Category Archives: スピーカー関係 - Page 52

ダイヤトーン DS-90C

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ものすごく大きい、という感じのする大型フロアータイプだ。ただし音質は大型だからというこけおどし的なところがなく、正攻法で作られたまさにダイヤトーンの音だ。とはいうものの、DS30Bのところでも書いたように、今回のダイヤトーンに関して言うかぎり、従来のいわゆるダイヤトーンの音がずいぶん傾向を変えた、という印象だ。もちろん、音色そのものが変わったのではない。全音域に手抜きのない、密度をたっぷり持たせた音はまさにダイヤトーンなのだが、同時に従来の製品が持っていた中域のよく張った、ときとして張りすぎた感じの作り方がぐっと抑えられた。それと共に、あるいはそのために聴感上のバランスがそう感じさせるのかもしれないが、トゥイーターのハイエンドも従前の製品よりはレンジをひろげてあるように聴きとれる。相当のハイパワーにもびくともしない耐入力を持っているようだが、それでいて小音量に絞っても全体のバランスや質感があまり変らない点は立派だ。大型ウーファーの弱点になりがちな音の重さもないが、ローエンドの伸びはもう少し欲しい。このクラスになるとCA2000のクラスではもはや少々役不足という感じで、セパレートのハイパワーアンプが欲しくなる。台は不要。左右にかなりひらく方が爽やかさが出る。部屋はデッドぎみに調整する方がよかった。

ビクター SX-11

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音にかすみがかかっている。音色対比はついている。
❷あいまいにらなず、奥の方にひけてもいるが、鮮明さははもう一歩だ。
❸フラジオレットの効果は、他のひびきにうめこまれて、はっきりしない。
❹ピッチカートのひびきが過度にふくらみすぎている。
❺たっぷりと腰のすわったひびきだが、もう少し鮮明でもいい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はかなり大きい。表情を強調しがちだ。
❷ファゴットの響きがあいまいになる傾向がある。
❸総体的に響きが重くなりすぎて、「室内オーケストラ」らしさが不足だ。
❹表情がどうしてもわざとらしくなってしまう。
❺くっきり示しはするが、とってつけたようなところがある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶響きは風呂場の中でのようにきこえる。
❷接近感をいくぶん誇張気味に示す。わざとらしい。
❸声が前にたって、オーケストラの響きがひっこみすぎる。
❹はった声が、どうしてもメタリックなものとなる。
❺きこえはするものの、音色的に多少異質だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶右からの響きがふくらみ、左がひっこむ。
❷声量の差がもう少しはっきり示されてもいいだろう。
❸残響をひきずりすぎるためか、言葉がたちにくい。
❹響きそのものに、もう少し軽みがほしい。
❺のびることはのびるが、とってつけたようなところがある。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は、かなりくっきり、わかりやすくつく。
❷後方からくるが、響きは重く、しめりがちである。
❸響きは、浮遊せずに、しめりがちである。
❹音色的に、いくぶんかげりがちで、はれやかさが不足している。
❺力づくで前にでてくる。ピークは刺激的だ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶広々とした気配が不足している。透明感もたりない。
❷くまどりがきつすぎないか。せりだし方は積極的だが。
❸響きがまとまりすぎていて、広がりがたりない。
❹きこえるが、誇張感がないとはいいがたい。
❺他の響きの中にうめこまれがちで、効果が示されにくい。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ベースの響きが強調されすぎているというべきだろう。
❷響きの厚みは示されるものの、イーグルスのサウンドとしては異色だ。
❸響きは、乾ききらず、重く、力をもっている。
❹ひきずりがちだ。シャープな反応がほしい。
❺言葉がたちにくい。いくぶんごりおし気味になる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力はあるものの、迫力を誇張気味である。
❷この部分の響きの特徴は、必ずしもきわだたせない。
❸響きの骨だけを示しているとでもいうべきか。
❹一応の動きは示すものの、反応はシャープとはいえない。
❺音像的に差がありすぎて、多少不自然だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶重く、切れが鈍いところがあり、はえない。
❷力は十全に示すものの、音の見通しがつきにくい。
❸はなはだ積極的にはりだすものの、効果的とはいえない。
❹へだたりがもう少し感じられればいいのだろうか。
❺リズムが重く、印象として鈍いものとなる。

座鬼太鼓座
❶かなり前の方にでてきて、距離感がほとんどない。
❷尺八らしい響きの特徴がでにくい。
❸ごくかすかにしかきこえず、ものたりない。
❹力はあるものの、響きに広がりが不足している。
❺ききとれるが、対比感は稀薄というべきだろう。

JBL 4343

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ひびきにあかるさがあり、鮮明で、あいまいさがない。
❷奥の方で力をもって、輪郭たしかに提示される。
❸個々のひびきへの対応のしかたがしなやかで、無理がない。
❹たっぷり、余裕をもったひびきで、細部の鮮明さはとびぬけている。
❺ひびきに余裕があり、クライマックスへのもっていき方はすばらしい。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像はくっきりしていてい、しかもピアノのまろやかなひびきをよく示す。
❷木管のひびきのキメ細かさをあますところなく示す。
❸ひびきはさわやかにひろがるが、柄が大きくなりすぎることはない。
❹しなやかで、さわやかで、実にすっきりしている。
❺ひびきの特徴を誇張しない。鮮明である。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶アデーレとロザリンデの位置関係から、ひろがりが感じられる。
❷声のなまなましさは他にあまり例がないほどだ。
❸声のつややかさが絶妙なバランスでオーケストラのひびきと対比される。
❹はった声もしなやかにのびていく。こまかいニュアンスをよく伝える。
❺オーケストラの個々のひびきを鮮明に提示する。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに妙な癖がないので、すっきりと鮮明だ。
❷声量差をデリケートに示し、言葉はあくまでも鮮明だ。
❸残響をすべてそぎおとしているわけではないが、言葉の細部は明瞭だ。
❹ソット・ヴォーチェによる軽やかさを十全に示す。
❺声のまろやかさとしなやかさ、それにここでの軽やかさを明らかにする。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の音色的特徴を誇張するようなことは、まったくない。
❷シンセサイザーのひびきのひそやかなしのびこみはすばらしい。
❸ひびきはこのましく浮びあがり、飛びかう。
❹前後のへだたりが充分にとれ、ひろがりが感じられる。
❺もりあがり方に不自然さはまったくなく、ピークは力にみちてみごとだ。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひそやかな音のしのびこみ方が絶妙だ。透明なひびきのよさがきわだつ。
❷ギターの進入と前進、途中での音色のきりかえが鮮明。
❸このひびき特徴をあますところなく伝える。
❹わざとらしさがない。ひびきはきらりと光る。
❺ギターとのコントラストの点でも充分だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶反応の鋭さによってさわやかなサウンドがもたらされる。
❷充分なひびきの厚みが示され、効果的だ。
❸ハットシンバルが金属でできていることをひびきの上で明快に示す。
❹ドラムスによるアタックは鋭く、声との対比もいい。
❺言葉のたち方は自然で、楽器によるひびきとのコントラストも充分だ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はふくれすぎず、くっきりしている。
❷不自然な拡大・誇張はないが、充分になまなましい。
❸消え方をすっきりと示す。しかしこれみよがしにはならない。
❹反応は、シャープであり、しかも力強い。
❺音像的な対比にはいささかの無理もない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶アタックの強さを示し、しかもひろがりも感じさせる。
❷ブラスは、輝きと力のある音で示され、中央をきりひらいていくる。
❸横に拡散しすぎることはないが、力のあるひびきでききてをおそう。
❹後へのへだたりはすばらしい。見通しも抜群だ。
❺リズムの提示は、力感にみちていて、このましい。

