井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
パイオニアの新しいコンセプトになったバーチカルツイン方式のトップバッターとなったモデルの改良版である。キリッと引き締まった音像定位のシャープさとスムーズな音は、小型システムの中の一種の才能選手だ。
★★
井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
パイオニアの新しいコンセプトになったバーチカルツイン方式のトップバッターとなったモデルの改良版である。キリッと引き締まった音像定位のシャープさとスムーズな音は、小型システムの中の一種の才能選手だ。
★★
菅野沖彦
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
平面コアキシャル型ユニットに執念を燃やすテクニクスの力作。マイカを素材とした振動板の採用で、音には一段と緻密さが増した。ケミカル系の素材のような無機的な音はしないし、他に類例のない独創性を高く買う。
★★
菅野沖彦
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
トゥイーターを中央に2つのウーファーで挟んだ仮想コアキシャル的ユニット配置と、今、欧米で流行のトールボーイ型エンクロージュアをもつ。作りの美しい、センスある商品。音は豊かであるが、やや大味な感じだ。
★★
井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
外形寸法はS99Tにほぼ等しいが口径が1サイズ小さく、エンクロージュアの内容積が大きい特徴を活かし、反応が早く、のびのびした明るい音は、こだわりなく音楽を楽しむために、これぞベストバイだ。
★★
菅野沖彦
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
新素材合戦に疲れた本家帰り的オーソドックスなスピーカーシステム。しかし音楽を聴くなら、こっちが近道。古き良きものを捨て前進するハイテク一辺倒の姿勢はスピーカーにとって実りが多いとはいえない。
★★
井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
もっとも小型でクォリティの高いスピーカーを探せば、国内製品では、このNS1以外にないというのが現状である。材料を吟味した専用スタンドと組み合わせ、良質なアンプでキュートな音を楽しみたいものである。
★★
菅野沖彦
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
きわめてバランスのよい2ウェイシステム。かつてのSX3をイメージする音。振動板にパルプのコーンを使い、アルニコ磁気回路採用。ソフトドームトゥイーターとともに自然な質感も高く評価した。正統派だ。
★★
井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
SX311、211と続く、ビクターの小型2ウェイシリーズの第3弾製品であり、トップモデルだ。充分な物量の投入と凝縮されたノウハウにより小さな高級機とも入れるレベルに達した、この音はひじょうに魅力的だ。
★★★
菅野沖彦
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
3ウェイ・ブックシェルフという現在国産ハイファイスピーカーのベーシックモデルといえるスタイルだが、新素材や物理特性の追求のテストモデル的意味合いをもつ。整ったバランスと端正な音は一家を成す。
★★
井上卓也
ステレオサウンド 89号(1988年12月発行)
特集・「ジャンル別価格帯別 ザ・ベストバイ・コンポーネント436選」より
新鮮な感覚の小型2ウェイシステムの魅力も捨てがたいが、やはりスピーカーは重厚長大に限る、という向きには安心して使えるナンバーワンのシステムである。完成度は高く、よい音を出すにはよい腕が必要だ。
★★★
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
AVプログラムソースに対応したセパレート型アンプとして企画されたパイオニアのC90、M90のペアは、この種のアンプとして最初に成功を収めた意義深い製品であった。今回、本来の意味で内容が見直され、改良によって第2世代のC90a、M90aとして発売された。
C90aは、もともとAVソース対応で、かつ高クォリティの音質を狙ったモデルであるだけに、新しく映像系入出力に輝度信号と色信号のY/C分離接続用のS端子を備え、S−VHSやEDベータなどの高画質VTR対応化を図っている。付属のリモコンは、従来の同社用のシステムリモコンから、最大154キーの学習型リモコンに発展し、多数のリモコンを使い分けざるを得ない煩雑さが解消された。
視覚的には、外観上の変化は少ないように見受けられるが、筐体関係の改良、強化も、高音質が要求されるコントロールアンプでは、重要な部分である。
筐体のトッププレート部は、C90の板厚1・2mm鉄板から、合計8個の止めネジにより振動が発生しないようにリジッドに止められた板厚1・6mmのアルミ板に改良された。ボトムプレート部もタテ長の通気孔パターンが、パイオニア独自のハニカム型に変わり、ボトムプレートの振動モードをコントロールし、共振を制動している。脚部は、釣り鐘断面状の一般的なタイプから、ハニカム断面に特殊な樹脂を充填した、一段と大型なタイプに変わっている。
エレクトロニクス系は、ビデオ信号とオーディオ信号の完全分離、独立をポイントとし、①オーディオ左右チャンネルとビデオ系に専用電源トランス採用、②オーディオ部とビデオ部のアース回路を伝わる干渉を避けるためアースの独立化とビデオ系のフローティング化、③オーディオ系とビデオ系の電気的、機械的な飛びつき防止用アイソレーション、④アナログ使用時のビデオ電源オートOFF機能採用などのベーシックな部分を抑えた対策がとられている。
C90をベースとしたアドバンスモデルだけに、表面に出ないノウハウの投入は、かなりのものと思われる。
音質最優先設計のために、部品関係はEXCLUSIVEの流れを受継いだ無酸素銅配線材料、黄銅キャップ抵抗、シールデッドコンデンサーなどが全面的に採用されている。アナログオーディオの中心ともいうべきフォノイコライザーアンプには、MC再生のクォリティを保つためハイブリッドMCトランス方式を採用している点も見逃せないポイントである。
M90aは、外観上のモディファイは、筐体トッププレート部の材料が、鉄板からアルミに変更、取りつけ方法もC90a同様の8本+1本のネジ止め、ボトムプレートの通風孔の形状変更と脚部の大型化、さらにトランスフレーム下側にある5本目の脚は、M90では他の脚と同じタイプが採用されていたが、今回は鋳鉄製で制振効果の高いキャステッドインシュレーターに変わっている。
電源トランスは、鉄心をバンドで締めるシンプルなタイプから、パイオニア独自の制振構造鋳鉄ケースに収めたキャステッドパワートランスにグレードアップしている。これに伴い、トランスフレームも強度を向上し、電源トランスの振動対策を一段と強化している。また、放熱板のハニカム構造チムニー型化も、パワーステージトータルの振動コントロールを狙ったものだ。
これらの大幅な改良の結果、重量はM90の20・9kgから28kgと増加した。
機能面は、コントロール入力の他に2系統のボリュウムコントロールができる入力を備え、CDプレーヤーなどのパワーアンプダイレクト使用が可能など、単体でも使える機能を持つパワーアンプとして開発されたM90の構想を全て受け継いでいる。
