レコーディング・ミキサー側からみたモニタースピーカー

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

単純ではないモニタースピーカーの定義
 実際に世界中のプロの世界では、どんなモニタースピーカーが使われているのだろうか。オーディオに興味のある方はぜひ知りたいと思うことだろう。実際に、私が見てきた限りでもアルテックあり、JBLあり、あるいはそれらのユニットを使ったモディファイシステムあり、エレクトロボイスあり、というように多種多様である。時には、モニターというのは結果的に家庭用のプログラムソースを作るのだから、家庭で使われるであろうソースを作るのだから、家庭で使われるであろう標準的なシステムがいいということで、KLHなどのエアーサスペンションタイプのブックシェルフ型を使っているところもある。
 昔のように、ある特性のメーカーがシュアをもっていた時代と違って、現在のように多くのメーカーがクォリティの高いスピーカーを数多く作り出している時代では、世界的にこれが最もスタンダードだといえる製品はないといってもよい。むしろ、日本におけるNHK規格のダイヤトーンのモニタースピーカーの存在は、いまや世界的にみて例外的といってよいほど、使用されているモニタースピーカーは千差万別である。
 では、一体モニタースピーカーとはどういうスピーカーをいうのだろうか。現在では、〝モニター〟と冠されたスピーカーが続々と登場してきているので、ここで整理してみるのも意義があるだろう。
 モニタースピーカーとは、訳せば検聴である。つまり、その音を聴いてもろもろのファクターを分析するものである。例を挙げれば、マイクロと楽器の距離は適当かどうか、マイク同士の距離は適当か、あるいは左チャンネルに入れるべき音がどの程度右チャンネルに漏れているか、SN比はどの程度か、歪みは起きていないかというような、アミ版の写真の粒子の一つ一つを見るがごとき聴き方を、ミキサーはするわけである。もちろん、そういう聴き方だけをしていたのでは、自分がいま何を録音しているのかという、一番大事なものを聴き失ってしまうので、同時に、一つのトータルの音楽作品としても聴かなければならないので或る。そのためのスピーカーがモニタースピーカーというものである。
 しかし、一口にモニタースピーカーといっても、単純に定義することはできない。なぜならば、使用目的や用途別に分類しただけでも、かなりの種類があるからである。大別すれば、放送局用とディスクを制作するための録音スタジオ用に分けることができるが、その録音スタジオ用といわれるものをみても、またいくつかの種類に分けられるのである。
 たとえば、まず録音をするときに、演奏者が演奏している音をミキサーがチェックする、マスターモニターと呼ばれるモニタースピーカーがある。この場合ミキサーは、マイクアレンジが適当かどうか、音色のバランスはどうか、雑音は入っていないかなど、細部に亘ってチェックしながら聴くわけである。当然のことながらクォリティの高いスピーカーが要求されてくるわけであるが、一般的にモニタースピーカーと呼ばれているのは、このときのスピーカーを指しているのである。
 そして、その録音を終えたあとで、演奏者が自分の今の演奏はどうだったかを聴くための、プレイバックモニターがある。これには最初のマスターモニターと共通の場合と異なる場合とがある。つまり、調整室に置いてあるスピーカーと演奏場(スタジオ内)に置いてあるスピーカーが異なる場合は、すでに三種類のモニタースピーカーが存在することになるわけである。
 それから、録音したテープを編集する作業のときに使われるモニタースピーカーがある。編集といっても非常に広い意味があり、一つには最近のマルチトラック録音のテープから2チャンネルにミックスダウンする──つまり、整音作業である。この場合は、全くモニタースピーカーに頼って、音色バランス、左右のバランス、定位位置などを決めていくという、音質重視の作業になり、ここでも相当クォリティの高いモニタースピーカーが要求される。この作業には、マスターモニターと同一のスピーカーを使う場合が一般的には多いようである。もう一つの編集作業としては、演奏の順序を決めたり、演奏者のミスのない最高の演奏部分を継ぐ、いわゆるエディティング、スプライシングすることでこの場合にはそれほど大がかりでなく、小規模なモニタースピーカーが使われるようである。
