アキュフェーズ DP-80 + DC-81

菅野沖彦

ステレオサウンド 79号(1986年6月発行)

「興味ある製品を徹底的に掘り下げる」より

 CDプレーヤーが誕生して、今年は4年目を迎える。正確な数字ではないが、この間、恐らく30社以上のブランドが200機種に余るプレーヤーを製造して売り出したと思われる。そして、CDソフトのほうも急速に充実が計られ、今年中には12000種に及ぶものと見込まれている。オーディオコンポーネントの中で、CDプレーヤーは今、もっとも注目されている花形であり、やや低調気味なオーディオ業界の救世主のような存在である。レコード会社のレコードの売り上げも、ここ数年低迷を続けてきたが、CDの出現のおかげで、総売り上げで約2%、ほんの少しではあるが前年増となっている。前年減のくり返しが続いたことを思えば、これは明るいニュースに違いない。
 エジソン以来100年余りのレコードの歴史の中で、このCDの登場は、アコースティックが電気に変わったこと以上に、画期的な技術革新と言ってよいものだと、ぼくは思う。いろいろな技術革新が続いた。蠟管から円盤、縦振動から横振動、機械録音から電気録音、SPからLP、モノーラルからステレオ、テープレコーダーの発明と普及etc、全て大きな技術革新と成果だが、それらがもたらしたショック以上に大きなショックを、CDの登場はもたらしたと思うのだ。しかし角度を変えて見れば、従来のイノヴェイションが、使い手側にとって、常にある程度のコンパチビリティをもってスライド式に発展出来たり、あるいは原理的には相似式記録方式……つまりアナログ方式の発展という形で推移したのに対して、CDはソフト、ハード共にコンパチビリティは全くなく、符号式記録……つまりデジタル方式という全く異なる原理の上に成り立つという純粋に新しい方式の登場であるだけに、混乱は少なかったともいえる。
 今まで、ハイファイオーディオのメインプログラムソースであったステレオレコード(アナログディスク)と並行してCDが存在することになったわけであり、すでに膨大なレパートリーとなったアナログディスクが、一挙に無用の長物になったわけではない。それどころか、アナログディスクのもつよさは、CDに対しても高く評価する人が大ぜい存在するし、オーディオホビィに関しては、アナログプレーヤーのもつ精妙な曖昧性が、人の頭と腕を使う領域を多く残し、知識や経験、そしてセンスの生かせる趣味の本質を包含する魅力において、優位性をもっていることも言えるだろう。
 何ら手を施す余地のないブラックボックス的存在のCDプレーヤーは、この点だけでは、たしかに面白くない存在である。CDプレーヤーの登場は明らかに、先進テクノロジーが現代文化に及ぼしている様々な諸現象と同質の影響をレコード音楽とオーディオの領域に持ち込んだものであり、全面的に美徳をたたえるわけにはいかない。しかし、この技術の成果は、さらに大きな可能性をもたらし、レコード音楽とオーディオのレベルを向上させたものであることは間違いないし、先述の、人の趣味性に関しても、新たな世界を創造する力を秘めているとも思われる。この面では現在は未だ、その発展の過渡期であると思うのである。
 CDおよびCDプレーヤーの、この4年間の推移を見ていると、たしかに急速に普及し、多くの音楽愛好家を楽しませているようだが、残念ながら、従来からの他のオーディオコンポーネントに比して、中級以下のものにメーカーの力が入り、ハイエンドユーザーの心や要求を満たす製品分野は弱い。そもそも、デジタルテクノロジーは、ちゃんと動作すれば出てくる音に違いは生じないという、浅はかな考え方が喧伝され過ぎたようである。そして、また、そこそこの機械から出てくる音の水準は、同クラスのアナログプレーヤーに比べれば、はるかに高く、作る側も使う側にも、これで十分というような安易な満足感が生まれがちである。メーカーにとってみれば、コストダウンが、アナログ系の機械のように、如実に音の悪さとして出てこないCDプレーヤーはありがい。なんといっても安いものは数多く売れる。質より量でいくほうが適した面のある製品ともいえる。高度なテクノロジーによる製品ではあるが、きわめて量産向きの製品でもあるので、こうした特質が、まず活用された。