Daily Archives: 1981年6月10日

TDK AD

TDKのカセットテープADの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

TDK

マイクロ SX-8000

マイクロのターンテーブルSX8000の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

SX8000

オルトフォン MC10MKII

オルトフォンのカートリッジMC10MKIIの広告(輸入元:ハーマンインターナショナル)
(別冊FM fan 30号掲載)

MC10MKII

SAEC CX-8003 TypeII, CX-5006A

SAECのトーンアーム出力ケーブルCX8003 TypeII、CX5006Aの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

SAEC

オーディオクラフト AC-3000MC

オーディオクラフトのトーンアームAC3000MCの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

AC3000MC

ビクター MC-1, MC-2E, X-1IIE, U-2E, Z-1E

ビクターのカートリッジMC1、MC2E、X1IIE、U2E、Z1Eの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

MC1

富士フィルム ER

富士フィルムのカセットテープERの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

ER

パイオニア PC-70MC

パイオニアのカートリッジPC70MCの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

PC70MC

テクニクス SL-DL1

テクニクスのアナログプレーヤーSL-DL1の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

SL-DL1

ソニー TC-FX7, ST-JX5, MDR-FM7

ソニーのカセットデッキTC-FX7、チューナーST-JX5、ヘッドフォンMDR-FM7の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

TC-FX7

Lo-D HT-500

Lo-DのアナログプレーヤーHT500の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

HT500

ヤマハ T-8

ヤマハのチューナーT8の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

T8

トーレンス Reference

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはトーレンスの新製品で、本来トーレンスの研究用に作り上げられた製品である。それを超マニアの要望があって一般にも売ることになったもので、実に超ド級にふさわしいものすごいプレイヤーシステムだ。トーンアームが三本付くようになっており、スタンダードとしてはトーレンス自体のアーム、カートリッジ、EMTのアームとカートリッジ、そして好みのアーム、カートリッジを付けるようになっているり 全重量は90kgに達するが、このプレイヤーはリンソンデックやトーレンスの126のところでも述べたような、フローティング・マウンティングという思想を守っている。それでターンテーブルボードのものすごい重量をリーフスプリングとコイルスプリングで吊っている。しかも吊りの張力をコントロールできるようになっていて、共振周波数を1Hzから5Hzの間でもってコントロールできるという、凝った構造になっている。
 ターンテーブルは超ド級にもかかわらず、ノーマルな30cmのものが付いている。ベルトドライブとフローティングというトーレンスの思想を守ったターンテーブルだ。当然これは値段的にいっても、EMTの927に比して考えざるを得ないのだが、927はプロフェッショナル・ユースを志しているのに対して、これは言うならばコンシューマー・プロダクツのためのレファレンスだ。
音質 音質もまた927と比較して言うことになるが、927で私が戸惑いを感じたほど、レコード以上ではないかと思うような強引な力強い音ではない。しかし、力強さという点ではいささかも不満はない。しなやかさ、繊細さ、柔らかさという、つまり音楽的情緒では、私にはこちらの方がずっと満たされる。927の場合には、ちょうど仕事をして聴いている時のモニターの音のような気がした。モニターをしている時は、情緒までうんぬんしている余裕はないが、自分自身、家に帰って聴く音というのは全然違う。これは、自分が家に帰ってきて聴く時の、最高品位の音を出してくれるプレイヤーだと思う。
 柔軟性が出ていて、音楽がずっとのびのびしている。非常にバランスもすばらしくて、血の通った低音から、本当に過不足のない輝かしさのある高音まで実にしなやかだ。決して耳障りではなくて、それでいて頼りない音にはならない高域だ。こういうフルレンジにおいて、いささかの冷たさもトゲトゲしさも出てこない。解像力がものすごくよくて、音の奥行きの深さ、広がりとか各楽器の質感の響き分けとかというものは、レコードに入っている音楽的な響きを全くそのまま出してくれる。ただ、これはTSD15で聴いた時の印象であって、トーレンスのカートリッジ、アームで聴いた時にはちょっと問題があったように思う。品位の点では、TSD15の方がいいと思った。また、使い手によって自分の好きなアームとカートリッジを付けることができるけれども、ここでの試聴レポートでは触れない。たまたまTSD15を使った限りにおいて大きな差が出たが、それでいてこの二つは共通して他のいかなるプレイヤーとも全く次元を異にする音だった。

