Category Archives: ソニー/エスプリ - Page 3

エスプリ TA-E901

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 精密機械を感じさせるような緻密で、しっかりした音の造形は独特のものだ。決して冷徹な音ではないが、常に人工的な美しさの感覚がつきまとう。輝かしく磨き抜かれた貴金属をイメージアップするような音である。自然な質感とは違うが、これは、オーディオ的な美の世界として魅力的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーは選ばないほうで、このアンプなりの個性をしっかり発揮する。立派な作りと精緻な音をもった優秀なプリである。
[AD試聴]総合欄で書いたこのアンプの傾向は、レンジの広いオーケストラで圧倒的な威力を発揮する。ただし今回試聴したADには、ぴたっとくるものがなく、いずれもメカニカルな質感が気になった。ロンドン系の録音や電気楽器系の音楽によりマッチした音だろう。暖かく、まろやかな中低域が欲しいマーラーや、酒落た柔軟さで響いて欲しいシュトラウスなどが、少々肩肘張って固苦しい。ジャズはベースが力強く、しかも粘りもあるのでスイングする。
[CD試聴]ショルティのジークフリートのマーチは、録音の性格と演奏がよくマッチして直裁的で精緻なものだが、それがこのアンプでは圧倒的な再現が得られたクレッシェンドしてフォルティッシモに至るたくましさと激しさ、その中での音色の分解能は大したものだ。全体にいわゆるCDらしい音を聴かせるのが興味深くもあった。曖昧さを拒絶した透徹な音が、CDの特質と合っているのだろう。JBL4344とSA4によりよいマッチングである。

オーディオテクニカ AT33ML

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5gから、上限の1・8g下限の1・2gの範囲で、0・1gステップで丹念に追込んでみる。結果としては、安定感のある低域をベースに適度なクリアーさと、音場感のある音を求めれば、針圧1・8gがベストサウンドである。サラッとした、軽快さのある、反応の速い音と、キレイに拡がるプレゼンスや抜けの良さを求めれば、針圧1・3gが良いという、解答は2つに分かれた結果である。
 基本的に、試聴に使った2種類のプレーヤーと、同じSMEながら内容の違ったアームとのマッチングの問題があるのだろう。
 ここでは、プレーヤーの性質から、安定型よりも、音場感型を目指して、針圧1・3gを採りたい。このプレゼンスを活かしながら質感を向上させ、緻密さが出てくれば最高である。まず、プレーヤー置台上にジュウタンの残りを敷いてみるが、材質が悪くNGだ。では、ヘッドシェルまわりを調べよう。取付け、ネジをアルミ製から真チュウ製に変え、しっかりと絡めつけてみる。これで低域の質感が向上し、弦の浮きが収まる。次に置台上での移動で追込む。中央でもかなり鮮度感があり、柔らかさもある良い音だが、右側に寄せ、前から20mmあたりが反応も速く良い。ここで、再びIFCを僅かに減らし1・25とする。これで、音場感的な、左右の拡がり前後方向の奥行きも十分な良い雰囲気となるが、やや低域の質感が軟調となり、表現が甘くなるため、4344の後側のキューブを約20mm押込み低域を締めて完了とする。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ウィズ・ラブ/ローズマリー・クルーニー]
大村 しっとりした女性ヴォーカルですと、低域がやややわらかめで、穏やかな感じの、この音でもいいと思いますが、このレコードは4ビートのジャズですから、もっとスイングしてほしい。ローズマリー・クルーニーも年増の女性ですから、すこし音に鮮度感をもたせないと必要以上にダレるような気もします。
井上 今度もスタビライザーを試してみました。使用したのは、ソニーのときと同じ、オーディオクラフトのSD45、デンオンのDL1000Aに付属のもの、マイクロのST10の三つです。
大村 三つのスタビライザーの基本的な音の傾向は、先ほどと同じで、デンオン、オーディオクラフトはリズムがダレるところがあります。ST10はメタリックなところが、音の芯をくっきりさせる方向にうまく働き、ダイナミックなリズムの表現がすっきりと聴けるようになりました。そして、この状態で右奥に置いてみると、ほどほどの音の伸びが出てきて、ダイナミックな感じがさらに増したようです。やや4344をモニターライクに聴くには線が太いかもしれないけど、決してダレることのないこの音は、ローズマリー・クルーニーの年齢に相応しいかと思います。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

●本質を見きわめる使いこなし試聴
 標準針圧1・5g、インサイドフォースキャンセラー(IFC)1・5でスタートする。中途半端な表情があるため、1・6g(針圧のみ記した場合は、IFCも同量)に増すと、安定感は増すが、重く、反応が鈍くなるため、逆に針圧1・4gに下げる。反応に富み、プレゼンスの良さが目立つ音で、これはかなり良い音だ。
 試みに、針圧はこれに決め、IFCを変えてみる。IFC1・3に減らすと、音の輪郭がクッキリとしたアナログディスクらしい音になるが、音場感的には少し拡がり不足だ。そこで逆に、IFCを1・5にふやす。音場感的な拡がりはグンと拡がり、少しコントラストは薄くなるが、カートリッジのキャラクターから考えればこれがベターだと思う。
 では、音の輪郭をクッキリさせるためにスピーカーのセッティングで追込んでみよう。木製キューブを3個使った置き方が標準のため、まず、前の2個を45度方向内側に10mm入れてみる。穏やかさが出てくる。これは逆効果でダメだ。次に、後の1個を10mm内側に入れる。低域が引締まり、全体に音がクッキリして、これで決まりだ。
 アル・ジャロウを試す。まだ、反応が遅いため、スタビライザーを使うが、クラフトSD45は、柔らかく雰囲気型の響きとなり、マイクロST10は輪郭強調型で、クッキリとはするが、少しメタリックで結果はNG。次に、置台上でプレーヤーを移動してみる。右奥に置くと、反応が早く、適度に弾む楽しい音になる。

●照準を一枚に絞ったチューンアップ
[ハイ・クライム/アルジャロウ]
大村 切れ味のいい音ですが、線が細く、アル・ジャロウの声が子供っぼく聴こえる。もう少し力強さが欲しい気もします。
井上 そこでスタビライザーを試してみることにしましたが、スタビライザーを使うことは、レコードの音にスタビライザーの材質の音をつけ加えることですから、必ずしもプラスの方向に作用するとは限らない。
大村 三種のスタビライザーを聴いたわけですが、暖色系の音になり、湿っぽいものや、表情が抑えられた感じで、メリハリがきかなくなるもの、メリハリはありますが、音ののびやかさを抑えたりで、結局外した状態が、晴々としているようです。
井上 そこでプレーヤーを置く位置を変え音の傾向をコントロールしてみます。ラックのセンターにあったのを、一番強度のとれている右奥に置いてみると、全体にソリッドになって、音の反応が速くなり、ほぼ満足すべき音になりました。
大村 試しに左手前に置いてみると、柔らかくてソフトで、反応が遅くなり、アル・ジャロウの音楽にはマッチしないようです。右奥に置くことで、音の押し出しの強さといったものはないけども、反応の速さが出て、ソリッドで引き締まって、このカートリッジでの妥協線でしょう。

