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ブラインド試聴者の立場から

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 これがアンプの場合だったら、せいぜい同じカテゴリーの中で音のバランスやニュアンスが多少違うという程度なのに、スピーカーときたら、同じレコードがよくもこれほど違って聴こえるものだと呆れるくらい、五十組が五十通り、それぞれ違った音で鳴るのだから、はじめのうちしばしば途方に暮れた。
 ところが、二日、三日と聴き込んでゆくにつれて、スイッチのナンバーと出てくる音とが、少しづつ結びつくようになってくる。終りの頃は、ほかの人にスイッチを押してもらっても、たいていの音を当てられるし、当然、細かな相違もわかるようになってきた。ブラインドテストのやり方についても、いろいろ考えさせられる貴重な体験だった。

■試聴テストのポイント
 スイッチによる聴きくらべ、それもブラインドテストの場合には、心理的に陥りやすい罠が数多くあって、その一つひとつはスペースの関係で詳しく解説できないが、わたくしとしては、できるだけその面での弊害は除くよう、慎重に考慮したつもりである。ただ、ブックシェルフ型のスピーカーは、とくに置き場所によって音のバランスが変わりやすく、しかもこれほど数多く並らべ積み上げた場合には、多少とも互いに共鳴するという現象もあって、物理的に完璧を期すことは無理だと思う。少なくともそういう現象によってマイナス点がでないように、聴く位置を変えてみたり、トーンコントロールを大幅に変化させてみたり、また、それでもおかしいものは、置き場所を移動してもらう等、できるかぎりの確認を試みた。結果としては、音の質そのものが良くないスピーカーは、そうして条件を変えてみても決して点数が良くはならないし、音の素性がもともと良いものは、少しぐらい不利な場所におかれても、時間をかけて聴き込んでゆくと必ず浮かび上ってくるものだということが分った。しかし、あくまでも、この結果は本誌試聴室でのものであり、条件が大幅に変われば、また違った結果が出るかもしれないことは、想像に難しくない。わたくしとしては、ともかく与えられた条件の中で、最善の努力をしたつもりである。

 採点にあたって与えられた分類法は、○や□の印による四段階法であり、採点法に個人的には疑問が残っているが、一応、試聴した五十組の中で最良のものを三重丸とし、以下順位を割り振った。従ってこの中に、もう一つでも、もっと大型の本格的なスピーカーシステムが比較用にでも入っていたら現在の三重丸が◎か○になってしまう可能性は無いわけではない。いずれにしても、○印そのものは、音の硬さ柔らかさ、音の分離や切れ込みの良否といった音質そのものを決して現わさないから、○の数が多いからといって、これは聴感上の好みとはあまり関係が無いという矛盾を含んでいる。
 コストパフォーマンスについては、わたくしの基準は8以上がいわゆる買徳品、6~7は大体価格相応、4~5がその下のランクで、3以下は価格が高すぎるか音質に難点が多すぎるかのどちらか……といった採点である。
 音質の評価は、前述の理由から音のバランスそのものは重視せず、低音ではトーンコントロールで強調しても箱鳴りその他の欠陥が無いもの。中~高音では妙なクセ或いはトゥイーター等の欠陥によって針音やテープヒスが強調されないもの。そして中音域で音がスムーズにつながるものに良い点をいれるようにした。総体的には、音のクオリティ(品位、品格)そのものの良し悪しに重点を置いて、特に楽音のニュアンスやコントラストを正しく美しく再現するものを選んだ。また、わたくし自身は、ステレオの再生では音像定位の再現性を重視しているが、今回のようなスピーカー配置ではこの点の評価は無理だったので、一切ふれていない。
 なお、念のため、わたくし自身試聴した五十組のほとんどをまだ知らずに居る。テストを終ったいま、編集部ではいつでも教えてくれるというが、たまには、印刷された本誌を手にとるまで、知らずにいた方が楽しみが多い。

テクニクス SB-2506A (Technics4A)

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 前項同様、No.26、33、43、それこの47と、最初のうちから総体的に良い点数が浮かんでいて、ほかのスピーカーの音に相当なじんでからも、採点はあまり変わらなかった。おそらくこの辺が、国産(だと思うが)の平均的水準をゆく良いスピーカーの代表例なのだと思う。

テスト番号No.47[推選]

サンスイ SP-2002

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 音のつながりがよく、柔らかく気持よく鳴るという点では、No.26や33、および後述の47などと相通じるところのある良いスピーカーだ。

テスト番号No.43[推選]

Lo-D HS-500

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 能率が高い方ではないから、単純な切替え比較では損をしそうな製品だが、いろいろといじの悪い聴き方をしても全くボロを出さないし、物理特性もかなり良さそうだ。低域から高域まで、音のつながりもかなりスムーズで、全域にピーク性の危い音が全く無いのは見事だが、少々ドライな印象を受けることは否めない。固有の音色とか音のクセを嫌う人には選ばれそうな製品。

テスト番号No.31[推選]

ダイヤトーン DS-33B

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 ちょっとドンシャリ的で、とくに高域の鋭さは耳につく。安っぽいハイファイ・トーンというイメージが無いわけではないが、よく聴くと、全体としてかなり注意深く作られた製品のようで、もしも、中〜高域のレベルを少し落せるなら、全体の音の印象はもっと向上するはずである。今回のテスト機種の中には、トーンコントロールで高域を多少抑えたぐらいでは、とても聴くにたえないものが七〜八に止まらなかったが、このNo.29にはそういう製品とは一線を引いて違う良さがある。

テスト番号No.29[推選]