座鬼太鼓座
❶ほどよい位置から、しかし鮮明にきこえてくる。
❷尺八の特徴的な音色をよく示し、独特のなまなましさを感じさせる。
❸きこえて、輪郭もあるが、これみよがしではない。
❹充分にスケールゆたかだ。この大太鼓のただならぬ大きさを感じさせる。
❺充分に効果的にきこえて、雰囲気ゆたかなものとしている。

インフィニティ Quantum 4

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 非常に独特の軽やかでキメのこまかくよくひろがる音がする。音像が空間によく浮かび、奥行きも十分に感じられる。イギリス製のスピーカーにはよくこういう傾向の音が聴かれるが、イギリス系のそれが概して誇張のない自然な音に支えられて、スピーカーの向う側に、いささかミニチュアライズされた、しかしいかにもほんものの原音場が展開したかのような錯覚を感じさせるのにくらべると、インフィニティの展開する音場は、それよりもスケールが大きいかわりにどこか人工的な匂いがあって、しかしこの人工的なひろがり感はこれなりに楽しませる。トゥイーターの特殊な構造のせいか、コンデンサー・ヘッドフォンで聴くような一種キメの細かい音がするが、反面、トゥイーターがつねにピチピチという感じのノイズを空間にちりばめているうよで、たとえばルボックスのあのひっそり、かつしっとりした感じが得にくい。中域あたりの力がもう少し欲しく思われて連続可変型ののレベルコントロール(ノーマルの指定がない)を調整してみたが、いろいろなレコードの平均をとると、結局中点あたりに落ちつく。台に乗せずにインシュレーターを介して床に直接置き、背面を適度にあけると、音のひろがりと奥行きがよく出て、リズムが軽く浮き上る。組合せは4000DIIIやCA2000の傾向が、やはりこのスピーカーをよく生かす。

オットー SX-P1

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 まず大掴みに言って、国産スピーカーの中では音のバランスはかなり良い方に属する。概して中〜高域を張りぎみに作る傾向のある国産の中で、たとえばオーケストラのトゥッティでも弦が金属的になるようなことがなく声部のバランスも悪くないし、キングズ・シンガーズのコーラスの、Fa、ra、ra……の声も、ハスキイになったり耳ざわりにやかましく張ったりするようなことがない。そういう意味で、かなり慎重に時間をかけて練り上げられた、真面目な作り方のスピーカーであることはわかる。ただ、音域全体に、ことに中域以下の低域にかけて、かなり重さが感じられ、たとえばベースの音も、ブンとかドンとかいうよなにことばで形容できるような鳴り方をする。この鈍さを除きたいと思って、置き方をいろいろくふうしてみた。興味あることに、ふつうはブロックなどの台に乗せる方が音の軽さが出てくる筈だが、このスピーカーはそうするとかえって、低域のこもりが耳につくようになる。床に直接のまま、背面を壁からかなり離し、トリオLS707のときのように壁面にウレタンフォームをいっぱいに置いて部屋をデッドに調整する方がいいことがわかった。また、カートリッジは455Eよりは4000DIII、アンプもCA2000の傾向の方が、音の重さが救われて、反応のよさや明るさがいくぶん増すと感じられた。

マランツ Model 920

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 音は直接に関係のないことだが、このスピーカーの形は独特で、しいていえばブックシェルフ型のキャビネットとそれに最適のスタンドとを、はじめから一体に設計したともいえるデザインだ。市販されているブックシェルフ型のスピーカーのほとんど90%以上は、そのまま床に置いたのではどうにも音のバランスをくずしてしまう。そのためにユーザーがそれぞれにくふうしてスタンドを調達しなくてはならない現状で、このマランツの方法はひとつの興味ある解決策として拍手を送る。ところでかんじんの音質だが、総体に明るく、音離れがよく(音がスピーカーの箱のところに張りついたような感じがしないで、鳴った音が箱からパッと離れてこちらにやってくる)、そしていくらか乾いた傾向の鳴り方をする。その意味で明らかにアメリカの西海岸のスピーカーに共通の性格を持っている。アコースティカル・プラグという名で、バスレフの開孔部をふさいでいるスポンジを引き抜くと、低域がさらに明るくよく弾むが、部屋の特性によってはいくらかラフな感じになり、孔を閉じるといくらか重い低音になる。中〜高域の質感はこのクラスとしてはもう一息緻密さが欲しいが、、バランス的には優れている。壁からやや離して設置したが、その状態で、4000DIIIやCA2000のような明るい傾向の組合せがこのスピーカーをよく生かした。

「テスト結果から私の推すスピーカー」

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 前号でも価格のランク別に推薦スピーカーを列挙したが、それとは別に、無条件で推薦できる製品として、前回はセレッションのDITTON66をあげた。同じ意味で今回のテストからあげるなら、JBL♯4343とKEF♯105をためらわずに推す。この二つのどちらか、あるいは両方があれば、私自身はこんにち得られるレコードのどんな新しい録音でも、そこから音楽の内容を聴きとることに十分の満足をもってのぞむことができるし、これらのスピーカーがあれば、アンプやカートリッジの音質の判定にも相当の自信をもつことができる。言うまでもないことだがこのどちらも、いわゆるモニター仕様で設計されて、こんにちの時点でそれぞれ(少なくとも商品として)最高のレベルで完成している優れたスピーカーといえる。無条件で、と書きはしたが、しかし、いま「少なくとも商品として」と断ったように、大きさや形や価格の制約の中で作られる、言いかえれば個人が時間も規模も経済性も無視して作りあげるスピーカーとは違う現実の製品としては、やはり価格のランクの中で、という前提を忘れるわけにはいかない。
          *
 そこで前回に準じて、価格帯別に推薦機種を列挙してみる。
■30万円台以上の中から
 JBL L200B クラシックには少し苦しいが、ポップス、ジャズに関するかぎりやはり素晴らしい音で楽しませる。
 オンキョー セプター500 国産の大型としてはたいへんに完成度が高い。
 これ以外に、ヤマハFX1は試聴記にも書いたように、もう少し量産が進んでからの結果を見守りたい。
■20万円台の製品から
 タンノイ ARDEN

