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タンノイ Berkeley

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートのひびきがうす味で、木管は軽くひびく。
❷低音弦のスタッカートに、もう少し力がほしい。
❸各ひびきをさわやかに、こだわりなく示すのはいい。
❹ここでのピッチカートは、幾分ふくれぎみだ。
❺クライマックスでのもりあがりは、一応の成果をおさめる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノは中くらいの音像で、軽いひびきできこえる。
❷音色的な対比を、うす味ではあるが示す。
❸室内オーケストラのひびきの軽やかさがある。
❹第1ヴァイオリンのフレーズには、さわやかさが感じられる。
❺とりわけ木管楽器の音色の特徴をよく示す。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶ほどほどの音像で、セリフの声もしなやかさを示す。
❷残響をひっぱりつつも、接近感をきわだたせる。
❸声とオーケストラのバランスは、無理がなく、素直でいい。
❹はった声はかたくならず、しなやかにのびる。
❺すっきりと、迫力はないが、さわやかにきける。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶左端のカウンターテナーから右端のバスが一列に並んでいる。
❷声量をおとしても言葉は不鮮明にならない。
❸残響はたっぷりきけるが、言葉の細部も一応きかせる。
❹とりわけ明瞭とはいえないが、ことさらの不満もない。
❺ひびきののびに自然さのあるのがいい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的対比が、すっきりと示されている。
❷後方へのひきが自然にとれていて、好ましい。
❸ひびきにもう少し生気がほしいが、浮遊感は示す。
❹ひびきがひろがりを感じさせて、好ましい。
❺ピークでの、迫力ということでは、ものたりない。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶暖色系のひびきながら、透明感はある。
❷ギターも、音像が小さく、奥からきこえる。
❸他のひびきの中にうめこまれ、本来の力を発揮していない。
❹きこえることはきこえるが、輝きがもうひとつだ。
❺他のひびきの中にまぎれこんでいる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶かたくひきしまったひびきを伝えない。
❷サウンドの厚みが、もうひとつすっきりと示されない。
❸ハットシンバルのひびきは、少し湿りがちだ。
❹ドラムスの音像が小さいのはいいが、力感が不足している。
❺声と他の楽器とのひびきのバランスがいい。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像はかなり大きいが、力感はさほどでもない。
❷きこえるが、部分拡大になっていない。
❸消え方を、一応示すものの、充分とはいえない。
❹力が不足ぎみなので、こまかい音の動きが幾分不鮮明だ。
❺音像的な面で、少なからず不自然なところがある。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスは、力を感じさせず、かなりふくらむ。
❷ブラスのつっこみに、鋭さがない。
❸クローズアップの感じは示すが、スタティックだ。
❹見通しがよくないので、はえない。
❺リズムに力がたりないので、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八が、かなり大きく、前の方できこえる。
❷尺八の特徴的な音色は充分に、伝わる。
❸くっきりととはいえないがききとれる。
❹大きくひびくものの、本来の迫力は感じとりにくい。
❺大太鼓の消えていく音がないので、きこえても、はえない。

テクニクス SB-5500

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートの音に力がない。オーボエよりフルートがめだつ。
❷あいまいにならないが、ひびきが腰高になっている。
❸フラジオレットの感じが十分にでているとはいえない。
❹ふくれてはいないが、ゆたかにひびいているとはいえない。
❺クライマックスでひびきがヒステリックになる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶音像は大きくないが、ピアノの音にまろやかさがたりない。
❷音色対比はついているが、とけあっていない。
❸ひびきにもう少しキメこまかさがほしい。
❹幾分これみよがしになって、せりだす。
❺各楽器のひびきを誇張ぎみにしめす。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶全体的に前にでたままになる。子音を強調ぎみである。
❷接近感はあまりない。もともと前にですぎるためか。
❸クラリネットの音色は伝えるが、声や他の楽器の音ととけあわない。
❹はった声は硬くなり、表情のコントラストを強くつける。
❺きこえることはきこえるが、効果的とはいいがたい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶横一列にならんだ感じは伝わりにくい。
❷ブレス等をきわだたせるが、言葉は鮮明とはいえない。
❸音がひとかたまりになる傾向があるのでききとりにくい。
❹各声部のからみ方は不鮮明にしか示されない。
❺ポツンと切れてはいないが、のびやかとはいいがたい。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比はかなりくっきりついている。
❷後へのひきがたりない。ひびきが平面的になりがちだ。
❸音に重量がかかりすぎていて、浮遊しているとはいえない。
❹前後のひびきのへだたりが感じとりにくい。
❺ピークでは、力づくでおしてくるようなところがある。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのかすかなひびきは、もう少ししなやかでもいいだろう。
❷ギターの音は、くっきりと、中央に定位する。
❸他の楽器によるひびきの中にうめこまれがちだ。
❹きわだってきこえるが、そのひびきにもう少し輝きがあるといい。
❺かなりめだってきこえるが、他の音とのバランスに問題がある。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ここでの12弦ギターの音の特徴が充分に示されてはいない。
❷ひびきが薄いので、かならずしも効果的とはいえない。
❸ハットシンバルの音はぬけだしてくるが、さわやかさがほしい。
❹ドラムスのアタックはとがった感じになる。声の乾きぐあいはいい。
❺言葉はたってくるが、バックコーラスのとけあい方がよくない。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力強くはあるが、ひびきのひろがりがたりない。
❷指の音だけでなく、奏者の息づかいまできかせる。
❸音の消え方がもう少し精妙に示されてもいいだろう。
❹力強いひびきをきかせるが、音の動きのこまかさは示されない。
❺サム・ジョーンズによるかげったひびきがききとりにくい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶一応の迫力は示すが、切れ味はにぶい。
❷充分につっこんでくるが、他の音がひっこみすぎる。
❸クローズアップの効果は充分に示される。
❹ひびきの目が,つんでいるので、わかりにくい。
❺ふやけてはいないが、切れが充分とはいえない。

