サンスイ AU-7700

菅野沖彦

スイングジャーナル 6月号(1976年5月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 サンスイから新たに発売されたプリ・メイン・アンプAU7700は、一聴して歪のない快よい音が印象的であった。どこかうつろといってもよいような、それは、空胴感をもっているのである。私には、よくも、あしくも、これがこのアンプの音の特長に感じられる。だいたい、従来から、メカやエレクトロニクスのプロセスを通った録音再生音は、あまりにも音の存在感があり過ぎたように私には感じられてならない。色でいえば、不透明な顔料とでもいえるのだろう。一種特有の壁のように私の前に立ちふさがるのである。音には、それが自然音の場合、どんなに衝撃的な迫力のある音であっても空中を浮遊する美しい透明感と、突きあたりのない奥行、つまり立体感に満ちている。このアンプが私に与えた空胴感というのは、いわば、一種、この感覚に近いものであって、これは歪の多いアンプには絶対にないものだと思う。しかしである。自然音の魅力は、そうした透明感、空胴感は、確個とした実体感とバランスを保ったものであって、決して最近の低歪率音響機器と称せられる製品の多くが持っている弱々しい虚弱さとは異るのである。こう書いてくると、いかにも生の音とそっくりの再生音……つまり一頃よく云われた原音再生こそ理想だといっているようにとられる危険性を感じるが、私のいわんとしているのは、それが生であろうと、再生音であろうと、美しい音ならばいいわけで、現状では、自然音のもつ美しさに匹敵する再生音がまだ得られていないというだけのことである。透明感が得られたと思うと力がなくなり、力があると思うと歪感があるといった具合で、なかなか思うようにはいかないのである。このサンスイのAU7700というアンプも、どちらかというと、少々力が足りない。やや歪の多いスピーカーを鳴らしたほうがガッツのある音がする。スピーカーは未だ歪だらけだから、それを鳴らすアンプとしては今の所、解析されている歪は出来るだけ減らしていったほうがいいのである。しかし、問題は歪感のある音……つまり、元々、とげとげしい音、荒々しい音まで、ふんわりと鳴らしてしまうことである。残念ながら、現在の音響機器から、理解されている歪をどんどん減らそうと局部的に改善を重ねていくと、どういうわけか、そんな傾向へいってしまうようなのだ。その証拠に、現在、測定データで歪のもっとも少ないとされるスピーカーは、まるで無菌状態のように、ふぬけの音がするのである。改善が局部的というか片手落ちというか、トータルでのバランスをくずす結果の現象と推察する以外にない。
 このアンプは従来のサンスイのアンプのもっていた馬力というものより、むしろ、よく抜けたすっきりとした音というイメージが濃いが、この辺にサンスイのアンプの進歩を明らかに見出すと同時に、一抹の不安を感じさせられるのである。その不安は、このアンプそのものにあるのではなく、そういう傾向に進んだとしたら……ということだ。サンスイは音の専門メーカーとして、聴感上のコントロールを重視しているので、その心配はないかもしれないが……。音に関する限り、それが研究所内での実験ならいざしらず、テクノロジーだけに片寄っていくとそうした危険を伴う。そういった現状での電気音響技術の不完全性が商品に現われてしまうという事実を認めざるを得ない。現時点での最高のテクノロジーといえども、目的である音(感覚対象としての)を100%コントロールすることは出来ないのである。AU7700は、この点、両者がよくバランスしたアンプであって、商品としての実用性が高い。20Hz〜20kHzの帯域で両チャンネル駆動で50W+50Wの出力が保証され、高周波歪、混変調歪率0・1%以下に収められているが、合理的な設計が随所に見られる最新鋭器である。惜しむらくはデザインで、内容を充分に象徴するところまでには至っていない。リアの入出力ターミナルのパネルがリ・デザインされ便利になっているし、努力の跡は大いに認められるのだが、未消化な面取や無理なスタイリングが高級品に必要なシンプリシティを害している。電源の安定化(±2電源)、配線を極力排した基盤と直結のコネクター類、一点アースなどオーソドックスな技術面での追求によって得られた音質は、このアピアランスを上廻っているのである。初めに書いたように、力強さから、品位の高い透明感に近づいたサンスイの新しいサウンドは、音の美しさを一歩高い次元で把えるマニアに喜ばれるものだろう。

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