■18万円付近の中から
 インフィニティ QUANTUM4
 ダイヤトーン DS90C

■10〜15万円まで
 スペンドール BCII
 ルボックス BX350

■8〜10万円
 エクスクルーシヴ♯3301
 次点としてマランツ ♯920

■5万円前後
 B&W DM4/II
 BSW(ボリバー) MODEL18
 デンオン SC105

■4万円前後
 サンスイ SP−L150
 ダイヤトーン DS30B

■ミニスピーカーグループの中から
 これはテストしたスピーカーすべてが、それぞれに良かった。
 ロジャース LS3/5A
 スペンドール SA1
 JR JR149
 ヤマハ NS10M
 なおテストリポートには掲載されていないが、参考品として試聴した十数機種の中で、イギリス・ロジャースの新製品「コンパクトモニター」は、バランスの良い響きの美しさがとても印象深かった。同社のBBCモニターLS3/5Aのような緻密さには及ばないが、反面、大きさで無理をしていないせいか鳴り方にゆとりがあり、クラシックの弦を中心にとても楽しめるスピーカーだと思ったので、あえて追記させて頂く次第。 

サンスイ SP-G200

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 トリオのLS707もそうだったが、このスピーカーも、どちらかといえばリスニングルームがデッドなほうがいい。また、これはキャスターのついたフロアータイプだが、いろいろと設置条件をかえてみると、20センチほどの低めの台に乗せる方が、中域から低域の音離れがよくなるように思った。キャスターのままでは、中〜低域の固まりをもっと解きほぐしたくなる。ただ、ホーントゥイーターの2シェイのためにハイエンドをあまり伸ばしていないせいか、右の置き方をすると、ほんらいの中音域重視のいわゆるカマボコ型的な特性がいっそう強調されるので、低域と高域の両端を、それぞれトーンコントロールやイクォライザーで多少補正する方が楽しめる音になる。ヴォーカルで男声の場合には発声が明瞭で音が良く張り出すが、バルバラのような女声を中ぐらいの音量で鳴らすと、ウーファーとトゥイーターのつながりのあたりにもう少し密度が欲しいような気もする。ただし音量を上げてゆくとむしろ中域(おそらくトゥイーターのカットオフ附近)は張り出して、コントラストの強い傾向の音になる。アンプ、カートリッジは、CA2000+4000DIIIのような明るい傾向が合い、さらりとした適度な華やかさが出る。455EやKA7300Dのような系統は、スピーカーの持つ性格をおさえすぎるようだ。

パイオニア Exclusive Model 3301

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 たいへん独特な形をしたスピーカーで、総体にややハードな音色だが、バランスはかなりいいし、べとつきのない音離れの良い明るい鳴り方はひとつの特徴だ。専用(別売)のスタンドに乗せて聴いたが、おそらくそのせいばかりではなく本質的に、軽く反応のよい低音は、概してもたつくことの多い国産の低音の中では特筆ものだ。重低音の量感がもう少し欲しく思われて、背面を壁に近づけてみたが、量感的にはもうひと息というところ。ただそうしても低音が重くなったり粘ったりしない点は良い。クラシックのオーケストラや弦合奏でも、いくらか硬質な、そして中〜高域にエネルギーの片寄る傾向がいくらかあるものの、一応不自然でない程度までよくコントロールされている。音量を上げても音のくずれがなく、よくパワーが入るし音のバランスもくずれない。ただ、ヴォーカルを聴くと、中〜高域に一ヵ所、ヒス性のイズをやや強調するところがあって、子音に火吹竹を吹くようなクセがわずかにつく。MIDのレベルを絞るとそれがなくなることから中域のユニットの弱点だと思うが、しかしMIDレベルを0から−1でも絞るとバランスが明らかにくずれるので絞れない。この辺にもうひと息、改善の余地がありそうで、ぜひそうしてほしい佳作だと思う。アンプやカートリッジをあまり選り好みせず、それぞれの音色をよく鳴らし分けた。

ヤマハ FX-1

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶すっきり、さわやかに提示する。ひびきとしてのまとまりはいい。
❷低音弦のスタッカートが過度にせりださないのがいい。
❸誇張感がまるでなく、鮮明にひびきの特徴を示して、見事だ。
❹第1ヴァイオリンのフレーズのキメこまかさはすばらしい。
❺しなやかなひびきで、力をもって充分にもりあげる。力強く鮮明だ。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは、力をもって、ゆたかにひびく。音像もほどほどだ。
❷さわやかなひびきでそれぞれ音色を鮮明に示す。
❸ひびきが大きくふくらみすぎないのはいい。
❹ここで感じられるキメ細かさはさわやかだ。
❺とりわけフルートの音色はこのましい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶すっきりした無駄のない声の提示は大変になまなましい。
❷接近感の示し方にも無理や誇張がない。
❸声とオーケストラの位置関係、音色対比等、見事だ。
❹声のなまなましさは特徴的だが、はった声は幾分硬くなる。
❺オーケストラと声のバランスはいとも自然だ。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶声のまろやかさをたもちつつ、鮮明だ。
❷声量の変化を不自然にならずに示してこのましい。
❸余分なひびきをひきずっていないので、言葉の細部をくっきり示す。
❹各声部のからみあいは、あいまいになることなく、明瞭に示されている。
❺自然なのびやかさがあり、誇張感は皆無だ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶透明感のあるひびきで、すっきりと対比される。
❷奥の方からのシンセサイザーのひびきは、実にすっきりしている。
❸浮遊感の点で申し分ない。飛びかい方もまず十全だ。
❹前後のへだたりを充分に示し、広々とした空間を提示する。
❺ピークへのもりあげは確実で、圧倒的な迫力を感じさせる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分に透明なひびきが前後左右にすっきりとひろがり、すばらしい。
❷❶との対比の上でのこのひびきの特徴を十全に示している。
❸くっきり、輪郭明らかに提示して、効果的だ。
❹透明度の高いひびきで、輝きをすっきり示す。
❺ギターのはりだし方も自然で、対比の面でも有効だ。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶さわやかなサウンドは、ここできける音楽によくあっている。
❷ひびきがいささかも重くなることがなく、充分に厚みを示す。
❸ハットシンバルのひびきのすっきりしたぬけはすばらしい。
❹ドラムスの切れ味鋭いつっこみがみごとだ。
❺バック・コーラスの声の重なり具合を鮮明に示す。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶くっきり提示され、ひびきがふくらまないのがいい。
❷ひびきの中味がぎっしりつまっているので、なまなましい。
❸消える音を誇張はしないが、すっきり示している。
❹細かい音の動きに対しての反応は、実にシャープだ。
❺さまざまな面での対比ではほとんど不自然さは感じられない。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ひびきにあいまいさがなくくっきりしているのがいい。
❷ブラスのひびきは、それ本来の輝きをもって、つっこんでくる。
❸拡散しすぎず、積極的に前にでてきて、効果的だ。
❹後へのひびきは充分にとれていて、広々と感じられる。
❺ひびきが明るく、はずみがあるので、くっきりめりはりがつく。

座鬼太鼓座
❶充分に奥の方にひけていて、しかも鮮明だ。
❷音色的に問題がないばかりではなく、吹き方までわかるかのようだ。
❸必要充分なきこえ方をして、まずいうことはない。
❹ことさらスケール感を強調はしないが、迫力にとむ。
❺ふちをたたいていると思える音の性格をよく伝えている。

