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パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏がふっくらひびくところにこのスピーカーの特徴がありそうである。❸でのコントラバスのひびきが、ひきずることはないが、まろやかで、コントラバスならではのゆたかさが感じられる。❷でのヴァイオリンの音にしても、決してきつくならず、あくまでもやわらかい。❺ではもう少し音場感的なひろがりが示せてもいいとは思うが、さまざまな楽器のひびきのバランスはこのましく示せている。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はいくぶんふくらみすぎの気味がある。❷での声は音像的に多少大きめではあるが、声そのもののなまなましさをよく示す。❸でのギターの音は繊細さという点で不足する。太くくっきりひびきすぎるためである。❹でのストリングスは、ひろがりも充分であり、ストリングス本来のひびきのしなやかさもこのましく示しえている。❺での声も余裕をもって示している。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
このレコードでのきこえ方をとりまとめていうと、力強い音にこのましく対応しながらも、決して表現がごりおしにならないということになる。ただ、ひびきそのものがいくぷん重めなので、❹で求められる疾走感は稀薄である。重層的にかさなる音の感じはよく示している。❺ではもう少しくっきり示されてもいいように思う。ポコポコいう音がどうしてもふくれてしまう。その点が少しものたりない。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの下の音とベースの音とのきこえ方のバランスが大変このましい。❷での提示も自然である。きめこまかい音への対応力がすぐれているために、個々のひびきの特徴をあきらかにできていると考えるべきであろう。❸や❹での高い音も、もう少しきらめいてもいいとは思うが、それぞれのひびきの特徴は提示しえている。このレコードでのきこえ方は、なかなかこのましかったというぺきであろう。

JBL 4344

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❸でのコントラバスがコントラバスならではのひびきの余裕を感じさせてこのましいが、いくぶん音像的にふくらみぎみである。そのことと関係してのことかどうか、❶から❷にかけては、ヴァイオリンより低い弦楽器の方がきわだってきこえる。総じて弦のアンサンブルによる演奏ならではの、しかもその点でのあじわいをうまくとらえた録音のよさをうまく示しえているとは、残念ながらいいにくい。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音が前の方でくっきり提示される点に特徴がある。❸ではギターよりベースの方がきわだつ。ギターの音はもう少しきめがこまかく、輝きがあってもよかったように思う。❺でのバックコーラスがいくぶん手前の方にせりだしぎみにきこえる。このスピーカーならではの積極性のあかしと考えるべきかもしれない。❷での声も輪郭をしっかり示して独自のなまなましさを示す。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
迫力にとんだきこえ方である。さまざまな音の力感をよく示せているからである。❸での音の動き方などにしても効果的である。ただ、奥の方からきこえるべき音も前の方にせりだしがちなので、前後の音場感ということでは、多少ものたりなさがある。❷でのティンパニの音などは、もう少しきりっとまとまってもよかったのではないかと思う。いくぶん音像がふくれ気味になっただけ、鋭さに不足している。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶ではピアノの音よりベースの音の方に耳がひきつけられがちである。❷でのピアノのひろがり方はほどほどである。❺での管楽器が加わっての音色的対比は十全であり、さすがと思わせる。❸でのシンバルの音は、もう少し輝きがほしいと思わなくもないが、くっきり示す。ただ、ここでも、奥へのひきという点で、いま一歩と思わなくもなかった。このレコード特有の音色的な特徴は十全にあきらかにした。

パイオニア S-955III

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 ①と④のレコードでのきこえ方がすぐれていた。ふっくらとした音の示し方にきくべきものがあったためといえよう。
 このスピーカーのよさは、神経質にならずにおっとりときけるところにあるようだ。ただこれでさらに、たとえば②のレコードの❸のギターのような音をもう少しシャープに示せれば、魅力は倍加するのであろうと思わなくもない。
 つまり、シャープな音に対しての反応でいくぶん甘いところがあるということである。ただ③のレコードでの❶の金属的な音の特徴も示せていたので、スピーカーそのものはシャープな音に対しての反応力をそなえていると考えることもできる。
 使うアンプやカートリッジで工夫することによって、シャープな音への反応力をますこともできなくはなさそうである。いずれにしろ神経質なひびきを決してきかせないのはこのましい。

JBL 4344

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 このスピーカーに対してこれまで抱いていたイメージといくぶんちがうきこえ方がした。カートリッジ、あるいはアンプとの関係があってのことと思われた。
 音の輪郭をあいまいにすることなくくっきり示し、しかも積極的に音を前に押しだすところに、このスピーカーのもちあじのひとつがうかがえた。ただ、総じて、音像がふくらみすぎる傾向があり、そのために鋭さがそこなわれているところもなくはなかった。
 ①のレコードなどより、②、 ③、④のレコードの方が性格的にこのスピーカーにあっているといえそうである。①のレコードを不得手とするのは、きめこまかさへの対応ということでいくぶんいたらないところがあるためかもしれない。
 それぞれのレコードのサウンドキャラクターを拡大して示す傾向があり、それはこのスピーカーの順応性のよさゆえといえなくもないであろう。

