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Lo-D HA-630

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 この新製品も、セパレート型パワーアンプ、HMA−8300に採用されたと同様な、ダイナハーモニーと名付けられた、E級動作のパワーアンプ部をもったプリメインアンプである。
 回路構成では、イコライザー段に、差動1段の初段をもつ3段直結型が採用され、2・3mVの入力感度にたいして1kHzの最大許容入力は、230mVである。トーンコントロール段は、高利得、高安定度のIC、HA−1456を使ったNF型である。パワーアンプは、差動2段をもった、4電源方式の全段直結高能率ピュアコンプリメンタリーOCLで、20Hzから20kHzにわたり、8Ω負荷で60W+60Wの実効出力があり、1kHzでは8Ω負荷で85W+85Wのパワーが得られる。
 ボリュウムコントロールは、32接点のディテントボリュウムと、−15dB、−30dBに切替わるゲインセレクタースイッチの組み合わせであり、12dBのローカットフィルター、6dB型のハイかっとフィルター、それに、高音と低音を補正するラウドネスコントロールを備えている。
 HA−630は、低歪率設計をシンボライズしたような、柔らかで、歪感がない音をもっている。音のキャラクターが少ないだけに、ダイナミックパワー320Wというパワー感は、聴感上ではさして感じられない。このアンプの際立った特長は、クロストークが抜群に少ないことである。

サンスイ AU-3500, AU-1500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 サンスイから普及型のプリメインアンプが2モデル発売された。2機種ともに、共通のフラットフェイスのパネルをもち、ブラック仕上げになっている。
 AU−3500は、35W+35Wのパワーをもつモデルである。フロントパネルの機能は、プッシュボタンによるフォノ、チューナー、AUX3系統の入力切替、テープモニター、それに、モード切替があり、レバースイッチによるミューティング、ラウドネス、高音と低音フィルターをもつほかにマイクミキシング回路を備えていることが、このクラスのアンプに応わしいところである。
 回路構成上のイコライザー段は、最大許容入力が2・5mV感度で230mV(1kHz)あり、RIAA偏差は±0・5dB以内に調整してある。トーンコントロール段は、2段直結アンプによるCR型であるのが珍しい点だ。ボリュウム及びトーンコントロールは、クリックステップ型ボリュウムを採用している。パワーアンプは、初段にデュアルトランジスターを採用した全段直結型ピュアコンプリメンタリーOCL方式で、電子回路とリレーを使ったスピーカー及びパワートランジスターの保護回路が備わっている。なお、プリアンプの電源も、±2電源タイプでスイッチ切替時のクリックノイズを抑えている。
 AU−1500は、パワーが22W+22Wとなり、機能が2つ少ない。

トリオ KT-7700

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 チューナーの新製品では、性能重視型のFM専用機が増加しているが、このKT−7700も、同様なポリシーで開発されたニューモデルである。
 ダイアルスケールは、読取り精度が高いミラー付ロングスケールで、シグナルとチューニングメーターとマルチパス兼放送局の変調度を指示するデビューションメーターがビルトインしてある。フロントエンドは、局部発振回路組込みの7連バリコンを使ったRF2段タイプで、選択度2段切替型のIF部は、12素子セラミック型と8ポールLC集中型フィルター採用である。MPX部はFETによる復調スイッチング回路を使う低歪率設計であり、オーディオ部は、差動直結±2電源オペレーショナルアンプを使い、ローパスフィルターには7素子ノルトン型を採用するなど、高性能なFM専用チューナーに応わしい新技術が各ブロックに導入されている。

トリオ KA-9300

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 プリメインアンプのパワーアップは、普及機クラスから、徐々に中級機に波及してきたが、量と質のバランスを要求される高級機ともなると、単なる量的なパワーアップだけでは、シビアなユーザーの要求に答えることは不可能である。
 KA−9300は、一連のプリメインアンプのハイパワー化に加えて性能、音質ともにグレイドアップした高級モデルに相応しいプリメインアンプである。
 回路構成上は、初段FET差動4段直結型ICLイコライザー段、初段FET差動3段直結アンプを使った、高音と低音が分離したターンオーバー切替付NFBトーンコントロールなどをもつプリアンプ部は、43ステップの4連ディテント型ボリュウム採用で聴感上のSN比がよく、左右チャンネル独立電源をもつパワーアンプ部は、FET差動を初段とする差動3段パラレルプッシュプルのICL、OCL、DCアンプで、120W+120Wのパワーがあり、スピーカー端子には切替スイッチをとおらず直接アンプとスピーカーが接続可能なDIRECT端子がある。
 このアンプは、パワーが充分にあるために、低域に安定感があり、クリアーでストレートな音のメリットがよく出ている。聴感上では、さしてワイドレンジを感じさせないバランスをもつが、誇張感がなく、ストレートで素直な音をもっている。このタイプの音は、えてして音の芯が弱く軽い音になりやすいが、充分にあるパワーが低域をサポートしているためにソリッドで安定感のある好ましさにつながっている。DCアンプ採用というとワイドレンジを思い出すかもしれぬが、聴感上は、誇張感がなくナチュラルである。
 操作性は機能が整理されており、使いやすいが、ロータリータイプのスイッチは、フィーリングが不揃いで硬軟の差があり、高級モデルとして他の部分のバランスがよいだけに、ぜひ改良を望みたい。

パイオニア TX-8900II, TX-8800II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 共通の特長は、新開発の4種類のパイオニア専用高集積度ICを採用することで、各ブロックごとをこのICで固め、従来のディスクリートでは得られぬ高SN比、低歪率、高域周波数特性改善を実現している。また、2機種ともに本格的なWIDE・NARROWの選択度切替型IF部をもつ音質重視設計であり、TX−8900IIでは、業界に先がけて、村田製作所と共同開発のIF用SAW(表面弾性波)フィルターを採用し、歪みの改善に優れた性能を発揮している。
 TX8900IIは、RF増幅2段と混合にデュアルゲートMOSFETを使い局部発振はバッファー付5連バリコン使用のFMフロントエンド、バンド切替とSAWフィルター採用のIF段、超広帯域直線検波器、新開発MPX用PLL・ICに特長がある。
 機能面では、エアチェックに便利な2個のICを使ったREC・レベルチェック信号内蔵、マルチパス端子とスピーカーにより、音で聞けるオーディオマルチパススイッチ、スライド式メモリーマーカーなどを備えている。

ビクター S-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、このところ、新しい価格帯として注目されている2万円台のスピーカーシステムとして開発された、S−5のジュニアシステムである。
 基本的な設計方針は、当然のことながらS−5と共通であるが、ウーファーの口径が20cmとなっているのが大きく変っている点である。このウーファーは、軽合金センターキャップ付で、フレームはアルミダイキャスト製である。なお、トゥイーターは6cm口径コーン型で、S−5に採用してあるユニットと同じものだ。
 S−5は、この種の2ウェイシステムとしては、バランスがとりやすい25cmウーファーをベースとしているだけに、帯域バランスがよく保たれ、メリハリが効いたコントラストがクッキリと付いた音をもっている。音色が明るく活気があるのは、やはりビクターらしい特長である。
 S−3は、S−5にくらべると低域が軽くなった反面、スケール感は小さくなる。一般的には、アンプ側のトーンコントロールで補整したほうが、トータルなバランスはよい。トゥイーターは、このクラスとしては粗さが少ないために、適度にクリアーで輝き、トータルなシステムに活気を与えているようである。

