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Speaker System (floor type)

瀬川冬樹

続コンポーネントステレオのすすめ(ステレオサウンド別冊・1979年秋発行)
「第32項・市販品をタイプ別に分類しながら(5) フロアー型スピーカー」より

 どこまで頑張ってみても、所詮ブックシェルフはブックシェルフ。どこか伸びの足りない音がするのにくらべて、フロアータイプの大型の、ナマの楽器そのもののスケールの大きさや、音場感や、悠然とした余裕のある鳴り方こそ、やはりスピーカーのゆきつくところだ、という感じがする。しかしフロアータイプは、とうぜん大型で設置のための面積が大きく占有される。また、部屋の中でどうしてもスピーカー最優先、という置き方が必要になり、視覚的にもスピーカーが部屋の主役の感じになる。価格には幅があるとはいえ、注目製品は概してかなり高価につく。そういう不利な条件をものともしない愛好家でなくては、とうぜん手を出しにくい。しかしくりかえすが、その点を承知であれば、フロアータイプの上質のスピーカーの聴かせる音楽の世界は別格だと断言していい。
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 フロアータイプの高級機を代表する製品は、すでに7〜12、19〜23などの項で紹介したのでそれとの重複を避けて、注目製品を列挙しよう。
 まずアメリカ製ではボザークのB410MOORISH(ムーリッシュ)。広い部屋で、たっぷりした音量で鳴らしたときの量感の快さはちょっと類がない魅力。しかし部屋が小さくてスピーカーに接近して聴かざるをえないとき、そして音量を絞って聴くときには、ボザークの良さは発揮しにくい。
 そういう目的にはむしろ、JBLのL300やそれのプロ用4333WXAがある。E−VのインターフェイスDも、このメーカー久々の良いスピーカーだと思う。アルテックのモデル19は、これらと大きさは近いが、その音はボザーク同様に広い部屋で生かされるタイプだ。
 イギリスは、すでに書いたようにスピーカーの大型化をあまり好まない国で、かつてのタンノイのオートグラフや、22項のヴァイタヴォックスCN191を除くと、いまや大型のフロアータイプはタンノイの〝バッキンガム〟と、セレッションのアンティークデザインの〝デッドハム〟ぐらいのものか。ヴァイタヴォックスの〝バイトーン・メイジャー〟は、アルテックA7Xのイギリス版という感じで、A7Xをぐっと渋くした音に特徴がある。
 イギリスでは、いまではこれらよりもう少し小型の、21項のディットン66や25のようなトールボーイタイプが好まれるらしい。ディットンの三桁ナンバーの新製品662は、551(29項参照)同様に新しい音を目ざした良い製品。スペンドールBCIIIは、モニター的なバランスの良い音質を愛好する人が多い。タンノイは全面的にモデルチェンジしてしまったが、さすがに日本で人気の高いアーデンとバークレイだけは、マークIIになったとはいえ、残している。
 ひとつぜひ紹介しておきたいのが、フランス・キャバスの〝ブリガンタン〟。やや個性的な音だが、いかにもフランスを思わせる華麗な音質は他に類がない。
 そして最後に国産だが、フロアータイプでは、これら海外の著名一流品の魅力にいまひとつおよばないというのが正直のところではなかろうか。