C90aとM90aは、堂々とした押し出しのよいナチュラルな音を持つアンプである。価格的には、高級プリメインアンプとも競合する位置にあり、セパレート型の名を取るか、プリメインアンプならではのまとまりのよい音、という実を取るかで悩むところであるが、このペアは、そんな枠を超えたセパレート型アンプならではの納得のできる音をもつ点が魅力である。
基本的には、柔らかく、豊かで、幅広いプログラムソースや組合せにフレキシブルに対応を示すパイオニアならではの音を受け継いではいるが、前作の、やや受け身的な意味を含めての良いアンプから、立派なアンプ、大人っぼい充実した内容と十分に説得力のある音を聴かせるアンプに成長している。久し振りの聴きごたえのあるアンプである
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
世界初のデジタルコントロールアンプとして脚光を浴びたCX10000を中心とするヤマハ10000シリーズは、見事なデザインと仕上げ、極限の性能に裏付けられた音質など、ヤマハ創業100周年記念の限定量産モデルとして高い評価を与えられた。今回、既発売のCDプレーヤーCDX2000、D/Aコンバーター内蔵プリメインアンプAX2000に続き、新製品として、デジタルAVコントロールアンプCX2000とパワーアンプMX2000、それにFM/AMチューナーTX2000が加わり、事実上のヤマハオーディオのトップランクを担う2000シリーズのラインナップが完成した。
CX2000は、時代の要求に応えて、高いクォリティで、デジタル信号処理能力と映像信号処理能力を含め、ピュアオーディオのコントロールアンプとしての性能、音質を追求した新世代のコントロールセンターである。
デジタル、AV信号も扱うコントロールアンプとして最大のポイントは、高いSN比を維持することにつきるだろう。そのためには、まず筐体関係で高周波や測定器に準ずるレベルで、シールドを施し分離しなければならない。
全面的に銅メッキを施したフレーム、シャーシは、デジタル部、マイコン部、フォノイコライザー部、電源部、トーンアンプ部とフラットアンプ部を、それぞれ独立したBOXに分割収納する高剛性6BOXシャーシ構造が採用されている。この構造により、耐振性を向上させて、機械的振動による変調ノイズの発生による音質劣化も排除する設計だ。なおデジタル部は、パルス性雑音対策として銅メッキ製トップカバーで全体を覆い、厳重なシールド対策を施している。
信号系は、MCヘッドアンプ付6ポジション負荷抵抗切替型フォノイコライザー部、高入力レベルのチューナーなどのアナログソース、8倍オーバーサンプリング18ビット・デジタルフィルターと、従来比でSN比を10dB向上した18ビット・ツインD/Aコンバーターを採用したデジタルソース、それにビデオソースの3ブロックで、これらのプログラムソースは、内部配線が短くできる半導体セレクタースイッチ、リモコン対応の4連ボリュウムを通り、20dBのフラットアンプ部に送られる。
ソースダイレクトスイッチをONとすれば、フラットアンプ出力は、入力に4連ボリュウムの2連を使った0dBバッファーアンプを通り出力端子に送られる。次にスイッチをOFFにすれば、バランス詞整、モード、サブソニック、高・中・低音調整、連続可変ラウドネス調整を経由してバッファー入力に送られる。
電源部は、デジタル・ビデオ部、アナログ部、マイコン部の独立3電源トランス採用。ビデオ電源は単独にON/OFF可能。デジタル電源は、アナログ入力選択時にデ
ーター復調回路のIC動作をとめる設計である。
MX2000は、低インピーダンス駆動能力を重視したA級動作のステレオパワーアンプである。
パワー段は、MX10000で開発されたHCA(双曲線変換増幅)回路により全負荷、全パワー領域でA級動作を可能としたHCA・A級増幅に特徴がある。ちなみに1Ω負荷のA級動作ダイナミックパワー600W+600Wを得ている。
筐体構造は、銅メッキシャーシとフレーム採用の左右シンメトリー配置で、出力メーターを含むフロントパネル部、電源部、左右パワーアンプ部、電圧アンプ部、それにスピーカーリレー、出力コイルなどを収める出力ブロックの6ブロック構成である。
注目したい点は、チムニー型ヒートシンクの配置が一般とは逆に内側に置き、パワーアンプ基板と電源トランスの干渉を避けた細心のコンストラクションである。
電源部は、EI型コアの420VA電源トランスと、低箔倍率φ76mm、20000μF×2電解コンデンサーのペアである。
CX2000とMX2000のペアは、音の粒子が細かく、滑らかに磨かれており、スムーズに延びたワイドレンジ型の帯域レスポンス、しなやかな表現力などは、従来のヤマハのセパレートアンプにはない、新しい音である。傾向として、十分にエージングに時間をかけたAX2000に近い。
MC入力時には、ノイズ的な環境の悪いSS試聴室でも十分にSN比が高く保たれ、アナログならではの音が楽しめる。このことは、この種のアンプの重要なチェックポイントだ。
デジタル入出力時は、光、同軸の差を素直に出し、銘柄、グレードの差が楽しめる。また各種CDのデジタル出力を使い、個々の音が楽しめるのも新しい魅力の展開だ。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
アナログディスク用のカートリッジは、音溝の凹凸を電気信号に変換するトランスデューサーであるため、変換方式、つまり発電するメカニズムそのものが音色、音質を直接的に支配することになる。この部分に魅せられたファンにとっては、これならではの奥深い楽しみの存在するジャンルである。
一種の理想の発電方式ともいえるものに、一般的なカンチレバーを介さず、スタイラスそのものが、直接、発電コイルを駆動するダイレクトカップリング型がある。
従来からも、この方式の可能性は追求されていたが、実用化の上で困難を極めたのは、振動系を安定に支持するサスペンション方式の開発であったわけだ。
MC型で、しかもダイレクトカップリング方式のカートリッジを、コンシュマー用として世界初に完成させた記念すべきモデルが、イケダ9である。
左右チャンネル用の2組のコイルの結合部に直接スタイラスを取りつけたシンプルな振動系は、2個の特殊形状ダンパーと糸による支持機構と組み合わせたメカニズムからスタートした。その後も、細部の改良と熟成期間をかけ、現時点での完成度は十分に高い。
今回、新製品として登場したイケダ9EMPLは、シェル一体型ではなくて、単体のカートリッジとして発売された9EMをベースに、磁気回路のヨーク材に高磁束密度のパーメンダーを採用し、発電効率と磁気制動を高めた9EMPをさらにグレードアップしたモデルである。
型番末尾のLは、ラージの意味であるとのことで、磁気回路は、カートリッジボディの内容積に対して最大限にまで大型化され、パーメンダーの使用量も50%アップとなっている。数値的には発表されていないが、磁束密度も、それなりに向上しているはずだ。なお、スタイラスは、9EMPと共通のムクダイヤの特殊長短円針付で、標準針圧は2・5gである。
SS誌リファレンスプレーヤーで音を聴いてみよう。使用アームはSME3012Rプロであるが、9EMPLの発電機構から考えれば、オイルダンプ型のシリーズVが、現状ではベストであろう。