JBL L250

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
くっきりきこえはするが、全体的にひびきが乾燥ぎみで、したがって❷のヴァイオリンなどはあじわいにとぼしい。❶での総奏の音のひろがり方には独自のものがあるが、ひびきそのものの溶けあった感じの提示ということになると、ものたりないところがある。この種のレコードの音はこのスピーカーにとって不得手といえるのではないか。❸でのコントラバスの音像はほどほどでまとまってはいるが……。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❷でのふたりの声はやわらかさをあきらかにしているし、吸う息もなまなましく示す。しかし❸ではギターのひびきの提示がいくぶん弱く、ベースの方がめだちがちである。❹でのストリングスの後へのひきが多少不足している。❺でのバックコーラスとのかかわり方も、ブレンド感とでもいったものでものたりない。うたわれる言葉の子音がきわだってきこえる傾向がなくもない。❶での音像は大きめである。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
今回試聴に用いた4枚のレコード中でこのレコードでの結果がもっともこのましかった。このレコードできける音楽のダイナミックな性格をよくあらわしていた。とりわけ❹での疾走感はききごたえ充分であった。❺でのポコポコも、音像的にふくれすぎず、ほかの音との対比もついていた。さまざまなひびきが入りまじってのひろがりもこのましくあきらかにできていた。❷のティンパニも力にみちてひびいた。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音とベースの音のきこえ方は自然で無理なくこのましい。また、まとまりということでも、すぐれている。ただ❷での、高い音と低い音とのつながりは、かならずしもよくない。高い音と低い音がいくぶん不連続にきこえる。この辺にこのスピーカーの問題点がなくもないようだ。❸ないしは❹でのシンバル等の打楽器のひびきは、かならずしも効果的とはいいがたく、ひびきとして薄めである。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❷でのヴァイオリンがくっきり、しかもこってり示されるところに、このスピーカーの特徴がしのばれるようである。ただ、それなら❸でのコントラバスがたっぷりひびくかというと、そうともいいがたい。ひびきがひきずりぎみにならないのはいいところであるが、コントラバスのひびきの余裕といったようなものは示しえていない。❹でのフォルテはすくなからずきつめであり、しなやか
さに欠ける。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノの音はぼってりとしている。ひびきが薄くならないのはこのスピーカーのいいところというべきであろうが、エレクトリック・ピアノならではの一種独特のひびきの軽さに十全に対応できているかというと、かならずしもそうとはいいがたい。❸でのギターの音にはもう少し切れの鋭さがほしいところである。❸でのギブの声は硬めになる傾向がなくもないのが気になる。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
❷ではティンパニのひびきの力強さはこのましく示すものの、そのひびきのスケール感の提示ということではいま一歩といったところである。❸では左右への動きに一応は対応するものの、動きの鋭さはあまり感じさせない。❹ではブラスの力強さへの対応は充分であるが、シンバルのひびきはいくぶん甘くなる。このレコードできける音楽の現代的な鋭さがかならずしも充分に示されているとはいいがたい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
ほどよくバランスがとれているということでは、今回試聴した四枚のレコードの中で、このレコードがもっともこのましかった。❶でのピアノの下の音へのベースの重なり方の提示なども、強調感がなくて見事であった。❷での右よりのピアノの音のくっきりした提示はすぐれていた。❺での両者の対比も過不足なかった。ただ、❸での高い音のひびき方にもう少し輝きがあれば、さらにこのましかったであろう。