 さらに、ラッカー盤にカッティングするときのモニター、テスト盤のモニターと数えあげればきりがないほど多くのモニタースピーカーが使われる。
 放送局の場合は、録音スタジオの場合のカッティング工程以前まではほぼ同じと考えてよく、その後に、どういう音でオンエアされているかの確認用モニター、中継ラインの途中でのモニター、ロケハン用の野外モニターなどが加わってくる。
 このように、一口にモニタースピーカーと呼ばれるものにも、かなり多くの種類があるということをまず認識しておいていただきたい。たとえば、読者の方々がよくご存知の例でいえば、JBLの4350は、JBLとしてはスタジオモニターとして作っているが、あの4350を録音用モニターとして使うことはまずないはずである。むしろ、スタジオにおけるプレイバックモニターシステムとして使われる場合の方が多いと思う。なぜかといえば、調整室は最近でこそ広くとれるようになってきたが、どうしてもスペースに限りがあり、ミキシングコンソールからスピーカーまでの距離をそれほど離せない。また、録音をしていてモニタースピーカーがあまり遠くなるのは、自動車の運転をするときにボンネットがかなり長いという感じに似ていて、非常にコントロールしにくいのである。やはりある程度の距離にスピーカーがないと、それに十分な信頼がおけなくなるという心理的な面もあって、あまり遠くでスピーカーを鳴らすことは録音用モニターの場合はないといってよい。そういう意味から、4350のように多くのユニットの付いた大型システムは、録音用モニターにはあまり向かないのである。
 そういう点から、録音用モニターとして標準的なのは、アルテックの604シリーズのユニットを一発収めたいくつかのスピーカーであり、JBLでは4333Aクラスのスピーカーということになるわけである。それ以下の大きさ、たとえばブックシェルフ型スピーカーももちろんモニターとして使えなくはないが、生の音はダイナミックレンジが相当広く、許容入力の大きなスピーカーでないとすぐに使いものにならなくなってくる。そういう点から、604シリーズや4333Aのような、あらゆる意味でタフなスピーカーがモニターとして選ばれているわけである。

モニタースピーカーとしての条件
 それでは、ここで録音用モニター(マスターモニター)に限定して、モニタースピーカーに要求される条件としてどのようなことが挙げられるのか、を考えてみたい。
 最初に結論的なことをいうと、結局録音をする人にとって、かなり馴染んでいるスピーカーがベストだということである。しかし、実際にはもう一つ非常に重要なことで、それと矛盾することがあるのだ。それは、それぞれの人が自分で慣れているモニタースピーカーを使った場合には、それぞれが違うスピーカーを使うことになってしまうことである。なぜそれが問題なるのかというと、プロの仕事の場合、互換性ということが大変に重要になるからだ。この互換性というのは、つまりレコード会社の場合、そのレコード会社のサウンドを確保するため、いくつかある録音スタジオ共通の、特定の標準となるスピーカーが、モニタースピーカーとして選ばれなければならないということである。いわば、その会社のものさし的なスピーカーがモニタースピーカーであるといえる。モニタースピーカーとしての条件のむずかしさは、つまるところ、この二つの相反する問題が常にからみ合っているところにあるのである。
 一般的には、モニタースピーカーの条件を挙げることは案外やさしい。たとえば、録音の現場で使われるスピーカーであるために、非常にラフな使い方をされるので、まず非常にタフでなければいけないということである。と同時に、そのタフさと相反する条件だが、少なくとも全帯域に亘ってきわめて明解なディフィニション、音色の分離性をもち、しかも全帯域のバランスが整っていて、ワイドレンジであってほしいということだ。つまり、タフネス・プラス・ハイクォリティがモニタースピーカーには要求されるわけである。
 現在のモニタースピーカーの一部には、その条件を達成させるために、マルチアンプ駆動のスピーカーもあり、最近では任意のエレクトロニック・クロスオーバーとパワーアンプと使ってマルチアンプ駆動のしやすいように、専用端子を設けているスピーカーもふえてきている。