オンキョー Scepter 500

黒田恭一

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイント50の試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶あかるくすっきりとしたピッチカートだが、もう少し力がほしい。
❷くまどりたしかな低音弦のスタッカートで、強調感のないのがいい。
❸音色の特徴をわざとらしくなく示してさわやかだ。
❹第1ヴァイオリンのびびきはキメこまやかだ。
❺しなやかさをたもったまま迫力のあるクライマックスをきずく。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、いくぶん大きめだ。ピアノならではの力を示してほしい。
❷音色的な対比をキメ細かく、しなやかに示す。
❸「室内オーケストラ」らしいひびきのまとまりがあるとなおいい。
❹この第1ヴァイオリンのひびきへの対応はみごとだ。
❺木管楽器の音色を細やかに、さわやかに示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声のキメ細かいのはいいが、音像は大きめだ。
❷かなりオンでとっている感じがする。子音がめだちがちだ。
❸声とクラリネットのコントラストは、自然でいい。
❹はった声もまろやかさをたもってこのましい。
❺三者三様の声とオーケストラとのバランスがいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶ひびきに過度の肉がついていないので、凹凸はない。
❷声量をおとしたからといって、言葉の細部があいまいになっていない。
❸ひびきに軽やかさがたもたれているので、さわやかだ。
❹低い方のパートがいくぶんふくらみがちだが、明瞭さはたもたれている。
❺「ラー」は、自然にのびて、しなやかでいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ピンという高い音の硬質な性格が、さらに徹底して示されるべきだろう。
❷シンセサイザーによるひびきは、いくぶん湿りけをおびてきこえる。
❸充分にひびきが浮きあがっているとはいいがたい。
❹前後のへだたりはとれ、個々のひびきはかなり質的に高い。
❺キメ細かさ優先だが、ピークでは迫力を示す。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶ひびきのひろがり方は、実に微妙だ。キメもこまかい。
❷もう少し積極的にはりだしてきてもいいように思う。
❸まろやかなひびきで、輪郭をあきらかにする。
❹キメ細かなひびきにより、輝きを明らかにする。
❺ことさら輝きを主張することはないが、うめこまれてはいない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶低い方のひびきがふくらみぎみだ。もう少しこりっとしてもいいだろう。
❷厚みを示すより、ひびきは横にひろがりがちだ。
❸ひびきの乾き方ということでは、もう一歩だ。
❹ドラムスは、重めのひびきにより、切れが鈍い。
❺声は、総じて、楽器のひびきにおされがちだ。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きく、ひびきの中味が空洞化しているかのようにきこえる。
❷オンでとったことを強調するが、なまなましさにはつながりにくい。
❸消える音の尻尾を拡大して示す傾向がある。
❹細かい音に対しての反応ということでは、いま一歩だ。
❺両ベーシストの、音色的対比はよく示すが、音像的対比では不充分だ。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶切れ味鈍く、アタックの強さが示しきれていない。
❷ブラスのつっこみ方がやはり甘くなる。
❸フルートによるひびきは、拡散しがちだ。
❹奥行きはとれているが、ひびきはかげりがちだ。
❺充分な反応は示すが、リズムの刻みに鋭さがほしい。

座鬼太鼓座
❶尺八までの距離感は充分に提示できている。
❷音色的にも尺八の尺八ならではの特徴を明らかにしている。
❸輪郭をぼかすことなく、このひびきをききとらせる。
❹スケールゆたかにきかせはするが、消える音を明示するとはいいがたい。
❺ここでのひびきの硬質な性格をよく示している。

ビクター S-3000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 スタジオモニター用として徹底的にスタジオマンの意見がとり入れられているということで、とうぜん、一般民生用とは多少異なった作り方が随所にみられる。まず総体に、かなりハードな音色だ。中音域にエネルギーを凝縮させたようなバランスで、おそろしく明瞭度が高い。歪を極力おさえたというが、そのせいか、音のクリアーなことは相当なもので、しかもそれがかなりのハイパワーでも一貫してくずれをみせない点は見事なものだ。おそらくディスク再生よりも、こういう性格はテープの再生ないしはスタジオモニターのようにマイクからの直接の再生の際に、より一層の偉力を発揮するのにちがいない。こういうスピーカーを家庭に持ちこんでディスク再生する場合を想定して、置き方や組合せの可能性をいろいろ試みた。別売のスタンドがアルで一応それに乗せ、背面は壁にかなり近づける。低音を引締めてあるため、こうしても音がダブついたりしない。レベルコントロールは、ノーマルよりも-3ぐらいまで絞った方がいい。部屋はやデッドぎみに調整した。カートリッジもたとえばピカリング4500Qのように、ややハイ上りの音で、アンプもCA2000の系統で徹底させてしまう方が、メリハリの利いたくっきり型、鮮明型として、つまりなまじ変な情緒を求めない方が統一がとれると感じた。

スペンドール BCII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 45号(1977年12月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(下)」より

 ロジャースのLS3/5Aと同じく数ヵ月前に自家用に加えたので、素性はかなりよく掴んでいるつもりだが、テストサンプルと比較しても、特性がよくコントロールされているし、バラつきは感じられない。音のバランスがとてもよく、やや甘口の鳴り方ながら、あまり音を引締め過ぎるようなところがなくことにオーケストラや室内楽やヴォーカルを、それほど大きな音量にしないで鳴らすかぎりは誇張のないとても美しく自然な響きで聴き手を心からくつろがせる。パワーにはあまり強くない。すべての音を、良いステージで聴くようなやや遠い感じで鳴らすので、ピアノの打鍵音を眼前で……というような要求には無理だ。かなり以前の──というより初期の──製品には、ハイエンドの冴えがもう少しあったような気もするが、この点は比較したわけではなく、以前ほど印象が強くなくなったせいかもしれない。専用の(別売)スタンドが最もよく、前後左右になるべくひろげて、ただしスピーカーからあまり遠くない位置で聴く方がいい。離れるにつれて音像が甘くなり、評価の悪くなるスピーカーだと思う。カートリッジは455Eがとてもよく合う。価格のバランスをくずせばEMTもいい。アンプはやさしい表情と音像のくっきりしたクォリティの高いものを組み合わせたい。

KEF Model 105(組合せ)