JBL L250

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 レベルコントロールを微妙に動かして(というか切替えて)追いこんでいけば、さらにこのましい結果が期待できなくもないのかもしれぬが、今回の試聴では一応それぞれのレベルコントロールをフラットの位置できいた。そのためかとも思われるが、高い方の音と低い方の音で、ひびきの性格がいくぶんちがっていたように感じられた。
 ただ、このスピーカーの音は、基本的なところで、俗にいわれるJBL的な音から離れたところにあるということはいえそうである。④のレコードでの❶の部分などは独自の静かな気配の感じられるもので、印象的であった。なるほどこれは新しい時代のJBLの音かとも思ったりしたが、その方向で十全にまとめられているかというと、そうともいいきれないところがあり、全体的な印象としてものたりなさを感じた。
 サウンドキャラクターの点でいささか徹底を欠いたとでもいうべきであろうか。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
基本をしっかりおさえた音のきこえ方とでもいうべきか。硬に対しても軟に対しても、過不足なく、バランスよく対応しているのはさすがである。❶での総奏の、力を感じさせながら、同時にひびきのひろがりもしっかり示す。❸ないしは❺でのコントラバスは、ひびきの円やかさを保ちつつ、くっきりと輪郭を示し、しかもぼてつかない。ひびきの力を示しながら重くならないところがこれのいいところである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノを、くつきり示す。しかし音像的にはいくぶん大きめである。❷での声も積極的に前にはりだす。しかしこれもまた音像的にはいくぶん大きめである。❸でのギターの音は、太く、輪郭をしっかり示しながら、提示される。決して雰囲気的にならないところがこのスピーカーのいいところである。❺でははった声の力を示しながら、それでもきつくならないところがいい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
ひびきの力の提示、あるいはひびきの力の変化を、いささかもあいまいになることなく示す。❷でのティンパニの音などは迫力充分である。音場感的な面での前後のひろがりも充分ではあるが、しかしだからといってスペースサウンド的な性格をきわだたせるかというと、そうともいいがたい。❶でのピコピコとか❺でのポコポコは音像的に多少大きいが、充分な効果をあげているということはいえる。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音には独自の実在感がある。ベースの音にも似たようなことがいえる。❷でのバランスとまとまりはとびぬけてすぐれている。❸と❹でのシンバル等の打楽器のひびきの特徴も十全に示す。❺での木管楽器の一種独特の軽さと乾きの感じられるひびきにもこのましく対応して、それ以前の部分との対比にも問題ない。基本的なところをしっかりおさえているよさがこのましく発揮されている。

ビクター SX-10 spirit

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 中音域での音のエネルギーの提示に独自の威力を発揮するスピーカーといえよう。もう少し高い方の音への対応にしなやかできめこまかいところがあると、このスピーカーの魅力は倍加するのであろうが、その点で少しいま一歩という感じである。
 今様な音楽の多くはきめこまかいひびきにその表現の多くをゆだねているが、その点でさらに対応能力がませば、このスピーカーの守備範囲もより一層ひろがるにちがいない。しかし、多くの音楽の基本は中音域にあるわけであるから、その中音域をしっかりおさえたこのスピーカーは、俗にいわれる基本に忠実なスピーカーということもできるにちがいない。
 ひびきの軽さへの対応ということでさらにもう一歩前進できれば、たとえば③のレコード等で示されている現代的な感覚を鋭く示せるであろう。しかし、なにごとによらず基本を尊重するということはわるいことのはずはない。

ダイヤトーン DS-5000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 決して皮肉な意味でいうのではないが、優等生的なスピーカーというべきであろう。きわだった、いわゆる個性的な魅力ということではいいにくい、しかし肝腎なところをしっかりおさえたスピーカーならではの、ここでの音だと思う。
 提示すべきものをしっかり提示しながら、しかし冷たくつきはなした感じにならないところがいい。①のようなタイプのレコードに対しても、そして③のようなタイプのレコードに対してもひとしく反応しうるというのは、なかなか容易なことではない。それをなしえているところにこのスピーカーの並々ならぬ実力のほどを感じることができる。まさに文字通りの実力派のスピーカーというべきであろう。
 安心して、神経をつかわずにつかえるということは、それだけつかいやすいということである。その点で傑出したスピーカーだと思う。

アクースタット Model 3A

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶の総奏でのひびきのひろがり方には、他のいかなるスピーカーでもあじわえない自然さがある。❷のヴァイオリンの音のしなやかさもまた、独自のもので、美しさのきわみにある。❸ないしは❺でのコントラバスは、コントラバス本来の余裕のあるひびきをきかせ、しかも音像的に拡大しない。むろん❹のフォルテでもひびきがきつくなるようなことはない。このレコードの美しさをこのましくひきだしている。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶でのエレクトリック・ピアノのひびきにえもいわれぬがある。みずみずしいきこえ方とでもいうべきか。❷での声がなまなましいのは当然としても、❸でのギターの、まさにつまびいた感じがわかって、しかもその音が繊細さのきわみにあり、きらりと光る。❹でのストリングスも理想的なバランスで奥の方ですっきりひろがる。❺でのバックコーラスの後へのひき方も見事で、うっとりとききほれる。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
❷のティンパニのひびきの力強さはかならずしも十全に示しえているとはいいがたい。❹でのプラスのひびきのつっこみも、迫力という点でものたりないが、一種のスペースサウンド的なひびきの左右への、そして前後へのひろがり方は見事の一語につきる。したがって❶でのピコピコや❺でのポコポコはくっきり浮かびあがって、まことに効果的である。力強い音への対応でもう少しすぐれていればと思う。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
このレコードでの音楽のひっそりとした感じをこれだけヴィヴィッドに示したスピーカーはほかになかった。❷でのきこえ方などは、あたかもピアノが目の前にみえるような感じである。しかもこのレコードの録音上の仕かけがわかる。❸や❹でのシンバル等の打楽器のひびきは大変になまなましい。❺での木管のひびきについても同じことがいえる。音場感的なひろがりは独自であり、大変にすばらしい。