 たた、そういう条件を満たすスピーカーというのは、ご承知のように、大体マルチウェイシステムになるわけである。このマルチウェイシステムで問題になることは、スピーカーから放射される全帯域の位相に関することである。録音の条件にはいろいろな事柄があるが、その中で現在の、特にステレオ時代になってから、録音のマイクアレンジメントをモニタースピーカーによって確認する場合に、非常に重要な要素の一つは、この位相の監視なのである。つまり、この位相というのは、音像の大きさをどうするか、あるいは直接音と間接音の配分をどうするか、全体の残響感や奥行き感をどうするか、ということの重要な要素になるわけである。その音場に置いたマイクの位相関係が、はたしてスピーカーから素直に伝わるかどうか。これが伝わらなくてはモニタースピーカーとしては落第になるわけで、その意味では、モニタースピーカーは全帯域に亘って位相特性が揃っていることが、条件として挙げられるわけである。ところが、マルチウェイスピーカーには、各ユニット、あるいはネットワークの介在により、一般的に位相特性が乱れやすいという宿命を背負っているのである。
 したがって、多くのモニタースピーカーの中で、いまだに同軸型のユニット一発というシステムがモニターに向いていると言われ、事実、同軸型システムの方がマルチウェイシステムより定位や位相感を監視できる条件を備えているわけである。
 それでは、同軸型システムならすべてよいかというと、私の考えでは必ずしもそうとはいえないように思う。つまり、同軸型は逆にいえば、低域を輻射するウーファーの前にトゥイーターが付けられているので、高域は相当低域による影響を受けるのではないかということである。確かにある部分の位相特性はマルチウェイシステムにより優れているが、実際に出てくる音は、どちらかといえば低域と中高域の相互干渉による歪みのある音を再生するスピーカーがあり、同軸型がベストとは必ずしも思えない。
 以上のようなところが、理想的なモニタースピーカーの条件として挙げられるが、現実にはいままで述べた条件をすべて満たしているスピーカーは存在していない。そのため、レコード会社あるいは個人のミキサーは、現在あるスピーカーの中から自分の志向するサウンドと、どこかで一致点を見つけて、あるいは妥協点を見つけて選ばざるを得ないのである。
 したがって、モニタースピーカーとしての条件を裏返してみれば、〝モニター〟として開発されただけでは不十分であり、実際にそれが、プロの世界でどの程度使われているかという、実績も非常に重要なポイントになるということである。ちなみに、モニタースピーカーのカタログや宣伝物をみていただいてもおわかりのように、どこのスタジオで使われているかが列記されているのは、単なる宣伝ではなく、そのスピーカーの、モニタースピーカーとしての客観性を示す一つのデータなのである。

モニタースピーカーはものさしである
 私は、長年レコーディングミキサーとして仕事をしてきており、そのモニタースピーカーには、アルテックの605B一発入りのシステムを使用している。605Bを選んだ理由は、そのタフネスとともに能率が高いという点からである。私の場合は、録音するのにあちこち持ち運ぶ必要上、大出力アンプや大型エンクロージュアは適さず、限られた範囲内でできるだけワイドレンジで、位相差も明確にわかるという点からこれを選んだわけである。では、なぜ604Eではなく605Bかというと、ダンピングが甘い605Bの方が、同じ容積の小さいエンクロージュアに収めた場合、バランス的に低音感がいいと思えるからである。そして、それを一旦使い始めると、何度も録音を繰りかえしているうちに、モニターとしてどんどん私に慣れてきて、いまだに私の録音の標準装置になっており、今後も壊れない限り使い続けていくいつもりである。
 私にとって、その605Bを使っている限り、そのスピーカーから出てくる音がいいか悪いかではなく、その間に聴いた多くのスピーカーやお得の部屋で接した総合的な体験によって、このスピーカーでこういう音が出ていれば、他のスピーカーではこういう音で再生されるだろうということが想像できるのである。つまり、完全に私の頭の中にそういう回路が出来上っているのである。ここで急に他のモニタースピーカーに替えたとしたら、そのスピーカーから出てきたその場での音しか頼りようがなくなってしまうことになる。もしそのスピーカーのその場の音だけを頼るとなれば、その部屋での音を基準に、改めてレコードになったときの音を考えなければならない。そういうことは、プロの世界では間違いを犯しやすく、非常に危険なことなのである。
