岩崎千明
ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
特集・「世界のカートリッジ123機種の総試聴記」より
シュアーは、今やマイクメーカーというよりも米国を代表するもっとも高名な、そして高級なカートリッジの量産メーカーだ。
ステレオの初期において、他社にさきがけてMM型の実用的な高級品を完成した。アメリカ国内のライバルメーカーが追いつくまでに、音溝の追従性を技術的テーマとしてカートリッジを軽針圧化したのが、今日のシュアーの礎だ。
今日のすべてのムービング・マグネット型カートリッジが、このシュアーの影響を受け、おそらくすべての技術の源であるといって差しつかえあるまい。
約十年前に、すでにV15を完成し、それは今、第三世代になっている。
シュアーV15タイプIIIは、おそらく誰でも一度は手にしているだろう。高級ファンにとって、このカートリッジは少なくともひとつの基準ないしは、信頼の源点にあるはずだ。
タイプIIIになって確かに伸びた高域は、低域からまるで定規でひいたようにフラットそのものの特性をもつ。これは驚き以外の何ものでもない。しかも、この特性が世界的に売られる量産品に保たれていることこそ、注目しなければならない。
やや甘いローエンドも、ちょっとばかり細身な中低域も代々のV15の個性でもあり、特徴でもあった。それが気にくわなければ、タイプIIIとは妥協できない。何はともあれ、これが音楽再生の基準として、もっとも広く使われている事実。これだけで、このカートリッジの価値は、あらゆるファンにとって必要であろう。ステレオ音像の無類の広がりも、トップモデルにふさわしい。
M95EDは、V15タイプIIIの実用型ともいうべきモデルといえるが、単に実用型にとどまらず低域の充実感がプラスされたことによって、音が積極的な面をもつに至っている。
ヴォーカルが聴き手の間近に再現され、小編成器楽曲が迫力をもって再現されるので若いファンにとっては喜ばれよう。無論、相対的に中高域がややおとなしいという傾向をもち、それがクラシックの、とくに弦楽器の再生において好ましいともいえる。ステレオ音像は、ふやけることもなく、適度な広がりをもたせ、さすがにシュアーのキャリアを物語っている製品といえる。
SC35Cは、一般マニア向けというよりもディスコテックなどの業務用であり、針圧指定値が、5gということからも、まさにヘヴィーデューティであることがわかる。そのごついカンチレバーを通して出る音は、まさにナローレンジには違いないが、まったく確実な情報を伝えてくれるのがもっとも大きな特徴ということができる。
M91GDは、シュアーの特徴ともいうべきウェルバランスの再生音が得られ、決して単なる普及機に終らない良さをもつ。音楽再生のカンどころをおさえた周波数バランスをもち、シュアーのもうひとつの特徴でもある針圧に対する印加幅の広いことも、この機種についていえる。トレース能力も実用上かなり高く、そうした点も高く評価したい。
M75Gタイプ2は、ローコスト機種ながら、音楽再生上、一般マニア向けというよりもより音楽を大切にするファンに推められよう。それほど広帯域とは思えない再生音は、音楽ジャンルを問わず素直なバランスを聴かせてくれる。
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