「カートリッジ・ヒアリングテストの方法」

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

ダイレクトカッティング盤を中心に試聴

 この種のオーディオコンポーネントの試聴で問題になるのは、試聴テストの原点である、0dBをどこにセットするかである。基本的には、従来から私の個人的な孝えではあるが、試聴テストにはいわゆる使いこなしはしないこと、を条件にしてある。カートリッジをベースとして、そのカートリッジの最大限の性能を引き出すために、併用するプレーヤーシステム、もしくはトーンアームを選び出すことはもちろん可能ではあるが、すべてのカートリッジにたいして、同程度のウェイトをかけて使いこなすこと自体が難しいことである上に、これはいわゆる試聴テストの枠をこした、使いこなしの領域のものであると思う。試聴テストはあくまで同一の設定条件のなかで、各テスト製品がどのように変化をし、どのような音を聴かせてくれたかに徹すべきである。オーディオに限らず、すべてコンテスト的要素のあることは、同一舞台上での比較にすぎない。
 コンポーネントシステムのもっとも入口に位置するプレーヤーシステムのなかでは、カートリッジが、トランスデューサーとして音を決定する最大の要素であることに異論はない。しかし本来は、カートリッジとトーンアームが一体化しているピックアップアームを、バーサタイルな組合せが可能であるように、カートリッジとトーンアームに分割したのが現状であるだけに、カートリッジの試聴テストをおこなう場合には、どのプレーヤーシステム、もしくはトーンアームを使用するかが大きな問題点としてクローズアップされてくる。そのため、テストに先だって、現在市販されているプレーヤーシステムの代表的と思われるモデルを数多く集めて準備段階での試聴をおこなってみた。
 その結果は、経験を含めて予測されたように、各システム間の格差が大きく、音質的な違いがはなはだしく存在していることを再確認することができた。一方、単体で発売されているユニバーサル型のトーンアームは、現在かなりの機種があり、その性能も高くプレーヤーシステムに使用されているトーンアームよりも一般的に高性能なものが多い。

試聴に使用した装置
 そこで、まず、トーンアームの選択からはじめてみることにした。現在のプレーヤーシステムでは、数は少ないが2本もしくは2本以上のトーンアームが使えるモデルがある。そのなかから、3本のトーンアームが任意に取付可能なプレーヤーシステムとして、基本的な性能が高く、ユニークなデザインをもつマイクロのDDX1000を選ぴ、これにより、トーンアームの選択をおこなった。
 10種類程度の候補アームのなかから、このプレーヤーシステムに、アダプター形式で取付可能なものの試聴を繰り返し、最後に3機種のトーンアームが残った。それらは、重量級のアームとして、ダイナミックバランス型を採用した、FR FR64、軽量アームとして、ユニークなダンピング方式を採用した、デンオン DA307、それに中間的な存在である、ビクター UA7045である。マイクロ DDX1000に、これらの3本のアームをセットし、各種の性格が異なったカートリッジを組み合わせ試聴した結果、平均的に各種のカートリッジの個性を引き出した、ビクターUA7045を使うことに決定した。
 トーンアームの選択が終れば、次はフォノモーターの選択である。フォノモーターはトーンアームの選択に使ったマイクロDDX1000の使用も考えられるが、できたら、第3世代のDD型フォノモーターとして注目を集めているクリスタルロックのDD型を使うほうが、話題のフォノモーターであるだけに好ましく思われる。これで、かなり候補モデルは限定され、結果としては、今回の持廻り試聴のメリットである、各人各様の異なったシステムを使って、現在のカートリッジを試聴することの意味を含めて、幸いに、私の試聴予定が岡氏、岩崎氏の試聴後であり、使用されたプレーヤーシステムが判かっていたために、ほぼ自動的に、ビクター TT101を使用することになった。結果的には、トーンアーム、フォノモーターともに異なった条件で選択していったわけだが、同じビクターの組合せになったため、プレーヤーべースも、当然こうなればビクター製を使うことにしたほうが妥当と考え、TT101システムをカートリッジ試聴のベースとなるプレーヤーシステムとした。
 このプレーヤーシステムは、聴感上での帯域バランスが安定しており、周波数レンジでも、現在のカートリッジ試聴用として充分な広さがある。音の傾向は、低域の量と質のバランスが保たれ、安定した音であり、中域は充実しているが、中高域の一部にわずかながら輝きがあり、そのあたりでは、やや音の分離が他の帯域にくらべて気になる面が残る。高域は比較的に素直に伸びた感じがあり、強調感が少ないメリットがある。
 使用するアンプは、本誌臨増「世界のコントロールアンプ/パワーアンプ」での試聴結果をベースとして考えた結果、コントロールアンプ、パワーアンプともに、リファレンス用として使い、充分に性能を発揮した、マークレビンソン LNP2とマランツ モデル510Mを選ぶことにした。
 この組合せは、コントロールアンプ、パワーアンプともに現代のセパレート型アンプにふさわしい性能と音質を備えている。
 聴感上のSN比とクロストーク特性が優れ、パワーも、新しいレコードがもつピークを充分に再生できるだけの余裕がある。この組合せは、聴感上で、かなりワイドレンジ型の帯域バランスであり、低域、高域ともに、伸び切った音であるが、中域はやや薄い傾向がある。
 スピーカーシステムは、私の場合には、いつものように試聴場所をステレオサウンド試聴室としたために、JBL 4320を使うことにした。このスピーカーシステムは、このところレギュラーに本誌試聴室で使用しているために充分にエージングが済み、音が安定しているメリットがあることと、このシステムが中型フロアータイプともいえるブックシェルフ型と大型フロアー型との中間的存在であり、プレーヤーシステムの選択の一部条件としたテスター各氏の使用スピーカーシステムとコントラストをつける意味もある。
 JBL 4320は、このモデルをベースとして改良した4331と比較すると、やや聴感上の周波数帯域が狭く、帯域バランス上では、比較的に中域の量感があるのが特長である。低域は大型フロアーシステムのように伸ぴてはいないが、ブックシェルフ型やコンシュマー用の中型フロアーシステムよりは量感があり、高域も必要にして充分な伸びがあり緻密さがあるのが特長である。