EMT 927Dst

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは非常に特殊なもので、決して家庭用のプレイヤーではない。プロ用としても超ド級であって、何しろターンテーブルの大きさが16インチ径もある。これはカッティングしたラッカーマスターを検聴する目的で開発されたという。この下の930が放送局用のプレイヤーとして使われているが、ターンテーブルはもっと小さい。カッティングの検聴用ということだが残念なことに、私はこういうプレイヤーを実際にカッティングルームで使っている例をまだ知らない。カッティングルームの場合には、カッターマシンをターンテーブルに置いたままで聴けるようになっているので、このプレイヤーシステムの本当の使い方がどこにあるのか、私自身はっきり知らない。おそらくEMTとしてディスク再生機のあるべき姿を追求すればこうなった、というふうに解釈するのが本当ではないかと思う。
 もちろんこれはEMTのトーンアームとカートリッジを使うものであって、ユニバーサルタイプではない。TSD15を標準として使う。そしてイコライザーを内蔵していて、ライン出力を取り出すという方法をとっている。付属機構がいろいろ付いていて、針先のポジションがはっきりスケールで見られるようになっていて、レコードをかけるには確かに完璧を期したプレイヤーだ。
音質 駆動方式は今回の中では唯一のリム方式である。音質はもうケタ違いといっていい。今回聴いた最高級プレイヤーの中でも、これは一次元を画したたくましい音だ。はじけるようなベース、うなるようなバスドラム、パーカッションの立ち上がりの機敏な音、目も覚めんばかりだった。ピアノのスケールが一段と大きくなって、今までのものと違ってしまった、というふうに楽器のスケール感が変わって聴こえる。そして全帯域にわたって、実に朗々と響いている。同じレコードがこういう音になるとは信じがたい。
 とにかくこの重量のかかった音──音の目方という表現が許されるならば──これは全く今までとはケタ違いの目方がかかった音だ。そして音のパワーというものがものすごい。実際これはどういうことだろうか。レコード自体がこれだけ猛々しく鳴るべきものなのか、このプレイヤーがこういう音を出しているものなのか判断に苦しむ。とにかく次元を異にした猛烈な力強い音だ。もちろん帯域バランスとかはよくとれているし、クセがどこへ出るというものでもない。本当に最低域から最高域までを、ものすごい充実感と確実性と重量感を持って、スケールの大きな圧倒的な音を聴かせてくれる。
 まさにプレイヤーシステムによる音の違いとして、本当にひしひしと感じさせられた。948と同じTSD15を使ってテストしたが、カートリッジが同じであるにもかかわらず、同じEMTの中でもスケールがガーンと大きくなった。ましてやほかのプレイヤーシステムと比較してみた時には、相当違う音になる。こういう音を一度聴かされると、確かにほかのプレイヤーの音はどこかひ弱だ。しかしいい音には違いないが、レコードそのものがこういう音なのかどうか、疑いを持つほどに堂々たる音だ。もう圧倒されて、これは別格だという表現を使わざるをえないプレイヤーだった。

