JBL 4344のバイアンプドライブ

早瀬文雄

ステレオサウンド 9号(1990年9月発行)
「マルチアンプシステムに挑戦! JBL 4344をバイアンプドライブする」より

 今やマルチアンプという言葉の意味をどれだけの人が理解しているだろう。淋しいけれど、その壮大なシステムは一部の超マニアを除き、おそらくはほとんど忘れられつつあるというのが実情だろう。ちなみに、本誌レギュラーライターである菅野沖彦、柳沢功力氏も、自宅のシステムをマルチアンプ化されている。
 さて、マルチアンプとは一体どういうシステムのことを指すのだろう?──3ウェイを例に簡単にいえば、高域のトゥイーター、中域のスコーカー、低域のウーファーといった各スピーカーユニットを個別のパワーアンプで直接ドライブする方式である、ということになる。
 それはいわばオーディオの究極、一歩間違えるとクレージーと紙一重のきわどい状態にもなり兼ねないものであることは、なんとなく想像がつくと思う。しかし、英国のスピーカーメーカーであるKFFが1975年に発表したBBCモニター/5/1ACは、高域、低域用の二つのアンプとチャンネルデバイダー(後述)を内蔵していたし、当時のJBLプロ用モニターである#4330、4332、4340、そして4350なども、完全にバイアンプ駆動専用モデルであったことからもわかるように、パワーハンドリングやモニタリングに必要なディティールの再現性の向上を期待しての手段であるだけに、我々オーディオファイルとしても、無視できなな方式なのだ。
 しかし、実際に使いこなすとなると、単に情熱だけではなく、センスと努力を必要とすることも事実だ。成功すればシングルアンプ駆動では絶対に到達的な異次元の音場空間に突入できる可能性を秘めてる以上、ここでその意義を再確認しておきたい。マルチアンプの技術的な詳細は追って述べるとして、今回はその入門編としてバイアンプドライブに挑戦する素材に、スピーカーを一切改造することなく、スイッチ一つで簡単にバイアンプドライブが可能なJBL4344を選択した。本誌の愛読書の中にも使用者が多いと思われるこのスピーカーを俎上に乗せ、いくつかのアンプでバイアンプトライブの効果のほどを確認してみた。
 本号以降、回を追って4344以外にもマルチアンプ化に対応可能なスピーカーシステム、例えばアポジー・ディーバーやダイヤトーンの4ウェイシステムなども使用し、さまざまなテストを試みていく予定だ。けしてイージーではないかもしれない、しかし、そこにはオーディオのエンスージアスティックな醍醐味があり、簡便なオーディオの対極的な存在として、マニアなら一度試してみたいと思うに違いない。そうした夢を現実にしたいという時、この企画がその一助となれば幸いである。
 ──バイアンプ、つまり、一組のステレオ用スピーカーを二組のアンプで駆動するという方式のことだ。
 普段ならその間に介在するスピーカーシステム内蔵のディバイディングネットワークをパスしてしまう。しかし、そのままではトゥイーターに低域の信号が入ってユニットが壊れてしまうから、当然各ユニットに適した周波数に分配した信号をパワーアンプに送り込まないといけない。
 こうしてパワーアンプにインプットされる信号を事前に処理するのがチャンネルディバイダー(エレクトロニッククロスオーバー)である。
 今回は4344の背面にある。切替えスイッチを使用し、38cmウーファーとその上の帯域を分割した。上三つのユニットはそのまま内蔵のネットワークを通してドライブされる。今回、チャンネルディバイダーとしては同じJBLブランドの5235を使用した。
 これはかつて僕自身も使ってみて、その価格を超えた可能性や使い勝手の良さから、バイアンプの入門期として最もふさわしいと思えたからだ。
 バイアンプのメリットに簡単にふれると、およそ次のようになると思う。
①高域をドライブするアンプに低域信号がインプットされない。
②高域をドライブするアンプには当然だが、ウーファーをドライブする必要がない。したがって、ウーファーからの逆電力がまったく戻ってこない。
 以上、①②の理由により、高域用アンプはきわめて動作が楽になり、ゆとりが出てくる。
③低域用アンプはウーファーに直結され、ネットワーク中の数十mにおよぶ高域をカットするための長いコイルの中を信号が通過しなくてすむ。
 以上のようなメリットのほかに、4344のバイアンプ駆動ならではのさらに別の要素も加わる。
 JBL4344は、ウーファーのクロスオーバーは、内蔵のネットワークでは320Hz、遮断特性は12dB/octになっている。遮断特性の12dB/octというのは、周波数が倍(または1/2)になるごとにレベルが1/4になるということを意味している(6dB/octでは1/2、18dB/octでは1/8)。
 クロスオーバーとは、ちなみに二つの帯域に分割する、その分岐点の周波数ポイントのことである。
 さて、4344では、スピーカー端子の下部にある切替えスイッチを『エクスターナル・クロスオーバー』側にすると、ウーファーが完全にネットワークから離脱される一方、ミッドバスに加わる320Hz以下の低域をカットするLC(コイルとコンデンサー)もパスされる。しかも、バイアンプ化するときのクロスオーバー周波数と遮断特性を、JBLでは290Hz、18dB/octと指定しているのだ。つまり、バイアンプ化でウーファーの高域成分をよりシャープにカットするとともに、クロスするポイントを下げ、ミッドバストのつながりをよりスムーズになるよう意図しているのだ。というわけで、ここではこの特性を持った5235の4344のフィルター基板、51-5145を用いることにしたが、250Hz、12dB/octの52-5121も入手できるから差し替えて、実際の音がどれだけ変化するのか、遊んでみても楽しいと思う。
 バイアンプに挑戦する第一回の今回、選んだパワーアンプは、スレッショルド、マークレビンソン、チェロ各ブランドの代表的なモデルである。同一ブランドの同一モデルを二機種使用することが原則だが、マークレビンソンではより高域に研ぎ澄まされた美しさのあるNo.27Lがふさわしいと判断し、あえて採用することにした。

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