Daily Archives: 1978年12月5日

フォステクス FT50D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 フォステクスのドーム型トゥイーターのなかでトップランクに位置づけされる製品である。振動板には口径20mmの深絞り成型をしたグラスファイバーと熱硬化性樹脂5層構造のドームに、軽合金タンジェンシャルエッジを組み合わせ、1・5kHz以上で使える広帯域型としている。磁気回路はアルニコ系の鋳造マグネットを採用し、出力音圧レベル93dBを得ているため、組み合わせるユニットは、16〜20cmのフルレンジユニットや、30cmクラスのウーファーまで選択可能だ。

フォステクス FT30D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 布をベースとし、これに特殊な制動材を塗布した振動板を採用したソフトドーム型のトゥイーターである。振動板口径は25mmと、ほぼ標準的な寸法をもっているために、再生周波数帯域、出力音圧レベル、許容入力などの特性面で優れた結果を得やすい特長がある。振動板の裏面にはミクロングラスファイバーなどを使った制動材が採用され、振動板の共振をダンプしている。また、磁気回路にもFT10Dとの価格差から考えられる以上の大型磁石を使い出力音圧レベル90dBを得ている。

テクニクス EAS-10TH1000

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 リボン型トゥイーターの変形と考えてよいユニットである。振動板は高耐熱性のポリイミドフィルム面にアルミを蒸着し、エッチングをしたボイスコイルを採用し、音響的には振動板中央に突出したヒレ状のイコライザーで左右二分割されている。磁気回路は1・3kgの鋳造磁石を使った独特なプッシュプル型でイコライザー部分をN極とすれば、振動板両側がS極となっている。ボイスコイルが蒸着型で8Ωのインピーダンスとしているためマッチングトランスは不用である。

フォステクス FT10D

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ローコストのトゥイーターユニットとしては珍しい、10kHz以上の周波数特性や指向周波数特性の向上を目的として開発されたドーム型の製品である。一般に振動板は直径が小さいほど、高い周波数帯で諸特性の向上をはかれる利点があるが、逆に、クロスオーバー周波数の制約や許容入力が大きくとれない問題がある。FT10Dは直径1・6cmの振動板を使ったドーム型で、3kHz以上で使用できるため、10cm口径程度の小口径ウーファーと2ウェイ構成で使用するのが相応しい。