アクースタット Model 3A

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 このスピーカーは普段自分の部屋でつかっているので、その経験からいうと、アンプとのマッチングでいくぶん微妙なところのあるスピーカーなので、その点をクリアできると、充分に力強い音にも対応できるはずであるが、ここでは今回の試聴で聴きえた結果に即して記した。
 まず音場感的なことでいうと、横へのひろがり、さらに前後へのひろがりでは、ほかのスピーカーの追随を許さないものがあると思う。それに、たとえば①のレコードでの❷のヴァイオリンとか、②のレコードでの❷の声とかのしなやかさの提示もまた、このスピーカーがもっとも得意とするところである。非常にすばらしい。
 ただ、スピーカーの置く場所によってきこえ方が極端にかわるということがあるので、そのベストの位置をさがしだすのに、多少の時間が必要であり、その意味では神経をつかうスピーカーということもできよう。

B&W Model 801F

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶では総奏によるひびきのひろがりを示すより、総奏した音の力を示す。❷でのヴァイオリンにしても、その音色の美しさをきめこまかく示すというより、その輪郭をくっきり提示する。このヴァイオリンの音は人によってはきついという人もいなくはないであろう。❸ないしは❺のコントラバスはもう少したっぷりひびいてもいいように思う。コントラバス本来の大きさがわかりにくいここでのひびき方である。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶ではエレクトリック・ピアノがくっきりと示される。しかも音像的にいくぶん大きめである。❷での声はこっちにかなりはりだしてくる。この辺にこのスピーカーの積極的な性格がうかがえるといえなくもないようである。❸ではギターが太く感じられる。それだけあいまいになっていないということであるが、もう少し微妙な音色への対応にすぐれているとこのギターの音も本来の美しさを示せたのであろう。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
ひびきの鋭さより力強さをきわだてる傾向にある。したがってここできける音楽のうちの力は感じられるが、デリケートな音色の変化はいくぶんききとりにくい。したがって、❷でのティンパニのひびきの力はあきらかにされているものの、❸での左右の動きがあきらかにするはずのスピード感はかならずしも充分とはいいがたい。❺でのポコポコがいくぶん全体の中にうめこまれたような感じでしかきこえない。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音に力感がある。その反面、ベースはいくぶんひかえめである。❷ではとりわけ高い方のピアノの音が美しい。左右のひろがりはほどほどにおさえられていてこのましい。❺では木管のひびきの特徴をよく示し、それまでの部分との音色的な対比を充分につけている。もう少し音色的にあかるいと、このスピーカーのもちあじのひとつである力強さへの対応力がいかされるのであろうかと思う。

4枚のレコードでの20の試聴点(チェックポイント)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

Disc1
「19世紀ウィーンのダンス名曲集Il」
ミハエル・ディトリッヒ指揮ウィーン・ベラ・ムジカ合奏団[ビクター VlO28081]
ヨゼフ・ランナー作曲ワルツ「ロマンティックな人々」作品167
❶−0’00″:総奏ですべての楽器がききとれるか。同時に弦楽器のみによる総奏のひびきのまろやかさが感じとれるか。
❷−0’09″:いくぶん左よりからきこえるヴァイオリンのきこえ方。きめこまかさをきわだてたヴァイオリンの音色はどうか。
❸−0’27″:右からきこえるコントラバスの音像がふくらみすぎていないか。ひびきがひきずりぎみにならないか。
❹−1’12″:フォルテで音がきつくなりすぎないか。
❺−1’18″:主部に入ってから後の左のヴァイオリンと右のコントラバスのコントラストはどうか。音場感的なひろがりはどうか。

Disc2
バーブラ・ストライサンド/ギルティ
バーブラ・ストライサンド&バリー・ギブ[アメリカCBS FC36750]
WhalKind of Fool
❶−0’00″:中央からきこえるエレクトリックピアノの音像的な大きさとそのひびきの質はどうか。
❷−0’20″:ストライサンドとギブのうたいはじめるときに吸う息のきこえ方とふたりの声のきこえ方。
❸−0’45″:ギターとベースのきこえ方。その両者の対比のされ方がこのましいかどうか。
❹−1’16″:ストリングスのひろがりは充分感じられるかどうか。
❺−!’31″:ギブの特徴のある声のきこえ方とバックコーラスとのかかわり方。

Disc3
ジョン・アンダーソン&ヴァンゲリス/ショート・ストーリーズ[ポリドール MPF1287]
キュアリアス・エレクトリック
❶−0’00″:中央でピコピコいういくぷん金属的な音のきこえ方。
❷−0’08″:ティンパニの音の貨感とそのひびきのひろがり方。
❸−0’29″:ティンパニの音の左右への動きの提示のされ方。
❹−0’37″:ブラスの力強いひびきの示され方。シンバルの音のきこえ方。音楽の疾走感が充分に感じとれるか。
❺−1’37″:次第にきわだってくるポコポコいう音の音像的な大きさはどうか。その音の切れの鋭さはどうか。