使用レコード
 プログラムソースには、マイクロフォンからの信号をテープデッキを通さずに直接カッティングレースに送りこむ、ダイレクトカッティング盤を中心にして選ぶことにした。現在までに、ダイレクトカッティング盤として発売されたディスクのなかから、かつてコロムビアでカッティングした45回転のダイレクトカッティング盤を6枚、米シェフィールドレコードの第2集、第3集、それに最新盤を含めて3枚、その他に、日本フォノグラムから発売されている「ザ・スリー」を選んで今回のメインプログラムソースとした。
 合計123個のカートリッジは、編集部で各カートリッジメーカーに問い合せて決めたヘッドシェル、もしくは、もっとも相応しいと判断したヘッドシェルに取り付けてあり、各カートリッジの外形寸法的な違いからおきるオーバーハングの誤差は、取付時に調整してヘッドシェルのネック部分と針先位置間の寸法は一定にセットしてある。
 針圧は、カートリッジの試聴で、もっとも問題のある部分である。一般にカートリッジの針圧は、ある値からある値の間で指定してあることが多く、場合によれば、この他に標準的な針圧が発表されていることも多い。今回は、原則として指定針圧の幅のなかでの最大値にセットすることにした。この場合、最大値では、見かけ上で針先が沈み込み過ぎる状態になるときには試聴をおこないながら、ほぼ標準的と判断できる値にまで針圧を減らす方向でコントロールをすることにした。なおこの場合の針圧は、ビクター UA7045の針正目盛で読んでいるため、精密な針圧ゲージでの値とは、ある程度の誤差は生じていると思われるが、試聴結果に影響を及ぼすほどの誤差ではない。また、インサイドフォースキャンセラーは、今回は使用せず、常時、0位置にセットしてある。なお、当然のことながら標準としたプレーヤーシステムは、前後左右の水平度を確認し、できるだけニュートラルな状態として使用した。
 なお、低出力型のMCカートリッジには、昇圧用トランスが必要であるが、各モデルともに、メーカー、もしくは輸入代理店で指定したトランスを使用することを原則としており、一部の指定トランスがないモデルの場合には、ユニバーサル型の、昇圧トランスFRFRT4を使うことにした。

ビクター S-5

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムは、共通して音色が明るく、活気のある音をもった製品が多くなっているが、このビクターの新製品も、現在流行しているディスコサウンドやクロスオーバーなどの、ジャズロック系のプログラムソースにマッチした、力強くいきいきした音を狙ってつくられたスピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、前後のバッフルに比重が大きい針葉樹系高密度パーチクルボードを、側版には硬質パーチクルボードを合板でサンドイッチ構造にした特殊ボードを採用し、トータルな音の響きをコントロールするとともに、マルチダクトをもつバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーと6cmコーン型トゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムである。ウーファーは、アルミダイキャストフレームを使い、コーン紙には米ホーレー社製の、腰が強く軽い、ハイ・ヤング率コーンが選び出され、コーン紙中央のキャップは、分割共振が少ない特殊合金製で、いわゆるドーム鳴きを抑えながらクロスオーバー周波数付近のレスポンスをコントロールしている。
 トゥイーターは、ウーファーと同様に、ホーレー社製のコーン紙を採用したコーン型で、最高域のレスポンスを補整するために軽合金製キャップが付けてある。
 各ユニットのクロスオーバー周波数は、2000Hzと発表されているが、クロスオーバーネットワークのコイルには、磁気飽和が高いケイ素鋼板コア入りのタイプを使い、高耐入力、低歪率設計である。なお、レベルコントロールは連続可変型である。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 完成したコーネッタのエンクロージュアには、295HPDとIIILZ MKIIの新旧2種のユニットを用意して試聴再確認をおこなうことにする。この場合、295HPDは、このユニットのデータを基準としてエンクロージュアが設計してあるため問題は少ないが、IIILZ MKIIについては、まったく振動系が異なるため、あくまでテストケースとして使用可能かがポイントになる。なお、IIILZ MKIIでは、低域に何らかのコントロールをする必要があるが、バスレフのポートの全面もしくは一部に吸音材を入れる方法か、板をポートの幅か高さに合わせてカットし、その量を調整する方法が考えられるが、今回は、ポート断面の半分に吸音材を入れた状態が、かなり好結果をしめした。
 295HPDをプロトタイプに入れると壁面を離れたフリースタンディンクの状態でも、低域から中低域にかけて量感が増し、中域が薄く聴える、いわゆるカブリをおこし、ネットワーク補正後でも、コーナー位置ではかなり低い周波数にウェイトをおいたバランスで、音としてはグレイドが高いものであったが、いわゆるタンノイの音のイメージとは、かなり異なった音である。
 最終モデルのコーネッタは、コーナー位置でオートグラフを想い出すバランスと音色を狙っただけに、低域が柔らかく量感があり、中域はわずかに薄く、高域が輝く、タンノイ的バランスの音である。しかし、ユニット自体がワイドレンジ型であるため、トータルの音は、柔らかく、キメが細かいソフトなものとなり、いわゆるタンノイの硬質な魅力とは、やや異なった現代型の音色である。この音はスケール感が大きく、コーナー型特有のピンポイント的なクリアーな音像定位と、充分に引きがある空間のパースペクティブを聴かせる特長があり、あきらかに、ブックシェルフ型エンクロージュア入りの295HPDとは、大きく次元が異なった別世界の音である。
 IIILZ MKIIにすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独得の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音は、すでに存在しない旧き良きタンノイのみがもつ燻銀の渋さと、高貴な洗練さを感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。
 カートリッジは、エレクトロ・アクースティックのSTS455Eや、オルトフォンのVMS20E、M15Eスーパーが柔らかく透明になるソフトでデリケートな音であり、オルトフォンのSPUシリーズが音のくまどりが鮮やかで密度が濃く格調の高い音となるが、とりわけSPU−Aが抜群の音である。アンプは、295HPDには50Wクラス以上のハイクォリティなソリッドステートタイプが現代的な伸ぴやかで粒立ちが細かい音で相応しく、IIILZ MKIIには、ソリッドステートタイプでも充分であるが、パワーアンプには、少なくとも30Wクラス以上の管球タイプを使うと磨きこまれたまろやかな、柔らかく拡がる音場空間をもった立派な音となって、素晴らしい音を聴かせる。