パイオニア CS-10

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 あるていどパワーを入れてやらないと、うまいバランスの音になりにくいという点では、No.21とにているが、絞っていっても、21ほど正確が変わることはない。中域、あるいは中低域にかけて、ちょっとクセがあるので採点上は良くないが、もしかしたら、レベルコントロール(この製品にそれがついているとしたら)を調整し直せばよくなるといった性質のものかも知れない。

テスト番号No.27[推選]

アコースティックリサーチ AR-5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 どんなソースも一応ソツの無さで、採点上では推選になったが、個人的には疑問の多いスピーカーだ。とくに、音量の大小によって音のバランス──それも周波数特性上のバランスというよりも、各楽器の音色や音量差や距離感がガラリと変わるのは、不思議だ。とくに、絞り込んだときの音は貧相である。しかし、音量を相当上げて聴くと、朗々と豊かな音になるのだから始末が悪い。ハイパワーの好きな人にという前提つきで。

テスト番号No.21[推選]

アルテック Lido

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 能率のあまり良い方でなく、しかも周波数レインジもあまり広い方ではないという音で、切替え比較では、ラフな聴き方をされると損な製品という点では、No.2にちょっとにているが、音の品位は相当に高く、これなら室内楽でもじっくり聴き込める。そして、どんなソースでもイヤな音を決して出さない。はったりも何も無い音だから、レコード音楽に長いこと親しんだ人でないと、見過ごしそうな音だと思うが、ともかく良い製品だ。

テスト番号No.16[推選]

サンスイ SP-50

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 No.2とは正反対に、能率も中以上だし(少なくとも聴感上は)、朗々と鳴るという感じの音質。低域と高域に、少々抑制の足りないところが無くはないが、おそらく手なれた、かなりの説得力を持った音の作りかたである。グラマーだが大柄でなく、トランジスター・グラマーといった音。

テスト番号No.8[推選]

フォスター FCS-250

瀬川冬樹

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴 純粋聴感で選ぶベストシステム」より

 切替えたとたんに音量がぐんと小さくなる。能率が低いという点では、No.5やNo.27に次ぐ製品だから、出力の大きいアンプが必要だろう。何を鳴らしても一応ソツなくこなすという性質は26や33に似ているが、音質の傾向はずいぶん違って、少し抑制が利きすぎたのではないかと思えるほど、控え目で地味で、しかも無味乾燥になる一歩手前でうまくまとめたという感じである。いわば、入社早々で少しばかり固く構えているという風情だが、しかしこの生真面目さは、仲なか好ましい。
テスト番号No.2[推選]

ビクター BLA-304

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 オーケストラの内声部が引っこみ、やせた音になる。そのためかどうか、プレゼンスの再現も不充分で、オーケストラの雰囲気に空間感がない。これはステレオ再生では大変不利であり、また音楽のスペクトラムの中核である中域が引っ込むのはまったくまずい。ジャズではこれが致命傷といってよく、ジャズ音楽の本質が生きない。中域不足はバロックのアンサンブルなどでは一種クールで端正だが、ジャズには全く不向きという他ない。

テレフンケン TE-200

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 表情豊かというか、個性的といおうか、快適な音が印象的。適度に油の乗った充実感があり、長く聴いていると耳について気になりそうな音色が、こういう試聴では効果をあげる。つまり、巧みな音づくりなのである。華麗な音色、人為的なバランスがどんなソースにもそれなりの効果をあげるから不思議である。中高域の硬さ、レンジの狭さが不満として残るが、極めて印象的なスピーカー・システムであった。

パイオニア CS-7

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 大変まともなバランスがとられていて、いかなるプログラム・ソースにも妥当な音楽的バランスを聴かせてくれるスピーカー・システムだった。音質は、やや軽く安手の感じは残るけれど、他面、明るくおだやかで疲れない音だ。ジャズの再生では、締まり、深み、力感などの面でもう一歩の不満がかんじられるが、まともにソースの情報を伝えてくれるので、聴いていて気持がよい。強い魅力には欠けるかもしれないがオーソドックスな製品だ。

ビクター BLA-E20

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 オーケストラのテュッティの再現ではややスケールが小さく、プレゼンスが不足する。しかし、ポピュラーものでの味つけは効果的で甘さとシャープさが巧みに交錯する。軽やかな中域が親しみやすいキャラクターを作っているのだろう。価格も二万円を切るようだし、このクオリティなら相応のものといえるのかもしれない。室内楽やクラシックのヴォーカルには当然のことかもしれないが質の緻密さの点でかなり物足りない。

ダイヤトーン DS-22B

菅野沖彦

ステレオサウンド 10号(1969年3月発行)
特集・「スピーカーシステムブラインド試聴」より

 バランスのよくとれたシステムで音色も切れ込みもよい美しいもの。再生音のスケールは大きくないが緻密なクオリティで好ましい。オーケストラやジャズでは小じんまりした感じはあるが音がよく立ち、生き生きしている。ピアノのクオリティが、やや不安定なのが気になったが、この他はすべてスムーズに通った。透明度も高くよく抜けるシステムだ。抜ける感じは何によるものかは全体の問題としてきわめて興味深く、また難しい問題だと思う。