 そういう意味からいって、そこにある特定のスピーカーの、特定の音響下での音だけを頼りにしてということでは、録音の仕事はできないのである。そのためにも、モニタースピーカーはしょっちゅう替えるべきではないと私は思う。これが、私が終始一貫して605Bを長い間使っている理由である。もちろん、605Bそのものには、多くの不備もあり、このスピーカーでレコード音楽を楽しもうとは一切思っていない。
 私の場合、そういう意味で、605B(モニタースピーカー)は、録音するための一つのものさしなのである。そのスピーカーで再生された音から、レコードになったときの音が想像できるということは、たとえていえば、1mが三尺三寸であるとすぐに頭の中に思い浮かべることができるということである。各レコード会社が、それぞれ共通のモニタースピーカーを使っているという理由は──先に互換性が重要だと述べたが──、それはとりもなおさず、音のものさしを規定したいがためである。

試聴テストの方法
 レコード音楽の聴き方には、大きく分けて二通りあるように思う。一つは、いわゆる音楽愛好家的聴き方、もう一つはレコーディングミキサー的聴き方である。前者は、どちらかといえばあまりにも些細なことに気をとられないで、トータルな音楽として楽しもうという姿勢であり、後者は微に入り細に亘って、まるでアミ版の写真の粒子の一つ一つを見るかのごとき聴き方である。
 同じことがスピーカー側にもいえるように思う。つまり、鑑賞用スピーカーとして、聴きやすい音の、音楽的ムードで包んでくれるような鳴り方をするスピーカーと、ほんのわずかなマイクロフォンの距離による音色の差まで出してくれるスピーカーとがあるようだ。
 最近では、オーディオが盛んになってきたのにつれて、徐々に後者のような聴き方をするオーディオファンがふえ、また、そういう要求に応えるべきスピーカーも続々と登場してきている。〝モニター〟と銘打たれたスピーカーが、最近になって急速にふえてきているのも、そういう傾向を反映しているように思われる。
 ところで、今回のモニタースピーカーのテストのポイントは、やはり録音状態がどこまで見通せるか、ということを優先させたことである。つまり、このスピーカーでどんな音楽の世界が再現されるのだろうかという、普段の音楽の聴き方でのテストとは違った方法でテストしたわけである。そのために、自分で録音したプログラムソースを主眼としている。これは、少なくとも自分でマイクアレンジをし、ミキシングもしたわけだから、こういう音が入っているはずだという、一番はっきりした尺度が自分の中にあるためである。それがいろいろいなモニタースピーカーでどう再現されるかを聴くには、私にとって一番理解しやすい方法だからである。
 もちろん、モニタースピーカーといえども一般の鑑賞用システムとしても十分使えるので、そのために一般のレコードも試聴の際には併せて聴いている。
 試聴に使用したレコードは、私か録音した「ノリオ・マエダ・ミーツ・5サキソフォンズ」(オーディオラボ ALJ1051dbx)、「サイド・バイ・サイド2」(オーディオラボ ALJ1042)の2枚と、ジョージ・セルの指揮したウィーン・フィルの演奏によるベートーヴェンの「エグモント」付帯音楽(ロンドン SLC1859)の合計3枚を主に使用した。これらのレコードのどこを中心に聴いたかというと、まず、二つのスピーカーから再生されるステレオフォニックな音場感と、音像の定位についてである。たとえば、ベートーヴェンのエグモントのレコードは、エコーが右に流れているのだが、忠実に右に流れているように聴こえてくるかどうか。この点で、今回のテスト機種の中には、右に流れているように聴こえないスピーカーが数機種あったわけだが、そう聴こえないのは、モニタースピーカーとしては具合が悪いことになってしまう(しかし、家庭で鑑賞用として聴くには、むしろその方が具合がいいかもしれないということもいえる)。
 当然のことながら、各楽器の音量のバランスと距離感のバランス、奥行き、広がりという点にもかなり注意して聴いた。先ほども延べたことだが、スピーカーシステムの位相特性が優れていれば、それは非常に忠実に再現してくれるはずである。そういう音場感、プレゼンス、雰囲気が意図した通りに再現されるかどうかが、今回の試聴の重要なポイントになっている。
