岩崎千明
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
放送局のレコード再生システムを多く作る専門的業務用機のメーカー、デンオンのブランドをそのまま冠して、同じく業務用に開発されたカートリッジを基本として、市販品を作ってキャリアの長いメーカーだ。その質は、悪かろうわけがない。
デンオンの場合、たいへんに明確で、はいっている音をくまなく拾いだすというピックアップ本来の働きを音のイメージとしてもっている。やや骨太のところもなきにしもあらずだが、高域のキラキラした鮮やかさが、全体の音のバランスに有効に作用して、デンオンならではのすばらしい音の世界を作る。MC型独特の美しさと共に、ステレオ音像のすばらしく整った様も大いに称賛できる。音質チェック用として、多くの現場でもつかわれており、その用途のために信頼性も高い。つまりデンオンのカートリッジのバラつきの少ないのはおおいに注目すべき特徴だ。
DL107は、MM型カートリッジとしてデンオンが初めて、安定性と使い易さとを、価格をおさえた形で実現した製品。更にそれがDL109に発展して、帯域は驚く程拡大されて、現代風になった。一般にこうした改良にともなって、出力の低下をきたすのが普通だが、109の場合は逆に出力向上を得ているが改良というよりも、まったくの新種といえるだろう。さらに新しい傾向に即して針圧をやや軽くしたことによって、今まで市販品の平均水準より重い傾向であったのを、補うことになった。107にくらべ幾分か繊細感が加わって全体にフラットレスポンスをはっきり感じさせる。とくに唄において、この109Rの再現性は、国産カートリッジ中でも、もっとも優れたひとつであることをつけ加えておこう。針先を円錐から特殊楕円にした109Dは、帯域を5万HzまでのばしてCD−4対応型としたものだが、超高音はかえってうすい感じとなっている。中域もやや希薄に受けとれるのが少しばかり気になる。
DL103はデンオンの最も初期からある代表的MCカートリッジだ。やや武骨な、ガッチリした音が、いかにも業務用というイメージを作り、それが103の個性として、多くの人に受けとられている。103の再生水準に関して、それを認めたとしてもこの骨太な音を好みに合わないと思うファンもいるだろう。DL103Sは、103の軽針圧、広帯域型として誕生した。価格的に一躍20%以上上昇だが、再生帯域の方は、かなり伸びているし、それも6万HzというMC型には信じられない広帯域であって、単なる楕円針の成果ではない。聴感的なワイドレンジ化よりも、全帯域をおさえこんでしまったという感じが強くて、特に中音域での、デンオン独特の充実感を少々うすめすぎたのではないかと思われる点が残念である。低域での量感もやや力を欠いて聴えるのはなぜか。どうやらステレオ音像の定位の良さからいうと、103Sも103同様に大変リアルな、きわめて明確かつ率直で、あらゆる音域において高い次元にあるといえよう。ただ、103の演奏楽器のスケール感が乏しい。
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