座鬼太鼓座
❶尺八が比較的近くできこえる。距離感がでない。
❷脂っぽいとはいえないが、尺八の特徴をよく示してはいない。
❸一応きこえるが、かろうじてきこえる程度だ。
❹力強さは示されるが、ひびきのひろがりは示されない。
❺むしろ強調ぎみにきかせて、それなりの効果をあげる。

エレクトロボイス Sentry V

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶弦をはじいた強さがききとれる。幾分遠くにひびいてはいるが。
❷スタッカートに力があって、ひろがりを示し、好ましい。
❸さまざまなひびきのとけあい方がいい。
❹主旋律がたっぷりひびいて、しかも重くならないのがいい。
❺クライマックスでひびきに無理がなく、たくましくきかせる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きい。ひびきのゆたかさが特徴的だ。
❷音色的な対比はついているものの、こまやかな味わいにとぼしい。
❸たっぷりひびくが、大味とはいえない。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズとしては肉がつきすぎている。
❺各楽器の音色を幾分誇張ぎみに示す傾向がある。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶セリフの声が太く感じられ、表情を拡大する傾向がある。
❷接近感を誇張ぎみに示し、わざとらしい。
❸オーケストラと声のとけあいは多少ものたりない。
❹ロザリンデのはった声がかたくなる。
❺各々のひびきがもう少し鮮明に分離してもいい。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像はかなり大きく、声も太く感じられる。
❷言葉は、いずれにしろ、鮮明とはいいがたい。
❸残響を少なからず拡大している傾向がある。
❹バリトン、バスがせりだしぎみで、バランスはよくない。
❺たっぷりひびいて、堂々と終る。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色的、音場的な対比は、力のあるひびきで示される。
❷後へのひきはたっぷりとれている。
❸ひびきに軽さが不足しているので、浮遊感はない。
❹前後のへだたりはとれているが、ひろがりは感じとりにくい。
❺ピークでの迫力は、圧倒的で、すばらしい。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後方でのひびきに力がつきすぎている。
❷ギターの音像は、大きく、しかも力がある。
❸かなりせりだしてきこえるものの、効果的とはいえない。
❹きこえて、アクセントをつけているが、ひびきに輝きがない。
❺ききとれないことはないが、効果的とはいえない。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶くっきりきかせるが、ここでのサウンドの特徴を示さない。
❷ひびきはきわめて重厚であり、積極的だ。
❸ひびきの乾きも軽やかさもともにたりない。
❹重く大きなドラムスが、力感ゆたかにつっこんでくる。
❺声もまた、力にみちてひびいている。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶音像は大きいが、力強く、筋肉質のひびきとでもいうべきか。
❷指の動きをとびきりなまなましくきかせる。
❸消えていく音にも力強さが感じられる。
❹力強く、こまかい音の動きにも対応できている。
❺音像的な対比の上で、サム・ジョーンズが小さい。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力にみたちドラムスがつっこんでくる。
❷ブラスのひびきの押しだしもすごい。
❸きわめて積極的に、前方に力をもって押しだされている。
❹音の見通しがよくないので、トランペットはいきない。
❺重いリズムだが、力があるので、効果を上げる。

座鬼太鼓座
❶前の方できこえて、ほとんど距離を感じとれない。
❷尺八のひびきは脂っぽく、和楽器とは思えないほどだ。
❸かすかにではなく、かなりしっかりきこえる。
❹力強くきこえる。消え方も充分に伝わる。
❺きこえる。大太鼓は西洋の楽器のようなひびきがする。

ビクター SX-55N

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、あかるく、くっきり示される。
❷ひろがりが感じられる。スタッカートを強調ぎみ。
❸フラジオレットの音色を積極的に示す。
❹ピッチカートに力があり、音の動きをくっきり示す。
❺迫力はあるが、ひびきとして幾分硬質にすぎる。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は、くっきりと示される。音に力もある。
❷音色的な対比をよく示すが、多少わざとらしさがある。
❸全体にひびきがはりだしすぎるので、キメこまかさが不足する。
❹ひびきに肉がつきすぎているとでもいうべきか。
❺音色の特徴は示すが、はりだしぎみである。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶近づいてくる感じは示すが、誇張感がある。
❷残響が強調されている。声が幾分硬い。音像が大きい。
❸もう少しまろやかにひびいてもいいだろう。
❹はった声は硬い。声のまろやかさが感じとりにくい。
❺一応オーケストラの各楽器の特徴は示す。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいので、メンバーの並び方が不鮮明だ。
❷残響が誇張されるので、言葉は不鮮明だ。
❸子音が充分にたっているとはいえない。ひびきが重い。
❹きわめてかりにくい。音がひきずりがちのためか。
❺のびてはいるが、ひびきに軽やかさがたりない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶音色対比は充分についていて、しかも音に力がある。
❷クレッシェンドするのはわかるが、しのびこみ方がわざとらしい。
❸音に重みがあるので、軽やかな飛遊にはならない。
❹ひろがりが不充分。前後のへだたりも充分とはいいがたい。
❺力強い音をきくことができるが、ピークで硬くなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶充分な透明感とはいいがたい。ひろがりもたりない。
❷ギターは、もともと、かなりはりだしてきこえる。
❸くっきり、きわめて積極的にひびく。
❹充分に効果的にひびいて、アクセントをつける。
❺他のひびきの中にうめこまれる。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶12弦ギターの音が、一種のまるみをおびて、力強くひびく。
❷充分に効果的だ。積極的に音は前におしだされる。
❸もう少し乾いてもいいが、一応の成果はおさめる。
❹つっこみは、充分に力感をともなっている。声は乾きがたりない。
❺言葉のたち方、声のとけあい方には、多少問題がある。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶力にみちた音だ。スケール感も一応示す。
❷弦の上を走る指の音もききとれる。
❸音の尻尾をききとることができる。
❹こまかい音の動きは、多少あいまいになる。
❺音色の差は充分に示すが、音像の面で多少ひっかかる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶力強くはあるが、シャープとはいいがたい。
❷ブラスのつっこみは、力の輝きがある。かなり派手だ。
❸前に大きくはりだして、まことに積極的だ。
❹へだたりはかならずしも充分には示さない。
❺むしろふやけぎみだ。もう少しきりっとひびいてもいいだろう。