「最新カートリッジ123機種を聴いて」

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 合計123個の内外のカートリッジの試聴をおこなったが、もっとも重要なポイントとしてクローズアップされたことは、本質的な試聴を終えての感想ではなく、試聴以前のリハーサル的な試聴における、カートリッジとそれを組み合わせるトーンアーム、もしくはプレーヤーシステムとの間にある問題である。
 最近のプレーヤーシステムは、以前のような、プレーヤー構成部品であるカートリッジ、トーンアーム、フォノモーターを集めてプレーヤーべ-スに取り付けた、いわゆるアッセンブリー型プレーヤーが少なくなり、各構成部品がデザイン的にも、性能的にも有機的に結びついたプレーヤーシステムとしての完成度が高くなっている。
 それとは別に、DD型フォノモーターが商品化されて以来、プレーヤーシステムの焦点はフォノモーター中心に発展してきた。
 モーターの駆動力が、それまでのベルトを介さずに直接ターンテーブルをダイレクトに回転させる駆動方式の転換に主な意味があった第1世代のDD型から、ターンテーブルが1回転する間に回転数を制御するチェックアウトポイントの数を増加して、回転数をよりムラなくコントロールする、FGサーボに代表される第2世代のDD型。さらに、回転数の増減をプラス方向マイナス方向ともに制御可能であり、かつ、回転数の基準を正確なクリスタルを採用して規制をする現在の第3世代のDD型にまで発展してきた。
 たしかに、これらのターンテーブルの改良発展によって、結果的な音質が大幅に向上していることに異論はないが、プレーヤーシステムとしてトータルで考えると、ややトーンアームの問題が取り残されているように思われる。現在のプレーヤーシステム間の音の違いは、一般に考えられているよりははなはだしく大きく、同じカートリッジ同じディスクを使ってその差を比較すると、まさに驚くべき格差があり、少なくとも、現在すでに高水準にあるプリメインアンプと比較すると問題にならぬほど大きく、もっとも大きく音を支配するといわれるスピーカーシステムと比較しても、スピーカーシステムのように、設置場所によるコントロールが不可能に近いだけにこの差のもつ意味は、かなり大きいと受け取らなければならない。
 プレーヤーシステム間の音の差の原因として考えられるのは、その大半がトーンアームにあるようである。実際に、今回のカートリッジ試聴で最後までつねに問題として残ったのは、トーンアームの選択が妥当であったかどうかである。
 現在のカートリッジは、CD−4システムが発表されて以来、急速に性能が向上しているだけに、トーンアーム側はユニバーサル型を原則としている限り、大きなネックにさしかかっているようだ。ある意味では、広範囲なカートリッジの使用を前提とするユニバーサル型トーンアームは限界に達しているようである。トータルなシステムとして考えると、完成度が高まったとはいえ、なお、コンポーネントシステムのなかでは、プレーヤーシステムがもっとも多くの問題を残しており、音が良いプレーヤーシステムが出揃うまでにはかなりの時間が必要であろう。
 今回の試聴を終っての感想は、平均的にカートリッジの性能が高くなったという、月並みな結果であり毎度このような試聴をおこなうたびに感じることと同様な結果である。とくに、国内製品では、各メーカー間の個性が薄れて平均化しているのは、他のプリメインアンプやスピーカーシステムと同じ傾向であり、各メーカーの基本的な技術水準が向上して接近していることを物語るものであろう。このことは海外製品でも同様で、新しい製品は物理的な性能が高くなった反面に、音色的な個性は徐々に少なくなる傾向が感じられる。とくに、内外を問わず、CD−4システムに使用可能な高価格のモデルは、音が平均化する傾向が強いのは、大変に興味深い事実である。当然、コンポーネントシステムが高級なクォリティが高いものとなれば、平均化したなかでの差が大きな要素としてクローズアップされてくるが、平均的なコンポーネントシステムを使用するという条件があれば、その差はかなり縮まるはずである。
 今回の試聴では、テストの方法で書いたような条件を設定し、その場での音についてのリポートをすることにした。したがって、従来からの個人的な使用での先入観的な各カートリッジの音色は、まったく、今回の試聴リポートには関係なく、結果としては、経験上の音色とかなり異なったカートリッジも多い。おそらく、プログラムソース側でのディスク自体がかなり発展して質的な向上をしていることも原因であろうが、アンプ関係の性能向上も大きな要素となっていると思われる。また、今回の試聴により、従来から潜在的に、各カートリッジに感じていたことが、デメリット的に表面に問題として出てきた場合もあり、逆に、可能性としてメリットとなって、あらためて認識し、確認した例もある。やはり、カートリッジが、現在ではプレーヤーシステム、とくにトーンアームと分割されたひとつの部品として存在していることが、このように変化する要因であろうし、長期間使ってかなり判かっていたはずのカートリッジでさえも、的確に音が捕えきれない理由ではないかと思われる。
 今回の試聴で注意して聴いたポイントは、一般的なコンポーネントシステムに共通な、聴感上の周波数レンジ、周波数帯域内での量的と質的なバランス、ステレオフォニックな音場感、つまり、左右の拡がり、前後の奥行き、音像定位と音像の大きさなどがある。
 個人的な意見としては、コンポーネントシステムのなかではスピーカーシステムとアンプが基本であり、カートリッジを含めたプレーヤーシステムは、FMチューナーやテープデッキと同様にプログラムソースであると単純に考えるべきものと思う。現在のように任意にカートリッジが交換できるプレーヤーシステムでは、カートリッジはプログラムソースであるディスクとその内容によって決定するべきであろう。音的には現在のカートリッジはかなりの水準に達しているが、音楽を聴くことになれば、物理的な音としてのクォリティが高いとしても、それがすべてではない。例えば、多くの米国系のカートリッジでは、ドイツ系のオーケストラがもつ音色を充分に聴かせることが難しく、ドイツ系のカートリッジで、ロックやソウルのエネルギッシュでビートのあるリズムを聴くことは、どうにも場違いな感じが強い。しかし、このサイドに踏み込むと、用意するプログラムソースの幅が広くなり、細かく試聴を重ねていくだけの充分な時間も現実に不足するのは、試聴カートリッジの機種が多いだけに当然であろう。
 今回は、テスターが各人各様の試聴をする持廻り試聴でもあるために、基本となる音的な問題に限定して試聴をし、リポートをすることとし、音楽的な問題は、その、ほとんどを割愛することにした。
 試聴リポートに出てくる低域のダンピングという意味は、トーンアームを含んでの低域の量と質との兼ねあいに関係がある、感覚的なダンピングで、一般的なダンピングが効いた音などと表現されるものと同様に考えていただいてもよいと思う。また、聴感上のSN比とは、聴感上でのスクラッチノイズの性質に関係し、ノイズが分布する周波数帯域と、音に対してどのように影響を与えるかによって変化をする。物理的な量は同じようでも、音にあまり影響を与えないノイズと、音にからみついて聴きづらいタイプがあるようだ。また、高域のレスポンスがよく伸ぴ、音の粒子が細かいタイプのカートリッジのほうが、聴感上のSN比はよくなる傾向があった。

パイオニア SA-8900II, SA-8800II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 パイオニアのプリメインアンプとしては中堅機種であるSA−8900/8800が、音質重視の最新回路技術を導入して、IIシリーズに発展改良された。
 新シリーズ共通の特長は、SN比を高め、低歪率化をするために、使用部品を厳選するとともに左右チャンネル間の干渉を防ぎ、音質を向上する目的で電源部には左右チャンネルが独立した、2電源トランスを採用している。
 SA−8900IIは、イコライザー段に初段差動3段直結A級SEPP型アンプを採用し、最大許容入力300mV、RIAA偏差±0・2dB以内という特性と、負荷抵抗、負荷容量ともに、4段に切替わるカートリッジロードスイッチが付属している。トーンコントロールは、パイオニア独自のツインコントロールで、初段差動の2段直結アンプを採用している。
 パワーアンプは、差動2段の全段直結ピュアコンプリメンタリーOCLで、パワートランジスターは並列使用で80W+80Wのパワーがある。
 電源部は、ドライバー以後出力段まで、左右チャンネルが独立した巻線と電流回路をもち、さらにプリアンプ部とパワーアンプ部のプリドライバー段まで、左右独立した安定化電源をもっている。
 SA−8800IIは、イコライザー段の構成は似ているが、許容入力が250mVになり、カートリッジロード切替は、容量だけが4段切替である。トーンコントロールは、ターンオーバー3段切替のレギュラータイプになっている。なお、パワーアンプは、似た構成だが、60W+60Wのパワーである。これ以外については、ほぼSA−8900IIと同じ特長をもっている。

