Monthly Archives: 5月 2012

アイワ AD-4200

岩崎千明

週刊FM No.15(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 金属の質感を強調した仕上げの、斜めに傾斜したパネル。いわゆる平量き型のカセット・デッキの今までのイメージから一歩前進したデザインは、すでにこの面で著名な商品があるのでオリジナル・デザインとはいい難いが、使いやすさと、まとまりの良さで成功しているといってよい。このAD4200の特長をずばり表わしている点だろう。
 シンプルながら録音用とは別に再生用のヴォリュームを独立させたり、テープ・セレクターにもイコライザー、バイアスをそれぞれ3点切換で使い方に広い幅をもたせ、音質に対する配慮に気をくぼっている点は4万円台のデッキとして丁寧な処置だ。
 ドルビーオンの際の高音特性の変化に対しても親切で、新しいLHテープに対してバイアスを大きめにとることもできるのも好ましい。
 決して広帯域とまでいかないのだが、それでもカセットのこの価格帯の製品としては、ひじょうにバランスの良い音だ。スッキリとした感じの、充実感ある録音で5万台以上の平均的なものとくらべても、ひけをとるまい。
 高品質カセットにありがちな低音の力強さの不足がまったく感じられない点が、もっとも嬉しい所だ。レヴェル・メーターが少々振れすぎるぐらいに録音する方が、この面でも有利なようだ。なおエジェクトの際にマガジンが静かにせり上るのはうまい。アイワの普及型中の傑作といってよい。

パイオニア CT-8

岩崎千明

週刊FM No.15(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 パイオニアのCT8はナンバーから推察すると当然CT9の弟分に相当するはずだが、外観からはほんの少しパネルの背が低いことを除くと弟分ではなくて凝縮型のマイナー・チェンジと思えるくらいだ。もっともこれを使ってみると、カタログ上の数字はともかく、すべての点で、まったく兄貴格と同じであることも知らされる。つまり、CT8は実質的性能の高い割安な最高級品といえる。
 軽く、しかも確実なタッチの操作レバー。豪華なレヴェル・メーター。扱いやすいスウィッチのテープ・セレクター、さらに例によって見やすく装填しやすい垂直型のマガジン。LEDのピーク・インジケーターも兼備する。扱いやすさと高級感に加えて、CT8の耳当りの良い音も、このデッキの特筆できる魅力だろう。
 カセットらしからぬ広帯域感。単なるフェライト・ヘッドなどではなく回路を含めての設計のうまさだろう。低音の豊かさがよく出てるし、聴感的にヒスの少ないのも使いやすさに大きなプラスをもたらしているだろう。
 ドルピーの際のヒスの低減で、カセットらしさはまったくなくて、実用上、オープン・リールにもくらべられ得るほどだ。カウンター・ゼロを記憶するメモリーは扱いやすく初心者にも容易に扱いこなせるのも新しい特長だ。

ビクター JA-S41

岩崎千明

週刊FM No15(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 ステレオの左右クロストークを改善するのに左右の電源トランスを分けるという従来の手段に対して、電流、電圧変動の大きくなる出力段を別電源とする新しいテクニックを採用して登場したビクターの新しいこのアンプは、その点、大成功を得たといってよい。少なくとも今、市場にある左右2電源方式にくらべて明らかに優れている。フォノ入力を片側外し普通の演奏状態で反村側のスピーカー端子のスピーカーを外して8Ωの抵抗を接いでおいて、フォノ入力のない側のスピーカーからの洩れを確かめればクロストークは誰にでも容易に確認できる。このように実際的に優れたステレオ・アンプとしての基本性能をそなえたS41は、クロストークだけでなく、パワーとか歪みにおいても今までのアンプの常識を完全に乗り越えた性能を持っている最新型にふさわしい強力アンプだ。
 さて、そのサウンドは中音の確かなる充実感に加えて、ややきらびやかで輝かしい広帯域感。それを支える力あふれる低音の迫力。重低域までよく延びた豊かな響きにこのアンプの実力の底力を知ることができる。ステレオ感の拡がりの十分な音場再生は、ノイズの少なささえもかもし出している。高域までクロストークの良い特長がホワイト・ノイズの音像を拡散しているためだろう。
 ロー・レヴェルのこまやかな音の美しさはビクターのアンプの共通的特長だが、この点でもS41は一段と優れ、新型にふさわしい。