JBL SA600

岩崎千明

スイングジャーナル 3月号(1969年2月発行)
「SJ選定 ベスト・バイ・ステレオ」より

 私のリスニング・ルームには時折米国のハイファイ・マニアが出入りする。都下の米空軍基地の将校たちである。米国ハイファイ界のニュースなども話題になるが、彼らにとってもジム・ランシングという名は超高級イメージである。日本ではジム・ランシングと同じ程度にハイ・グレードと思われているARスピーカーというのは優秀品には違いないがどこにでもあり、いつでも買える身近なパーツのようだ。ところが「ランシング」のブランドは多いに買気をそそられる魅力、またこれを使うことによる大いなるプライドを持てる商品というように価値づけられているようである。
 ジム・ランシングは本来スピーカー・メーカーで音響専門であったが60年代に入って、ステレオ・アンプを発売した。それ以前から「エナジザー」と名でパワー・アンプが出ており、ごく高級のスピーカー・システムに組み込まれて存在した。
 独立したアンプ商品としての第一陣はプリ・アンプSG520であったがパワー・アンプを組み込んだSA600が、2年ほど前から米国内で発売され、マニアに注目されている。このSA600の優秀さはいろいろな形で、昨年中の米国オーディオ誌に採り上げられているが、その代表的な一例を68年春のエレクトロニクス・ワールド誌にみてみよう。この雑誌はかなり技術的な専門誌であるが、この号には、米国市場にある20種の代表的なアンプの特性を権威ある研究所でテストした比較書がのせてある。
 その試聴結果をみて、私は眼を疑ったほどである。ジムランSA600の最大出力についてメーカー発表の規格値は左右40/40ワットの最大出力になっているのに、試験によると「60/60ワットを超える出力がとり出せる」となっている。つまり規格値を超えること50%も最大出力が大きいという点である。むろん20種のテスト製品の中で、これほどゆとりある設計は、ジムランのアンプだけであることはいうまでもない。
 この点にジムランというメーカーの製品に対する考え方、メーカーのポリシーを感じることができる。ほかの性能も一般のアンプにくらべてずばぬけて優秀であり、20種中、ベストにランクされていたのもむろんである。
 SA600のこの優れた性能は、あなたが技術的にくわしい方なら、このアンプの回路をみれば完全に納得がいくはずだ。そこには普通のアンプとは全然違った技術を見ることができよう。コンピューターの中の回路と同系の、バランスド・アンプの技術が中心となっているのである。ジムランでは、これをTサーキットと呼んでおり、ハイ・ファイ用として特許回路である。コンピューターと同じくらい厳しく、しかも安定な動作がこの回路でなら楽々とこなせるはずだ。SA600のこのTサーキットはジムランのもうひとつのアンプSE400シリーズに採用されているが、さらに後面パネルはスピーカー組込み用SE408パワー・アンプの前面パネルとまったく同じデザインであり、パワー・アンプがほとんど同じことが外観からもうかがい知ることができる。アンプの後面についているべきターミナルは、ジムラン独特のケース底面に集められており、実際に使用の際の合理的な設計が、身近に感じられる。
 SA600は日本市場価格は24万だが、プリ・アンプSG520がデザインこそ豪華だがほぼ同じ価格。さらにパワー・アンプSE400シリーズが、20万円弱ということで、この両者を回路的に組み合せたSA600の価格としては割安で、このアンプがベスト・バイとなるのもうなずけよう。

トリオ 400M

菅野沖彦

スイングジャーナル 2月号(1969年1月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ターンテーブルの新製品としてトリオの400Mを選定したことはコスト・パーフォーマンスの高さによるといってよいだろう。つまり、対価格性能が優秀だから、これはお買徳といってよい。ターンテーブルの重要性については周知のことだが、他のパーツの特性が向上すればするほど、また優秀なターンテーブルへの要求も高まってくるのである。ターンテーブルにいい加減のものを使ったのでは、どんなに優れたカートリッジやアーム、そしてアンプやスピーカーを使っても絶対に優れた音質を得ることはできない。これにはいろいろな理由があげられるが、もっとも問題となるのは回転ムラつまりワウ・フラッターである。現在ターンテーブル単体として市場にでているものはいずれも実用上問題にならない程度の回転の均一性が確保されてはいるが、回転ムラは音程の不安定をもたらすので再生音の品位を下げる。もちろん音楽的にも正しいピッチが保たれないことは致命傷であるが、音程の不安定として感じられるほどひどいワウ・フラは論外で、そこまでいかなくても、音質のしまりがわるい、ダンピングがわるいという全体的な音色としてもきいてくるのだから注意すべきことだろう。次に問題なのが振動である。モーターの回転に起因する振動がターンテーブルに伝わってはカートリッジから雑音として再生されてしまうので手に負えない。
 ところで、こうした問題の解決には、まず優秀なモーターの開発がなければならない。静かで、回転力の強い、回転速度の均一なモーターによってのみ期待するターンテーブルの性能が得られる。しかし、それと同時に、モーターからターンテーブルへの動力伝達機構の重要性も忘れられない。この動力伝達機構としては現在、ゴム・アイドラーによりターンテーブルの内縁を駆動するリム・ドライブ方式と、特殊化学製品のベルトによりターンテーブルをプーリー駆動するベルト・ドライブ方式の2つがある。動力伝達方式について考える時、1つはいかにロスや障害を少なく正確に動力を伝えるかという考え方がある。モーターの回転速度を正しく減速してターンテーブルを回転させるためにできるだけ単純な機構がよいわけだ。2つには、動力伝達機構をいかに巧みに利用してこれを一種のショック・アブソーバーとしてモーターの振動を吸収してしまうかという一石二鳥的考え方である。トリオの400Mは明らかにこの一石二鳥的考え方の上にたって設計されたもので、アイドラー方式とベルト方式の両方を兼ねて、ベルト・アイドラー方式という呼び方をしている。これには有名なトーレンスのターンテーブルなどもあるが、結果的には優秀な特性が得られている。ターンテーブルはアイドラーによってリム・ドライグされるが、アイドラーはモーター・シャフトとは断絶され、ベルトによっておこなわれている。ベルトがターンテーブルにかけるものより短かいものですむし、速度変更が確実容易(アイドラーの上下による)にできる。重量の大きなターンテーブルを使用し、フライホイール効果を積極的に利用するという考え方もマニア向きといえるだろう。大型のフルパネルは大変重厚なイメージで仕上げも美しい。この価格でできるイメージではなく、同価格の他製品と比較すると圧倒的な風格をもっている。欲をいえば、ターンテーブル・シャフトの加工精度にもう一歩という感じだが、これは最高級品に要求するシビアーな見方であろう。4万円以上の製品とつい比較してしまうというのも、この製品がいかに高いコスト・パーフォーマンスをもっているかがわかるだろう。必ず大型のしっかりしたケースで使うこと。

