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ビクター JA-S41

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ビクターの新製品は、JA−S51とS31の中間に位置する65W+65Wのパワーをもつプリメインアンプである。
 機能面では、JA−S51に準じた、5段切替モードスイッチ、前面録音端子をもつが、入力切替がフォノ1系統でカートリッジ負荷抵抗切替がなく、テープが2系統になった他、高音フィルターが低音フィルターに替わり、実用性が増している。
 回路構成上では、初段FETで入力コンデンサーを除いたICL型イコライザー、4連ボリュウム採用のプリアンプ部、ドライバー段以後と以前を分離した独立電源をもつパワーアンプを備えている。
 このアンプは、一連のビクタープリメインアンプのなかでは、もっともストレートで明快な音をもっている。とくに、低域の腰が強く、リズミックで活気があるのがメリットである。

Lo-D HA-630

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 この新製品も、セパレート型パワーアンプ、HMA−8300に採用されたと同様な、ダイナハーモニーと名付けられた、E級動作のパワーアンプ部をもったプリメインアンプである。
 回路構成では、イコライザー段に、差動1段の初段をもつ3段直結型が採用され、2・3mVの入力感度にたいして1kHzの最大許容入力は、230mVである。トーンコントロール段は、高利得、高安定度のIC、HA−1456を使ったNF型である。パワーアンプは、差動2段をもった、4電源方式の全段直結高能率ピュアコンプリメンタリーOCLで、20Hzから20kHzにわたり、8Ω負荷で60W+60Wの実効出力があり、1kHzでは8Ω負荷で85W+85Wのパワーが得られる。
 ボリュウムコントロールは、32接点のディテントボリュウムと、−15dB、−30dBに切替わるゲインセレクタースイッチの組み合わせであり、12dBのローカットフィルター、6dB型のハイかっとフィルター、それに、高音と低音を補正するラウドネスコントロールを備えている。
 HA−630は、低歪率設計をシンボライズしたような、柔らかで、歪感がない音をもっている。音のキャラクターが少ないだけに、ダイナミックパワー320Wというパワー感は、聴感上ではさして感じられない。このアンプの際立った特長は、クロストークが抜群に少ないことである。

サンスイ AU-3500, AU-1500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイから普及型のプリメインアンプが2モデル発売された。2機種ともに、共通のフラットフェイスのパネルをもち、ブラック仕上げになっている。
 AU−3500は、35W+35Wのパワーをもつモデルである。フロントパネルの機能は、プッシュボタンによるフォノ、チューナー、AUX3系統の入力切替、テープモニター、それに、モード切替があり、レバースイッチによるミューティング、ラウドネス、高音と低音フィルターをもつほかにマイクミキシング回路を備えていることが、このクラスのアンプに応わしいところである。
 回路構成上のイコライザー段は、最大許容入力が2・5mV感度で230mV(1kHz)あり、RIAA偏差は±0・5dB以内に調整してある。トーンコントロール段は、2段直結アンプによるCR型であるのが珍しい点だ。ボリュウム及びトーンコントロールは、クリックステップ型ボリュウムを採用している。パワーアンプは、初段にデュアルトランジスターを採用した全段直結型ピュアコンプリメンタリーOCL方式で、電子回路とリレーを使ったスピーカー及びパワートランジスターの保護回路が備わっている。なお、プリアンプの電源も、±2電源タイプでスイッチ切替時のクリックノイズを抑えている。
 AU−1500は、パワーが22W+22Wとなり、機能が2つ少ない。

トリオ KT-7700

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 チューナーの新製品では、性能重視型のFM専用機が増加しているが、このKT−7700も、同様なポリシーで開発されたニューモデルである。
 ダイアルスケールは、読取り精度が高いミラー付ロングスケールで、シグナルとチューニングメーターとマルチパス兼放送局の変調度を指示するデビューションメーターがビルトインしてある。フロントエンドは、局部発振回路組込みの7連バリコンを使ったRF2段タイプで、選択度2段切替型のIF部は、12素子セラミック型と8ポールLC集中型フィルター採用である。MPX部はFETによる復調スイッチング回路を使う低歪率設計であり、オーディオ部は、差動直結±2電源オペレーショナルアンプを使い、ローパスフィルターには7素子ノルトン型を採用するなど、高性能なFM専用チューナーに応わしい新技術が各ブロックに導入されている。

