Category Archives: パイオニア - Page 8

パイオニア M-75

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 おそらくペアとして企画されたコントロールアンプC77の、やや重い感じで反応の鈍い傾向の音をちらかがうまく補うという印象で、ややコントラストを強く、音の表情を生かすようにどちらかといえば身ぶりの大きな音を鳴らす。M25やエクスクルーシヴ・シリーズのM4の正攻法の作り方ではなく、どちらかといえばヤングマーケットをことさら意識したのではないかと思えるような、甘さ辛さをはっきりさせたいわゆるわかりやすい味に仕上げてあるので、音の品位という点からみるとかなりものたりない。中音域から低域にかけての厚みを持たせて腰の坐りを良く、大づかみな意味で音のバランスをととのえるうまさはパイオニアならではの手際の良さだと思った。

パイオニア Exclusive M4

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 国産に珍しいロングセラー機だが、こうして何度聴き直してみても、やや線が弱い面のあるもののやはりこのアンプならではの音のしなやかさでやさしく、いくぶんウェットだが繊細で上品な音の良さは、他に類機の得がたいという意味で、これから先も十分に存在理由のある製品といえる。ことにAクラス独得の、おそらくマイクロワット・オーダーのミニパワーの弱音でも、弦の音などニュアンスが美しくしっとり聴かせるところがいい。ハイエンドにやや独得のキラッと光る強調感があって、そこがM4であることを特徴づける個性になっている。重低音の支えがいくぶん弱くそれでいて音が重いところがあるがそれは聴感上マイナス要因にはならない。

パイオニア C-77

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 音のバランスのととのえかたは一応手なれている。国産ではわりあい手薄になりがちの中低域から低音域にかけての支えもかなりしっかりしていて、重心の低い、腰の坐りの良い音が聴ける。むしろ低音がやや重すぎて、いくらか下半身肥大的だ。そのためかアメリンクの声などいくらか太めになるし、どことなく品位が感じとりにくい。また「オテロ」のようなスケールの大きな曲で、フォルティシモでの音の伸びがいまひとつ不足する反面、ディテールのニュアンスが出にくいので、ダイナミックレインジが狭いような、あるいは反応が少々鈍いような感じを受ける。ややグラマーでプロポーションは整っているが生れや育ちのあまりよくない娘、とでもいった印象の音だった。

パイオニア C-21

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 パイオニアのアンプは、エクスクルーシヴ・シリーズを含めて総体にどちらかといえばソフトでウェットな音を聴かせるタイプが多いが、このC21はその中ではむしろ例外的に、かなり乾いた感じの、わりあい素気ない音がする。音の表情が硬いというか、音をひとつの鋳型に押し込んだように、練り固めたような骨っぽい感じに聴こえる。6万円という価格は今日とりあげたコントロールアンプの中でも最もローコストの部類だから多くを望むのは無理かと思うが──。サブソニック・フィルターをONにすると音の硬い傾向がわずかとはいえさらに増す。ゲインコントロールは0のところよりも一杯に上げた方が、音の伸びとしなやかさが出てきてこの方がよかった。

パイオニア Exclusive C3

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 かなりクリアーで引締った音をもち、初期の製品に比較して、音のクォリティは相当に高く、表現力が加わっているようだ。
 聴感上での周波数レンジは、現在の水準からは少しナローレンジ型で、バランス的には、低域が軟調であり、高域が少し粗粒子型の、やや硬調さがある。ステレオフォニックな音場感は、左右によく広がるが、音の粒立ちがクッキリとしない面があるためか、前後方向のパースペクティブが少し抑えられ、音像の立ちかたが少し甘くなる傾向がある。このあたりが、最新のアンプと比較するとC3のマイナス面となるが、音楽を聴くアンプとしては、非常にまとまりがよくクォリティが高く、出色の製品である。

パイオニア C-77

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 マクロ的に音を外側からゆったりと掴み、響きを豊かに、あまり細部にこだわらず音を聴かせるコントロールアンプである。
 聴感上での周波数レンジは、ローエンドとハイエンドを抑えた、いわゆるカマボコ型のレスポンスを感じさせるタイプで、全体にウォームトーン系の音色をもち、音の粒子は粗粒子型で基本的にはソフトである。
 リファレンスパワーアンプの♯510Mとの組合せでは、ややマッチングが悪いようで、スケールは大きいが、エネルギーが加わるだけに、ややまとまりに欠け、音が素直に伸びきらない面が感じられる。積極的にトーンコントロールを活用して、効果的な音として使うべきアンプのように受け取れる。

パイオニア C-21

井上卓也

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 おだやかで聴きやすい音のコントロールアンプである。聴感上の周波数レンジは、やや狭く感じられ、音の粒子が粗く、クリアーに粒立たないために、シャープにフォーカスが合った音にならず、表情が抑えられた、マットな印象になってしまう。
 バランスコントロール用のボリュウムをマキシマムとして、カートリッジ負荷抵抗を75kΩか100kΩとすると、かなりスッキリとした感じが出てくるが、低域は軟調で、音の姿・型が不明瞭であるために、力感が充分に再生できず、組み合わせるパワーアンプの♯510Mの250W+250Wのパワー感がダイレクトに感じられない。表情に活気があればまとまる音である。

