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プレーヤーシステムのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 CDプレーヤーの華やかさと比較すればメカニズムベースで、高性能化と物量の投入が比例する分野だけに、本来のベストバイに相応しいシステムの開発は、需要の面もあり、現在では非常に難しいとしかいいようのないところだ。
●フルオートシステム
 CDの機能面の優位性は、一度経験してしまうと、いきおいマニュアルのアナログプレーヤーを廻すのがおっくうになるというのが実状であろう。
 従来からも、高級プレーヤーシステムはマニュアル型であり、フルオート機は、イメージ的にクォリティダウンに繋がるといった風潮が強く、高級なフルオート機の生れる下地が国内にはない様子である。
 いかに、DD型モーター全盛で、プレーヤーでエレクトロニクスの技術が幅をきかしたとしても、ある程度のメカニズムが要求されるフルオート機では、メカニズムの熟成も含み、かなりの経験量が必要であり、どのメーカーでも簡単に手が出せる分野ではないようだ。
 結果的には、国内製品では、ビクター、デンオン、テクニクスの3社のフルオート機が競合したことになるが、高性能をも含め、ベスト1にはQL−Y66Fとした。
●セミオート/マニュアルプレーヤーシステム 10万円未満
 実用的なアナログプレーヤーシステムとしては、製品の内容が充実した価格帯だ。特別な使用上の要求がなければ、どのモデルを選択しても後悔することはないのは事実であるが、基本的メカニズムが安定し、ハウリングマージンが大きい、インシュレーションシステムを備えていることが望まれる条件であるが、個人的にはインサイドフォースキャンセラーが微調整可能であることも重要な条件としている。ベスト1は、デザイン的には少しアクが強いが、各種のカートリッジに対する適応性の点でも、実際にカートリッジの比較試聴で使った実績もあり、PL7Lとした。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 10〜30万円未満
 基本的に10万円未満の不満足さを解消するための選択で、10万円台から選んだ。
●マニュアル/セミ・オートプレーヤー 30万円以上
 貫禄のあるP3aがベスト1だ。新製品では意欲的なGT2000Xが注目作だがアームが少し気になる。別格はDRAGON−CT、発想の独自性が見事な製品。
●アームレスプレーヤー 30〜60万円未満と60万円以上の価格帯
 アームの選択がポイントになるが、アナログプレーヤーならではの独自の魅力の世界。テクニクスとマイクロの対照的性格は興味深い存在であり、SX777FVは高価だが、ベストバイには相応しいモデルである。

パワーアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 パワーアンプも四つの価格帯に分類されている。
 40万円未満のゾーンでのベストワンとしてテクニクスのSE−A100を選んだが、このアンプのもつ新しい回路が可能にしたと思われるエネルギッシュで豊かな質感と精緻な細部の再現力はひときわ光る存在だと思ったからである。テクニクスのアンプとしては飛躍的な音質の変化だと思うし、その努力の熱意を高く評価したい意図もあった。つまり、他のアンプも、これに負けず劣らず素晴らしいものだからである。アキュフェーズP300L、デンオンPOA3000Z、ヤマハB2xは、それぞれに第一級のパワーアンプである。ただ、三者三様の質感の違いが面白い。P300Lは艶っぽく豊潤、B2xは豊かだが筋肉質といったように、肌合いのちがいを聴かせる。
 40〜60万円のゾーンではアキュフェーズP500をベストワンとした。どちらかというとやや甘美な艶があり過ぎたり、ハイパワ一にあっては時に小骨っぽい意外性のある音を聴かせてきたアキュフェーズのパワーアンプ群の中で、このP500は完成度の高いバランスを獲得した製品だと思う。MOS−FETアンプらしい暖色の音が、明確な音像エッジを伴って、充実した密度の高い音の感触を聴かせてくれる。サンスイのB2301Lは豊潤で重厚な前作B2301のリファインモデルらしく、透明な抜けのよさが加わり、自然な音となった。マランツSm11は、輝かしい豪華な音を聴かせるが、決して品位は下らない。明るく、屈託のない熱っぽい音が僕の趣味に合う。マイケルソン&オースチンのTVA1は管球式のアンプだが、これでなければ! という決め手の音をもっている。特に基本的に古いタイプの設計に属するスピーカーには是非欲しいアンプなのだ。
 60〜120万円では、ベストワンとして、マッキントッシュMC2255を薦める。ただし、近々、このモデルは、MC7270という新しいモデルに引き継がれる。幸い、この新製品を試聴することが出来たが、2255のレベルを決して下回ることはないし、大きく異なるものではない。中音域の充実した最新のマッキントッシュのアンプは、音楽の情感に最も鋭く、豊かなレスポンスをもつ。オンキョーM510、アキュフェーズP500、マランツSm700、それぞれ立派なアンプだ。
 120万円以上ではなんといっても現在最大のパワーを公称以上のレベルで獲得し、かつローレベルでの音色も優れたマッキントッシュMC2500をベストワンとする。カウンターポイントSA4、クレルKMA100MK2は、それぞれ、独特な質感の魅力で、趣味性の高い音の香りを持つものとして推薦する。

パワーアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 従来から、各価格帯にわたり、比較的粒ぞろいなモデルが数多く存在しており、特例を除いて、ひどく個性的なキャラクターのモデルも少なく、選択は比較的に容易といってよいようだ。ただし、一部の海外製品には、入力系と出力系で位相が反転して増幅されるタイプもあり、かなり独特のサウンド傾向をもつ点は注意してほしいところである。
 このところ、CDがメインのプログラムソースになってくると、CDの高出力ということもあり、パワーアンプにダイレクトに入力して使うことが多くなり、一部には専用のアッテネーターが使用されているが、考えようによっては、外付のアッテネーターが使われるということは、入力系にボリュウムコントロールがなかったり、あったとしても、音質的に問題があるということを意味しており、アンプ設計者にとっては、いわば盲点を突かれた結果であり、素直に考え直してほしい部分でもある。平均的な要求のパワーアンプでは、CDをベースに考えれば、入力系に、音質的に問題の少ないボリュウムと簡単なファンクション切替があれば実用上は充分であり、フォノイコライザーを備えてはいたものの、ファンクション機能付パワーアンプという構成の高級プリメインが、かつて2〜3機種存在していたことを忘れないでほしいものである。
●40万円未満の価格帯
 この分類での上限に近い30万円クラスに実力のある機種が多い。POA3000Zは、型番は前作を受け継いでいるが、Zになり内容は一新された、完全にニューモデルであり、適度に濃やかさがあり、しなやかさと力強さを両立させた完成度の高さは見事であり、1ランク上の製品と比較できる実力はベスト1に相応しい。
 P300Lの適度という表現がピッタリのバランスの良さ。鮮明でクリアーな音が魅力のB2x。明るく、程よい穏やかさのあるM−L10の音などは、ベストバイに相応しい。個性型は、1701。カリッとした機敏な音と機能的なデザインが楽しい。B910の構造の見事さは特筆ものだが、音的なリファインが停滞しているのが非常に残念なことだ。
●40〜60万円未満の価格帯
 標準アンプ的に使える製品が多いゾーン。古い製品だが現在でも魅力抜群のM4aがベスト1だ。これに対比できるのは、やはりP500である。
●60〜120万円未満の価格帯
 ドライブ能力に優れ、伸びやかで安定したXI、個性派のM510が双璧である。KSA50MK2も好製品だ。
●120万円以上の価格帯
 ソリッドステートの反転アンプCitationXXと管球OTLのSA4に絞る。安定感はXXだ。

コントロールアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 プリアンプの価格帯は四つのゾーンに分かれていて、30方円未満から100万円以上にわたっている。
 30万円未満でのベストワンとしては、デンオンPRA2000Zを選んだが、このアンプのもつ、美しい仕上げに見合った精密感のある音の魅力が印象的である。組み合わせるパワーアンプやスピーカーによっては、やや肉付きが薄くなるかもしれないが、逆に豊かな量感のスピーカーに対してややパワーアンプをきりっと引き締めて毅然とした音にする効果も捨て難い。ヤマハC2xは、ごくオーソドックスな質感をもち、特に個性的ではないが、質の高い信頼感がある。メリディアンMLPは、フォノやCDそしてチューナーなどのライン入力アンプを、それぞれモジュールとして組み合わせられる自由度をもった独特なコンセプトによるもので、同じモジュールパワーアンプも用意されているから、本当はプリメインアンプとして扱うべき製品だと僕は思う。しかし、そのブリ部分だけを独立させて、他のパワーアンプを鳴らすことも可能なので、このジャンルの扱いになったと思われる。きわめてよくコントロールされた音で、質感には独確で魅力的な粒立ちがある。作者の感性のふるいを通した音だ。QUAD44は、いかにもQUADらしいコンセプトでまとめられ、これも個性が強い。
 30〜50万円の価格帯ではアキュフェーズのC200LとカウンターポイントSA3を選んだ。この2機種、単刀直入にいえば信頼性ではC200L、魅力ではSA3である。C200Lはアキュフェーズが創業時に発表したC200のロングランだが、中身は常に、その時点でのテクノロジーでリファインされ続け、現代の200Lは、最新プリアンプとして優れた特性に裏付けられ、かつ、よくコントロールされたバランスのよい音のアンプだ。しかし、僕が同じ日本人で同質文化への新鮮さが希薄なためか、音への新鮮で強烈な魅力という点で、カウンターポイントSA3をベストワンとしたのである。ソリッドステート電源をもつ管球式のプリアンプで、その柔軟にしてしなやかな強靭さをもった音の魅力は格別である。ただ、作りの点、信頼性の点では垂島最高点はつけ難い。ラックスマンのCL360は発売が来年に延びたのであげなかった。
 50〜100万円では、さすがに全て第一級の甲乙つけ難い製品が並んでいる。強いてベストワンとなれば僕は、その完成度の点でマッキントッシュにならざるを得ない。C33、C30の両者は価格差を考えると甲乙つけ難いが、C33の中域の魅力をとってこれを推す。アキュフェーズC280、サンスイC2301、それぞれ魅力的で、信頼性の高い上質のプリアンプである。

コントロールアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 従来からも、コントロールアンプには、傑出した製品が少ないのが通例であるが、この傾向は今年も大して変わりはない様子である。基本的にコントロールアンプはフォノイコライザー付コントロールアンプという形態で発展してきたが、昨今のCDブームが定着化してくると、この形態を保つ必然性はかなり大幅に減少してきたように思われる。
 現状では、まだアナログディスクとCD共存がベースではあるが、CDに対する依存度が高まってくると、現状のコントロールアンプの重要な部分であるフォノイコライザーアンプやMCカートリッジ用のヘッドアンプや昇圧トランスなどを使う頻度は低下し、それらの部分のコントロールアンプ中に占める価格が問題になってくることになる。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプは、アナログプレーヤー側に装備するか、ブラックボックス的に独立した存在であるべきである。
 その大きな理由を簡単に記しておこう。CDをメインに使う場合には、フォノ入力にプレーヤーがつながれていないことが往々にしてあるだろう。この状態でCDの音を聴き、次にフォノ入力にショートピンを差込んで再びCDを聴いてほしい。音の透明度や、抜けのよさ、音場感の拡がりに大きな差が聴き取れるだろう。簡単に考えれば、フォノイコライザーアンプのノイズがアンプの筐体内部でCD入力に干渉して、音を汚していることになる。
 フォノ入力の端子に、かつてショートタイプの構造をもつものを採用していたメーカーがあり、これも対応策だが、根本的には、フォノ入力使用時以外にフォノイコライザーアンプの電源を切る対策がベストである。この提案を採用したプリアンプが既に存在しているが、結果は非常に良好であり、各社各様の対応をうながしたい点だ。
●30万円未満の価格帯
 アナログディスクを重視する使い方では、内蔵昇圧トランスとヘッドアンプとMM用入力を使えば、外付の昇圧トランスやヘッドアンプも使えるPRA2000Zの基本構成は抜群の成果である。入力切替はリモートコントロールのリレー切替でミュート付でボップノイズは皆無の点が特徴。オーソドックスに置き方、ACの給電方法などで追込んで使えば、かなり高級機とも比較できる音の良さが魅力のポイントだ。C2xの薄型アンプとしての完成度の高さは歴代ヤマハのコントロールアンプ中でトップランクの存在。熟成のきいたP−L10の安心して使える音も好ましい。
●30〜50万円未満の価格帯
 高価格であるだけに信頼感の高さが特徴。C3aの潜在能力が予想以上に高いようだ。
●50〜100万円未満の価格帯
 強いて使うならばといった選択である。

プリメインアンプのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 ブリメインアンプの価格帯は3ランクで、10万円未満、10〜20万円、20万円以上と分類されている。そして、プリメインアンプという性格からすると、10万円未満というゾーンが主力であり、10〜20万円は高級機、20万円以上は特殊な超高級機として、その上のセパレートアンプと重複するゾーンであると考えてよいのではなかろうか。人によっては、10〜20万円を主力と考えるかもしれないが、最近のプリメインアンプのCPからすれば、僕は前述のような認識をもっている。特に、79800円という価格のブリメインアンプの質的充実は目覚ましく、単にCPの優れた製品として以上の内容の優れた製品が多いのである。さすがに、これを下廻る価格のものには、本格的なコンポーネントとしては少々不満の残るものが多く、10万円未満とはいっても、現実は79800円に集中したゾーンということになるようだ。
 この10万円未満のゾーンでベストワンとしてオンキョーのA817RXIIを選んだが、このアンプのもつ、高いスピーカードライブ能力と、余裕のある豊かなサウンドクォリティは、かなりの高級級スピーカーを接続しても一応不満の少ない品位をもっているし、極端に能率の低いスピーカーでなければ、広くブックシェルフタイプのシステムを鳴らすのに全く不満のないものだ。他にハーマンカードンのPM655を選んだが、この製品のもつ音の情感は注目に催する。価格はやや割高で、パワー表示からだけ見ると、特にその感が強いが、その音質と、パワー以上のドライブ能力からして、優れたブリメインアンプだと思う。もう一機種、ビクターのAX−S900を選んだが、この滑らかで艶のあるエネルギッシュな音は立派だ。しかし、選に入れなかった中には、これらと全く同列と思えるケンウッドKA990Vなどもあり、何故、これが入っていないのか? と問われると、答えは全く用意出来ない。強いて答えろといわれれば、KA990Vは他の機会に大いに評価して紹介しているので、ここでは他の製品にチャンスを与えたということになるのである。
 10〜20万円のベストワンはヤマハのA2000aである。A2000のリファインモデルだが、音は一長一短。A2000のひよわさはなくなったけれど、その分、情趣はやや希薄になった。美しく、所有する魅力のある高級ブリメインアンプだ。そしてケンウッドKA1100SD、サンスイAU−D907XDなど、いずれも充実した堂々たる製品である。
 20万円以上はマランツPM94をベストとしたが、これとは対照的なラックスマンL560とは比較すら困難だ。L560はクラスAでパワーは小さいが、風格と情緒性では表現しがたい魅力をもつ。PM94のほうがより一般的に強力なアンプではある。

プリメインアンプのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 今年のプリメインアンプの注目すべき価格帯は、10万円未満で、製品の内容が非常に高まったことと、20万円以上の価格帯に、セパレート型アンプの下限と競合する性能、音質を備えたモデルが登場してきたことである。
●10万円未満の価格帯
 基本的には、スピーカーシステムでの20万円未満の価格帯に相当するゾーンで、本格派のブックシェルフ型システムなどを充分にドライブしようとすると不満を生じるだろうが、気軽に音楽を聴こうという要求には適度な製品が存在している。
 最激戦価格は79、800円に絞られ、上位7機種中で6機種がこの価格の製品であり、ほとんどが新製品という過密ぶりである。それらのモデルの内容をジックリと見聞きしてみると、前作と比較して明らかに1ランクアップを果している製品があるのが判かる。その第一は、A750aだ。やや線が細く、弱々しさのある前作とは一線を画した、安定感のある充実した音は、かなりの本格派で、ドライブ能力もあり、安心して使える印象が好ましい。
 A817RXIIも特殊なトランスを各所に採用した結果なのだろうが、従来の独特のヌメッとした色彩感が大幅に減少して、オンキョー本来のスッキリとした抜けのよい素直な音になった点を大いに買いたい。
 ベスト1は、AX−S900である。もともと、この価格帯には異例の内容をもつ前作に電源部の改良をメインにしたモディファイが施され独自のGmボリュウムやGmスイッチ切替によるSN比の高さは、圧倒的に優れた見通しの良い音場感に現われている。また、スピーカーのドライブ能力も充分にあり、本格派プリメインとしての信頼感は非常に高い。やや異例な存在が、PM655だ。豪華な仕上げを競う国内製品と比較すると、異なった個性をもつが、ゆったりとした落着いた音は独特の魅力だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 非常に内容が優れた製品が昨年一斉に発売されたが、予想外に需要が伴わなかったのが10万円台前半のモデルだ。PMA960のしなやかで落着いた音、A−X1000のダイナミックな迫力にも注目したいが、A2000aの安定感と密度感の高さはピカーの存在である。型番に変更はないが確実に改良が聴き取れるのがA150Dでダークホース的な存在。柔らかく、豊かな音を受け継ぎながらも、ピシッと一本芯の通った音が聴けるのは大変に好ましい存在だ。
●20万円以上の価格帯
 やや、ベストバイの印象から外れたゾーンである。PM94は、まさしく、スーパープリメインアンプ的存在で、同社のセパレート型Sc11とSm11と競合できるだけの質的高さは別格の存在である。LX360の独特の雰囲気も大切にしたい個性。

CDプレーヤーのベストバイ

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 CDプレーヤーは三つの価格帯に分けられている。進歩のプロセスにあるCDプレーヤーだけに、そのベストバイとしての価値判断は、やや特殊である。CDプレーヤーの価格差の意味が難しいからだ。今後、まだ大きな可能性のある分野であるだけに、高級機種について断定的な評価を下し難い気がする。かといって、低価格機とは歴然とした音の品位の差が存在するのも事実だから、今、どのクラスを買ったらいいかという判断が困難なのである。数年、あるいは、それ以下で、次の進歩が見られるなら、低価格機にしておこうという見方もあるだろう。僕としては、たとえ数年でも、よりよい音がするものを取りたい気持ちが強い。
 10万円未満のベストワンはマランツCD34である。これはCPからして抜群だ。戦略価格だからである。ユーザーは漁夫の利を得られる。本来なら10〜20万円のランクで通用する音だ。ソニーD50II+AC−D50はポータブル機器として、多機能発展型となり、この価格帯の代表機種である。テクニクスのSL−XP7+SH−CDA1も同じコンセプトながら、立派な音を聴かせる。デンオンDCD1100はよく練られた音で音楽的に自然で楽しめる音だ。この価格としては最も広く薦められる機種だと思う。この他、選外のほとんどの機種が、きわめて高いCPをもったもので、どれを買っても損はない……というのが、現在のCDプレーヤーの低価格帯の状況だと思う。
 10〜20万円となると、さすがに音質に魅力的なものが出てくる。オンキョーC700をベストワンとしたのは、その技術的興味で他を引き離している点からだ。光ファイバーによるデジタル信号の伝送を、このレベルで実現したのは立派だと思う。そのよさが音にも出ているが、中、低音の立体感にもう一歩の欲が残る。ケンウッドDP2000は確実な技術の積み重ねで音を練り上げた好製品。パイオニアのPD9010Xはメカニズムや音質の追求に細かい配慮をした結果が成果を上げ、豊かで澄んだ音が美しい。ローディDAD003は、セパレートタイプの普及モデルとして魅力的だ。ヤマハのCD2000は、明るく透明な響きが暖かい感触を失わず、快い響きをもったものだ。この他ソニーのCDP553ESDのきわめて透徹で精緻な音が魅力だ。
 20万円以上ではソニーのCDP553ESD+DAS703ESのセパレート型が前作を確実にリファインして現在のCDプレーヤーの高水準を示して立派。フィリップスLH2000はプロ機でアマチュア用としては無駄が多いが、CDの音のリファレンスが聴ける。ローディDAD001はベストワン。音の厚み、しなやかさは抜群だ。マッキントッシュとB&Oは、国産と一線を画す音とデザインで秀逸だ。

CDプレーヤーのベストバイ

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 他のコンポーネントと大きく異なったCDの特徴は、価格に関係なく、基本特性がほぼ等しいことがあげられる。つまり、もっともローコストモデルでも、正しい使い方をすれば、優れた特性をベースとしたハイグレイドの音が楽しめるわけだ。
 CDプレーヤーは、今年になり急激に開花した感があり、製品も非常にバラエティに富んではいるが、データ的に同等の性能をもってはいるが、平均的な規格以外に隠れた部分があり、このあたりに経験量の差やノウハウの蓄積量の違いがあるようで、これが決定的な音の違いとなって現われるようだ。
 CDプレーヤーで問題となるのは、主に筐体からの高周波の不要輻射、AC電源を通しての干渉、信号に含まれる残留ノイズの質と量などがある。現実には、不要輻射はFMチューナーのビート妨害として出やすく、AC電源からの干渉はアウトフォーカス気味のボヤケた音や奥行きの欠除した音場感などになりやすく、残留ノイズは直接に音質を劣化させることになる。
 FMへの妨害は、FM受信時にCDの電源をオフにすればよく、AC電源の干渉は、アンプなどと別系統の給電をするとか、フィルター、インシュレーショントランスの使用などで低減できるが、残留ノイズは如何ともしがたい問題である。とくに、最近の頭の良い設計者は、ボーズ時にミュートをかける設計をするため、曲間部分でボリュウムを上げチェックする他はない。
●10万円未満の価格帯
 基本的な選択法は経験豊かなメーカーの最新製品を選ぶことだ。価格的に、ポーズ時にミュートがかからない製品が多いため、ポーズにしてボリュウムを最大にしてチェックをしよう。8kHz近辺のビートが少し出ている程度がベストだ。ジャージャー、カチャカチャといった残留ノイズは論外だが、現実には存在するため要注意だ。
 ベスト1は、チェンジャー機能をも備えたPD−M6である。基本的な音も質的に高く、楽しく音楽を聴かせる雰囲気は抜群であり、残留ノイズの質と量も優れる。LDでの経験が結実した好製品。一連のヤマハ製品は確実な内容の向上を示し、CD34のメカ部の充実さは特筆ものだ。ダークホースは、清澄な音のDCD1500と、飛躍的にCD技術を磨いたXL−V400だ。
●10〜20万円未満の価格帯
 高級機の分野だけに技術的に高度な内容を備える製品が多いが、高度な技術内容もオーディオ的に消化しないと、結果としての音は期待外れになるわけだ。信頼性は、さすがにCD2000WやCDP553ESDが抜群の存在だ。オーディオ的に音楽が楽しく聴けるのはPD9010X。新鮮なDP2000。未完の大器は、ZD5000とC700。今後の洗練を期待する。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