ソニー XL-MC7

井上卓也

ステレオサウンド 75号(1985年6月発行)
特集・「いま話題のカートリッジ30機種のベストチューニングを探る徹底試聴」より

 音の粒子が細かく、適度な広帯域型のバランスでスッキリと線を細く、クリアーに聴かせる。標準の針圧1・5g、IFC1・5では、平均的なまとまりで、描写の線は少し太く、音は少し奥まって聴こえる。音色は暖色系で、低域は軟調、高域は少し硬質で、中高域に輝かしさが感じられる音だ。上限の1・8gでは安定感は増すが、鮮度感が減り、ディフィニッションも不足する。下限の1・2gではやや、音が浮き気味となるも、音色の軽く、フワッとした雰囲気と爽やかさは、ムード的だが、十分に楽しめる。結果は、1・35g、IFCも同量で、軽快さもあり、鮮度感のあるフレッシュな音となる。MCらしい良い音だ。
 ファンタジアでは、ベースは、軽量級だが、ピアノは程よくキラめき、抜けのよい、響きの豊かさが楽しめる。
 アル・ジャロウは、音色が暖色系に偏り、音場的な見通しに欠けるが、ライブハウス的プレゼンスは楽しめる。

ソニー TA-F555ESII

井上卓也

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 ソニーから、去る9月に発売された新プリメインアンプは、デジタルプログラムソースからアナログプログラムソースまで高忠実度で再生できるように、基本特性を向上させるとともに、AV対応にはビデオ入力端子を2系統と出力端子を1系統備えていることに特徴がある。
 アンプとしての基本特性の向上のポイントは、実使用時のダイナミックレンジ120dBと左右チャンネル間のセバレーション100dBを実現していることだ。
 アンプ構成上の特徴は、プリアンプ部とパワーアンプ部との間に新たにカレント変換アンプを設け、信号系をプリアンプ部とパワーアンプ部とに電気的に分離し、独立できるオーディオ・カレント・トラスファー方式にある。この方式は、電圧としてプリアンプ出力に出てくる入力信号を、いったん電涜信号に変換し、このカレント変換アンプ終段に設けたリニアゲインコントロール型アッテネーターで再び電圧信号に戻す、というものだ。この方式の採用でプリアンプとパワーアンプ相互間の干渉やグランドに信号電流と電源電流が混在することに起因する音質劣化や、歪、ノイズなどの問題が解消でき、実使用時のダイナミックレンジの拡大と優れたセバレーション特性を獲得し、音質を大幅に向上しているとのことである。
 この電流変換アンプに設けられた新方式アッテネーターは、最大から実際に使われる音量に絞り込むに比例してインピーダンスが低くなり、通常のリスニングレベルでの歪や周波数特性、SN比、クロストークなどの諸特性が改善できる特徴をもつ。
 パワーアンプ部は、独自のスーパー・レガートリニア方式パワーアンプと大型電源トランスを組み合せ、100W以上の大出力時にも広帯域にわたりスイッチング歪、クロスオーバー歪を激減させ、4Ω負荷時180W+180W、1Ω負荷で、瞬時供給出力500W+500Wを得ている。
 なお、音質を左右する大きな要素である配線材料には、このところ話題のLC-OFCを大量使用しているあたりは、いかにもOFCワイヤー採用以来のソニーらしい動向を示すものだ。
 JBL4344を、LC-OFCコードを使いドライブしたときの本機の音は、ピシッと直線を引いたように感じられるフラットな帯域バランスと、タイトで密度感があり、十分に厚みのある質感、ダイレクトな表現力などが特徴だ。低域は芯がクッキリとし、力感も充分にあり、従来のソニーアンプとは一線を画した見事なものだ。
 音場感的には、音像が前に出て定位するタイプで、輪郭はシャープ。前後方向のパースペクティプな再生も必要にして充分だ。
 質的にも洗練され、ダイナミックでストレートな表現力を備えた立派な製品である。

ソニー CDP-552ESD + DAS-702ES、Lo-D HDP-001 + HDA-001 (DAD-001)

菅野沖彦

ステレオサウンド 73号(1984年12月発行)
「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 1982年10月のCDプレーヤー発売以来、まる2年が経過した。というよりも、3年目に入ったという言い方のほうがよいかもしれない。なぜならば、多くのメーカーのCDプレーヤーは第三世代目が登場しているからだ。例によって異常に闘争的で気短かな日本のメーカーの気迫のおかげで、2年間としては驚くほどの機種数が発売され、第一目標の10万円はさっさと割り、ついに5万円が普及品の競争価格となった。いいものを安く作って売ることは大いに喜ばしい。しかし、一方において、高くてもより優れたものを作ることも大切だ。この2年間のCDプレーヤーは、価格的にも内容的にも、中級からスタートを切って、上下へ発展したように見える。しかし現実は必ずしもそうではなく、価格的にはその通りなのだが、内容としては、個々の機器によってまちまちで、価格と性能・音質との関連は見出しにくい。安くても音のいいもの、高くてもそれほどでもないもの、そして、さすがに高いだけあって素晴らしい音のものなどが入り乱れているといってよい。
 デジタルオーディオは、もともと音に差の出るものではなく、フォーマットが同じならば、それですべてが決るのだと聞かされてきた。もし、その通りなら、いまの現実がおこるはずはない。ほんとうは安くても高くても、その基本性能と本質的な音に変りはないはずなのである。少なくとも、価格の安いもののほうが音がよいなどということがおこってはいけないはずである。しかし、それはあくまで『はず』であった。CDプレーヤーが出る何年も前に、私はデジタルプロセッサーとビデオデッキを使っての実験的な録音を何度か行なったが、その度に、このデジタルエンジニアリングの専門家の言葉を疑わざるを得ない体験をしてきた。同じプロセッサーで、デッキを変えると音が変わる。テープによっても若干の音質の変化があるという体験をした。CDが実用化して、多くの人達が、プレーヤーによる音の変化を指摘した。皆、一様に、そんなはずはないのだが、実際に違うのだと首をかしげたものだ。ついには日本オーディオ協会が主催して、市販のCDプレーヤーの音を聴き比べる実験も行なわれた。私もこれを聴いて、改めて、その違いに驚かされた。出席した数百人のマニア諸兄も同様の感想をアンケートに残したのである。
 この2年間、自宅で数多くのCDプレーヤーに接したが、ますますその観を深めている。CDプレーヤーもまた、多くのオーディオコンポーネントと同じく、この複雑微妙な音と音楽の再生に個性をもつことが、私たちの耳で確められたのである。ただし、アナログプレーヤーのような大きなバラつきがないことは事実であって、その下限(今後のことは未知だが……)の水準は、アナログの最低水準よりはるかに高い。価格を考え合せるとなおさらのことで、例えば、5万円の価格で、カートリッジつきプレーヤーとイコライザーアンプまでを含めたアナログの再生システムとなると、まともなコンボーネントの範疇には到底入れられないレベルのものだろう。しかし、上限はどうか? これはどうやら今の段階では明言し難いようだ。私見でば、現在のCDフォーマットの16ビット/44・1kHzというのは、不十分と感じられる。人間の感覚と音楽の妙、その芸術性に謙虚に技術が奉仕するためには、不必要と思われる余裕のある規格、例えば、22ビット/100kHz以上のサンプリング周波数で、実際ものを作り、多くの人に聴かせ、経済性との妥協点でどこまで下げられるかをじっくり時間をかけて検討すべきだと私はメーカーに言い続けてきた。現在のCDフォーマットは既成の学説の鵜呑みに理論値をあてはめたもので、決して十分な実験の結果決められたものではない。いずれ、そのうちに、スーパーCDフォーマットなるものが出来るような気もするのである。とはいうものの、現在のCDの能力は、いまだに計り知れないところがあって、新機種の中には、驚くほど音がよくなったものがあるのも事実である。そして、今や、私個人の楽しむプログラムソースとしても、CDはすっかり定着し、よきにつけあしきにつけ、アナログディスクにはない特徴に日常親しんでいるのである。
 CDの可能性は未知だと書いたが、それを再生倒で強く感じさせてくれたのが、今回登場のソニーCDP552ESD+DAS702ESと、Lo-D、DAP001+HDA001という2機種であった。
 図らずも、ほぼ同時に発売されたこれらの機種の共通点は、セパレート型CDプレーヤーシステムというもので、光学メカニズムを含む信号処理部までのデジタル系と、DAコンバーター以後のアナログ系とを、それぞれ別のシャーシに分離してまとめられた新しいコンセプトによるものだ。このコンセプトは従前から話題にはなっていたもので、ぜひ製品化の実現が望ましいと考えられていたものである。その理由はいくつかあるが、一つには、デジタル系とアナログ系を狭い共通のシャーシ上に同居させることによる各種の干渉による悪影響が想像されていたからだ。そして、このコンセプトによる製品は当然コスト高となるが、それによってさらに、各部の品位を上げることに連ることが予想されたのである。現に2機種とも、ただセパレートにしたのみならず、それぞれ、デジタル部もアナログ部も従来機よりも一層入念な回路設計、コンストラクション、パーツの選択に磨きがかけられているのである。次に、この形態をとることにより、プレーヤーとプロセッサーが独立製品となり、コンポーネントとしての発展性と趣味性が高まることである。今のところ、Lo-Dとソニーでは、プレーヤーのデジタル信号出力の出し方に違いがあって、出力端子を含めてしかるべく統一が図られるべきだし、その方向に向っているが、そうなると、他のメーカーからDAプロセッサー単体が発売される可能性が出て、プレーヤーとプロセッサーの組合せの自由度が生まれることになるだろう。すでに、これを大いに歓迎しているアンプの専門メーカーもあり、こうなるとCDプレーヤーのハイエンドユーザー層への浸透に拍車がかけられることになるはずである。CDプレーヤーの普及化もよいが、一方において、熱心なハイエンドユーザーに認知されないことにはCDの市民権は不十分である。ユーザーの中には、まだまだCDアレルギーの人々が多いはずで、それらの人の中には、問答無用、聴く耳持たず……といった感情的な姿勢の人も少なくないことを知っているが、同時に、現在のCDの水準が文句なく受け入れられるレベルにまでは至っていないのも事実である。私自身のCD観は初めに書いた通りなので重複は避けるが、この新しいテクノロジーの成果と可能性はもっと虚心坦懐に受け入れたほうがよい。こだわりも必要だが、前向きの明るさも大切だ。人生、ネアカジュクコウが私のモットーである。