トリオ KA-9300

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプのパワーアップは、普及機クラスから、徐々に中級機に波及してきたが、量と質のバランスを要求される高級機ともなると、単なる量的なパワーアップだけでは、シビアなユーザーの要求に答えることは不可能である。
 KA−9300は、一連のプリメインアンプのハイパワー化に加えて性能、音質ともにグレイドアップした高級モデルに相応しいプリメインアンプである。
 回路構成上は、初段FET差動4段直結型ICLイコライザー段、初段FET差動3段直結アンプを使った、高音と低音が分離したターンオーバー切替付NFBトーンコントロールなどをもつプリアンプ部は、43ステップの4連ディテント型ボリュウム採用で聴感上のSN比がよく、左右チャンネル独立電源をもつパワーアンプ部は、FET差動を初段とする差動3段パラレルプッシュプルのICL、OCL、DCアンプで、120W+120Wのパワーがあり、スピーカー端子には切替スイッチをとおらず直接アンプとスピーカーが接続可能なDIRECT端子がある。
 このアンプは、パワーが充分にあるために、低域に安定感があり、クリアーでストレートな音のメリットがよく出ている。聴感上では、さしてワイドレンジを感じさせないバランスをもつが、誇張感がなく、ストレートで素直な音をもっている。このタイプの音は、えてして音の芯が弱く軽い音になりやすいが、充分にあるパワーが低域をサポートしているためにソリッドで安定感のある好ましさにつながっている。DCアンプ採用というとワイドレンジを思い出すかもしれぬが、聴感上は、誇張感がなくナチュラルである。
 操作性は機能が整理されており、使いやすいが、ロータリータイプのスイッチは、フィーリングが不揃いで硬軟の差があり、高級モデルとして他の部分のバランスがよいだけに、ぜひ改良を望みたい。

パイオニア TX-8900II, TX-8800II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 共通の特長は、新開発の4種類のパイオニア専用高集積度ICを採用することで、各ブロックごとをこのICで固め、従来のディスクリートでは得られぬ高SN比、低歪率、高域周波数特性改善を実現している。また、2機種ともに本格的なWIDE・NARROWの選択度切替型IF部をもつ音質重視設計であり、TX−8900IIでは、業界に先がけて、村田製作所と共同開発のIF用SAW(表面弾性波)フィルターを採用し、歪みの改善に優れた性能を発揮している。
 TX8900IIは、RF増幅2段と混合にデュアルゲートMOSFETを使い局部発振はバッファー付5連バリコン使用のFMフロントエンド、バンド切替とSAWフィルター採用のIF段、超広帯域直線検波器、新開発MPX用PLL・ICに特長がある。
 機能面では、エアチェックに便利な2個のICを使ったREC・レベルチェック信号内蔵、マルチパス端子とスピーカーにより、音で聞けるオーディオマルチパススイッチ、スライド式メモリーマーカーなどを備えている。

ビクター S-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、このところ、新しい価格帯として注目されている2万円台のスピーカーシステムとして開発された、S−5のジュニアシステムである。
 基本的な設計方針は、当然のことながらS−5と共通であるが、ウーファーの口径が20cmとなっているのが大きく変っている点である。このウーファーは、軽合金センターキャップ付で、フレームはアルミダイキャスト製である。なお、トゥイーターは6cm口径コーン型で、S−5に採用してあるユニットと同じものだ。
 S−5は、この種の2ウェイシステムとしては、バランスがとりやすい25cmウーファーをベースとしているだけに、帯域バランスがよく保たれ、メリハリが効いたコントラストがクッキリと付いた音をもっている。音色が明るく活気があるのは、やはりビクターらしい特長である。
 S−3は、S−5にくらべると低域が軽くなった反面、スケール感は小さくなる。一般的には、アンプ側のトーンコントロールで補整したほうが、トータルなバランスはよい。トゥイーターは、このクラスとしては粗さが少ないために、適度にクリアーで輝き、トータルなシステムに活気を与えているようである。

ビクター S-5

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムは、共通して音色が明るく、活気のある音をもった製品が多くなっているが、このビクターの新製品も、現在流行しているディスコサウンドやクロスオーバーなどの、ジャズロック系のプログラムソースにマッチした、力強くいきいきした音を狙ってつくられたスピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、前後のバッフルに比重が大きい針葉樹系高密度パーチクルボードを、側版には硬質パーチクルボードを合板でサンドイッチ構造にした特殊ボードを採用し、トータルな音の響きをコントロールするとともに、マルチダクトをもつバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーと6cmコーン型トゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムである。ウーファーは、アルミダイキャストフレームを使い、コーン紙には米ホーレー社製の、腰が強く軽い、ハイ・ヤング率コーンが選び出され、コーン紙中央のキャップは、分割共振が少ない特殊合金製で、いわゆるドーム鳴きを抑えながらクロスオーバー周波数付近のレスポンスをコントロールしている。
 トゥイーターは、ウーファーと同様に、ホーレー社製のコーン紙を採用したコーン型で、最高域のレスポンスを補整するために軽合金製キャップが付けてある。
 各ユニットのクロスオーバー周波数は、2000Hzと発表されているが、クロスオーバーネットワークのコイルには、磁気飽和が高いケイ素鋼板コア入りのタイプを使い、高耐入力、低歪率設計である。なお、レベルコントロールは連続可変型である。