キャバス Brigantin

瀬川冬樹

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

中〜高音域に独特の華やかさのある、まさにパリのエスプリに満ちた音。

キャバス Brigantin

井上卓也

ステレオサウンド 47号(1978年6月発行)
特集・「評論家の選ぶ’78ベストバイ・コンポーネント」より

これならではの、しっとりと落着いた音を聴かせる一流品の貫禄。

キャバス Brigantin

瀬川冬樹

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 まずロス=アンヘレスの唱う「シェラザーデ」。散りばめた金箔がさまざまの微妙な色彩にきらめきながら舞いつつ消えてゆくようなラヴェル独特の妖しく幻想的な世界。それを演奏するコンセルヴァトワル・オーケストラの艶めいた美しい響き。そして最盛期のロス=アンヘレスの夢のようになまめいた声を収めたこの素晴らしいレコードを、これほど魅惑的に展開して聴かせてくれただけでも、ブリガンタンというスピーカーの存在価値は十分にある。また、バルバラの唱うシャンソン(故度のスケッチ)も、彼女の声がいくらかハスキィになる傾向はあっても、あのいかにもフランス人にしか鳴らせないバックのアコーディオンのつぶやくようなメロディと共に、これも他のスピーカーがちょっと思いつかないほどしっとりと唱わせる。このスピーカーがフランス製だからフランスの音を生かすのは当り前というよりも、そんな言い方をしたら冗談ととられかねないが事実なのだから仕方がない。
 ただこうした面のよさが、ほかの音楽やほかのレコードにも当てはまるというわけにはゆかないところにスピーカーの難しさがある。
 たとえばギレリス/ヨッフムのブラームスのP協No.1。ことにオーケストラのトゥッティで、中高音域に一ヵ所、いつも音を引きずる傾向があって、おそらく5kHz前後のあたりと思えるが、ことに音量を上げたときにそれがかなり色づけを感じさせる。おそらくこの辺が、反面の音の魅力にもなっているのだろうが、さらにヴァイオリンの独奏や室内楽などになると、ハイポジョンで弦の音が金属質というよりはプラスチック質のような特有の音色になるし、木質の胴の響きがやや感じとりにくくなる。クラリネットの音なども、木管よりもプラスチック管のような独特の音になる。ただ、クラリネットに息が吹き込まれ、次第に音がふくらんで広がってゆくあたりの感じは相当に実感を出すのだが。
 総体に金属的な音はほとんど出さないので、リファレンスのJBLとくらべると、4343が中高音域でホーン臭さを意識させるが、反面、ポップス系のソースの大半、およびクラシックでもピアノや打楽器系に注目して聴くと、中低音域の支えがいくぶん薄手で、打鍵音の実体感が出にくい。音全体がしっとりと潤いを持って聴こえるが、その点も、もっとからりと乾いた鳴り方を要求するポップス系に向きにくいところだろう。
 アンプの音色の差や、プログラムソースの音質の差を、JBLやアルテックにくらべるとあまり露骨に鳴らし分けないタイプなので、モニター用という枠にとらわれず、このスピーカーの鳴らす音の独特の世界が気に入った場合には、家庭での鑑賞用として十分に価値のある製品といってよさそうだ。弱点と背中合わせともいえる特長のある個性を受け入れるか入れないかが、このスピーカーへの評価の分れ目となる。

キャバス Brigantin

菅野沖彦

ステレオサウンド 46号(1978年3月発行)
特集・「世界のモニタースピーカー そのサウンドと特質をさぐる」より

 キャバスのブリガンタンというシステムは完全なマルチウェイ・システムで、どちらかというとコンシュマーユースのフロアタイプとして評価できる性格のシステムである。フランス製だけあって、モニターとしての観念が、アメリカや日本のものとやや異なるようだ。モニタースピーカーについての定義は、あってなきに等しいことは別項でも述べている通りだが、このシステムも、メーカーがモニターとして使われる想定で設計し、実際にプロユースとして使われている実績があるから、モニタースピーカーといえるのであろう。再生周波数帯域は大変広く、そうした帯域バランスをチェックするにはいいスピーカーだ。マルチウェイだけあって、定位はコアキシャルやシングルコーンなどとはちがい、中央モノーラル定位が、やや定まりきらない。しかし、ステレオフォニックな音像定位の再現はよく、マルチウェイとしては位相特性と指向性に対しての考慮が行届いていることがわかる。音色的には、艶のある、しなやかなもので、モニターシステムにあり勝ちな味気のない、音楽的感興の湧きにくいものではない。この点でも、コンシュマーユースとしての魅力を持ったものといえる。また、マスターレコーディング用としては、とてつもないパワーが入るが、この点ではこのシステムはミニマムの条件。細部はやや美化される傾向がある。

キャバス Brigantin

井上卓也

ステレオサウンド 41号(1976年12月発行)
特集・「コンポーネントステレオ──世界の一流品」より

 ヨーロッパの大型フロアーシステムは、大半が英国の製品であり、それも伝統的な永いキャリアーを誇るモデルが多いなかにあって、フランス・キャバス社のトップモデル、プリガンタンは、設計時点が新しい大型システムとして珍しい存在である。
 38cmウーファーと中音、高音にドーム型を採用し、各ユニットは、音源を垂直線上に揃えたステップ状のバッフル板に取付け、位相を合わせているが、早くからORTFのモニターシステムで、この方式を使っている同社らしいところだ。このシステムは、粒立ちが細かく、充分に磨き込まれた滑らかな音である。反応が軽快で早く、独得な華やいだ明るさが魅力的で、艶めいた雰囲気を漂わせる。