針が音溝に触れたときのポップノイズ、音溝をトレースしているスクラッチノイズが、カートリッジの本質を聴くためのスリリングな瞬間である。制動が効き、パシッと決まるポップノイズ、カンチレバーによる揺れが皆無で、音溝にダイレクトに反応しているスクラッチノイズを聴いただけで、これはただものではないという実感がする。
基本的には、やや硬質で、情報量を堂々と押し出すように聴かせる。9EMPは完成度の高さが特徴であったが、音溝に直接反応する厳しさが、新型のイケダ9EMPL最大の魅力だ。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
オーディオ専業メーカーならではの独創的な製品開発で知られるスタックスから、CDPに続く第2弾の高級CDプレーヤーCDP QUATTROIIが発売された。
今回の新製品はQUATTROIIと名付けられているが、第1弾製品のCDPが、QUATTROとも呼ばれていたとのことであり、名称の由来は不明であるが、おそらく4本の特徴的な脚部に支えられたユニークなデザインからきたものであろう。
CDプレーヤーとしての筐体関係の構成は、前作CDPと基本的には同様である。筐体上部にディスクをドライブするプレーヤー部分があり、下部にD/Aコンバーター部分を収めた上下2分割のセミ・セパレート構成が特徴的だ。
4本の大型な脚部は、外部振動およびCDプレーヤー自体で発生する、主にディスクドライブ系や電源トランスなどの振動対策として、ティップトゥの思想を導入した大型アルミ製脚を採用し、振動を防止する設計だ。
エレクトロニクスは、最近のCDプレーヤーの動向であるハイビット化の路線にそった設計で、18ビット8倍オーバーサンプリング・デジタルフィルターを採用し、CDPと同様にアナログフィルターを通さずにオーディオ信号を取り出すダイレクトアウト端子を備えている。
このところ、CDプレーヤーの音質改善テーマのひとつとされている時間軸的歪であるジッタ一対策としては、システムコントロール用の水晶発振器をD/Aコンバーター部に置く設計で、ジッターの低減を図っている。
電源部は、アナログ部とデジタル部に専用ACコードを使う3電源トランス方式である。アナログ部は、シームレスコア型電源トランスと、内容は不明だが、スタックス・オリジナルのプッシュプル型電源を採用しているとのことだ。
機能面は、デジタル回路で位相を切り替えるアブソリュートフェイズスイッチを備える。逆位相で記録されているCDを正しい位相で再生することにより、音質、音場感を含めて、最善の結果が得られるのはよく知られたことだが、これは音質最優先の高級CDプレーヤーに相応しい機能である。
音質対策部品には、CDPで採用されたリードレス・タンタル抵抗、西独製ポリプロピレンコンデンサー、PCOCC線材、アナログ部の木製シャーシ採用など、スタックスのノウハウが導入されている。
ウォームアップは、約1分間で、モヤが晴れたようなすっきりした音を聴かせる。帯域感は広帯域型で、低域は少し線が太いが、中域から高域は細身で抜けがよい。安定感のある抑場の効いた音の出方は、アナログディスク的なイメージもあり、力感もそれなりに十分だ。CDPに比べ、完成度の高さが感じられる個性派のCDプレーヤーだ。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
DAC1は、デジタル・オーディオ・コントロールアンプの頭文字をモデルナンバーにもつ、ユニークなコンセプトにより開発されたマランツの新製品だ。
CD、DATに代表されるデジタル系のプログラムソースは、オーディオ信号とするためにD/Aコンバーターを使うことになるが、変換後のアナログ信号に、いわゆるデジタルノイズと呼ばれる、可聴帯域外におよぷ高い周波数成分をもつノイズが、程度の差こそあれ混入することが、重要な問題点のひとつである。
一般的に、従来のコントロールアンプでは、広帯域型の設計が基本である。そのため、音にはならないが、高い周波数成分のノイズも、信号と一緒に増幅するために、混変調歪などが発生し、オーディオ信号を劣化させることになりやすい。
DAC1の信号の流れは、入力切替スイッチ、テープ入出力スイッチ、バッファーアンプ、ボリュウムコントロール、14dBの利得をもつ出力アンプで増幅される。
第一の特徴は、バッファーアンプには、裸特性が下降しはじめる700kHzに時定数をもつハイカットフィルターを設け、混変調歪の発生を防止したことである。
第二の特徴は、出力アンプにフィリップスLHH2000で採用されている、定評の高いトランス結合マルチフィードバック回路を採用していることだ。出力トランスは、アンプ負荷用、フィードバックアンプ用の2系統の一次巻線と、同じ巻線比の、+位相と−位相の2系統の二次巻線を備えており、完全に同条件でアブソリュートフェイズの切替えができるほかに、2系続の出力を同時に使えば、BTL接続にも使用可能である。
この回路の特徴は、二次導線が、基本的にフローティングされているために、アースや筐体に流れるノイズと信号が分離され、またバンドパスフィルターとして働くトランスの利点により、デジタルノイズに強い設計となつていることにある。
8mm厚アルミ製シャーシ、シャンペンゴールドのフロントパネル、LHH1000系統の片側1・3kgのダイキャストサイドパネル、4mm厚トップパネルに見られるように、筐体は共振を抑えた剛体構造である。使用部品を含め、高密度に凝縮された構成は、オーディオ的な魅力を備えたものだ。
DAC1は、中低域から中域の量感がたっぷりとあり、密度感を伴った安定度の高い音が特徴。オーケストラの空間の拡がりを感じさせるホールトーンの豊かな響き、素直なパースペクティブとディフィニションは、デジタル系プログラムソースの利点を充分に引き出したものである。しかも、無機的な冷たさにならないところが、本棟の魅力である。高密度設計だけに、置き場所の影響がダイレクトに現れる点は要注意だ。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
管球式のアンプは、真空管という優れた増幅素子のおかげで、少ない増幅段数でそれなりに優れたアンプを完成することができる。そのため、趣味的な製品をこつこつと手作りでつくるタイプの作り方が、もっとも相応しいように思われる。
ソリッドステートアンプのように構成部品数が莫大な量になれば、安定度の高いアンプを作るとなれば、生産性を考えなくても、必然的にプリント基板のお世話にならなければならない。けれども、プリント基板そのものが、優れたアンプを作るうえで、音質上での足を引っ張る存在にもなっている。
一般的にプリント基板の問題点として直流抵抗があげられるが、銅箔の厚みを30ミクロンとしても、パターン幅を6・5mm程度とすれば、φ0・5mmの銅線の断面積と等しくなり、70ミクロンなら3mm強の幅で等価的になるわけで、想像ほどに悪くはないのである。
むしろ、振動と音質の相関性から考えれば、ある程度の面積があるプリント基板そのものが、内外の振動により共振することのほうが問題であるはずだ。この振動が基板上に取りつけられた多数の部品を動かしたら、かなりのデメリットが出ることが予想されるだろう。この点、管球式なら基板レスの配線は手数をかければ可能であり、充分に厚みがあるベーク板などに配線用ポストを立てて基板的な特徴を活かすことも可能だ。
エアータイトは、6CA7プッシュプルのATM1を第一弾製品としたメーカーであるが、今回の製品も管球アンプで一世を風靡したメーカーで活躍した実績のあるオーナーの体験を活かした開発によるもの。管球アンプならではの音が楽しめながら、それなりの価格に抑えた製品づくりは、すでにある種の定評を獲得しているように思われる。