Disc4
エバーハルト・ウェーバー&ライル・メイズ/第三の扉[ECM PAP25543]
予感
❶−0’00″:ライル・メイズのひくピアノの下の音にエバーハルト・ウェーバーがベースでつけているが、そこでのベースの音のきこえ方はどうか。
❷−0’21″:ピアノの高い音が右よりに低い音が左よりにきこえるが、そのきこえ方はどうか。
❸−0’46″:シンバルのひびきの輝きが充分に感じとれるかどうか。
❹−0’51″:トライアングル、ないしはベルのきこえ方はどうであろうか。
❺−1’28″:ここから加わりはじめる木管のひびきのひろがりはどうか。同時に、これまでの部分との音色的な対比が充分についているかどうか。

B&W Model 801F

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 口ごもるようなところのない、いうべきことはストレートにいうよさがこのスピーカーにはある。その意味では安心してきいていられる。力感にみちた音の提示のしかたなどはなかなかのものである。ただ、硬に対する軟の方で、さらに表現力をませばと思わなくもない。
 どのレコードも平均してきこえた。このレコードがよくて、あのレコードがよくないというようなことはなかった。その意味で平均点の高いスピーカーということになるであろう。ただ、ヴァイオリンのしなやかな音とか、声のなまなましさとかを求める人は、一工夫必要であろう。
 しかしながら強調感のないところはこのスピーカーのいいところで、使い手の側に積極性さえあれば、眠っている可能性をひきだすこともできそうである。なにより、ひびきがひっそりしてしまわないところがこのましいと思う。

ダイヤトーン DS-5000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
「THE BIG SOUND」より

 ダイヤトーンスピーカーシステムの源泉は、放送業務用のモニターシステムとして開発された2S305にある。口径5cmと30cmのコーン型ユニットを2ウェイ構成とし、それも、クロスオーバー周波数を1・5kHzと低くとり、ウーファー側は、いわゆるLC型ネットワークを介さずに、コーンのメカニカルフィルターのみでクロスオーバーし、レベルバランスは、トゥイーターの出力音圧レベルそのものをコントロールしておこない、直列抵抗やアッテネーターは使用しないという設計は、まさに芸術品とも呼べる精緻な見事さを備えている。
 新型ユニットとして急激に台頭したソフトドーム型ユニットが登場以後、スピーカーの分野では、軽合金系のアルミ合金、チタン、ベリリュウムなど、振動板材料を従来の紙以外に求める傾向が強くなっても、ダイヤトーンでは、コンシュマー製品を開発するスタート時点にこれほどのシステムが存在していただけに、伝統的な紙をダイアフラムに採用する手法がメインであった。例外的には、ドーム型スコーカーでのフェノール系ダイアフラムや、スーパートゥイーターでのアルミ系合金の採用があるが、これを除けば、ペーパーコーンがその主流であり、このあたりはいかにも2S305での成果をいかし、紙のもつ能力を限界まで使いきろうとする開発方針は見逃すことのできない設計者魂だ。
 このダイヤトーンが突然のように新振動板材料を登場させたのが、宇宙技術の成果をいかしたハニカムコンストラクションコーンである。しかも、一般的な中域以上のユニットではなく、ウーファーユニットから新材料を導入した点が、他社にない大きな特徴である。スピーカーシステムは、良いユニットと良いエンクロージュアを組み合わせて初めて完成する。当然の話であるが、ダイヤトーンの最初の製品が発表された当時、よく設計者から聞いた言葉である。
 これからも、ベーシックトーンを受持つウーファーに新振動板を導入し、単に材料の置換法ではなく、新しい振動板にふさわしいエンクロージュア設計を確立するのを第一歩とする方針は、きわめてオーソドックスな手法である。
 その第一弾がハニカムコンストラクションコーンで、1977年秋の業務用モニター4S4002Pでは中域、低域ユニットにCFRPをスキン材として採用し、DS90Cの低域ユニットではガラス繊維系のスキン材を使っていた。その後一年を経て、DS401とDS70Cの低域用にDS90Cと同様な構成の振動板が使われている。これ以後、1970年代が、この新型振動板を発展させ、使いこなすための基礎となった期間であろう。
 80年代に入ると、その成果は急激に実り、スキン材に、防弾チョッキにも使える強度と適度な内部損失をもつアラミド系繊維が導入され、ハニカムコンストラクションコーンは完成の域に達する。低域ユニットが紙の振動板では得られぬ高速応答性を得ると、次は中域以上の振動板材料の開発である。その回答として、ダイアフラムとボイスコイル巻枠部分を一体成型する加工法と、材料にチタンをベースとし、その表面をボロン化する独自の製法が開発される。
 この結果としての製品が、80年9月のDS505であり、クロスオーバーを350Hzにとったミッドバス構成4ウェイと、システムの高速応答性を意味するデジタル対応システムという表現が新しく提唱されたのである。続いて翌年の大口径DUDドーム型中域ユニット開発に基づくDS503の開発。別系統のトライである80cm、160cm口径の超弩級ウーファーの完成の過程を通り、集大成された結果が今回の4ウェイ・フロアー型という構想のDS5000であり、CD実用化の時期に標的を絞ったデジタルリファレンスに相応しい自信作である。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❸ないし❺でのコントラバスのひびきが筋肉質にひきしまっているのが特徴的である。そのために全体的にすっきりした感じにきこえる。❷でのヴァイオリンには独特の艶があるものの、ひびきとしていくぶん薄めである。❹のフォルテでは、ほんの心もちひびきがきつめになる。総じてこのレコードでのきこえ方では、しなやかな柔らかい音への対応ということでもう一歩といった印象をぬぐいきれなかった。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノのひびきのやわらかではあってもクールな肌ざわりが大変にこのましい。❸のギターの音とベースの音の対比のされ方は絶妙である。ギターの音などは織細さのきわみというべきであろう。また❷でのストライザンドの声は女らしさを感じさせて大変にこのましい。さらに吸う息もまことになまなましい。❹でのひびきのひろがりも充分にあきらかにして、さわやかさを示す。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
アタックの鋭い音に対しての反応が充分なために、このレコードでのきこえ方は、総じてシャープである。❷でのティンパニの音などにしても、ひびきがふくれすぎないために、音像が小さめで、それだけに鋭さをきわだてている。❸での左右への動きなどもスピーディで、したがって❹での疾走感は完璧にあきらかにされている。さらにブラスのつっこんでくる力のあるひびきに対しても充分に反応しえている。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのベースの音がふくらみすぎないために、ピアノの音との対比が申し分なく効果的である。❸ないしは❹でのシンバル等のひびきはくっきり示されるが、質感の提示ということでもう一歩と思わなくもない。❺から加わりはじめる木管楽器のひびきも、その特質をあきらかにしつつ、これまでの部分との音色的な対比も充分につけている。このレコードの特徴あるサウンドをこのましくきかせて、見事である。