パイオニア CS-10

菅野沖彦

スイングジャーナル 2月号(1969年1月発行)
「SJ推薦ベスト・バイ・ステレオ」より

 CS10というスピーカーをごぞんじだろうか。パイオニアがだしている優秀なスピーカー・システムであろ。ただしお値段のほうも大分高い。
 このスピーカー・システムは、ブックシェルフ・タイプといって、現在のスピーカー・システムのタイプの中でもっともポピュラーなものである。初期のブックシェルフ・タイプはたしかに小型で、縦においても横においても使える四面仕上であったが、その後、形が大きくなり重さも増して、現実には本棚へおいて使えるようなものばかりではなくなった。このCS10も、四面仕上げであるが、重くて大きい。約25kgあるから、ちょっとした棚では支持できない。
 ところで、肝心の音であるが、このスピーカー・システムの音質について語ることは大変むずかしい。ベスト・バイとして選んでいるのだから決して悪いものではなく初めに述べたように優秀品であるにはちがいない。では何がむずかしいかということになるのだが、音の性格について、音質と音色という2つの面に分けて語らないと説明がつかないのがこのシステムの音だろうと思う。音質と音色は本来切っては考えられるものではなく、むしろ同義語として扱ったほうが混乱はないが、ここでは便宜上分けて使わせていただくことにしたい。
 まず音質についてだが、低域から高域にかけての周波数特性ののび、そしてその性格は大変すばらしい。しいていえばごく低いところが小型密閉箱のためにやや物足りないが、通常音楽の再生にはまったく問題ないところまでのびている。途中の山谷は大変少なく、フラットに近い特性は、特定の音を強調することがない。特に高音域は並はずれた指向特性のよさとともに非常によい。歪は適確な帯域分割とユニットの設計により大変少なく、ドーム型スコーカー、トゥイーターを使っているために多くの利点をもつ。特に小型密閉箱にありがちなウーハーの音圧によるスコーカーやトゥイーターへの位相干渉は構造上まったく心配がない。3ウェイが理想的に動作して、すっきりした再生音となっている。つまり音質としては大変バランスのよいもので、物理特性として優れていることがわかる。
 次に音色的なものだが、同じような周波数特性、各種の歪率など測定データーが似ていても、音がちがうものはざらにある。特にスピーカー・システムの場合は、箱の設計、材料、工作などは微妙に音色を変える。また、この密閉型の箱にハイ・コンプライアンスのウーハーを入れたタイプ(オリジナルは米国のAR)は一種特有の音色傾向をもつ。ダンプがきいて音がきわめてしまりがよいその反面抜けが悪く、音が前へ豊かに出ないという印象もつきまとう。スコーカーがドーム型のダイレクトラジエーションによるものだけに歪は非常に少ないが、派手な音圧感がない。つまり、ユニットのタイプによっても音色がちがうことも事実である。コーン型、ホーン型、ドーム型など、それぞれちがった音色傾向をもっていることは事実である。
 このようにスピーカー・システムの音についての評価はむずかしいが特にCS10はむずかしい。それはいいかえれば、あまりにも他のスピーカーと異った次元の音の良さがあるからかもしれない。私の好きなスピーカー・システムとして推薦するが、決して派手さや、刺激性のある音ではないことをお断りしておく。使用ユニットといい箱といい、ふんだんにぜいたくをした最高級品である。

アルテック 419A

菅野沖彦

スイングジャーナル 1月号(1968年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 アルテックといえばオーディオに関心のある人でその名を知らぬ人はあるまい。アメリカのスピーカーといえば、アルテックとジムランの名がすぐ浮ぶ。ジムランはもともとアルテックから分れた会社で、アルテックがプロ用機器をもっぱら手がけジムランが家庭用を主力にしていることもよく知られている。もっとも、このプロ用と家庭用なる区別は、なにによってなされるのかははなはだ不明瞭であって厳重な規格や定義があるわけではない。しかし、現実にその両者の差は優劣ということではなくて、製品のもっている特長、個性に現れているといってよいだろう。
 ところで、スピーカーというものは、音響機器の中でももっともむづかしいものであることはたびたび書いてきた。つまり、優劣を決定するのに占める物理特性のパーセンテージがアンプなどより低いのである。直接空気中に音波を放射して音を出すものだけに使用条件や音響空間の特性も千差万別で、そうした整備統一も容易ではない。そして音質、音色の主観的判定となると実に厄介な問題を包含しているわけだ。それだけに、業務用、一般用という区別はスピーカーにとって大きな問題とされる。業務用スピーカーといえばモニター・スピーカーといったほうが早く、モニター・スピーカーとはなにか? という論議は時々聞かれる。
 モニター・スピーカーはよくいえば基準になり得る優れた特性のスピーカーというイメージがあるし、逆にひねれば味もそっけもない音のスピーカーというイメージにもなるのではないか。
 この辺がモニター・スピーカーとは何かという論議の焦点だ。私としては、モニター・スピーカーと鑑賞用スピーカーの区別は音質や音良の面ではつけるべきではなく、良いスピーカーはいずれにも良いと考えている。強いてモニター・スピーカーに要求するとすれば、許容入力であって、少々のパワーでこわれるものはモニターとしては困る。実演と同次元で再生することが多いから、かなりの音量をだすことが必要なのである。ただし、許容入力は常に能率とのバランスで見るべきで、同じ20ワットの入力でも能率が異れば出しうる音量はまったくちがってくる。この点、アルテックのスピーカーはすべて大変能率がよく、許容入力も大きい。絶対の信頼感がある。そしてさらにその音質は音楽性豊かというべき味わいぶかいものだ。
 今度発売される419Aというユニットは30cmの全帯域型で、きわめて独創的なものだ。バイフレックスといって2つのコーンが一体になったような構造で1000Hzをさかいに周波数を分担している。この2つのコーンはそれぞれ異ったコンプライアンスと包角をもっており、さらにセンターにアルミ・ドームのラジエターで高域の輻射をしている。これは30cmスピーカーとしては小型なパイプダクト式のキャビネットに収められ〝マラガ〟というシステムとして発売されるという。
 私の聴いたところでは実に明晰な解像力をもっていて音像がしっかりときまる。固有の附随音が少く、抜けのよいすっきりとした再生音であった。マッシヴなクォリティは他のアルテックのスピーカーに共通したものだ。また能率のずばぬけてよいことも特筆すべきで.大音量でジャズを肌で感じるにはもってこいのスピーカーであろう。モニターとして鑑賞用として広く推薦したい製品。
 欲をいうならば最高域が不足なので、同社の3000HトゥイーターをN3000Hネットワークと共にブラスすると一段と冴えると思う。