今回第二弾のパワーアンプとして開発されたATM2は、パワーステージにKT88をプッシュブルで採用したステレオ構成の新製品である。フロント側シャーシ前面と背面に2系統の入力端子を備え、入力切替スイッチとボリュウムコントロールで、パワーアンプ単体でも使える最低の機能を持たせ、単独使用ができる基本構成は、ATM1と変わらぬポリシーの現れだ。
SS試聴室のリファレンスCDプレーヤー、ソニーR1の出力をATM2の前面入力に入れる。試聴前にスタティックには予熱を充分にしてあるが、信号を加えるとダイナミックなウォームアップが始まり、ほぼ30分間もすれば安定状態になり、ATM2本来の音が次第に聴きとれるようになる。
柔らかく、豊かな雰囲気を管球アンプの音としがちだが、ATM2は、やや線は太いが、力感に裏付けされた押し出しのよい、ざっくりした音を聴かせる。最新アンプの音をナイロン的な滑らかさとすれば、ATM2の音は、いわば麻ならではの粗い質感がたいへん魅力的である。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
ラックスの超弩級CDプレーヤーシステムは、すでに昨年中にほぼ試作が完了していたために、その存在は誰でも知るところであったが、最終的なツメと熟成期間を経て、今回発売されることになった。
基本構成の出発点は、音楽再生を目的とするD/Aコンバーターは、連続サインウェーブの再現以上に、パルス成分の再現性であるインパルス応答性を重要視すべきであるという、いわばオーディオ再生の原点ともいえるところからのものである。
巨大なパワーアンプに匹敵する雄姿を誇るD/AコンバーターDA07は、重量も、実に27kgという文句なしの超弩級で、本システムの基本構想が実現できるか否かは、本機の内容に関わってくるわけだ。
本機のD/Aコンバーターには、インパルス応答性に優れたD/Aコンバーター理論として筑波大学で発明されたフルエンシーセオリーに基づいたフルエンシーD/Aコンバーター(F・E・DAC=特許出願中)を採用している。
F・E・DACは、従来のタイプのように、デジタル符号を、抵抗素子などを使い階段状にしてからアナログ変換をする方法ではなく、新補間関数により、デジタル符号をダイレクトに曲選でつないでアナログにする方式であるとのことだ。
従来型のD/Aコンバーターでは、動作理論上で、パルス成分の再生時には多くの付加振動を発生し、原波形は損なわれる。現実にテストディスクでパルス再生をして、スコープでチェックすれば、パルスに数個の付加振動が発生していることを容易に確認できるだろう。この点、F・E・DACでは、付加振動の発生はひじょうに少なく無視できるレベルにあるという。
まF・E・DACは、その変換方式の特徴から、原理的に波形振動を発生するデジタルフィルターや、位相を変化させるアナログフィルターなどを完全に追放できる利点にも注目したい。
筐体構造は、基本的に上下2段構成としてデジタル部とアナログ部を分離し、さらに各ブロックをトータル10個のチャンバーに分け、完全にシールドを施し、相互干渉の排除を図っている。なお、シャーシ全体に銅メッキ処理が施され、高剛性、大質量の特殊FRPボトムシャーシをベースに、18mm厚押し出し材のフロントパネルなどで、全体を無共振構造としている。
アナログ部は、最大出力まで一定のバイアス電流を供給する純A級方式と、低インピーダンス伝送アナログ回路を中心に、デジタルとアナログ独立の2電源トランスと11
分割独立レギュレーターがバックアップしている。
入出力系は、同軸入力3系続、標準光入力2系統に、伝送レートが従来の数10倍という超高速ラックス型光入力1系続。アナログ出力端子は、固定と可変の標準出力とバランス型出力の3系統を備えている。
プレーヤー部のDP07は、トップローディング型で、音質面で有害なトレイがないのがうれしい。
筐体構造は、セラミック入りFRPによる重量級シャーシ、12層厚アルミムク材のトッププレート、銅メッキ処理シャーシを組み合わせ、前面傾斜パネル内側のマイコン部、その後ろを上下2段構造とし、下段に電源部、上段前半部にピックアップ部とデジタル出力部をさらに上下に分け、上段後半部に電源トランスを収めた多重構造により、全重量は20kgとヘビー級だ。
信号処理部と駆動系に独立22トランスを使い、各ステージ用に独立10レギュレーター採用で、電源部を介した相互干渉は、ほぼ完全にシャットアウトする徹底した設計が見受けられる。なお、基板関係はOFCの70ミクロン厚、PCOCC線材の全面採用、金メッキキャップ抵抗にピュアフォーカスコンデンサーなど、音質向上のための素材は豊富に投入されている。
システムのウォームアップは、平均的な約2分弱で、安定があり、情報量の多い、一応水準と思われる音に変わる。
聴感上での帯域バランスは、とくにワイドレンジを感じさせないナチュラルなタイプであるが、やや線は太いが、豪快に物凄いパワー感を伴って押し出す低音のでかたは、CDの常識を越えた異次元の世界である。密度感のある中域は、力感も十分にあり、やや輝かしいキャラクターを内蔵している印象がある。高域は穏やかで、むしろ抑え気味でもあるようだ。
音場感は標準的だが素直で、ヴォーカルなどの音像はグッと前に出るタイプだ。この程度の性能ともなれば、ディスクの固定機構の精度がすこし不満であり、ディスクの出し入れによる音の変化は大きい。しかし凄い製品だ。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
DCD3500GとDCD3500の2モデルのCDプレーヤーは、従来のデンオンのトップモデルであるDCD3300シリーズを受け継ぐモデルである。
外観上からは、DCD3500Gがゴールドタイプ、DCD3500がブラックタイプとして区別されるが、筐体のトップ部分の仕上げと脚部の2点が異なっている。
Gタイプは、サイド部分と一体化したリアルウッドと内側の鋼板の2重構成、脚部は直径65mm、重量450gの黄銅削り出し製である。ブラックタイプは、4mm厚アルミ押し出し材のトップ部と、焼結合金をアルミで覆った2重構造の脚部となっており、当然のことながら、筐体構造の違いによる音質の差もあることになる。
筐体構造をはじめとするメカニズムの設計は、無振動構造(バイブレス構造)が最大のテーマである。
筐体関係は、サイド部分にサイドウッド、鋼板、シャーシの3重構造、底板部分は2枚の鋼板を張り合わせたバイブレスプレート、肉厚鋼板、銅メッキシャーシなどの4重ている。
光ピックアップ部のメカニズムベースは、高剛性で、しかも内部損失が大きく振動吸収効果の高いBMC(バルク・モールド・コンパウンド)で作られ、鋼板のメカニズムベースプレートに、低反発粘弾性ゴムとコイルスプリングを組み合わせたサスペンション機構により吊りさげられ、フローティングマウント構造としている。さらにピックアップ部は、大型BMC製メカニズムシャーシに上部から組み込まれ、金属とBMCを2段に使い、振動遮断効果を追求したダブルBMCベースは、3500シリーズのみの最大の特徴である。
筐体内部は、振動発生源であるメカニズム部分と電源トランスを左側に、振動の影響を受け音質が変化する回路系を右側に2分割する、2ボックス構造である。またデジタル回路が空間に放射する電波性雑音や磁気歪対策として、シャーシはすべて銅メッキ処理がされている。
回路系は、アナログ・デジタル完全独立分離設計の基本で、2トランス構成による電源部の独立分離をはじめ、回路基板そのものも徹底して分離させている。アナログ部では業務用機器に多く採用されるバスパーラインを使い、インピーダンスを下げ、高周波の飛び込みを防止している。
