菅野沖彦
ステレオサウンド 94号(1990年3月発行)
「BEST PRODUCTS 話題の新製品を徹底試聴する」より
ワーフデール。なんという懐かしい響きであろう。私の青春時代のオーディオは、ワーフデールのスピーカーによって奏でられていた。ワーフデールは、英国のスピーカーメーカーの名門で、タンノイやグッドマンと並んで、第2次大戦後のオーディオ界の花形メーカーであった。当時、エアデイルと呼ばれる大型システムが憧れの的で、創刊間もない頃の本誌で、夢のオーディオシステムとして、このエアデールを片チャンネル4本使った誌上プランを書いたのを思い出す。ステレオ初期の私のシステムは、ワーフデールのユニットで構成し、12インチのウーファーW12RS/PST、8インチの全帯域ユニット/スーパー8をスコーカーに、トゥイーターはスーパー3という3ウェイシステムを組み、当初はネットワークを使っていたが、後半はこれをマルチアンプによってドライブしたものだった。創立者のブリッグス博士はスピーカー設計の草分けとして、その著書は多くのスピーカーエンジニアエンジニアの教科書でもあった。
そのワーフデール・ブランドが久しぶりに日本の市場にカムバックする。アーサー・ランクのコンツェルン傘下にあって、普及型システムのメーカーに成り下った同社の存在に淋しい思いを噛みしめていたのは私だけではあると思われる。現在のワーフデールは新生ワーフデールとして独立し再出発した模様であるが、その代表モデルがこの〝コーリッジ〟である。2ウェイ構成の中型ブックシェルフというのは、代表モデルとしてはちょっと淋しいが、現在の英国オーディオ界の実態を物語ってもいる。この洒落っ気ゆえに少々安っぽい感じのするデザインフィニッシュは往年の風格に比すべくもないが、これも現在のイギリスのトレンドからすれば入念な仕上がりといえるものだろう。見た目の存在感としては、往年のワーフデールを知る者としては、失望の他はないのだが、一本九万円台という価格に高級機を期待する方が無理というものだ。
しかしその音を聴いた途端、さすがと思わず唸り、嬉しくなってしまった。このサイズのシステムとしては、第一級の音を持ってるのはいうまでもなく、サイズや価格をさておいても、音として誠に正統的な質感とバランスをもった自然なものであった。イギリスの伝統である〝音楽的な自然さ〟をメーカーも標榜しているが、全くその通りである。端正な造形バランスの中に美しい彫琢の整った音像が浮彫りになり、楽音の千変万化への反応が鋭く明晰である。節度のあるコントロールで、曖昧な共鳴による演出はなくなり、締まった低音はローエンドまでとはいかないが、十分な低域の量感も再現するし、なによりもよく弾み、濃やかなタッチを鮮やかに聴かせてくれるのがよい。すっきりとした品のよい佇まいはサラブレッドの美しさを保っている。
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