座鬼太鼓座
❶近くからきこえるわけではないが、距離感を示さない。
❷枯れたひびきからは遠い。かなり脂っぽい。
❸一応ききとれるが、十全にとはいいがたい。
❹スケールより迫力がきわだつ。消え方は示す。
❺ききとりにくい。雰囲気にものたりなさを感じる。

パイオニア CS-955

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 専用のスタンドが別売されているので、それに乗せたまま、左右への拡げ方と背面との距離とで最適一をいろいろ調整してみた。背面は、壁から50cm以上離す方が音離れがよく、左右に大きく開いた方がいい。レベルコントロールは、低・中・高各ユニットのつながりは指定のままがよかったが、音のバランスという面では(国産とはいえかなり高価な部類だから要求水準も自ずら高くなるが)、ベートーヴェンの序曲やセプテット、またブラームスのP協などで、たとえばラックスのアンプについているリニア・イクォライザーをダウン・ティルト(1kHzを中心に、低域をやや上げ、高域をやや抑える)にした方が、クラシックでも十分に納得のゆく(海外製品に全く劣らない)バランスが得られる。ただ、低音域で、一ヵ所、どうしても少々ドロンとした感じの残る点、そして中低域全体にもう少し肉づきや脂気が欲しいと思われる点が今後の課題だ。音色の傾向はややウェット型だが、そのためかヴァイオリンや木管の質感のよさは、国産としては極上の部類。バルバラの声もオヤ? と思うほどしっとりした味わいで、やさしさもほどよい色気も出る。パーカッションでのハイパワーにも、音のくずれが全くなく、十分に楽しめる音がする。総じてハイエンドでクセのないよく延びた鳴り方が、音のデリケートな味わいや雰囲気をとてもよく再現する。カートリッジはMC20より455Eの方が楽しめた。

ゲイル GS-401A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 国産をずっとまとめて聴いてきたあとで突然これが出てくると、やはり製品を生んだ風土──というよりそれを作った人間の音の感受性──の違いというものを思い知らされる。第一に、原音場の空間のひろがりの再現性がまるで違う。すっと眼前がひらけた感じで、かなりの音量で鳴らしても、音がかたまりにならず、音源が空間のあちこちに互いに十分の距離を置いて展開するように聴こえるので、メモをとりながら聴いていてもやかましさや圧迫感がなく、とても気持がいい。音のバランスという意味では、少し前のイギリス製品によくあった、中音域をやや抑えて低域をあまりひきしめないで甘口にこしらえてあるし、高域端(ハイエンド)を多少強調する感じもあるので、高域にピーク性のくせを持つアンプやカートリッジを避ける方が安全だ。しかし、低域の表面的な甘さにもかかわらず、オーケストラの中で鳴るティンパニなども、国産の多くのようなドロドロした音でなく、タン! と切れ味よく響くし、音量をぐんぐん上げていっても楽器の実体感がよく出て、音離れがよく各パートの動きも明瞭だ。能率が低い方なので、本気で鳴らそうとするとアンプは100W級では少々不足のこともあるが、耐入力は十分にあるので大出力アンプでも不安なくこなせる。専用のスタンドがあるのでそれに乗せて、背面は壁から少し離す方が低域の解像力が増す。レベルコントロールは高域をやや絞る方がバランスがいい。

ビクター FB-7

黒田恭一

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より
スピーカー泣かせのレコード10枚のチェックポイントの試聴メモ

カラヤン/ヴェルディ 序曲・前奏曲集
カラヤン/ベルリン・フィル
❶ピッチカートは、遠くで、鈍くひびく。
❷低音弦のスタッカートはもう少しシャープであってほしい。
❸フラジオレットの効果は示し、各楽器の音色も明らかだ。
❹主旋律はたっぷりうたわれている。
❺クライマックスで力はしめされるが、鮮明さがたりない。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
ブレンデル/マリナー/アカデミー室内管弦楽団
❶ピアノの音像は大きいが、ピアノのひびきそのものは薄い。
❷音色の特徴は、一種絵解き風に示される。
❸ひびきが総じてふくらみがちなので、さわやかさが不足する。
❹この第1ヴァイオリンのフレーズの特徴は示す。
❺ひびきに軽やかさがもうひとつほしい。

J・シュトラウス:こうもり
クライバー/バイエルン国立歌劇場管弦楽団
❶音像は大きく、残響をかなりひっぱっている。
❷子音が強調されて、表情は大きくなる。
❸音色の特徴をかなり拡大して示す。
❹はった声はかたくなりがちで、きわだつ。
❺一体になって前の方に押しだしてくる傾向がある。