EMT 948

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはEMTの新製品だ。コンセプトとしては、放送送り出し用のターンテーブルということで、従来の930に匹敵する製品だ。930と同じくイコライザーを内蔵していて、ライン出力が取り出せるようになっている。
 また、放送機器として使うために、使い勝手が非常によく考えられている。けい光灯のようなものが付いていて、それがついてからすべてのスイッチがオンされる。もちろんマーキングがあって、頭出しも非常に便利だし、スイッチ一つで逆転が可能というところも大変に便利な構造ということがいえる。これはカートリッジ、アーム付きであって、EMTのTSD15を使う。それ以外のカートリッジは使えない。
 この948はターンテーブルがベルトからダイレクトドライブになった。このへんも新しい世代のEMTのプレイヤーシステムといえると思う。アクリルのカバーも付いていて、カバーは密閉式ではなく、両サイドがあいており、中にキャビティーができることによる害は比較的避けられている。その他の仕上げの点では、さすがにEMTらしく非常に精度の高いものだ。従来のEMTの持っていた重厚なイメージとは違って、これは非常にモダンなイメージにまとめ上げられた、これ自体大変に美しいターンテーブルシステムということができると思う。実際にはインシュレーターが付いているはずだが、今回はそれがなかったために、インシュレーターなしで使ったけれども、ハウリングには問題がなかったように思う。
音質 一つ気になった点は、ある低域に特定の周波数に共振が出ることだ。ほかのプレイヤーにない、ある種のベースの特定なピッチが少々強く出すぎるという感じがあった。全体には非常に締まった、むしろゴリゴリしたような低音だけれども、ある一点でそれがやたらにブーミーになる。音の感じとしては、全体に彫りの深い音だと思う。大体これは、カートリッジのTSD15の性格ももちろんあると思うが、やはりよくできたターンテーブルだからだろう。端正な響きで非常に魅力的だ。ただ中域のピアノの響きがちょっと伸びきらず、少しやせるというところが感じられたけれども、このへんはカートリッジのせいなのか、アームのせいなのか、あるいはターンテーブルシステムのせいなのか、トータルで聴いているためはっきりわからない。とにかく日本のプレイヤーとは次元を異にしている。クラシックのオーケストラをかけた時に、実にニュアンス豊かで品位の感じられる音になる。ふくらみがあって、それでいて解像力が優れていて、彫りの深い響きが鳴る。これはもう伝統としか言いようがない。EMTの930、927の音と比べて、これらの音の魅力をよく知っている人には変わったなと感じられるかもしれないけれども、確かに変わった部分はあるにせよ、持っている本質は変わらないと思う。あくまでも力強く、しっかりとした解像力でえぐるように音を鳴らす。それでいて決して雰囲気は即物的にならず、重厚なすばらしい風格を持った響きを持つという、EMT独自の個性はここでも明らかに感じられた。

マイクロ SX-8000

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これは一般にはSX8000といっているが、各ブロックによって全部型番が違う。いわゆるターンテーブルと、駆動モーター部分、それからバキュームポンプの三つの部分からなるスリー・イン・ワンとでもいうか、セパレート型だ。非常にユニークで、強烈な重量を誇るターンテーブルシステムにバキュームポンプでエアを送って、ごくわずかだがフロートさせて軸受けベアリングの摩擦抵抗をなくし、SNをよくすると同時に、寿命を延ばすという方法をとっている。そしてモーターでこのターンテーブルを糸ドライブするという、超マニアックな製品だ。いかにも専門メーカーでなければ作れないし、また相当なマニアでなければ使わないものだ。
 実際に使ってみて、これは重量でがっちり固めて、それこそクッション類だのというものは一切使わない。全部リジツトに固めていくという方針だから、地上何メートルからかコンクリートを打ち込んで、そういう所において聴くというのが本来だろう。床がグラグラというような建物の中に入れて聴くのは意味がない。
音質 これは評価が大変難しい。非常にいい面とそうでない面とが相反していたように私は思う。全くブラインドホールド的に、構造だのなんだのを抜きにして、音として評価した場合のことを言うと──まず、ベースの音が不思議な、ブーミングではないが、どこかプログラムソースの音がゆがめられたというと語弊があるけれども、逆相成分を含んだ響きになった。もしこれがソースそのものだとするならば、これはソースの音を正直に出したということになる。今回聴いた十六機種中、ほかのはこういうベースの音にはならなかった。
 それから、強烈なベースのピチカートがいささかも振られることがない。極端にいうと、これ以外のプレイヤーでは何となくベース自身の支柱がぐらついているような感じの音がする。しかしこれは、ベースの支柱はあくまでがっちりしていて、そこでもって非常に強烈なはじく力で弦だけが震えている。そういうエネルギッシュなベースのはじき音は秀逸だった。クラシックのオーケストラを聴いてみても、非常に透明ですっきりとした、俗にいう抜けのよい音ということだろうが、とにかく明快で、透明であくまで底の澄んだ湖を見るがごとき透明感で、実に独特の魅力を持っていた。とにかくプレゼンスはいいし、分離もいいし品位の高い音ということは間違いない。各楽器の音像が大きくならないし、非常に定位が明快。結局、あくまでこの機械の持っているオーソドックスな、徹底的に物理特性を攻めていったという性格にふさわしい、精巧無比な音である。
 これだけのシステムで、徹底的に重量だけで攻めているから、いわゆるフローティングとかクッションとかによるハウリング対策は何も考えられてない。それだけに使い場所と使いこなしによって、ハウリングの悪影響を受ける場合があるかもしれない。
 現実に今回も鉄筋コンクリートの中でテストをしたわけだけれども、相当にハウリングが起きた。しかし、ラスクを下に敷くことによって見事に止まった。したがって、これは対策を施せばハウリングがとれるということで、そのへん注意された方がいい。