スタントン 500AA, 600EE, 680EL, 680EE, 681EE, 681EEE

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 スタントンは、米国系のカートリッジとしては、素直で標準的な音をもち、個性的な魅力を聴かせるタイプでないのが珍しい。
 681EEEは、音の粒子が細かくスッキリとして磨き込まれている。聴感上の帯域はフラットで爽やかによく伸びている。音に汚れがなく、滑らかで美しさがあるが、表情がおだやかで、やや控えめである。ヴォーカルは少し線が細く、キレイではあるが、力感が不足気味で実体感が薄らぎ、ピアノは澄んだ透明な感じが美しいが、迫力に乏しく、スケールが充分に感じられない。クォリティは充分に高く、音場感はホールトーン的によく拡がり、音像も平均的に立つ。このカートリッジは、力強い表現には向かないが、線が細くキレイな特長は、それなりにかなりの魅力があると思う。
 681EEは、EEEよりもスッキリとしてクリアーな音である。粒立ちはやや粗いが、SN比で気になることはない。帯域バランスはフラット型でカラリゼーションは少ないタイプである。低域は質感がよく音の変化がわかりやすい。ヴォーカルは、スッキリとして、ややハスキー調で子音を強調するが、バランスは崩れず、明るい感じがある。ピアノは、カッチリとした音で、響きも美しく、スケール感もある。細部のニュアンスを拾い出して美しく聴かせるところは、681EEEが優れるが、バーサタイルに使用する場合には、この681EEの方が、爽やかで明快な音をもち、音色が明るく開放感があって使いやすいと思う。
 680ELは、粒立ちが粗く、SN比が気になる。低域から中低域は腰が強く、エネルギーが充分にあって安定度は大きいが、中域以上は明快だが線が太く、しなやかに細部を拾い出して聴かせるわけにはいかない。
 680EEは、粒立ちは、681EEより粗くなり、SN比が少し気になる。帯域バランスはナチュラルで、全体の音はソリッドに引き締まり、適度に音にコントラストをつけて、フレッシュに聴かせる。低域は標準型で甘すぎず、安定しており、中域以上の音をよくサポートしている。ヴォーカルは、ストレートな感じで押し出しがよく、ピアノもカッチリとスケール感がある。
 600EEは、メリハリ型のクッキリとした音である。やや線が太く、骨組みがシッカリとして男性的な感じがあり、低域の腰が強く、エネルギーがタップリとあって堂々とした安定感のある音が特長である。ヴォーカルは子音を強調気味でハスキー調となるが、音像は大きく、前にグッと出て定位する。ピアノはアタックの力が強くダイナミックにスケール感があって、よく鳴る感じだ。トータルバランスはよく、安定した音をもつが、粒立ちは粗く、SN比が少し気になる。
 500AAは、全体に音にラフな感じがあり、充分の力感がないために、表面的に音にコントラストをつけて聴かせる傾向がある。中低域から低域は安定しているが、中域以上は粗く、やや硬調で、音の密度もあまり濃いタイプではない。

ソナス Red Label, Blue Label

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ブルーラベルは、全体にサラリとしたストレートな現代的な音をもっている。聴感上の帯域は標準的なバランスをもつが、メリハリが効いているために、ややハイファイ調にいかにも音の分離がよいように聴こえるタイプである。低域は、最低域が重く感じられ、その上が少し弱く、結果としてやや抑えられたように感じることもある。中低域は質感が軽く響きはキレイだ。性質は少しドライで割切りのよい特長がある。
 レッドラベルは、コントラストが強い押出しのよい音をもっている。メリハリが効いた明快な感じは開放感があり、力強く男性的である。この音はややラフではあるが力感があるために、ストレートな、もって廻らぬ、一種の説得力があり、好みにより結果は大きく分かれるタイプであろう。

シュアー M75G TypeII, M91GD, SC35C, M95ED, V15 TypeIII

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 シュアーは、当初からMM型の発電方式を採用したカートリッジをつくりつづけており、ステレオ初期以来、つねに新製品は、数々の話題を投じている。音色は、適度にコントラストがついた、耳あたりがよく活気がありキレイに音を聴かせる、いわば演出型の音が他にない個性となっている。
 V15/IIIは、粒立ちはまず標準的という感じで、最近の高級カートリッジと比較すると、さして細かさは感じられない。帯域バランスは、低域から中低域に独得なスケール感を感じさせる音があり、中域から中高域にも、やや硬調な効果的に輝く個性がある。ヴォーカルは、ちょっと聴きには、スッキリと抜けてニュアンスが充分にわかる感じがあり、音像がクッキリと立つタイプであるが、聴き込むと、キリッとした輪郭がなく、ピアノはスケール感はあるが低音が甘くベトつき気味である。プログラムソースにはフレキシブルに対応して気持よく聴かせる特長がある。高級コンポーネントシステムよりも、中級以下のシステムの場合に見事な音を聴かせる傾向があるが、システムのクォリティが高くなると、薄味の華やかさになり、音がベタツキ気味になるのが興味深い。
 M95EDは、柔らかく耳あたりがよい音をもっている。中低域に量感があって、軽くよく響くが、やや粘る感じもあって奇妙にスッキリと爽やかにならない面がある。ヴォーカルは表情が甘く、声量がなく、オンマイク録音のように細部を見せるが、表現が表面的で実体感が乏しいようだ。ピアノはソフトで適度に輝くが、クリアーにカッチリとした音にならない。
 M91GDは、低域のダンプが適度であり、音の粒子は上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比がときおり気になることがある。音の傾向は、M95EDよりもクリアーでスッキリとした感じがあり、暖かみがあり、ベトツキがなくなっている。低域は、量感があって、少し甘く感じられるが、弾力性もあってリズミックな表現も充分にこなすだけの力量がある。ヴォーカルは、子音を強調気味でハスキー調となるが、適度にコントラストをつける効果があり、力感もあるために、スッキリとクリアーな印象がある。ピアノは、スケール感もかなりあって、響きが美しく明快である。トータルバランスはかなりコントロールされて巧みにとられているために、音の魅力ではM95EDを上廻り、活気があり、リズミックに音を楽しく聴かせるメリットが大きい。
 SC35Cは、帯域が狭く、線の太いマクロ的に音をまとめるタイプだ。粒立ちは粗くノイズが耳ざわりである。低域から中低域にかなりエネルギーが感じられる、腰が強いソリッドなメリットをもつが、全体に音が大味にすぎて、細部の表現がかなり不足する。
 M75G/2は、粒立ちは粗いタイプだが、あまり聴感上のSN比が劣化しない特長がある。帯域はナローレンジ型で、全体に音の傾向は甘く柔らかい。普及型システムと使うと、安定した面白味がある音になる。