オーレックス FM-2000

岩崎千明

週刊FM No.8(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 アンテナなんていうものは特殊なんで今まで専門も専門、アンテナだけ作ってるメーカーの独占商品だと思ってたらなんと東芝が出したってわけ。なんでまた、というなかれキミ。オーレックスのチューナーは、国内製品はおろか世界中を見渡してもちょっと例の少ないシンセサイザー・チューナー。それも周波数デジタル標示だよ。スゴイネ。これだけのチューナーを出してりゃどんなアンテナをつけたとき本領を発揮してくれるんだい、とユーザーからいわれるにきまってる。だからFM2000なのだ。つまり、このアンテナをつけさえすれば、スゴイチューナーが一層スゴイ性能を出せるっていうものさ。
 しかし、FM2000、いままでのがらばかり馬鹿でかいFMアンテナとは違って、キミの手を拡げた時よりもひとまわり小さいくらいだ。だからといって、テレビ用を代用してるのと違って、ちゃんとしたFM専用なのである。つまりFMバンドの全域に対してほぼ同じような感度を得られるように作られている。確実にひとまわりは小さくまとめてあって、全体がすごく軽い。だから今までのように大げさにならず、どんな場所にも取り付けられるっていうわけだ。ちょっとやってみたけど、天井近くブームの一方を片持ち式に取り付けても軽いからビクともしない。チューナー付属のフィーダー・アンテナの時に苦労するステレオ放送でのノイズっぽさが驚くほど直る。

トリオ KT-7700

岩崎千明

週刊FM No.8(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 昔からチューナーはトリオっていわれてきたんだから、今度の高級品KT7700、悪かろうわけないよってなことをつぶやきながら、ケースから取り出して机の上にどんと置いて、やっぱりため息が出ちゃう。この新型は、とてもいいのだ。無駄な飾り気や視覚的夾雑物がない。つまり、あくまで機能本位でまとめられたパネルが実にすばらしく、さすがにチューナーのベテラン、トリオの最新型といえるほど外観的デサインの完成度の高さ。こりゃきっといい音がするぞと期待。プリ・アンプにリード線をつなぎ、付属のフィーダー・アンテナをちょいとつけて……またぴっくり。感度の高さ、調節のしやすさ。ダイアル・ツマミのタッチなど「いかにも高級チューナーの手ざわりが、スムースな回転とダイアル指針のすべるような働きではっきりと知ることができる。しかもメーターの針の動きがアンテナの高さに応じるようにシグナル・メーターが振れ、センター・スケールの同調メーターも、中点を中心としアンテナ入力に応じて左右に大きく振れるので、正しい中点を確実に探し出すことができるのだ。ダイアル目盛が長く、しかも等分目盛なので同調点を正確に求めることができる。
 かなりほめてしまったがまだ足りないくらいなのが「音」だ。力強くぐいぐいと量感もあって、しかも鮮明さを溢れるほど感じさせる。

ソニー TC-2140

岩崎千明

週刊FM No.8(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 パッケージから出したTC2140、そのやや小ぶりの大きさからも間違いなく普及型。だけど、それが実にいいんだなあ。本当。いや味がないどころか、とってもスッキリしていて安っぼいところが全然ないし、よくありがちな飾りだてがなくて、すごく好感を持てる。つまりセンスがいいのだっていうわけ。
 これだけ洗練されてると、もう中味の方だって大体の所いい線いってるものだ。早速つないで音を出してみようってわけで深夜のFM、弦楽器をやってたのだが、ちょっとびっくりしたのだ。弦てやつは割にワウ・フラッターが出やすいのに全然だ。弦の高音域は歪みをもろに出しやすいというのに、歪みっぽさや汚れた感じがないのだ。ピアノの響きにも少しのふるえもないし、タッチのビリつきもない。
 念のためモニター・スウィッチを切換えてみて直接放送とテープに録音したのとを瞬間切換で聴きくらべた。ここでもう1度驚いたのだ。これ本当に普及型なんだろうね、なに39、800円? へえ本当? だってこのスッキリした音、これで録音した音だよ、ほら放送でもあんまり変わりやしないじゃない? でもなんとなく放送の方が低音ののぴがいいかな。それではテープを高級なテュアドに変えてみよう。あっ俄然すごい。低音の量感はぐいと溢れる変わりよう。ね、切換えても放送直接と録音とどっちだか判らないくらい。驚いた。