パイオニア Exclusive C3 + Exclusive M4

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 たとえば入力に対する応答速度とか解像力という面からみれば、ごく最近の優秀な製品には及ばない。が、ここから鳴ってくる音のニュアンスの豊かな繊細なやさしさは、テストソースの一曲ごとに、ついボリュウムを絞りがたい気持にさせてしまう。そのこと自体がすでにきわめて貴重であることを断わった上で細かなことを言えば、それぞれの単体のところでも書いたように、繊細さの反面の線の弱さ、柔らかさの反面の音の密度の濃さや充実感、などの面でわずかとはいえ不満を感じないとはいえない。本質的にウェットな傾向は、曲によっては気分を沈みがちにさせるようなところがなくもない。ただ、そうした面を持っているにもかかわらず、菅野録音のベーゼンドルファーの音を、脂こさはいくぶん不足ながらかなりの魅力で抽き出したし、シェフィールドのダイレクトカットでさえ、意外に力の支えもあって楽しめた。アラ探しをしようという気持にさせない音の品位とバランスの良さが聴き手を納得させてしまう。

パイオニア C-21 + M-25

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 C3とM4を頂点としてプリメインアンプの9900、9800以下のひとつ前のシリーズのパイオニアのアンプの音には、基本的に、ウェットな滑らかさが基本になっていたが、C3/M4をエクスクルーシヴという別ブランドにして、新たにマグニワイド・シリーズになる直前あたりのパイオニアの音は、少しずつ方向転換しはじめて、音の力強さをかなり表面に押し出してきたように思える。あるいは音の力強さを、以前のように柔らかさやウェットな肌ざわりの中に包み込むのではなく、もっと単刀直入にあらわにしはじめた、といった方が当っているのかもしれない。このC21/M25の組合せでは、M25の方が格がずっと上という印象で、M25の方が色濃く持っているしなやかな力とニュアンスの豊かさを、C21では少々抽き出しきれないというよりもむしろ、C21の音の表情の硬い傾向が、M25の大らかな表現力をかなり抑えこんでしまっているように思えた。

パイオニア C-77 + M-75

瀬川冬樹

世界のコントロールアンプとパワーアンプ(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「最新型94機種のテストリポート」より

 セパレートタイプのアンプの中にも、大きく分類すると、コントロールアンプ、パワーアンプがそれぞれ別のメーカーの製品と組み合わせて使われることをかなり意識した作り方と、互いが相補う型で同じシリーズどうしで組み合わせることを前提とした作り方とがあるが、このC77/M75は後者のタイプで、単体に切り離しての試聴よりも、組み合わせた状態の方がいい。そのことは単体の試聴記の方をあわせて参照して頂きたいが、C77の大づかみでいくぶん反応の鈍い印象の音と、M75のコントラストの強い音がうまく補いあって、トータルにはまとまりのいい音に仕上っている。低音の量感は意識的に多めにしているらしく、またそれとバランスをとるためだろうか。高音域にも多少の強調があって、音をあまり聴き馴れない入門者にもわかりやすく作った、といった感じを受けるが、それだけに、セパレートタイプのアンプの中ではやや異色の、かなり表情過多な味の濃い作り方だと感じた。