パイオニア SA-8900II, SA-8800II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアのプリメインアンプとしては中堅機種であるSA−8900/8800が、音質重視の最新回路技術を導入して、IIシリーズに発展改良された。
 新シリーズ共通の特長は、SN比を高め、低歪率化をするために、使用部品を厳選するとともに左右チャンネル間の干渉を防ぎ、音質を向上する目的で電源部には左右チャンネルが独立した、2電源トランスを採用している。
 SA−8900IIは、イコライザー段に初段差動3段直結A級SEPP型アンプを採用し、最大許容入力300mV、RIAA偏差±0・2dB以内という特性と、負荷抵抗、負荷容量ともに、4段に切替わるカートリッジロードスイッチが付属している。トーンコントロールは、パイオニア独自のツインコントロールで、初段差動の2段直結アンプを採用している。
 パワーアンプは、差動2段の全段直結ピュアコンプリメンタリーOCLで、パワートランジスターは並列使用で80W+80Wのパワーがある。
 電源部は、ドライバー以後出力段まで、左右チャンネルが独立した巻線と電流回路をもち、さらにプリアンプ部とパワーアンプ部のプリドライバー段まで、左右独立した安定化電源をもっている。
 SA−8800IIは、イコライザー段の構成は似ているが、許容入力が250mVになり、カートリッジロード切替は、容量だけが4段切替である。トーンコントロールは、ターンオーバー3段切替のレギュラータイプになっている。なお、パワーアンプは、似た構成だが、60W+60Wのパワーである。これ以外については、ほぼSA−8900IIと同じ特長をもっている。

Lo-D HS-503

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーシステムの新製品では、バスレフ方式の復活とともに、フロアー型システムが多くなってきたことも、最近の傾向といってよいだろう。
 HS−503は、トールボーイ型のエンクロージュアを採用したフロアー型の新スピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、グレイのサランネットとブラック仕上げ塗装とのコンビネーションで、いわゆるモニターシステム的な印象がある。このエンクロージュアは、サランネット下側の部分が4本のネジで取外し可能な構造になっており、取外せばバスレフ型、スペーサーを介してサブバッフルを取付ければバスレフ型と密閉型の中間特性が得られるダンプドバスレフ型、さらに、フェルトパッキングのついたサブバッフルをエンクロージュア本体に固定すれば密閉型と、使用条件と好みにより3機種の変化をもたせることができる。
 ユニット構成は、ドロンコーン付と想われやすいが、ウーファーはギャザードエッジをもつ20cm口径のL−202を2本パラレルにしたツインドライブ型である。このユニットは、磁気回路にショートリングが付き、コーン紙にはラテックスが塗ってあり、歪を減らし、ボイスコイルボビンにはアルミを採用し温度上昇を抑えてある。トゥイーターは、比較的に口径が大きい7cmコーン型で、f0が低く、軽量コーン紙の採用で能率が高い特長がある。

クライスラー CE-100

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムの新製品ではエンクロージュア形式にバスレフ型が採用されることが多い。クライスラーのニューモデルは、そのなかでは、比較的に少ない完全密閉型のアコースティックサスペンション方式を採用したシステムである。
 ブックシェルフ型のオリジネーターである米AR社の完全密閉型は、小型なエンクロージュアで想像もつかぬ低音が再生できるメリットがあり、つい最近までは、ブックシェルフ型といえば、完全密閉型を採用することが標準化していたが、最近ではバスレフ型が復活してひとつの流れを形成しているようだ。簡単にこの両者の特長をいえば、完全密閉型は低域再生に優れるが出力音圧レベルが低く、バスレフ型は、逆に、出力音圧レベルは高くしやすいが、低域レスポンスはあまり伸びない。又音色的にも、やや対照的で、前者を重厚とすれば後者は軽快といる。
 CE−100は、このタイプとしては出力音圧レベルが92dBあり、聴感上の能率も高く感じられる。構成は、30cmウーファー、12cmコーン型スコーカー、それにホーン型トゥイーターの3ウェイシステムである。このシステムは、やや重く厚みのある低音をベースとし、明快型の中音、少し線が細い高音でバランスがととのっている。
 ステレオフォニックな音場感は、前後方向の感じをあまり際立たせるタイプではなく、音像も少し大きくまとまる傾向がある。