ピカリング V15 MICRO IV/AT, XV15/400E, XV15/1200E, UV15/2000Q, XUV/4500Q

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ピカリングは、LP時期からカートリッジメーカーとして有名で、ステレオになってからは、普及モデルから徐々に高級モデルに発展し、現在では一連のシリーズ製品として製品が多い。音色は、伝統的に明快で力強く、やや乾いたストレートな音を守っているのが特長である。
 XUV/4500Qは、音の粒子は、この種のタイプとしては、あまり微粒子型でなく芯がカッチリとした特長がある。帯域バランスは、かなりワイドレンジ型だが、低域は引き締まりソリッドで力強い。中低域は豊かさがあり響きもあるが、中域以上は、やや硬調で明快でスッキリとした魅力をもつが、乾いた感じがあり、艶が不足する場合もあろう。組み合わせるスピーカーシステムやアンプは、聴感上で、いかにもワイドレンジを感じさせる両サイドが上昇する傾向のタイプは避けるべきで、古いタイプのフロアー型や、両サイドが、ゆるやかに下降するレスポンスをもつAR的なブックシェルフ型スピーカーがよい。
 XV15/1200Eは、粒立ちは、XUVよりも粗いが充分なSN比はある。音の傾向は、ウォームトーン系で、低域から中低域の量感が豊かで拡がりを感じさせる響きがある。音色は明るく伸びやかさはあるが、表情がマイルドで、スッキリとした爽やかさが必要と感じる場合がある。全体に線を太く表現するため、音の輪郭はあまりクッキリとせず、音像も大きくなるタイプである。マクロ型に音をまとめ、安心して聴けるところが、このカートリッジの特長である。
 UV15/2000Qは、XUV/4500Qと同様にCD−4システムに使用できるモデルである。粒立ちは細かいタイプで、帯域バランス上、やや中域が薄い感じがある。低域はソフトで甘く、中域はやや硬く乾き気味である。ヴォーカルは落着いた感じだが、やや子音を強調気味でハスキー調となるがあまり気にはならない。全体に耳あたりがよく、おだやかであり、やや硬質の中域以上が適度のコントラストをつける良さがあるが、XUV/4500Qほどの力感が伴わないために表現不足となり、表面的になる傾向があり、抑揚が乏しく感じられる。音場感は、ホールトーン的な響きが拡がりを感じさせるが、音像はさほど明瞭に立つタイプではない。
 XV15/400Eは、上級モデルよりも粒立ちが粗くなり、ときには聴感上のSN比が気になることもある。低域のダンプは標準型か、少し甘いタイプである。聴感上の帯域は、このクラスとしてはよく伸びていて、低域の腰が強く中高域は明快で、やや乾いたピカリングトーンである。ヴォーカルは、子音を強調気味だがスッキリとした感じであり、ピアノは適度にスケール感があり響きもキレイである。低域に少し重い感じがあり、反応のテンポが遅く感じられる場合がある。
 V15MICROIV/ATは、粒立ちはラフで聴感上のSN比が気になるタイプである。線が太く、帯域が狭いバランスであるが、まとまりはよく安定感がある。価格からすれば力もあり、耳あたりがよく商品性は高い。

オルトフォン SPU-G/E, SPU-GT/E, SPU-A/E, SL15EMKII, SL15Q, MC20, VMS20E, M15E Super

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 SPU−A/Eは、指定されたSTA384トランスを使う。このトランスは、1・5Ω対20kΩの変成比をもつタイプだ。
 聴感上の帯域バランスは、低域から中低域にウェイトをおいた安定型であるが、音色はややウェットで重く、表情は控えめで、やや抑えられた感じがある。ヴォーカルは線が太くおだやかではあるが、中域の粒立ちが関係してハスキー調で子音を強調気味となり、力がなく音像が大柄になる。ピアノは、スケール感は充分にあり、ソリッドな感じがあるが、低域が甘く、ベタつき気味となり、表情が散漫になってリズムに乗らない面がある。音場感は、やや左右の拡がりが狭く、前後のパースペクティブも、さしてスッキリと表わせず音像がやや大きくなる。
 SPU−G/Eは、指定の1・5Ω対1・5kΩのSTA6600トランスを使う。A/Eよりも全体に音の輪郭がシャープとなり、音の彫りが深く緻密でクリアーである。聴感上では、低域が少し量的に多く、やや質感が甘い傾向があるが、中低域のエネルギー感がタップリあり、重厚で安定した、押出しの良い音である。音場感は、A/Eよりも、クリアーに拡がり、音像定位もシャープでクッキリと立つようになる。低域は、やや反応が遅く、ロックやソウル系の早いリズムには乗りにくいようだ。
 SPU−GT/Eは、低域のダンプが、SPUシリーズ中でももっとも甘口であり、聴感上のSN比も少し気になる。全体に線が太い音で、密度が不足し、表現が表面的になる傾向がある。低域は量感はあるが甘く、重い音で、ヴォーカルは、ハスキー調となり、やや、力感不足となる。
 SPUシリーズは、基本的構造が同じであり、音を大きく変える要素は、トランスである。指定トランスを使って聴いたが、今回は経験上での音と、かなり異なった音となった大半の原因は、このあたりにあると思う。
 SL15E MKIIは、STM72Qトランスを使った。全体に、やや硬調で、コントラストを付けて音を表現するが、適度に力があり、密度が濃いために安定した感じがある。ヴォーカルは、明快でハスキー調となり、ピアノは、硬調で輝やかしいタイプである。
 SL15Qは、粒立ちが細かく、軽く滑らかで現代的傾向が強い音だ。中低域は甘口で拡がりがあり、中高域は爽やかで柔らかさもある。ソフト型オルトフォンといった感じが強い。
 MC20は、最新モデルである。粒立ちは細かく、表情は、SL15Eよりも明るくゆとりがある。ヴォーカルは誇張感なくナチュラルでピアノもおだやかになる。全体にマイルドで汚れがなくキレイな音をもっている。
 M15E SUPERは、柔らかく豊かな音だが、中域から中高域は粒立ちがよくクりアーである。細部をよく引出し独得な甘く柔らかな雰囲気で聴かせる魅力は、大きい。
 VMS20Eは、M15Eよりも、全体にソフトな傾向が強く、力強い押し出しがなくムード的に音が流れやすく表情が甘い。

グラド FCE+, F-3E+, F-1+

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 グラドは、ステレオ初期に高出力型のMCカートリッジを出し、そのクォリティの高さにより、当時の高級ファンに愛用者が多かったが、最近では、マグネチックタイプの、いわゆるMI型の発電方式を採用した一連のシリーズのカートリッジで、安定した評価を得ている。
 F1+は、現在のグラドのトップモデルである。全体に歪感がなく、滑らかでソフトな音をもっているために、ちょっと聴きでは際立った印象を与えないが、クォリティは充分に高く、長期間にわたり聴き込んでいくと、だんだん魅力が出てくるタイプの音である。
 音の粒子は細かく、よく磨き込まれており、軽く滑らかで明るい音色をもっている。ヴォーカルは力強さを感じさせるタイプではないが、細かいニュアンスがわかり子音を強調せずにナチュラルである。ピアノはややスケールが小さくなる傾向をみせるが、ソフトで柔らかく、よく響き軽快に鳴るタイプである。
 ステレオフォニックな音場感はよく拡がり、前後のパースペクティブな感じもよく出すが、スピーカーとスピーカーの奥深く拡がるタイプである。音像は比較的クッキリと立ち、定位も安定している。
 F3E+は、中低域がかろやかで、よく響くところは、F1+と似ている。ただ、音の粒子は少し粗くなり、中域から中高域にかけて、わずかに強調感があるように感じる。全体の音の傾向は、明快でメリハリが効いた一種のリアルさがあり、F1+よりも音のコントラストがクッキリと付くが、中域が充実し低域がサポートをしているために安定感が感じられるのがよい。このクラスの製品としては力感があり、トータルバランスがよいが、低域はやや甘口である。
 FCE+は、海外製品としてはもっとも安いクラスの製品である。全体に中域を重視した比較的カマボコ型のレスポンスを感じさせる。低域はやや量的に抑えられており、締まったメリットがあるが、スケール感が小さくなるようだ。粒立ちは粗く、ヴォーカルはハスキー調となり、音像が大きくなる傾向がある。