ソニー CDP552ESD + DAS702ES
 さて、このソニーとLo-Dの2機種についてだが、詳しくは、後で御紹介するそれぞれの機械の直接の担当エンジニアとのインタビューを読んでいただくとして、その概略を述べておこう。
 ソニーCDP552ESDは、同時発売のCDP502ESと基本的に同じCDプレーヤーであるが、本機は、それにデジタル出力端子を装備したものである。このプレーヤーの最大の特徴は、その操作性の完成度の高さであって、きわめて静粛かつ迅速なアクセスはあらゆるCDプレーヤー中、群を抜いている。20キーを持ち、最大20曲までメモリー可能、呼び出しはこれにプラス10キーを加えて30曲まで瞬時におこなえる。メモリーは演奏中にプログラムのチェック、追加、変更も可能である。また、シャッフルプレーといって、プレーヤー自身で再生曲順をランダムに選定するという面白い機能ももっている。新しいLSIの開発で主要デバイスは一新され、光学系のメカニズムやサーボもより完成度を高めた。フローティングマウントにより、メカ自身と外部からの振動への対策も図られている。CX23033ICによるデジタルオーディオインターフェースでピンプラグ一本で簡単にデジタル出力がシリーズアウトされる。これでCDのサブコードなども送信可能である。ピックアップ駆動にはリニアモーターが使われ、サーチはきわめて速い。速すぎてディレイスイッチが用意されているほどだ。また、サーチ中の不快なノイズも全く気にならない。ディスクトレイの出入もスピーディで全くいらいらすることがなく、一度このプレーヤーを使うと、他機種のそれがスローモーションでじれったくなってしまうだろう。リモートコントロールユニットRM-D502は、CDP502ESと共通の赤外線パルス式である。
 DAS702ESは将来の放送衛星やSHF放送試聴の備えをもったDAプロセッサーで、サンプリング周波数は32kHz、44・1kHz、45kHzに自動切換えにより対応する。DAコンバーターはLR独立型、オーディオ回路には電源トランス、コンデンサー、線材などに入念な音質対策が施され、ESシリーズ共通の剛性の高いシャーシコンストラクションとなっている。

Lo-D DAP001 + HDA001
 Lo-D/DAP001も、大筋においては変りはなく、光学系のメカニズムと信号処理部までのデジタル回路をもつたCDプレーヤー。このプレーヤーのアクセス機能は既存のDAD600に準じるもので、10キーを備えたコンベンショナルなもの。操作性は標準的といってよいだろう。内容的な特徴としては、5重訂正という大きな訂正能力をもつが、これは新しく開発されたC-MOS・LSIによりエラーは1回/20万年という高性能、かつ、訂正もれによる補間雑音も最小限におさえられているという。150億以上のピット信号が刻まれているCDだから、読み出しのエラーはつきものである。またCDそのものの成形もパーフェクトにはいかないから、そのローカルディフェクトも無視出来ない。デジタル系で音が変わるとすると、誰もがまずエラーレイトを想起するし、事実、エラーレイトのチェック以外に、今のところ、デジタル系に起因する音質の定量的チェック方法はないらしい。必要以上とも思われる5重訂正という従来の倍以上の訂正能力をもたせ万全を期したものだろう。デジタル信号の出力は、今のところアンフェノール24ピン・コネクターによっているが、いずれ、ソニーと同じフォーマットに改められる予定である。この部分は今後、いろいろな論議を呼ぶことになりそうである。このプレーヤーは、ソニーと正反対といってよいデザインイメージで、ソニーがブラックなのに対し、こちらはシルバー。メカニカルなソニーのパネルフェイス廻りに対して、こちらは木製サイドボードをもったウォームなものである。
 HDA001はデジタルフィルター、DAコンバーター、サンプルホールド、ローパスフィルター、アナログアンプの各ブロックをまとめたプロセッサーである。DAコンバーターはリニア積分型でLR独立して使われている。デジタルフィルターはオーバーサンプリング方式で、この辺りは、ソニー、Lo-D共に自社開発のLSIを使っているのでパーツの差はあるが、基本方式としては同じとみてよいだろう。アナログアンプ部は、これも入念な配慮がみられ、電源トランス、コンデンサーなど、コンストラクション、品位ともども十分検討されたものだ。キャビネットの無共振化、外部振動の遮断などへの配慮も、DAP001とともによく検討された作りである。
 それでは、以下、ソニー、Lo-Dそれぞれの開発担当者とのインタビューによって、それぞれの製品の特徴を中心にさらに話を進めることにしよう。私が、ソニー、Lo-Dのエンジニアに質問する形で進行することにする。