ヤマハ MC-2000

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 DADが実用化の第一歩を踏み出した昨年は、伝統的なカートリッジの分野でも実りの多い年であったようだ。なかでもMC型は、普及価格帯での激しい新製品競争と高級機の開発という、二層構造的な展開を見せたが、ヤマハのMC2000は、振動系の軽量化という正統派の設計方針に基づいて開発された高級機中の最も注目すべきMC型である。
 MC型の性能と音質は、発電のメカにズムと素材の選択と加工精度によって決定される。
 MC2000の発電機構は、ヤマハ独自の十字マトリックス方式で、一般的な45/45方式に対応する発電系は持たず、水平と垂直方向に発電系があり、これをマトリックスにより45/45方式に変換するユニークなタイプで、水平、垂直方向のコンプライアンスとクロストークを独立して制御できるのが特徴である。
 振動系のカンチレバーは、素材から開発したベリリュウム・テーパードパイプ採用で、従来型より肉厚を薄く、全長を短くし、芯線径12・7μの極細銅線使用のコイルとあいまって、世界最軽量の0・059mgの等価質量である。これに、独自の段付異種結合構造LTDダンパー、ステンレス7本よりサスペンションワイヤーを組み合わせ、高剛性、無共振ハウジング組込みで自重5・3gとした技術力を高く評価したい。
 適正針圧1g±0・2gと発表されているだけに、アームの選択、細かな針圧調整とインサイドフォースキャンセラー調整などを入念に行なわないと優れた基本性能をベースとした最新MCの音の世界は味わえない。

ヤマハ NS-2000

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 いい意味での現代的な音のスピーカーといえるようである。①のようなレコードに対しても、つかいこんで、いわゆるエイジングをおこなえば、音の角がとれて、さらにこのましくきこえるようになるのかもしれぬが、今回試聴したかぎりでは、しなやかな音への対応ということで、いま一歩といわざるをえない。
 しかしながら、②、③、それに④のレコードでのきこえ方は、すばらしかった。これらのレコードにもりこまれている新しい感覚をききてに感じさせる新鮮さがきわだっていた。総じて音色的にあかるいために、フレッシュで生き生きした気配を強めたと考えてよさそうである。しかもこのスピーカーは、力にみちた音に対してもしっかり対応できるので、ダイナミックな部分でも腰くだけにならない。保守的な感覚の人にはどうかなとも思うが、このスピーカーのきかせるさわやかな音は大変に魅力的であった。