ゴールドリング G900SE

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 ゴールドリンクは英国系の数少ないカートリッジメーカーとして貴重な存在である。
 G900SEは、キメの細かい軽やかな音をもっている。とくに、中低域が独得な軽い響きでフワーッと鳴るのが楽しい。ヴォーカルは、ソフトな感触でマイルドに耳あたりがよく、子音をスッキリと出す。おとなしいがそれでいて芯があり、響きが美しく柔らかにハモルのは魅力である。ピアノはさしてスケール感がないが暖かくよく響く。ステレオフォニックな音場はよく拡がり、前後方向のパースペクティブをナチュラルに表現し、音像定位がスッキリとしている。リアルな音ではないが、感覚派のオーディオファンに好まれるタイプで、クォリティは高い。表情はちょっとクールな感じがあり、リファインされた女性的な印象がある。

EMT XSD15

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 本来は業務用に開発されたEMTの製品は、コンシュマー用としては特殊な存在で、独得なキャラクターをもっている音は標準的な音とはいえないが、オーディオ的な魅力は充分に持っていると思う。
 XSD15は、アダプターを使わずに一般のアームに取付可能となった、TSD15の変種製品である。今回は出力電圧がかなりあるためトランスなしで使用することにした。このカートリッジは音の密度が高く、重厚で力強い音をもっている。全体の音の傾向は進歩がいちじるしい現代のカートリッジのなかにあると、やはり古典的で粒立ちが粗く、細やかな表現は不得手なタイプである。音の輪郭をクッキリとコントラストをつけて聴かせる点では比較するものがないが、表情が硬く弾力的ではないために、リズミックに音が決まらないもどかしさがある。

エンパイア 2000E, 2000E/III, 4000D/I, 4000D/III, 2000Z

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エンパイアのカートリッジは、発電方式に独得なマグネチックタイプのMI型を採用していることが特長である。音の傾向は、普及モデルから、高級モデルまでかなりの変化を見せるが、トータルバランスが優れ、洗練された都会的な感覚が共通の魅力である。
 4000D/IIIは、粒立ちが滑らかで細かく、聴感上の周波数レスポンスが充分に伸び切っていながら、あまり中域の薄くならないのが特長である。音の傾向は、軽く艶やかで、陰影が色濃く、グラデーションの微妙な変化を見事に表現する。ヴォーカルはバックとのコントラストがナチュラルにつき、ピアノはまろやかで艶めいて響く。他のカートリッジよりも楽器の数が多くなったような多彩な音色があり、ハーモニーがとりわけて美しく感じられる。音場感は広い空間を感じさせるように拡がり、パースペクティブな感じや、音像の立ちかたが自然である。
 4000D/Iは、D/IIIよりもかなり粒立ちが粗く、SN比が気になる、音の傾向は、コントラストがついたメリハリ型で、線は太く、ちょっと聴きには粒立ちがよく聴けるタイプである。性質は、かなり、カラリと開放的だが適度の抑えがきいて、伸びやかな明るさがある。若い未完成の魅力があり、マクロ的に音をまとめるメリットをもつ。
 2000Zは、最新のモデルで、かつての1000ZE/Xを継ぐ位置にある製品と思われる。粒立ちは細かくシャープであり、クールな感じのストレートな音である。トータルなバランスや音色はエンパイアであるが、スッキリと切れ込む音に、フレッシュで爽やかな印象がある。帯域バランスはこのクラスとしては平均的と思うが、中域のエネルギーがかなり強く押出しはよいが、ドライな感じが特長である。音場感は、スッキリと拡がり、音像もシャープにクッキリと定位する。現代のカートリッジらしい割切った小気味がよい音だが、エンパイアの高級モデルにある独得な完成度が高く洗練された雰囲気や味わいは、かなり薄らいだようだ。2000シリーズの他のモデルとも異なった、新しい傾向の音であることが面白い。
 2000E/IIIは、落着いた、おだやかな感じの音をもっている。音の傾向はウォームトーン系で、帯域バランスはよくコントロールされていて、高域・低域ともに過不足はなく、両サイドはなだらかにレスポンスが下降しているように聴かれる。低域は甘口で柔らかく、中低域に間接音成分が多い豊かな響きがあり、中域以上はさして粒立ちの細やかさはないが、磨かれている感じがあり、ソフトで耳あたりがよく、カラリゼーションは少ないタイプである。ヴォーカルは大柄になり音像が大きく、表情は甘くなり、大味である。全体のまとまりは優れるが音の鮮度は落ちる。
 2000Eは、E/IIIよりも音色が軽く、やや乾いた感じがある。帯域バランスは低域がある程度のところからシャープにカットされた感じがあり、中低域は軽く響き、中域以上は粗粒子だが硬くはならない。価格を考えるとE/IIIよりも魅力的である。

Lo-D HS-503

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーシステムの新製品では、バスレフ方式の復活とともに、フロアー型システムが多くなってきたことも、最近の傾向といってよいだろう。
 HS−503は、トールボーイ型のエンクロージュアを採用したフロアー型の新スピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、グレイのサランネットとブラック仕上げ塗装とのコンビネーションで、いわゆるモニターシステム的な印象がある。このエンクロージュアは、サランネット下側の部分が4本のネジで取外し可能な構造になっており、取外せばバスレフ型、スペーサーを介してサブバッフルを取付ければバスレフ型と密閉型の中間特性が得られるダンプドバスレフ型、さらに、フェルトパッキングのついたサブバッフルをエンクロージュア本体に固定すれば密閉型と、使用条件と好みにより3機種の変化をもたせることができる。
 ユニット構成は、ドロンコーン付と想われやすいが、ウーファーはギャザードエッジをもつ20cm口径のL−202を2本パラレルにしたツインドライブ型である。このユニットは、磁気回路にショートリングが付き、コーン紙にはラテックスが塗ってあり、歪を減らし、ボイスコイルボビンにはアルミを採用し温度上昇を抑えてある。トゥイーターは、比較的に口径が大きい7cmコーン型で、f0が低く、軽量コーン紙の採用で能率が高い特長がある。