「珠玉のマドリガル集」
キングス・シンガーズ
❶音像が大きいためだろう、横一列の並び方がききとりにくい。
❷声量をおとすと、ひびきの重み故か、不鮮明になる。
❸ひびきがふとりぎみで、明瞭さが薄れる。
❹各声部のからみがはっきりするためには、響きが重すぎる。
❺一応のびてはいるが、好ましい効果をあげているとはいえない。

浪漫(ロマン)
タンジェリン・ドリーム
❶ポンという低い音の方が大きくひびく。
❷後方へのひきは充分にとれている。
❸音に軽さがないので、浮遊感はでにくい。
❹ひびきの質に関係してのことだろう、ひろがりが感じられない。
❺ピークでは、迫力を示すが、とげとげしくなる。

アフター・ザ・レイン
テリエ・リビダル
❶後へのひびきはとれているが、ひびきの透明感がほしい。
❷ギターのびひきは、中央からきこえるが、音像は大きい。
❸多少ふやけすぎているためだろう、効果的ではない。
❹充分にききとれるものの、音色的なアクセントをつけてはいない。
❺ほとんど他ののひびきの中にうめこまれている。

ホテル・カリフォルニア
イーグルス
❶ギターの弦があたかも太いかのようにきこえる。
❷サウンドの厚みは示すものの、過渡にせりだしすぎる。
❸ハットシンバルのひびきはもう少しすっきりしてほしい。
❹ドラムスの音像は大きく、重くひびく。
❺声は、きわだってくっきりきこえる。

ダブル・ベース
ニールス・ペデルセン&サム・ジョーンズ
❶あたかも大きな箱の中でひびいているかのようだ。
❷指の動きは部分拡大的にきかせる。
❸音の尻尾は横にひろがってきこえる。
❹音のこまかい動きがくっきり示されているとはいえない。
❺音像的な面で両者の差が極端すぎる。

タワーリング・トッカータ
ラロ・シフリン
❶ドラムスのひびきは、重く、せりだしてくる。
❷ブラスのひびきは、かがやきに不足するものの、派手にきこえる。
❸大きくはりだしてきて、一応の効果をあげる。
❹ひびきの目がつみすぎているために、トランペットはいきない。
❺リズムの刻みが重く、めりはりがつきにくい。

座鬼太鼓座
❶尺八は大きく、なにか入れものの中でのごとくにひびく。
❷音色的には、大きな問題はなく、尺八らしさを示す。
❸かすかな音が、低い方にひろがってきこえる。
❹一応のスケール感は示されるが、力強さがほしい。
❺きこえるが、消える音との対比がないのでいきない。

ヤマハ NS-1000M

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 生産上難しい面の多かったベリリウム振動板という素材の製造技術が、次第に手馴れてきたのだろうか、初期の製品にくらべると、以前の製品のような角ばった音がそれほど気にならず、馴らしこまなくてもわりあいにおとなしい音がする。ことに高域端(ハイエンド)での共振性の音が、以前の製品よりよく抑えられていると感じた。この音をかつては〝鮮烈〟とも表現したが、こういう傾向の音が次第に増えてきたせいなのか、こちらが少々馴らされたのか、あるいは製品自体が以前よりおとなしくなっているのか、それともプログラムソースやアンプなどの歪がさらに減ってきているせいか──たぶんそのいずれもが少しずつの理由だろうが、それほど異質の音ではなくなっている。
 今回はやや低め(約20cm)の台に乗せ、背面を壁から30cmほど離して置いたときのバランスの良さは一種絶妙だった。ただ、中低音域にやや抑制が利きすぎるように思える点は従前どおりだし、重低音息にもう少し明るい弾みが欲しくもある。中~高音域では、音自体の繊細な切れ込みの良さは抜群だが、空間のひろがりの感じがもうひと息再現されるとさらに好ましいと思う。
 しかし弱音から強音に至るダイナミックレンジの広さと、やや色気不足だが音のバランスと解像力の確かさは、やはり国産スピーカーの中でも抜きん出た優秀製品のひとつだと再認識した。

デンオン SC-107

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ちょっと国産らしからぬ艶の乗った、一種気品のある響きの美しさが、あきらかにSC104の兄貴分であることを思わせる。極上とまではゆかないが、国産のこの価格帯では相当に上質な音のスピーカーといえる。えてして国産の中で、音楽を楽しませるよりも音を分析する気にさせるような鳴り方をするのが少ないとは言えない中で、つい聴き惚れさせるといってオーバーなら、ともかくいつまでも聴いていて気になる音のしない気持の良い音で楽しませてくれる、といっても良いだろう。ただ、クラシック系にはレベルコントロール(高音のみ)を-1ぐらいまでほんの少し絞った方がいっそうバランスが良くなると感じたが。
 いわゆる輪郭鮮明型でなく、耳あたりのソフトなタイプだが、しかし不必要に角を丸めるようなことはなく、プログラムソースやアンプやカートリッジの音のちがいを素直に反映し(言いかえれば好みのカートリッジやアンプを自由に組み合わせることができる)ながら、適度に暖かく出しゃばらず、音楽のカンどころを確かにとらえて聴き手に伝えるという点が、やはり残念ながらヨーロッパ製のユニットの良さだろう。
 台は低め(約20cm)で、背面は壁からやや離す方がバランスがよかった。あえていえば、もうひと息の音の彫りの深さ、音場の奥行きと空間のひろがり、音の品位、などの点が、わずかとはいえ純欧州製との違いといえる。