デジタルフィルターは、20ビット8倍オーバーサンプリング型で、量子化で標準16ビットの16倍、時間軸で44・1kHzの8倍と、小刻みなデジタル信号をD/Aコンバーターに送り出す。
リアル20ビット・スーパーリニアコンバーター部は、業務用デジタル録音機開発での成果であるD/A変換器に、変換誤差補正回路による補正信号を加えてゼロクロス歪を排除する方式を採用したものである。本機では、デンオン独自の変換誤差補正を定評あるバーブラウン社製D/Aコンバーターに加えて使っている。また、高域の鮮明さと関係がある左右チャンネル間の時間誤差を解消するため、左右2組のコンバーターが採用されている。
機能面では、時間指定と2点繰り返し演奏を可能とした新タイムサーチ機能、標準点灯、ミュージックカレンダーの消灯、全表示消灯のディスプレイの3段切り替え、電源を切っても約2ヵ月間、指定の曲からタイマープレイができるメモリーバックアップ機能などがある。なお、出力部は、デジタル3系統、アナログが、固定、可変の2系統に、3300シリーズの可変型から固定型となった600?バランス出力を備えている。
試聴機は十分に予熱をしておき、ディスクを入れ音を出し、ウォームアップ時の音の変化を調べる。
演奏開始時には、音の輪郭がクッキリとした、やや硬調の鋭角的な音を聴かせるが、2分間ほどで音に滑らかさが加わり、情報量も充分に豊かでありながら、音の芯がしっかりしてくる点に注目したい。
音場感は、基本的に情報量が多いタイプだけに、奥行き方向のパースペクティブな再現性でも、オーソドックスな前後感を聴かせ、音像の立ち方、定位感も見事だ。
プログラムソースに対する対応はスムースなタイプで、アナログ録音のCDではテープヒスなどのバックグラウンドノイズをサラッと聴かせるが、録音年代の新旧にあまり過敏にならないのが好ましい。
音質、音場感ともに、従来のデンオンらしさの枠を超えた、本格派のリファレンス機としても使える実力は注目すべき点だ。
試聴機では、フロントパネルの一番の切断面にシャープなエッジが残っていたことと、クランパーの装着音が少し気になった。
井上卓也
ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より
AU−Xシリーズは、アンプのサンスイを象徴するスーパープリメインアンプとして、約10年前に登場した。AU−X1が、その最初のモデルである。
このシリーズの概略の発展プロセスを眺めると、2年後の昭和56年に、AU−X11ヴィンテージとして新製品が登場した。
このモデルで初めて、ヴィンテージというオーディオでは初めての言葉が、音楽愛好家への最高の噌り物という意味を込めて使われた。
このAU−X1からAU−X11ヴィンテージが、いわばアナログディスク時代のスーパープリメインアンプであり、微小入力のMC型カートリッジの音を色づけなくストレートに増幅をして、強力なパワーアンプで、スピーカーを充分にドライブしようというコンセプトに基づく製品である。
そして、CDがデジタルプログラムソースとして定着し、新しくAVが話題をにぎわせた60年に登場したAU−X111MOSヴィンテージは、新世代のサンスイのスーパープリメインアンプであり、デザイン、機能、性能なども全面的にリフレッシュした意欲作である。
●洗練されたデザイン
今回、AU−X1111(ダブル・イレブン)MOSヴィンテージとして発売されたモデルは、AU−X1以来の単独使用が可能な強力パワーアンプに、付属機能を加えたパワーアンプ中心のプリメインアンプという基本構想に、AU−X111MOSヴィンテージでのパワーアンプのバランス型化、AV入力対応などを受け継いだスーパープリメインアンプの最新鋭機である。
新生サンスイの新しいエンブレムをつけたパネルフェイスは、基本的な変更はないが、四面ラウンド仕上げのリアルローズウッド使用のサイドバネルの効果で、雰囲気は、AU−X111MOSヴィンテージより一段と大人っぼく、洗練された印象に変わった。
本機の最大の技術的特徴は、バランス型パワーアンプの採用にある。ブリッジ接続とも呼ばれるこの方法は、サンスイがパワーアンプB2301で国内で初めて採用したものだ。
バランス型パワーアンプは、アースに無関係に信号を扱うことができるため、外部雑音の影響が少なく、アンプで発生する歪を出力段でキャンセルできるなど、いわば理想のパワーアンプに一歩近づいた方式ではある。そのためには+信号系と−信号系の2系続のパワーアンプが必要であり、電源部も2倍の容量が要求されるなど、経済性ではかなりのデメリットがあるものだ。ちなみに、アースに依存しない点で、BTL接続とは似て非なるものである。
パワー段は、MOS−FETを採用しているが、AU−X111やこれに続くAU−α907MOSリミテッドなどでの成果を踏まえて、初段からドライブ段までを全てカスケード型アンプ構成として、MOS−FETの使いこなし上でのノウハウが導入されている。
大幅に変更が行われたのは、電源部とのことで、新開発電源トランスと電源コンデンサーによる動的なスピーカー駆動能力の向上、新設計の回路を十分に活かすためのコンデンサー、抵抗など新開発部品の積極的な採用などの他、ムクの銅を削り出した重量級インシュレーターにも注目したい。
機能面では、高出力型MCにも対応可能な入力感度20mVのMM専用フォノイコライザー、2系統のプロセッサー人力、3系統のライン入力、3系統のテープ/ビデオ入出力をはじめ、パワーアンプダイレクト入力部での2系統アンバランス入力と1系統のバランス入力など、14系統の豊富な入力端子を備える。
音質対策上での細かい部分ではあるが、従来のAU−X111でヘッドフォン回路の電源とビデオ部のそれとが共通であった点が改良され、ビデオ信号系とのアースによる干渉は排除された。
このアンプの音はAU−X11に始まり、AU−X111、AU−α907MOSリミテッドと、サンスイ高級プリメインアンプに流れる、スムーズで音の粒子が細かく、流れるような音を聴かせる方向の音だ。
しかし、基本的に異なるのは、柔らかいが充分に駆動能力があり、低域に代表される、SN比の高さに裏付けられた分解能の高さが、従来にない新しさだ。
そのため、特に率直に柔らかい雰囲気をもって見通せる奥行き方向のナチュラルさが聴きどころだろう。趣味のオーディオにとって音とデザインの相関性は重要な部分だが、本機のまとまりはこの点も見事だ。
黒田恭一
ステレオサウンド 87号(1988年6月発行)
「怪盗M1の挑戦に負けた!」より
午後一時二十分に成田到着予定のルフトハンザ・ドイツ航空の701便は、予定より早く一時〇二分に着いた。しかも、ありがたいことに、成田からの道も比較的すいていた。おかげで、家には四時前についた。買いこんだ本をつめこんだために手がちぎれそうに重いトランクを、とりあえず家の中までひきずりこんでおいて、そのまま、ともかくアンプのスイッチをいれておこうと、自分の部屋にいった。
そのとき、ちょっと胸騒ぎがした。なにゆえの胸騒ぎか? 机の上を、みるともなしにみた。
「どうですか、この音は? ムフフフフ!」
机の上におかれた紙片には、お世辞にも達筆とはいいかねる、しかしまぎれもなくM1のものとしれる字で、そのように書かれてあった。
一週間ほど家を留守にしている間に、ぼくの部屋は怪盗M1の一味におそわれたようであった。まるで怪人二十面相が書き残したかのような、「どうですか、この音は? ムフフフフ!」のひとことは、そのことをものがたっていた。しかし、それにしても、怪盗M1の一味は、ぼくの部屋でなにをしていったというのか?
