらか粘って重い。ただしギターのサイド面としてのバランスは非常に良い。……ひとつひとつをこまかくあげるスペースがないが、総じて、いくらか重く粘る傾向はあるものの、国産の大型スピーカーとしては、レインジも十分に広くバランスもよく、非常によくこなれているしワイドレインジでありながら音に冷たさのない点も立派だ。価格やデザインを頭に置くと百点満点というわけにはゆかないが、それにしてもよくここまで仕上げたものだと感心させられた。

スペンドール SA-1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/II、それにJRの149とくらべるとほんのわずかに価格が張るが、ユーザーサイドからみれば、やはり比較の対象としたい興味のある製品だろう。まして兄貴分のBCIIの出来栄えのよさが先例としてあるのだから、このSA1にある種の期待を抱いて試聴にのぞむのはとうぜんだ。まず総体のバランスだが、いかにも「ミニモニター」の愛称を持つだけに、帯域の両端の存在を意識させるような誇張がなくごく自然だ。つまりトゥイーターによくあるハイエンドのピーク性の共振音や、エンクロージュアまたはウーファーの設計不良によるこもりのような欠点は全く耳につかない。どちらかといえば(イギリスのスピーカーにはめずらしく)中音域に密度を持たせてあって、内声部の音域、ことにフィッシャー=ディスカウやキングズ・シンガーズのような男声の音域でも、薄手にならず実体感をよく出すところがみごとだ。ただし、バルバラのような女声の場合に、声の表情がやや硬くなるような傾向があって、BCIIよりも少々生真面目さを感じさせる。また、パワーを上げると中〜高域で多少硬い音がしたり、低域でのこもりがわずかに感じられ、どちらかといえばおさえかげんの音量で楽しむスピーカーだと思った。台はあまり低くせず(約50センチ)、背面を壁につける方がバランスが良い。

アルテック Model 19

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 従来のアルテックからみると、まず二つの点で大きく変っている。第一に、中〜高域のドライバーに、「タンジェリン・タイプ」と名づけられた新型を採用して、2ウェイでありながらハイエンドのレンジを延ばしていること。第二に、ネットワークをくふうして、中域、高域のバランスを独立にコントロールして細かくバランスの調整ができるようにしてあること。レベルコントロールには、HIGH、MIDそれぞれにOPTIMUMの表示をしてある幅を持たせてあるが、今回の試聴ではMID、HIGHともOPTIMUMの文字の〝O〟のあたりに合わせた。MIDをこれ以上上げると中音がやかましくなるし、HIGHも上げればレンジは広がるがややキャンつく傾向も出るので、右のポジションがよかった。置き方では、フロアーにじかに置くと低音がわずかにこもるので、ほんの数センチの低い台で持ち上げると、音の抜けがよくなった。左右にはあまりひろげると中央の音が抜ける傾向があった。総体にJBLのような緻密な質感とは違っていくらかラフな鳴り方だが、アンプの方でいろいろいコントロールしてみると、結局、ハイもローも適度におさえてナロウレインジに徹してしまう方が、中域のたっぷりして暖かく楽しい、アルテックの良さが生かされると感じた。アルテックはワイドレインジにしない方がいいと思った。