ビクター Z-1E, Z-1, X-1

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ビクターのカートリッジは、他のスピーカーシステムやアンプの音の傾向とはやや異なった、おとなしく柔らかな音であったが、X1の発売以来、音色が明るくなり、力強さが加わってきて、その内容は一段と向上して完成度が高くなっている。
 X1は、CD−4システム用のカートリッジだが、CD−4専用の枠をこえて、一般の2チャンネル用に充分使用できることを示した第一号機といってもよい製品である。低域のダンピングは適度で、粒立ちはやや細かいタイプである。音色は明るく、中低域がクリアーに拡がるため、全体の音がベトつかない特長がある。聴感上の帯域バランスはワイドレンジ型でよく伸びており、低域がこの種のカートリッジとしては質感がよく、姿・形がよいために、中高域の輝かしさが表面的にならず、クリアーで、クールな特長として活かされている。
 ヴォーカルは少し子音を強調気味で伸びやかさが欠ける面はあるが、ピアノはかなりスケールがあって鳴る。音の性質はアクティブで、ストレートな表現を得意とするが、これが、このカートリッジの特長である。音場はよく拡がるが、音像はあまり前に出てくるタイプではない。
 Z1は、X1にくらべると、やや硬質のメリハリの効いた音をもっている。
 聴感上の帯域バランスは、さしてワイドレンジとは感じさせない。低域にくらべ、中低域がやや甘口であり、中高域は少し粗い傾向がある。ヴォーカルは、アクセントをかなり付ける感じがあり、ドライな印象がある。ピアノは輝きはあるが、やや硬調である。音の腰が強いタイプで、力強さも感じられるのだが、どうも音がピタリと決まらず、表現が表面的になりやすい。このカートリッジは、コントラストをクッキリと付ける効果型の音であるために、性質がおとなしいソフトドーム系のブックシェルフ型スピーカーと上手に使うと、音の輪郭の明瞭な音が得られると思う。
 Z1Eは性質はZ1と似ている。アクティブに音を説明してくれるタイプの音で、演出はかなり効果的で面白い。

テクニクス EPC-270C-II, EPC-405C, EPC-205C-IIS, EPC-205C-IIL, EPC-205C-IIH

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 205CIILは、低域のダンプが適度であり、音の粒子も滑らかで細かいタイプである。全体に、汚れがなく耳あたりがよいソフトで爽やかな音をもった、素直な性質のカートリッジという印象である。聴感上の帯域バランスは、ナチュラルさがあるワイドレンジ型で、低域はやや甘口、中低域あたりに柔らかく響く間接音成分が感じられて、トータルな音の表情をおだやかなものとしている。ヴォーカルは、声量が下がった感じとなり、おとなしく、子音を強調せずスッキリとしている。ピアノはクリアーだが甘い感じがあり、やや広いスタジオ録音的に響く。性質はおとなし素直で控えめである。
 205CIIHは、Lとくらべると全体に音がソリッドであり、温度が下がったような爽やかな感じとなる。ヴォーカルは、力があり線が少し太くなるが、音像はクッキリと前に立ち、子音を少し強調するが、実体感につながる良さと受け取ることができる。ブラスの輝き、ピアノの明快さ、スケール感も充分にあり、安定した音として聴かせる。音場感はLにくらべスタジオ的に明確に拡がり、定位する。細やかで柔らかいニュアンスを聴きとるためにはLがよいが、力強さをとればHの方が上だ。
 205CIISは、低域のダンプが少し甘いタイプである。帯域バランスは、やや中域が薄く、ソフトで豊かな中低域と、ややソリッドな中高域がバランスしている。ヴォーカルは、ハスキー調でやや硬く、オンマイク的な感じとなり、ピアノはスケールはあるが力がなく、ソフトな低音とカッチリとした中高音といったバランスになる。CD−4システムに使用するカートリッジとしては、中高域の音の芯が強いメリットがあるが、低域が甘く、反応が遅いのが気になる。このままでも、中域に厚味があれば、全体の音がクリアーに締り良い音になるのだろうが、ここがやや残念なところである。
 405Cは、歪感がなく、粒立ちが細かい滑らかな音をもっている。音の性質は、おとなしく、クォリティが高いが、やや音楽への働きかけがパッシブであり、控え目で美しいが、ヒッソリとした感じで活気に乏しいのが気になるようだ。聴感上の帯域バランスは、中域がやや薄く、低域もスンナリとして甘口であり、ちょっと聴きには、さしてワイドレンジ型とはわからない。ヴォーカルは、オンマイクにかなり細部を引き出して聴かせるキレイさがあるが、声量がない感じがあり、ピアノもスッキリとしているが実体感が薄れる。基本的には、汚れがなく美しい音をもつために、音量を上げて聴いたときのほうが、音に力がつき活気が出るタイプだ。
 270CIIは、低域のダンプがソフト型で甘口である。音の粒子は、他のテクニクスのカートリッジにくらべると粗く、SN比が気になることもある。低域が甘く、中域から中高域に輝きがあり、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が前にセリ出してくる効果はあるが、力感が伴わないために、表面的な押し出しのよさになっている。