試聴テストを終えて

瀬川冬樹

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 55機種のトゥイーターのそれぞれに、最適のクロスオーバーポイントを選び最適のレベルセットのポジションを、それも短時間のうちに探し出す、そのオペレーターの役割を私が担当したが、これはまったく気骨の折れる仕事だった……。
 どのトゥイーターの説明書にも、一応は周波数レンジと推奨クロスオーバー周波数が書いてある。また、出力音圧レベルも海外製品の一部を除いてほとんどが新JISの表示に統一されているから、それを参考にしてレベルセットなど容易にできる……と思えそうだが、実際に鳴らしてみるとこれが意外に計算どおりにいかない。
 たとえば、クロスオーバー周波数が2ないし3kHzあたりに指定されているのは、トゥイーターとしては割合に低い周波数までカバーできる製品のはずだ。しかし実際にそのクロスオーバー周波数にセッティングして、うまくいく例は少ない。
 うまくいかないというのは二通りのケースがある。第一は、指定のクロスオーバーでは低域の許容入力に無理が生じて、やかましい、または圧迫感のある音になりがちのトゥイーター。第二は、たとえば2kHzといえばまだ一部の楽器の基音(ファンダメンタル)領域をカバーしているのだから、かなり力強い音も再生しなくてはならないはずなのに、そのあたりの出力エネルギーが十分でないせいかクロスオーバーをもっと高くとったときと比べて、そんなにエネルギーの増えた感じの得られない製品。
 もう一つのレベルセットに関していえば、概して良いトゥイーターは、音のクセ(カラーレイション=色づけ)が少ないために最適範囲が割合広く、レベルセットにそれほど神経質にならないで済む。ところが、質のよくない製品、またはタフさに欠ける製品ほど最適レベルの範囲が狭く、ちょっとレベルを上げれば音が出しゃばるし、少し絞れば引っ込んでしまう。良いトゥイーターにはそういう現象が少なく、やや上げすぎてもやかましくはならないし、絞りかげんでも音の芯を失うことがない。
 ……というように、オペレーターをやってみると、クロスオーバーやレベルを調整してゆく過程ですでにそのトゥイーターの性格が大まかに掴めてしまうという点はありがたかった。素直でクセが少なく高域が十分に伸びて透明な音。トランジェント(過渡特性)がよくその結果スクラッチノイズやヒス成分が耳ざわりでなく軽い感じで、楽音とはっきり分離して聴こえる。大きな入力や低域の少々無理な入力にもよく耐える。しかも受持帯域のすべてにわたって十分に緻密でエネルギーもある。というのが、結局のところ良いトゥイーターということになり、そういうトゥイーターは、また結局のところ使いやすい組合せもしやすいという理屈になる。
全体を通じて感じたこと
 いま2から3kHzと書いたのは一つの例だが、試聴した全機種を通じてみると、これは厳密な計算の結果ではなくごくおおまかな見当だが、5ないし6kHzあたりから上を受け持つというのが平均的な製品だと思う。ピアノの高音のキイの基音が約4・2kHzだから、5kHz以上というのはほとんど楽器の倍音の領域だ。そういう高音域だけを次々とつけかえて聴くわけだから、完成したスピーカーシステムのように全音域を交換するのにくらべたら、音の差はよほど少ないと思われるかもしれないが、事実は全くそうではない。倍音の領域の音色が変われば、当然のことにそれは基音を含めた全体の音色を大きく変える。昔からスピーカーユニットを組み合わせて苦労してきたユーザーならとうに経験したことだろうが、トゥイーターを交換することによってウーファーの音色まで変る。そして、これは驚くべきことなのか当然の結果というべきなのか、とにかく55機種のトゥイーターを次々と交換して音を聴き比べて、二つとして同じ音色では鳴らない。だが、同じメーカーのトゥイーターは、価格や構造が違っても大づかみには似た傾向の音色で鳴ることが多いし、もっと大づかみには、生まれた国の違いによってそれぞれに鳴り方の傾向が違う。
 そのことから、たとえトゥイーターといえども、常々他のオーディオ機器やさらには音楽について言われていると同様に、メーカーにより国により、音のとらえ方や音の作り方への姿勢の違いが、明確に反映されることがわかる。
 簡単にいってしまえば、トゥイーターの音色は「高音」という概念をどうとらえるか、によって決まるといえそうだ。たとえば繊細、たとえばキメの細かさ、音の切れ込み、たとえば音の輝き──。
「高音」というイメージをどうとらえるかという姿勢は、ひいてはトゥイーターの受持帯域や耐入力パワーやエネルギーバランスや指向性や……などの構造にも大きく影響を及ぼす。比較的低い高音域のエネルギーしっかりと支える作り方。反対に、いわゆる超高音域をどこまで細やかに伸ばすかという作り方──。
 そこで、メーカーの求めている方向を感じとり、自分の望む音に合致する製品を選び出すことが、トゥイーター選びの成否の鍵になる。
印象に残った、または使ってみたいトゥイーター
 かつて、テクニクス5HH17(いまの17Gではない)というローコスト・トゥイーターの名作があった。あれから十年余を経た今日なら、ローコストのグループの中にもう少し優秀なトゥイーターが出現してもよさそうなものだと思っていたが、結果的には五千円以下のグループの中には印象を深く残した製品は一つもなかった。もう少し拡大していえば、一万円以下の国内製品の中には、これならと思える製品が残念ながら見あたらなかった。このあたりの価格帯では、イソフォンのKK/10、KEFののT27、それに、フィリップスのAD0161/T8という、それぞれに構造も価格もよく似た(6千円〜6千五百円)三つのヨーロッパ製のトゥイーターが、それぞれの性格を持ちながらとてもよくできていると思った。
 一万円以上、二万円までの間では、これも新製品ではないのがやや意外だったが、ヤマハのリング・ホーン型JA0506が素直で音でびっくりした。国産のホーン型トゥイーターの中には非常によい製品が少ないながら見つかったが、ヤマハを除くとほかには、たとえばコーラルのH100、フォステクスのT725、あるいはマクソニックやYLのなどのようにもっと高価なグループに入ってしまう。そのことから逆にヤマハが価格対性能で抜きに出ていることが印象的だった。
 高価なグループの中でホーンタイプ以外では、パイオニアのPT−R7、テクニクスのリーフ型EAS10TH1000がそれぞれに惚れ込んだ製品で、どちらも一度じっくり使いこなしてみたいと思った。
 海外製品では、先ほどのヨーロッパ三社のドーム型を除けば、これはと思ったのはJBLの♯2405(077を含めて)と、もう一つおそろしく高価な点がやや納得がいかないがピラミッドのT1の二つだった。♯2405は、スーパートゥイーター的な作り方にもかかわらず、クロスオーバーポイント以下のエネルギーのしっかり出てくる点が見事だったし、ピラミッドはおよそいままで聴いたことのない滑らかな音で、これに関しては機会があればもっといろいろな条件で組合せを試してみたいと思った。
 ただ、今回のようにLE8Tの上にだけトゥイーターをのせてのテストでは不十分ではないかとの最初の不安は、テストを進める間に解消してしまった。最近のLE8Tの高域は非常に素直なので、それぞれのトゥイーターの性格を掴むにはこの方法で十分だったと思う。