ボリバー Model 18

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりきこえるピッチカート。
❷奥の方でくっきりと示される。力強いとはいえないが。
❸個々のひびきに一応対応するが、積極的とはいいがたい。
❹低音弦のピッチカートはふくらみすぎる。
❺クライマックスでは、ひびきが空虚になり、刺激的になる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像が大きめで、響きにまろやかさがたりない。
❷ファゴットが、どういうわけか、ひっこみがちである。
❸響きが、ふくらみずき、重くなる傾向がある。
❹ひっこんで、はえない。さわやかさがほしい。
❺音色的な対比が、さらにすっきりついてもいいだろう。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声の自然なのびは示す。表情は幾分濃くなる。
❷接近感は示すが、音像が大きいので、充分な効果をあげるとはいえない。
❸声がひっこみ、クラリネットがふくらんで、バランスに問題がある。
❹はった声が硬くならないのはいいが、艶をなくす傾向がある。
❺響きはよくブレンドしているが、効果的とはいえない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方のパートが、きわだつ傾向がある。
❷声量をおとしたことが、強調されるように感じる。
❸残響がまといついているとでもいうべきか。
❹鮮明さが不足するために、響きの綾がはっきりしない。
❺のびてはいるが、必ずしも効果的とはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的な対比はついているが、音場的にいかにも狭い。
❷後へのひきが充分でないために、効果があがらない。
❸ひびきが充分に浮いているとはいいがたい。
❹横へのひろがりは示すが、前後のへだたりはつまりぎみである。
❺ひびきの力のないことが、マイナスに働いている。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ここでのひびきにしては湿度は高すぎるようだ。
❷ギターの音像は大きめなために、せりだしの効果がいきない。
❸もう少しくっきり示されないと、あいまいになる。
❹きこえるものの、ひびきに輝きがたりない。
❺一応きこえはするが、うめこまれがちで、はえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されて、12弦ギターの響きの特徴がいきない。
❷響きの重心が低い方にかかりがちで、さわやかさにかける。
❸響きの乾き方が不足だ。全体に重くひきずりがちである。
❹ベース・ドラムは重くひびいて、充分な効果をあげえない。
❺言葉のたち方が、不充分である。バック・コーラスの効果は稀薄だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶入れものの中でのように響いて、力感が感じられない。
❷もうひとつ鮮明に、くっきり示してもいいだろう。
❸音の消える尻尾は、不鮮明で、はっきりしない。
❹鋭く反応できているとはいいがたい。下にいくほどひきずりがちだ。
❺音像的に差がありすぎるので、不自然である。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶響きは、切れが鈍く、重い。もっとシャープでもいいだろう。
❷どういうわけか、細く、弱々しくなる。
❸響きに本来の力が不足しているので、効果がいきない。
❹さまざまな響きがいりまじって、音の見通しがつきにくい。
❺もう少しめりはりがくっきりついてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶奥へのひきがとれないためか、かなり前の方にでてくる。
❷尺八の音は、もう少し乾いて、脂っ気のない方が望ましい。
❸きこえることはきこえるが、くっきりととはいいがたい。
❹一応の響きの広がりは示すが、スケールゆたかにとはいいがたい。
❺この響きの特徴である硬質さが充分に示せているとはいえない。

JR JR149

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 B&WのDM4/IIと価格もほとんど同じ、そして同じくイギリス生まれとなると、とうぜん両者の比較に興味が湧く。まず総体に、DM4/IIがあくまでモニター的に真面目に音を聴かせるのと全く対照的に、JR149の音は響きが豊かで、暖かみのあるアットホームな雰囲気を持っている。このいかにもくつろいだ響きの豊かさは、他のスピーカーとくらべてもJRの最大の特徴で、ことにオーケストラ録音のレコードの場合など、目の前にいっぱいに音をひろげて展開する感じで、いわゆるアンビエンス効果(周囲を音にとり囲まれたような感じ)がよく出るスピーカーだ。DM4/IIのところでも書いたように、楽器の構造を正確に聴き分けようとすると、B&Wよりも細かな声部がやや正確さを欠くようで、いわばB&Wよりも不正直にはちがいない。その点はバルバラのシャンソンでも、伴奏のアコーディオンの音がDM4/IIより細かく聴こえ、それらのことからおそらく帯域ないでどこか薄手の部分があることが想像できるが、反面、すべてのレコードで、音のひろがり、奥行き、音の溶け合いの豊かさを含めて柔らかく耳当りよく響かせる所が特徴といえる。やや雰囲気重視型だが、楽しめるという点では随一かもしれない。置き方や組合せにあまり神経質でなく使いやすい。ただし能率はB&Wよりも聴感上で6dB近く低かった。