私のパイオニア観

瀬川冬樹

ステレオサウンド別冊「世界のオーディオ・パイオニア」
「私のパイオニア観」より

「電蓄には、完全ダイナミック12吋、演奏用10吋12吋、パイオニア高声器 福音電機株式会社」
 昭和26年1月号の〝ラジオ技術〟裏表紙。A5版を八つに割った、ひと桝が6・3×4・3センチという小さな色刷りの広告。たしかその半年ほど前から、〝福音電機〟は「完全ダイナミック」というタイトルを使いはじめていた。今だから言わせて頂くが、「完全ダイナミック」とはいささか大げさで野暮のように思えて、むしろそれゆえにパイオニアのスピーカーを敬遠していたような気がする。私自身は当時、ダイヤトーンの10吋広帯域型を使っていたし、不二音響(ダイナックス)の10吋も優秀だった。公平にみてこれらのスピーカーの方が、特性も優れていた。またこれとは別に、ハークやフェランティの一派もあった。
 昭和27年の暮に、第一回の全日本オーディオフェアが開催されたころから、日本にも新しいオーディオの技術が台頭しはじめたが、やがてパイオニアからは、PE-8という20センチ・フルレインジの名作が送り出された。このスピーカーはかなり評判になって、自分でフリーエッジに解像するアマチュアも多かったし、あとになってフリーエッジやアルミニウム・ヴォイスコイルなど特註にも応じたらしいが、このスピーカーも、どういうわけか私は一度も使わなかった。最も身近だったのは、昭和31年頃の一時期、工業デザインをやろうかそれともミクサーになろうかと迷っていたころ、ほんのいっとき、見習いの形で勤務したある小さな録音スタジオのモニタースピーカーが、PE-8の、フリーエッジ、アルミ・ヴォイスコイルの特註品で、これは仕事だから一日じゅう耳にしていた。それにしても、パイオニアのスピーカーと私とのつきあいは、せいぜいその程度のものだった。ふりかえってみると、私の頭の中には、パイオニアはスピーカーではなくアンプメーカーとして、のほうが強い印象を残している。
 PE-8が有名になりはじめてまもなく、パイオニアからは、当時としてはとても斬新なデザインのコアキシャル型とかホーン型などの、新しいスピーカーが続々と発表されはじめた。オーディオフェアの会場でのデモンストレーションなどの機会に、それらのスピーカーを見たり聴いたりすることはあったが、私の耳にはどうしても、自分にぴったりくる音とはきこえない。ところが、そのデモンストレーションのためにパイオニアで使う特製のアンプが、いつも見るたびに素晴らしい。コントロール・パネルにはプロ器的な感覚がとり入れられていかにも信頼感に溢れているし、パワーアンプも当時の最先端の技術のとり入れられていることがよくわかる。市販することを考えずに技術部で試作したアンプだということだったが、なにしろそのコンストラクションが洗練されている。デザイナーのスケッチで作ったのではなく、ものの形に素晴らしく良い感覚を持ったエンジニアの作品であることが、私にはよくわかる。ほんとうに形の美しい機械というのは、内容をよく知らないデザイナーよりも、形や色彩に鋭敏な良い感覚を持ったエンジニアが、自分の信ずる通りに素直にまとめた方が、概して機能的で無駄がなく美しい。当時のパイオニアの、スピーカーの外形にはデザイナーの遊んだ跡が見受けられて、たぶんそれが私の気に入らないひとつの要因であったに違いない。が、アンプはそうでなく、見るからに惚れ惚れとする。だからといって、それを買いたいという気持は全く起らない。当時の私にとって、アンプは自分で設計し自分で組み立てるものであったから。しかし、パイオニアの試作のアンプが、いかにアマチュアの制作意欲を刺激してくれたことか。
 その頃のパイオニアのアンプを作っていた人たちの中に、のちに山根フィルターで名をなした、現早大理工学部教授の山根雅美氏がいたことを知ったのは、もっとあとになってからの話──。
     *
 工業デザインか録音ミクサーかと迷っていた私は、昭和30年代の半ばに工業デザインの道を選び、おそまきながら勉強のし直しをした。学校を出てぶらぶらしていたところへ、当時、パイオニア大森工場のアンプ設計のチーフであった長真弓氏が声をかけて下さって、非常勤の嘱託で大森工場のアンプの意匠担当、という形でパイオニアのめしを喰わせて頂くことになった。昭和38年から40年頃までの、管球アンプ最後の時代であった。木造二階建ての、床のきしむバラックの工場の一室に度ラフター(製図器)をついた机をひとつもらって、設計の人たちと膝をつきあわせてアンプのデザインに没頭した。音羽にあった本社には立派な意匠室があって、芸大出のスタッフが揃っていたが、アンプの中味を知らないデザイナーのスケッチが、大森工場の技術者たちには不評だった。私は毎日が面白くてたまらず、いくつもスケッチを描き、意匠図を作成し、パネル版下を作り、下請工場の職人さんと打合せをし、まあ一生けんめいやっていた……つもりだ。その頃としては珍しかった、アルミニウム押出材をアンプのパネルに(おそらく日本で最初に)採用したのは、当時の大森工場長であった角野寿夫氏の助言によるものだった。SX-801、802、803……等のシリーズがそれだ。また、分厚いアルミパネルの両端に、ローズウッドのブロックでコントラストをつけたSM-90シリーズも、わりあいに成功したと、いまでも思っている。またこれらと前後して発表した三点セパレート・タイプのS-51、S-41シリーズが、それからしばらくあいだは、家庭用ステレオセットの原形のような形になった。S-51シリーズはGKデザイン研究所の作品だが、S-41、42のシリーズは大森工場サイドの開発だった。
 というような次第で、この時代のパイオニアについては、申し訳ないが客観的な語り方ができない。あまりにも楽しい想い出がいっぱいだったものだから。
 昭和40年代に入ると、オーディオ・ジャーナリズムが盛えはじめ、雑誌の原稿料でめしが喰える時代がやってくる。そして私もついに、デザイン業と物書きと半々、という生活をしはじめてパイオニアとはご縁が切れてしまった。皮肉なことに、私が勤務していたころのパイオニアは、社名を他人に説明するのに骨が折れるほど小さな会社だったのに、私ごとき偏屈人間がやめてからは、伸びに伸びてあっというまに第一部上場、しかも財界でも常に話題の絶えない優良企業にのし上がってしまった。パイオニアに限ったことではないが、オーディオがこれほど陽の当る産業になることを、福音電機当時、誰が予想しえただろうか。
     *
 こんにちのパイオニアの製品については、まとめかたがうますぎるほど、と誰もが言うとおり、いかにも成長企業らしいそつのなさで、手がたく堅実な作り方は、もはやはた目にとやかく言うべき部分が少なくなってしまったようだ。ことにそれは8800II,8900II以来のアンプの音にはっきりとあらわれて、本誌42号のプリメインアンプのテストリポートでも書いたように、いわば黄金の中庸精神とでもいうべき音のバランスのとりかたのうまさには、全く脱帽のほかない。スピーカーについても、個人的には長いあいだパイオニアの音はいまひとつピンと来なかったが、リボントーイーターと、それを使ったCS-955の音には相当に感心させられた。テープデッキもチューナーも、やはりうまい。そうした中でプレイアーに関しては、今回の新製品に、いささかのバーバリズムというか、どこか八方破れのような構えを感じとって多少奇異な感じを抱かされるのは私だけなのだろうか。もっともそのことは、00(ゼロゼロ)シリーズの新しいアンプのデザインについても多少いえるのかもしれない。もしかすると、パイオニアは時期製品で何か思い切った脱皮を試みるのではあるまいか。私にはそんな予感があるのだが。