ラックス SQ505

岩崎千明

スイングジャーナル 1月号(1968年12月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 昭和のごく初めのラジオが普及期を迎える頃から、戦前の電蓄大流行の時期は今日のステレオ大全盛期と同じように多くの国内の新進メーカーが隆盛をきわめた。その中にあって、高品質のスイッチ、端子類、ソケットの類のメーカーで規模は大きくないが、ひときわ有名だった錦水堂というキャリアの長いメーカーが関西にあった。このメーカーはトランスをも手掛けていた。このトランス類を初め、全商品ともかなり高価であったが、みるから豪華な神経の行き届いた仕上げのたまらない魅力であった。私の家に戦前直前、つまり昭和16年頃作られたと思われる錦水堂と銘うった多接点のロータリー・スイッチがあるが、引張り出して確かめたら30年後の今だに接点不良を起すことなく、使用に耐えそうである。この錦水堂こそ、今日のラックスなのである。
 高品質という言葉はいろいろな意味を持っているが、ラックスのアンプの場合は特に信頼度が高いという点が強いようだ。
 ラックスのステレオ・アンプにSQ5Bというのがあるが、これは昨年末やっとカタログから姿を消したが、過去8年間にわたって、ままりステレオが始まってから、ずっと作られていたという日進月歩の電子業界にあって、まったくまれな存在の驚くべき製品であった。これも高い信頼性の裏付けであろうが、こんな例はラックスではちょっとも珍しくはない。SQ38Dというアンプもそうだ。今から4年前の製品で、しかも今なおマイナー・チェンジを受けたSQ38Fが現存し、管球式のステレオ・アンプとして貴重な存在にある。昭和初期からのラックスのポリシーは、ステレオ全盛の今日なお輝きを失っていない。トランジスター・アンプが各社からぞくぞく発表されるや、管球アンプで「もっとも頼りになるアンプ」う送り続けてきたラックスの、トランジスター・アンプが待たれた。それが1昨年末発表されたSQ77Tであり、そのデラックス・タイプが、301であった。SQ301は、管球アンプの音を、トランジスター・アンプによって実現すること技術を集中したと伝えられた。それは当時の他社のトランジスター・アンプとはかなり異った音色で、それが、ファンだけでなく専門家の耳さえも賛否の両論に別かれさせた。これはSQ301の存在が、アンプ界において大きなウェイトを占めていたからにほかならない。
 ’68年後期、つまり昨年の後半になってやっとラックスも今までにない意欲的な姿勢を示した。それがSQ505、606アンプの新シリーズの発表なのである。この新製品は、まさにラックスのイメージを一新した。ここには今までの、のれんを意識した老舗の感覚は見当たらない。しかし今までの永いキャリアは、全体の貫禄の中にずっしりと感じることができる。だがパネルにおけるデザイン、アンプ全体の仕様はまるで違う。フレッシュだ。まるでジムランのインテグレイテッド・アンプSA600にあるような、センスのあふれる仕上がりだ。パネルやつまみのつや消しや磨き仕上げの良さにもその新しいセンスがみられ、しかもスイッチの感覚に昔からの技術的神経の細かさが指先を伝わってくる。このアンプの音は前作得スキュー301とはかなり違う。もっと澄んだ音で、301をソフト・トーンとすればかなりクリアーな感じである。しかし、それでも他社のアンプとくらべると暖かさを感じる。いわゆる真空管的といわれているウォーム・トーンだ。
 つまりラックスのアンプに対する音楽的良心はフレッシュなセンスのSQ505にも少しもがけりなく光っているのを感じる。

