Category Archives: 筆者 - Page 181

サテン M-18E

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サテンのカートリッジは、もっとも古いモノーラル用のモデルであるM−1以来、独自のポリシーのもとに、鉄芯を使用せず、ステップアップトランスも不要な、高出力MC型一途に、製品を送り出している。
 最近では、久しぶりに沈黙を破って、M−117を発表したが、今回の新製品、M−18は、M−117をベースとして発展させたモデルではなく、逆に、M−117のプロトタイプとして、M−117に先だって開発されたモデルである。
 サテンのムービングコイルは、三角形に巻かれているために、いわゆる、オムスビ型をしたスパイラル巻きであるが、M−18、M、117ともにダ円形のスパイラル巻に変更され、コイルが磁束を切る有効率が1/3から1/2に増し、M−117でも、質量は1/2と半減している。
 新シリーズは、カンチレバーの支持方法が、従来のテンションワイヤーによるものから、二枚の板バネとテンションワイヤーを組み合わせたタイプに変わり、カンチレバーは、二枚の板バネとテンションワイヤーの中心線の交点を支点として支持されるため支点は厳密に一点である。これにより、従来は不可避であったカンチレバーの軸方向まわりの回転運動がなくなったことが、新しい支持方式の大きなメリットである。また、コイルを保持し、カンチレバーの動きをコイルに伝えるアーマチュアも、大幅な改良が加えられ、50μの厚みのベリリュウム銅でつくったアーマチュアとコイルとの結合部がループ状になっており、電磁制動が有効に使えるタイプになっている。
 サテンのMC型は、針交換が可能なことも、忘れてはならない特長である。新シリーズは、交換針を本体に取付ける方法が、従来のバネによるものから、MC型が必要とする磁石の磁力によって交換針を保持する方式に変わった。
 M−18は、M−117の高級機であるために、精度が一段と高まり、ムービングコイルが、さらに軽量化されている。M−18シリーズは、4モデルあり、0.5ミル針付のM−18、ダ円針付のM−18E、0.1×2.5ミル・コニック針付のM−18Xと、コニック針付で、カンチレバーにベリリュウムを使ったM−18BXがある。
 試聴したのは、M−18シリーズのスタンダードとも考えられる、M−18Eである。MM型では、負荷抵抗による音の変化は、ほぼ、常識となっているが、MC型でも、変わり方が異なるとはいえ、負荷抵抗によって、音量が変化し、出力電圧も変化する。サテンでは、負荷抵抗として30Ω〜300Ωを推奨しているが、50kΩでも可とのこともあって試聴は、一般のカートリッジと同様に50kΩでおこなうことにした。
 M−18Eで、もっとも大きな特長は、聴感上のSN比がよく、スクラッチノイズが、他のカートリッジとくらべて、明らかに異なった性質のものであることだ。M−18の音は、文字で表現することは難しく、周波数帯域とか、バランスといった聴き方をするかぎり、ナチュラルであり、問題にすべき点は見出せない。ただ、いい方を変えれば、いわゆるレコードらしくない音であり、例えば、未処理のオリジナルテープの音と似ているといってもよい。他のカートリッジであれば、レコード以後のことだけを考えていればよいが、M−18Eでは、レコード以前の、いわば、オーディオファンにとっては見てはならぬ領域を見てしまったような錯覚をさえ感じる。この音は、誰しも、素晴らしい音として認めるが、使う人によって好むか好まざるかはわかれるだろう。

「アダージョ・ドルチェ」

黒田恭一

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

瀬川冬樹様

 今日、お宅できかせていただいた音、あの音を、もしひとことでいうとすれば、さわやかさという言葉でいうことになるでしょう。今日はしかも、冬にしてはあたたかい日でした。そよかぜがカーテンをかすかにゆらすなかできかせていただいた音は、まさにさわやかでした。かけて下さったレコードも、そういうとにふさわしいものだっと思いました。やがて春だなと思いながら、大変に心地よい時をすごさせていただきました。あらためてお礼を申しあげたいと思います。ありがとうございました。
 普段、親しくおつきあいいただいていることに甘えてというべきでしょうか、そのきかせていただいたさわやかな音に満足しながら、もっとワイルドな音楽を求めるお気持はありませんか? などと申しあげてしまいました。そして瀬川さんは、ワーグナーのオペラ「さまよえるオランダ人」の合唱曲をきかせてくださいましたが、それをかけて下さりながら、瀬川さんは、このようにおっしゃいました──さらに大きな音が隣近所を心配しないでだせるようなところにいれば、こういう大音量できいてはえるような音楽を好きになるのかもしれない。
 たしかに、そういうことは、いえるような気がします。日本でこれほど多くの人にバロック音楽がきかれるようになった要因のひとつに、日本での、決してかんばしいとはいいがたい住宅環境があるというのが、ぼくの持論ですから、おっしゃることは、よくわかります。音に対しての、あるいは音楽に対しての好みは、環境によって左右されるということは、充分にありうることでしょう。ただ、どうなんでしょう。もし瀬川さんが、たとえばワーグナーの音楽の、うねるような響きをどうしてもききたいとお考えになっているとしたら、おすまいを、今のところではなく、すでにもう大音量を自由に出せるところにさだめられていたということはいえないでしょうか。
 なぜ、このようなことを申しあげるかといいますと、今日きかせていただいた音が、お書きになったものからや、さまざまな機会におはなしして知った瀬川さんと、すくなくともぼくには、完全に一致したものと感じられたからです。まさにそれは、瀬川サウンドといえるもののように思われました。
 ぼくはいまだかつて(ふりかえってみますともうかなりの回数お目にかかっているにもかかわらず)、瀬川さんが、馬鹿笑いをしたり、声を尖らしたり、つつしみにかけたふるまいをなさったりするのに接したことがありません。ぼくのような、血のけが多いといえばきこえはいいのですが、野卑なところのある人間にとって、そういう瀬川さんは、驚きの的でしたが、今日、その瀬川さんの音をきかせていただいて、なるほどと、ひとりでうなずいたりいたしました。きかせていただいた音にも、馬鹿笑いをするようなところとか、声を尖らすようなところとか、あるいはつつしみにかけたふるまいをするようなところは、まったくありませんでした。敢てそのきかせていただいた音を音楽にたとえるとすれば、短調のではない、長調の、そう、ヴィヴァルディのというより、テレマンのというべきでしょう。緩徐楽章の音楽ということになるかもしれません。そこには、それにふれた人の心をなごませるさわやかなやさしさがあるように思えました。
 タバコをすわない瀬川さんのお部屋には、タバコのみの部屋の、あのなんともいえないやにくささがまったく感じられませんでした。それがはじめわからなくて、なんとも不思議な気持がしました。そのタバコのやにくささの感じられないことが、さらに一層、きかせていただいた音のさわやかさをきわだたせていたということも、いえなくはないのかもしれません。もしぼくは経済的に余裕があったら犬を沢山飼ったりするのかもしれませんが、瀬川さんだったらきっと、そういう時、ばら園をつくられたりするのかもしれないと思ったりいたしました。そのようなことを考えさせる瀬川さんの音だったといえなくもないようです。
 お忙しくて、まだ、ぼくの家においでいただけないでおりますが、いつか、機会がありましたら、ご一緒にレコードでもききながら、おはなしできたらと思います。ただ、そのためには、おいでいただく前にぼくは、空気清浄器を購入して、部屋のタバコのけむりでにごった空気をきれいにしておかなくてはなりません。
 今日は、瀬川さんの音をきかせていただいて、胸いっぱい深呼吸をしたような気持になり、今、とてもさわやかな気持です。ありがとうございました。