テクニクス EAS-10KH501

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ダイアフラムは、チタンの両面にボロンを生成させた新材料を使用したユニークなドーム型ユニットで、10KH50の高級モデルである。ダイアフラムと一体成形したエッジは、新形状ローンビック型で、ボイスコイルはアルミボビンと耐熱処理をした銅クラッドアルミ線で、最大許容入力は1・5kHz、18dB/octのネットワーク使用時に100Wと発表されている。磁気回路の総磁束は10KH50と同じ値だが、磁束密度では18、000ガウスと一段と強力になっている。

エレクトロボイス T350

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 T35のデラックスモデルである。ホーンはT35よりひとまわり大型化されたエレクトロボイス独自のディフラクション型である。また、イコライザーにユニークな構造のソノフェイズ型を採用しスムーズな高域特性を得ているのも同社のトゥイーターの特長である。ダイアフラムはフェノリックダイアフラムで、ボイスコイルはボビンを使わず直接ダイアフラムにエポキシ系接着剤で固定してある。磁気回路の磁石は重量453gのアルニコV型で、T35より3dB高能率である。

テクニクス EAS-10KH50

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ダイアフラムにチタン箔を採用したドーム型トゥイーターで再生周波数帯域の下限が700Hzと発表されているように、かなりワイドレンジ型であるのが特長である。ダイアフラムのエッジはロールエッジで、ボイスコイルボビンはアルミ、コイルは耐熱処理のアルミ線を使用している。磁気回路は大形鋳造マグネット使用の内磁型で磁束密度は16、700ガウスと強く、出力音圧レベルも95dBと高い。30cm口径までの専用ウーファーと2ウェイ構成にできるのがユニットの魅力。

フォステクス FT500

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 フォステクス製品中でただ一機種のコーン型トゥイーターである。口径4・5cmのコーンには、超高弾性無機質繊維シリコンカーバイトを配合したコーン紙とドーム型センターキャップを組み合わせた構造を採用し、低いクロスオーバー周波数で使える広帯域のトゥイーターだ。磁気回路はフェライトマグネット使用で、マグネット重量は70g、出力音圧レベル90dBを得ているため、小口径ウーファーとの2ウェイ構成やフルレンジ型ユニットの高域用に手軽に使える製品である。

エレクトロボイス T35

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 トゥイーターユニットとしてはロングセラーを誇り、JBLの製品とともに米国を代表する専用トゥイーターユニットである。エレクトロボイスのドライバーユニットの特長は、ダイアフラム材料に軽合金を採用せず、ベークライト状の薄いフェノリックダイアフラムを使っていることで、これは、音色面でもかなりの違いとして感じられる。クロスオーバー周波数は3・5kHz以上で使えるのも特長で、フルレンジユニットとの2ウェイ、マルチシステムの高音用と幅広く使える。

