ラックス PD555

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 これはターンテーブルシステムであって、アームはついていない。アームレスの他の機種と同じく、アームはクラフトのAC3000MC、カートリッジはオルトフォンMC20MKIIで試聴した。このターンテーブルシステムは非常に凝っていて、一番の特徴はバキュームによって完全にレコードをターンテーブルのゴムシート面に吸着させてしまうことだ。ゴムシートを介してターンテーブルとレコードが一体化してしまうというほど強力に吸引してしまう。これによってレコードそのものの不安定な、複雑な振動を完全にダンプしようというもの。形も非常にユニークで、かなり横長なもの。アームを二本取り付けて聴けるという利点がある。思い切った設計のターンテーブルシステムということがいえる。ハード的な雰囲気とソフト的な雰囲気を巧みに取り入れ、ハードにも片寄らず、ソフトにも片寄らない仕上げとなっているが、それが逆に何となく中途半端なイメージを作り出しているということにもつながるのではないかと思う。
 バキュームポンプが付属しており、リモートでもってスイッチを押してスタートすると、これがパチッと吸着される。しかも気圧計まで付いている。吸着するという効果は大変大きいと思う。その効果の程度が果たして、音という感覚評価の対象としてどうなってくるかというところは微妙な問題だ。ビクターのTT801システムが比較的軽く吸引しているのに対して、こちらは本当に、完全に吸着しているというところに大きな違いがある。従って、バキュームポンプを使って吸引、吸着システムを採用しているものとしては、こちらは徹底的。ビクターはそのへんをうまくコントロールしているということになる。徹底している方からすれば向こうは中途半端だということになるし、向こうからすれば、徹底させるといろいろな問題が出てくる、ということで判断は非常に難しい。
音質 音は総合的にいって、なかなか品位の高いいい音だ。打楽器を聴いても、ベースのピッチカートを聴いても、大変に締まっていて、かつ響きが殺されていない。これは吸着するターンテーブルの質、あるいはターンテーブルベースの構造によるものだと思う。だからこの部分がうまくいっていないと、音が死んでしまったり、音が吸着しすぎてダンプしすぎてしまう、というような音になるだろうと思うが、ここまで強力に吸着して、しかもそんなに響きが失われないということはターンテーブル並びにターンテーブルベースの振動モードが好ましい状態にあるということだと思う。輝やかしい音色でありながら硬くならず、そしてよくダンプされながら急激に減衰するというようなこともなく、楽器の楽器らしい音のはずみがよく出ている。エネルギーの帯域バランスもよくとれていて、ステレオフォニックな音場の再現感もなかなかナチュラルだ。よく音が前に出てくるし、左右の広がりも非常に豊かだ。個々の音についてはどこといって欠陥は出ていない。注文をつけるとするならば、オーケストラの低音楽器群での豊かさが少し物足りないのと弦楽器の高い方の部分がやや華やぐ傾向にあるということだ。しかし、楽器の音色の鳴らし分けその他は非常にいい線いっており、音質的にはこのプレイヤーはかなりのものだ。

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