タンノイ Edinburgh

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶での総奏での円やかさは魅力がある。このふっくらとしたひびきはこのましい。❷のヴァイオリンもしなやかさを失っていない。さらにこのましいのは❸や❺でのコントラバスのひびきである。コントラバスならではのゆったりしたひびきをきかせながら、しかしぼってりしない。音場感的なことでは特にひろびろとしているとはいいがたいが、まとまりはいい。このレコードには適しているスピーカーといえる。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❶のエレクトリック・ピアノが音像的に大きい。❷での声の音像も大きめである。しかし、声のなまなましさはよく示す。このスピーカーがきめこまかな音にこのましく対応できるためと考えてよさそうである。❹でのストリングスもひびきに艶があって、充分にひろがる。❺でのはった声が硬くならないのはいいところであるが、バックコーラスとのかかわり方で、もう少しすっきりした感じがほしい。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
このスピーカーには適していないレコードのようである。このレコードできけるような音楽はシャープにきこえてこないとたのしみにくいが、全体的にどろんとした感じになりがちである。それにさまざまな音の音像が大きめなのも災しているようである。❷でのティンパ二の音などにしてもひびきとしての力強さは感じられるが、鋭さということではいま一歩という印象である。ひびきが総じて重くなっている。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音とベースの音のきこえ方のバランスは大変にこのましい。しかも音に暖かさのあるのがいい。❷での右と左の区分はかならずしも鮮明とはいえない。❸、❹でのシンバル等の打楽器のひびきの輝きが多少不足ぎみに感じられる。その辺のことが改善されると、このスピーカーの音はさらに鮮度をまし、いきいきとしたものになるであろう。❺の木管のひびきは特徴をほどほどに示すにとどまる。

オーディオテクニカ AT160ML

菅野沖彦

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 AT160MLは、オーディオテクニカがオリジネーターである、デュアルマグネットによるVM型カートリッジである。この、互いに45度の角度で設置された二つのマグネットによる変換方式は、メカニカルに、カッティングヘッドの構造と相似のもので、同社のMC型カートリッジも、これにならって、デュアル・ムーヴィングコイル方式をとっていることはよく知られているところだ。このAT160MLは、AT100シリーズの最新製品で、私の印象では遂にこのシリーズの究極に近づいたと思える製品である。MLはマイクロリニアスタイラスの略称で、この形状のスタイラスの評価は今後に待つとしても、このカートリッジの音質の品位の高さは特筆に値するものだと思う。音に充実感があり、見事な造形の正確さをもっていて、優れたトレース能力により、レコードの情報を実に豊かにピックアップしてくれる。VM型の発電系がカッターヘッドと相似なら、たしかにこのML針もよりカッティング針に近い形状のものであるのが興味深い。カンチレバーはベリリユウムに金蒸着のムク材を使っているが、全帯域にわたって音色の癖がなく、大変バランスのよい振動系が形成されているにちがいない。MM型としては、中高域の中だるみのないものだが、これは発電系のコアーの継ぎ目をなくしラミネート構造と相俟って発電効率を高めたパラトロイダル発電系によるものとメーカーでは説明している。一貫して主張してきたテクニカのVM型カートリッジの成果として高く評価出来る製品だ。

タンノイ Edinburgh

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より

 きわめてオーソドックスな性格をそなえたスピーカーとみるべきであろう。今回は意識的に新しい傾向の音をおさめたレコードを中心に試聴したので、このスピーカーにとってはつらいところがあったかもしれない。いわゆる「クラシック」のオーケストラによる演奏などをおさめたレコードをきけば、このスピーカーに対する印象はさらによくなるのであろう。
 このスピーカーのきかせるしなやかな中音域にはとびきりの魅力がある。ただ、これで音像がもう少し小さくなれば、その魅力はさらに一層ひきたつのかもしれない。②のレコードの❷での声のなまなましさなどに、そういうことがいえる。
 ③のようなレコードはこのスピーカーにとって最悪である。すべての音がどたっと重くなってしまっている。暖かい音色をいかしながら、もう少しすっきりした感じがあればと思わなくもない。

テクニクス SB-M2 (MONITOR 2)

黒田恭一

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「2つの試聴テストで探る’83 “NEW” スピーカーの魅力」より
4枚のレコードでの20のチェック・ポイント・試聴テスト

19世紀のウィーンのダンス名曲集II
ディトリッヒ/ウィン・ベラ・ムジカ合奏団
❶ではすべての楽器が音像的に大きめに示された。❷でもヴァイオリンがたっぷりとしたひびきで示された。音色的にかげりがないのがこのましい。❸でのコントラバスのひびきは、ひきずりぎみにならないところはこのましいとしても、音像的にはかなり大きい。❹のフォルテでもひびきがぎすぎすしない。この辺にこのスピーカーのききやすさがあるといえよう。❺でのリズムは少し重くなりがちである。