パイオニア CS-755

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 最近のこのメーカーの一連のアンプの音にもいえることだが(本誌42号参照)、どういう種類の音楽に対しても、良い意味での中庸をゆく一種絶妙なバランスポイントを作ることがうまい。ただしそのことは、これといった欠点も指摘しにくいかわりに、際立った特徴もないといういわば無難そのものの音になりかねない。CS755でことにクラシックを鳴らすときに、たとえばオーケストラのトゥッティでもバランスをくずすようなことのない反面、やや魅力に乏しい傾向を示す。またポピュラーでは、パワーを上げてゆくとピアノなどややカン高くなる傾向もあって、決して完全無欠な製品ではなく、あくまでもまとめのうまさで聴かせるスピーカーだということは、この価格ならとうぜんのことで、しかしそのまとめ方のうまさが、少し前のパイオニアのスピーカーには欠けていたせいもあって、ようやく安心して聴ける音が出現してきたというような感じがする。
 レベルコントロールは指定位置のままがいちばん無難。低音がやや抑えぎみ。ことに重低音の豊かさがもっと欲しいので、低め(約20cm)の台に乗せた。ただし壁に近づけると中低域で少しこもる傾向があるので、背面は30cmほどあけて、アンプのトーンコントロールで(約150Hzあたり以下だけを)やや増強するのがよかった。

トリオ LS-505

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 トリオはスピーカーずいぶん古くから市販しているが、ふりかえってみると、その音は二つの極を往ったりきたりして、音の方向づけには多少の迷いがあるようにみえる。ある時期には思い切り手綱をゆるめてよく弾みよく響く音を作るかと思うと、今回のLS505のように、抑制の利いた音を作る。低音から高音までの音の質やバランスは、かなり周到に検討されたように思えて、レベルコントロールの指定の位置のままで、クラシックからポピュラーまで、破綻なくよくつながっている。しかし音の表情をかなり抑えていて、総体につや消しのマットな質感を感じさせる。ただ、ハイパワーを加えると中音域がやや硬く張る傾向がわずかに聴きとれる。ホーン型トゥイーターの質がきわめてよいせいか、スクラッチノイズやヒス性のノイズがとても静かで耳につきにくい。むしろもう少しレベルを上げてもいいくらいだが、3段切替のスイッチで+3では少し上げすぎのようでその中間が欲しく思われる。総体に音の豊かさや弾みがもっと欲しいので、台は低め(約20cm)にして、背面を壁に近づけて左右に大きく広げて置くと、かなり量感も出て渋いながら良い感じが出てくる。アンプやカートリッジは、あまりまじめな音は避けて、455Eや4500Q、それにKA7300Dなどのような、表情の豊かでやや味の濃い組合せの方がいいだろう。

ビクター SX-55N

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ビクターの口ぐせの音の「立上り」と「響き」という、その「響き」の方をより多く感じさせる音だ。国産にありがちの押し殺したように表情の固いスピーカーのあとでこれを聴くと、どこかほっとして、音楽にはこういう弾んだ表情があるのがほんとうだと思える。その意味で音楽の本質の一面をたしかにとらえた、手馴れた作り方といえる。しかしその「響き」も、ときとして少々響きすぎるというか、総体に音を重く引きずるような粘った鳴り方をする面を持っている。そういう音は本来は暗い傾向になりがちだが、おそらく聴かせないためだろう、中~高域に明るく華やぐような色あいが加えてあって、音の重さを救っている。こうした華やぎは、ポップス系のにぎやかなリズム楽器には一種楽しい彩りを添えるが、クラシックのオーケストラの斉奏などでは、多少はしゃぎすぎる傾向を示す。
 そこでレベルコントロールをHIGH、MIDともメーカー指定の位置(最大位置=ここが時計の針で12時の位置になっている)から少しずつ(10時ぐらいまで)絞ってみた。この方が音に落ち着きが出て良いように思う。低音に関しては、台を高さ(約50cm)にした方が、粘りがとれて音が軽やかになる。アンプやカートリッジの差には敏感な方だから、本来の性格の良い面を生かすにはシュアーやエンパイア系のカートリッジや、ヤマハのアンプのような明るい音の組合せがいい。

Lo-D HS-530

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 このメーカーの製品は、置き方(台や壁面)にこまかな注意が必要で、へたな置き方をして評価すると、このメーカーからは編集部を通じてキツーイお叱りがくるので、それがコワいから、できるかぎり慎重に時間をかけてセッティングした……というのは冗談で、どのスピーカーも差別することなく、入念にセッティングを調整していることは、ほかのところをお読み下さればわかっていただけるはず。
 さてHS530は、本誌で標準に使っている約50cmの台では、少々高すぎのようで背面を壁にぴったりつけても、もう少し低音の量感が欲しく思われたので、約20cmの低い台に代えて、背面はやはり壁につける形に設置した。もう少し台を低くして低音をいっそう補いたかったが、そうすると中~高音のバランスがくずれるので20cm台であとはアンプのトーンコントロールで、ほんの少し低音を増強ぎみにセッティングした。こういう形で低音を補強しても、低音がブーミングを生じたりせずに、パワーを上げても全音域でよくバランスを保って、にごりのないきれいな質の高い音を鳴らす。まじめな性格の音なので、アンプもCA2000のようなタイプの方が統一がとれる。
 空間的な広がりや響きを表現しにくいが、しかし直接音成分自体は、相当にきちんと鳴らすタイプで、そういうせいかカートリッジもシュアーのV15/IIIをよく生かした。