スペックス SD-909

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スペックスのMC型カートリッジは、音の腰が強く、ストレートな男性的な力強い音をもっているのが特長である。
 SD909は、低出力型であり、SDT77トランスを使用する。このカートリッジは、中低域がしっかりしているために音に安定感があり、力感が充分に感じられる。ピアノはいかにもグランドピアノのようにスケール感があり、ヴォーカルはあまり子音を強調せず、押出しがよく迫力がある。ステレオフォニックな音場感は固い壁の小ホールで聴くような感じで、音像は少し大きくなる傾向があるが、音の腰が強くエネルギー感が充分にあり、低音の姿・形をクリアーに表現するのは大変に好ましい。音の性質が健康で明るく、ストレートに割切って音を聴かせる魅力がある。

ソニー XL-15, XL-25, XL-35, XL-45

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソニーのカートリッジは、LP時期のコンデンサーピックアップ以来、時折高級モデルが発表される程度で、これがソニーのカートリッジだ、という認識にまでは至っていなかったが、最近のXLシリーズになって一躍完成度が高まり、モデルも増加して製品として充実したものになってきたように思われる。
 XL45は、粒立ちが細かく、低域のダンプは少しソフトと感じた。聴感上の帯域バランスは、中低域に量感があり、空間の広さを感じさせる響きがある。中域は僅かに薄い傾向をみせるが、高域は素直に伸びている。カラリゼーションが少なく、淡白でスンナリとしたナイーブ型の感じがあり、音の芯にカッチリとしたところはないが、滑らかなメリットがある。
 音場の拡がりは、ややホールトーン型で空間の広さか感じられ、音場はスピーカーの後に拡がるタイプで、音像が前に立つ傾向は少ない。現代型で品がよく、少しクールな大人っぽさが特長といえよう。
 XL35は、全体に音に活気があり、若々しい印象があり、音像がクッキリと立つ音をもっている。中低域のエネルギー感が充分にあり、安定しているために、クリアーな中域から中高域の音が適度のコントラストをつけて、ピアノも良い意味でのキラメキがある。また、ヴォーカルもリアルさがあり、あまりハスキー調にならぬ良さがある。音に力強さと厚みがあるために、現代的なストレートな表現が活かされて一種の個性になっているのがよい。
 XL25は、XL35と同系の音をもっている。粒立ちは少し粗い感じで、SN比が気になることもある。聴感上の帯域バランスはXL35より狭いが、全体に音が締まりソリッドな魅力がある。柔らかく響く中低域と、腰が強い低域をもつため、やや線は太いが安定感があり、力強く、性質はガラリとして男性的である。
 XL15は普及モデルで、粒立ちが粗く、XL25よりもSN比が悪くなる。トータルバランスは適度で、かなりコントラストの付いた表現をするが、大きな破綻はみせず、巧みにマクロ的に音をまとめるため、音には安心してきける良さがある。

マランツ Model 1250

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 マランツのプリメインアンプは、普及機から徐々にラインナップを固めてきたが、そのトップモデルとして開発されたものが、このモデル1250である。基本的には、コントロールアンプのモデル3600とパワーアンプのモデル250Mを、ひとつのシャーシに組込んだプリメインアンプと考えてよいが、各ブロックのユニットアンプは、かなりモディファイされているように思われる。
 フロントパネルは、いわゆるマランツの伝統的なマランツサイズであるが、デザインは、最近の一連のモデルとは異なり、以前のマランツ同様にフラットフェイスになっているのが目立つ点である。この変更はモデル1250が、セパレート型アンプと比較されるスペシャルクラスのプリメインアンプであることを考えれば、他のモデルとの差別化の意味があろうし、それとは関係ないが、古くからのマランツファンには親しみやすいことは事実である。この変更で、副次的なメリットとして生じているのは、コントロールのツマミが大型化されたことで、実際に使ってみると操作性は、かなり向上していると思われる。
 なお、このモデルも、他のマランツアンプ同様に、オプションのRA−2ラックアダプターを使えば、標準サイズのラックに取付け可能であり、RA−2は、ゴールドメッキ仕上げで、横受ブラケットが付属した業務用的構造の製品である。
 機能は、モデル3600コントロールアンプや、モデル1150プリメインアンプに準じているが、本機独得のファクションとしてレコードセレクタースイッチがある。2個のスイッチがペアとなる、このセレクターは、RECORD・SELECTOR1が、メインのテープデッキの入力を選択し、RECORD・SELECTOR2がサブ、もしくはエクスターナルテープデッキの入力を選択する。2個のセレクターと入力切替スイッチを組み合わせて使用すれば従来のこの種のスイッチより、はるかに、多角的にテープデッキが活用できるメリットをもっている。
 回路構成上の特徴は、初段差動のイコライザー段は、40dBのゲインがあり、許容入力が1kHzで300mVと米国系のアンプとしては、充分なマージンがあり、MC型カートリッジを安心して使用できる。トーンコントロールは、高音と低音がターンオーバー2段切替型で、中音も±6dB変化することができる。パワーアンプ部は、全段直結OCLタイプであり、電源部は、他のモデルにくらべ、かなり強化されている。
 モデル1250は、よい意味で、マランツのアンプが伝統的にもつニュートラルでカラリゼイションのない音を受継いでいる。際立った特長こそないが、他と比較したときに初めてクォリティの高さが判かるという音である。パワーも充分にあり、グレイドの高い点では、セパレート型アンプの域に達したプリメインアンプである。