一九七六年一月十四日
黒田恭一

「アンダンティーノ・グラチオーソ」

黒田恭一

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

山中敬三様

 ともかく山中さんのお宅にうかがったら、生きた状態にあるすごい名器の音をきかせていただけるから──と、編集部の人にいわれていたので、期待に胸はずませて、うかがいました。聴覚的にも、視覚的にも、期待をはるかにうわまわるもので、音の美味を、心ゆくまで堪能させていただきました。ありがとうございました。美食家であるがゆえに超一流の料理の腕をもつ方の手になるごちそうでもてなしていただいたような気持になりました。
 弦楽器の、特に低い方の、つややかな、そして腰のすわった音に、まず、びっくりしました。本当にいい音ですね。とげとげしたところが全然なく、なめらかで、しかも響きには、それ本来ののびやかさがあるように感じられました。
 そういう音をきかせていただいた後だったので、山中さんの、かつてのベルリン・フィルはよかったけれど……とおっしゃる言葉をきいて、なるほどと思いました。オーケストラを、少しはなれた、つまりコンサートホールで申せば特等席できいているような気持になりました。響きが津波のごとくききてめがけておしよせてくるということはなく、オーケストラの音が、多少の距離をおいたところで美しく響いているという印象を、ぼくはもちました。それは、言葉をかえて申しますと、あからさまに、そしてむきだしになることを用心深くさけた、節制の美とでもいうべき美しさをもった音ということになるかもしれません。
 かけて下さったレコードも、山中さんの、そういうきかせてくださった音から感じとれる美意識を、裏切らないものだったと、ぼくには思えました。それはすべて、ごちそうになったブランデーのように、充分に時間をかけて醸成されたもののみがもつこのましさをそなえていたともいえるでしょう。
 そのよさは、いかにあたらしものずきのぼくにも、わかりました。つまりそこには、ほんもの強さがあったということでしょう。ただ、かつてのベルリン・フィルはよかったけれど、今のベルリン・フィルも、また別の意味ですごいと思っているぼくが、山中さんのきかせてくださった音に心ひかれたとすれば、それはぼくにとってはなはだ危険なことということになります。ぼくはどうも、あいからわず、今の音楽を、今の音で追い求めたがっているようです。誤解のないように申しそえておきますが、この場合、今の音楽と申しても、現代音楽だけ意味しません。現代の演奏家による、たとえばベートーヴェンをも含めてのことです。
 その時つかっている装置によってきくレコードがかなり左右されると山中さんはおっしゃいましたが、そのお考えに、ぼくもまったく同感です。オーディオ機器のこわさは、こっちがつかっていると思っていたものに、結果としてつかわれてしまっていることがあるところにあると思います。ですからぼくは、正確には、今日きかせていただいた音を、山中さんの音というではなく、今の山中さんの音というべきなのかもしれません。
 今日は、耳をたのしませていただいただけでなく、きかせていただいた音や、うかがわせていただいたおはなしから、いろいろ勉強させていただきました。これまでぼくのオーディオについての考えの一部をあらため、さらにおしすすめることができたような気がいたします。その意味でも、お礼を申しあげなければなりません。
 お部屋で拝見した機器は、どれもこれも、文字通りの超一流品ばかりで、中には、はじめて目にしたものもすくなからずありました。一流品には、当然のことに、一流品ならではのよさがありますが、一流品ばかりがそろっている場所には、とかく、これみよがしな、ひどく嫌味な気配がついてまわるものですが、そうしたものがまったく感じられなかったのは、多分、山中さんが一流品だからということで集められたのではなく、それぞれの機器に充分にほれこんでお部屋にもちこまれ、しかもそれらを生きた状態でおいておかれるからだろうと、ぼくなりに了解いたしました。
 ただ、アンプにしろ、プレーヤーにしろ、機械というものを生きた状態でおいておかれるのは、さぞ大変な努力が必要でしょうね。アンプのパネル面など、すぐにタバコのやにでうすよごれてしまうのに、山中さんのところのアンプはどれもこれも、とてもきれいだっことが印象に残っております。今もなお、山中さんという音の美食家がきかせて下さった音のおいしさを思いだし、舌なめずりをしております。ありがとうございました。

一九七六年二月二日
黒田恭一

「瀬川氏の再生装置について」

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
特集・「オーディオ評論家──そのサウンドとサウンドロジィ」より

