マランツ DAC-1

井上卓也

ステレオサウンド 88号(1988年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 DAC1は、デジタル・オーディオ・コントロールアンプの頭文字をモデルナンバーにもつ、ユニークなコンセプトにより開発されたマランツの新製品だ。
 CD、DATに代表されるデジタル系のプログラムソースは、オーディオ信号とするためにD/Aコンバーターを使うことになるが、変換後のアナログ信号に、いわゆるデジタルノイズと呼ばれる、可聴帯域外におよぷ高い周波数成分をもつノイズが、程度の差こそあれ混入することが、重要な問題点のひとつである。
 一般的に、従来のコントロールアンプでは、広帯域型の設計が基本である。そのため、音にはならないが、高い周波数成分のノイズも、信号と一緒に増幅するために、混変調歪などが発生し、オーディオ信号を劣化させることになりやすい。
 DAC1の信号の流れは、入力切替スイッチ、テープ入出力スイッチ、バッファーアンプ、ボリュウムコントロール、14dBの利得をもつ出力アンプで増幅される。
 第一の特徴は、バッファーアンプには、裸特性が下降しはじめる700kHzに時定数をもつハイカットフィルターを設け、混変調歪の発生を防止したことである。
 第二の特徴は、出力アンプにフィリップスLHH2000で採用されている、定評の高いトランス結合マルチフィードバック回路を採用していることだ。出力トランスは、アンプ負荷用、フィードバックアンプ用の2系統の一次巻線と、同じ巻線比の、+位相と−位相の2系統の二次巻線を備えており、完全に同条件でアブソリュートフェイズの切替えができるほかに、2系続の出力を同時に使えば、BTL接続にも使用可能である。
 この回路の特徴は、二次導線が、基本的にフローティングされているために、アースや筐体に流れるノイズと信号が分離され、またバンドパスフィルターとして働くトランスの利点により、デジタルノイズに強い設計となつていることにある。
 8mm厚アルミ製シャーシ、シャンペンゴールドのフロントパネル、LHH1000系統の片側1・3kgのダイキャストサイドパネル、4mm厚トップパネルに見られるように、筐体は共振を抑えた剛体構造である。使用部品を含め、高密度に凝縮された構成は、オーディオ的な魅力を備えたものだ。
 DAC1は、中低域から中域の量感がたっぷりとあり、密度感を伴った安定度の高い音が特徴。オーケストラの空間の拡がりを感じさせるホールトーンの豊かな響き、素直なパースペクティブとディフィニションは、デジタル系プログラムソースの利点を充分に引き出したものである。しかも、無機的な冷たさにならないところが、本棟の魅力である。高密度設計だけに、置き場所の影響がダイレクトに現れる点は要注意だ。

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