ヤマハ NS-L325

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 ヤマハの作るスピーカーの音には、作る側でどの程度それを意識しているのか知らないが結果的にみると、大別して二つの流れがある。そのひとつは、NS1000MとNS500に代表される、音の輪郭の鮮明でいかにも現代的にややクールな表現をするグループと、もうひとつはNS690IIに代表される上品で行儀のよい、どこか優雅だがしかし聴きようによってはもうひとつ色気が欲しいと思わせるような製品の流れと、である。L325は、NS690の系列に属している。私のようにハメを外した人間には、このヤマハ独特の品の良さが、とてもうらやましい(自分にはとてもこういう品の良さがないというあきらめ)とともに、その反面、もう少し音の弾みや脂気や艶っぽさが、出てきて欲しいようなもどかしさをも感じる。
 そう思うような人間にとっては、アンプがCA2000ではかえって相乗効果が過剰に思えて、KA7300Dのような、そしてカートリッジもSTS455Eのような、少々味の濃い音を組み合わせてやった方が私の欲しい音に近づいてくる。SQ38FD/IIでは、アンプの音に古めかしさの面をかえって出してしまうの避けたい。
 置き方は、約20cmの低めの台で、背面は壁から20cmほど離した方がよかった。出力の大小に対する反応はとても良く、ハイパワーでも音がくずれない。優等生という表現の似合う製品だ。

デンオン SC-104

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 本誌43号で「ややポピュラー志向的に音を作っている」と書いた点をまず訂正したい。初期の製品はその傾向が強かったが、今回のサンプルは、以前にくらべてよくこなれてきたのか、クラシックからポピュラーまで、破綻の内バランスで気持よく楽しませてくれた。
 すべての音にどことなく脂の乗った照りを感じさせ、音がとてもみずみずしくよく弾むところが、国産としてはひと味ちがう良さ。どちらかといえば弦や木管やヴォーカルの暖かい丸みがよく出るタイプだが、たとえば4000D/IIIとCA2000で、メーターが振り切るまでパワーを上げてみても、パーカッシヴな音でもくずれたり濁ったりせずに音がよく延びる。またバルバラのシャンソンでは、STS455EとKA7300Dでのしっとりした情感、そして音像定位やプレゼンスの表現も、なかなか見事だし、F=ディスカウでSQ38FD/IIにしてみると、独特の声の滑らかさが生かされる……というように、カートリッジやアンプの選り好みもせずに、それぞれの良さをうまく鳴らし分ける。
 ユニットの配置は非対称だがR・Lの区別はない。約50cmの台で背面を壁につける置き方が、音の分離やシャープネスも適度に保って良好だが、そのまま台を約20cmと低くすると、低音の量感が出て総体に落ちつきを増して、私にはこの方が好ましく思えた。この価格帯では出色の佳作。

サンスイ SP-L100

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 新製品発表会当日の、新宿ショールームでのデモンストレーションでは、小粒ながら際立った新鮮な音で魅力的な印象を残した。そのあとすぐに、自宅に借りて試聴させてもらったサンプルも、基本的な印象が変らなかったので、本誌前号(第43号、161ページ)にも、ベストバイ・パーツのひとつとして推選した。
 ところが今回はどうもイメージが違う。試聴会当日のサンプルでは、周波数レンジ、とくに高音域が非常にスムーズによく延びていると感じたが、今回のものは、とりたててハイエンドが延びているというようには聴きとれない。音楽の表情を生き生きと彫り込んでゆく感じだったのがどこか表情が固い。たとえば弦や木管や女性ヴォーカルがやや骨細に聴こえる。言いかえると音の響きあるいは空間にひろがってゆくような鳴り方がもう少し欲しく思われる。
 置き方等をくふうしてみた。まず台はやや低め(約20cm)で背面は壁にぴったりつける方がよい。ポピュラー系ではレベルコントロールを指定の幅いっぱいまで上げた方がかえって音に冴えが出てくる(ただしクラシックの弦ではやかましくなる)。カートリッジは455EやオルトフォンよりシュアーのV15/IIIの方が総体にバランスがよくなるタイプ。アンプではSQ38FD/IIが非常に相性が悪く音が古めかしくこもるので、新しい傾向のTRアンプに限るように思った。

テクニクス SB-10000

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 調整の焦点があって鳴りはじめると、どのレコードをかけてもこれまでのどのスピーカーからも聴こえてこなかった(あるいは聴こえなかったような気にさせる)ような、ディテールの明瞭で繊細な音が聴き手をびっくりさせる。レコードに入っている音なら、このスピーカーで聴こえない音はひとつもないのじゃないか、という気になってくる。この一種すがすがしい清潔な、脂気のあまりない音は、これまでJBLやイギリス系の良いスピーカーで聴いてきた音と、全く世界が違う。興味深いことは、マーク・レビンソン、SAE、オルトフォン、EMT……といった欧米のパーツがここに混じると、それは逆に異分子がまぎれ込んだような、明らかに違った血が入りこんだような違和感で鳴って、たとえばEPC100CやCA2000のような、もう明らかに日本の音で徹底させてしまわないと、かえってこのスピーカー本来の良さが生かされにくいことだ。しかしこの音は、ヴァイオリンひとつを例にとっても、E線やA線はいかにも本もののように鳴らす反面、D線やG線になるともうひとつ胴の響きや太さが出にくかったり、あるいはオーボエやクラリネットの微妙な色あいがややモノトーン的に聴こえたり、実のところ私には、もっと時間をかけて(これだけは例外的に二時間あまりかけて聴いたのだが)さらに聴き込んでみたい。そして多くのことを考えさせられるスピーカーだった。