トーレンス TD124

岩崎千明

スイングジャーナル 12月号(1968年11月発行)
「ベスト・セラー診断」より

「縁(円)の下の力持ち」という言葉がぴったりのハイ・パートがターンテーブルだ。事実ハイ・ファイ装置がそのすばらしさを発揮しようとすればするほどターンテーブルは重要となる。装置が高級なら高級なほど、その性能を十分に引き出すためにターンテーブルが重要になってくる。
 さて、10数年近く前のことだったが、あるスピーカーの大メーカーの定例コンサートで用いるアンプに初めてOTLを使用したことかある。OTLアンプがメーカーによって公開の場で鳴らされた最初のことだった。大出力真空管を10数本並べたそのアンプは、今までになく高性能を発揮し、とくに超低域のものすごい底力には目をみはったものだった。低音出力が落ちるトランスがないためであるが、そのアンプを試聴したときに当時の市販ターンテーブルはすべてゴロが出て使いものにならなかった。その時点において海外製品もすべて失格であった。そのメーカーのYは有能なのでベルト・ドライヴ・モーターを作ってコンサートは無事終ったように記憶する。
 セットが高級化すればするほど、保守的で伝統的な技術によって作られる部分でありながら、性能の向上が求められる部分といえる。
 ステレオ時代になり、レコードの水平方向に加え垂直方向にも音が吹き込まれるようになり、ターンテーブルの性能はさらに高度なものが望まれるようになる。そしてベルト・ドライヴ機構が高級品の常識にさえなってきた。さらに最近は〝2重ターンテーブル〟が新技術として注目されてきている。
 この2重ターンテーブルは、小口径の軽いメインテーブルが、ベルトドライヴされそのテーブルの上にドーナッツ状の重い大口径テーブルが乗ることになっている。これにより、モーター軸が太くなるので、ベルトに力が加わりトルクが増し、しかもモーター軸が極所的にぴっぱることがなくなるので、ベルトの部分ののびがなくなる。さらにターンテーブルの外周部分だけが重いのでフライホイール(はずみ車)効果も大きく、機構的、動作的に理想といえる。これが今まで国内製品で実現しなかったのは、2つのターンテーブルがぴったり合うのがむづかしくまた経年変化により外側がそったりしてしまうことであった。
 さてこのすぐれた機構を最初に実現したターンテーブルこそ、スイスのトーレンス社のTD124である。しかもこのターンテーブルはなんと1950年代の後期、つまり今から10年前に製品化されているのである。
 トーレンスTD124はさらに大きな技術を内蔵する。そのひとつは、モーター軸がベルトをドライヴするのではなく、一度アソビ車(アイドラー)を介してベルトをドライヴしている点である。つまり、これによりモーター自体の振動は2重に吸収され弱められる。それからもうひとつは2つのターンテーブルの上にさらに軽金属のプレートが乗っていて、これがインスタント・ストップ(瞬間停止)のときちょっと動くことにより、メインテーブルの回転と関係なく停止できうる点だ。このサブ・プレートの入っているおかげでカートリッジの磁界の影響を防ぐことができるのも大きな利点である。
 67年末より、外部分の重量級テーブルも軽金属にかえられII型と改められた。これで、いかに強いマグネットのカートリッジを用いても、テーブルの金属を吸引して針圧が変るという欠点も完全に解消した。
 ヨーロッパを廻ると、各国のスタジオで業務用として使用されるトーレンスTD124をしばしば見かけるという。今後もプロ用、高級マニア用として、ますます注目を集めるターンテーブルであろう。

サンスイ AU-555

岩崎千明

スイングジャーナル 11月号(1968年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 山水が、67年度ハイ・ファイ市場のベスト・セラー・アンプである傑作AU777を曹及型化したAU555を発表したのは、今春であった。そして、ちょうど同じ時期に、米国ハイ・ファイ市場で長期的なベスト・セラーを約束されたARのアンプが日本市場に入ってきた。
 この2つアンプはいろいろな意味で、それぞれの国民性をはっきりと表わしている点で、同じ普及型アンプながら対照的といえる。
 もっともARのアンプは、米国市場でこそあのあまりに著名なスピーカーAR3とともに、250ドルという普及品価格である、その点にこそ大きな価値があるのである。つまりコスト・パーフォーマンスの点でずばぬけているのであるが、日本市場では、ともに10万をかるくオーバーする高価格な高級品としてみなされており、その本来の価値がどこにあるのか見うしなわれてしまっている。しかし、本国では平均的月収の1/2〜1/4程度のあくまで普及品なのである
 さて、ARのアンプであるが、ARの創始者であり今春の組織変えまでの中心であり社長であったエドカー・ヴィルチャーの完全な合理主義にのっとった厳しい技術の集成である。そこには、スピーカーにみられると同じの、不要な所は徹底的に省略し、必要な所はとことんまで追求して費用も惜しみなくつぎこむという、いかにもきっすいの技術者根性がむき出しにみられる。そして、そのパネル・デザインは無雑作で、かざりひとつないみがきパネル、そこに5つのつまみが、デサインもなしにといいたいほど無造作に並ぶ。しかし、このつまみの間かく、大きさまで使いやすさを計算したものに違いないことは扱ってみて納得できる。もっともニクイ点は、スピーカー・システムAR3とつないだときに最大のパワー60/60ワットをとりだすことができる点であろう。
 しかし、ここであえて断言しよう。暴言と思われるかも知れないが。もしARのアンプの日本価格が半分になったとしても日本市場では、ARのアンプは売れることはないだろう。歪なく、おとなしい、優れた特性だけでは日本のマニアは承知しないのである。ARのスピーカーが圧倒的に高い信頼性を得ている日本においてもである。
 その解答が、AU555にある。AU555をみると国こそ違うが、それぞれの市場においてほぼ同じ地位にある2つのアンプのあり方の違いが、そのままその国のマニアの体質の違いとか好みを表わしていることを発見する。
 AU555には、ARアンプのような大出力はない。ほぼ半分の25/25ワットである。しかし、その範囲でなら0・5%という低いひずみは実用上ARアンプにも劣るものではなかろう。
 しかも、ARと違って入力トランスのない、つまり位相特性のすぐれた回路構成とフル・アクセサリー回路がマニアの好みと市場性をよく知ったメーカーらしく、AU777の爆発的な売れ行きのポイントが、この3万円台のアンプにも集約されているのをみる。
 25/25ワットの出力も日本の家屋を考え、サンスイのスピーカーの高能率を考慮すると、ゆとり十分といえよう。加えて、プリ・アンプとパワー部が独立使用できる点も、マルチアンプ化の著しい日本のマニア層の将来をよく見きわめたものといえよう。そのひとつがダンピング・ファクター切換にもみられる。2組のスピーカー切換と6組の入力切換はマニアにとって、グレード・アップのステップを容易にしよう。最近、さらにこのAU555と組み合せるべきチューナーTU555が出たが、共に今後当分の間、中級マニアにとってもまた初歩者にとっても嬉しいアンプであるに違いなかろう。