●ソニー開発担当者エンジニア
──CDプレーヤーを、セパレート化された理由をお聞かせ下さい。
『CDプレーヤー開発する前に、PCMプロセッサーPCM-F1を商品化したわけですが、このとき、音を徹底的に追及したかったため、使い勝手をやや犠牲にしながらもセパレート型を採用し、そのおかげで、かなり満足すべき結果が得られました。
 PCMレコーダーでセパレート型を開発したことにより、CDプレーヤーにおいても、メカニズムが発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響、それに、デジタル回路とアナログ回路の干渉が、音質劣下をきたすのではないかと、感じていました』
──CDP101を発表された時に、既にセパレート型の方が音がいいことは判っておられたのに、なぜ、最初のCDプレーヤーは、インチグレーテッド型で出されたのですか。
『アンプにも、インテグレーテッド型とセパレート型があり、それぞれ意味があるわけですが、CDプレーヤーでも同じことが言えます。われわれとしましては、高級機はセパレート型も考えていましたが、まだ、その時点ではCDプレーヤーのデジタルアウトの規格が決まっておらず、CDを普及させる意味もあって規格が決まるまで待っていたわけです。
 このデジタル・インターフェースの規格は、プロ用デジタル機器の規格に準じたもので、ドラフトが一九八二年末に、最終文書が翌年九月に配布されています。これは現在はIECで標準化されようとしています』
──具体的には、どの部分から分けられたのですか。
『D/Aコンバーターを、プロセッサー側に内蔵する形態を採りました。これは、将来出てくるであろう衛星放送チューナーやDATに対応できるようにするためです。
 プロセッサーは、サンプリング周波数をCDの44・1kHzの他に48kHz、32kHzにも対応できるように設計していますので、フォーマットさえ同じなら他のデジタル機器でも接続可能になるわけです』
──セパレート型でしかできないこと、それに、ソニーの第三世代のCDプレーヤーとして第1、第二世代のモデルとの違いはありますか。
『インテグレーテッド型の場合、一つのシャーシにメカニズム、デジタル回路、アナログ回路を収めるため、スペース的余裕がなく、どうしてもアナログ回路は妥協せざるをえなかったわけですが、スペース的に余裕のあるセパレート型は、アナログ回路にアンプ開発で培ったノウハウ、技術を充分に生かすことができました。
 従来の光学系はギヤで駆動しており、メカニズムの機械ノイズ、経時変化の問題がありましたが、今回採用したリニアモーター方式は、ギヤ駆動の問題点をすべて解決することができ、また、アクセスのスピードアップも可能となりました。
 さらに、ピックアップ部と駆動部を一体化したことにより、加工精度が向上して、より正確な信号のピックアップが可能になりました。また、この部分を、シャーシからフローティングしていますので、メカニズムが発生する機械ノイズがエレクトロニクス部分に影響を与えることはありませんし、外部振動からピックアップ部が逃げられるなどの、メリットがあります』
──デジタルは、音が変わらないとCDの発売当初は言われましたが、実際にはかなり大きな違いがありますが、このことについて、設計者の方は、どうお考えでしょうか。
『LSIとデジタル回路の設計は、純粋なデジタルのエンジニアが担当していますが、メカニズム、アナログ回路を含めたCDプレーヤーの全体的な設計は、長くオーディオを担当しきたエンジニアがやっており、彼等がデジタル回路を見直しますと、音の変わる要素が数多く出てきます。
 さらに、デジタル波形を見てみますと、理論上では0と1しかないはずですが、0にもいろいろな0があり、1にも同じことが言えます。単純に、デジタル信号は0と1だけとは、現在では言えないように思っています』
──それは、どういったことが原因で起こるのですか。
『まだ正確なことは言えませんが、おもに個々のパーツが発生するノイズ、デジタル回路が出すノイズ、機械ノイズ等の影響からくるものだと考えられます。将来的には、この辺を完全にクリーンにして、デジタル信号を理論通りの0と1のみにして、信号処理していくつもりです。
 今回のモデルが、CDで出せる究極の音とは言いませんが、デジタルのもつ優れた可能性を伺い知ることのできるものだとは思っています』

●Lo-D開発過当エンジニア・インタビュー
──セパレート化されたコンセプトは、どこにありますか。
『エレクトロニクス回路は、デジタル、アナログに関係なく電源は重要なポイントだと思っています。
 一般的なCDプレーヤーは、1つのシャーシにデジタル回路とアナログ回路とを同居させているため、それぞれに理想の電源をもたせることは無理ですし、どこかで妥協せざるをえない。また、共通の電源を介して起こる干渉と、デジタル回路から発生するノイズの、アナログ回路への飛びつきを防ぐために、セパレート化に踏み切ったわけです』
──セパレート型と、インチグレーテッド型との音の差はどの程度ですか。また、それは、ただ単にセパレートしたためによるものですか。
『作ったわれわれが驚くくらい、非常に大きい差と言えます。しかし、ただ単にセパレート化したことだけによる音質向上ではなく、現時点で、考えられるだけのことをやり、徹底したコンストラクションの見直し、パーツの追及によるところも大きいと思います。
 今回のモデルの開発は、おもにアナログ系を重点的に音を詰めていきました。デジタル部も新たにLSIを起こしましたし、五重訂正回路の採用により、これまでは平均値補間で処理してきた大きなエラーも、正しいデータに直り、アウトプットされます』
──電源には、どういったことがされていますか。
『電源は、ローノイズの高速ダイオード、4700μFの音質対策コンデンサー、そして15Vに定電圧化して、そのコンデンサーの容量も1000μFものを使用しています。ようするに、セパレートアンプの電源と同じ考えで、音質追求を図っています』
──どの部分から、分けているのですか。
『D/Aコンバーターは、プロセッサー側に入っています。この分けかたは、基本的にはソニーのものと同様といえます。ただし、ソニーは、ピンケーブル一本で信号の受け渡しを行っていますが、われわれは、24ピンのアンフェノールコネクターを用いました。
 受け渡しの信号の内容は、シリアルデータ、データのクロック、サンプルホールドの信号とエンファシスの有無の信号、ミューティング、グランドラインで、これをモジュレートせずに送りだすか、モジュレー卜するかだけが、われわれの方式とソニーの方式の違いですが、互換性をもたせるためにピンコネクター方式に変更すべく、検討中です』
──特性データをとると皆同じになるデジタルですが、その音の違いはアナログ以上に思うのですが、データと聴感の関係をどう考えられていますか。
『各社とも、あまりにも音が違いすぎる。しかし、データをとると皆同じ。われわれは、これを解明するには現在考えられる究極のものをやってみなければならないという結論に達したわけです。
 同時に、高級アナログプレーヤーを使われているユーザーにも、満足していただけるような音をCDからいかに出すか、ということも目標としてありました』
──音決めをされる場合、デジタル部とアナログ部と、どちらが比重が高いのですか。
『パーツ交換による音の変化は、アナログ系のほうが大きいです。しかし、デジタル系も使用パーツの違いによって、そうとう音が変わるのも事実です。アナログ系のもう一つの特徴は、ローパスフィルターの後のオペアンブの出力に、能率の高いスピーカーならドライブできるほどのパワーをもつバッファーアンプを備えていることです。これは、音質向上にそうとう大きな効果があったと考えています。
 CDに含まれている情報を正確にピックアップしてアナログに変換しても、それをプリアンプに正確に伝送しなければ、なんにもなりません』
──このモデルは、インチグレーテッド型と比べて、音の差が非常に大きいわけですが、これはセパレート化によるところが大きいと思われますか。
『このモデルは、いろんな細かいことの積み重ねによって、ここまでのクォリティがえられたのだと思います。ですから、もしかすると、どれかひとつでもかければ、がらりと音が悪くなるのかもしれないし、ひとつぐらいかけてもそれほど音は変化しないのでは、とも思えます。このへんは、これから追及していきたいところでもあり、疑いだすときりがなく、オーディオの一番象徴的な問題がでてきた感じで、設計者泣かせのところでもあります』