パイオニア Exclusive P3

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはパイオニアの高級ブランド、エクスクルーシブで出ているプレイヤーの最高級のもので、同社のプレイヤーに対する永年の技術を投入して作り上げたプレイヤーということになっている。確かに相当な力作であって、プレイヤーとしての備えるべき条件をがっちり守って作られたという、非常にオーソドックスなプレイヤーだ。
 まずベースが非常に重く、しかも剛性の高いものであって、全体のムードは非常にソフトなファニチャーライクなものになっているけれども、中身は相当たくましいものだ。トーンアームは軽くオイルダンプを施した、少し実効長の長めのトーンアームで、これもなかなかシンプルで、かつオーソドックスなもの。もちろんモーターはDDだけれども、考え方としては重量と剛性というものを追求していって作り上げたマニュアルプレイヤー。ハイクラスマニアにとっては非常に魅力のある製品だと思う。
音質 実際にこのプレイヤーでまず感じることは、ターンテーブルにレコードを置いて針を下ろした時に出てくるノイズが大変に静かだ。つまりSN比がいいということだ。そして、非常にエネルギーバランスが妥当で、各楽器の質感をよく出してくれる。少し感覚的に音の評価をすると、適度に温かい音、それでいて透明感がある。透明感のある音というのはともすると冷たくなりがちだけれども、それが冷たくならないのだ。もう少し細かくいうと、例えばピアノの音なんかは十分にピアノらしい輝きを持っていながら、決して鉄のハンマーでたたいているといった感じではない。それからベースがよくはずむ。リンリンデックのところでも触れたが、この場合は上へはずむ感じが出てくる。楽器の音色感とエネルギー感が非常に自然だ。その代わり低音は重量級の割にはそれほどたくましく、馬力のある音ではない。もちろん決して弱々しくはない。「ダイアローグ」を聴くと、バスドラムの締まり具合とふくらみ具合のバランスが非常にいい。芯がはっきり締まっていて、しかもその回りにつきまとう楽器のブーミングとステージの床に共振しているそのブーミングが非常によく出ているが、このへんのバランスの大変にいいということが、このプレイヤーの性格を示しているのではないかと思う。ベースの弦による音色の変化、これも非常によく出ている。それから、ブラシワークはちょっと細みで硬質になる。ブラシによるシンバルとか、ハイハットの音、あるいはスネアをブラシすると、やや細みだ。もう少し豊かさが出てもいいな、という感じがしたけれども、問題になるほどではないと思う。むしろ透明感とか繊細さというふうな感じで、リアリティーがあるように聴こえた。いかにも日本のち密な製品という感じがする。
 オーケストラを聴いても、全体に大変響きのバランスがよく、特に低音楽器群の響きはとても好ましいと思った。ここでも締まりとふくらみがほどよいバランス。つまり基音と倍音のバランスが非常にうまく出てくるといっていい。ホール感も大変にプレゼンスがよく、抜けもよくて全体的に濁りの少ない品位の高い音という感じだ。こういうとベタボメになってしまうけれども、中域の豊かさがもう少し充実してくれば、これは文句のつけどころがない。