菅野沖彦

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 いつものことながら〝ベストバィ〟の選出の基準について書くのに苦労する。ベストバイ……つまり、お買徳、最高の買物……などといった意味は、実に複雑な多面性をもっているからだ。それぞれのジャンルについて選出の基準を述べよという編集部の注文は、それでも毎年同じように続いているのである。それぞれのジャンルという言葉を使いながら、価格帯の分類まではいっている。価格帯によっては、選出の基準がちがってもいいということなのか? 僕自身にもよく解からないのである。
 スピーカーのジャンルでは、20万円未満から160万円の価格帯に分類されているが、選出の基準は、この事実からだけでも大きく制約を受ける。安くてよいものという基準はまず成り立たない。最高品位のものというのもおなじく成り立たたない。
 価格帯別に基準はふらつくわけで、ジャンルでくくって、確固たる基準を述べることは不可能である。いわば無理難題であるわけで、この種の企画に共通の矛盾を含んでいることをまず申し上げておきたい。結論を言えば、率直にいって基準などという厳格なものは僕の場合にはない。述べれば述べるほど矛盾を生むことになって、やり切れない。観点とか基準とかいう言葉は曖昧であったり矛盾と流動性を含んでいてはナンセンスである。近頃、あまりに安易にこうした言葉が使われ過ぎる。もっともらしくて恰好いいのだろうが、本当は恰好悪いのである。
 僕の場合どう考えても、よくいえば柔軟性をもって総合的に価値を見当して、〝よいもの〟を選んだということになるが、悪くいえば、どうもまんべんなく選んだようにも思え、改めて、後味の悪い思いをしながら反省しているところである。数の制限もあってのことだから、こうなるのもやむを得なかったのだが、いずれにしても選出というのは骨の折れることである。
 スピーカーの低価格帯域のベストとして選んだのはB&OのCX100である。小型で使用条件の限定を受けるが、何より、その音とつくりのセンスの高さが抜群だ。小型ながら、その高貴さ故にベストワンとした。他に外国製ではスウェーデンのラウナの〝ティール〟、セレッションのSL6など素晴らしいものがたくさんあるが、能力としてはこのランクでは国産のほうが高い。特にケンウッドLS990AD、オンキョーD77、ヤマハNS500Maなどのように選にはいったものはもちろん、選外にも優れた特性と能力をもったものが多数ある。しかし、音の品位、表現の説得力となると今一歩のものが多いのである。
 20〜40万円のベストワンはボストンアコースティックA400であるが、このスピーカーの素直でありながら、豊かな情感を伝える能力、価格も含めた製品としてのバランスのよさは高く評価したい。国産ではダイヤトーンのDS2000、コーラルDX−ELEVENが充実している。CP的には外国製品を大きく上廻ることはいうまでもない。ユニットの作り、エンクロージュアの密度の高さなど、同じ価格で比較すると、国産品の充実は外国製を圧倒している。しかし、ハーベスやスペンドールの、あるいは、タンノイの音の味わいや魅力には欠けるのだ。
 40〜80万円では異例といってもよい国産のベストワンをあえて選出した。ダイヤトーンDS10000である。この音の美しさは、遂に世界的なレベルに達したように感じられる。それも、日本的な緻密で繊細さを極めた音であって、海外スピーカーのもつ味わいに追従すするものではない。技術のオリジナリティも他に類例のないアイデンティティをもっているものだし、作り手の情熱の感じられる作品としての表現力が力強い。他はすべて、このランクになると海外製品になった。JBLの新製品4425は、いかにもJBLらしい鮮鋭さと精度の高い音像再現性をもった素晴らしいもので、その発音の基本的性格が他の製品に聴けない独自の明るさとエネルギーに満ち溢れているスピーカーシステムだ。タンノイのエジンバラの重厚な風格、B&O/MS150−2のモダニズムの精密さ、ボーズ901SSのオリジナリティと長年にわたるリファインの成果は、いずれも明確なアイデンティティと魅力を持っている。
 80〜160万円ではJBLの4344が、圧倒的に安定したリファレンス的サウンドで好ましい。頼りになるシステムだ。
 160万円以上では、ユニークな技術的特色と、熟成した音の魅力で独自の世界を創ったマッキントッシュのXRT20の姉妹機XRT18を選んだ。重厚にして柔軟だ。

スピーカーシステムのベストバイ(1985年)

井上卓也

ステレオサウンド 77号(1985年12月発行)
特集・
「ジャンル別価格別ベストバイ・362選コンポーネント」より

 スピーカーシステムは、基本的にメカニズムを使ったトランスデューサーであることが、エレクトロニクスの産物であるアンプやCDプレーヤーと異なった特徴であり、スピーカーユニットを構成する振動板材料、磁気回路、フレームなどがある水準以上の性能を要求されれば、それ相応の物量の投入が前提となるため、いわゆる生産性の向上で価格の低減を期待することは不可能と考えてよい。
 もちろん、スピーカーシステムの分野でも、いわゆる売れ筋価格帯というものが存在し、このゾーンに製品が集中する傾向が強いが、ここ数年間にわたり売れ筋価格が維持されているために、各社各様のサウンドポリシーを貫いてはいるものの、その内容は、やや希薄化の動向は否めない事実といえるだろう。
 基本的に、ある水準以上のサウンドクォリティを要求される、いわゆるコンポーネント用のスピーカーシステムに相応しい内容、実力を備えた製品となれば、現状では、ステレオ・ペアで約20万円以上のシステムが好ましいといえるが、やや妥協して考えても、売れ筋価格帯上限の、ステレオ・ペアで12〜13万円クラス以上が、ベストバイの下限であろう。
●20万円未満の価格帯
 自分なりに価格帯の下限を設定したために、選択した製品は、海外製品を除いて、標準サイズのブックシェルフ型システムである。外形寸法的には、やや大型である点が特徴でもあり、内容的な問題点でもあるようで、そろそろ大きいことは良いことだ!的な観念を捨てて、少しは小型、高密度化の方向のシステムの開発を各メーカーの企画担当者に要望したいものである。
 海外製品は、ともに英国の小型ブックシェルフ型システムを選択したが、基本性能もかなり見事であり、音質的にもかなりインターナショナルな雰囲気を備えている。気軽に小型、高性能を楽しむためにはSL6が相応しく、やや構えて、高密度な音を聴きたい向きには、LS3/5Aはベストバイ中のベストバイである。
 この価格帯の製品には、いわゆるAV対応という、防磁構造のユニットを採用したモデルが散見されるが、本来、防磁構造はスピーカーのシステムの基本性能を向上する不可欠の要素であることを認識してほしいものだ。洩れ磁束は、内部の配線、ネットワーク素子、アッテネーターに影響を与え歪を発生する元凶なのである。
●20〜40方円の価巷帯
 内容が充実しており、選択するのが楽しい標準サイズのブックシェルフ型がメインの価格帯である。国内製品の大勢は、CDの驚異的な情報量に対応するための、低歪化に代表される性能向上による、聴感上でのSN比の向上の方向の開発であるが、一部には、音の輪郭をクッキリと聴かせるアナログ派とでもいえるモデルもあるようだ。
 DS2000は、強烈なインパクトこそ受けないが、新開発ユニットをベースとした内容の濃い製品。使いやすく、誰にでも高性能を基盤にしたバランスの良いハイディフィニッションな音が楽しめ、完成度の高さは同社製品中で文句なしにトップだ。飛躍的に完成度を高めたS9500DVの柔らかく豊かな低域。未完の大器らしい凄さのあるZero−FX9。木目仕上げが魅力のNS1000XWなどの新製品に注目したい。S955IIIの爽やかさ。SX10のソフトドームならではのしなやかさと、アンティークなムードも個性派の存在。玄人好みのDS1000。伝統的タンノイの魅力を凝縮したスターリングも使いたいシステム。
●40〜80万円の価格帯
 ペストバイの感覚からは少し離れた価格帯の製品で、ジックリ聴き込んで選択をしないと後悔を残す個性派が多い。現代的な高密度ハイデイフィニッション型では、DS3000が最右翼の存在。さりげなく高品位の音楽を楽しむためには901SS−W。少しメカニカルなイメージを求めれば901SSだ。実感的なバリュー・フォー・マネーならタンノイに限るし、個性派には、QUAD/ESLだろう。目立たぬがベストバイに最も相応しいのがMONITOR1である。また、NS2000の美しい仕上げもヤマハならではのものだ。ベスト1は、唯一の鋳造磁石採用の磁気回路をもつ2S305だ。最新のCDプレーヤーで一度は追込んでみたい製品。
●80〜160万円未満の価格帯
 上位5機種は、傾向は大きく異なるが、正確な目的さえ持っていれば、長期間にわたり充分に楽しめるシステムである。締切り後に聴いた製品ではDUETTAがドライブしやすく一聴に値する。