 以上、それぞれのCDプレーヤーの担当エンジニアの談話である。その話からもわかるように、セパレート型のメリットは明らかなようだ。そして、その理由は、デジタル回路とアナログ回路の干渉をおさえることによる音質改善、メカニズムの発生する振動がエレクトロニクス部分に与える影響の回避、十分なスペースを確信し、余裕のあるコンストラクションの確保、そして、それらによって得られる高品位をさらに高めるパーツや回路の洗練によるものであることが解る。
 2機種ともに、実際の試聴でその音のよさは明確に認識され、初めに書いたようにCDの音の可能性の高さを知らされることになったのだが、興味深いことは、この2台のCDプレーヤーシステムがそれぞれに違う音を聴かせることである。
 ソニーのCDP552ESD+DAS702ESは明らかに同社のCDプレーヤー中、CDP5000Sをのぞいては最高のもので、一体型とは次元を異にする音である。音の厚味、透明感、立体感、品位が一段と上り、細部がいっそう明解に聴こえながら、音が機械的な冷たさをもっていない。実に豪華な響きなのである。
 Lo-DのDAP001+HDA001も、同社の一体型とは次元を異にする音であることでは変りない。しかも、このプレーヤーシステムの音は、音の厚味に払いてはソニーのそれを上廻り、前者が華麗な響きなのに対し、これはより落着きのある、しっとりとした響きである。まるで、よく出来たMM型のカートリッジとMC型のそれを聴いた時のような音の違いが、この2台のCDプレーヤーから感じられた。つまり、ソニーがMM型、Lo-DがMC型である。こうした音の質感の違いこそが、オーディオコンポーネントの楽しさであるし、難しさであるが、CDプレーヤーとして一歩も二歩も前進したこの2台においても、依然としてそれが存在する──いや、かえって大きく存在するかもしれない──のは面白い。
 2つの機種を同時に扱えば、当然比較対照することになるし、読者の関心も、どっちがどうだ? というところに集中すると思われる。しかし、この2機種、価格の上ではかなりの差があって、ソニーが38万円、Lo-Dが60万円である。そして、Lo-Dは今のところ受注生産の形をとっているため、コスト計算は両者では全く違い、どちらかといえば、Lo-Dのほうがかなり割高につくと思われる。音質では、Lo-Dが優位であるが、その辺を考えると、どちらともいえない難しさがある。しかも、ソニーの抜群の機能とアクセスの優秀性を考え合せるとなおさら、コストパフォーマンスとしてはソニーに軍配が上がりそうである。どちらにしても、CDプレーヤーのマニア層への浸透に大きな力となるものだし、その質的向上と発展性を高めた有意義な新製品として大歓迎である。

ソニー APM-8, APM-6、パイオニア S-F1、テクニクス SB-M1 (MONITOR 1))

井上卓也

ステレオサウンド 72号(1984年9月発行)
特集・「いま、聴きたい、聴かせたい、とっておきの音」より

 平面振動板採用のユニットを使ったスピーカーシステムといえば、1970年代の末期に急激に開花した徒花といった表現は過言であるのだろうか。
 毎度のことながら、国内のオーディオシーンでは、これならではのキャッチフレーズをもった、いわば、究極の兵器とでもいえる新方式や新材料を採用した新製品が、開発され、ある時期には、各社から一斉に同様のタイプの新製品が市場に送り込まれ、盛況を見せるが、それも長くは継続せず、急速に衰退を元す、といった現象が、繰返されている。平面振動板を採用したユニットによるスピーカーシステムも、その好例であり、現在では継続してこのタイプのユニットによるシステム構成を行なっているのは、テクニクスとソニーの2社といってよいであろう。
 平面振動板は、スピーカーユニットの振動板形態としては、もっとも、シンプルなタイプであり、振動板の振動モードを検討する場合に、オルソンの音響工学にもあるように、常に引合いに出されるタイプだ。
 従来からも、平面振動板を採用したダイナミック型のユニットは、特殊なタイプとしてはすでに1920年代から存在することが知られているが、いわゆる、コーン型ユニット的に、ボイスコイルで振動板を駆動する製品としては、かつて、米エレクトロボイスにあったといわれる、木製の板を振動板としたユニット、ワーフェデールのコーン型ユニットの開口部を発泡性の合成樹脂の平らな円板でカバーしたウーファーなどが一部に存在をしたのみである。これが、急速にクローズアップされたのは、宇宙開発や航空用に開発された軽金属製のハニカムコアが、比較的容易に入手可能となり、これに、各種のスキン材を使って、振動板として要求される、重量、剛性、内部損失などの条件がコントロール可能になったためである。簡単にいえば、新しい材料の登場が、急速な平面振動板ユニット開発のベースとなっているのである。
●ソニーAPM8/APM6
 平面振動板を採用した原点は、全帯域にわたり完全に近いピストン振動をする、いわば、スピーカーの原器ともいえるシステムを開発するためといわれ、アキユレート・ピストニック・モーションの頭文字をとりAPMの名称がつけられている。
 APM8は、11978年1月に開発されたAPMスピーカーをベースに製品化された第一弾製品で、ハニカムサンドイッチ構造の角型板勤板ユニットを4ウェイ構成とし、フロアー型バスレフエンクロージュアに組込んだシステムである。アルミ箔スキンの低音は、4点駆動で、中心にローリング防止ダンパー付。中低域以上は、カーボンファイバーシートをスキン材に採用している。
 磁気回路は、アルニコ系鋳造磁石を採用し、プレートとセンターポールの放射状スリットと、磁気ギャップ近傍のプレートやボールに溝を設けるなどの機械加工による電流歪低減と、各ユニットのインピーダンスを純抵抗と純リアクタンスに近づけ、単純化し、ロスを減らし、特性をフラット化する設計が見受けられる。
 エンクロージュアは、200ℓ、自重60kgで25mm厚高密度パーチクルボード製。ネットワークは、SBMCの高圧成形の防振構造を採用している。
 ユニット性能を最重視した基本設計は、国内製品として典型的な存在である。物理的な性能は超一流のレベルにあるが、システムとしての完成度に今一歩欠けるものがあり、発表以後、改良が加えられた様子はあるが、サウンド的には未完の大器であり、非常に残念な存在である。完全にチューンナップした音が聴きたいモデルだ。
 APM6は、APMユニットをモニターとして最適といわれる2ウェイ構成とし、エンクロージュアをスーパー楕円断面の特殊型として、デフテクションの防止を図ったAPM第二弾製品である。2ウェイ構成のため、セッティングは非常にクリティカルな面を示すが、追込めばさすがに、従来型とは一線を画したスピード感のある新鮮な音を聴かせる。使い手に高度の技術を要求する小気味のよい製品だ。
●パイオニア S−F1
 世界初の平面同軸4ウェイユニットを開発し、採用した、極めて意欲的、挑戦的モデルである。基本構想は、音像定位、音場感を最優先とした設計であり、混変調歪やドップラー歪に注目して一般型としたソニーAPM6と対照的な考え方と思う。
 角型ハニカム振動板は、低域と中低域のスキン材にカーボングラファイト、中高域と高域用はベリリュウム箔採用だ。磁気回路は、同軸構造採用のため、ウーファー振動板40cm角に対して32cm型のボイスコイルであり、背面の空気の流れを確保するため非常に巧妙な考えが見受けられる。とくに、高域と中高域の同軸構造磁気回路は、シンプルでクリーンな設計である。
 エンクロージュアは、230ℓのバスレフ型で、システムとしての完成度は、相当に高いが、今後のファインチューニングを願いたい内容の濃いシステムである。
●テクニクス/モニター1
 SB7000で提唱した位相特性平坦化を平面振動板採用で一段とクリアーにした理論的追求型のシステムだ。独特のハニカムコア展開法は、振動板外周ほどコアが大きくなり、軽くなる特徴をもち、4ウェイ構成のユニットはすべて円型振動板採用。
 低域用の特殊構造リニアダンパー、高域用のマイカスキン材をはじめ、磁気回路の物量投入は、価格からみて驚威的で、非常に価格対満足度の高い製品である。特性は充分に追込まれているが、システムアップの苦心の跡としてバッフル前面のディフューズポールや、内部定在波を少し残して低音感を調整したあたりは巧みである。この製品の内容を認めて、使いこなせる人が少ないのが、現在のオーディオの悲劇であろうか。

