ビクター MCA-105

菅野沖彦

スイングジャーナル 4月号(1970年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 再生装置の機能は最近ますます充実してきた。特に、再生系のコントロールをあずかるプリ・アンプの操作機構と多目的機能の充実ぷりには目を見張るものがある。その中でも、今月の新製品、ビクターのMCA105プリ・メイン・アンプは万全の機能をもったマルチ・ユース・システムの中核をなす製品といえるだろう。このプリ・メイン・アンプには、きわめて豊富なユティリティが備わっているが、その性能もプリ・メイン・アンプというカテゴリーが持つべき充分な優秀性をもっていると思う。現在、市場にあるアンプをタイプ別に見れば、いわゆるステレオ・レシーバーと呼ばれるチューナー、プリ・メインの一体型、そしてプリ・メイン型、さらにセパレート型というプリとメインが独立したものの3種類に大別出来るが、これらの商品が、そのタイプの本質的かつ必然的性能をもっているものばかりとは限らない。つまり、ステレオ・レシーバーは、すべてが一つにまとまっているというのが最大の特長、プリ・メイン型は、オーディオ専門アンプというのが本質的な性格、独立型は、さらに専門化した特長をもつものだから、それぞれが用途に応じる特徴というだけではなく、性能的にも自ずと差があると思うのが当然である。しかし現状はさにあらず、プリ・メイン型といっても、ステレオ・レシーバーからチューナー部だけをのぞき、あとは全く同一クラスのものもあるし、独立型といえどもプリ・メイン型をただ二分して、それぞれに電源部をもった単品としたものも多い。これは市場性、ユーザーの要求に応える適応性などから生れたことで、別に問題とするにはあたらないが、初めてアンプを買う人がどのタイプを買ったらよいかと迷うことも事実である。したがって、私個人の意見としては、これらのタイプのちがいと性能のちがいを結びつけ、あまりに高級なプリ・メイン部をもつ高価なレシーバー、逆に、性能的に物足りないプリ・メイン型や独立型は人にすすめないことにしているのである。そこで、このMCA105に話をもどすが、このアンプのもっているプリ・メイン部の性能は、そうした私の考え方でのプリ・メイン型としても立派なものだと考えるのである。音質は大変マッシヴで迫力のあるもので、ダイナミックな聞きごたえがあるし、スムースに余裕のあるパワーが得られる。ミュージック・パワーは8Ω負荷で80W、実効出力は同負荷だと32W×X2という値だが!やや能率の低い小型ブックシェルフ・スピーカーを、内蔵のSEAでブースト・コントロールをして鳴らしても充分な力がある。SEAは今さら説明を要しないだろうが、帯域分割型のイコライザーでビクターでは音場補正という打ち出し方をしているように、細かな山谷を自在に調整して好みの音質を得ることのできる便利なもの。このアンプでは60、150、400、1K、2K、4K、6K、15Kという7分割で、±10dBのコントロールができるが、60Hzがスイッチで40Hzと切換えられるので実用上は8素子のSEAとしての効力をもっている。コントロール・レバーの動作やタッチはきわめてスムースで使いよい。入力回路は豊富だし、半固定レベル調整がつき、各種プログラム・ソースの同時比較試聴などには大変便利。そして、大きな特徴はピンク・ノイズ発生器が内蔵され、音色パターン認識による音質調整や、位相チェックなどに利用できるのは、マニア気質を把んだ心憎いセンスである。そもそも、このプリ・メイン・アンプは、♯105シリーズの一つとして発売されたものたが、統一デザインのシステム製品がチューナー、チャンネル・フィルター、パワー・アンププリ・アンプというようにずらりと並んで、多種類の構成ができるようになっている。従って当然、マルチ・アンプ・システムやマルチ・チャンネル・ソース・システムというバラエティに発展させられるわけで、70年のアンプにふさわしい製品だ。

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