安い価格でクォリティのよい音をという大義名分と共に、価格蓉争という傾向にまっしぐらに向かってしまったようである。当然、熱心なオーディオファイルがこういう状況下におけるCDプレーヤーに満足するはずはなく、一部の真面目な音質追求派の人達の間においては、むしろCDへの反感さえ生まれたように思えるのである。本誌で、ぼくが訪問しているベストオーディオファイルの諸氏のような熱心なファンの間で、CDを取り入れている例は極めて少ないのに驚かされる。こうした、いわばオーディオファイルのエリート達のCDの所有率は数%であろう。CDの全般的な普及率からすると、異常に低いといってよいと思う。
 一方、ぼくを初め、ぼくの周囲のオーディオの専門家達の間では、100%の普及率といってよい。仕事上当然の事と思われるかもしれないが、必ずしもそうではなく、個人として楽しむ時間でも、CDをプレイすることが多いのである。アナログディスクとCDとの演奏時間の割合は、半々か、ややCDのほうが多いというのが実状だと思う。これに関して分析を始めると長くなってしまうのでやめておくが、CDの実体は、多くのオーディオファイルの間で正しく認知されていないことは確かである。それには、こうした熱心なオーディオファイルが、本気になって取り組む気を起こさせるCDプレーヤーが少ないことが、大きな原因の一つのように思うのだ。
 こうしたバックグランドの中で、期待を担って登場したのが、ここに御紹介するアキュフェーズのセパレート型CDプレーヤー、DP80とプロセッサーDC81のシステムである。アキュフェーズは今さら御説明するまでもなく、日本のアンプ専門メーカーとして、創業以来、質の高いオーディオ技術と、自らオーディオを愛してやまない信条の持ち主たちの集団により、数々の優れた製品を生んできた。量産量販の体質を嫌い、本来のオーディオのあり方を反映させるべく、生産販売一貫して専門メーカーらしい努力を続け、ファンの間で高い信頼をもって迎えられている。多くのメーカーが、大型化したことにより招いた諸々の問題点を教訓として、ユーザーと共に真にオーディオを楽しめるメーカーという印象をぼくは持っている。社長の春日二郎氏、副社長の出原眞澄氏をはじめ、社員全員がオーディオファイルという感じである。それでいて、立派に経営の基礎を作り、堅実に成果を上げていることが喜ばしい。単純にいって、社員一人当りの売り上げは大きく、効率のよい優良企業である。『自らが納得するものを作り、その製品の理解者に買ってもらう』という、メーカーとしての根本的な本質をわきまえた企業なのだ。売れるものだけを作る……、あるいは、売れないものでも売ってしまう……といった経営哲学がぼくは大嫌いである。もちろん、自らが納得するものという意味には幅がある。人様々、そして、その納得するものもまた様々であるからだ。
 こういうアキュフェーズからCDプレーヤーが出るという話を耳にして以来、ぼくは、ひたすら、その登場を待ち続けていた。2年にはなるだろう。アキュフェーズでは、CDが産声をあげた頃から、このシステムのもつ優れた特質に眼を向け、研究開発に怠りがなかったようだ。第1号機の本機の誕生には3年の開発期間をかけたそうだ。今春、初めて本機に接し、その音を自宅のシステムで聴いたのだが、一聴して、このCDプレーヤーのもつ音の品位の高さに胸を踊らせたのである。
 CDプレーヤーは、登場以来、当初の音は全部同じという前宣伝とはうらはらに、機種別の音のちがいに驚かされたものだった。そして、ほぼ半年おきに現れる新製品には明らかな音質改善が重ねられ、そこから、CDの音の大きな可能性を予感させられ続けてきたものだ。もともと、期待した以上に音がよかったというのも事実だが、それでも、初期のCDプレーヤーの音には、不自然でメカニカルな質感を強く感じたことが多かったものである。