ラックス PD555

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはターンテーブルシステムであって、アームはついていない。アームレスの他の機種と同じく、アームはクラフトのAC3000MC、カートリッジはオルトフォンMC20MKIIで試聴した。このターンテーブルシステムは非常に凝っていて、一番の特徴はバキュームによって完全にレコードをターンテーブルのゴムシート面に吸着させてしまうことだ。ゴムシートを介してターンテーブルとレコードが一体化してしまうというほど強力に吸引してしまう。これによってレコードそのものの不安定な、複雑な振動を完全にダンプしようというもの。形も非常にユニークで、かなり横長なもの。アームを二本取り付けて聴けるという利点がある。思い切った設計のターンテーブルシステムということがいえる。ハード的な雰囲気とソフト的な雰囲気を巧みに取り入れ、ハードにも片寄らず、ソフトにも片寄らない仕上げとなっているが、それが逆に何となく中途半端なイメージを作り出しているということにもつながるのではないかと思う。
 バキュームポンプが付属しており、リモートでもってスイッチを押してスタートすると、これがパチッと吸着される。しかも気圧計まで付いている。吸着するという効果は大変大きいと思う。その効果の程度が果たして、音という感覚評価の対象としてどうなってくるかというところは微妙な問題だ。ビクターのTT801システムが比較的軽く吸引しているのに対して、こちらは本当に、完全に吸着しているというところに大きな違いがある。従って、バキュームポンプを使って吸引、吸着システムを採用しているものとしては、こちらは徹底的。ビクターはそのへんをうまくコントロールしているということになる。徹底している方からすれば向こうは中途半端だということになるし、向こうからすれば、徹底させるといろいろな問題が出てくる、ということで判断は非常に難しい。
音質 音は総合的にいって、なかなか品位の高いいい音だ。打楽器を聴いても、ベースのピッチカートを聴いても、大変に締まっていて、かつ響きが殺されていない。これは吸着するターンテーブルの質、あるいはターンテーブルベースの構造によるものだと思う。だからこの部分がうまくいっていないと、音が死んでしまったり、音が吸着しすぎてダンプしすぎてしまう、というような音になるだろうと思うが、ここまで強力に吸着して、しかもそんなに響きが失われないということはターンテーブル並びにターンテーブルベースの振動モードが好ましい状態にあるということだと思う。輝やかしい音色でありながら硬くならず、そしてよくダンプされながら急激に減衰するというようなこともなく、楽器の楽器らしい音のはずみがよく出ている。エネルギーの帯域バランスもよくとれていて、ステレオフォニックな音場の再現感もなかなかナチュラルだ。よく音が前に出てくるし、左右の広がりも非常に豊かだ。個々の音についてはどこといって欠陥は出ていない。注文をつけるとするならば、オーケストラの低音楽器群での豊かさが少し物足りないのと弦楽器の高い方の部分がやや華やぐ傾向にあるということだ。しかし、楽器の音色の鳴らし分けその他は非常にいい線いっており、音質的にはこのプレイヤーはかなりのものだ。