瀬川冬樹

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 聴き手(リスナー)の前方、左右2ヶ所に設置された1対のスピーカーから、もしも理想的にステレオの音の再生されるのを聴けば、ただの2点から音が出ているとはとうてい信じ難いほど、あたかも歌手はそこに立って唱っているようだし、ピアノトリオはおのおのの楽器が実際に、右、左、中央と並んでいるかのよう。オーケストラを鳴らせば、広いホールに管弦楽団が奥行きさえともなって並び、前方の空間いっぱいにひろがり、満ちあふれ、まるでスピーカーの背面の壁がくずれ落ちて、その向う側にほんとうに演奏会場が現出したかと錯覚するくらいにリアルなプレゼンス(臨場感=あたかも聴き手が実演の場に臨んでいるかのような感じ)が得られる。
 ただし、そういう感じを体験するには、かなり理想的に作られたスピーカーを用意し、そのスピーカーをよく生かすアンプリファイアーやレコードプレーヤーを慎重に組合せ調整し、そして前後左右に少なくとも2.5メートル以上ひろげたスピーカーから、同じ間隔ほど離れて中央(左右のスピーカーから等距離)のところに座って聴く、という条件を守ることが最少限必要になる。むろんレコードも、音楽的に優れていると共にステレオの音場再現に気を配って録音されたものを選ぶ必要もある。
 KEF105は、上記の聴き手(リスナー)との関係位置の配慮されたスピーカーで、グリルクロスを取ると、中〜高音用のハウジング中央に、聴き手との関係位置調整用のインジケーターランプが点灯するようになっていて、スピーカーを正しく耳の方向に調整できるようになっている。このスピーカーの指定する聴き方を守るかぎり、従来聴き馴れたレコードのすべてを、もういちど全部聴き直してみなくてはならないと思うほど、レコード音楽の新しい世界を聴かせてくれる。「’78のために」というテーマに推すゆえんである。

スピーカーシステム:KEF Model 105 ¥195,000×2
コントロールアンプ:ラックス 5C50 ¥160,000
パワーアンプ:ラックス 5M20 ¥210,000
トーンコントロールアンプ:ラックス 5F70 ¥86,000
ターンテーブル:ラックス PD-121 ¥135.000
トーンアーム:SME 3009/S3 ¥65,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS455E ¥29,800
計¥1,075,900

JBL 4343(組合せ)

菅野沖彦

世界のステレオ No.3(朝日新聞社・1977年冬発行)
「 ’78のために10人のキャラクターが創る私が選んだベスト・コンポーネント10」より

 JBLのスピーカーは大きな可能性をもっている。高級機機というのはみんなそうだが、それを持てばそれでいいというものではなく、それを使いこなしていく可能性が大きいと理解すべきだろう。この4343は、JBLの本格的な4ウェイ・4スピーカー・システムで、使いこなしの如何によっていかようにも、使用者の感性と嗜好を反映した音を出してくれるだろう。そして、このホーン・ドライバー・システムは特に、ある程度の期間、鳴らし込まないと、本当の音が出てこない事も知っておくべきである。いわゆるエイジングといわれるものだが、この影響は大きい。新品スピーカーは、どこか硬く、ぎこちのない鳴り方をするが、使い込むにしたがって、しっとりと、高らかに鳴るようになるものなのである。これをドライブするアンプは、ケンソニック社のプリ・アンプ……というよりは、同社でもいっているようにフォノ・イクォライザー・アンプC220とモノーラル・パワー・アンプM60×2を用意する。片チャンネル300Wものアンプが果して必要なのだろうかと思われる向きもあるかもしれないが無駄ではない。そして、もしトーン・コントロールを必要とする場合には、別に、グラフィック・イクォライザーを(例えばビクターのSEA7070)をそろえるといいだろう。今年の新製品から、ソニーの超弩級プレイヤーシステムPS−X9を選んだが、たしかにマニアを惹きつける魅力をもったプレイヤーだ。その重量級のメカニズムから生れる音は、まさにソリッドで堂々とした風格がある。しかし、あまりに、抑制が利いていて、戸惑うほどである。このぐらいのシステムになれば、テープデッキも、カセットというのでは少々アンバランス。勿論、日常の便利に、カセット・デッキも1台は欲しいが、ここでは、スカーリーの2TR38cm/secのマスター・レコーダーを組合せ、次元のちがう圧倒的なサウンドの世界を味わっていただこうというわけだ。

スピーカーシステム:JBL 4343WX ¥730,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-220 ¥220,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:テクニクス Technics 38T ¥65,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-X9 ¥380,000
オープンリールデッキ:スカーリー 280B2 ¥2,700,000
計¥5,385,000

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年12月号掲載)

SS-G7

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その3)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 第2の中音用ユニットを加えるプランは、ベースとなるシステムが2ウェイ構成であるときに使いやすい。実際に、現在シリーズ製品としてメーカーから発売されているブックシェルフ型システムのなかには、同じウーファーとトゥイーターを使用し、上級モデルにはコーン型スコーカーを加えて3ウェイ構成としている例が多い。エンクロージュアの外形寸法では、2ウェイにくらべて3ウェイ構成のほうが、コーン型スコーカーのバックキャビティを必要とするために1サイズ大きくなるが、ウーファー用としてのエンクロージュア内容積では変わらず、低音の性能はほぼ同じと考えてよい。
 かつて、JBLのシステムにあったL88PAには、中音用のコーン型ユニットとLCネットワークが、M12ステップアップキットとして用意され、これを追加して88+12とすれば、現在も発売されている上級モデルのL100センチュリーにグレイドアップできる。実用的でユーモアのある方法が採用されていたことがある。
 ブックシェルフ型をベースとして、スコーカーを加えるプランには、JBLの例のように、むしろLCネットワークを使いたい。マルチアンプ方式を採用するためには、もう少し基本性能が高い2ウェイシステムが必要である。例えば、同軸2ウェイシステムとして定評が高いアルテック620Aモニターや、専用ユニットを使う2ウェイシステムであるエレクトロボイス セントリーVなどが、マルチアンプ方式で3ウェイ化したい既製スピーカーシステムである。この2機種は、前者には中音用として802−8Dドライバーユニットと511B、811Bの2種類のホーンがあり、後者には1823Mドライバーユニットと8HDホーンがあり、このプランには好適である。
 また、アルテックの場合には、511BホーンならN501−8A、811BならN801−8AというLCネットワークが低音と中音の間に使用可能であり、中音と高音の間も他社のLC型ネットワークを使用できる可能性がある。エレクトロボイスの場合には、X36とX8、2種類のネットワークとAT38アッテネーターで使えそうだ。
 マルチアンプ方式では、クロスオーバー周波数の選択、ユニットの出力音圧レベルやボイスコイルインピーダンスの制約がないために、スコーカーユニットの追加は大変に容易である。つまり音色の傾向さえ選択を誤らねば、他社のユニットホーンの採用も可能であり、実は、このように他社のユニットが自由に選べるのがマルチアンプ方式の本当の魅力だ。中音ユニットの音色傾向は、構造にも関係するが、ドライバーユニットなら主に振動板であるダイアフラム材質により左右される。アルテックが現在の主流である軽金属のダイアフラムであることにくらべて、エレクトロボイスは伝統的に硬質フェノール樹脂製のダイアフラムを採用している特長があり、これが、エレクトロボイスのサウンドの特徴になっている。このタイプのダイアフラムは、よくPA用と誤解されやすいが誤りであり、ナチュラルで軽金属ダイアフラムの苦手な弦やボーカルに優れた再生能力をもつ。
 その他のバリエーションには、3ウェイ構成のシステムの低音と中音の間に、主にコーン型の中低音ユニとを加える方法がある。この場合には、追加したユニットを置く位置がポイントになる。この方法は、クロスオーバー周波数が低くなるため、マルチアンプ方式のほうにメリットは大きいものがある。

