キャバス Brigantin

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 まずロス=アンヘレスの唱う「シェラザーデ」。散りばめた金箔がさまざまの微妙な色彩にきらめきながら舞いつつ消えてゆくようなラヴェル独特の妖しく幻想的な世界。それを演奏するコンセルヴァトワル・オーケストラの艶めいた美しい響き。そして最盛期のロス=アンヘレスの夢のようになまめいた声を収めたこの素晴らしいレコードを、これほど魅惑的に展開して聴かせてくれただけでも、ブリガンタンというスピーカーの存在価値は十分にある。また、バルバラの唱うシャンソン(故度のスケッチ)も、彼女の声がいくらかハスキィになる傾向はあっても、あのいかにもフランス人にしか鳴らせないバックのアコーディオンのつぶやくようなメロディと共に、これも他のスピーカーがちょっと思いつかないほどしっとりと唱わせる。このスピーカーがフランス製だからフランスの音を生かすのは当り前というよりも、そんな言い方をしたら冗談ととられかねないが事実なのだから仕方がない。
 ただこうした面のよさが、ほかの音楽やほかのレコードにも当てはまるというわけにはゆかないところにスピーカーの難しさがある。
 たとえばギレリス/ヨッフムのブラームスのP協No.1。ことにオーケストラのトゥッティで、中高音域に一ヵ所、いつも音を引きずる傾向があって、おそらく5kHz前後のあたりと思えるが、ことに音量を上げたときにそれがかなり色づけを感じさせる。おそらくこの辺が、反面の音の魅力にもなっているのだろうが、さらにヴァイオリンの独奏や室内楽などになると、ハイポジョンで弦の音が金属質というよりはプラスチック質のような特有の音色になるし、木質の胴の響きがやや感じとりにくくなる。クラリネットの音なども、木管よりもプラスチック管のような独特の音になる。ただ、クラリネットに息が吹き込まれ、次第に音がふくらんで広がってゆくあたりの感じは相当に実感を出すのだが。
 総体に金属的な音はほとんど出さないので、リファレンスのJBLとくらべると、4343が中高音域でホーン臭さを意識させるが、反面、ポップス系のソースの大半、およびクラシックでもピアノや打楽器系に注目して聴くと、中低音域の支えがいくぶん薄手で、打鍵音の実体感が出にくい。音全体がしっとりと潤いを持って聴こえるが、その点も、もっとからりと乾いた鳴り方を要求するポップス系に向きにくいところだろう。
 アンプの音色の差や、プログラムソースの音質の差を、JBLやアルテックにくらべるとあまり露骨に鳴らし分けないタイプなので、モニター用という枠にとらわれず、このスピーカーの鳴らす音の独特の世界が気に入った場合には、家庭での鑑賞用として十分に価値のある製品といってよさそうだ。弱点と背中合わせともいえる特長のある個性を受け入れるか入れないかが、このスピーカーへの評価の分れ目となる。

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