ウエスギ U·BROS-1

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 きわめてニュートラルな音で、ソースの性格を素直に聴かせてくれる。いかにも端正な、中庸をいく音である。質感は、ふっくらとまろやかで自然なものだ。強烈な個性の主張はないが、暖かく滑らかなバランスのよい音は、多種多様な音のプリアンプ群の中では、これ自体が、一つの個性としても、主張としても目立つものだ。荒々しさとか、鮮烈さといった趣きとは対照的な音だから、使うほどに、飽きのこないアンプだろう。
[AD試聴]弦のアンサンブルはふっくらとしたしなやかな質感で、細部のディテールもよく描き出す。やや淡彩なマーラーだが、緻密で端正なオーケストラの響きと透明なライブネスの再現が快い。このプリアンプは存在感を主張しないから、効果的とか魅力的とかいう言葉は使いにくい。「蝙蝠」のステージの自然なリアリティは素晴らしく、人の声の〝らしさ〟は抜群であった。この点、ジャズのガッツやスイング感の強烈な毒性が少々おとなしいが、当然だ。
[CD試聴]CDに対する音の鮮度はきわめて高く、細かい音がよく出る。ショルティのワグナーにおける弦の質感や音の鮮度は第一級。トゥッティの迫力、安定度も素晴らしく、空間もよくぬけて気持ちがよい。このディスクの音としては、もう一つ情熱的で脂の乗った響きだと一層効果的なのだが、ここでも、このアンプの中庸性を知らされる。ベイシーのピアノの開始では、アクションの動きが、他のアンプでは聴けない実感で、この点はSA3と共通した印象。

マッキントッシュ MCD7000

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 マッキントッシュでCDプレーヤーが開発中であるとの噂は、一部で知られていたことであるが、今回、そのベールを脱いでコンパクトディスクプレーヤーMCD7000として新発売されることになった。
 マッキントッシュの製品は、つねに時代の最先端をゆく技術と背景に、高い性能とクォリティを備え、長期間にわたり安定して、高度な音楽性を保ちつづけることに特徴があるが、このMCD7000も、音質的なクォリティはスタジオサウンドを目指して開発されたという。
 外観は、マッキントッシュ独特の、筐体をケースなどに固定するパンロックシステムを採用した、いかにもらしい外観をもつが、パネル両側のゴールドと金属部分の色調がやや薄くシャンペンゴールド調になり、漆黒のパネルフェイスやグリーンに浮出るレタリングなども、全体に抑えた印象となり、独特の華麗さがかなり抑えられ、むしろマットなイメージになっているように見受けられる。
 内容的には、光学系は機械的精度を向上し、外部振動の影響を避ける目的でアルミダイキャスト製の構造材に組込まれており、レンズ系はスイングアームで保持され、ディスクドライブモーターは交流モーター採用で、セルフ・センタリング・サポート・スピンドル方式と呼ばれる構造をもつために、CDのセンタリング精度は高く、優れた光学系のサーボ方式とともに読取精度の向上に寄与している。
 音質と直接関係の深いフィルターには、音質重視の設計ではオーソドックスな手法であるデジタルフィルターが採用され、マッキントッシュでは、ダブルデジタルフィルター方式と呼ばれているものだ。
 機能面で興味深いのは、フロントパネルに、標準型のステレオフォーンジャックと独立した音量調整ボリュウムを備えており、このような機能は日本独自の要求かと思っていたが、米国でも個人的なプライベート・コンパクトディスクサウンドとして、ヘッドフォンで楽しまれるというのは、少からず驚かされた次第である。その他機能面では、各種のリピート機能、任意の20曲プログラム選曲、バーグラフ式のトラックナンバー表示、3スピードのミュージックスキャン機能などを備え、ワイヤレスのリモートコントローラ付属である。なお、一部では出力系にトランスが採用してあるとの情報もあったが、この点は不明。
 本機の音は、適度に帯域をコントロールした、安定感があるバランスとアナログディスク的なイメージのサウンドキャラクターが特徴である。出力コードは、純銅線が好ましく、置台の影響も平均的に受けるため、セッティングにはかなりの注意が必要であろう。マッキントッシュファンの反応が興味深いCDプレーヤーの第1作だ。

パイオニア PD-9010X

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 バイオニアの新CDプレーヤーシリーズは、簡潔かつ基本的な構想によるディスクの不要共振を抑える、ディスクスタビライザーを世界初に採用した製品として知られる。すでに、PD5010と7010が発売され、それぞれのモデルに与えられたサウンドと機能面での特徴が、単なるシリーズ製品としてのランク差でなく、価格差を超えて対比できるモデル間の固有の魅力として認められるだけの巧みな展開をみせているが、今回、シリーズのトップモデルとして、PD9010Xが新発売された。
 シリーズ共通のキズや汚れに強いリニアサーボ方式、オリジナルの高精度ピックアップ系の採用などの他に、本機の特徴は、まず、CDの初期から音質に関係する重要な部分とされるフィルターにデジタル型が採用され、帯域内リップルが、0・01dB以内とフラットであり、デジタル信号処理をひとつのマスタークロック発振器で同期する方式は、各信号間のビートやデジタル信号にジッター成分が含まれず、サーボ系やオーディオ系への影響を抑えるために効果的である。
 電源部は、CDプレーヤーでも、音質面で重要な部分だが、電源トランスは、サーボ系とデジタル系に1個、オーディオ系にはオリエントコアにOFC巻線を施した専用トランス1個を採用した2トランス型。
 基板関係は、各基板の微少レベルでの振動による相互干渉を避けるため3ブロック構成とし、オーディオと電源部は、70μmmの銅箔パターン採用で、オーディオ部は左右チャンネル対称型パターン。電源部はOFCバスパー採用が特徴である。その他高音質パーツとして、電源コード、配線材料のOFCコード、独自のガラスケース電解コンデンサーと黄銅キャップ抵抗などがあり、筐体の脚部は、アナログプレーヤーとは異なるが、特殊な振動減衰率の高い材料を使ったインシュレーターで、外部振動をシャットアウトし、光学系は、さらに筐体内部でフローティングをする構造である。
 横能面は、フルモードのワイヤレスリモコン装備で、ダビングに便利なポーズプログラム機能と積算時間表示、プログラム内容を示すトラックディスプレイ3種のリピート機能、2連マニュアルサーチなどの他、サブコード出力をも備える。
 あらかじめ、電源が入っていれば、プレイ開始からの音の立上がりは平均的で、約2分間程度で本来の音になる。
 柔らかく豊かで、質感の優れた低域をベースに、安定した響きをもつ中低域と適度に密度感のある中域、素直な高域がナチュラルなバランスを聴かせる。音色は明るいタイプで、音場感情報は充分に豊かであり、デジタル的な印象がなく、音楽を活き活きとブレゼンスよく聴かせるあたりは、独特の魅力であり、これは、楽しい。