●スピーカーシステム
 アルテック 620A Monitor
 エレクトロボイス SentryV
●ドライバー
 アルテック 802-8D
 エレクトロボイス 1823M
●ホーン
 アルテック 511B
 エレクトロボイス 8HD
●コントロールアンプ
 GAS Thoebe
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:GAS Son of Ampzilla
 中音域:GAS Grandson
 高音域:GAS Grandson

既製スピーカーシステムにユニットを加えてマルチアンプでドライブする(その2)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 このところ、ヨーロッパ系を中心として、国内製品のスピーカーシステムにも超小型の主に2ウェイ構成の製品が増加の傾向がみられる。その多くは、10cm口径程度のウーファーとソフトドーム型トゥイーターを組み合わせているがこの種のシステムは、ウーファーを追加してマルチアンプ方式で3ウェイ化するために大変な魅力的な存在である。追加するウーファーに専用アンプを用意する、2チャンネルのマルチアンプ化をおこなうのがもっとも好ましい方法であるが、そのバリエーションとして、最近復活しはじめた3D方式もある。低音の指向性がゆるやかなこと、波長が長いために左右チャンネルの位相の狂いが少ないことなどを利用して、低音だけは両チャンネルの信号をミックスして1本のウーファーで再生するのがこの3D方式である。
 超小型システムをベースとし、ウーファーを加える方法は、ベースとなるシステムがこの種の製品独特な音像定位のクリアーさとステレオフォニックなプレゼンスの再現に魅力があるため、わずかに追加したウーファーにより低音を補えば、かなりのフロアー型システムに匹敵するスケール感の大きい、それでいてプレゼンスのある音を再生することができるはずである。この場合には、スピーカーと聴取位置との距離は短いほうが超小型システムの特長が活かされる。
 小型のブックシェルフ型をベースとして、超小型システムと同じアプローチが可能だ。このタイプになれば、ウーファーの口径ももっと大きいものが使用可能で標準的に部屋にセットしてもさらに大音量でフロアー型の音が楽しめる。
 その他のバリエーションとしては、小口径シングルコーンユニットを採用した超小型や小型システムをベースとして、まずウーファーを追加して低音の改善を計り、その次にトゥイーターを加えて3ウェイ化するアプローチがある。広い帯域を中音ユニットに受け持たせるため安定した音が独特の魅力だ。

●スピーカーシステム
 パイオニア CS-X3
 ブラウン “Output Compact” L100
 ヴィソニック David50
●ウーファー
 KEF B139MKII
●プリメインアンプ
 サンスイ AU-607
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 サンスイ CD-10
●パワーアンプ
 低音域:サンスイ BA-2000
 中高音域:サンスイ AU-607(パワーアンプ部)

●スピーカーシステム
 ヤマハ NS-10M
 セレッション Ditton 11
 ロジャース LS3/5A
●ウーファー
 セレッション G15C
●プリメインアンプ
 マランツ Model 1180
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 パイオニア D-70
●パワーアンプ
 低音域:マランツ Model 170DC
 中高音域:マランツ Model 1180(パワーアンプ部)

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(アルテック A5)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 アルテックA5システムは、一般によく知られているA7−500−8システムを内容的に一段とグレイドアップしたタイプで、ザ・ボイス・オブ・ザ・シアターシリーズ業務用スピーカーシステムのなかでは、A7とならび、実用上、家庭内に持込んでコンシュマー用として使用できるもっとも小型な製品である。
 現在、国内でA5システムと呼ばれているタイプは、A5Xシステムといわれるタイプをベースとして、ハイフレケンシーユニットと組み合わせるホーンを、マルチセルラ型から大型セクトラルホーン311−90に置換え、コンシュマー用に相応しい指向性を得ようとしたシステムである。
 もともとA5システムは、開発された時点においては、現在のタイプとはまったく異なったより大型のエンクロージュアを採用しており、システムとしては、ウーファーと高音用のドライバーユニットの基本的な構造や規格で同じであることに類似点があるのみであるから、このA5システムも、A5シリーズのヴァリエーションのひとつとして考えてもよいと思われる。
 エンクロージュアは、A7−500−8システムと共通のフロントホーンとバスレフ型を複合した独特の828Bで、ウーファーは、416−8Bの強力型ユニットである515Bを組み合わせている。このユニットは、コーン紙を含む振動系は、ほぼ416−8Bと同等だが、磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用した強力なタイプで、出力音圧レベルは105dBと発表されている。
 高音用には、振動系が改良され、モデルナンバーが異なる291−16Aが指定されていたこともあったが、現在では、オリジナルともいうべき288−16Gドライバーユニットと311−90セクトラルホーンを組み合わせて使用している。
 クロスオーバー周波数は、より大型のドライバーユニットとホーンの組合せにもかかわらず、より小型なA7−500−8システムと同じ500Hzが指定されている。LC型ネットワークは、超大型のN500F−Aがマッチする。この場合の聴感上の特長は、A7−500−8にくらべ中音のエネルギー感と密度が格段に優り、低音も引締まった充実した響きで、いかにも業務用システムらしい堂々とした音が得られる点である。
 また、A5システムは、フロントホーン付の828Bエンクロージュアを採用し、高音ユニットとのエネルギー的、音色的つながりが意図されていると同時に、低音と高音の両ユニット間の位相が調整されている特長があることも見落とせない重要なポイントとしてあげることができる。
 マルチアンプ化のプランには、GASのアンプをベースにDBシステムズのエレクトロニック・クロスオーバーを使う。家庭用としての使用では、クロスオーバー周波数を指定より下げてみるのも大変に興味深い。

●スピーカーシステム
 アルテック A5
●コントロールアンプ
 GAS Thaedra
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 DBシステムズ DB-3+DB-2
●パワーアンプ
 低音域:GAS Ampzilla II
 中高音域:GAS Son of Ampzilla

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 ヴァイタヴォックスCN191コーナーホーンシステムは、英国をふくめたヨーロッパ製品のなかで、コンシュマーユースのスピーカーシステムとしてはもっとも大型なフロアーシステムである。
 エンクロージュアにはクリプッシュKタイプといわれるフロントロードホーン型の一種が採用されている。フロントロードホーンでは、その名称のように、ウーファーコーンの前面の音だけをホーンを使って放射しているが、バックローディングホーン型では、ウーファーコーンの前面の音は直接放射され、後面の音がホーンを使って、低音の一部だけをホーン効果により補うタイプである点が異なる。このクリプッシュKタイプでは、ウーファー前面からの音が、特殊な形状に折り曲げられたホーンから一度エンクロージュア背面に導かれ、さらに部屋のコーナーを低音ホーンの延長として利用し、エンクロージュア両側の開口部から前面に放射される。
 クリプッシュKタイプホーンは、ホーン型エンクロージュアらしい、厚みがあり緻密な堂々とした低音が得られる大きなメリットがある。しかし、折曲げ型ホーンのためにウーファーコーンからの中音は減衰しやすく組み合わせる中音用や中音から高音用のスピーカーユニットには、十分に低い周波数から使用できるタイプが必要である。
 ウーファーは、CN191システム用に指定されているAK157、中音から高音用には、直径76・2mmという大型軽金属製ダイアフラムと16、000ガウスの磁束密度をもつドライバーユニットS2と、アルミ合金製のセクトラルホーンCN157を組み合わせ使用する。なお最近のCN157ホーンは、ホーンのカーブが設計変更されて改良されているようで、一段と音質面でのグレイドアップが期待できる。指定LC型ネットワークは、クロスオーバー周波数500Hzの典型的な12dB型NW500である。
 しーぁぬ191は、部屋の壁面を低音ホーンの一部として利用することが前提として設計されているために、強度が十分にある、レンガやコンクリートなどの壁が相応しい。そうでない場合には、少なくとも、30mm以上の厚さの良質な板で、エンクロージュア後側の壁と接する面に使う衝立をつくり使用することが望ましい。
 マルチアンプ化のプランは、CN191がトラディショナルな英国の音をもつことを考えれば、少なくとも、スピーカーとダイレクトに結合するパワーアンプには,英国系の製品を使用したい。ここでは、QUADの2機種のパワーアンプを選んでいるが、低音用の303Jは、モノーラル構成で、出力部分にインピーダンスマッチング用のトランスをもつ特長があり、適度に最低域がカットされるため、ホーン型ウーファーには好適である。コントロールアンプその他は、管球タイプで音色的なバランスを重視して選んである。