パイオニア Monitor 10

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 最近では数少ない密閉型と「モニター」という命名から、おそらくナマ録の際のモニター用を意図して作られたものだと思う。一般の鑑賞用としてはオープンエアタイプの方が快適だが、ナマ録では逆に外部の音に対する遮音性の良さと、かなりの大音量に耐える作り方が必要だ。ことにハイパワーでのモニターの際は、中〜高域での強調感や音の圧迫感をなるべく避けなくては、長時間のモニターで疲労が劇しくなる。その意味からは、音量を思い切り上げて聴いたとき、2〜3kHzを中心にして耳の感度の最も良い中〜高域で、もう少し抑えの効いた音の方がさらに好ましいと感じたが、しかし大づかみにはなかなかうまいバランスに仕上げてあると思った。重量が530gと平均よりかなり重いのも、耳あての調整機構がやや凝りすぎといいたいほど大仰なのも、遮音(密閉度)の良さを最良に保つための配慮なのだろう。やや特殊な目的のためのヘッドフォンといえる。

パイオニア SE-300

瀬川冬樹

Hi-Fiヘッドフォンのすべて(ステレオサウンド別冊・1978年春発行)
「Hi-Fiヘッドフォンは何を選ぶか 47機種試聴リポート」より

 7〜800Hzから1kHz近辺──つまりピアノの中央Cの約2オクターブ上あたりの周辺──にエネルギーが集中して、低域も高域もあまり伸ばしていない、いわゆるカマボコ型のナロウレインジのバランスらしく、ことにピアノの打鍵音で、頭の芯をコンコンと叩かれるような圧迫感があって、音量を上げるとやかましい傾向がある。この音だけをしばらく聴いていると多少聴き馴れて、それほど変には思わなくなるが、しかしやや力で押しまくる感じの鳴り方はあまり快適とはいいがたい。トーンコントロールで高・低領域をかなり補強してやるとバランスは一応よくなるが、高域があまり伸びていないせいか、音の繊細な感じが出にくく、どちらかといえば音像が頭の中に集まる傾向のきこえ方で、ステレオの音場の広がりや奥行きもあまりよく出ない。ヘッドバンドやパッドのデザインは良好で、耳によくフィットし、かけ心地は悪くない。