フォステクス FT40H

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 フォステクスのホーン型トゥイーターのなかでFT20Hとシリーズ製品となるユニットである。開口部の直径60mmの軽合金ダイキャストホーンはいわゆるボストウィック型の構造をもつ砲弾型のイコライザー付で、カットオフ周波数1・8kHz、苦降ろすオーバー周波数4kHz以上で使用する。ダイアフラムは金属蒸着フィルム型で、アルニコ系鋳造マグネット使用の磁気回路で98dBの高出力音圧レベルを得ている。20cmクラスのフルレンジユニットやウーファーと2ウェイで使いたい。

試聴テストを終えて

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 これまでにもステレオサウンド誌では、各種のオーディオコンポーネントの試聴をおこなってきたが、今回のようにトゥイーターユニット単体を対象として、数多くの機種を同一条件で試聴するということは創刊号以来、はじめての試みである。かつて、本誌6号でもマルチウェイ構成用のウーファー、スコーカー、トゥイーターなどを使って、実際に2ウェイ構成、3ウェイ構成といったスピーカーシステムを作って試聴したことはあったが、基本として同一メーカーのユニットを使うこととしたために、簡単に取替えられるトゥイーターも他社間の比較はしていない。
 本誌6号以来すでに十年をこす年月が経過しているが、当時の製品のうちでいくらかのものは、今日もなお現役製品として残っている。あらためていうまでもないが、スピーカーユニット前半にわたり、トランスデューサーというメカニズムをもつものであるだけに、その基本型となるものは1924年に米国のライスとケロッグが発明したダイナミック型である。材料面を中心とした改革はあっても、その基本を覆すほどの斬新な変換方法はいまだにあらわれず、依然としてムーングコイル型、つまりダイナミック型が、すべてのスピーカーユニットの主流の座にある。トゥイーターユニットでも、これは変わらない。
 たとえば、海外製品のうちで、今回の試聴に集められたアルテックの3000H、エレクトロボイスT35、T350、JBL・LE20、075などは、本誌6号時点でも、それぞれのメーカーを代表するトゥイーターであった。国内製品では、海外製品にくらべ、トゥイーターとしての平均的なクォリティもさして高くなく、製品の入れ替わりがあらゆるジャンルで難しいこともあって、海外製品に匹敵するロングセラーを誇るユニットはコーラルH1のみであり、これに準じた製品としては型番は変わっているが基本型が同じであるものに、YLの製品をあげることができる。
 いずれにせよ、新技術、新素材をベースとした技術革新のテンポが年ごとに早まり、現在もっともそれが激しいカセットデッキともなると、今年春に発表された製品が廃番になったり、そうでなくても代替機種が発表され、事実上の商品としての価値が失われたりしている状況と比較すれば、海外製品を中心としたスピーカーユニット全般にわたる製品寿命の長さは、いわば驚異的といってよいほどのものがある。
 トゥイーターユニットに限定して考えれば、現在の主流は、ブックシェルフ型スピーカーシステムが台頭して以来、完全にメーカーでアッセンブルしたスピーカーシステムである。かつてのようにスピーカーといえば、それは単体のスピーカーユニットの意味で、これを選択し、組み合わせ、エンクロージュアやネットワークを作って自分でシステムとして完成させるのが一般的であった時代が、大勢としては過去のものとなったことが大きな要因であると思われる。
 ユニットを選択し,組み合わせる、いわば自作型のスピーカーシステムづくりは、自らの求める音をつくりだすためにはもっとも相応しい方法で、現在でも市販のスピーカーシステムの限界をこえた性能、音を求める超高級ファンは、ただ一筋にスピーカーシステムのユニットの多角的な要求にもとづいた向上に努力している。しかし、市販のスピーカーシステムでは望みえない音を自らの手でつくり出そうとすることは、当然メーカー以上の予算、時間をかけ、その上で基礎となる技術、経験、間隔が要求されるため、ほとんど現実には不可能に近いといってもよいであろう。
 これに比較してメーカーでシステム化されたスピーカーシステムは、幅広い需要に対応する各種のコンセプトにより、数多くの製品が開発され販売される。つまり、量産効果を最大限に活用したメリットである価格帯性能・音質の比率が高い特長があり、この10年間急激に成長したオーディオの需要を満たすことができたが、反面においては、さして量産効果が活かされず、性能を向上させると飛躍的に価格が上昇する結果となり、単体ユニットの開発が限られることにもなる。