●スピーカーシステム
 ヴァイタヴォックス CN191 Corner Horn
●コントロールアンプ
 ウエスギ U-BROS-1
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 ウエスギ U-BROS-2
●パワーアンプ
 低音域:QUAD 303J(×2)
 高音域:QUAD 303

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL 4350A)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのプロフェッショナルモニターシリーズのモニタースピーカーには、現在、30cmウーファーをベースにした4311から、38cmウーファーをパラレルドライブする大型の4350まで多くの機種がある。そのなかでは、スタジオモニターとして多く使用されている中型の4331A、4333Aは、マルチアンプ化のプランの対象として十分なクォリティの高さを備えた、優れたユニットを採用したシステムといえよう。しかし、2ウェイ構成の4331Aは、そのままマルチアンプ化することよりも、高音用に2405トゥイーターを追加して、3ウェイ化することのほうがグレイドアップの効果が高い。3ウェイ構成の4333Aでは、中音用ユニットのほうが高音用ユニットよりも高能率であり、低音を一台、中音と高音を一台のパワーアンプで駆動する2チャンネルのマルチアンプ方式には好ましくなく、完全にスピーカーユニットに対応したパワーアンプを使う3チャンネルのマルチアンプ化が必要である。むしろ、この場合は、コンシュマーユースとしての使用を前提とすれば単なるマルチアンプ化よりも、グレイドアップにおける投じた経費と結果での効率の高さにポイントをおくべきだ。マルチアンプ化は、2チャンネルとして、中音と低音の間に中低音用のコーン型ユニットを追加するか、超低音を補うために46cm型以上の専用ウーファーの追加や、3D方式なら、さらに大口径の60cm型や76cm型のウーファーを採用するプランが考えられる。
 それに対して、さらにマルチウェイ化され、4ウェイ構成になっている4343や4350は、ともに中低音用のコーン型ウーファーが採用されているのが大きな特徴だ。このため、これをベースとして中音用、高音用の能率的なバランスが保たれ、マルチアンプ方式の基本型である2チャンネル方式のために最適な条件を備えている。
 4343は、これらの条件が備わっているため、システムとして最初からスイッチ切替で2チャンネルのマルチアンプ使用が考えられており、4350では、全帯域をLC型ネットワークで使用することは考えられてなく、中低音以上と低音は、2チャンネルのマルチアンプで分割して使用することを前提とした設計である。そのために、ボイスコイルインピーダンスは、中低音以上は8Ω、低音は、ソリッドステートパワーアンプでは8Ωよりもパワーが得やすい4Ωになっている点は、見逃せないポイントである。
 マルチアンプ化は、各使用ユニットの数に応じたパワーアンプを使う本来の意味でのマルチアンプのプランを採用するのが、これらのシステムのもつ性能をさらに一段と飛躍させるためには好ましいことになる。しかし、ここでは、性能が高い、ハイパワーアンプによる2チャンネルの例をあげておく。これを使い、さらにマルチアンプ化していくことが、アプローチとしてはオーソドックスと思う。

●スピーカーシステム
 JBL 4350A
●コントロールアンプ
 マークレビンソン ML-1L
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 マークレビンソン LNC-2L
●パワーアンプ
 低音域:マランツ 510M
 中/高音域:マランツ 510M

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(JBL D44000 Paragon)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 JBLのD44000パラゴンは、現在の大型スピーカーシステムとしては異例な性格をもった、極めてユニークな製品である。
 ステレオのスピーカーシステムは、一般的には左右チャンネルそれぞれ専用のスピーカーシステムを使う方法が標準であるが、パラゴンでは、左右チャンネル用のスピーカーシステムを一体化して使う構想で設計されている。構造上では、独立した左右対称型のフロントロードホーン型エンクロージュアを金具を使用して中央部分で結合し、デザイン的には、中央から左右に円弧状のカーブをもつ反射板で連続して、このまま家具として置いても素晴らしいオブジェとして眺められるユニークな完成度の高さが感じられる。しかも、エンクロージュアは、床面の影響を避けられるように、脚で床から離れているため、音楽的な面での処理も完全である。
 JBLには、かつて、このパラゴンのシリーズ製品として、同じ構想に基いた小型のミニゴンシステム、各種のユニットによりバリエーション豊かなシステムができるメトロゴンがあった。このシリーズのもうひとつの特長として、2チャンネルステレオでは、とくに左右スピーカー中心の音が弱くなり、実体感が薄れる点を補うために、エンクロージュア前面にある円弧状の反射板に主に中音ユニットの音を当て、その反射を左右のスピーカーに対して第3の音源として利用していることがあげられる。
 2チャンネルステレオでは、中央の音が弱く感じられない程度に左右のスピーカーシステムの間隔を調整することが、ステレオフォニックな音場感を再生する基本である。しかし、左右スピーカーの位置にある音源は、直接スピーカーからの音を聴くために、仮りにこれを実像とすれば、スピーカーの内中央の音源は、そこに定位をしたとしても、虚像にたとえることができる。パラゴンに採用された反射板を利用して第3の音源をつくる方式は、中央の音もスピーカーからの反射音を聴く実像である点が大きな特長である。
 パラゴンは、このように音響的に特殊な方式を採用しているため、最適リスニングポイントの範囲は一般のスピーカーシステムよりも狭く、制約がある。おおよその位置は、両側のトゥイーターの軸上を延長した線の交点あたりで、かなりスピーカーシステムと最適リスニングポイントの距離は近い。
 パラゴンを巧みに鳴らすキーポイントは低音にあるが、特にパワーアンプが重要である。ここではかつて故岩崎千明氏が愛用され、とかくホーン型のキャラクターが出がちなパラゴンを見事にコントロールし、素晴らしい低音として響かせていた実例をベースとして、マルチアンプ化のプランとしている。このプランにより、パラゴンを時間をかけて調整し、追込んでいけば、独得の魅力をさらに一段と聴かせてくれるだろう。