 時を経るにつれ、各メーカーは、それぞれ独自の技術的な改良点をあげ、新製品をアピールし始めた。そのどれもが確かに音に現れ、音質改善の成果として認められたのである。あるメーカーは光学系にメスを入れ、別のメーカーはメカニズムの振動系に対策を施し、さらには、フィルター、コンバーター、ディグリッチャーなどのオーディオ回路に、あるいは基本的な電源や、伝送系のノイズ対策など、数えあげればきりがないほどの改良ポイントの発表があった。まさに各社各様、あちらこちらから、多くのアイデアが生まれ出てきたのである。この機械が、まあまあな音が出るという段階で見切り発車したものであることを証明するようなものだった。
「だから、いわないことじゃない。CD技術は十分研究所内で暖めて、もっともっと音楽再生装置としての微妙な点まで煮つめ、21世紀の新システムとして登場させればよかった。それまでは、世界のオーディオメーカー間のサミットで、現行のアナログで十分実をとるビジネスを続けるべきだ。しかも、アナログには、まだまだ技術開発の余地が大きく残されている。つまり、ビジネスとしても、技術開発としても、そしてユーザー達の幸せのためにも、そのほうがよい。そんなに急いでどこへ行く? 死に急ぐことはあるまいに……」
 これが、ここ数年間、ぼくが言い続けてきた言葉だった。だが、出てしまった以上、これは繰り言に過ぎない。繰り言をくり返しながら、ぼくは現実のCDとCDプレーヤーをアナログと並行して楽しみ、日に日によくなっていくこの世界の音の成果に、大きな期待を寄せてきたことも事実だったのである。
 このアキュフェーズのプレーヤーには、現時点までに各社によって試みられた多くの改良点と、音質の鍵となるポイントの攻めが全て盛り込まれているといってよいだろう。そして、それだけでなく、未だ、どのメーカーもがおこなっていない世界で初めての試みも見られる。つまり、アキュフェーズが独自に盛り込んだ努力だが、それらは、3年という開発期間をおき、よく技術の流れを観察し、情報を集め、音を聴き続けた成果にちがいない。アキュフェーズのCD開発室は賢明であった。そして多くのメーカーがやったように、他社へ製造を依頼してブランドだけをつけるというような商行為には眼も向けなかったのは立派だ。このメーカーとしては、そうする必要もなかったのだろう。自らが納得の出来るものを作るまで、じっくりねばっていたのである。
 それでは少し具体的に、このDP80/DC81コンパクトディスクプレーヤーシステムについて述べてみよう。
 まず外観から。シャンペンゴールドのアキュフェーズアンプと共通のパネル仕上げをもつ。どういうわけだか、黒パネルばかりのCDプレーヤーの中にあって、これは全く、そうした世間の動向に左右されず、しかも、堂々と自社のアンプとのシリーズ・デザインとしたところもこのメーカーらしい。プレーヤー部DP80を一目見れば、その操作系が、きわめてシンプルであることに気づくだろう。スイッチは最小限に整理され、プレイ、トラック、サーチ2個、ポーズ、そしてトレイのオープン/クローズだけである。ストップはトレイスイッチに兼用させているらしい。もちろん、これでは、あまりに機能がシンプル過ぎるが、実はたいへんな多機能である。それらの操作スイッチは、全て蓋つきのサブパネル内に収められているのである。これみよがしに10キーがずらりと並び、マイコンルックのプレーヤーが多い中で、このコンセプトはユニークであり、かつ、レコードを聴くものの心に寄り添う心配りとも感じられるのである。プロセッサー部DC81も同じデザインであるのはもちろん、両者共に、これもアキュフェーズ・イメージとして定着したパーシモンの側板つきである。
 プレーヤー部とプロセッサー部は、統一規格の75Ωフォノジャックで結合される他、専用のオプティカル・カップリングが設けられている。そして出力は50Ωのバランス型のキャノンプラグと、アンバランス型のフォノジャックが固定出力、可変出力の2系統、合計3系続設けられている。両方共、脚には真ちゅうムク材の削り出しが使われている。プレーヤー部はもちろん、リモートコントロールコマンダー付属である。どちらも重厚で剛性の高い作りと防振対策が入念に施され、目方は、並のCDプレーヤーより桁違いに重く、ずっしりとくる。見るからに高級プレーヤーとしての質感もあり、これならば、かなりのオーディオファイルにとって、第一関門をパスできる風格ではないだろうか。時間的に経済的に、そして情熱を傾けて完成したオーディオシステムのメインプログラムソースとして、チューナーかカセットデッキの安物と見間違うような軽薄なCDプレーヤーを組み込む気になれるはずがない。