 国内製品のトゥイーターは、現在、予想以上に数多くの製品が存在している。これは、いきおい類型的にならざるをえない各メーカーのスピーカーシステムにあきたらずオーディオの原点に立ち返って、自らのためのオリジナルなスピーカーシステムをつくる、または、極めて単純に自分でスピーカーシステムをつくることに喜びを感じるファンが数を増し、その要求に答えるために開発された製品がほとんどといってよい。一部には、本質的な新技術や新素材の特長を活かし、従来では望みえなかった高度な性能・音質をもつ、いかにも現代のトゥイーターらしい製品があり、自らのスピーカーシステムをつくる場合に相応しいユニットというよりは、完成されたスピーカーシステムに追加して、システムそのものの性能・音質を改善する使用法を、これらの製品で試みることができる。この既製スピーカーシステムにトゥイーターを選択して、ある周波数以上を受け持つトゥイーター、もしくはスーパートゥイーターとして使う単体トゥイーターユニットの利用方法は、名器とうたわれる定評が高いスピーカーシステムから、現在のトップランクに位置づけされる最新のスピーカーシステム全般にわたって、ぜひとも一度は試みていただきたいものである。ある程度のオーディオやスピーカーの知識さえあれば、誰でも容易に着手できることであり、万一予想に反する結果を招いたとしても、スピーカーシステム本来の性能・音質に簡単に復元できる、いわば一種のギャランティが充分にあることも一つの大きなメリットだ。
 今回のトゥイーター試聴は、現在のトゥイーターの概要とその個々の性格を把握することを最大の目的としたことに注意していただきたい。このため、平均的で、しかも信頼のできる水準の性能・音質を備えたフルレンジ型ユニットJBL・LE8TをサンスイのEC20に組み込んだシステムをベーシックスピーカーとし、これにクロスオーバー周波数の選択が容易なエレクトロニック・クロスオーバーを使う、いわゆるマルチチャンネルアンプ方式でトゥイーターをクロスオーバーさせる、2ウェイを試聴の基本としている。
 各トゥイーターは、この条件のもとで使用され、クロスオーバー周波数の選択、レベルセット、それからLE8Tを含めた2ウェイシステムとしての音の試聴をおこなっている。当然のことながら、この場合ウーファーとして使ったLE8Tとトゥイーターとの相互関係、つまり性能、音質、音色、クォリティ、トゥイーター側の制約となるクロスオーバー周波数の選択の幅の広さなどで、本質的な各トゥイーターの音質やキャラクターを追求した結果とはなっていない。これは、55機種という数多くのトゥイーターを、同一条件で使うという原則からみれば仕方のないことで、たとえば、特定の、現在自分で使っているスピーカーシステムに、スーパートゥイーターとして追加する使用法を考えれば、今回の結果以上に充分に使えるトゥイーターが55機種のなかに存在するはずである。なぜならば、一般的にトゥイーターは高音専用ユニットであるだけに、クロスオーバー周波数を7〜8kHz以上にとり、受持帯域を狭くすれば、再生可能周波数下限まで使ったときにくらべて、予想以上に見事な音を聴かせてくれるものだからである。極端な例としては、標準的なクロスオーバー周波数で使った場合には、あまり高域のレスポンスが伸びていなかったユニットが、クロスオーバー周波数を7〜8kHz以上に上げて使うと、ナチュラルなプレゼンスが感じられるスーパートゥイーターになったという実例も数多くある。アルテックの3000H、JBL075などは、落してのあらわれかたの違いはあっても、トゥイーター、スーパートゥイーターと二通りの使い方ができる例である。もっとも、ローコストのトゥイーターのなかにも、スーパートゥイーター的に使ったほうが魅力が引き出せる製品が意外にあるはずである。かつてのテクニクス5HH17は、この好例といってもよいものである。
 試聴にあたっては、EC20のエンクロージュアの上にトゥイーターを置いておこなったが、トゥイーターもスピーカーユニットであるために、特別な例を除いて、いわゆるバッフル効果があり、30cm角程度のバッフルに取付けるとかなり結果としての音に違いがあらわれる。しかし、ドーム型は、バッフル面の仕上げや取付け方法が難しい、ホーン型は、予想よりもクロスオーバー周波数は高いほうがよい、また、ネットワークは6dB型がよいといった通説は、実際に数多くの経験をこなした上で実感として味わうものだと思う。