コーラル BETA-10

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1968年10月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 コーラル音響といえば日本のオーディオ界では名門である。昔は福洋音響といって、スピーカー専門メーカーとしての信頼度は高かった。数々の名器はちょっと古いアマチュアならば記憶されているだろう。私自身、当時はずい分そのスピーカーのお世話になった。型番はもううろ覚えだが、たしかD650という61/2インチのスピーカーは大いに愛用した。810という8インチもあった。当時はインチでしか呼ばなかったが今でいう16センチ、20センチの全帯域スピーカーであった。トゥイーターもH1いうベスト・セラーがあった。福洋音響は当時のハイ・ファイ界のリーダーとして大いに気を吐いたメーカーだ。そして最近コーラル音響という社名に変更し住友系の強力な資本をバックに大きく雄飛しようという意気込みをもってステレオ綜合メーカーとしての姿勢を打ちだしてきている。
 ところで、そのコーラル音響から新しく発売されたユニークなスピーカーがBETA10である。BETAシリーズとして8と10の2機種があるが、主力は10だ。まずユニットを一目見てその強烈なアマチュアイズムに溢れた容姿に目を見はる。白色のコーン紙。輝くデュフィーザー。レンガ色のフレーム。強力なマグネットは透明なプラスチック・カヴァーで被われている。これはマニアの気を惹かずにはおかないスタイリングで、キャラクターこそちがえ、例のグッドマンのAXIOM80のあのカッコよさに一脈通じるものを感じたのは私だけではあるまい。オーディオ製品のような人間の感覚の対象となるものについては、形も音のうちというものであり、この心理はマニアなら必らずといってよいほど持ち合わせている。形はどうでも音がよければという人もいるが、同時に、まったくその反対の人さえいる。コーラルがマニアの気質をよく心得て、細部にまで気をつかって、いかにも手にしたくなるようなスピーカーをつくったことは、今後のこの社の積極的な姿勢を感じさせるに充分で、事実、その後、かなり意欲的なデザインによるアンプも発売されている。
 さて、BETA10の音はどうか。それを書く前に、スピーカーというもののあるべき姿にについて述べておかなければなるまい。音響機器中、スピーカーはもっとも定量的に動作状態をチェックしにくい変換器である。つまり、直接空気中に音を放射するものだけに、使われる空間の音響条件は決定的に影響をもたらす。装置半分、部屋半分ということがいわれるが、たしかに部屋が音におよぼす影響はきわめて大きい。これは録音の時のホールとマイクロフォンの関係に似ていて、電気工学と音響工学の接点であるだけにさまざまなファクターを内在しているわけだ。理論的な問題は別として、ある音源に対して最適なマイクロフォンを無数のマイクロフォンの中から選択して使っているというのが現状だが、これは、いかに問題が複雑で、理論や計算通りにいかないかを物語っているものであろう。マイクロフォンは使う人の感覚によって選ばれる。それに似たことがスピーカーにもいえる。スピーカーほど感覚的に選ばれる要素の強いものはない。それだけに選びそこなったら大変で、正しいバランスを逸脱することになる。BETA10こそは、まさにそうした危険性と大きな可能性を秘めたスピーカーであり、たとえてみれば暴れ馬である。その質はきわめて高く大きな可能性を秘めている。しかし、うっかり使うとたちまち蹴飛ばされる。使いこなしたらこれは大変魅力的なスピーカーだ。その点でも、これは完全に高級マニア向の製品で、これを使うには豊富な経験と知識、そしてよくなれた耳がいる。我と思わん方は挑戦する価値がある。こんなに生命感の強く漲ったタッチの鮮やかな音はそうざらにない。