パイオニア Exclusive Model 3301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに、さわやかな力がある。
❷くっきりと、くまどりたしかな低音弦のひびきはなかなかいい。
❸誇張感なく、それぞれのひびきの特徴を示す。
❹第1ヴァイオリンは、たっぷりと、ゆたかにひびく。
❺力をもってのもりあがりはいいが、高音弦が少し硬い。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音は、ゆたかでまろやかだが、音楽的にはふくらみすぎない。
❷積極的に、あかるく、音色の対比をあきらかにする。
❸腰が重い音ながら、「室内オーケストラ」らしいひびきを示す。
❹わざとらしくなることなく、このひびきの特徴を伝える。
❺ひびきのキメ細かさがいい。わざとらしくなっていない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のなまなましさを粒の細かいひびきであきらかにする。
❷誇張感のない接近感はいい。定位もわるくない。
❸クラリネットと声との対比に不自然さがない。
❹声のまろやかさと艶やかさがもう少し感じられてもいいだろう。
❺バランスよく、わざとらしくないのがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶凹凸のないのはいいが、定位の点でもうひとつくっきりしてほしい。
❷腰のすわったひびきがここではマイナスに作用している。
❸残響の強調はないが、鮮明さの点でもう一歩だ。
❹吸う息がかなりなまなましくきこえる。
❺のびは自然でわざとらしさがなく、ひろがりを感じさせる。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比も、音場的対比も、充分についている。
❷後方からのしのびこみは自然で、クレッシェンドも確実だ。
❸ひびきそのものがもう少し軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりが充分なので、広々と感じられる。
❺ひっそりとしのびこんで、たくましくクレッシェンドする。音が前に出る。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶横へのひろがりは、確実だ。あやふやさがない。音質的にはこのましい。
❷❶との音色的対比は充分について、積極的に前にせりだしている。
❸わざとらしくならず、確実にその存在を主張する。
❹他のひびきとのバランスがいいので、効果的だ。
❺不自然にきわだつことなく、充分に効果をあげる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶高い音と低い音とのバランスがとてもいい。
❷ひびきに力が感じられるので、厚みをよく示す。
❸ひびきに確実さがあり、あやふやにならないのがいい。
❹ベース・ドラムが示す力感は、大変にいい。言葉のたち方も充分だ。
❺バック・コーラスの効果がよく示されている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くひかれたダブルベースならではの迫力を感じさせる。
❷オンでとったなまなましさがあるが、誇張感はない。
❸音の尻尾をきわだたせはしないが、充分だ。
❹シャープに、力強く反応していて、このましい。
❺音色的、音像的、音場的対比の点で充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶歯切れのいい、はずみをもった、明るいひびきだ。
❷充分な力感をもって、中央をきりひらいてくる。
❸積極的で、力をもって、前にはりだしてくる。
❹前後のへだたりは充分にとれていて、見通しもいい。
❺ひびきに確実さがあり、めりはりがついている。

座鬼太鼓座
❶距離感も充分で、しかもすっきりきこえる。
❷音色的な点での問題点はほとんどない。
❸不自然にならずきこえて、ひびきの輪郭もわかる。
❹大太鼓ならではのスケール感をつつがなく示す。
❺ほどよくきこえて,わざとらしさがない。

パイオニア Exclusive Model 2301

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるく、くっきりピッチカートが示される。あいまいでないよさがある。
❷力をもった、低音弦のスタッカートならではのひびきがきかれる。
❸自然な、無理のないバランスで、それぞれのひびき特徴を示す。
❹たっぷりひびく第1ヴァイオリンはなかなかいい。
❺次第に迫力をましていく音楽の流れにうまく対応できている。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノのたっぷりしたひびきがこのましい。音像もほどほどだ。
❷音色的な対比は自然で、誇張感がまったくない。
❸ひびきに力があり、しかもまとまりもいい。
❹しなやかに対応できていて、充分に効果的だ。
❺木管楽器のキャラクターをよく示している。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレを呼ぶ声の強さを、硬くならずによく示している。
❷表情のくまどりをたしかに、しかし誇張感なく、よく示す。
❸手前のクラリネットと声の対比があざやかだ。
❹はった声が、もう少しまろやかでもいいように思う。
❺オーケストラと声とのバランスははなはだいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶低い方の声がふくれがちだ。もっとこりっとしてもいいだろう。
❷声に肉がつきすぎて、言葉のたち方が弱くなる。
❸残響をひきずっているというわけではないが、言葉はたちにくい。
❹特にソット・ヴォーチェでは、ひびきの軽さの不足が気になる。
❺のびていて、ポツンと切れるようなことはない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶特にピンという音の硬質な性格をよく示している。
❷後方からのひびきは、しゃっきりたって、その後クレッシェンドする。
❸浮き方に力がある。もうひとつ軽くてもいいだろう。
❹前後のへだたりは充分で、ひびきの飛びかい方もいい。
❺ピークで示される力にみちたひびきは圧倒的といっていい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきそのものの性格は暖色系だが、粒はこまかく、さわやかだ。
❷くっきり、力をもったひびきで、中央から前に進んでくる。
❸このましいバランスで、実在感たしかに示される。
❹ことさらきわだつわけではないが、充分に光って有効だ。
❺うめこまれることなく、キラリと光って、ひびきのアクセントたりうる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い音がせりだしすぎないよさがある。
❷ひびきの厚みを腰のすわった音でよく示す。
❸ハットシンバルの金属的なひびきの提示はみごとだ。
❹ドラムスのアタックは、シャープで、力があってこのましい。
❺バック・コーラスによる言葉のたち方も申し分ない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像的にまとまりがよく、力にみちたひびきがいい。
❷オンのなまなましさが顕著で、誇張した嫌味はない。
❸消え方の提示もあぶなげがなく、効果的だ。
❹シャープな反応はこのましく、迫力にとんでいる。
❺音色的、音像的、音量的対比に不自然さはない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶横へのひろがりもあり、アタックは強い。
❷金管ならではの輝きのあるひびきをよく示す。
❸力にみたちひびきで、積極的に前にはりだす。
❹後方からきこえるトランペットがひろがりを暗示する。
❺鋭く刻まれるリズムは、めりはりをつけて、有効だ。