JBL L300

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 さすがにこのクラスになると、スピーカーシステムとしての格が違うという印象が強くなる。たとえば、ここまでおもに使ってきた国産4機種のアンプではもういかにも力不足がはっきりしてきて、レビンソンLNP2LとSAEシャープ2500の組合せぐらいでないと、ほんとうの良さがひき出しにくい。ただ、それではあまりに高価になりすぎる。もう少し中間のグレイドのアンプも考えられると思うが。それにしても、L65Aと同じトゥイーターがついているのに、L300になると、鳴らしこんでいないことが殆ど耳ざわりにならず、音をやわらかくくるみ込んで目立たせない鳴り方は、とてもL65Aの約2倍の価格とは思えず、この差はもっと大きいと思わせる。ブラームスP協の冒頭のトゥッティのティムパニの爆発から、もうすさまじい迫力と充実感で、それはヨーロッパのスピーカーの鳴らす自然な響きの美しさとは違ってどこか人工的な香りがつくが、こうしたクォリティの高い音にはやはり一種人を惹きつける説得力が生じる。ポップス系の良さは言うに及ばないだろうが、例えばフルトヴェングラーのモノ→ステレオ録音のようなレコードでも、十分に美しく聴かせることから、スピーカーのクォリティの大切さがわかる。ごく低いインシュレーターを介して置いた方が、音の空間的なひろがりがよく感じられるようになる。それにしてもこれはぜいたくな音だ。

アルテック Model 15

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 最近のアルテックの製品の中では、前々号のアンプテストのときに使ったモデル19にとても感心した。ほんらいアルテックのスピーカーの音には、ベル研究所からウェストレックスに至る歴史の重みに裏づけられた重厚でしかも暖かさを失わない良さがあって、古くからのレコードファンにも、どこか昔の上質の蓄音機の鳴らす音に一脈通じる懐かしさ、あるいは親しみが感じられた。さすがにA7あたりの製品には、音域的に狭さが感じられるようになってきたが、モデル19は、古くからの暖かい音の良さを維持しながら現在のワイドレンジの方向をできるとり入れて成功したスピーカーのひとつだと思った。モデル15がその弟分だということで、大きな期待を持って聴いたのは当然だ。だが、決して期待が大きかったためばかりではなく、いかに冷静に使いこなしをくふうしてみても、このスピーカーの鳴らす音は私の理解の範疇をはるかに越えてしまっている。たとえば高域端(ハイエンド)のピーク性のクセが気になるという一事にもあらわれるように、アルテックらしい暖かさまたは確信に満ちた豊かさが感じられない。とくにグラモフォン系のレコードはもう箸にも棒にもかからないという手ひどいバランスで、レベルコントロールや置き方や組合せをいろいろ変えてみても、私の耳にはどうやったら良い方向に鳴らせるのか、判断がつきかねた。

スペンドール BCIII

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 弟分のBCIIがたいへん出来が良いものだから、それより手のかかったBCIIIなら、という期待が大きいせいもあるが、それにしてはもうひとつ、音のバランスや表現力が不足していると、いままでは聴くたびに感じていた。たった一度だけ、かなり鳴らし込んだもので、とても感心させられたことがあってその音は今でも忘れられない。今回何とか今までよりは良い音で聴いてみたいといろいろ試みるうち、意外なことに、専用のスタンドをやめて、ほんの数センチの低い台におろして、背面は壁につけて左右に大きく拡げて置くようにしてみると、いままで聴いたどのBCIIIよりも良いバランスが得られた。指定のスタンドを疑ってみなかったのは不明の至りだった。ただ、本質的にはやはりモニターとしてのいくらかまじめで渋い音なので、EMTのXSD15にKA7300Dというように、やや個性の強い個性をしてみると、艶も乗ってかなり上質の音が鳴ってきた。どちらかといえばほの暗い感じの音色で、イギリス紳士的なとり澄ました素気なさもあるし、ディットン66の打てば響くというような弾みのある鳴り方はしない。バルバラの歌でも、声の暖かさや色っぽさがもうひとつ不足して、中~高域の一部にわずかに(BCIIより)不連続な面も感じられる。しかし総体にはかなりクォリティの高いスピーカーであることが今回よくわかった。

マッキントッシュ XR5

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 マッキントッシュといえば、私たちの頭の中にはやはり栄光の高級機メーカー、というイメージがまだ強い。そういうマッキントッシュに、決して安ものを作って欲しくないという気持があるせいか、このXR5というスピーカーを、あのマッキントッシュが、いったいどういう意図で世に送り出しているのかが、どうもよく解しかねる。たしかに相対的なバランスは決して悪くない。やや大きめのパワーを放り込んで、ベートーヴェンの序曲やブラームスのP協など鳴らしても、国産のスピーカーによくありがちの中~高域の硬く出しゃばったり、低域がどろどろになったりするような明らかな弱点がなく、とくにカートリッジを4000D/IIIなどにすると(意外にMC20や455Eがよくない。音がくすんで、こもる傾向)、音の粒立ちはほどよく、明るい良い音が一応は聴ける。が、やはりマッキントッシュのアンプで音作りをしているせいか、CA2000やラックス・クラスのアンプでも、どこか貧血症的な、あるいは力不足という印象が強い。それにしてはスピーカー自体の音のふくらみや脂気があまり感じられずどこかかさかさした肌ざわりで、楽器の上等の質感が鳴りにくい。適当に絞ってバックグラウンド的に鳴らしておくに悪くないが、それには高価すぎる。しかもこの価格なのに外装がビニールプリントときては、相当に失望させられる。

