井上卓也
ステレオサウンド 53号(1979年12月発行)
特集・「第2回ステート・オブ・ジ・アート賞に輝くコンポーネント17機種の紹介」より
昨年末、パワーアンプの大きな動向として目立つものに、一般的に多用されるBクラス増幅固有の歪みである、スイッチング歪とクロスオーバー歪の解消への、各社各様のアプローチがある。
この種の歪みの解決方法としては、従来からも純粋なAクラス増幅の採用があったが、この方式は、直流的にアンプに与える電力とアンプから得られるオーディオ出力の比率、つまり、電力効率が非常に悪く、このロス分が発熱となるため、強力なパワーを得ようとすると、巨大な電力消費量と巨大な筐体を必要とするために、100W+100Wクラス以上のパワーを要求するとなれば、すくなくとも、コンシュマーユースとしては、非現実的なものとなり、その製品化は考えられないといってよい。
そこで、一般的なBクラス増幅の効率の高さと、Aクラス増幅の性能・音質の高さを併せ備えたアンプの開発が考えられるようになるのは当然の結果である。この第一歩を示したのが、米スレッショルド社の開発した特殊なAクラス増幅方式である。それに続きテクニクスで開発した、Aクラス増幅とBクラス増幅を組み合わせて独自なAクラス増幅とするA級動作のパワーアンプが製品化され、性能の高さと音質に注目を集めた。
昨年末、各社から続々と発表された新しいパワー段の動作方式は、基本的には、Bクラス増幅からの発展型であり、Bクラス増幅でプッシュプル構成のパワートランジスターが交互にON/OFFを繰り返すときに生じるスイッチング歪を解消するために、OFFにならないように各種の方法でバイアスを与え、つねに最低限のONの状態を保つタイプである。
これに比較すると、デンオンで開発したデンオン・クラスA方式は、Aクラス増幅を出発点として発展させたタイプであることが、他とは異なる最大の特徴である。したがって、プッシュプル構成のパワー段は、対称的に接続されているパワートランジスターはそれぞれつねに入力信号のプラス方向とマイナス方向を増幅し、Bクラス増幅のようにON/OFFは基本的に繰り返さないために、スイッチング歪を発生する要因がないわけだ。しかし、このタイプはAクラス増幅ベースであるために、電力効率の面では、最大出力に近いパワー時に純粋Aクラス増幅と等しく、最大出力時の1/10付近でもっとも効率が高い特徴をもつ。このために結果としては、Bクラス増幅ベースのノンスイッチングタイプよりは効率は低くなる。
回路構成上は、パワー段には高域特性が優れ、100kHzでも高出力時に低歪率で、リニアリティが優れた、高速型パワートランジスターを片チャンネル10個使い、リニアリティの向上と、広帯域にわたる低歪率を獲得している。これをAクラス増幅とするのが、新開発のリアルバイアスサーキットで、つねにA級動作を保つために信号波形に応じた最適バイアスを与えることと、信号電流よりもバイアス電流を速く立上がらせる役目をする。この回路が、デンオン・クラスAのもとも重要な部分である。
ドライバー段は、FET差動増幅2段並列回路により、プリドライバー段のツインコンプリメンタリー差動回路をバランスドライブし、次いで、カスコード差動増幅回路がパワーステージをドライブする構成である。初段の2並列回路は、新開発のダイレクトDCサーボ方式のためで、サーボ帰還回路は受動素子で構成されているのが特徴である。これにより、入力部の結合コンデンサーを除き、帰還系にサーボアンプをもたないため、SN比および歪率は従来のサーボ方式よりも一段と改善できる特徴がある。
電源部は、パワー段とその他を分離した別電源トランス方式で、180W+180Wのパワー段は左右独立巻線で、25000μF×4の大容量コンデンサー使用である。なお、電源トランスは1000VAのトロイダル型、初段からドライブ段用にはEI型を別に設けて、出力段の激しい負荷変動を避け、定電圧回路で低インピーダンス化している。
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