 それから、モニタースピーカーのテストということなので、試聴には2トラック38cm/secのテープがもつエネルギーが、ディスクのもつエネルギーとは相当違い、単純にダイナミックレンジという表現では言いあらわしきれないような差があるためである。ディスクのように、ある程度ダイナミックレンジがコントロールされたものでだけ試聴したのでは、モニタースピーカーのもてる力のすべてを知るには不十分であると考えたからでもある。テープは、やはり私がdbxエンコードして録音したもので、八城一夫と川上修のデュエットと猪俣猛のドラムスを中心としたパーカッションを収録しており、まだ未発売のテープをデコーデッド再生したわけである。そのテープにより、スピーカーの許容入力やタフネスという、あくまで純然たるモニタースピーカーとしてのチェックを行っている。
 再生装置は、まずテープレコーダーに、私が普段業務用として使っているスカリーの280B2トラック2チャンネル仕様のものを使用した。レコード再生については、やはりテストということもあり、スピーカー以外の他の部分はできるだけ自分でその性格をよく知っている装置を使用している。まずカートリッジには、エレクトロアクースティックのSTS455E、コントロールアンプは現在自宅でも使用しているマッキントッシュのC32、パワーアンプはアキュフェーズのm60(300W)である。台出慮のパワーアンプを使った理由には、再三述べていることだが、スピーカーシステムのタフネスを調べたいためでもある。なお、プレーヤーシステムには、ビクターのTT101システムを、それにdbx122を2トラック38cm/secテープのデコーデッド再生に使用している。
 テストを終えて感じたことは、コンシュマー用スピーカーとの差がかなり近づいてきているということである。そして、今回聴いたスピーカーは、ほとんどすべての製品が、それなりのバランスできちんとまとめられていることである。もちろん、その中には低音感が不足したり、高音域がすごく透明なものがあったりしたが、それはコンシュマー用スピーカーでの変化に比べれば、きわめて少ない差だといえる。したがって、特別個性的なバランスのスピーカーは、今回テストした製品の中にはなかったといってもよいだろう。逆に言えば、スピーカーそのもののもっている音色ですべての音楽を鳴らしてしまうという要素よりも、やはり録音されている音をできるだけ忠実に出そうという結果が、スピーカーからきちんと現れていたように思う。
 ところで、今回の試聴で一番印象に残ったスピーカーは、ユナイテッド・レコーディング・エレクトロニクス・インダストリーズ=UREIの813というスピーカーである。このスピーカーは、いわゆるアメリカらしいスピーカーともいえる製品で、モニターとしての能力もさることながら、鑑賞用としての素晴らしさも十分に併せもっている製品であった。
 それから、K+Hのモニタースピーカーが2機種ノミネートされていたが、同じメーカーの製品でありながら、若干違った鳴り方をするところがおもしろい。私としてはO92の方に、より好ましいものを感じた。こちらの方が全帯域に亘って音のバランスがよく整っているように思われる。鑑賞用として聴いた場合には、OL10とO92は好みの問題でどちらともいえない。
 意外に好ましく思ったのは、スペンドールのBCIIIである。いままで鑑賞用としてBCIIのもっている小味なニュアンスに惚れて、BCIIIを少し低く評価してきたが、モニタースピーカーとしてはなかなかよいスピーカーだという印象である。
 アルテックのスピーカーは、612C、620Aともに604-8Gのユニットで構成されたシステムで、両者とも低域の再現がバランス上、少々不足しているが、私にとってはアルテックのスピーカーの音には非常に慣れているために、十分モニタースピーカーとして使用することができる。しかし、今回のテストで聴いた音からいうと、UREIやレッドボックス(今回のテストには登場していない)のように、同じ604-8Gを使い、さらにサブウーファーを付けたスピーカーが現われていることが裏書しているように、やはり低域のバランス上の問題が感じられる。
 国内モニタースピーカーについては、検聴用としての音色やバランスの細部にわたってチェックするという目的には、どの製品も十分使用できるが、それと同時にトータルとしての音楽も聴きたいという要望までは、まだ十分には満たしてくれていないように思われた。

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