ソニー PS-4300

岩崎千明

週刊FM No.10(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 かつてサーボモーターで圧倒的勝利を収めたソニーがクオーツロック以来、昔の実績をとり戻さんと強力なプレイヤーをデビューさせた。PS4300はDDモーターをベースにしたフルオートマチック・プレイヤーだ。現代的な高級プレイヤーの条件ともいえる軽針圧はもはや平均的な人間の指先の感覚では扱い切れずこの数年、各社からの新型の中心はフルオート全盛となった。ソニーお得意のエレクトロニクスによるサーボがゆきとどいていて、操作ボタンさえ触れるだけのワンタッチ・エレクトロ・スウィッチ。もっともこの羽根タッチそのものが必ずしも良いことばかりではなくて、かえって動作の不確実さを招きかねないのは皮肉。ボード上面でなくケースの前に位置させて誤タッチを避けているのだが、馴れないうちはそれでも操作させる意志がなくても触れてしまうのは赤い小さなランプがちらちらとつくせいかしら。この辺が狙ってるはずのイメージをぶちこわしてるのでは……。動作はまず満点に近い正確さ。ストップさせてから実際動作にちょっと間がありすぎる気がするが、手で直接アームを動かしてもメカとしては何ら差支えない点はいい。できれば5万台ともなったら、4万円と違い実用性能本位1点ばりでなく明らかな高級感が欲しいけど無理かな。アームはまあまあ、カートリッジは使いやすいがこれも価格帯相応の程度。

サテン M-18BX

岩崎千明

週刊FM No.10(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 今まで、何回となく、こんなによくなった、というメーカーの言葉ほどには変わりばえのなかったサテンのMC型。扱いやすさの点で確かに11型になったとき格段の向上をみせて以来、もっとも大きく音の良さを獲得したのがこのM18ではないだろうか。
 少なくとも、豊かさという点で、どうしても突破れなかったサウンドはM17あたりから、かなりはっきりした変わり方で、今までにない「大らかさ」を音楽の中に加えてきている。そして、サテンでは初めてベリリウム・カンチレバーを作ったのがこのM18BX。もともと、くっきりした繊細感という点では、ひ弱な繊細感の多い国産品の中で目立った存在だったサテンだが、中域から低域にかけての力強さが、はっきりと感じられるようになったのははじめてだ。特にBXはその力強さの点では、かつてないほどの迫力を発揮してくれるのがいい。サテンの場合、針圧の許容範囲の点でクリティカルなのが弱点ともいえるが、それも次第に確実に改良されて向上を重ねてきたのも見逃せない。
 カートリッジ自体の重量の重いのは相変わらずだが、あまり極端な軽針圧用アームさえ避ければ十分に使える。ただこれに変えると必ずアームの水平バランスをとり直さねばならない手間が加わる。しかしMC型としては驚くほど出力が大きく、トランスやヘッド・アンプは不要なので手軽だ。

テクニクス RS-678U

岩崎千明

週刊FM No.10(1976年発行)
「私の手にした新製品」より

 試聴用に送られて来たというのに、ケースのふたをあけて、黒いパネルに例のハンドルのついたパネルが、ちらっと顔を出すと胸がドキドキして来るくらいだから、これを買ったのなら、そして自分でフタを開けたのなら、さぞかし、どんなにか、うれしいだろう。このふくらみすぎる位の期待を、少しも裏切らずに十分の中味と、聴きごたえのある、カセットらしからぬ音を出してくれるのが、このRS678Uだ。
 操作ボタンが、ありきたりの配置に変わって、だんぜん使いやすく、ビギナーにもマゴつかせない。タッチのスムースさも文句ない。カセット・ハウジングにねかせて着装するテクニクスのオリジナル方式の手なれたためか、ミラーの角度もいいせいか、走行状態もよくわかる。
 たいへんにスッキリと澄んだ音で、細やかな音のディテールも良く出るし、なによりも広帯域で、おそらく誰もが、だまって聴かせたらカセットとは気がつくまい。中低域の厚みがちょっぴり加われば、オープン・リールにも匹敵するだろう。しかし、これはアンプのラウドネスかトーン・コントロールで補正すればすむ問題だ。パネル・デザインのあつかいやすい配置と、操作類のまとめ方、ピーク切換もできるメーターも、小さいながら見やすく.センスのいいまとめ方だ。