 瀬川氏のリスニングルームには、二組のスピーカーシステムがあり、それぞれヨーロッパとアメリカを代表する中型の業務用モニターシステムであるのが大変に興味深い。
 KEF LS5/1Aは、英国系の最近のモニタースピーカーの見せる傾向を知るうえでは典型的な存在である。エンクロージュアのプロポーションが、横幅にくらべて奥行きが深く、調整室で椅子に坐ったときに最適の聴取位置となるように、金属製のアンプ台を兼ねたスタンド上にセットしてある。このシステムをドライブする標準アンプは、ラドフォード製の管球タイプのパワーアンプで、アンプ側でスピーカーシステムの周波数特性を補整する方法が採用されている。
 ユニット構成は、38cmウーファーとセレッション系のトゥイーターを2本使用した変則2ウェイシステムで、一方のトゥイーターはネットワークで高域をカットし、中域だけ使用しているのが珍しい。38cmウーファーは、一般に中域だけを考えれば30cmウーファーに劣ると考えやすいが、KEFの場合には38cm型のほうが中域が優れているとの見解であるとのことだ。このシステムは比較的近い距離で聴くと、驚くほどのステレオフォニックな空間とシャープな定位感が得られる特徴があり、このシステムを選択したこと自体が、瀬川氏のオーディオのありかたを示すものと考えられる。
 JBLモデル4341は、簡単に考えればモデル4333に中低域ユニットを加えて、トールボーイ型エンクロージュアに収めたモニタースピーカーといえ、床に直接置いて最適のバランスと聴取位置が得られるシステムである。ユニット構成は、2405、2420ドライバーユニット+2307音響レンズ付ホーン、2121、2231Aの4ウェイで、中低域を受持つ2121は、ユニットとしては単売されてはいないが、コンシュマー用のウーファーLE10Aをベースとしてつくられた専用ユニットと思われる。
 かねてからJBLファンとして、JBLのユニットでシステムをつくる場合には、必然的に4ウェイ構成となるという見解をもつ瀬川氏にとっては、モデル4341の出現は当然の帰結であり、JBLとの考え方の一致を意味している。それかあらぬか、システムの使いこなしについては最先端をもって任ずる瀬川氏が、例外的にこのシステムの場合には、各ユニットのレベルコントロールは追込んでなく、メーカー指定のノーマル位置であるのには驚かされた。なお、取材時のスピーカーはこのモデル4341であった。
 アンプ系はスピーカーシステムにあわせて2系統が用意されている。1系統は、マークレビンソンLNP2コントロールアンプとパイオニアEXCLUSIVE M4、他の1系統は、LP初期からアンプを手がけておられる富田嘉和氏試作のソリッドステート・プリアンプとビクターJM−S7FETパワーアンプとのコンビである。プレーヤーシステムは、旧タイプのTSD15付EMT930stと、ラックスPD121にオーディオクラフトのオイルダンプがたトーンアームAC−300MCとEMT TSD15の組合せであり、テープデッキは、アンペックスのプロ用38cm・2トラックのエージー440コンソールタイプを愛用されている。

ヤマハ NS-690(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ヤマハのスピーカーの名声を決定的にしたのがこのNS690だ。あとからのNS1000Mが比類ないクォリティで登場してきたので、この690、やや影が薄れたかの感がなきにしもだが、やや耳あたりのソフトな感じがこのシステム特長となって、それなりの存在価値となっていよう。30cm口径の特有の大型ウーファーは、品の良さと超低域の見事さで数多い市販品の中にあって、最も品位の高いサウンドの大きな底力となっている。ドームの中音、高音の指向性の卓越せる再生ぶりは、クラシックにおいて理想的システムのひとつといえる。このヤマハのシステムの手綱をぐっと引きしめたサウンドの特長が大へん明確で組合せるべきアンプでも、こうした良さを秘めたものが好ましいようだ。
 ヤマハのアンプが最もよく合うというのはこうした利点をよく知れば当然の結論といえ、CA1000IIはこうした点から、至極まっとうなひとつの正解となるが、あまりにもまとも過ぎるといえる。その場合、ヤマハのレシーバーがもうひとつの面からの、つまり張りつめた期待感と逆に気楽に音楽と接せられる、ラフな再現をやってのける。

スピーカーシステム:ヤマハ NS-690 ¥60,000×2
プリメインアンプ:ヤマハ CA-1000II ¥125,000
チューナー:ヤマハ CT-800 ¥75,000
プレーヤーシステム:ヤマハ YP-800 ¥98,000
カートリッジ:(プレーヤー付属)
計¥418,000

サンスイ SP-4000(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 春以来LMシリーズがヒットしてサンスイのブックシェルフのイメージが盛り上ってきたこの秋、力のこもった強力な新シリーズが鮮烈に加わった。SP4000とSP6000だ。このシリーズの特長ともいえる高音ユニットのホーン構造からも判るとおりユニット各部に対し、質の高さを追求しことがポイントで、LMとは違って音質の面、ひとつぶひとつぶの音のパターンの明確さという点で俄然確かさが感じられる。その質感は、あるいはJBLのそれとも相通ずるものだ。つまり強力なマグネットを源にしてパワフルなエネルギーがあっての成果だろう。この場合、実は組合せにおいてはかえってむずかしくなるもので、例えばJBLのシステムがその用いるアンプのくせを直接的に表出してしまうのとよく似ている。
 つまり音がむき出しになりやすいので、この辺をいかにまとめるかが、一般の音楽ファンの好む音へのコツといえる。サンスイのFETアンプBA1000は、この場合最も容易に結論へ導いてくれることを期待してよかろう。ややソフトな中域の再生ぶりがSP4000の引きしまった良さととけ合うのは見事だ。

スピーカーシステム:サンスイ SP-4000 ¥49,800×2
コントロールアンプ:サンスイ CA-3000 ¥160,000
パワーアンプ:サンスイ BA-1000 ¥89,800
チューナー:サンスイ TU-9900 ¥89,800
プレーヤーシステム:サンスイ SR-525 ¥44,500
カートリッジ:エンパイア 2000E/II ¥16,500
計¥500,200

ビクター JS-55(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ビクターのグレート・ヒットFB5はこのメーカーのそれ以来の路線に少なからず影響を与えたようだ。JS55はFB5のユニットの特長をそのまま拡大したようなサウンドとクォリティとで、そのパワフルな再生ぶりはとうていブックシェルフ型のそれではない。つまり音響エネルギーの最大限度が異例に高いためであろうか、力強さは抜群だ。
 このずば抜けた量感あふれるエネルギーは中域から低域全体を支配して音楽のポイントを拡大して聴かせてくれるのだ。ややきらびやかな高域も現代の再生音楽のはなやかさにとっては必要なファクターといえよう。
 このスピーカーを引き立たせるには、たとえばセパレートアンプも考えられるが、より力強さを発揮する新型JA−S91に白羽の矢をたてた。ここでは音の鮮度を重視して、暖かな響きを二の次にしたからだ。つまり、あくまで生々しく間近にある楽器のソロのサウンドを捉えようとしたのだ。FB5のエネルギッシュな音にくらべてやや控え目ながらここぞというときに輝かしいサウンドがJS55からは存分に味わえるに違いない。JA−S91はこのとき本領を発揮する。