はっきり言って、ぼくのシステムのなかで49、800~69、800円のCDプレーヤーを常用しろといわれても無理である。価格だけにこだわるのは愚かかもしれないが、ものにはバランスというものがある。数百万円のシステムのメインプレーヤーが、49、800円とはいかないまでも10万円そこそこということに、何のアンバランスも感じないような人間がいるだろうか? もし、CDプレーヤーというものが、49、800円以上のコストは無駄で、よりよくしようがないとしても、本気になって使う気がしないだろう。ましてや現実はまだまだ音のよいCDプレーヤーを作り得る可能性がはっきりしているのだから。オーディオファイルの心を満たすCDプレーヤーは、必然性をもったハイ・プライス……つまり、内容、外観、価格が、自然にそのものの価値観とバランスする製品でなければならないと思う。この機械は、先ず、この第一の条件を適える製品として評価出来る。
 さて、中身についてだが、トレイの動作を含むアクセスは第一級と折り紙をつけてよい。出入りの速さ、フィーリング、アクセスタイムのスピードと確実性、そして、リニアモーター使用のレーザーピックアップ系、そのメカニズムは定評のあるS社製だろう。アキュフェーズからは確認がとれないが、まず間違いあるまい。現在、もっとも優れたメカニズムである。アキュフェーズのようなメーカーにとって、こうしたパーツが提供されることは幸せであり、提供したS社の姿勢も好ましい。ここ当分、このメカ系を世界の高級CDプレーヤー各社に提供することを勧めたい。と同時にまた、さらにこれを上廻るメカニズムの開発をも期待したいものだ。
 このシステムの最も特徴となるところはD/Aコンバーターである。CDプレーヤーの音質を左右するファクターは無数にあるといってよく、そのトータルバランスが音に出ると思われるが、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーターが、中でも重要な位置を占めることは明らかである。本機では、16ビットのD/Aコンバーターを、既成のICを使うことなく、世界で初めて、ディスクリートによって構成した。これによって理論値に近い実動作の達成を目指したものである。これだけで音質を云々することは危険だが、このシステムの音質の優れた要因として、このコンバーターの存在は大きいものと思われる。
 また、アキュフェーズというメーカーは、アンプ専門メーカーであるが、チューナー技術に関して第一級のレベルを誇ってもいる。確かに、もともと同社の社長、春日二郎氏は、高周波専門の技術者であり、トリオ(現ケンウッド)の創始者である。そのバックグランドからして、アキュフェーズが優れたチューナーを作っていることは領けるであろう。こうした高周波チューナー技術のキャリアは、デジタル信号のもつVHF帯域の扱いに関して活きないわけはない。CDプレーヤーにとって、これらのデジタル信号の不要成分は全て有害なノイズであり、オーディオ信号を攪乱して音質劣化させる悪さをする。
 フォトカプラーや光伝送はそうしたことに対する方式として使われ始めたのだが、本機においても、その技術がよく生かされ、デジタル部とアナログ部は34個の高速オプト・アイソレーターによって電気的に分離されながら信号の伝送をおこなっているし、プレーヤー部とプロセッサー部にも標準仕様の同軸ケーブルの他に、専用の光伝送方式を採用し、ユーザーが選択使用出来るようになっている。他のプロセッサーとの組合せにはともかく、このシステムの結合には、光ファイバーによる場合のほうが音質的に優利であり、両者の比較をやってみたが、光ファイバー結合のほうが音に一種の滑らかさが感じられるようだ。
 D/Aコンバーターは左右独立、またその前に高域不要成分のカットに挿入されるローパスフィルターも、左右独立の2倍オーバーサンプリング方式のデジタルフィルターとしている。前段がデジタル・ローパスフィルターだと、カット周波数の下限が高くとれるため、サンプリングホールド後のローパスフィルターは負担が軽くなり、現在はデジタルフィルターが主流になっている。とはいうものの、後段のローパスフィルターは、スプリアス成分のカットという本来の目的だけではなく、フィルターによってアナログ信号の音色が異なるようだ。本機では、アクティヴタイプの9次バタワース型フィルターを採用している。リップルの少ないバタワース型で、9次のものを使って減衰特性を確保しているのであろう。