エレクトロ・アクースティック STS155-17, STS255-17, STS355E, STS455E, STS555E, STS655-D4

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 エレクトロ・アクースティックのカートリッジは、ステレオ用として初期から完成度が高いMM型の製品があり、米シュアーと双壁をなした存在であった。音色は、やや乾いたソりッドなものであるが、最近では、滑らかさ、柔らかさが加わり、現代的傾向が見られる。
 STS655D4は、CD−4システム用のモデルで、音の粒子が微粒子型で滑らかさがある。低域はソフトで甘く、中低域あたりに間接音成分がタップリとつき、厚味はあまりないが、薄くしなやかで強調感がないナチュラルな暖かみがある。
 STS555Eは、粒立ちが細かく、適度の帯域バランスが保たれた安定した音をもつが、低域が甘く、中域の密度が不足しがちで、音がピタリと決まらない面がある。表情はストレートで、やや素気なく、抑揚を抑える傾向がある。ヴォーカルは柔らかくゆとりはあるが、細身となり軽くなる。ピアノはキレイだが、やや実体感が乏しい。音場感は、柔らかな拡がりがあるが、音像定位はあまりクリアーではない。
 STS455Eは、全体に柔らかく、甘い響きがあって、ゆったりとした雰囲気があるが、低域は甘く、悪くするとベトつく感じとなる。ヴォーカルは、適度にリアルさがある落着いた印象で、ピアノはスケール感豊かに響くが、いま少し明快さがほしい感じだ。性質はウェット型で、おだやかな良さがあるが、積極的な働きかけが、やや足りぬようだ。
 STS355Eは、全体の音が引き締まり力強く明快に音を決めていく魅力がある。帯域バランスはよくコントロールされているが、上級モデルよりはレスポンスが狭い。粒立ちは粗いタイプだが適度に輝きがあり、破綻を示さずに音を鋭角的に処理をする。表現は線が太く骨太でラフな感じもあるが、力感があるため安定感につながるメリットがある。エレクトロ・アクースティックの製品中では、プログラムソースやコンポーネントシステムとの対応性の幅はもっとも広く、安心して使えるカートリッジである。
 STS255−17は、音の粒子が上級モデルよりも粗くなり、聴感上のSN比が気になる場合もある。聴感上の帯域バランスは中域が充実した安定型だが、レスポンスはあまりワイド型ではない。低域はソリッドで腰は強いが、あまり伸びがなく、中域から中高域がやや硬調で骨太な感じがあり、艶が不足し乾いた感じだ。全体の音は、明快型でクリアーなタイプだが、ヴォーカルは、やや大柄でハスキー調になる。ピアノは、力はあるが、スケールが小さく硬質に輝く。クォリティは、この価格の平均的で、355系のジュニアモデルといった印象が強い。
 STS155−17は、粒立ちはかなり粗く、粒子が大きいが、適度に磨かれた丸味があり刺激的にはならない。帯域バランスは、中低域にウェイトをおいたカマボコ型のレスポンスをもち、高域は低域よりも急峻に下がっているようだ。全体の音の響きに柔らかさがあり、豊かで柔らかい音に加え、スッキリした低音感も、高級品らしい。

クライスラー CE-100

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムの新製品ではエンクロージュア形式にバスレフ型が採用されることが多い。クライスラーのニューモデルは、そのなかでは、比較的に少ない完全密閉型のアコースティックサスペンション方式を採用したシステムである。
 ブックシェルフ型のオリジネーターである米AR社の完全密閉型は、小型なエンクロージュアで想像もつかぬ低音が再生できるメリットがあり、つい最近までは、ブックシェルフ型といえば、完全密閉型を採用することが標準化していたが、最近ではバスレフ型が復活してひとつの流れを形成しているようだ。簡単にこの両者の特長をいえば、完全密閉型は低域再生に優れるが出力音圧レベルが低く、バスレフ型は、逆に、出力音圧レベルは高くしやすいが、低域レスポンスはあまり伸びない。又音色的にも、やや対照的で、前者を重厚とすれば後者は軽快といる。
 CE−100は、このタイプとしては出力音圧レベルが92dBあり、聴感上の能率も高く感じられる。構成は、30cmウーファー、12cmコーン型スコーカー、それにホーン型トゥイーターの3ウェイシステムである。このシステムは、やや重く厚みのある低音をベースとし、明快型の中音、少し線が細い高音でバランスがととのっている。
 ステレオフォニックな音場感は、前後方向の感じをあまり際立たせるタイプではなく、音像も少し大きくまとまる傾向がある。

デッカ Mark V, Mark V/ee

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 デッカのカートリッジは独得な垂直と水平系の発電方式を採用し、マトリックスを使ってステレオ再生をするために、現在のカートリッジのなかでも個性派の筆頭であろう。
 MARKVは、ソリッドで硬質な独得の魅力がある音だ。聴感上のバランスはオーソドックスで安定感があり、音の芯がしっかりとしているため聴きごたえがある。ヴォーカルは少し硬いが、ピアノは際立った音で素晴らしいのだが、さしてスケール感はない。スクラッチをやや強調しがちで、ときには独自の変調性ノイズが気になることもある。
 MARKVeeはVよりも粒立ちが細かく、音色も軽く明るい。低域はやや甘くなったが、全体の表情はやわらかくなった。Vにくらべてデッカらしさは薄らいだが、グレイドアップされたことは事実である。

B&O MMC3000, MMC4000, MMC5000, MMC6000

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より

 MMC6000は、5000とともに、CD−4システムにも使用可能なモデルである。低域のダンプは甘いタイプで、音の粒立ちはかなり細かい。低域は甘口で重いが、中低域はかなり厚味があり、中域はやや薄く、高域は素直に伸びているようだ。
 ヴォーカルは、オンマイク的だが、あまりカッチリとした感じとはならず、ピアノは滑らかさがあるスッキリとした音で、暖かみもある鳴り方である。全体に、ウォームトーン系のソフトな音で、明るさもあり、伸びやかさもあるが、音の密度が薄い傾向があり、リアルさが不足するようだ。
 MMC5000は、音の粒子はMMC6000よりは粗くなるが、SN比は充分にある。全体に、MMC6000にくらべると、タップリと感じられた間接音成分が抑えられ、クリアーで音の鮮度が高くなり、音の輪郭が明瞭で正確な感じとなった。ただ、比較上では、やや線が太くなり、帯域の広さは減っているが、トータルのバランスはむしろMMC5000が上である。低域はソリッドな締まりがあり、中低域のエネルギーが充分にあり、質感がよい。
 MMC4000は、軽く爽やかで、粒立ちが細かくクールな魅力をもった音である。
 低域のダンピングは適度であり、重量感があるタイプではないが、弾力的であり、姿・形がクリアーに再現できる良さがある。中域は、どちらかといえば僅かに薄いと思われるが、ナチュラルであり、高域も滑らかでよく伸びている。ヴォーカルはやや小柄になるが、細やかなニュアンスが感じられ、ピアノは軽くキラメキ、独得な音色が感じられる。音をリアルに表現するタイプではないが、クォリティが充分に高く洗練されたソフィスティケートな雰囲気は、他のカートリッジでは得られない小イキな魅力である。
 MMC3000は、粒立ちが少し粗く、聴感上のSN比が悪くなることもある。全体に音が明快で腰の強い音をもつが、表情が固く表面的な表現に留まる印象がある。