ギルティ
バーブラ・ストライザンド/バリー・ギブ
❷での吸う息はくっきりと示される。ただ、ストライザンドの音像は大きい。❶でのエレクトリック・ピアノは、ひびきの特徴をよく示しはするものの、多少量感をもちすぎているように感じられる。❹でのストリングスについても似たようなことがいえる。たっぷりひびくが、もう少しさらりとした感じがほしい。❸でのギターもほどほどにシャープである。音色的な面でのトータルバランスのいい音というべきか。

ショート・ストーリーズ
ヴァンゲリス/ジョン・アンダーソン
この種の音楽の再現を特に得意にしているとはいいがたいようであるが、外面的な特徴は一応示しえている。ひびきそのものに多少重みがあるので、❹での疾走感は、ものたりないところがでてくる。それにしても、同じく❹でのブラスの力強いひびきにはそれなりに対応できているので、音色的な面での全体的なコントラストはほどほどにつけられている。❺でのポコポコはもう少しくっきり示されてもいい。

第三の扉
エバーハルト・ウェーバー/ライル・メイズ
❶でのピアノの音に独自のあたたかさがある。しかもピアノの音とベースの音のバランスもわるくない。ただ、❺での、これまでの部分との音色的対比ということになると、ピアノの音の硬質なところがかならずしも十全に示されず、充分とはいいがたい。さらに、❷でのピアノの音は、かなりひろがる。しかし、このレコードの音楽がめざすぬくもりのあるひびきにはこのましく対応しているとみるべきである。

ビクター SX-10 spirit

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 SXシリーズのスピーカーシステムは、それまで海外製品の独壇場であったソフトドーム型ユニットを完全に使いこなした製品、SX3の発売以来、すでに10年以上のロングセラーを誇る、国内製品としては例外的ともいえるシリーズ製品である。
 今回のSX10SPIRITは、ソフトドーム型独特のしなやかでアコースティックな魅力を活かしながら、永年にわたり蓄積された基本技術とノウハウをベースに最新の技術を融合して、現代の多様化したプログラムソースに対応できる最新のスピーカーシステムとして完成された点に注目したい。
 SXシリーズの伝統ともいえる西独クルトミューラー社と共同開発のウーファーコーンは新しいノンプレス型であり、コニカルドーム採用はSX7を受け継ぐものだ。ソフトドーム型ユニットは、素材、製法を根本的に見直してクォリティアップをした新設計のもので、トゥイーターのドーム基材の羽二重は、従来にはなかった材料選択である。
 大変に仕上げの美しい弦楽器を思わせるエンクロージュアは、表面桐材仕上げの5層構造で、響きを重視した設計で、ネットワークも結線にカシメ方式を使うなど、まさしく、SXシリーズの伝統と最新技術の集大成といえる充実した内容だ。ソフトドーム型ならではの聴感上のSN比が優れた特徴を活かしたナチュラルな音場型の拡がりと表現力の豊かさは、とかく、鋭角的な音となりやすい現代のスピーカーシステムのなかにあって、落着いてディスクが楽しめる数少ない製品である。

サンスイ B-2301

井上卓也

ステレオサウンド 66号(1983年3月発行)
特集・「コンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー賞 第1回」より

 オーディオアンプは、とかく、エレクトロニクスの技術に基づいた製品であるるだけに、回路技術的な新しさや、音質対策が施された部品選択などに注目する傾向が強い。
 一方において、アンプの機械的な構造、つまり、シャシーやケースに代表される機構設計面は、管球アンプの昔から、音質を決定する重要なファクターとして検討はされていたものの、計測データに基づいた、音質との相関性を追求する技術は、いまだに未完成といわなければならぬ実状である。
 この機構設計面でノウハウに基づいた成果を現実の製品に導入した点では、サンスイのアプローチは、時期的にも早く、その成果も非常に大きいと思われる。銅メッキシャシー、銅メッキネジ、真鍮板の構造材などはその例で、これらの手法はその後多くのメーカーが踏襲し、最近の機構設計の定石になっていることを評価すべきである。
 B2301は、BA5000、3000以来、約10年ぶりにサンスイが開発したハイパワーアンプである。1・3kVAの超大型電源トランスに代表される伝統的な強力電源部をベースに、アルミブロックと銅板でサンドイッチ構造とするパワートランジスター取付部、140μ厚プリントパターン採用などに加えて、新開発ダイアモンドパワーステージとカスコード接続プッシュプルブリドライブ段の新採用のほかに、入力系がバランスと一般的なアンバランスと切替使用ができるのも本機の大きな特徴で、回路構成上のユニークさが、これからも類推されるだろう。