ぼくは、あわてて、ラスクのシステムラックにおさめられた機器に目をむけた。なんということだ。プリアンプが、マークレビンソンのML7Lからチェロのアンコールに、そしてCDプレーヤーが、ソニーのCDP557ESD+DAS703ESから同じソニーのCDP-R1+DAS-R1に、変わっていた。
怪盗M1の奴、やりおったな! と思っても、奴が「どうですか、この音は?」、という音をきかずにいられるはずもなかった。しかし、ぼくは、そこですぐにコンパクトディスクをプレーヤーにセットして音をきくというような素人っぽいことはしなかった。なんといっても相手が怪盗M1である、ここは用心してかからないといけない。
そのときのぼくは、延々と飛行機にむられてついたばかりであったから、体力的にも感覚的にも大いに疲れていた。そのような状態で微妙な音のちがいが判断できるはずもなかった。このことは、日本からヨーロッパについたときにもあてはまることで、飛行機でヨーロッパの町のいずれかについても、いきなりその晩になにかをきいても、まともにきけるはずがない。それで、ぼくは、いつでも、肝腎のコンサートなりオペラの公演をきくときは、すくなくともその前日には、その町に着いているようにする。そうしないと、せっかくのコンサートやオペラも、充分に味わえないからである。
今日はやめておこう。ぼくは、はやる気持を懸命におさえて、ついさっきいれたばかりのパワーアンプのスイッチを切った。今夜よく眠って、明日きこう、と思ったからであった。
おそらく、ぼくは、ここで、チェロのアンコールとソニーのCDP-R1+DAS-R1のきかせた音がどのようなものであったかをご報告する前に、怪盗M1がいかに悪辣非道かをおはなししておくべきであろう。そのためには、すこし時間をさかのぼる必要がある。
さしあたって、ある時、とさせていただくが、ぼくは、さるレコード店にいた。そのときの目的は、発売されたばかりのCDビデオについて、解説というほどのこともない、集まって下さった方のために、ほんのちょっとおはなしをすることであった。予定の時間よりはやくその店についたので、レコード売場でレコードを買ったり、オーディオ売場で陳列してあるオーディオ機器をながめたりしていた。
気がついたときに、ぼくは、オーディオ売場の椅子に腰掛けて、スピーカーからきこえてくる音にききいっていた。なんだ、この音は? まず、そう思った。その音は、これまでにどこでどこできいた音とも、ちがっていた。ほとんど薄気味悪いほどきめが細かく、しかもしなやかであった。
まず、目は、スピーカーにいった。スピーカーは、これまでにもあちこちできいたことのある、したがって、ぼくなりにそのスピーカーのきかせる音の素性を把握しているものであった。それだけにかえって、このスピーカーのきかせるこの音か、と思わずにいられなかった。そうなれば、当然、スピーカーにつながれているコードの先に、目をやるよりなかった。
スピーカーの背後におかれてあったのは、それまで雑誌にのった写真でしかみたことのない、チェロのパフォーマンスであった。なるほど、これがチェロのパフォーマンスか、といった感じで、いかにも武骨な四つのかたまりにみにいった。
チェロのパフォーマンスのきかせた音に気持を動かされて、家にもどり、まっさきにぼくがしたのは、「ステレオサウンド」第八十四号にのっていた、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三といった三氏がチェロのパフォーマンスについてお書きになった文章を、読むことであった。このパワーアンプのきかせる音に対して、三氏とも、絶賛されていたとはいいがたかった。
にもかかわらず、チェロのパフォーマンスというパワーアンプへのぼくの好奇心は、いっこうにおとろえなかった。なぜなら、そこで三氏の書かれていることが、ぼくにはその通りだと思えたからであった。しかし、このことには、ほんのちょっと説明が必要であろう。
幸い、ぼくはこれまでに、菅野さんや長嶋さん、それに山中さんと、ご一緒に仕事をさせていただいたことがあり、お三方のお宅の音をきかせていただいたこともある。そのようなことから、菅野、長島、山中の三氏が、どのような音を好まれるかを、ぼくなりに把握していた。したがって、ぼくは、そのようなお三方の音に対しての好みを頭のすみにおいて、「ステレオサウンド」第八十四号にのっていた、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三といった三氏がチェロのパフォーマンスについてお書きになった文章を、熟読玩味した。その結果、ぼくは、レコード店のオーディオ売場という、アンプの音質を判断するための場所としてはかならずしも条件がととのっているとはいいがたいところできいたぼくのチェロのパフォーマンスに対しての印象が、あながちまちがっていないとわかった。そうか、やはり、そうであったか、というのが、そのときの思いであった。
ぼくはアクースタットのモデル6というエレクトロスタティック型のユニットによったスピーカーシステムをつかっている。残る問題は、アクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの、俗にいわれる相性であった。ほんとうのところは、アクースタットのモデル6にチェロのパフォーマンスをつないでならしてみるよりないが、とりあえずは、推測してみるよりなかった。
そのときのぼくにあったチェロのパフォーマンスについてのデータといえば、レコード店のオーディオ売場でほんの短時間きいたときの記憶と、菅野沖彦、長島達夫、山中敬三の三氏が「ステレオサウンド」にお書きになった文章だけであった。そのふたつのデータをもとに、ぼくは、アクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの相性を推理した。その結果、この組合せがベストといえるかとうかはわからないとしても、そう見当はずれでもなさそうだ、という結論に達した。
そこまで、考えたところで、ぼくは、電話器に手をのばし、M1にことの次第をはなした。
「わかりました。それはもう、きいてみるよりしかたがありませんね。」
いつもの、愛嬌などというもののまるで感じられないぶっきらぼうな口調で、そうとだけいって、M1は電話を切った。それから、一週間もたたないうちに、ぼくのアクースタットのモデル6は、チェロのパフォーマンスにつながれていた。
ぼくのアクースタットのモデル6とチェロのパフォーマンスの相性の推理は、まんざらはずれてもいなかったようであった。一段ときめ細かくなった音に、ぼくは大いに満足した。そのとき、M1は、意味ありげな声で、こういった。
「高価なアンプですよ。これで、いいんですか? 他のアンプをきいてみなくて、いいんですか?」
このところやけに仕事がたてこんでいたりして、別のアンプをきくための時間がとりにくかった、ということも多少はあったが、それ以上に、チェロのパフォーマンスにドライブされたアクースタットのモデル6がきかせる、やけにきめが細かくて、しかもふっくらとした、それでいてぐっとおしだしてくるところもある響きに対する満足があまりに大きかったので、ぼくは、M1のことばを無視した。
「ちょっと、ひっかかるところがあるんだがな。もうすこしローレベルが透明になってもいいんだがな。」
M1は、そんな捨てぜりふ風なことを呟きながら、そのときは帰っていった。なにをほざくか、M1めが、と思いつつ、けたたましい音をたてるM1ののった車が遠ざかっていくのを、ぼくは見送った。
それから、数日して、M1から電話があった。
「久しぶりに、スピーカーの試聴など、どうですか? 箱鳴りのしないスピーカーを集めましたから。」
きけば、菅野さんや傅さんとご一緒の、スピーカーの試聴ということであった。おふたりのおはなしをうかがえるのは楽しいな、と思った。それに、かねてから気になっていながら、まだきいたことのないアポジーのスピーカーもきかせてもらえるそうであった。そこで、うっかり、ぼくは、怪盗M1が巧妙に仕掛けた罠にひっかかった。むろん、そのときのぼくには、そのことに気づくはずもなかった。
M1のいうように、このところ久しく、ぼくはオーディオ機器の試聴に参加していなかった。