フィデリティ・リサーチ FR-1MK2

菅野沖彦

スイングジャーナル 11月号(1968年10月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 フィデリティ・リサーチ、略してFRというイニシアルは、マニア間で高く評価されているカートリッジ、トーン・アームの専門メーカーである。FRは社長が技術者で、会社というよりは研究所といったほうがよいような性格のため、広く大衆的な商品はつくっていない。この社の代表製品はFR1と呼ばれるムービング・コイル型のカートリッジで、昨年MKIIという改良型を発表して現在に至っている。この欄でもカートリッジを何回かとりあげ、そのたびに、再生装置の音の入口を受持つ変換器としての重要性については詳細に解説されている。そして、現状では理想的なカートリッジというものの存在が理論的には成立しても、実際の商品となると困難だというのが偽らざる実状のようである。つまり、物理特性をみても、あらゆるカートリッジがあらゆるパターンを示し、皆それぞれ専門家によって慎重に開発され製作されているのに……と不思議になるくらいである。ましてやその音質、音色となるとまったく千差万別で、どれが本当の音かは判定不可能といってもよい。一般にはレコードの音がどうであるべきかという基準がない(そのレコードを作った人でさえ本当のそのレコードの音を知ることはむずかしい)から音質や音色を感覚的に受けとって嗜好性をもって優劣を判断することにならざるを得ないわけだ。
 話は少々ややこしくなってしまったが、そういう具合で良いカートリッジというものを、いずれも水準以上の最高級品の中から見出すことはむずかしいのである。FR1MKIIは、そうした高級品の中でも、一段と明確に識別のできる良さをもっている。それは高音がよくでるとかどぎついとか、低音が豊かだとかいった、いわば外面的な特質ではなく強いて表現すれば透明な質といった本質的な音のクォリティにおいてである。FR1の時代には、かなり外面的な特長もそなえていて、音の色づけ、いわゆるカラリゼイションを感じさせるものがあった。それにもかかわらず質的なクォリティの良さを高く評価されていたのだが、MKIIとなってからは、そうしたカラリゼイションも一掃され本当に素直な本来のクォリティが現れてきた。そしてつけ加えておかなければならないことは、FRT3というトランスの存在についてである。ムービング・コイル型は出力インピーダンスが低く、一般のアンプのフォノ入力回路にはトランスかヘッド・アンプを介して接続しなければならない(例外もある)。これがMC型のハンディで、そのヘッド・アンプやトランスの性能が大きく問題とされた。せっかく、本来優れた変換器であるMC型が、その後のインピーダンス・マッチングや昇圧の段階で歪を増加させたのでは何にもならないからである。同社が最近発売したFRT3というトランスはコアーとコイルの巻き方に特別な設計と工夫のされた恐しく手のこんだもので、その歪の少なさは抜群である。FR1MKIIはFRT3のコンビをもってまったく清澄な音を聴かせてくれるようになった。FRT3は他のMC型カートリッジに使っても、はっきりその差のわかる歪の少ないもので、少々高価ではあるけれど、マニアならその価値は十分認められるであろう。
 FR1MKIIの音は恐らくジャズ・ファンの中には物足りないと感じられる人もいるかもしれない。しかし、そう感じられる人は、きっと歪の多い、F特の暴れた装置の音で耳ができた人だと断言してもよいと思うのである。私が優秀だと思うカートリッジはすべて、そういう傾向をもっているが、それは決して何かが足りないのではなく、何も余計なものがないのである。そして、そうしたカートリッジから再生される音はやかましくはないけれど、迫力がないということは絶対にない。これはぜひ認識していただきたいことだ。

トリオ TW-31

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1968年9月発行)
「ベスト・セラー診断」より

 自動車業界はいま米国のビック・スリーの攻勢を受けてこれに対決すべき態勢を迫られている。というニュースはもうおなじみになっている。その結論は自動車マニアならずとも少なからず気になるが、このなかで問題の焦点となるのがロータリー・エンジンのマツダと、4サイクルエンジンの技術で世界を相手にすでに定評をとっているホンダであろう。ロータリー・エンジンの方はその成果がこれから出てきて始めて結論が得られるのであるが、ホンダの方はすでに例の360ccがヨーロッパを始め世界的好評を集めている。このホンダ360の爆発的ともいえる成功からして、ビック・スリー上陸に対しても、技術で立向う一匹狼の気構えだ。
 そこにはかって零戦を生み、ハヤブサを例に上げた日本的な技術、制限された中でギリギリまで力を発揮し、驚異的な高性能を引き出すあの日本的な技術を発見する。そして、それとまったく共通な技術をクルマだけでなく、ハイファイ・ステレオの世界にも見出すことができる。それがトリオTW31だ。そして、おもしろいことに、ソ連がステレオを自国で普及したいため、ステレオの技術を日本から輸入ないしは提携を明らかにするとハイファイ専門メーカーの中からただトリオ一社のみが大規模メーカーに連らね名乗りを上げている。
 こんなところにも技術を売るホンダと共通な「技術のトリオ」を感じさせるのである。
 トリオのTW31が発売されたのは67年初めであった。その時点で、すでにTW61が日本市場でも爆発的な売行きを示していた。日本市場でもというのは、その2年ほど前から米国市場でTW61は、例のトリオ・ケンウッド・ブランドではなく、バイヤーズ・ブランドで圧倒的な売行きを続けてきたのである。米国市場で好評であったので、それを日本市場でも売ろうというやり方はハイファイ・ステレオ・メーカーだけではなく、他の多くのメーカーがしばしば用いる安全な販売手段である。
 そのTW61は普及価格で高級アンプなみのアクセサリーと性能をもっている点で、またその性能も価格から信じられないほどのパワーフルな高性能であった。
 日本市場の人気は海外から〝がいせん、デビュー〟したTW61の華をみごとに飾った。
 TW61のヒットを見て、日本市場のためにさらにその弟分として急拠、開発されたのがTW31である。そこには、TW61の「普及価格でありながら、高性能を備えた高級イメージのポピュラーな製品」という新らしい路線がさらに一段と凝結し、煮つめられた形で、具現化しているのである。
 TW61のつまみを2つ減らし、パネルを30%ほど小さくしたが、イメージとしてはTW61をくずしてはいない。23、000円台の低価格からは思いもかけない各チャンネル17ワットという大出力が得られる設計は、トランジスタアンプに早くから踏み切っていた開発技術とハイ・ファイの本場米国市場に長年輸出実績をもつ量産技術の結晶ともいえよう。性能からぎりぎりのトランジスタを用いるのは価格を押えられている以上余儀ないところだが、その力をいっぱいに引き出すことに成功しているのが、この31の大きなポイントになっていると考えられる。
 TW31の出現は、ハイファイをポピュラーなレベルの層にぐっと引きおろし点にあろう。TW31の発売によって、今まで価格の点で見送っていたハイファイ・ファンもその希望をアンプから実現し得たことになり、その意義は大きい。