ソニー APM-55W

井上卓也

ステレオサウンド 68号(1983年9月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底解剖する」より

 全製品に平面振動板ユニットを採用する方向に進んでいるのが、ソ二−のスピーカーシステムの大きな流れとなっているが、今回、発売されたAPM55Wは、既発売のAPM77W/33Wにつづく、平面振動板採用のスピーカーシステムの中核となる新製品である。
 一般的な口径でいえば、27cmに相当する振動板面積をもつウーファーは、スキン材にアルミ箔を採用したハニカム構造であり、ボイスコイルボビン端から伸びた4本の軽金属製のアーマチュアを介して、分割振動の低次モードにおける4点の節目を駆動するタイプだが、駆動点は振動板を駆動するアーマチュアがハニカムサンドイッチ構造を貫通して振動板の前、後面を駆動する、ダイレクト・デュアルサーフェイス・ドライブ方式と名付けられたタイプだ。
 中域は、スキン材に力−ボン織維とグラスファイバーシートを複合した材料を使う、直径8cm相当の平面振動板は、直径5cmのエッジワイズボイスコイルで直接駆動される。なお、直径4cm相当の高域ユニットは、スキン材がチタン箔、ボイスコイル直径は25mmである。
 エンクロージュアはバスレフ型で、北米産高密度材使用のウォルナット突坂仕上け。内部吸音材は、ミクロン・グラスウールや高分子化合物繊維の3種類を使い分けている。なお、ネットワークは、大電流が流れる低音用回路と高音用回路を独立させた分散配置型で、最近の高性能システムとしてオーソドックスな手法である。また内部配線材やコイルはすペて無酸素銅線使用、コンデンサー類は独自の開発による音質対策型というのは、いかにもソニー製品らしい設計である。
 APM55Wのユニークなポイントとして、別売のスピーカースタンドWS500(2台1組¥8500)が用意されており、システムの底板に設けられたネジを利用して、スタンドを固定できることがあげられる。このスピーカースタンドを含めてシステムとする方法は、とかくセッティングにより大幅にサウンドバランスが変化するスピーカーシステムを使いこなすための、ひとつの解決策として歓迎したいものだ。
 APM55Wはソニーの製品らしく、平均的なコンクリートブロックを横積1段程度の比較的に低いセッティングでバランスがとれるようだ。ブロックの固有音を避けるために厚手のフェルトを介してシステムを置き、ブロック間隔を調整してセッティングを追い込む。低域は比較的にタイトなタイプで量感よりも音の輪郭をクッキリ出す。中域は、明るくカラッとした音で、高域とのクロスオーバーあたりに、キラッと輝くキャラククーをもつ。これに対して高域は、少し穏やかにバランスをする。
 全体にモニター的な性格が、特徴であり、いかにもソニーらしい整理された音をもつが、遠近感の再生が、もう少し欲しい。

ソニー CDP-5000

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「プロ用CDプレーヤー ソニーCDP5000試聴記」より

 CDプレーヤーが発売されて、まずまずのスタートをきった。昨年の9月に、一部の新製品が出たが、期待と興味をもって迎えられた第一群の売行きは好評であったときく。一通り、そうした先取りの気鋭に富んだ人達の間に行き渡り、現在は、その第二号機に、より一層の完成度を求める慎重派が待ち構えている気配である。また、メーカーの側も、先行メーカー群──といっても、ほんの2〜3社だが──の成行きを見守りながら、製品の発売を準備している慎重組が控えている様子である。
 こういう革新的な新しいものが出る時は、常に、このような情況になるわけだが、僭越ながらユーザー代表の一人を自認する私のような立場の人間も、言動に慎重を期すべき時期といえる。いつの間にやら、一部では、私はアンティ・デジタル派と決めつけられているようだが、迷惑な話であって、この可能性の大きな新技術の熟度を望む者の一人だと自分では思っているのである。それだけに、この頃は、自宅で、CDを熱心に聴いている。そして、CDが、発売第一号機で、これだけ素晴らしい再生音の世界をつくり出すプログラムソースであり、プレーヤーであることに、大きな喜びと楽しみを感じているのである。そして、CDにとって、再生系のクォリティの水準が高いことが、その真価を発揮させるためにぜひ必要であり、この新しいプログラムソースは、広くコンシュマープロダクツとして便利であるだけではなく、高度なマニアの趣味の対象としても魅力の大きなものになり得ることを感じている。すでに何枚かの愛聴盤も生れたし、街に出れば、CDの売り場を必ずのぞくようにもなった。あの小さなピカピカの円盤への新規な違和感も、今やほとんどなくなった。
 こんな状態の私のもとへ、ある日、コンパクトディスクを演奏するための非コンパクトな大型プレーヤーが持ち込まれてきた。ソニーの局用プレーヤーCDP5000である。12cm径のディスクをかけるためのこの機械は、500(W)×883(H)×565(D)mmもあって、これはスタジオで使うための便利さからきたサイズだと思ったが、なんと、中味はけっこうつまっているではないか。きわめて高精度な頭出し機能やモニター機能、そして、VUメーターなど、放送局などで使うための操作性を万全に備えたプロ機であるため、コンソールのフラットデッキ部分をそれらが占有し、エレクトロニクス部は、下部の台座部分に収納されている。民生用の現在の機器は、ピックアップを移動させてトラッキングしているのに対し、これは、ディスクを移動させる方式をとっている。詳しいことは不明だが、たぶん、フォーカスサーボ系と、トラッキングの送り機構のメカニズムを二分した構造なのであろう。偏心などに対するトラッキングサーボの機構は対物レンズで対処していると思われる。
 CDプレーヤーの音のちがいは、数社の製品の比較で確認させられているし、大方の指摘しているところであるが、このプロ用プレーヤーの音は素晴らしかった。一段と透明度が高く、SN比がよい。現時点でのリファレンスとして、ソニーが開発したいとがよく解る。一般に理解されているデジタル技術の常識による判断を越えた、ちがいがあることは確かであった。それがDAコンバーター以後のアナログ部分の差とだけは断じきれない何かがあるように感じられたのはたいへん興味深いことであった。
 この機械は、また、リファレンス機器として、CDA5000という、アナライザーと組み合わせ、CDの記録データをCRT表示によってTOCやインデックスのエラー、再生時の訂正、補間の回数など、CDのサブコードやオーディオ信号のエラーデータを検出することがCDチェッカーとして機能する。つまり、この機械は、局用のプレーヤーとしてだけではなく、CD生産のプロセスに組み入れて使う品質管理測定器としても使う工業用機器でもあるわけだ。
 とにかく、このCDP5000、今のところ、CDプレーヤーのリファレンスとしての信頼性の最も高いものだと感じられたし、このプレーヤーの水準に達する一般用のプレーヤーがほしいという気にさせる代物であった。プレーヤーとしての基本性能をこのままに、プロ用の機能は一般に必要ないと思われるのでとりぞいて、愛好家用の高級CDプレーヤー誕生の母体となり得るものだし、また、そうしてほしいものである。

