パイオニア CS-300

岩崎千明

スイングジャーナル 4月号(1970年3月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 ライバル・メーカーのブックシェルフ・スピーカーの追求にあって永年ハイファイ・スピーカーの専門メーカーとして君臨していたパイオニアの牙城がおぴやかされたのが3年前。CS10というブックシェルフ型の国内製品最高の名作が王座をゆるぎないものとしてきたが、最近の各社ブックシェルフ・タイプ・スピーカーの見覚ましい改良で新型はますます向上していることはご存知の通り。それに対抗して、パイオニアが専門メーカーとしての面目を、スピーカー・メーカーのめんつにかけて発表したのが新シリーズCS700、CS500、そして今度のCS300である。
 FBコーンと称した新したコーン材料は、米国のJBL、アルテック社などのそれらと同じ低すき紙によりコーンの繊維が従来のものとはくらべものにならぬくらい丈夫さを増すことになり、軽く薄い外国製スピーカーと同じコーン紙を完成させることを可能とした。従来のウーファーとはコーン重量も格段に軽くなって、ウーファーの受持周波数をはるかに越える範囲まで歪率を押えた上でレンジも拡げられたという。これが新シリーズのスピーカーの音を従来のパイオニア・ブックシェルフを一変してしまった。ウーファーのこの向上は他社の場合よりもパイオニアにおいては条件としては技術的にはるかにむつかしいものを克服しなければならないことは予想ができる。というのは米国のARのオリジナル・ブックシェルフと同じ、ウーファー方式、つまリアコースティック・サスペンション方式に準じた完全密閉式のブックシェルフ型は、パイオニアのブックシェルフと、クライスラーのそれだけであり、密閉式の新作中におけるコーン紙に加わる内部空気圧の変化と圧力は他社のバスレフ型や、それに準じた形式にくらべてはるかにきびしいものであることは容易に想像でき、それを克服するためにはコーンの硬度というか丈夫さは一段と高いものを要求されることとなる。
 これを完全に解明して完成したFBコーンは、パイオニアのブックシェルフ・スピーカーを大きく前進させたのである。
 新シリーズのスピーカーが従来、ややもすると「品がよい」という言葉のもとに触れられなかった再生音のいきいきとしたVIVAな魅力をパイオニアのスピーカーにも与えることになったのである。
 ジャズにおいては、特にこの楽器のいきいさした活力が欲しい。ジャズ再生の決め手といえるが、この新鮮な感覚であり真の手ごたえである。そして、今度の新シリーズがこの点で今までになく向上したのは、ジャズを生活の中に取入れているオーディオ・マニアとしてこんな喜ばしいことはないといえよう。
 CS700が高音にマルチセラー・ツィーターをそなえ、CS500がコーン型ツィーターでともに中音コーン型の3ウェイである。
 今度、発売された普及型の300は、2ウェイだ。20センチ・ウーファーとコーン型ツィーターで構成され、ちょうどAR4とよく似たものである。AR4の音がおとなしくプログラムソースを選ばずに品のよい音を出すが、類をみないほど低能率でアンプのボリューム設定点が全然達ってしまうくらいにレベルが落ちこんでしまうのにくらべ、パイオニアのCS300は一級品のシステムにくらべても損色ないほど高能率だ。そしてこのCSの需要層を考えるとき、スピーカーの高能率はなににもまして嬉しい。あまりパワ一にもゆとりをゆるせない、どちらかというと比較的普及型クラスのアンプと組み合せても十分なエネルギーを保たれ、しかもこの位の小型スピーカーでは苦手の低音域において豊かさといい、スケールといい実に見事である。低音域から中音域にかけての鮮明度の高いサウンド。アタックのきれのよさ、そして高域の澄んだ迫力。この小型ブックシェルフの傑作が1万円という価格で市場に出たことを柏手をもって迎えたい。

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