座鬼太鼓座
❶充分な距離感を示す。しかもなまなましさを失わない。
❷くっきり示されるが、尺八の音色的特徴をあいまいにしない。
❸きこえて、しかもひびきの輪郭をぼかさない。
❹大太鼓のスケール豊かなひびきによく対応できている。
❺有効な働きをしている。しかしわざとらしくなっていない。

パイオニア F-007

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 F007は、基本性能をF26におき、シンセサイザー方式を導入したモデルだ。100kHzおきに受信局を選択するこのタイプのダイアル精度をゼロとする目的で、本機には、ダイアルスケールにコード版がセットされ、これを光で検出する方式が採用されているのが、ユニークで大変に素晴らしい。

パイオニア A-0012

井上卓也

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアの新シリーズのプリメインアンプは、4モデルあり、A0012は、トップ機種でその外形寸法が他のモデルより1サイズ大きい。フロントパネルは、主機能を上部に、他の副次的な機能は下側のスモークグラスのヒンジ付サブパネル内に配置した使いやすさを狙った構成が特長である。
 内容的には、パワーアンプ部に、セパレート型のM25でおこなった超高域でも十分パワーを獲得し、可聴周波数帯域内のクォリティを向上するマグニワイドパワーレンジの構想と、小音量時の音質を改善する目的で3W以下の出力では純Aクラス動作、それ以上は徐々に定格出力までBクラス動作に近づくABクラス動作が採用されている点があげられるが、これはシリーズ共通の特長である。また、MCヘッドアンプイコライザーのSN比は、カートリッジ実装時の値を重視して追求されている点も見逃せない。
 機能的には、1dBステップのパイオニア方式ツインコントロール、DC構成のイコライザー部とパワーアンプ部を直接結合して使うためのオーディオミューティングスイッチ、ファンクション表示インジケーターなどが目立った点である。
 このモデルは、豊かに響くやわらかいスケール感がある低域から中低域をベースとし、粒立ちが細かく滑らかに磨かれた中域から高域の音が印象的だ。トータルの雰囲気がかなり洗練され、安定した大人の魅力を十分に感じさせる。反応は適度といえる。

パイオニア Exclusive Model 2301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 同じエクスクルーシヴのシリーズだが、構造もホーンロードで全く違うにしても、3301とは全く対照的といえるほど正反対の音に作られている。3301がどちらかといえば中〜高域にバランスの重心を置いた、少し乱暴に分類すればハイあがりの傾向の音であるのに対して、2301は中〜低域に重点を持たせてハイをやわらかく作った、今日的にみれば決してレインジの広くないスピーカーだ。フロアータイプの作り方だが、ブロック一段を寝かせた上に乗せて、ほとんど部屋のコーナー近くにセッティングしたが、なかなか緻密で腰のしっかりした音を鳴らす。フロントロードホーンという構造のせいか、ローエンドの量感は少々不足するので、150Hzターンオーバーのトーンコントロールで補整を試みたが、ホーンの中〜低域のエネルギーが相当に大きいらしく、ブーストがあまり効果的に利かない。同様に8kHzターンオーバーでハイエンドを補整してみてもあまり利き目がないところから、ユニット自体が本質的にナロウレインジでまとめられていることがわかるが、中域の密度の高い、そしておそらくは木製ホーンの良さでもある金属的な弱点のない声の暖かな表現はなかなかのものだ。能率がおそろしく高いのでハイパワーのアンプは不必要だが、音量を上げてもL200Bのようにスカッとのびてまではくれなかった。

パイオニア Exclusive Model 3301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たいへん独特な形をしたスピーカーで、総体にややハードな音色だが、バランスはかなりいいし、べとつきのない音離れの良い明るい鳴り方はひとつの特徴だ。専用(別売)のスタンドに乗せて聴いたが、おそらくそのせいばかりではなく本質的に、軽く反応のよい低音は、概してもたつくことの多い国産の低音の中では特筆ものだ。重低音の量感がもう少し欲しく思われて、背面を壁に近づけてみたが、量感的にはもうひと息というところ。ただそうしても低音が重くなったり粘ったりしない点は良い。クラシックのオーケストラや弦合奏でも、いくらか硬質な、そして中〜高域にエネルギーの片寄る傾向がいくらかあるものの、一応不自然でない程度までよくコントロールされている。音量を上げても音のくずれがなく、よくパワーが入るし音のバランスもくずれない。ただ、ヴォーカルを聴くと、中〜高域に一ヵ所、ヒス性のイズをやや強調するところがあって、子音に火吹竹を吹くようなクセがわずかにつく。MIDのレベルを絞るとそれがなくなることから中域のユニットの弱点だと思うが、しかしMIDレベルを0から−1でも絞るとバランスが明らかにくずれるので絞れない。この辺にもうひと息、改善の余地がありそうで、ぜひそうしてほしい佳作だと思う。アンプやカートリッジをあまり選り好みせず、それぞれの音色をよく鳴らし分けた。