コーラル CX-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、比較的に小型のスピーカーシステムだが、ユニークな発想をベースとして開発されたメカニズムをもっていることが特長である。
 エンクロージュア上部は、階段状になっており、その部分にトゥイーターが取付けてある。一見したところでは、海外製品に古くからあるスピーカーユニット間の位相差をコントロールするタイプと思われやすいが、ここではトゥイーターユニットが左右方向に、それぞれ90度首を振ることが可能であり、アーチ状の金属の上を前後に移動すれば、上下方向にも±15度の間で角度をコントロールできる。
 これにより、リスニング位置で最良のステレオフォニックな拡がりと、シャープな音像定位が得られるように調整が可能とされているが、ややデッドな部屋などでは、このメカニズムを使って細かく追込んでいけば、かなり、良い結果が得られるものと思われる。
 エンクロージュアは、トゥイーターユニット取付部分の後が開口となっている特殊なバスレフ型で、ウレタン・メタリック塗装仕上げである。ユニット構成は、JBLのLE8Tを想い出すようなメカニックなデザインをもった20cmウーファーと、コーン紙に、コーラルで新開発されたコーティングをした、6・5cmトゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムで、爽やかで活気のある音を聴かせてくれる。

ソノボックス SX-3E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ソノボックスはカートリッジ専業メーカーとしては歴史が古く、モノ当時から地味ではあるが、独得な構造のカートリッジを作りつづけている。
 SX3Eは低域から中低域にタップリとした量感があり、ウォームトーン系の柔らかくおっとりとした落着いた音をもっている。低域は量感があるため甘く感じられるが、スケール感は充分にある。ヴォーカルは少し大柄になり、安定感はあるが力感不足で、迫力に欠ける印象がある。音の性質はおだやかでマイルドな良さがあるが、エイトビートの曲のようにリズム感を要求する場合には、テンポが遅くなったように感じることがある。音に汚れがなく安定感があるために、クラシックのオーケストラなどを落着いて聴くような使い方がマッチしているようだ。

サテン M-117E, M-117X, M-18E, M-18X, M-18BX

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 サテンのカートリッジは、超精密工作をベースとした、高出力MC型であり、その構造・方式にオリジナルなものが多く採用してあり、その音も、他の製品とは一線を画した、ディスク再生の枠をこえたものとして定評がある。なお、サテン製品については、オプションのSR60ダンピング・アダプターを併用することにした。
 M18BXは、サテンの18シリーズのトップランクのモデルで、かつサテン最新の製品である。従来のスッキリと抜け切った色付けがないサテンの音から想像すると、この18BXは、ちょっと聴きには、素直でおとなしい音と受け取れるだろう。この音は、表情がおだやかで落着いており、素直でサラサラとしたナチュラルさがある。プログラムソースには、素直に反応を示し、その内容を拾い出すために、ダイレクトカッティング盤のメリットをもっともよく聴かせてくれたカートリッジである。組合せコンポーネントシステムのキャラクターをリアルに感じさせる面があり、このカートリッジの性能をフルに引き出すためには、かなりの経験とクォリティの高いシステムが要求されるように思われる。
 M18Xは、BXよりも、明快でスッキリとしたMC型らしい音である。表情がクールでストレートであり、コントラストが明瞭につき、低域にも力強さがあるために、充分に聴きごたえがするタイプの音だ。音場感はよく拡がり、音像がクッキリと前に立ち、空間の広がった感じがある。音楽への働きかけは18BXよりもアクティブで、一般的な使用では、むしろこの18Xのほうが大きな効果が期待できよう。
 M18Eは、18Xよりも、音に丸味があり、低域から中低域に量感があるため、マイルドな表情のMC型としての特長がある。中域から中高域はクリアーで抜けがよく、ヴォーカルはクッキリとアクセントがついて、ややハスキー調となり、オンマイク的な効果があるが、強調感というほどではない。音場感は18Xと同様によく拡がるが、18Xのスッキリとした広さにたいして、フワッと柔らかく拡がる感じである。
 M117Xは、全体に音のスケールを小さく表現する傾向がある。ヴォーカルは、ハスキー調で口先で歌う感じとなり、ピアノは右手がクリアー、左手がソフトでスケール感が充分に出ない。スッキリとした感じは、18シリーズほどではないにしても、充分にありながら、安定した音として決まらないのは低域から中低域の量と質の問題であろうか。
 M117Eは、音の粒子がサテンのモデル中では粗くなり、聴感上のSN比は一般的な感じである。全体に、音はクリアーで明快なタイプだが、聴感上の帯域バランスが充分にコントロールされ、とくに中域が充実している良さがある。低域から中低域に厚味があり、響きが豊かで安定感がある。ヴォーカルはハスキー調だが力があり、ピアノはキラメキ型だが甘さがあってよい。性質が素直で健康であり、表情もナチュラルな良さがある。