リン LP-12 + LV-II

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーはスコットランドの製品で、大きな特徴はフローティングマウントシステムを採用していることだ。トーレンスのTD126シリーズと同じような考え方である。これは大体ヨーロッパのプレイヤーシステムの主流だ。このことに関してはほかのところでもう少し詳しく述べたい。このリンソンデックの場合は、フローティングが大変うまくできている。見た目にはあまり有難味のない、この値段に匹敵しない仕上げ、デザインで、おそらく普通の人がちょっと見ただけでは、これは五、六万円のプレイヤーじゃないかと思うだろう。プレイヤーは音がよければいいということではなくて、見た目も非常に重要な要素だと思うので、この点に関してはリンソンデックに対する私の評価は非常に低い。いかにいい音がしても、高級プレイヤーシステムとして家庭に持ってきて、大事に扱おうという気が起きないようなデザインではダメだと思う。ここまですばらしいものを作りながら、このデザインで平然としているリンソンデックのセンスには私としてはちょっと共感しかねる。ところが実際に音を聴いてみるとこれがビックリ。私はリンソンデックのプレイヤーはオーディオ界の七不思議の一つだと思っているけれども、とにかく大変に音のすばらしいものだ。今回は、リンソンデックが最近出したアサックというカートリッジを付けて試聴した。トータルでリン・ディスク・システムと呼ぶ。
音質 このアサックを付けて試聴した感じでの音は、とにかく非常に重心の低い落ち着いたエネルギーバランスで、ピアノを聴いても打楽器を聴いてもガッチリとした、しっかりとした音で実に重厚、剛健というか、音楽の表現力が非常にたくましく躍動する。やや繊細さには欠けるような感じがして、もう少しデリカシーの再現ができればいいと思うが、しかしこの力と豊かさがわれわれの聴感には非常に心地よいバランスだ。これは非常に特異なものだと思う。ベースの太くたくましい、ズシンとくるような響きの豊かさというのはほかのプレイヤーと一線を画して魅力のあるものだと思う。ただベースの音色的な細やかな変化はあまりきかれない。そういう意味では先ほど述べた、繊細さに欠けるということにも通じるかもしれない。それからリズムは下へ下へ、グングン押しつける傾向のリズムで、上へはねる傾向には聴こえない。このへんがこのプレイヤーの特色だろう。しかし、ドラムス、ベースはジャズを聴いても迫力十分だし、オーケストラを聴いた時の厚みのある低音弦楽器部分の怒とうのように迫る響きはなかなかのもの。管の音もバスクラとかバスーンとか、そのへんの領域の音が非常に奥深く、深々と鳴ってくれる。こういうところが、このプレイヤーならではの充実した再生音だろうと思う。奥行き、音場感、これもなかなか豊かで、ステレオフォニックな音場感がこういうように再現されるというのは、プレイヤーの共振モードが大変にうまくコントロールされているのだと思う。私の感じたところによると、500Hzから800Hzあたりが非常に豊かに響いてくる。これが音楽を奥深く感じさせることになっているのではないかと思う。高域の弦楽器群、バイオリンのハイピッチの音などは、決してしなやかとまではいかないけれども、とげとげしくもない。