トリオ LS-707

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきは薄く、遠くにきこえる。音に力がほしい。
❷もう少しくっきりひびきのりんかくがついてもいいだろう。
❸ひろがりをたっぷりと感じさせて、それぞれの音色を明示する。
❹低音弦のピッチカートがふくらみすぎる
❺一応迫力ははやかに示すが、もう少しひびきに力がほしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、きわめて大きくふくらむ。
❷音色的な対比はなされているが、不自然なところがある。
❸ひびきそのものにキメ細かさがほしい。
❹特徴をきわだたせはするが、誇張感がある。
❺右とほぼ同じことがいえる。ひびきにしなやかさがほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶残響の非常に多い部屋ではなしているようにきこえる。
❷接近感がもう少しあきらかになってもいいだろう。
❸クラリネットの音像がかなり大きい。声も前にはりだす。
❹はった声はニュアンスにとぼしいものとなる。
❺くっきり提示するがいくぶんこれみよがしだ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右端のバスがせりだしがちで、定位があいまいになる。
❷ひびきが全体にひきずりだかちで、言葉のたち方が弱い。
❸残響を拡大するため、鮮明さの点で不足だ。
❹吸う息を誇張ぎみに示す傾向がなくもない。
❺一応はのびているが、自然なのびとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音はいいが、ポンという低い音に力がほしい。
❷ひっそりとしのびこむべきところが、そうはなっていない。
❸音がバラバラにきこえる傾向がなくもない。
❹シンセサイザーの特徴的なひびきが示されにくい。
❺ひびきは横にひろがり、ピークはメタリックになる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶このひびきは、もう少し透明に、ひっそりとひびいてほしい。
❷ギターの音像は大きく、横にひろがりつつ、前にせりだす。
❸ひびきそのものに力が不足ぎみなので、実在感がとぼしい。
❹くっきりとひびき、ききのがしようがないほどだ。
❺これもまた、かなりきわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースのひびきが強調されて、12減ギターの特徴をききとりにくい。
❷音の厚みということでいえば、いくぶんものたりない。
❸ひびきが湿っていないのは、このましい。
❹ドラムスの音像はかなり大きく、ひびきはひきずりがちだ。
❺バック・コーラスがもう少しとけあってきこえてもいいだろう。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ダブルベースの大きさを感じさせる。
❷指を弦の上をはしらせている音には誇張感がある。
❸弦をはじいた後の音の尻尾は示すものの、ひびきの力がもうひとつだ。
❹細かい音に対しての反応がもう少しシャープでもいい。
❺音像差の点でいくぶん不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきが横にひろがり、リズムの切れが甘い。
❷ブラスの中央からのつっこみは、刺激的なひびきになりがちだ。
❸ひびきとして拡大されがちだが、前にせりださない。
❹後方へのひきは充分だが、見通しはつきにくい。
❺もう少し軽いひびきで、鋭く反応してもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶尺八は奥の方でひびくものの、入れものの中でひびいているかのようだ。
❷ひびきに乾きがあり、尺八らしさが感じられる。
❸ききとることができるが、音の輪郭ははっきりしにくい。
❹大太鼓の音の消え方を伝えるが、スケールゆたかとはいいがたい。
❺ききとれる。ここで求められる一応の効果はあげる。

JBL L200B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 L200もBタイプになって格段に音質が向上して、JBLはこのところ乗りに乗っていると実感できる。実に音の質が高く緻密で、これが鳴り始めると、これ以前に聴いた数多くのスピーカーとは格が違う、と思わせる。もちろん、タンノイのARDENやKEFの105や、ルヴォックスのBX350など、イギリスやドイツのスピーカーの鳴らすあのしっとりと潤いのある、渋く地味な音、しかしそこにえもいわれぬ底光りのするような光沢を感じさせるような音とくらべると、JBLの音は良くも悪くも直接的だ。ことにL200Bのようにスーパートゥイーターのついていな、ハイエンドを延ばしていないスピーカーの音は、骨太で、よくいえば男性的なたくましさのある反面、クラシックなどでは図太さあるいは音の構築の細部に対して見通しの利かない部分がある。いわば本当のデリカシーやニュアンスを欠いている。しかし、音量を絞ってもまた逆にどこまで上げていっても、少しも危なげのない、ピアノの打鍵音で全くくずれずに安心して身をまかせられる良さは、ヨーロッパ系のスピーカーにはとうてい望めない。ことにポップス系では、最高域をあえて伸ばさない良さがはっきり聴きとれる。床に直接置いても低音が重くなったりこもったりすることが全くない。ただし、アンプにはグレイドの高いセパレート型が欲しくなる。