パイオニア CS-955

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきに力があり、木管は積極的に示される。
❷低音弦のスタッカートにはたっぷりと力がついている。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹主旋律は、たっぷりと、表情ゆたかにひびく。
❺クライマックスでの堂々たるもりあがりはなかなかのものだ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きくない。ひびきの点でも確実さがある。
❷音色の対比をしなやかに示している。
❸室内オーケストラのキメ細かいひびきへの対応も充分だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズは、誇張感なく提示できている。
❺個々のひびきの特徴は描きだし方に無理がない。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声にまろやかさが感じられていい。
❷接近感をゆとりをもって示す。表現に余裕がある。
❸声とオーケストラのからみ方が自然でいい。
❹はった声でもまろやかさを保ち、声の艶を失わない。
❺とけあい方がよく、しかも各々を鮮明に示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶定位は、鮮明とはいえないが、一応ききとれる。
❷前半と後半とで、鮮明さにおいて、さほど差がない。
❸残響はむしろ多めだが、細部も一応ききとれる。
❹横へのひろがりが充分なので、各声部のからみも明瞭だ。
❺無理なく、しなやかに、ひびきののびているのがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的対比は充分に示されていて効果的だ。
❷後方でのシンプルなメロディは、ひろがりを示す。
❸暖色系のひびきながら、浮遊感は獲得できている。
❹ひびきに自在さがあり、提示される空間が広々としている。
❺ひびきは、大きくひろがり、圧倒的な力でせめてくる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶奥の方でのひびきのひろがりは充分だ。
❷ギターの音像は大きいが、ここでの効果は明らかにしている。
❸ほどほどのひびき方だが、まずは充分というべきだろう。
❹すっきりときこえるが、明度の点でいま一歩だ。
❺一応きこえるが、必ずしも効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶たっぷりとひびく。もう少し硬度があってもいい。
❷サウンドの厚みとひろがりをたっぷりと示す。
❸ハットシンバルのひびきは、かなりひろがってきこえる。
❹ドラムスは大きくひびくが、鋭さもある。
❺声とほかの楽器とのバランスも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きいが、充分に力強いので、はえる。
❷指の動きは、鮮明に示すが、部分拡大にはなっていない。
❸消えていく音は、スケールゆたかな再生に有効な働きをしている。
❹力強く、しかもこまかい音の動きにも対応できている。
❺音像的な対比の点で、多少ものたりなさがなくもない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、重く、迫力充分で、効果的だ。
❷ブラスのつっこみは、力があり、輝きもある。
❸申し分なく前方にはりだして効果をあげる。
❹トランペットの後方へのひき方も示せている。
❺リズムは幾分重めに感じられるが、めりはりはつけている。

座鬼太鼓座
❶尺八は、大きく、前の方できこえる。
❷ひびきとしては、脂がのりすぎている。
❸かすかな音が、あいまいにならず、きこえる。
❹迫力、音の消え方、両者において、かなり好ましい。
❺きこえて、ひろがりを暗示しえている。

パイオニア CS-755

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがかげりがちだが、木管の音色はよく示す。
❷ひろがりはあるが、スタッカートの音に力がほしい。
❸フラジオレットの特徴をよく示して、ひびきのとけあいもいい。
❹ピッチカートはふくれない。主旋律のひびきもふくよかだ。
❺幾分硬めになるが、一応のスケール感は示す。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像の大きさはほどほどだが、かなり前にでてくる。
❷音色のちがいをくっきり示す。多少くっきりしすぎているようだ。
❸室内オーケストラの性格をよく示すが、なめらかさがたりない。
❹少しきつくでるが、すっきりはしている。
❺個々の楽器のひびきの性格をよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声がひろびろとひびく。息づかいもなまなましい。
❷接近感をよく示す。小声ではなす時の微妙さがいい。
❸幾分まろやかさに欠けるが、声とオーケストラの対比はいい。
❹はった声は、幾分硬めになる。しかし気になるほどではない。
❺オーケストラのひびきはバランスよくきこえる。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声に脂がのりすぎているかのようだ。定位はよくない。
❷ひびきが重いために、鮮明さはもう一歩だ。
❸残響をひっぱりすぎるので、言葉はわかりにくい。
❹ひびきに軽やかさがないので、明瞭さは不足している。
❺一応余韻を示すが、雰囲気ゆたかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶暖色系の音で再現されるが、音色対比はいい。
❷奥にも充分にひけている。クレッシェンドも自然に示せている。
❸浮遊感はたたない。ひびきが点にならずひろがるのはいい。
❹前後のへだたりがとれているので、ひろがりを感じさせる。
❺自然なのびやかさは不足するが、迫力は示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶やわらかく、しなやかにひびくのがいい。
❷ギターは、少し前にせりだしすぎる。
❸くっきりとその存在をあきらかにして、効果をあげる。
❹かなりめだってきこえる。しかしきらびやかとはいえない。
❺一応きこえるが、効果的とはいいがたい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶幾分12弦ギターの音色を強調しすぎる傾向がある。
❷サウンドの厚みも示して、まとまりがいい。
❸乾いたひびきで、さわやかにひびく。効果的だ。
❹アタックもかなりシャープだ。声は少し乾きすぎている。
❺声のかさなり方は自然でこのましく、言葉もよくたつ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶ひびきに力があっていい。スケール感もまずまずだ。
❷指の動きをよく示すが、誇張感はない。
❸音の尻尾がよくでるので、迫力がでる。
❹力感を示し、こまかい音の動きも示す。
❺サム・ジョーンズの音像が小さくなる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶つっこみは、特に鋭いとはいえないが、力感はある。
❷ブラスのつっこみは、はなやかで、効果的だ。
❸フルートの音は、強く示されて、幾分刺激的になる。
❹トランペットの音はめだたない。したがって接近感も不足している。
❺ふやけてはいないが、音色的な特徴は幾分あいまいになる。