スピーカーシステム:ビクター JA-55 ¥46,500×2
プリメインアンプ:ビクター JA-S91 ¥130,000
チューナー:ビクター JT-V71 ¥59,800
プレーヤーシステム:ビクター JL-F35M ¥37,500
カートリッジ:(プレーヤー付属)
計¥320,300

ソニックス AS-366(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ソニックスは海外でよりその名を知られた最もポピュラーなスピーカー専門メーカーで、その作るブックシェルフ型は価格対品質、あるいは実質的投資という点で他社に先がけてきた。クォリティ一辺倒というよりもその価格帯でのユニット構成という点でも優れる。大型システムにも匹敵するスケールの大きなサウンド、やや華麗な中域の充実感などが全体的な特長だ。
 その中の中級品種ともいうべきAS366は最も重点的な主力製品だけに一段と充実した内容で、用途の一般的な広さからも誰にも奨められる。
 そこでこのシステムをもっとも高いレベルでの再生を考えるとアンプにはやはり相当の品質のものを組み合わせるべきだ。トリオのKA7300は全体にKA7500を格段に上まわるすばらしい質とエネルギーとを、ステレオアンプとして最も理想的なモノーラル2台にわけたといえるほどのセパレーションで実現している。中音から低音の定位の抜群な良さを示す。このアンプのもつ可能性は同じスピーカーでもひとけた違ったグレードにまでも高めてくれるのには目を瞠る。マイクロの超低域までの安定したサウンドと共に、全体の完成度はきわめて高い。

スピーカーシステム:ソニックス AS-366 ¥41,800×2
プリメインアンプ:トリオ KA-7300 ¥65,000
チューナー:トリオ KT-7500 ¥48,000
プレーヤーシステム:マイクロ DD-7 ¥74,800
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS155-17 ¥8,700
計¥280,100

パイオニア CS-T5(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 パイオニアのブックシェルフ型の新たな流れがこのCS−T5、T3だ。今までにない積極的な前に出る音をはっきりと狙い見事な形で聴く者に迫るサウンドがこの新シリーズの大きな特長で、今までのパイオニアのスピーカーになかったサウンドでもあるのだ。
 このスピーカーが加わることの音楽へのアプローチの拡大ははかり知れぬ。
 もし、このスピーカーをジャズ向きだなどと評するものがいるとしたら、それは音楽の真の聴き方を知らないといわれそうだ。つまりあらゆる音楽が、それを知れば知るほど身近に欲しくなるものだ。そうした欲望はなにもジャズに限ったことでは決してない。
 つまり、オーディオマニアが音楽ファンになったときに欲しくなる音をCS−T5は提供してくれる。
 その鳴らし方はそれこそ聴き手の求め方次第だが、最もオーソドックスな形としてSA8900またはSA9800というこの一年間ベストセラーを続けた製品を指定しておこう。パワーのゆとりがあればトーンコントロールで望む音へのアプローチは大きく拡大されるし、しかもこの入手しやすいスピーカーの価格を考えると、好ましい価格のアンプだから。

スピーカーシステム:パイオニア CS-T5 ¥29,800×2
プリメインアンプ:パイオニア SA-8900 ¥78,000
チューナー:パイオニア TX-8900 ¥65,000
プレーヤーシステム:パイオニア PL-1250 ¥45,000
カートリッジ:ADC Q32 ¥9,000
計¥256,000

JBL D44000 Paragon(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 あらゆる意味でステレオ用スピーカーとして、世界に唯一の存在ともいえるのが、JBLレインジャーシリーズの主役たるパラゴン。得意な形態は、その中音域に対する理想的拡散器の役目を果す大きく湾曲した反射板によるものだ。中音は外観から一目瞭然だが、低音も高音もホーン型で構成される点、今や珍しい存在である。だが、f特ひとつ考えても「軸上1m」という測定条件の設定さえも不可能なことから判る通り、現代のスピーカー技術とは明らかに違った志向の所産である。この点がパラゴンの真の特長でもあるし、その価値判断の別れ道ともなる。
 こうしたホーン構成の3ウェイであるためか、音色バランスの特異な点が使用上むずかしい問題点となり、しばしばその良さが十分に発揮されることがない。JBLのオリジナルにおいて「エナジャイザー」SE408パワーアンプを組合せる場合にも、独特のイコライザーボードを挿替えて400Hz以上をオクターブ6dBで上昇させたり、超低域のダンピングを変えたりしている。事実このバランスは、組合せるべきパワーアンプが難しいようだ。この例は自信をもって奨められる数少ない組合せだ。

スピーカーシステム:JBL D44000 Paragon ¥1,690,000
コントロールアンプ:クワドエイト LM6200R ¥760,000
パワーアンプ:パイオニア Exclusive M4 ¥350,000
プレーヤーシステム:トーレンス TD125MKIIAB ¥141,000
カートリッジ:エレクトロ・アクースティック STS555E ¥35,900
計¥2,976,900