クレル PAM-2 + エスプリ TA-N900

菅野沖彦

ステレオサウンド 65号(1982年12月発行)
特集・「高級コントロールアンプVSパワーアンプ72通りの相性テスト」より

 KSA100のときのような特徴的な音ではなくなるが、大変よいバランスで、楽器の質感の響き分けもよい音。やや輝きの勝った音で、くすんだ陰影といったニュアンスには不足するが、明快な音が美しい。ただ、ごく細かいハーモニックスの再現には不十分なようで、楽音がどこかつるっとして、食い足りなさが残るのが気になった。ジャズのベースなど、中低域の質感に、ときにそうした感じが強く、力感は十分なのだがいま一つの不満。

ソニー UCX, UCX-S

ソニーのカセットテープUCX、UCX-Sの広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

UCX

ソニー XL-MC1

ソニーのカートリッジXL-MC1の広告
(オーディオアクセサリー 27号掲載)

XL-MC1

エスプリ TA-E900 + TA-N900

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 いずれのレコードでもすっきりと提示されていた。いくぶんクールにすぎるかなと思わなくもなかったが、この示し方の「正確」さはやはり美点というべきであろう。しかしながら③のレコードなどではひびきの熱を伝えきれていなかった。音の距離を感じてしまうなり方とでもいうべきか。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★★
 ひびきの暗さが気にならなくもないが、バランスのよさが印象的であった。④と⑤のレコードでのきこえ方が、ひびきのきめこまかさによく対応できていて、このましかった。③のレコードでは迫力に欠けるきらいはあるとしても、まとまりがよかった。①のレコードでは遠近感もよく示した。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 過度にきらびやかになることをおさえて、JBLから品位のある音をひきだしたといっていいであろう。総じてひっそりとはしているが、みがきあげられたなめらかな音のこのましさがあった。いずれのレコードに対しても、それぞれのひびきの特徴をひかえめに示した。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

エスプリ TA-E901 + TA-N901

黒田恭一

ステレオサウンド 64号(1982年9月発行)
特集・「スピーカーとの相性テストで探る最新セパレートアンプ44機種の実力」より

ヤマハ・NS1000Mへの対応度:★★
 ひびきがいくぶん煮つまった感じになったのはいかなる理由によるのか。③のレコードでは熱くるしい音場感になっていた。②のレコードでは音のエネルギーを目一杯おしだしているという印象であった。①のレコードでの重量感のあるひびきはききごたえのあるものではあったが……。
タンノイ・Arden MKIIへの対応度:★★
 ともするとひびきが粗くなるようなこのスピーカーの弱点をうまくおさえてはいたものの、総じて音像が大きくなるのは気になった。④、ないしは⑤のレコードでの無理なくひろがるひびきはこのましかった。⑤のレコードではまた、やわらかいひびきの特徴も充分に示しえていた。
JBL・4343Bへの対応度:★★★
 重量感のある音への対応のよさからこのアンプの力量を判断すべきかもしれない。②、ないしは③のレコードで示された力強い音にはきくべきものがあった。しかしながらその一方で⑤のレコードではチェロが太くひびきすぎるきらいがなくもなかった。しなやかさより力強さの提示にすぐれていた。

試聴レコード
①「マーラー/交響曲第6番」
レーグナー/ベルリン放送管弦楽団[ドイツ・シャルプラッテンET4017-18]
第1楽章を使用
②「ザ・ダイアローグ」
猪俣猛 (ds)、荒川康男(b)[オーディオラボALJ3359]
「ザ・ダイアローグ・ウィズ・ベース」を使用
③ジミー・ロウルズ/オン・ツアー」
ジミー・ロウルズ(P)、ウォルター・パーキンス(ds)、ジョージ・デュビビエ(b)[ポリドール28MJ3116]
A面1曲目「愛さずにはいられぬこの思い」を使用
④「キングズ・シンガーズ/フレンチ・コレクション」
キングズ・シンガーズ[ビクターVIC2164]
A面2曲目使用
⑤「ハイドン/6つの三重奏曲Op.38」
B.クイケン(fl)、S.クイケン(vn)、W.クイケン(vc)[コロムビア-アクサンOX1213]
第1番二長調の第1楽章を使用

ソニー APM-77W

ソニーのスピーカーシステムAPM77Wの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

APM77W

ソニー XL-15, XL-30, XL-40, XL-44L, XL-44, XL-50, XL-55pro, XL-70, XL-88, XL-88D

ソニーのカートリッジXL15、XL30、XL40、XL44L、XL44、XL50、XL55pro、XL70、XL88、XL88Dの広告
(モダン・ジャズ読本 ’82掲載)

XL55

ソニー HA-T1

井上卓也

ステレオサウンド 61号(1981年12月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 MC型カートリッジ本来の優れた音質を楽しむためには、ハイゲインイコライザーが標準的な装備となっているとはいえ、やはり、専用の昇圧トランスかヘッドアンプを使うのがオーソドックスな使用法だ。
 この2種類の昇圧手段のいずれを選ぶかについては、従来からも諸説があり、簡単には割切れない。個人的な考えとしては、数Ω以下の低インピーダンスMC型は昇圧トランスを、それ以上の中・高インピーダンスMC型についてはヘッドアンプの使用が好ましいと思う。低インピーダンス型独特の、低電圧・大電流で発電効率の高いタイプは、トランスのもつ電圧・電流の比を変えられるメリットを活かし、高電圧・小電流に変換する。つまり、電圧を高くし、その分だけ電流を減らしてMM型同等の出力電圧に昇圧して使うべきと思うわけだ。
 これに対して、インピーダンスの高いMC型は、出力電圧はやや高いが発電効率は低インピーダンス型より低く、小電流しか流れず、インピーダンスが上がるほど電流が減る。つまり、電圧型に移行するため、それならヘッドアンプで増幅したくもなる。
 今回、ソニーから発売されたHA−T1は、昇圧トランスの性能を支配するコア材に、理想の材料といわれるアモルファス(非晶質体)磁性材を採用した注目すべき新製品である。この新材料は、従来のパーマロイ系磁性材と比べ、低域での歪が少なく、高域での磁気損失が少なく、広帯域にわたりフラットな特性が得られる特長がある。
 今回採用された新材料は、ソニー・マグネプロダクツで開発、製造された35μmのハイファイ用アモルファス磁性材である。最近のディスクの大きなダイナミックレンジに対応するために大型のコアを使用し、入・出力特性のリニアリティを大きくとりダイナミックレンジを確保している。コイルは、コア材の優れた特性を十分に発揮させる目的で、無酸素銅線の多重分割巻き採用である。高・低インピーダンス切替スイッチは銀ムク密閉型。金メッキピンジャックなど信頼性の高い部品を採用している。
 HA−T1は、粒立ちが滑らかで、誇張感なく伸びた帯域バランスをもつ。いわば、トランス独特な緻密な力強さと、ヘッドアンプ特有の分解能が高く広帯域である利点を併せもつといった印象である。一聴に値する、新しい魅力を備えた注目製品だ。

ソニー UCX-S

ソニーのカセットテープUCX-Sの広告
(別冊FM fan 33号掲載)

UCX-S

ソニー SS-RX7

ソニーのスピーカーシステムSS-RX7の広告
(別冊FM fan 33号掲載)