オンキョー Integra C-700

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 CDプレーヤーの音質を向上するために、光学ピックアップ系を含むサーボ系、デジタル信号処理系とアナログアンプ系を分離して、別の筐体とするセパレート型プレーヤーの開発商品化や、ディスク駆動系と光学ピックアップ系の可動メカニズムを独立させた試作品などが存在し、それぞれのメリットが確認されているが、今回、オンキョーから発売されるインテグラC700は、予測されていたように、光ファイバーを採用して、デジタル回路で発生した各種のパルス成分が、信号系やアースラインを通ってアナログ回路に流れ込む、オンキョーで名付けた、DSI(デジタル信号妨害)を極限に抑えようとしたものである。この方式は、アースラインを含め、両者を電気的に完全に分離できるのが特徴であり、世界初の光伝送方式によるCDプレーヤーである。
 光ファイバーは、L/R、ワード、ピットの各クロック信号とデータ信号、ディエンファンシスとオーディオミューティングの、6系統に採用されている。これにより光結合回路の入出力を比較すると、入力波形にあるDSIは、出力波形では除去されているのが観測可能であるとのことだ。
 その他、本機の特徴は、デジタルフィルターと、通常組み合わされる3〜5次程度のタイプより不要成分を抑え位相特性を改善する目的で採用した7次アクティブ型フィルターを採用している。また、電源部は、トランス巻線をデジタルとアナログ別巻線とし、シールドを施して回り込みを防止するとともに、アンプで定評のあるデルタターボ回路が採用され、信号系にも同様にスーパーサーボ方式を採用し、高いサウンドクォリティを確保している。
 機能面では、10キー・ワイヤレスリモコンを備え、16曲までのメモリープレイ、3種のメモリープレイ、タイマースタート機能、ボリュウム付ヘッドフォン端子、固定と可変の2系統の出力端子などがある。
 試聴は、常用のアキュフェーズのピンコードで始める。広帯域志向型のサラッとした帯域バランスとナチュラルでスムーズな音が第一印象だ。演奏開始からの立上がりは平均的で、焦点がサッと合ったように音の見通しがよくなる。低域は柔らかく伸びがあり、フレキシプルな粘りが特徴である。
 100VのAC電源の取り方を変え、置き場所を選択して追込むと、次第にシャープさクリアーさが増してくる。出力コードをLC−OFCに変え、細かく追込んでいくと、音場感情報もかなり豊かになり、ナチュラルなプレゼンスと定位感が得られるようになる。基本的にキャラクターが少なくナチュラルでクォリティの高さが光学伝送系採用の特徴であり、その成果は大きいが、今後さらに一段と完成度を高め、異次元の音にまで発展してほしい意欲作である。

アントレー EC-45

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 カートリッジ専門メーカーのアントレーからの新製品は、ユニ−クなコンセプトによる重針圧タイプの低インピーダンス型MC力−トリッジである。
 基本的構想は、軽針圧型独特の音場感情報の多いプレゼンスの良さと、重針圧型ならではの、彫りの深いリアルな音質とを両立させるために、まず、カンチレバー材料に一般的に使われる、軽量で剛性が高い特徴をもつ軽金属系のパイプを採用せず、ムクの軽金属棒とパイプを組み合わせて、これを3重構造としたカンチレバーを開発し、新しいサウンドの世界に挑戦しようというものである。
 具体的には、アルミパイプに、アルマイト処理をしたアルミのムク棒を入れ、基部をアルミパイプで補強したカンチレバーが、EC45の最大のポイントである。コイル部分は、0・04φ銅線を磁性体巻枠に巻いた低インピーダンス型で、サマリュウムコバルト磁石を採用した効率の高い磁気回路により、2・5Ωのインピーダンスで、0・25mV(1kHz・3・45cm/dyne・45度)の高出力を得ている。なお、針先は、バイタル型ソリッドダイヤ楕円針付。
 ボティ部分は、アルミダイキャスト製で、剛性が高く、軽量であり、表面はレザーペイント仕上げ、上部カバーは銀メッキが施してあるが、それぞれに適度な制動効果があり、材料独自の固有音を抑え、再生音のクォリティを確保している。
 マイクロSX8000IIシリーズのターンテーブルとSME3012R−PROの組合せで試聴する。定格針圧は、2・5g±0・6gのため、2・5gからスタートする。聴感上での帯域感は、両サイドを少し抑えた安定型で、低域は柔らかく豊か、中域はクッキリと音の芯がクリアーで、力感もあり、音像は輪郭がクッキリとしており、サラッとした淡白な表情が特徴だ。
 針圧の上限と下限での音をチェックし、インサイドフォースを検討した結果では、針圧、インサイド共に2・75gがベストサウンドだ。安定感があり、落着いた音の魅力が聴かれるが、低域の表現力の甘さと重針圧型ならではの、力強いリアルさが不足気味である。SME用のシールド線を、LC−OFC型から銅線に変え、昇圧をヘッドアンプから手もとにあったオルトフォンT2000にする。この変更で、音に厚みが加わり、緻密な印象も出てはくるが、再度、針圧やインサイドフォースを追込んでも、音場感的な情報量が不足気味だ。
 次に、水準器付のアントレーのヘッドシェルをテク二力のAT−LS13に変えてみる。標準的な、かなりオーソドックスな立派な音になった。やや、中域のキツさはあるが、針先のエージングが済めば、解決できそうな音である。昇圧トランスの置き場所を選び、トランスと置く台との間に敷く材料を選び、追込んでいくと、音質的にはかなりグレイドの高い、リアルなサウンドになり、重量級らしいリアリティの高い音と、適度に拡がる音場感と定位感がある安定したサウンドになった。
 かなり使いこなしは要求されるが、開発目標とした狙いは、音にも充分に現われ、アナログならではの魅力をもつ好製品だ。

ロバートソンオーディオ 2020

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)

「BEST PRODUCTS」より

 パワーリニアリティの卓越したパワーアンプとして、注目のうちに国内に登場した2モデルのパワーアンプ6010、4010に続く、シンガポールのロバートソンオーディオ社の新製品が、このコントロールアンプ、2020である。
 基本的な設計ポリシーは、伝統的なアナログディスクをハイクォリティで再生するために、機能面を必要最少限に簡潔化した、フォノ重視型プリアンプといった性格が、このモデルの特徴である。
 剛性感のあるコンストラクションをもつ筐体は、高性能コントロールアンプのひとつの典型ともいえる専用電源部をもつセパレート型で、視覚的にもその内容に相応しく、簡潔さが本機の個性だ。
 回路構成は、MC型カートリッジ用ヘッドアンプ、フォノイコライザーとトーンコントロールやフィルター類のないシンプルな23dBのゲインをもつフラットアンプの3ブロック型である。MC入力は、負荷抵抗が100?Ωと500Ωの2段切替、入力セレクターはCD、チューナー、AUX、AVと、独立した1系統のテープ入出力端子を備える。その他、出力端子の直前に、スタンバイスイッチと名付けられた送り出しスイッチがあり、プリアンプ出力をカットアウトすることができる。
 試聴には、本来のベアである、4010か6010パワーアンプが望まれるが、都合により用意されていなかったため、とりあえず、数種の国産パワーアンプと組み合わせてヒアリングをすることにした。
 基本的には、適度にレスポンスをコントロールした、安定感のある帯域バランスをもち、音色はやや明るく一種独得のエッジの効いた、硬質な魅力をもつ音が特徴である。そのため、とかく薄く表面的な音となりやすいCDもプログラムソースとしても、比較的に音の彫りが深く、アナログディスク的なイメージのサウンドになり、この音ならデジタル嫌いのファンでも安心して音楽が楽しめるだろう。
 フォノ入力系は、低インピーダンス型MCでも、聴感上でのSN比は充分にあり、比較的に生じやすい、フォノ系の信号のCDやAUXなどのハイレベル入力系へのクロストークが少ないのが特徴である。
 力−トリッジは、AKG・P100LE、デンオンDL304、オルトフォンSPUを用意したが、安定感のある低域をベースとしたSPUの、いかにもレコードを聴いている、という実感あふれた音が、このアンプには好適の組合せである。
 CD入力は、ソ二−CDP552を使ったが、アバド/シカゴの幻想のアナログ的なまとまり、パブロの’88ベイシー・ストリートのライブホール的なプレゼンスのある力強いサウンドなど、独特の硬質な魅力は、やはり国内製品にないものだ。