クリプシュ KB-WO Klipsch Horn(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 50年代初期から、米国の高級スピーカーシステムにクリプシュホーンあるいはKホーンとしてこのコーナー型折返しホーンがしばしば採用されてきた。65年をきっかけにして、エレクトロボイス・パトリシアンを始めKホーンは他社のブランドとして見ることがなくなったが、オリジナルブランド、クリプシュの名で、このひとつの理想といわれるホーン型エンクロージュアを採用したシステムが米国市場で年を追うごとに名を轟かしてきた。今日のクリプシュホーンは比較的シンプルな構造ながら、ホーン効果としては優れた小型のフロア型ラ・スカラが特によく知られているが、クリプシュホーンその名のままの最高機種がもっともオーソドックス、かつ真髄を伝えるオリジネーターとしての価値と品質を秘めている。
 独特の38cmウーファーは、適度の高いコーン紙をもち、まさにホーンのドライバーとして作られたものだ。中音用には米ユニバーシティの中音ドライバーユニットを独特のホーンに組合せ、同じ米ユニバーシティの高音用ユニットとの3ウェイ・ホーン型システムとして高い完成度を得ている。
 スケールの大きなその外観の豪華さは、まさに雄大かつパワフルで鮮明なその音を思わせるたたずまいといえる。
 50年代以来20数年を終えた今日もなおその優秀なサウンドクォリティは、僅かたりとも色褪せることなく、ブックシェルフ型になれた耳にはフレッシュな感激を強烈に感じさせる。あまり広帯域再生を狙ったものではなく、音色的には中低域の重視が感じられ、ハイエンドもローエンドも十分に延びている現代的システムとは明らかに異なる意図を持ったシステムだ。しかしこの強力なサウンドエネルギーのもたらす生々しい迫力は、他にない魅力だ。
 高能率なだけにあまり高出力でなくとも十分にゆとりのある再生を得られるが、できることなら高出力アンプが望ましい。質のよい管球アンプなどが、このホーンシステムの真価をますます発揮してくれるであろうが、ここではそうした面の良さを音色的にも質的にも持つラックスの高級セパレート型アンプを組合せてみよう。
 クリプシュホーンの良さを理解するに違いない高級マニアなら必ずや納得してくれる疲れを知らない品の良さと親しみを得るサウンドが、オーディオ機器の存在感を拭い去り、心ゆくまで音楽に没頭させるであろう。

スピーカーシステム:クリプシュ KB-WO Klipsch Horn ¥656,000×2
コントロールアンプ:ラックス C-1000 ¥200,000
パワーアンプ:ラックス M-4000 ¥330,000
チューナー:ラックス T-110 ¥96,000
プレーヤーシステム:エンパイア 598III ¥226,000
カートリッジ:(プレーヤー付属)
計¥2,184,000

JBL L300(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBLの久しぶりの家庭用フロア型の大型システムが出た。前面を僅かに傾け角を落した奥行きの十分ある箱は、今までにない重量だ。そのずっしりした重量感から重低音の力強さは予測できるが、期待をさらに上まわり量感あふれる低音エネルギーがこのL300の最大の価値であろうか。ほぼ同じユニット構成ながらモニターの4333との違いも、フラットながらこの低音エネルギーに片寄っている所は、家庭用再生システムに対するJBLの志向を物語って興味深いが、音楽を楽しめる点で好感と親しみとを強く感じさせる。
 こうした音楽と直結した「音」を、もっとも活かそうと心したとき、新技術の結晶とでもいい得る最新のアンプジラは最適だ。音を知り抜いたハイセンスのサウンドは今日での頂点ということができ、ぜひL300に試みたい組合せであるといえるであろう。
 L300の登場した現代のオーディオ・シーンの状況下で、高品質のトランジスター・ハイパワーアンプこそもっとも適切な組合せであることは当然だ。鮮度の高い中域の充実感を考えるとき、最新技術を背景にしてより魅力あるサウンドを得られるに違いない。

スピーカーシステム:JBL L300 ¥520,000×2
コントロールアンプ:GAS Thaedra ¥610,000
パワーアンプ:GAS Ampzilla ¥499,000
プレーヤーシステム:トーレンス TD160C ¥98,000
カートリッジ:ピカリング XUV/4500Q ¥53,000
計¥2,280,000

エレクトロボイス Sentry III(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 スピーカーメーカーとしてののれんと規模で第一級の、イーストコーストの大メーカー、エレクトロボイスのシステム。かつてパトリシアンという豪華型を出していた、このEVは一貫して低音の雄大かつ量感が、その目指すサウンドスペクトラムの特長をなしている。高さ88cmの大型フロア型システム、セントリーIIIは、38cmウーファーをバスレフレックスの箱に収めて低音用とし、ホーン型の中音用、ホーン型高音の3ウェイで、ずば抜けた低音感と中域の豊かな迫力とがエレクトロボイス社の伝統的サウンド志向を意識させる。低音を、ホーンエンクロージュアとしたセントリーIVにくらべて、ずっとローエンドを拡大しゆとりを感じさせるが、このシステムを動かすにはパワーのゆとりのある高出力アンプこそ絶対的条件といえる。ある意味でJBLの最新スタジオモニター同様に、低音域は、ジャンボ・ブックシェルフと考えられる。このオーソドックスながらパワフルなエネルギーを秘めたシステムは、アンプの質がよいほどその良さを発揮してくれそうで、最近評価を高めているオーディオ・リサーチの管球式アンプを組合せることにしよう。

スピーカーシステム:エレクトロボイス SentryIII ¥355,000×2
コントロールアンプ:オーディオリサーチ SP3A ¥285,000
パワーアンプ:オーディオリサーチ Dual 76 ¥420,000
ターンテーブル:マイクロトラック Model 740 ¥165,000
トーンアーム:マイクロトラック 226S ¥36.000
カートリッジ:スタントン 681EEE ¥28,000
計¥1,644,000

グッドマン Achromat 400(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 英国きっての名門というにふさわしいグッドマンの新しい技術と姿勢とをもっとも強く感じさせるシステムが、このアクロマット400だ。いわゆるモニター風の志向の強い3ウェイ構成の中型ブックシェルフ型システムで、そのサウンドは、一面いきいきとして音の鮮度の高い輝かしさを持ち味としながら耳あたりのよいソフトな低域から中域を秘めているともいえよう。
 このスピーカーは、ある意味では使い方がむずかしく、特長はややもすると欠点としてクローズアップされてしまうものだ。こうした点を適当にカバーしつつ、質的な劣化をきたさないために、英国を代表するQUADのパワーアンプはうってつけのようだ。
 ここでは303でなくプロ用の50Eを指向したのはアクロマット自体が、プロ指向の強いためもある。パワーの点で米国製のような強大さはないが、それ故に耐入力のあまり高くない英国製スピーカーにはぴったりだ。ややおとなしい50Eは400の輝き過ぎた高域を柔らげて耳当りのよいサウンドを得られよう。プリアンプは、米国製の中でもっともユニークなクインテセンスのシンプルな、しかしハイレベルなクォリティに期待しよう。

スピーカーシステム:グッドマン Achromat 400 ¥124,000×2
コントロールアンプ:クインテセンス Per-1A ¥218,000
パワーアンプ:QUAD 50E ¥95,000×2
ターンテーブル:リン LP12 ¥123,000
トーンアーム:SME 3009S2 Improved ¥41,000
カートリッジ:デンオン DL-109R ¥18,000
計¥838,000