オーディオ機器の試聴をするためには、普段とはちょっとちがう耳にしておくことが、すくなくともぼくのようなタイプの人間には必要のようである。もし、日頃の自分の部屋での音のきき方を、いくぶん先の丸くなった2Bの鉛筆で字を書くことにたとえられるとすれば、さまざまな機種を比較試聴するときの音のきき方は、さしずめ先を尖らせた2Hの鉛筆で書くようなものである。つまり、感覚の尖らせ方という点で、試聴室でのきき方はちがってくる。
そのような経験を、ぼくは、ここしばらくしていなかった。賢明にもM1は、ぼくのその弱点をついたのである。どうやら、彼は、このところ先の丸くなった2Bの鉛筆でしか音をきいていないようだ、そのために、チェロのパフォーマンスにドライブされたアクースタットのもで6の音に、あのように安易に満足したにちがいない、この機会に彼の耳を先の尖った2Hにして、自分の部屋の音を判断させてやろう。M1は、そう考えたにちがいなかった。
そのようなM1の深謀遠慮に気がつかなかったぼくは、のこのこスピーカー試聴のためにでかけていった。そこでの試聴結果は別項のとおりであるが、ぼくは、我がアクースタットが思いどおりの音をださず、噂のアポジーの素晴らしさに感心させられて、すこごすごと帰ってきた。アクースタットは、セッティング等々でいろいろ微妙だから、いきなりこういうところにはこびこんで音をだしても、いい結果がでるはずがないんだ、などといってはみても、それは、なんとなく出戻りの娘をかばう親父のような感じで、およそ説得力に欠けた。
音の切れの鋭さとか、鮮明さ、あるいは透明感といった点において、アクースタットがアポジーに一歩ゆずっているのは、いかにアクースタット派を自認するぼくでさえ、認めざるをえなかった。たとえ試聴室のアクースタットのなり方に充分ではないところがあったにしても、やはり、アポジーはアクースタットに較べて一世代新しいスピーカーといわねばならないな、というのが、ぼくの偽らざる感想であった。
そのときのスピーカーの試聴にのぞんだぼくは、先輩諸兄のほめる新参者のアポジーの正体をみてやろう、と考えていた。つまり、ぼくは、まだきいたことのないスピーカーをきく好奇心につきうごかされて、その場にのぞんだことになる。ところが、悪賢いM1の狙いは、ぼくの好奇心を餌にひきよせ、別のところにあったのである。
あれこれさまざまなスピーカーの試聴を終えた後のぼくの耳は、かなり2Hよりになっていた。その耳で、ソニーのCDP557ESD+DAS703ES~マークレビンソンのML7L~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6という経路をたどってでてきた音を、きいた。なにか、違うな。まず、そう思った。静寂感とでもいうべきか、ともかくそういう感じのところで、いささかのものたりなさを感じて、ぼくはなんとなく不機嫌になった。
そのときにきいたのは「夢のあとに~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」(オルフェオ 32CD10106)というディスクであった。このディスクは、このところ、なにかというときいている。オッフェンバックの「ジャクリーヌの涙」をはじめとした選曲が洒落ているうえに、あのクルト・トーマスの息子といわれるウェルナー・トーマスの真摯な演奏が気にいっているからである。録音もまた、わざとらしさのない、大変に趣味のいいものである。
これまでなら、すーっと音楽にはいっていけたのであるが、そのときはそうはいかなかった。なにか、違うな。音楽をきこうとする気持が、音の段階でひっかかった。本来であれば、響きの薄い部分は、もっとひっそりとしていいのかもしれない。などとも、考えた。そのうちに、イライラしだし、不機嫌になっていった。
理由の判然としないことで不機嫌になるほど不愉快なこともない。そのときがそうであった。先日までの上機嫌が、嘘のようであったし、自分でも信じられなかった。もんもんとするとは、多分、こういうことをいうにちがいない、とも思った。おそらく昨日まで美人だと思っていた恋人が、今日会ってみたらしわしわのお婆さんになっていても、これほど不機嫌にはならないであろう、と考えたりもした。
しかし、その頃のぼくは、自分のイライラにつきあっている時間的な余裕がかった。一週間ほどパリにいって、ゴールデン・ウィークの後半を東京で仕事をして、さらにまた一週間ほどウィーンにいかなければならなかった。パリにもウィーンにも、それなりの楽しみが待っているはずではあったが、しわしわのお婆さんになってしまっている自分の部屋の音のことが気がかりであった。幸か不幸か、あたふたしているうちに、時間がすぎていった。
そして、あれこれあって、ルフトハンザ・ドイツ航空の701便で成田につき、怪盗M1の挑戦状。
「どうですか、この音は? ムフフフフ!」を目にしたことになる。
「ちょっとひっかかるところがあるんだがな。もうすこしローレベルが透明になってもいいんだがな。」、と捨てぜりふ風なことを呟きながら一度は帰ったM1の、「どうですか、この音は? ムフフフフ!」、であった。ここは、やはり、どうしたって、褌をしめなおし、耳を2Hにし、かくごしてきく必要があった。
翌日、朝、起きると同時にパワーアンプのスイッチをいれ、それから、おもむろに朝食をとり、頃合をみはからって、自分の部屋におりていった。
ぼくには、これといった特定の、いわゆるオーディオ・チェック用のコンパクトディスクがない。そのとき気にいっている、したがってきく頻度の高いディスクが、そのときそのときで音質判定用のディスクになる。したがって、そのときに最初にかけたのも、「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」であった。
ぼくは、絶句した。M1に負けた、と思った。
スピーカーの試聴の後で、菅野さんや傅さんとお話ししていて、ぼくは自分で思っていた以上に、スピーカーからきこえる響きのきめ細かさにこだわっているのがわかった。もともとぼくの音に対する嗜好にそういう面があったのか、それとも、人並みに経験をつんで、そのような音にひかれるようになったのかはわかりかねるが、そのとき、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6で、「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」をきいて、ぼくは、これが究極のコンポーネントだ、と思った。
また、しばらくたてば、スピーカーは、アクースタットのモデル6より、アポジーの方がいいのではないか、と考えたりしないともかぎらないので、ことばのいきおいで、究極のコンポーネントなどといってしまうと、後で後悔するのはわかっていた。にもかかわらず、ぼくはソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6できいた「夢のあと~ヴィルトゥオーゾ・チェロ/ウェルナー・トーマス」に、夢見心地になり、そのように考えないではいられなかった。
ぼくのオーディオ経験はごくかぎられたものでしかないので、このようなことをいっても、ほとんどなんの意味もないのであるが、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6できいた音は、ぼくがこれまでに再生装置できいた最高の音であった。響きは、かぎりなく透明であったにもかかわらず、充分に暖かく、非人間的な感じからは遠かった。
静けさの表現がいい、などといういい方は、オーディオ機器のきかせる音をいうためのことばとして、いくぶんひとりよがりではあるが、そのときの音に感じたのは、そういうことであった。すべての音は、楽音が楽音たりうるための充分な力をそなえながら、しかし、静かに響いた。過度な強調も、暑苦しい押しつけがましさも、そこにはまったくなかった。