パイオニア S-9500DV

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 パイオニアから新製品として登場したスピーカーシステムS9500DVは、そのモデルナンバーが示すように、従来のS9500をベースに大幅な改良が加えられ、内容を一新したシステムである。
 改良のポイントは、低域磁気回路の防磁化と、エンクロージュアでのラウンドバッフル採用と、形式がバスレフ型から密閉型に変更されたことがあげられる。
 磁気回路の防磁化は、単にTVなどへのフラックスによる色ずれを避ける目的に留まらず、エンクロージュア内部に位置するネットワーク用コイル、配線材料、アッテネーターなどへの磁束の影響がなくなり、歪が減少するメリットは非常に大きい。
 また、エンクロージュアのラウンドバッフル採用は、現在のスピーカーの大きな動向であり、情報量が非常に大きいCDの普及も、プレゼンスに優れたこのタイプに移行する背景となっていると思う。次に、エンクロージュア形式のバスレフ型から密閉型への変更は、現在のバスレフ型を中心としたパイオニアのスピーカーシステムとしては異例なことであるが、伝統的には、ブックシェルフ初期の完全密閉型として定評の高いCS10以後の密閉型システムの技術は現在でも保たれているはずである。
 ユニット構成の基本は前作を受け継いでおり、ウーファーは2重ボイスコイル採用のEBD型で、駆動力の直線性を向上するリニア・ドライブ・マグネティック・サーキットの新採用と、二重綾織りダンパー採用のダイナミック・レスポンス・サスペンション方式、フレームの強度向上などが特徴。スコーカーは、イコライザーの2重ダンプ処理、新開発ケミカルエッジ・ウーファーと共通の低抵抗リード線採用などが改良点だ。トゥイーターは、低磁気漏洩設計と防磁カバーの防振処理が特徴である。
 ネットワークは、中域と高域用で基板を廃した低損失化と高域でのバランス回路化が改良点であり、エンクロージュアは、黒檀調リアルウッド仕上げで、重量は4kg増しの37・5kgである。
 試聴は、同時発売のウッドブロックスピーカーペースCP200を使って始める。基本設置は、左右の幅は側板とブロック外側が合った位置、前後はブロックの中央とされているために、これを基準とする。聴感上の帯域バランスは、異例ともいえるほど伸びた、柔らかく豊かな低域をベースに、穏やかだが安度感もあり安定した中域と、いわゆる、リボン型的なキャラクターが感じられないスッキリとしたナチュラルな高域が、スムーズなワイドレンジ型のバランスを保っている。音色は、ほぼニュートラルで、聴感上のSN比は、前作より格段に向上しており、音場感的情報はタップリとあり、見通しがよく、ディフィニッションに優れ、定位は安定感がある。ウッドブロックの対向する面に反射防止のため、フェルトをあてると、中高域から高域の鮮明さが一段と向上し、高級機ならではの質的な高さが際立ってくる。使用上のポイントは、良く伸びた低域を活かすために、中高域から高域の鮮度感を高く維持する設置方法や使いこなしをし、広いスペースを確保する必要があるだろう。

コーラル DX-ELEVEN

井上卓也

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
「BEST PRODUCTS」より

 コーラルのスピーカーシステムは、伝統あるユニット専業メーカーとしての独自の技術を活かしたユニットを基盤にシステムアップされている特徴があるが、今回、発売されたDX−ELEVENは、同社初の4ウェイ構成、完全密閉型ブックシェルフシステムである。
 ユニット構成は、低域が項角の異なった2枚のカーボングラファイトを重ねたモノコックコーンで、ネック部分に円型のクボミ型メカ二カルフィルター付で高域をカットする構造を採用し、ボイスコイルはOFCエッジワイズ巻き。磁気回路はバランス型で、直径160mmのマグネットと銅キャップによる低歪設計が特徴。中低域は口径10cmの超大口径ハードドーム型で、商品化されたユニットとしては、世界的に見ても最大口径であり、このシステムの注目すべき部分だ。振動板は新開発の特殊な軽合金といわれ、詳細は不明。磁気回路は、低域同様のバランス型で銅キャップ付。銅クラッドアルミ線エッジワイズ巻きボイスコイル使用で、97dBの高能率を誇る。中高域は、中低域と類似した構造と振動板採用の口径60mmハードドーム型高域は、同じく新開発振動板採用の口径22mmハードドーム型である。
 クロスオーバーは、280Hz、4kHz、8kHzと発表されており、中低域と中高域のクロスオーバーが、使用ユニットの口径から予想される数値より大幅に高い周波数4kHzであることが特筆に値する。
 エンクロージュアは、前後バッフルが15mm厚パーチクルボードの2枚貼合せ使用。側板、天板、底板は、25mm厚パーチクルボード採用で、前後ともラウンドバッフル構造の完全密閉型。ネットワークは、低域が独立した2分割型で、音帯域にマッチした素材を投入した高性能設計で、高域と中高域共用の連続可変型アッテネーター採用。
 木製のスタンド上に置き、システムのあらましを聴いてみる。タイトで、少し抑え気味の低域をベースに、穏やかで安定した中低域、輝かしく明るい中高域とシャープな高域が、やや高域に偏った帯域バランスを聴かせる。使いこなしの第一歩は床に近付けて低域の量感を豊かにすることだ。コーラルのBS8木製ブロックに似た高さ20cmほどの木型ブロックに置き直してみる。かなり、安定型になるが、基本的な傾向は変らない。そこで、10cm角ほどの木製キューブの3点支持を試してみる。バランス的にはナチュラルであるが、中高域ユニットのエージング不足のせいか、表情が硬く、アコースティックなジャズなどでは抜けが良く聴こえるが、クラシックの弦楽器では、線が硬く、しなやかさが少し不足気味である。そこで、かなり大きくトータルバランスが変化する高域と中高域連動のアッテネーターを絞ってみる。
 変化は、かなりクリティカルではあるが、最適位置での音は、引締まった低域をベースとした、明るく抜けの良さが特徴である。
 使用上のポイントは、壁やガラスなどの部屋の反射の影響を受けやすいタイプと思われるため、カーテンなどで響きを抑え気味にコントロールした部屋で使えば、4ウェイらしい音が楽しめるだろう。

H&S EXACT + EXCELLENT

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 たしかに素晴らしい鮮度の音である。あまりにも超高価格なので、かなり差し引きして聴くことになるのだが、音は確かによい。曖昧さ、鈍さなどは一切拒絶した明晰な音だが、それでいてちゃんと、ソースの柔軟でしなやかな特徴は再現する。つまり、この締まりのあるたくましい音は、決して次元の低い音色ではなく、高度な品位に裏付けられたフィデリティのなせる業らしい。完成度の点で未消化な部分もあるが、水準を超えていることは確かである。
[AD試聴]楽器の頭のアタックが印象的である。立上りの呼吸、気迫のようなものが伝わってくる。しっかりとたくましい質感のオーケストラは、輝かしいブラスの音が豪放に響き、弦の厚味が充実していて深い響きとなる。めりはりの利いた、腰の坐った安定感のある音は得がたいものだ。人の声も生き生きとしてリアルだ。ロージーの声は艶麗で輝かしい。もう少しハスキーでなよなよしたニュアンスが本当だと思うが……。ベースは重めだがよく弾む。
[CD試聴]エクザクトはフォノイクオライザーだから、これをとばして、エクセレントのCD入力でCDを聴く。ややぷっきら棒で、男性的なたくましさを感じる堂々とした音はエクザクトを通したADと共通している。エクザクトはエクセレントを併用しないと生きないだろう。CDの音に関しては、物理的特性的に最高で、どのソースにも違和感がない。相当、鮮度が高いラインアンプだし、アッテネーターなどのパーツの品位も高いことに納得させられる音だ。