ラスク P-6, I-5040MKII

黒田恭一

別冊FM fan 31号(1981年6月発行)
「ちょっと気になるコンポパーツ18 インサイドレポート」より

 ラスクとは何か。ラスクを作っているユニチカ株式会社の説明によれば、「吸音と遮音、そして吸振に圧倒的な威力を発揮する全く新しい特殊金属」ということになる。そのラスクをどのように使うか。方法はいくつかある。まずスピーカー内部に挿入する吸音材、整音材、補強材としての使い方があり、プレイヤーのインシュレーターとしての使い方があり、さらにスピーカーのインシュレーターとしての使い方や音場補正用のパーティションとしての使い方などがある。
 いずれにしろ、当たり前のことであるが、ラスクは直接音を出さない。この直接音を出さないものをいかに意識するかが難しい。コンポーネントの中での例えばプレイヤー部分のフォノモーターやアームに対する意識とカートリッジに対する意識では微妙に違わないか。
 エクスクルーシヴのP3というプレイヤーを使っているが、ちょっと疑問に思えたところがあったので、アームをオーディオクラフトのAC4000リミテッドに替えた。音が変わった。目を見張るばかりの変化であった。むろん好ましい歓迎すべき変化であった。いくぶんきつくなりがちであった音がしなやかになった。
 そういうことがあるのはわかっていても、しかし、より直接的に音が変わる、例えばカートリッジとか、あるいはスピーカーなどに対する意識の仕方と、アームやフォノモーターに対する意識の仕方とが全く同じとはいいがたい。その面でラスクは当然カートリッジやスピーカーよりアームやフォノモーターに近い。
 しかもラスクはオーディオの世界への新参者である。うさんくさげに思われるのはやむを得ないことと言うべきである。オーディオ雑誌の広告ページでのみラスクを知っていたときには、なんだこれはといった感じで、とてもそこでうたわれている効用を信じるわけにはいかなかった。
 一聴は百読にしかずとでも言うべきか。試みに自分の部屋で使ってみて、びっくり仰天した。それまで胸の中でもやもやしていた疑いの気持ちは、実際に聴いてみて、一掃された。カートリッジを替えたとき、あるいはスピーカーを替えたときとは明らかに違う、しかし基本的な違いが、ラスクを使う以前と以後とではあった。
 ただ、ラスクをスピーカー内部に挿入する使い方については、友人たちの言葉を信じればなかなか効果的ということであるが、自分では実際に行ったことがないのでなんともいえない。それに念のために書き添えておきたいが、ラスクの効果は部屋の条件などによって大変に違うようである。非常に効果的な場合もあり、そうでもないこともあるようである。使ってみようとお考えになったとしても、いきなり買ってしまうのは危険かもしれない。できることなら実験的に試用した後に購入するかどうかを決められることをおすすめしたい。
 今は、P3の下にプレイヤーのインシュレーターとして使い、 JBLの4343の下にスピーカーのインシュレーターとして使い、さらにふたつのスピーカーの周辺でパーティションとして使っている。なお、partition とは、ついたて、仕切り、障害をいう言葉である。
 インシュレーターとして使うのと、パーティションとして使うのでは、その効果が必ずしも同じではないように思う。自分の体験をもとにいえば(こういうことはできるだけ正直に書こうとしたら自分の体験をもとにいうよりない)、まずインシュレーターとして使い、ついでパーティションとして使った。
 最初にプレイヤー用インシュレーターとしてのラスクをP3の下に置いた。それまで気づかずにいたノイズが消えたような感じになった。音がすっきりきれいになった。このラスクの効用については、一度FMfanの一九八一年第十六号に書いたことがあるが、そのときには「それまで汗で黄ばんでいたのを知らずに着ていた白い地のワイシャツを漂白剤を溶かした水につけたようなものとでも言うべきであろうか」といったような言い方であった。
 プレイヤー用のインシュレーターにしろ、スピーカー用のインシュレーターにしろ、ともかくインシュレーターとして使ったときには、音の漂白作用としての効果が絶大である。同じレコードをかけて、ラスクのインシュレーターを使う前と後とでは、音の静けさという点で誰の耳にもわかる違いがある。さっきまで聴いていたレコードを、ラスクのインシュレーターを置いてから聴き直すと、これがあのレコードかと思えるほどである。
 そのことを確認した後に、パーティションとして使った。このパーティションとして使った効果については、FMfan一九八一年第十六号でこう書いた。「ひびきは、横にも、奥にも、ごく自然に広がった。定位の良さには、目を見張らないではいられなかった。もっとも、そういうきこえ方には、覚えがあった。そのときのきこえ方は、良賓な同軸型スピーカーの聴かせる音場感と、どこか似ていた」
 ラスクをパーティションとして使い始めてから、おかしなことがあった。オーディオに全く不案内な友人にレコードを聴かせたときのことである。彼は目を丸くして、その中央のスピーカーが一番いいと言った。彼のいう中央のスピーカーとはふたつのスピーカーの真ん中におかれたラスクのパーティションのことであった。
 ユニチカで出している「ラスク読本」というパンフレットには、「『ラスク』パーティションは、使い方も至って簡単。必要な場所、設置に最適な場所を選んで立てるだけでOKです」とある。この言い方は必ずしも正しくない。なぜなら、「使い方」が「至って簡単」とは言いがたいからである。「設置に最適な場所」を探すのがなかなか難しい。
 スピーカーの両横のパーティションの角度によって、音のきこえ方は微妙に変わる。また、スピーカー前面と一列に並ぶように置いた中央のパーティションも前後の位置の決め方が難しい。つまりラスクのパーティションは、使い手に、いささかの使う上での努力を求めるということである。
 しかしながらラスクのインシュレーターもパーティションも、少なくともぼくにとっては、ラスクならではの効果で、なくてはならないものになっている。ラスクを使わないコンポーネントなんて──と、コマーシャルの真似のようなことを言ってみたくなったりする。