ぼくは、気にいりのディスクをとっかえひっかえかけては、そのたびに驚嘆に声をあげないではいられなかった。そうか、ここではこういう音の動きがあったのか、と思い、この楽器はこんな表情でうたっていたのか、と考えながら、それまでそのディスクからききとれなかったもののあまりの多さに驚かないではいられなかった。誤解のないようにつけくわえておくが、ぼくは、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6のきかせる音にふれて、そこできけた楽器や人声の描写力に驚いたのではなく、そこで奏でられている音楽を表現する力に驚いたのである。
したがって、そこでのぼくの驚きは、オーディオの、微妙で、しかも根源的な、だからこそ興味深い本質にかかわっていたかもしれなかった。オーディオ機器は、多分、自己の存在を希薄にすればするほど音楽を表現する力をましていくというところでなりたっている。スピーカーが、あるいはアンプが、どうだ、他の音をきいてみろ、と主張するかぎり、音楽はききてから遠のく。つまり、ぼくは、ソニーのCDP-R1+DAS-R1~チェロのアンコール~チェロのパフォーマンス~アクースタットのモデル6のきかせる音をきいて感動しながら、そこでオーディオ機器として機能していたプレーヤーやアンプやスピーカーのことを、ほとんど忘れられた。そこに、このコンポーネントの凄さがあった。
こうなれば、もう、ひっこみがつかなかった。まんまと落とし穴に落ちたようで、癪にはさわったが、ここは、どうしたってM1に電話をかけずにいられなかった。目的は、あらためていうまでもないが、留守の間においていかれたソニーのCDP-R1+DAS-R1とチェロのアンコールを買いたい、というためであった。
「ソニーのCDP-R1+DAS-R1はともかく、チェロのアンコールはご注文には応じられませんね。」
M1は、とりつく島もない口調で、そういった。
M1の説明によると、チェロのアンコールの輸入元は、すでにかなりの注文をかかえていて、生産がまにあわないために、注文主に待ってもらっている状態だという。ぼくの部屋におかれてあったものは、輸入元の行為で短期間借りたものとのことであった。事実、ぼくがチェロのアンコールをきいたのは、ほんの一日だけであった。その翌日の朝、薄ら笑いをうかべたM1が現れ、いそいそとチェロのアンコールを持ち去った。
「いつ頃、手にはいるかな?」
M1を玄関までおくってでたぼくは、心ならずも、嘆願口調になって、そう尋ねないではいられなかった。
「かなり先になるんじゃないですか。」
必要最少限のことしかしゃべらないのがM1の流儀である。長いつきあいなので、その程度のことはわかっている。しかし、ここはやはり、なぐさめのことばのひとつもほしいところてあったが、M1は、余計なことはなにひとついわず、けたたましい騒音を発する車にのって帰っていった。
しかし、ソニーのCDP-R1+DAS-R1は、残った。プリアンプをマークレビンソンにもどし、またいろいろなディスクをきいてみた。
ソニーのCDP-R1+DAS-R1がどのようなよさをもっているのか、それを判断するのは、ちょっと難しかった。これは、束の間といえども大変化を経験した後で、小変化の幅を測定しようとするようなものであるから、耳の尺度が混乱しがちであった。一度は、M1の策略で、プリアンプとCDプレーヤーが一気にとりかえられ、その後、CDプレーヤーだけが残ったわけであるから、一歩ずつステップを踏んでの変化であれば容易にわかることでも、そういえば以前の音はこうだったから、といった感じで考えなければならなかった。
しかし、それとても、できないことではなかった。これまでもしばしばきいてきたディスクをききかえしているうちに、ソニーのCDP-R1+DAS-R1の姿が次第にみえてきた。
以前のCDプレーヤーとは、やはり、さまざまな面で大いにちがっていた。まず、音の力の提示のしかたで、以前のCDプレーヤーにはいくぶんひよわなところがあったが、CDP-R1+DAS-R1の音は、そこでの音楽が求める力を充分に示しえていた。そして、もうひとつ、高い方の音のなめらかさということでも、CDP-R1+DAS-R1のきかせかたは、以前のものと、ほとんど比較にならないほど素晴らしかった。しかし、もし、響きのコクというようなことがいえるのであれば、その点こそが、以前のCDプレーヤーできいた音とCDP-R1+DAS-R1できける音とでもっともちがうところといえるように思えた。
なるほど、これなら、みんなが絶賛するはずだ、とCDP-R1+DAS-R1できける音に耳をすませながら、ぼくは、同時に、引き算の結果で、マークレビンソンのML7Lの限界にも気づきはじめていた。はたして、M1は、そこまで読んだ後に、ぼくを罠にかけたのかどうかはわかりかねるが、いずれにしろ、ぼくは、今、ほんの一瞬、可愛いパパゲーナに会わされただけで、すぐに引き離されたパパゲーノのような気持で、M1になぞってつくった少し太めの藁人形に、日夜、釘を打ちつづけている。
井上卓也
ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より
雰囲気のよい音と、スムーズに伸びたナチュラルなレスポンスをもつアンプだ。今回の試聴では、従来の穏やかで安定感はあるが、軽さ、反応の早さが不足気味な点が明瞭に改善され、軽い濃やかな表現が聴き取れるようになった。音の粒子は適度に細く滑らかで、サラッとした、素直で気持ちのよい音を聴かせる。プログラムソースとの対応は自然で、ややリアリティを欠くが、伸びがあり、キレイな音だ。ウォームアップは穏やかで差は少ない。
音質:87
魅力度:93
井上卓也
ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より
しなやかで、独特の粘りのある傾向をもつ音である。音の粒子は、細く磨かれており、プログラムソースの細部を素直に見せるだけのクォリティの高さをもっている。バランス的にはやや中域の薄さがあり、音像は小さく少し距離感を持って奥に定位する。木管合奏は適度にハモリと濃やかさがあり、サロン風なまとまりとなる、ビル・エバンスは、少し現代的にすぎ、古さが出ず、それらしくないようだ。
音質:80
魅力度:83
井上卓也
ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円以上100万円未満の価格帯のパワーアンプ15機種のパーソナルテスト」より
響きの豊かな、滑らかでトロッとした独特の雰囲気の音をもつ個性的なアンプである。1曲目のヴォーカルは、一語、一語、言葉を丁寧に歌うようなイメージとなり、音像は少し大きい。カンターテ・ドミノは、ライブネスがタップリした広い空間の再現に特徴があり、天井の高さや暗騒音の細部は出にくいようである。音を聴いた印象からは、充分に手が加えられ磨き込まれた音ではあるが、基本的な音の傾向はかなり個性的であり、万能型ではないようだ。
音質:85
魅力度:85
井上卓也
ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より
スムーズでキレイな音を指向した音だがバランス的には低域が不足気味で、坐りのよい安定感のある印象に欠けるようだ。プログラムソースは、全体に小さく表現し、それぞれの録音のキャラクターは素直に聴かせるだけのクォリティをもっている。太鼓の連打での立ち上がりの甘さは、電源部に起因するもののようで、問題がクリアーされれば、中域以上の質が高いだけに、かなり優れたアンプになりそうな印象が強い。
音質:73
魅力度:78
井上卓也
ステレオサウンド 84号(1987年9月発行)
特集・「50万円未満の価格帯のパワーアンプ26機種のパーソナルテスト」より
ナチュラルな帯域バランスと解像力を豊かに音として聴かせるだけの本格派の音をもつアンプだ。プログラムソースにはナチュラルに対応を示し、充分な力感に支えられて、正確に、無駄なく音を聴かせるパフォーマンスが目立つ。聴き込むと、弦の合奏での分解能、教会コーラスでの高さを感じさせるディフィニションに少しの不満を残すが、価格帯満足度は充分に高い。アッテネーターの硬調さの影響のないアンプだ。
音質:83
魅力度:90
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