 他にチェビシェフ型、ベッセル型などのフィルターがあるが、この辺の選択は音質に対する鋭敏な耳で決めるのが最終的な決め手となるのではないだろうか。因みに減衰特性ではチェビシェフ型、位相特性ではベッセル型、帯域内リップルではバタワース型が優利ということになっている。
 なお本機のローパスフィルターは、ディスクリートで、その後にディエンファシス回路、バッファーアンプと続くが、そのゲインは0dBでDCカスコード・プッシュプルというアキュフェーズらしいもので、バッファーからの出力端子は直結である。
 電源部はデジタルとアナログはもちろん、LRも分離、またプリントボードもLR独立構成とするなど、内部の構成はきわめて整然として美しい。外観と内容がマッチしたオーディオファイルに認められる風格をもったCDプレーヤーシステムといえるだろう。
 ゴールデンウィークの期間、ぼくは自宅で、このCDプレーヤーシステムで数多くのCDを聴いた。音が分厚くて密度が高く、重厚である。それでいて、透明度が高く、聴感上のS/Nがすこぶるよい。面白かったのは、この艶と輝きやその質感は明らかにアキュフェーズ・アンプに一貫したものであったことだ。CDプレーヤーにも人が出る。メーカーが出る。全く他のオーディオコンポーネントと変わらない。実に興味深いことである。
 CDプレーヤーは音が冷たいとか、固いとか、あるいは、弦がキンキンしてメカニカルだといった声が聞かれる。しかし、このプレーヤーで聴いた、オリジナルがアナログ録音のレーグナ一指揮ベルリン放送管弦楽団のマーラーの交響曲第3番、第6番が入った3枚組のCDアルバムは、そんな風評とは無縁の素晴らしい音であった。この2曲はアナログディスクでも持っているが、このドイツ・シャルプラッテンの録音は、アナログ録音の最高峰といってよい優れたものだ。そこに聴かれる弦のしなやかでくすんだ音色の妙、ブラスの輝きと重厚さなど、各楽器の質感の再現は実に見事なものだ。そして、これがCDでもちゃんと聴かれたのである。
 改めて、最近SMEシリーズVを取り付けた、自宅のトーレンスのリファレンスで(カートリッジはオルトフォンMC20スーパー)、アナログディスクを聴いてみた。そして、CDがハイファイメディアとして素晴らしいものであることを再確認したのである。むろん、違いはなくはない。ノイズがちがうだけでも音色の印象は変わる。伝送系の違いがこれほどあって、寸分違わぬ音がするわけはない。しかし、CDは弦がキンキンするとか、何か情報が欠落するといったような表現は当たらない。CDで弦がキンキンするとしたら、まず、そのCDのオリジナル録音と製造プロセスを疑うべきだ。このマーラーのようにオリジナルの録音のよいものは、CDでもちゃんとよさが出る。次にその特定のCDプレーヤーの問題となる。たしかにプレーヤーによってはかなり大きな差があるのだから……。
 ごく限られた経験だけで、CDはこうだと決めるのは、乱暴過ぎる。情報が欠落しているようだというのもよく聞かれる不満であるが、これもー概には言えない。むしろ情報量が多いともいえるぐらいだ。だいたいにおいて、情報が欠落しているという人の多くは、アナログディスクが、再生系の機器を含めて創生する、情報ノイズや位相差成分などの、微妙な歪に慣れ親しんでいる場合が多いようである。しかもそれが、情緒性としてその人にとって美しく快いとあれば、否定し去るわけにはいかないのが、この世界の面白さであり難しさでもある。
 こんなことを書いて憚らない気にさせてくれたのが、このアキュフェーズのDP80とDC81のCDプレーヤーシステムであった。
 CDの世界は、オリジナル録音から再生システムまでの全プロセスにおいて、今後、まだまだよくなる可能性をもっている。

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