フォステクス GZ2000, FW800

フォステクスのスピーカーシステムGZ2000、ウーファーFW800の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

Fostex

ソニー PS-X9

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムはいうならば、EMTのプロフェッショナルのプレイヤーシステムのコンセプトを受け継いだもの、といっていいように思う。それはどういうことかというと、まず第一にイコライザーアンプを内蔵している。全体にかなり剛性の高いしっかりした構造でまとめ上げていて、実際に放送局などで使うための便利さというものも十分に考えられている。起動トルクが大変大きくてすぐ立ち上がる。それから実際にターンテーブル周囲にはマーキングがあって頭出しがきちんとできるなど、細かい配慮も行われている。そういう意味でEMT930、927を範として開発されたプレイヤーシステムと考えてもいいと思う。見るからにしっかりした出来で、精度も高いし、いかにも業務用機器のイメージがあって、いわゆるウオームなファニチャーライクな仕上げではないけれども、これはそれなりの次元に達したプレイヤーだ。
 これは本来は、おそらくXL55プロのカートリッジが付いてくるものだと思うが、今回はそれが付いてこなかったので、ほかのものと共通のオルトフォンMC20MKIIを使ってイコライザーをジャンプして聴いた。
音質 実際の音だが、一番の問題点はやや響きが押えられすぎるという感じがすること。特に低音にそれがあり、全体にプログラムソースそのものに入っている音の伸びやかさみたいなものまでが吸収されるという感じがする。楽器そのものというのは大体ブーミングを利用して出来上がっているもので、当然再生系においてブーミングが加わるということはよくないことだけれども、その再生系においてあまりブーミングが加わらないように一生懸命固めていくと、どういうわけだか楽器そのもののプログラムソースに入っているブーミーな音色感をも硬くしていってしまう。そういう問題があるように思う。このプレイヤーにはそれが出ているように思う。従って、生きたナマの楽器の質感が出てこないということ。非常に端正に全部ガチッとした音像でまとまってはいるが、楽器そのものの生き生きとした性格がどこかへ押し込められてしまう。抑制される、そういう傾向を持っている。ベースなどは詰まり気味で、はじいた余韻が十分伸び切らない、減衰が早いという感じがする。それからピアノも中低域のフワッとした肉付きと雰囲気というものが出なくて、何か押し込められて、立ち上がりだけが鋭くパチッと立ち上がってくるということで、やや即物的なものになってしまう。俗に言えば、少し鋭いというか、つまり豊潤な響きのニュアンスというのがよく出てこない。言い方を変えれば、少々節制がききすぎてる。しかし、聴いてみると、どれもきちんと出てくるものだから、頭の中での自分のイメージのレファレンスを変えると、これはなかなかしっかりしたいいプレイヤーだともいえる。ところが自分の感受性で音楽として受け取った場合には不満が出てくる。いうならば優等生的な音といっていいかもしれない。そういうところがこのプレイヤーの良さでもあるし、悪さでもある。楽しい音は聴けないが、正確な音は聴けそうだというところか。

フィデリティ・リサーチ FR-7, FR-7f, XF-1

フィデリティ・リサーチのカートリッジFR7、FR7f、昇圧トランスXF1の広告
(別冊FM fan 30号掲載)

XF1

ダイヤトーン DS-37B

ダイヤトーンのスピーカーシステムDS37Bの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

DS37B

ノリタケ NC-02, Ceramic Base

ノリタケのスタビライザーNC02、スピーカースタンドCeramic Baseの広告
(別冊FM fan 30号掲載)

NC02