デンオン SC-105

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくひびくピッチカートの音。木管の音色の特徴もよく示す。
❷くっきりきこえる。響きの重さを強調しないよさがある。
❸さまざまなひびきの特徴を鮮明に示す。
❹キメこまかなひびきをきかせる第1ヴァイオンのフレーズ。
❺刺激的にならず、一応のゆたかさもあり、好ましい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は小さく、くっきりして、さわやかである。
❷音色的な対比を、誇張感なく、さわやかに示す。
❸「室内オーケストラ」の響きの特徴をよく伝える。
❹薄味ながら、すっきりと示して、効果的だ。
❺独特の鮮明さがあるものの、ことさらはりだしてはいない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声に強調感がなく、自然に、のびやかにきこえるのがいい。
❷接近感をくっきり、誇張感なく示すのがいい。
❸クラリネットの音色はまろやかでこのましい。
❹はった声は硬くなりがちだが、通常の声はしなやかでいい。
❺バランスが自然で、響きの明るいのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶上下の音のバランスがいいので、凹凸がない。
❷声量をおとしたことを、特に意識させない。
❸残響の強調がないために、すっきりときこえる。
❹響きはいくぶん重めだ。もう少しぜい肉がとれてもいい。
❺自然なのびで、すっきりとまとまっている。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比も、音場的対比も、充分に示されている。
❷ひびきは、不自然になることなく、ひっそりとしのびこむ。
❸ひびきのとびかい方に軽さがあるので、広々と感じられる。
❹前後のへだたりは、充分に示しえている。
❺ある種の鮮明さは保つものの、ピークではきつくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきの透明感はある。ひろがりを示しえている。
❷ギターの音像が大きくふくらんでいないのがいい。
❸ふくらみすぎず、くっきり示されて、きわめて効果的だ。
❹輝きをもって響いて、充分に効果的である。
❺うめこまれることなく、きわだってきこえる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶上下のバランスがよく、12弦ギターの特徴をよく示す。
❷独自の効果によく対応して、効果をあげる。
❸響きは乾いていて、反応もシャープである。
❹ベース・ドラムの、力があって重くならない音がいい。
❺言葉はよくたって、鮮明だ。バック・コーラスの効果も示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ふやけることのない響きで、力強さをよく示す。
❷なまなましさを感じさせはするが、誇張感はない。
❸音の消え方には、独特の自然さがあって好ましい。
❹シャープに反応できているので、迫力も一応示す。
❺音像的対比の点でもさしたる問題はない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶軽い音で鋭く反応しているので、ききやすい。
❷つっこみの鋭さは充分に示されているが、力感の点では多少不足だ。
❸必ずしも積極的とはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❹奥行きがとれていて、音の見通しがつきやすい。
❺めりはりをくっきりつけて、あいまいにならない。

座鬼太鼓座
❶奥行きがとれているので、広がりが感じられる。
❷尺八の響きの特徴をよく示して、好ましい。
❸過不足なく自然なバランスでききとれる。
❹一応のスケール感も示し、消える音の尻尾も明らかだ。
❺くっきりきこえて、効果をあげている。

タンノイ Arden

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 タンノイの新シリーズが、アルファベットのABCDEでそれぞれ始まるニックネームでランク分けしてあることはよく知られているが、ARDENはその中の最高クラスだけのことはあって、音のスケールの大きなこと、響きの豊かなこと、とうぜん表現力の大きいこと、やはりさすがといえる。この上のGRFやオートグラフがオリジナル製品でなくなってしまったので、不満はいくらかあってもアーデンがタンノイの代表機種ということになるが、以前からの音像の芯のしっかりした、鮮度の高いしかしやかましさのない独特の味わいのあるタンノイ・トーンは相変らず残っていて、そこにいっそうのバランスの良さとレンジの広さが加わっている。たとえばKEFの105のあとでこれを鳴らすと、全域での音の自然さで105に一歩譲る反面、中低域の腰の強い、音像のしっかりした表現は、タンノイの音を「実」とすればkEFは「虚」とでも口走りたくなるような味の濃さで満足させる。いわゆる誇張のない自然さでなく、作られた自然さ、とでもいうべきなのだろうが、その完成度の高さゆえに音に説得力が生じる。ブロック程度の台に乗せた方が、そして背面を壁からやや離した方が、低域の解像力がよくなる。かなりグレイドの高いしっとりした音のアンプと、ヨーロッパ系の優秀なカートリッジが必要だ。