●スピーカーシステム
 JBL D44000 Paragon
●コントロールアンプ
 クワドエイト LM6200R
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 JBL 5234(×2)
●パワーアンプ
 低音域:パイオニア Exclusive M4
 中音域:パイオニア Exclusive M4
 高音域:パイオニア Exclusive M4

既製スピーカーシステムをマルチアンプでドライブする(テクニクス SB-10000)

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-1 マルチスピーカー・マルチアンプのすすめ(ステレオサウンド別冊・1977年秋発行)
「内外代表パーツ200機種によるマルチウェイ・システムプラン」より

 テクニクスのSB10000は、現在までに発売されたフロアー型システムのなかでは、国内製品でもっとも大型なシステムである。低音用に46cm型ウーファーを採用し、中音と高音に開口角度の広いラジアルホーンを採用したホーン型ユニットを使用している。
 同社からは低音用の46cm型ウーファーとしては、すでにEAS46PL80NAが発売されているが、この単売ユニットとSB10000に採用されたユニットの関係は不明である。しかし、世界的にみても46cm型ウーファーは、製品数も少なく、国内製品で現在発売されているのはテクニクスだけということになる。
 このシステムの中音用、高音用ユニットは、ラジアルホーンとドライバーユニットを結合する部分のスロートが極めて短縮された、特長のある方式を採用しているのが従来に見られなかった方法である。中音用のドライバーユニット部分のダイアフラムは、直径100mmと非常に大口径型で、受持帯域の下側、つまり中音から低音にクロスオーバーするあたりのエネルギーが、より直径の小さいダイアフラムより一段と強く、ウーファーとのつながりが大変にスムーズである。
 高音用は、中音用が磁気回路の後部にダイアフラムをセットした、いわゆるリアドライブ方式であることにくらべ、一般的にトゥイーターに採用されることが多い、磁気回路の前部にダイアフラムをセットしたタイプだ。このダイアフラムは直径35mmで、材料にはチタン箔の両面に軽量で非常に硬度が高いボロンを真空蒸着させた新材料を使っているが、これは世界最初の試みである。
 ウーファー用のエンクロージュアは、バッフル盤の両側にスリット状のポートをもつバスレフ型である。この上に、中音用と高音用のユニットが前後方向に、リニアフェイズ方式に従って、スタガーしてレイアウトされている。
 このシステムは、LC型ネットワークにも位相補正方式が採用されているとのことであるから、マルチアンプでドライブするプランは単純に各ユニットを直接パワーアンプにつないでドライブして、LC型ネットワーク以上の音質が得られるかどうかがポイントになる。
 しかし、現実的に、マルチアンプドライブ化したシステムを調整する場合には、各ユニットの位置的な関係を移動できるタイプでは、相対的なユニット一のコントロールで、最良の音に追込むプロセスは、いわば、マルチアンプの実施面での定石である。したがって、SB10000でも、少なくとも、聴取位置を原点として聴きながら、中音と高音ユニットを前後させてベストポイントを探すべきであろう。アンプには、一連のテクニクス製品を選んだが、低音用には、左右それぞれにモノ接続としたパワーアンプを使用することにしたい。このシリーズのアンプは、性能、価格などからマルチアンプ方式には好適な製品だ。

●スピーカーシステム
 テクニクス SB-10000
●コントロールアンプ
 テクニクス SU-9070II (70AII)
●エレクトロニック・クロスオーバー・ネットワーク
 テクニクス SH-9015C (15C)
●パワーアンプ
 低音域:テクニクス SE-9060II (60AII)×2
 中音域:テクニクス SE-9060II (60AII)
 高音域:テクニクス SE-9060II (60AII)

ソニー SS-G7

ソニーのスピーカーシステムSS-G7の広告
(スイングジャーナル 1977年10月号掲載)

SS-G7

Lo-D HS-530

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは湿りがちだが、木管のまろやかさはいい。
❷奥の方にひろがるが、スタッカートのシャープさはたりない。
❸フラジオレットの特徴は一応はこのましく示されている。
❹第1ヴァイオリンのひびきはかなり魅力的。
❺クライマックスでひびきが硬くなるが、つぶれない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は幾分大きめだが、音色的にはこのましい。
❷音色的な対比はついているものの、もう少しすっきりしてもいい。
❸軽やかさは不足ぎみ。こまやかな反応とはいいがたい。
❹ヴァイオリンの音色は、硬くならずこのましい。
❺音色的には、音像が大きくなりがちだ。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶声にまろやかさがある。近づいてくる感じもつかめる。
❷声についている残響が強調される傾向がある。
❸クラリネットの音色も、オーケストラと声のコントラストも良。
❹はった声が硬くなっている。ひびきにのびやかさが不足のためか。
❺オーケストラの各楽器のきこえ方に無理がない。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶メンバーの並び方は、ほとんどわからない。
❷声に残響がつきすぎているので、言葉はかなり不鮮明だ。
❸子音のたち方が弱いために、言葉がききとりにくい。
❹ひびきに軽みがないので、各声部の動きはききとりにくい。
❺充分に残響をともなって、まろやかだ。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的なコントラストはついている。奥ゆきもとれている。
❷クレッシェンドは自然だが、透明感に不足している。
❸ひびきに重さがあり、そのために浮遊感は感じとりにくい。
❹一応のへだたりは感じさせるが、ひろびろとはしない。
❺ふくれあがり方は自然だが、ピークで金属的な音になる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶なめらかにひびくところはいいが、ひろがりはたりない。
❷ギターの音像がふくれがちだ。せりだしてくるのはわかる。
❸ひびきの特徴をきわだたせないために、アクセントがつかない。
❹きこえるが、他のひびきの中にうめこまれがちだ。
❺ききとりにくい。なめらかさが優勢のためか。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶とげとげしないのはいいが、もう少しシャープでもいいだろう。
❷厚みは感じとれる。ベースのひびき方はこのましい。
❸乾いているとはいいがたいが、一応の成果はおさめている。
❹つっこみの鋭さは示す。ひきずってはいない。声も良好だ。
❺言葉のたち方もよく、バックコーラスの効果もでている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力感があり、スケール感も、十全とはいえぬが、まずまずだ。
❷鮮明にききとれる。なまなましさもある。
❸誇張駆んなく消え方を示しているところがいい。
❹こまかい動きが、ほんの少しあいまいになる。
❺音量的にペデルセンのものの方が大きいようにきこえる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶シャープとはいいがたいが、一応の効果はあげる。
❷もう少し鋭くてもいい。力は感じさせる。
❸音像的に大きくなりすぎているので、おしつけがましくなる。
❹距離感はある。接近も感じとれるが、もうひとつすっきりしない。
❺幾分ふくれぎみのため、メリハリがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八の比較的近くでひびいているように感じられる。
❷ひびきは、幾分脂っぽく、尺八らしさが希薄だ。
❸ききとれるが、かならずしも充分ではない。
❹スケール感がたりない。力強さは感じさせるが、消え方はきこえない。
❺ききとれなくはないが、きわめて弱い。