ディネセン JC-80

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このアンプの音はスケールが大きく、濃やかさもあって、聴き応えがある。どちらかというと華麗な響きだが、決して品が悪くならない。ややSN比の点で不満があり、最高級アンプとしては何とかしてもらいたいところだが、この音の魅力は強烈なものがある。艶っぼく、脂ののった、血の通った音で、演奏表現が生きてくる。フェイズの優れた特性のためだろう。よく空間感や、定位が明瞭に再現され、豊かな立体感の中に明確に音像が定位する。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲の再生音は、正しい質感とバランスだと感じた。高音弦の音は滑らかで、しなやかさを失わず、それでいて丸くなったり、鈍くなったりしない。レーグナーの演奏に共通の流麗なタッチのマーラーである。シュトラウスの「蝙蝠」における、色気のあるヴァイオリン群はひときわ魅力的であった。声も自然で、ステージ感がリアルに再現される。ロージーの声は年頃もいい線いっているし、艶っぽさ、ハスキーさもほどよいところ。
[CD試聴]CDは、このアンプのSN比がやや悪いので、不満が目立つ。音はAD同様、大変好ましいのだが、せっかくのCDの据えぬ比のよさが、曲によっては生かされない。高能率のスピーカーでは特に問題があると思われるのである。試聴でも、B&Wでは実用上差し支えなかったが、JBLだと、pppで開始のワグナーなど、どうしてもノイズが気になってしまう。大変素晴らしい音のアンプであるだけに〝珠に疵〟である。

マークレビンソン ML-7L

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このプリアンプの音の品位はきわめて高い。品位が高いというのは、物理特性によるところが大きい。パーツやコンストラクションを含めて、音の実体に則した特性の洗練が生んだ結果だろう。測定データ上の物理特性の次元では、今や、品位が高いという表現が使える音になるとは限らない。この透明度の高い空間再現性、滑らかでソリッドな実在感豊かな音の多彩な再現能力は、現在の高級プリアンプの中でも傑出していると思う。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲を聴いて、定位、奥行きの再現などが、ちょっと、他のアンプとちがうことを感じさせられた。個性としては、やや粘りっこい女性的な色合いと質感の中間ぐらいの感触が感じられて気になるが。JBLだと、より実在感が高く、眼前に屹立するようで、いわゆるソリッドな音、マッシヴな音という表現をしたくなる。B&Wでも、このスピーカーのスケールが一廻り大きくなったような音像の立体感と実在感が聴ける。
[CD試聴]CDを聴いても、ADの項で述べたような、並のアンプとは一桁ちがう品位の高い音という印象は変らない。好き嫌いは別として脱帽せざるを得ないものだと思う。質感は表面は骨らかで、しなやかで、中味はかなりつまっている感じである。ショルティのワグナーの鮮かなオーケストラには圧倒される。ベイシーのピアノの輝かしい音色、ミュート・トランペットの複雑な音色の妙と冴え、リズムの抑揚が生き生きと弾んでスイングする。

クレル PAM-3

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 このアンプの音は、ややスタティックな雰囲気で、音楽の動的な表現力に乏しい。繊細柔軟な感じのする高音域の質感は、耳当りのよいものだが、解像度が甘く、緻密ではない。品のよい滑らかな音なのだがリアリティに不足するようにも思われる。他のアンプでは聴こえて、このアンプでは聴こえないように感じられる音があるのは不思議だ。聴こえないというのは印象の問題で、その音が全く出ていないというわけではない。出方の問題である。
[AD試聴]しっとりとして、滑らかな高弦が耳当りがよいので一聴したところ魅力的であった。しかし、どうも冷たく、さらさらと流れて、演奏に熱っぽさが感じられないのが気になり始めた。音色の変化にも、常に中間色的な色合いが支配的で、鋭敏とはいえない。いわゆる冴えがないのJBLでも同じような傾向で、ロージーの声も艶っぽさが不十分で、少々ドライに響く。ベースも抑揚がフラットだ。
[CD試聴]ショルティのワーグナーは開始から中低域がもっこりとした響きで冴えがない。空間のプレゼンスも透明度が劣り、細かい音場の中での奏者の動きなどが、不思議に静かになる。どっしりとした低音をベースにバランスは整っていて、B&Wではトゥッティの響きは分厚くたくましい。しかし、JBLだと様子が変り、低弦の力が不足する印象となる。ジャズは、ベイシーのピアノが、滑らか過ぎて、つるつるした質感になるのも不思議であった。

マッキントッシュ C30

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 中域から中低域、つまり音楽の最も重要な帯域が充実しているのが印象的である。オーディオは、ついハイエンド、ローエンドに気をとられ、レンジの広さを聴いてしまうのだが、同時に、そういう音のバランスの製品も多いようだ。このアンプの音は、無意識に聴いても中域が充実しているし、意識的に最高域、最低域に注意をすると、十分ワイドレンジであることがわかる。とろっとした特有の中域の魅力が、好みの分れるところでもあろう。
[AD試聴]マーラーの第6交響曲は豊かな低域と、このアンプ特有の中域の充実により、きわめてスケールの大きな、表現の豊かな再生で、いかにも〝壷にはまった〟という印象の音だった。音像のエッジがもう少しシャープだったら、全ての人を魅了するだろう。JBLで聴いたローズマリー・クルーニーの声は、今回の試聴中のベストで、ハスキーさと艶っぽさのバランスが見事であった。ベースも、捻り出すような弾み感がリアルで、よくスイングする。
[CD試聴]ショルティのワーグナーはきわめて重厚な再現で、開始は暗めのムードがよく出た。トゥッティへの盛り上り、力感も立派。アメリンクの声が、やや明るさを一点ばりのきらいなのが惜しいが、美しいことでは絶品といってよい。ベイシーの出だしのピアノのアクション感が明確に聴かれる数少ないアンプの一つである。ベースの量感は豊かだが、重く鈍くなることはない。弾みもよく、音色感の識別も明瞭である。スピーカーへの対応の変化もないようだ。

パイオニア Exclusive C5

菅野沖彦

ステレオサウンド 76号(1985年9月発行)
特集・「CD/AD 104通りの試聴テストで探る最新プリアンプの実力」より

 端正なバランスと、木目の細かい質感の美しい音のプリアンプだが、意外に神経質な線の細さもあって戸惑わされる。これは、このアンプの繊細で、解像力のよい高域のせいだと思われる。中高域が線が細く聴こえるのだが、案外、中低の厚味不足のせいかもしれない。音は締まりすぎるほど締まっていて、ぜい肉や曖昧さがない。組み合わせるスピーカーやプレーヤーとのバランスが微妙に利いてくるアンプだろう。今回は、JBLのほうがよかった。
[AD試聴]繊細さ、鋭敏な華麗さなどの面が強調され、ふくよかさや熱っぽさが物足りない音楽的雰囲気になった。マーラーの第6交響曲も、シュトラウスの「蝙蝠」も同じような点が不満として残った。したがって、マーラーでは濃艶さが、シュトラウスではしなやかさが不十分に感じられた。しかし、緻密なディテールの再現は素晴らしく、声の濃やかな音色の変化などの響き分けなどは第一級……というより特級といってよいアンプ。ジャズでもよくスイングする。
[CD試聴]ADの線の細さは、CDではそれほど感じられない。決して豊かな肥満した音ではないが、ふくらみやボディの実感がCDのほうがよりよいようだ。ショルティのワーグナーでは、細部のディテールは当然ながら、トゥッティのマスとしての力感もよく、力強い再生音だった。これでもう少し、音に脂がのって艶っぽさが出ると最高だと思った。概して日本製のアンプにはこの傾向があり、楽器も演奏もどこか共通したところがあるのが面白い。