Lo-D HMA-8300

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パワーアンプがハイパワー化するにしたがって、消費電力は飛躍的に大きくなり、100W+100Wクラスでも、ピーク時には、1kWに近い場合がある。
 HMA−8300は、一般的にパワーアンプで使うB級増幅より、さらに電力変換効率が高いE級増幅を採用した200W+200Wのハイパワーアンプである。ローディーで開発されたE級増幅は、音楽信号の平均レベルとピークレベルの分布を調べた結果から、100Wのアンプを例にとると平均出力は約8Wであり、25W以上のパワーを必要とする時間は、1・4%しかないことをベースとし、これに見合う高能率アンプとして考えられたものである。基本回路構成は、並列、または直列接続のパワー段で、平均レベルでは、低電圧電源を使うパワートランジスターが動作し、任意に選択可能なレベル以上の入力にたいしては、高電圧を使うパワートランジスターが切替わり動作するタイプである。この方式は、さらに電源の数を増やせば、B級が理論的に78・5%の効率をもつこととくらべ100%とすることも可能とのことだ。
 HMA−8300では、高低2組の±2電源を使い、低価格でハイパワーを得ている。レベルメーターは、感度切替なしの対数圧縮ピーク指示型で、8Ω負荷630Wまで直読可能である。付属機能には、15Hzのサブソニックフィルター、大容量型スピーカーリレーなどがある。

パイオニア PC-330/II, PC-550E/II, PC-1000/II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 PC1000/IIは、現代カートリッジの性格が強い製品である。聴感上の周波数帯域は広く、よく伸びており、低域の質感が甘く、ベタつかないよさがある。
 低域のダンプは標準的で、この種のカートリッジとしてはよくコントロールされている。音の粒子は細かく、よく磨かれているために、強調感がなく、滑らかで汚れがないメリットがある。ステレオフォニックな音場感はよく拡がるタイプで、空間の拡がりが充分感じられ、パースペクティブな感じもよい。ヴォーカルなどの音像は前にクッキリと立つタイプではないが、定位はナチュラルで安定している。
 性質はおだやかでゆとりがあり安定感があるが、やや表情を抑える傾向があって、大人っぽい落着きがこのモデルの特長である。
 PC550Eは、音の粒子はPC1000/IIのような微粒子型とくらべると粗いが、聴感上のSN比で問題になるほどのことはない。低域のダンピングは適度で甘くなりすぎず、中低域の量感があって、ゆったりと拡がる空間を感じさせる間接音が感じられる。この感じは、PC1000/IIとよく似た点だ。
 ヴォーカルは明快な感じでリアルさがあるが、子音を強調する傾向はなく、ピアノのスケール感もかなり感じさせる。
 全体に、性質はおだやかで、安定して幅広いプログラムソースをこなすのは、このカートリッジのメリットであるが、やや表情がおっとりとした面があって、エネルギッシュに音を決めてくるロック系やソウル系の音楽の場合には、やや物足りない感じがないでもない。ウォームトーン系で耳あたりがよく、キレイに響く音が特長である。
 PC330は、低域もよく締まリ、他の2モデルとくらべると、やや寒色系の音としてまとめてあるのが目立つ点だ。聴感上の周波数帯域はPC550Eより狭く感じるが、明快でクリアーな音色はストレートな良さがある。全体にソリッドな音であるために、音場感はややスタジオ的となり、エネルギー感はかなりある。低域の腰が強く安定した感じが好ましい。

