EMT 927Dst

菅野沖彦

別冊FM fan 30号(1981年6月発行)
「最新プレイヤー41機種フルテスト」より

概要 このプレイヤーシステムは非常に特殊なもので、決して家庭用のプレイヤーではない。プロ用としても超ド級であって、何しろターンテーブルの大きさが16インチ径もある。これはカッティングしたラッカーマスターを検聴する目的で開発されたという。この下の930が放送局用のプレイヤーとして使われているが、ターンテーブルはもっと小さい。カッティングの検聴用ということだが残念なことに、私はこういうプレイヤーを実際にカッティングルームで使っている例をまだ知らない。カッティングルームの場合には、カッターマシンをターンテーブルに置いたままで聴けるようになっているので、このプレイヤーシステムの本当の使い方がどこにあるのか、私自身はっきり知らない。おそらくEMTとしてディスク再生機のあるべき姿を追求すればこうなった、というふうに解釈するのが本当ではないかと思う。
 もちろんこれはEMTのトーンアームとカートリッジを使うものであって、ユニバーサルタイプではない。TSD15を標準として使う。そしてイコライザーを内蔵していて、ライン出力を取り出すという方法をとっている。付属機構がいろいろ付いていて、針先のポジションがはっきりスケールで見られるようになっていて、レコードをかけるには確かに完璧を期したプレイヤーだ。
音質 駆動方式は今回の中では唯一のリム方式である。音質はもうケタ違いといっていい。今回聴いた最高級プレイヤーの中でも、これは一次元を画したたくましい音だ。はじけるようなベース、うなるようなバスドラム、パーカッションの立ち上がりの機敏な音、目も覚めんばかりだった。ピアノのスケールが一段と大きくなって、今までのものと違ってしまった、というふうに楽器のスケール感が変わって聴こえる。そして全帯域にわたって、実に朗々と響いている。同じレコードがこういう音になるとは信じがたい。
 とにかくこの重量のかかった音──音の目方という表現が許されるならば──これは全く今までとはケタ違いの目方がかかった音だ。そして音のパワーというものがものすごい。実際これはどういうことだろうか。レコード自体がこれだけ猛々しく鳴るべきものなのか、このプレイヤーがこういう音を出しているものなのか判断に苦しむ。とにかく次元を異にした猛烈な力強い音だ。もちろん帯域バランスとかはよくとれているし、クセがどこへ出るというものでもない。本当に最低域から最高域までを、ものすごい充実感と確実性と重量感を持って、スケールの大きな圧倒的な音を聴かせてくれる。
 まさにプレイヤーシステムによる音の違いとして、本当にひしひしと感じさせられた。948と同じTSD15を使ってテストしたが、カートリッジが同じであるにもかかわらず、同じEMTの中でもスケールがガーンと大きくなった。ましてやほかのプレイヤーシステムと比較してみた時には、相当違う音になる。こういう音を一度聴かされると、確かにほかのプレイヤーの音はどこかひ弱だ。しかしいい音には違いないが、レコードそのものがこういう音なのかどうか、疑いを持つほどに堂々たる音だ。もう圧倒されて、これは別格だという表現を使わざるをえないプレイヤーだった。

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