ヤマハ NS-1000M(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ベリリウムを素材としてダイアフラムに採用し、理論と技術との両面から達成したまれにみるデバイスは日本のスピーカーの世界に対する誇りでもあろう。クリアーで鮮麗な響きがこの高いレベルの再生を物語り、アタックのまざまざとした実感は、ちょっと比べものがないくらいだ。品の良さに力強さが融合したヤマハの新たなる魅力だろう。
 大型のブックシェルフともいうべきこの1000Mは、ウーファーの量感もあって、豊かさを感じさせる見事な再生ぶりがひとつの極限とさえいえる。ただこのためには、アンプは高出力かつハイクォリティを条件とすることになるが、この点で、ヤマハの誇るFET採用アンプBIは、まさに1000Mの女房役として切っても切れない存在といえよう。
 プリアンプにはあらゆる点で、オーソドックスな良さを持つCI、またはより高い鮮度と純粋さを音に感じるC2が適切。好みからいえばC2といいたいのだがマニアの多様性、一般性からはより高級で、壮麗なサウンドのCIというところだろう。プレーヤーは使い勝手とデザインの両面から考えてB&Oを選ぼう。

スピーカーシステム:ヤマハ NS-1000M ¥108,000×2
コントロールアンプ:ヤマハ C-I ¥400,000
パワーアンプ:ヤマハ B-I ¥335,000
プレーヤーシステム:B&O Beogram 3400 ¥140,000
カートリッジ:B&O SP12 ¥19,000
計¥1,110,000

エレクトロリサーチ Model320(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBL以後の第三世代というべき超広帯域再生と低歪を追求するスピーカーの志向の中で、米国製としてひとつの代表が、このエレクトロリサーチのスピーカーシステムだ。
 ハイエンドからローエンドまで、完璧なフラットレスポンスをきわめ、しかもハイパワーに耐える点で英国に代表されるヨーロッパ製とは一線を画すいかにも米国製らしい魅力だ。
 このスピーカーはエレクトロリサーチの中級機種に相当するが、使用アンプは、でき得る限りハイパワーが好ましく、しかも高い品質はむろんだが今や国産の中にそうした意味でも可能性あふれる製品が目白押しだ。その中の注目株ナンバーワンは、パイオニアの新型の77シリーズのセパレートアンプであろう。価格面から若いファンにも手ののばせるレベルで、しかも内なるクォリティは倍の価格にも匹敵しよう。パワー250W/chは、この低能率ながらパワフルなスピーカーのための製品といえるほどだ。組合せるべきカートリッジにより、あらゆるジャンルの音楽を内包させ得よう。シュアーは、この点で気楽に奨められるが、ここでは、最高級品のV15タイプIIIを挙げておこう。

スピーカーシステム:エレクトロリサーチ Model 320 ¥98,500×2
コントロールアンプ:パイオニア C-77 ¥120,000
パワーアンプ:パイオニア M-77 ¥180,000
プレーヤーシステム:ソニー PS-8750 ¥168,000
カートリッジ:シュアー V15 TypeIII ¥34,500
計¥699,500

ソナーブ OA-12(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 このスピーカーの良さはちょっと一言では表わせない。いうならば、広範囲に拡散された音の壁面に反射する間接音が、室内の広さ以上に、音響空間を拡大してくれ、生の音楽の現場としてのホールのプレゼンスが見事。米国製スピーカー〝ボーズ〟のようなエネルギー的なものよりも雰囲気としての再生ぶりが思いもよらぬすばらしい効果をもたらす。
 このソナーブのシステムではこうしたいわゆるオーソドックスな再生サウンドとは異質な、例のない雰囲気の再生ぶりに気をとられて、つい再生の本質的クォリティを見失いがちになってしまうものだ。
 そこでまず、なによりも純粋な形でのクォリティを狙うべきである。そうしたとき、ヤマハのCI、BIは価格的に誰にも奨められるわけではないにしても、心強い存在だ。
 ソナーブの透明な美しい響きは、このCI、BIの鮮明度の高い豊かな色彩で、より高い音楽性をひきだし得よう。楽器のパワフルなソロをのぞむというのでなければ、このシステムのもたらすサウンドの質のレベルの高さは、ちょっと他には得難いものであることは確かだろう。

スピーカーシステム:ソナーブ OA-12 ¥178,000
コントロールアンプ:ヤマハ C-I ¥400,000
パワーアンプ:ヤマハ B-I ¥335,000
プレーヤーシステム:デュアル 1229 ¥79,800
カートリッジ:オルトフォン VMS20E ¥27,000
計¥1,019,800

ダイヤトーン DS-50C(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ダイヤトーンのフロア型というだけでスタジオユースのモニターシステムのイメージが濃いが、その外形といいサウンドといい、期待を越えてマニアにとって新たなる魅力を秘めた新型といえるスピーカーだ。
 30cmのウーファーながらゆとりとスケール感はもっと大型のシステムに一歩もひけをとるところがない。しかも中音域の充実感、バランスの良い再生帯域のエネルギースペクトラム。広帯域という意識は感じさせないにしろ、モニターたり得るだけのハイエンドの延びは今日の再生と音楽の条件を十分に満足させよう。能率の高さからパワーアンプの出力はあまり大きい必要はないにしろ音離れのよい響きに迫力をも求めれば高出力ほどよいのは当然。マランツMODEL1150はその規格出力以上のパワー感をもち、こうしたときに最も適応できよう。価格を考えても国産メーカーの中でこの質に達した製品は決して多くないはずだ。中域の充実感はダイヤトーンスピーカーの持つ最大の美点だが、マランツのアンプはこれに一層みがきをかけるであろう。
 EMTのカートリッジがその質をさらに高めてくれる。

スピーカーシステム:ダイヤトーン DS-50C ¥88,000×2
プリメインアンプ:マランツ Model 1150 ¥125,000
チューナー:マランツ Model 125 ¥84,900
ターンテーブル:マイクロ DDX-1000 ¥138,000
トーンアーム:マイクロ MA-505 ¥35,000
カートリッジ:EMT XSD15 ¥65,000
計¥623,900