JBL L65A

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 まだあまり鳴らし込まれていないらしく、トゥイーターが少々きつく細い鳴り方をするので、レベルコントロール(Brilliance)を-2から-3程度まで絞って聴いた。以前のL65でもあまり高い台に乗せない方がよかったが、今回の65Aの場合には、むしろ台をやめて床(フロアー)にじかに、背面も壁にかなり近づける置き方の方が、低域の量感が増してバランスがよかった。クラシックからポピュラーまでどのプログラムソースに対しても、KA7300Dやラックス系のアンプではそのどこかウエットな音がL65Aを生かすとはいいきれず、CA2000のようなさらりとした音が、またカートリッジでは最初考えた4000DIIIでは少々音が軽くしかも輝きすぎで、ADCのZLMや、オルトフォンMC20の方がよかった。この状態でシェフィールド等をCA2000のメーターがしばしば振り切れるまでパワーを放り込んでみたが、瞬間で200Wを越えるパワーにも全くビクともせず、音域のどこかでバランスをくずしたり出しゃばったりせずに、またことさら尖鋭だの鮮明だのと思わせずに、何気なくしかも高い密度で鳴る点はさすがと思わせた。ただクォリティの面ではCA2000でもまだ少々力不足の感がある。クラシックでもバランス的にはおかしいというようなことはないが、JBLのこのクラスには4333Aなどから上の機種の聴かせるあのしっとりした味わいを望むのは少し無理のようだ。

B&W DM6

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 新着の製品を聴くたびに少しずつ改良のあとが聴きとれて、まだ改善途上のような印象も受けるが、今回のものは初期に聴いたものよりも弱点が少なく、かなりの水準に達していると思った。総体にやや細身の音、という感じはイギリス製のスピーカーによくある作り方だが、中域から高域にかけて音の定位や雰囲気がよく出る反面、中低域以下の密度や音を支える力がもう少し欲しくも思われる。たとえば、ブラームスのP協のような、音に充実感あるいは重量感の要求されるような曲では、中低域の厚みの少ないことがかなりマイナス点になる。F=ディスカウの声も(声自体の滑らかさや艶は十分に出るが)やや若くなる傾向。またバルバラはもともとやせて細い女性だが、それがいっそう細身になるし、伴奏のアコーディオンの一種独特の唸るようなうねりが出にくい。ただ、中~高域の繊細な表現はなかなか捨てがたいが良さでもあるので、高域に強調感の少なく中低域に厚みのある、たとえばSPUやVMS20Eのような系統のカートリッジ(ポップスならADCやピカリング系統)をうまく組み合わせれば、独特の味わいが生かせる。置き方の面では、付属のスタンド(脚)がついているので台は不要だ。背面に低域のコントロール(3段切換)がついているので、部屋の音響条件によって調整することができるのは便利。試聴の際は壁に近づけて-1にセットしてちょうどよかった。

タンノイ Berkeley

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 同じ英国製で、価格的にもセレッションの66との比較に興味のある製品だ。ひと口でいえば、ディットン66があくまでも肌ざわりの暖かさ、柔らかさでまとめているのに対して、タンノイは総体に辛口で、やや硬質に音の輪郭をくまどって聴かせる。たとえばベートーヴェンのセプテットでは、ヴァイオリンなど弦の音が、セレッション66よりも金属室の感じが増してやや硬くなるが、それは必ずしも悪い意味ではない。その証拠に、クラリネットなど木管の音も決して不自然さがないし、ただその存在を66よりもきわ立たせるように聴かせる。ブラームスのP協で、ピアノの高弦の打鍵音が、小気味よくビインと響く。弦合奏のトゥッティではやや硬さが目立つが、この辺になると、ホーントゥイーターのエイジングを待たなくては正当な評価が下しにくい。バルバラの歌は、66よりも硬めの艶があってよく張り出すが奥行きも十分に聴かせるので空間のひろがりもよく再現される。66の方がどこかほんのりした感じで聴かせるのに対し、バークレイの方がもっと直接的で音源に肉迫した印象だ。その点はシェフィールドで66よりも尖鋭で鋭角的な表現になることからもわかる。総じてカートリッジは455EよりもMC20の密度の重さがよく合うし、むろんSPUの充実した渋さも良い。アンプは38FD/IIの柔らかさも悪くないが、TR(トランジスター)のグレイドの高い製品の方がいっそう密度の高い音を聴かせる。

エレクトロボイス Sentry V

瀬川冬樹

ステレオサウンド 44号(1977年9月発行)
特集・「フロアー型中心の最新スピーカーシステム(上)」より

 脚がないのでブックシェルフのようでもあるし、大きさからいえばフロアータイプのようでもあり、どういう置き方が最良なのか、かなり大幅に試みてみた。まず20cmねどの台でインシュレーターを介してみる。低域がやや軽く、中~高域が少々硬い。次にブロックを寝かしてインシュレーターを介してみるが、あまりしっくりこない。そこで台をやめてインシュレーターのみ介して置いてみる。背面をかなり壁につけた方が低音がしっかりする。結局、インシュレーターも何もなしで床の上にそのまま、背面を壁にぴったり密着させたときが、最も落着いてバランスがよかった。E-Vの作る音は昔からわりあいに穏便で、とりたてて誇張というものがない。クラシックのオーケストラも十分に納得のゆくバランスで鳴らす点はさすがだ。しかしヨーロッパの音のようなしっとりした、ウエットで艶のある味わいとは違って、本質的にアメリカの乾いた風土を思わせる。こういう音の場合、カートリッジやアンプも、4000DIIIやCA2000のように、ウエットさのない音で徹底させる方が、明るさ、分離のよさ、アタックのよく伸びる気持良さが生かされる。シェフィールドのレコードでパワーを思い切り放りこむと、ヨーロッパや日本のスピーカーの決して鳴らすことのできない、危なげのなく音離れのよい、炸裂するような快適な音が聴こえてくる。大づかみだがカンどころをとらえた鳴り方だ。