SS-RX7

ソニー HA-50

井上卓也

ステレオサウンド 60号(1981年9月発行)
「MCカートリッジ用トランス/ヘッドアンプ総テスト──(下)」より

 同社のMC型カートリッジXL44との組合せ用として発売されたヘッドアンプ。人力インピーダンスは100Ω、利得は26dBである。MC20は、フラットに伸びた広帯域型のレスポンスとソリッドで引締まったシャープでクッキリとした音である。音色は明るく、程よくパワー感があり、各プログラムソースを明快に整然とこなす力量は見事だ。
 305になるとMC20とは逆に音の粒子が細かく繊細でスムーズな音に変わる。音場感はスピーカーの奥に拡がり、音像も小さく少し距離感がある。基本的クォリティが高く、長時間聴いても疲れない音である。
 試みにXL55PROとFR66Sを使う。重量級の低域ベースの力強い押出しの良い音で、力強いMC型を代表する立派な音だ。

エスプリ TA-N900

菅野沖彦

’81世界の最新セパレートアンプ総テスト(ステレオサウンド特別増刊・1981年夏発行)
「’81世界の最新セパレートアンプ総テスト」より

 ソニーの特別に高級なプレスティジ製品エスプリ・ブランドのパワーアンプだ。内容は別稿の通りかなりのもだが、見たところは、何の変哲もないぺたんこの金属箱で、夢や、使う喜びが感じられるものではない。2〜8Ω負荷に対して200W+200Wのパワーを保証したモノーラルアンプ。ノンスイッチングのA級パワーステージには、NFBも使っていない。電源はパルスロック型。内外ともにモダンで透徹なイメージのアンプ。

音質の絶対評価:9

ソニー PS-X800

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
「Pick Up 注目の新製品ピックアップ」より

 ソニーのPS−B80は、世界最初のMFB制御方式のバイオトレーサーアームを採用した製品として、オーディオの歴史に名をとどめるフルオートプレーヤーシステムであるが、今回新しく登場したPS−X800は、理論上で理想のトーンアームであるリニアトラッキング方式のアームをバイオトレーサー化して採用した注目の新製品である。
 リニアトラッキング方式のトーンアームは、レコード制作時に使うカッティングレースの動作と近似の動作をするために水平方向のトラッキングエラーが極めて小さく、トーンアームの全長が短く、軽質量でトラッキング能力が高いメリットをもっている。
 しかし、現在市場にあるリニアトラッキングアームは、細かく見れば針先の移動に対してトーンアーム支持部の動きが静止・移動・静止と断続的に移動する方式が多い。この細かい点に注目して、今回発売のリニア・バイオトレーサーでは、アクティブ・トレース・サーボ方式を開発、アーム支持部の速度と針先速度の差として得られるトラッキングエラー角を検出し、常に針先速度とアーム支持部の速度が同じになるようにサーボをかけ、トーンアーム自体が動くという新リニアトラッキング方式を採用している。
 リニアトラッキング方式にはアーム支持部を移動させるためのガイドを必要とする。PS−X800のガイドはモノレール型で、アーム支持軸とアーム支点が常に同軸上にある。また、軸受にはノイズ発生の原因となるベアリングを排除し、特殊樹脂に含油したスライド軸受により振動を防いでいる。
 アーム駆動は独自のリニアトルクBSLモーター採用であり、アーム部のコントロールには垂直と水平が独立した速度センサーを備え、独立したリニアモーターに速度フィードバックをかけて低域共振を抑えるとともに、トーンアームが動くリニアトラッキング方式の問題点を解決している。
 機能は自動アームバランス、純電子式針圧印加をはじめ、自動盤径選択とレコード有無選択、2速度のアーム移動、それにカセットと連係動作用の別売のシンクロリモートコントロールRM65がある。
 音の傾向はスケールが大きく、素直で抑制の効いた、安定感のある表現が特長。独特の素気なさがかえって現代的な魅力だ。

ソニー TC-K777

井上卓也

ステレオサウンド 59号(1981年6月発行)
特集・「’81最新2403機種から選ぶ価格帯別ベストバイ・コンポーネント518選」より

 カセットデッキの性能向上を最大のポイントとし、かつてのオープンリールデッキの名器といわれたモデルのナンバーを受継いで開発された、ソニーひさしぶりの3ヘッド構成の製品。性能志向型のため機能はミニマムに抑えられているが、各テープに対応するマニュアルチューニング機構、最新アンプ系と電源を備え、その音質は、デッキやテープの現在の水準をするためのリファレンスとして最適であり、その信頼性の高さは抜群である。

ソニー TC-FX7, ST-JX5, MDR-FM7

ソニーのカセットデッキTC-FX7、チューナーST-JX5、ヘッドフォンMDR-FM7の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

TC-FX7

ソニー PS-X9

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムはいうならば、EMTのプロフェッショナルのプレイヤーシステムのコンセプトを受け継いだもの、といっていいように思う。それはどういうことかというと、まず第一にイコライザーアンプを内蔵している。全体にかなり剛性の高いしっかりした構造でまとめ上げていて、実際に放送局などで使うための便利さというものも十分に考えられている。起動トルクが大変大きくてすぐ立ち上がる。それから実際にターンテーブル周囲にはマーキングがあって頭出しがきちんとできるなど、細かい配慮も行われている。そういう意味でEMT930、927を範として開発されたプレイヤーシステムと考えてもいいと思う。見るからにしっかりした出来で、精度も高いし、いかにも業務用機器のイメージがあって、いわゆるウオームなファニチャーライクな仕上げではないけれども、これはそれなりの次元に達したプレイヤーだ。
 これは本来は、おそらくXL55プロのカートリッジが付いてくるものだと思うが、今回はそれが付いてこなかったので、ほかのものと共通のオルトフォンMC20MKIIを使ってイコライザーをジャンプして聴いた。
音質 実際の音だが、一番の問題点はやや響きが押えられすぎるという感じがすること。特に低音にそれがあり、全体にプログラムソースそのものに入っている音の伸びやかさみたいなものまでが吸収されるという感じがする。楽器そのものというのは大体ブーミングを利用して出来上がっているもので、当然再生系においてブーミングが加わるということはよくないことだけれども、その再生系においてあまりブーミングが加わらないように一生懸命固めていくと、どういうわけだか楽器そのもののプログラムソースに入っているブーミーな音色感をも硬くしていってしまう。そういう問題があるように思う。このプレイヤーにはそれが出ているように思う。従って、生きたナマの楽器の質感が出てこないということ。非常に端正に全部ガチッとした音像でまとまってはいるが、楽器そのものの生き生きとした性格がどこかへ押し込められてしまう。抑制される、そういう傾向を持っている。ベースなどは詰まり気味で、はじいた余韻が十分伸び切らない、減衰が早いという感じがする。それからピアノも中低域のフワッとした肉付きと雰囲気というものが出なくて、何か押し込められて、立ち上がりだけが鋭くパチッと立ち上がってくるということで、やや即物的なものになってしまう。俗に言えば、少し鋭いというか、つまり豊潤な響きのニュアンスというのがよく出てこない。言い方を変えれば、少々節制がききすぎてる。しかし、聴いてみると、どれもきちんと出てくるものだから、頭の中での自分のイメージのレファレンスを変えると、これはなかなかしっかりしたいいプレイヤーだともいえる。ところが自分の感受性で音楽として受け取った場合には不満が出てくる。いうならば優等生的な音といっていいかもしれない。そういうところがこのプレイヤーの良さでもあるし、悪さでもある。楽しい音は聴けないが、正確な音は聴けそうだというところか。