フィッシャー ST-550(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 かつては全米ナンバーワンの規模を誇るアンプメーカーとして、フィッシャーは米国内ハイファイ業界の良識派を代表するものであった。創始者が交替した今日、フィッシャーはアンプメーカーとしてよりもブックシェルフ型スピーカーのメーカーとしての姿勢を強めているが、そのサウンド志向はアンプメーカーだった場合と何ら変ることなく、代表的イースト・コースト派としてヨーロッパ指向の強いサウンドを身上とする。
 ST550は、その最高級ブックシェルフ型としてはもっとも大型で38cmウーファーを収め、全指向性を狙って左右に配した中音、高音のドーム型ユニットが特徴だ。耳あたりの良いソフトな音色バランス、ボリュウムを上げていくと底なしの重低音に、ブックシェルフ型で或ることを忘れさせてしまうほど強力かつ雄大で、品の良い中域以上の弦の美しさも特筆できよう。
 つまりクラシック音楽、それもオーケストラなどにもっとも力を発揮しそうだ。ここではフィッシャーのサウンドのセンスあふれる高いクォリティを活かそうと、豊じょうな良さを秘めるケンソニックのM60を組合せイーストコースト志向を意識した。

スピーカーシステム:フィッシャー ST-550 ¥249,000×2
コントロールアンプ:アキュフェーズ C-200 ¥165,000
パワーアンプ:アキュフェーズ M-60 ¥280,000×2
チューナー:アキュフェーズ T-101 ¥110,000
プレーヤーシステム:デュアル 701 ¥118,000
カートリッジ:オルトフォン M15E Super ¥31,000
計¥1,482,000

クライスラー Lab-1000(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 糸づりダンパーというグッドマン・アキシオム80と同じ技術を採用した30cmウーファー、同じくフリーエッジの中音用の強力なドライバー、さらに平板ダイアフラムという独特なる技術を具えたユニットを組合せて3ウェイ構成のブックシェルフ型に相当すべき大型フロア型システム。マルチセルラーホーンを中音、高音に用い、その高音ユニットを内側に向けるという奇抜なアイデアながら、かつモニターユースにもなり得るクォリティを確保した高水準の安定度をサウンドに感じさせるのはロングセラーのキャリアからか。
 いかにも音ばなれのよい響きの豊かさが、このラボシリーズの大いなる特徴といえるが、それをなるべくシンプルな純度の高い形で発揮させることがカギであろう。
 国産の高級アンプの中で、ひときわその純粋さを形、内容ともに感じさせるのがテクニクスの最新セパレートアンプだ。この音と価格は、ちょっと比類ない魅力としてマニアの多くが関心をもつに違いあるまい。クライスラーの高い可能性を発揮するのに、もっとも適切なベストのひとつであると思う。ダイナベクターのMC型高出力カートリッジも見落せぬ魅力だ。

スピーカーシステム:クライスラー Lab-1000 ¥139,000×2
コントロールアンプ:テクニクス SU-9070 ¥70,000
パワーアンプ:テクニクス SE-9060 ¥85,000
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1500 ¥49,800
カートリッジ:ダイナベクター OMC-3815A ¥18,000
計¥500,800

KEF Model 104(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 最近の英国を代表するスピーカーメーカーとしてKEFは、わが国でも人気上昇中だが、この104はこれまでのシリーズを一段と質的に練り上げたシステムとして有名だ。
 英国のスピーカーは、ともすれば耐入力の点で心配が残るのだが、このシステムは比較的大きなサウンドエネルギーをとり出すことができそうだ。しかし、やはり米国製ブックシェルフ型のARやKLHなどとは数段に違うので十分な注意が必要だ。
 極端なハイファイ志向の音というよりは、音楽を楽しめる音という表現ができるような耳当りのよい音だ。小音量でクラシックの小編成曲を聴くときの魅力は注目でき、バロック音楽などを十分楽しむことができよう。やはり英国の音というにふさわしい印象をもったシステムといえる。
 ここでは非常に質の高い再生音を目標とし、きめの細かさと高出力を兼ねそなえたラックスL309Vを使うことにした。ここでも高出力の威力を十分発揮してくれる。カートリッジは、スピーカーと同じく英国のデッカMKVとして、中高音の粒立ちを一層きめ細かく再生してくれよう。シームは当然インターナショナルだ。

スピーカーシステム:KEF Model 104 ¥79,000×2
プリメインアンプ:ラックス L-309V ¥148,000
ターンテーブル:ラックス PD121 ¥135,000
トーンアーム:デッカ International Arm ¥25,000
カートリッジ:デッカ Mark V ¥25,000
計¥491,000

ウエストレイク・オーディオ TM2(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 JBLのユニットを用いていながらJBLブランドでないところに、このウェストレークの特長があるのだが、その中心となるのは中高音用のユニットとして用いているホーンがトム・ヒドレーのオリジナルホーンである点だ。設計者の名をそのまま冠したこのホーンは、JBL2397をそのままの形でふたまわりほど拡大したような、大型の木製ホーンで、ドライバーユニット2440と組合せ、クロスオーバー800Hz以上を受けもっている。
 JBLのプロフェッショナル用大型スタジオモニター4350と外形がよく似た大型のバスレフレックス箱に収めた2本のJBL38cmウーファーは、初期において2215を採用していたがごく最近は変更したとも伝えられる。JBL4350が、2ウーファーの4ウェイであるのに対して、ウェストレークは、2ウーファー3ウェイ。それは中音の強力なオリジナルホーンで達成されたともいえる。
 高音用として2420ユニットをホーンなしで、そのまま高域ユニットとしているが、磁気回路を貫通する8cmの長さの小さな開口のショートホーントゥイーターといえる。
 このようにJBLのユニットそのものを、ひとひねりして用いているが、4350と価格面ではほぼ同じにあるので、この両者の比較は大変興味をひかれることだろう。もっとも4350も、ごく最近、その特長となるべき中低音用ユニットを変更すると伝えられていて、本当の勝負はこのあとになろう。
 ウェストレークを活かすには独特の中音域ユニットをいかにしてより効果的に鳴らすかという点にかかりそうだ。プロフェッショナルユースとしてのこのシステムを、あらゆるかたちで追い求めるとしたら、マランツの新型パワーアンプこそ、もっとも適切だろう。ハイレベルでも、家庭用としても、音楽の美しさを凝縮してくれよう。プリアンプとして3600は確かにひとつのベストセレクトには違いないが、プロのみのもつ最高レベルのSNを、ここではぜひ欲しい。家庭用としてのポイント、ダイナミックレンジの飛躍的拡大を考えれば、SNのよいプリアンプが要求され、クワドエイトのプロ技術で作られた、小型ミクシングコントロールにフォノ再生仕様を加えたLM6200Rが、今日考えられる最高と断じてもよかろう。カートリッジは、プロ用機から生れた103Sを使うことにしよう。