座鬼太鼓座
❶尺八は遠くからきこえて、距離感はある。
❷尺八ならではのひびきの特徴は示す。
❸ききとれるが、充分とはいいがたい。
❹大きさは感じとりにくい。きりっとひびいて、力強さはある。
❺ききとれる。雰囲気的にもかなり満足すべきものだ。

パイオニア CS-955

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 専用のスタンドが別売されているので、それに乗せたまま、左右への拡げ方と背面との距離とで最適一をいろいろ調整してみた。背面は、壁から50cm以上離す方が音離れがよく、左右に大きく開いた方がいい。レベルコントロールは、低・中・高各ユニットのつながりは指定のままがよかったが、音のバランスという面では(国産とはいえかなり高価な部類だから要求水準も自ずら高くなるが)、ベートーヴェンの序曲やセプテット、またブラームスのP協などで、たとえばラックスのアンプについているリニア・イクォライザーをダウン・ティルト(1kHzを中心に、低域をやや上げ、高域をやや抑える)にした方が、クラシックでも十分に納得のゆく(海外製品に全く劣らない)バランスが得られる。ただ、低音域で、一ヵ所、どうしても少々ドロンとした感じの残る点、そして中低域全体にもう少し肉づきや脂気が欲しいと思われる点が今後の課題だ。音色の傾向はややウェット型だが、そのためかヴァイオリンや木管の質感のよさは、国産としては極上の部類。バルバラの声もオヤ? と思うほどしっとりした味わいで、やさしさもほどよい色気も出る。パーカッションでのハイパワーにも、音のくずれが全くなく、十分に楽しめる音がする。総じてハイエンドでクセのないよく延びた鳴り方が、音のデリケートな味わいや雰囲気をとてもよく再現する。カートリッジはMC20より455Eの方が楽しめた。

パイオニア CS-755

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 最近のこのメーカーの一連のアンプの音にもいえることだが(本誌42号参照)、どういう種類の音楽に対しても、良い意味での中庸をゆく一種絶妙なバランスポイントを作ることがうまい。ただしそのことは、これといった欠点も指摘しにくいかわりに、際立った特徴もないといういわば無難そのものの音になりかねない。CS755でことにクラシックを鳴らすときに、たとえばオーケストラのトゥッティでもバランスをくずすようなことのない反面、やや魅力に乏しい傾向を示す。またポピュラーでは、パワーを上げてゆくとピアノなどややカン高くなる傾向もあって、決して完全無欠な製品ではなく、あくまでもまとめのうまさで聴かせるスピーカーだということは、この価格ならとうぜんのことで、しかしそのまとめ方のうまさが、少し前のパイオニアのスピーカーには欠けていたせいもあって、ようやく安心して聴ける音が出現してきたというような感じがする。
 レベルコントロールは指定位置のままがいちばん無難。低音がやや抑えぎみ。ことに重低音の豊かさがもっと欲しいので、低め(約20cm)の台に乗せた。ただし壁に近づけると中低域で少しこもる傾向があるので、背面は30cmほどあけて、アンプのトーンコントロールで(約150Hzあたり以下だけを)やや増強するのがよかった。

パイオニア CS-955

菅野沖彦

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 おそらく、国産スピーカー中、もっとも音の美しいシステムではないだろうか。使用ユニットの一つ一つは、全く構造のちがう、3ウェイでありながら、それが、よく音色的にコントロールされていて、バランスがよい。最高級ユニットを使った、高級システムの名に恥じない力作といえるだろう。価値の高い製品だ。

パイオニア SA-8900II

井上卓也

ステレオサウンド 43号(1977年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ ’77ベストバイ・コンポーネント」より

 8000シリーズは、IIとなって完全に内容、外観とも一新されて、もっとも現代的なプリメインアンプとなった。左右チャンネル独立型の電源の採用をはじめ、上級シリーズである9000シリーズの面影のあるパネルフェイスなどがあり、音を含めても、このモデルのバランスの良さはトップランクにある。