フォステクス FT1RP

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 フォステクスのRPシリーズのトゥイーターは、平面型の振動板を採用した大変ユニークな製品である。RPとはレギュラー・フェーズの略で、振動板の全面が同じ位相で動く、全面駆動方式をあらわしている。このタイプは、振動板が軽量なため超高域特性、過渡特性、指向周波数特性が優れることをはじめ、許容入力が大きくとれるなど多くの利点をもっている。FT1RPは、この方式を採用したユニット形式の製品で、能率面から20cm口径程度までのウーファーと組み合わせたい。

リチャードアレン DT20

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 直径20mmの薄いマイラーダイアフラムを使ったドーム型トゥイーターである。ユニット本体は磁気回路を含めて合成樹脂系のハウジング内部に収めてあり、ヨーロッパ系のユニットとしては美しく仕上げられた製品だ。ダイアフラムは取付フランジの厚み分だけ奥に取り付けてあり、周囲はテーパー状にカットしてある。クロスオーバー周波数は3・5kHz以上だが、ネットワークは、遮断カーブが鋭い18dB型と24dB型が、7kHzクロスオーバー時にも推奨されているのが特長である。

KEF T27

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 外観はシンプルなドーム型トゥイーターであるが、他の同様なユニットとくらべてユニークな構造を採用した製品である。ダイアフラムはKEF独特な黒色のプラスティック製で、磁気回路の前側のプレートの直径が108mmと大きく、この部分に直接ダイアフラムが装着されている。つまり、結果としては取付用フランジが前側の磁気回路を兼ねている独特な構造で、ダイアフラムは平面に取り付けられた純粋のドーム型である。クロスオーバーネットワークは18dB型が推奨されている。

JBL 2405

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 外観上は、077と類似したプロフェッショナルシリーズのスーパートゥイーターである。075をベースとしてホーンのカットオフ周波数を高くし、指向特性面からホーンを矩形断面としている。開発時期は077より早く、077がこの2405のコンシュマー版である。矩形断面のホーン内壁が軽金属製となっている点が077と異なる。物理的な両者の差はわずかだと考えられるが、結果としての音は、077より一段と引き締ったシャープな音である。

パイオニア PT-100

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 半球面に10分割のマルチセルラホーンを組込んだ異色のデザインをもつホーン型トゥイーターである。発売時期からみれば、同様なマルチセルラホーンPH101とドライバーユニットPD100の高音用として開発された製品である。ダイアフラムは、アルミ軽合金箔を採用し、磁気回路は11、520ガウス、出力音圧レベルは100dBで、マルチセルラ型としては高い。ホーン開口部の上下の半円球は、ディフューザーとして働き、音の干渉や乱れを少なくする効果がある。

パイオニア PT-50

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 厚さ20ミクロンのチタン箔をダイアフラムとしたドーム型の製品である。ダイアフラムのエッジは発泡ポリウレタン製で、ボイスコイル直径は25mm、ボイスコイルのリード線はベリリウム銅線を使い、大振幅動作時にも充分に耐えられる設計である。磁気回路はアルニコ系磁石採用で、磁気回路内部には制動用フェルトが、ダイアフラムの内側にはミクロングラスウールが入っており、f0附近での歪の発生を抑え過渡特性が向上している。音のキャラクターからは2ウェイ構成で使いたい。