スピーカーシステム:ウェストレーク TM2 ¥1,200,000×2
コントロールアンプ:クワドエイト LM6200RI ¥760,000
パワーアンプ:マランツ Model 510M ¥525,000
ターンテーブル:デンオン DP-5000F ¥78,000
トーンアーム:デンオン DA-305 ¥19,000
カートリッジ:デンオン DL-103S ¥27,000
計¥3,809,000

アルテック X7 Belair(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 アルテックブランドには数少ないブックシェルフ型のシステム。特に日本市場を意識しての企画だけに、その音色を練りあげて、極めてスムーズなバランスの良さが明快なアルテックサウンドの上に構築されている。
 25cmのウーファーは市販品種ではないが、ドーム型のトゥイーターは、最新の市販ユニットだ。やや大型のブックシェルフ型の背面には、アルテックのマークも鮮かな、本格的な独立製品そのままのネットワークが埋め込まれているのが、このシステム全体の価値を大きくしているのは見逃せない。
 いかにもアルテックらしいスケールの大きな堂々たる低音のゆとりは、極端なローエンドの拡大を狙ったものではないが、量感のすばらしさは、この価格とは信じられぬほどだ。暖かい感触の中音、鮮明でスムーズな高音。音楽のジャンルを選ばぬ高い水準の音質は、組合せるべきアンプさえ得られれば、家庭用としてひとつの理想を成すに違いない。ここではパワフルな響きに分解能の卓越した再生ぶりを期待して、マランツの最高品質のプリメインを組合せる。心地よく、やや甘さのあるアルテックの音は格段の力を加えるに違いない。

スピーカーシステム:アルテック Belair ¥78,800×2
プリメインアンプ:マランツ Model 1150 ¥125,000
チューナー:マランツ Model 125 ¥84,900
プレーヤーシステム:テクニクス SL-1350 ¥90,000
カートリッジ:ピカリング XV15/1200E ¥26,700
計¥484,200

Lo-D HS-400(組合せ)

岩崎千明

コンポーネントステレオの世界(ステレオサウンド別冊・1976年1月発行)
「スピーカーシステム中心の特選コンポーネント集〈131選〉」より

 ハイファイ・スピーカーのもっともむずかしい面はクォリティの管理にあるといえるが、日本の電気メーカーとして、常にオリジナル技術で先頭を切ってきたLo−D技術陣は、HS500を通して得たこの至難の問題点を真正面から取り組んで「信頼性」「寿命」さらに「生産性」をも一挙に解決すべく、メタル・サンドウィッチのスチロール系のコーンを開発した。
 大型のHS500がこの開発の土台となったが、HS400はこの新デバイスを量産製品に実現したという点で、世界に誇るまさに画期的製品だ。特有の音響的なピークを電気的共振型で除くという点を危ぶむ声もないわけではないが、実質的に特性上なんらの支障もないということで成果は製品を聴く限り表面化していないのも確かである。たいへん活々として再生ぶりが前作HS500との相違点で、広帯域に亘る極めて低歪再生ぶりはまさにそのものといえよう。組合せるべきアンプによって生命感溢れるサウンドは躍動しすぎになりかねないので無理な再生を狙うとき、ほどほどに押えが必要かとも思われる。日立のアンプV−FETを採用したHA500Fはこうしたときにうってつけ。

スピーカーシステム:Lo-D HS-400 ¥47,800×2
プリメインアンプ:Lo-D HA-500F ¥89,800
プレーヤーシステム:ソニー PS-3750 ¥47,800
カートリッジ:(プレーヤー付属)
計¥275,600

KEF Model 5/1AC, JBL 4341

瀬川冬樹

ステレオ別冊「ステレオのすべて ’76」(1975年冬発行)
「オーディオの中の新しい音、古い音」より

 イギリスのBBC放送局で、1968年までは全面的に、そして現在でも一部のスタジオでマスターモニターとして活躍しているLS5/1AはKEFの製品で、BBCの研究員と協力してその開発に携ったのがKEF社長のレイモンド・クックである(本誌昨年版参照)。このスピーカーの音の自然さは他に類をみないが、現時点では耐入力及び音の解像力に多少の不満がある。KEFでは約二年前に、同じスピーカーユニットでマルチアンプドライブ式に改造し、MODEL 5/1ACという型番で新らしいスタジオモニターを完成させた。初期の製品は内蔵パワーアンプの歪やノイズの点で不満があったが、今年9月、R・クックが再来日の折に私の家まで携えてきた改良型のアンプに入れ変わって以後の製品は、明らかにBBCモニターを凌駕する音質に改善された。JBLと同じく冷徹なほどの解像力を持ちながら、JBLがアルミニウムのような現代的な金属の磨いた肌ざわりを思わせるならKEFは銀の肌、あるいは緻密な木の肌のようで、どこかしっとりとうるおいがあるところが対照的で、しかもこの両者には全く優劣がつけ難い。
 JBLプロフェッショナル・シリーズのモニター・スピーカーの中で、♯4350(本誌昨年版に紹介)ほどのスケール感とダイナミックな凄味には欠けるにしても、同様に周波数レンジがきわめて広く平坦で、音のバランスのよさと音のつながりの滑らかさという点で、♯4341は注目すべき製品といえる。
 各帯域のレベルコントロールの調整や設置条件の僅かな違いにも鋭敏に反応するし、カートリッジやアンプに他のスピーカーでは検出できないような歪があっても♯4341は露骨にさらけ出してしまう。レコードにこれほど生々しく鮮烈な音が刻まれていたのかと驚嘆するような、おそろしいほど冷徹な解像力である。そういう能力を持ったスピーカーだから、鳴らす条件を十分に整えなくてはかえって手ひどい音を聴かされる。もうひとつ、スタジオでハイパワーで鳴らしても三ヶ月以上鳴らしこまないと鋭さがとりきれない。家庭で静かに鑑賞する場合は、一年以上の馴らし運転期間が必要だろうと思う。