ダイナベクター OMC-38 15AQ, OMC-38 15BQ

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 OMC38−15BQは、低域のダンプが適度であり、音の粒子はやや粗く感じられるが、ヴォーカルの子音を強調せず、スッキリとクリアーにコントラストをつけて表現する、オーソドックスなMC型の魅力があり、個性が表面的にあらわれない立派な音である。やや、全体の表情がリズミックでない面もあるが性質は素直で、音場感は拡がりがあり、音像はクリアーに立つタイプである。
 OMC38−15AQは、15BQよりもおだやかなウォームトーン系の音である。中域はやや硬調で、ヴォーカルはハスキー調となりやすい。低域は15BQよりも量感があり豊かだが、密度は少し薄くなる。全体に音の輪郭はシャープではなく、線が太くなるが、純鉄がもつ独得の暖かさに似た印象があって落着いた雰囲気が感じられる。

マイクロ PLUS-1, LM-20, LC-40

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 マイクロのカートリッジは、ステレオ初期のMM型1007シリーズを最初の製品として発売して以来、発電方式もMC型、VF型などのモデルがあったように、音色の傾向も、時期によりある幅で変化をしたが、最近の一連のシリーズではMM型を中心に完成度を高め、音色も落着いた大人っぽい印象が高級モデルに感じられるようになってきている。
 LM20は、MM系カートリッジのトップモデルである。中低域から低域はやや甘口ではあるが、質感もよく、ゆったりと余裕をもって響く特長がある。聴感上の周波数レスポンスは、とくにワイドレンジとは感じないが、トータルのバランスがよく安定感がある。粒立ちは全域にわたって細かいタイプで、クォリティは高い。
 ヴォーカルは素直で、細やかさがよく出て、あまり子音を強調する傾向はないのがよい。ピアノは響きが美しく、やや甘い感じにはなるが、スケール感も充分にある音だ。音の性質は、米国系のカートリッジにくらべれば淡白ではあるが、大人っぽいゆとりが感じられる。ステレオフォニックな音場はよく拡がるが、ややホールトーンのような響きがあり、音像は自然に定位している。この音は音と対決して聴くタイプではなく、ゆったりと落着いて音楽を聴くタイプで、プログラムソースの幅も広く、柔らかさ滑らかさが魅力である。
 LC40は、MC型で指定トランスがないため、FRのFRT4を3Ωにして使った。全体の印象はLM20よりも爽やかでクリアーな音であり、細部をよく表現するが、低域から中低域に豊かさがあるため安定感がある。粒立ちがよく、磨き込んであるために、適度の艶があり、汚れが少ない。ヴォーカルは、やや音像が大きいが誇張感がなく、らしさがあり、音場感はLM20同様によく拡がるタイプだ。クリアー志向が多いMC型のなかでは、マイルドな表情がメリットである。
 PLUS1は普及モデルだが、トータルバランスがよく上手にまとめられている。粒立ちは、やや粗く、聴感上のSN比が少し気になる。低域は量的に多く、甘口だが小型スピーカーには適度のバランスだ。

Lo-D MT-202E

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MT202Eは、カンチレバーの支持機構に独得な宝石ピヴォット方式を採用しているのが特長である。マグネットには、サマリウム・コバルトを採用し、C型ヨークという新開発の磁気回路によるムービング・マグネット型のカートリッジである。
 聴感上の帯域バランスはかなりコントロールされているが、低域から中低域の質感が甘く、音の芯が弱いために、やや安定感を欠く傾向があるようだ。中域から中高域は粒子が少し粗い感じで、このクラスのカートリッジとしてはスクラッチノイズの質が問題になるかもしれない。ステレオフォニックな音場感は、壁の柔らかいホールで聴くように、拡がりはあるがベースやドラムスのような低音のエネルギーが多い楽器は距離感があり、ヴォーカルは、音像はクリアーに立つが、ハスキー調となり乾いた感じになるようだ。全体に、いま少し音に強さがあれば、フォーカスがピタリと決まりそうである。

ジュエルトーン JT-333, JT-555

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 JT555は、ソフトで粒立ちが細かく滑らかな音である。全体に音を軽く柔らかく表現するために、汚れがなくキレイであるのはよいが、やや性質が消極的で実体感や力感不足の面があり、コントラストがつきにくいようだ。ヴォーカルはクッキリとは立たないがナチュラルな軽さがあり、プログラムソースの性質によっては誇張がないメリットにつながるようだ。
 JT333はJT555にくらべ、音に若さがあり、反応も早く、スッキリとストレートに音を出してくる良さがある。音の粒子は細かく、かなり磨かれており、柔らかで耳あたりがよく性質も素直である。バランスは、全域にわたりよくコントロールしてあるが、低域が少し甘く、いま少し腰が強い表現が欲しい印象である。