JBL LE20

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 米国では、ユニットとして単品販売されているトゥイーターそのものが極めて少ないが、なかでもコーン型トゥイーターで現在入手できるのは、このLE20のみといってよい。コーン紙中央の紙製キャップはかなり突出した独特の形状で、ボイスコイル径1・6cm、コイル用線材は銅線である。磁気回路は、アルニコ系磁石をいわゆる内磁型構造としたもので全重量は700g、磁束密度12、000ガウスだ。2・5kHz以上で使える輝かしい音色をもつ。

JBL 077

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 JBL初のスーパートゥイーターである2405プロフェッショナル用ユニットのコンシュマー版だ。基本形は075をベースとした磁気回路と振動系をもち、発表されているダイアフラム、マグネットアッセンブリー、磁束密度などは同じ値となっている。ホーン部分は、長方形断面で内側のイコライザーに相当する拡散エレメントが透明なアクリル製の点が視覚的にも、音色的にもこのユニットの特長。充分に高域が伸びたフルレンジ型やスコーカーと組み合わせたい製品だ。

JBL 075

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 EVのT350とともに米国を代表するホーン型トゥイーターだ。ダイアフラムは、軽金属性の薄いリングを断面がV字状になるように折曲げた直径79mmの独特な形状をもち、ボイスコイルはアルミ線エッジワイズ巻、径44mmである。ホーンの中央部にあるイコライザー状のものは、ホーン外壁とともにエクスポネンシャルホーンを形成するホーンの内壁であり、一般的なボストウィック型ホーントゥイーターのイコライザーとは異なる。充分なエネルギーが得られる点では抜群の製品。

イソフォン KK10

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 今回の試聴に参加した唯一の西独製品である。ダイアフラムは、乳白色をした口径25mmの合成樹脂系のフィルム製でエッジは凸字型、裏側にはダンピング材が入っている。磁気回路は直径70mmのフェライトマグネット使用だが、後側プレートは直径58mmとマグネット直径より小さく、前側プレートは逆に直径72mmと大きい、ユニークな構造が採用されているのが特長である。ボイスコイルインピーダンスは、KK10/4が4Ω、KK10/8が8Ωで3kHz以上の帯域で使用できる。

コーラル H-60

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 ダイアフラムにはプレス加工後に熱処理を施した18ミクロン厚のスーパージュラルミンを使い、ボイスコイルは高導電率アルミ線をエッジワイズ巻とした、本格的な設計のホーン型トゥイーターである。ホーンとイコライザーは仕上り精度が高い亜鉛ダイキャスト製で、精度が要求される部分は機械加工で仕上げてある。このH60は、音のキャラクターがスーパートゥイーター的であるため、クロスオーバー周波数は7〜8kHz以上で使うほうが好結果が得られるように思われる。

コーラル H-30

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 メタライズドフィルムの軽量なダイアフラムを採用したドーム型ユニットの前面に円型のショートホーンを組み合わせたようなシンプルな構造をもつホーン型トゥイーターである。ホーンは、合成樹脂系の成形品であり、磁気回路にはアルニコ系のマグネットが採用され、12、000ガウスの磁束密度を得ている。このH30は、中小口径のフルレンジユニットの高域補整用として、約8kHzあたりから6dB/octのネットワークで抑え気味に使うことがポイントのように思われる。

テクニクス EAS-5HH17G

井上卓也

HIGH-TECHNIC SERIES-3 世界のトゥイーター55機種の試聴とその選び方使い方(ステレオサウンド別冊・1978年冬発行)
「世界のトゥイーター総試聴《内外55機種をJBL・LE8Tとの2WAYで聴く》」より

 かつてのミニスピーカー全盛期に国内製品の名作といわれた、テクニクス1のトゥイーターに採用されたユニットが、5HH17である。アルテック3000Bと同じ構想で開発された小口径ドーム型ユニットの前面に小型のホーンを取り付けたこのユニットは価格からは想像を絶した音を聴かせてくれた。5HH17Gはこれの改良型で、ダイアフラムがメタライズドフィルムとなり、ホーンがひとまわり大きな軽合金ダイキャスト製で開口部にオーナメントが付き単売品らしくなった。