Monthly Archives: 9月 1976

ヤマハ CA-1000III

岩崎千明

音楽専科 10月号(1976年9月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 ヤマハのプリメインアンプCA1000が、マークIIIとなって2度目の改良を受けた。もっとも、この改良は、単に改良というだけでなくて、まったく新らしく設計をしなおしたと思われるくらいに変わってしまって、もはや、改良というよりも、新型の新製品といってよかろ
 CA1000IIIは、ヤマハの高級イメージにささえられたオーディオ製品の中核をなすプリメインアンプの中で、最高のランクに地位する機種だ。その品質に関しては、デビュー当時よりもっとも高いクウォリティと、品位のある外観と、さらに、質の高いサウンドとで日本の市場におけるこの価格帯の中でもっとも優れた存在であった。オーディオアンプとしてその完成度は世界の超一流品にも匹敵するといわれてきた。デビュー以来、すでに4年目になろうとした今日、そのすべての特徴は、今も少しも色あせることはない。しかし、オーディオ志向の需要者層が大きく変わった。10万を越えるというこうした高級アンプを買おうというと若がえって、20歳をはるかに切ってしまうほどだ。
 こうした使用者の変革に伴なう使い方、デザイン感覚、さらにはサウンドへの好み、といった大きな条件を踏まえて、ヤマハにとっての「不朽の名作」CA1000を再度改めたわけだ。マークIIへの変革は、内部の改良に伴なう性能向上だけであったが、今度はそうした意味でも新製品ともいえるほどの大向上ぶりである。
 まず、もっとも目立つのは、ふたつのレベルメーターで、これは、最近の高級アンプの新しい動向である。主に、録音マニア達の好みに対応したものと思える。レコーディング・アウト・セレクターというつまみが、新しく付けられて、いわゆるテープモニター・スイッチの大巾な拡大用途に対応している。このスイッチの2つのポジションは、1→2、2→1のテープコピーとなっている。インプットセレクターには、テープ1、テープ2の2つのポジションが独立して付いている。このように単にテープモニター・スイッチを付ける今までのアンプに対してこのアンプのテープ録音への配慮は、不慣れな、初心者にも使いわけが、容易になるように心を配ったものといえる。
 今までにない新しい「フォノ・セレクター」は、カートリッジの種類とか銘柄によって、もっとも理想的使用状態になるようカートリッジの負荷抵抗を選べるようになっている。さらに、特出すべき大きなボイントだが、MC型カートリッジのためのヘッドアンプも内蔵されており、トランスとか、アダプターアンプを加えることなく、そのままフォノ1につないで使用することができ得る。
 もともとこうしたMC型カートリッジ用のヘッドアンプは、ノイズの点でたいへん難かしくて、高価にならざるをえない。だから、プリメインアンプの中に収めるということは、技術的にも価格的にも、とても難かしいことなのである。CA1000の伝統的特徴であるAクラス切換によるパワーアンプのA級動作は、タイプIIIになって、さらにパワーアップされて、用途を拡げた。普通のブックシェルフでも、夜なら充分な音量で楽しむことも、やりやすくなった。
 さて、CA1000IIIは、この改良によって、音がいかに変わったかは、大いに気になるに違いない。ひと言でいうならば、格段に明るく、力強く、特に、ボーカルとソロとが非常にくっきりと、聴ける。

スタックス DA-80

岩崎千明

スイングジャーナル 10月号(1976年9月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 8月のまだ暑さの厳しい、ある日の昼下り、SJ試聴室にふと立寄った時、見なれぬブランドのパワー・アンプが眼に入った。〝Stax〟と小さく、しかし、鮮やかな文字がパイロット・ランプ以外に何もない、そのスッキリとしたパネルにあった。知る人ぞ知る個性派ナンバー・ワンのメーカー、スタックス・ブランドのアンプということで、大いにそそられ、聴きたくなったのも当然だろう。
 SJ試聴室の標準スピーカーJBLスタジオ・モニター4341が接続され、音溝に針を落してボリュームが上がると、響きが空間を満たした。その時のスリリングな興奮は、ちょっと口では言えないし、まして、こうして文字で表わすことなどできない。なんと言ったらよいのだろうか、まず4341が、JBLがこういう音で鳴ったことは今までに聴いたことがない。それは、やわらかな肌触わりの、しなやかな物腰の、品の良いサウンドであった。いわゆるJBLというイメージの、くっきりした鮮明度の高い強烈さといった、いままでの表現とまったく逆のものといえよう。だからといって、JBLらしさがなくなってしまった、というわけでは決してない。そうした、いかにもJBLサウンドという音が、さらにもっと昇華しつくされた時に達するに違いない、とでもいえるようなサウンドなのだ。まったく逆な方向からのアプローチであっても、それが極点に達すれば、反対側からの極点と一致するのではないだろうか。ちょっと地球の極点のように、南へ向っても北へ向っても、ひとまわりすれば極点で一致するのと同じ考え方で理解されようか。
 スタックスのアンプのサウンド・クォリティーを説明するのは、むづかしい。本当は今までになく素晴しい、といい切っても少しも誇張ではないが.それならば、どんなふうにいいのか。少なくとも、音溝のスクラッチ音が極端に静かになる。JBLのシステムで聴くと、レコードのスクラッチはきわめてはっきりと出てくるが、その同じスピーカーでありながら、スタックスのアンプでは、驚くほど耳障りにならなくなってしまう。さらに演奏者の音が、そのまわりの空間もろとも再現されるという感じで鳴ってくれる。ステージでの録音ならばそれは、良い音としての必要条件ともなるが、スタジオでのオンマイク録音においてでさえも、こうした演奏現場の音場空間がスピーカーを通して聴き手の前にリアルに表現される。優れた再生というものの重要なるファクターであるこうした音場再現性が、スタックスのこのパワーアンプDA80でははっきりと感じられる。もし聴きくらべることができる状態ならば、おそらくそうした事実は、誰もが非常にはっきりと感じとることができるのではないだろうか。それは、ちょっときざっぼい、言い方をすれば、再生音楽の限界の壁を越え得たといえる。または、生(なま)へ大きく一歩前進したともいえよう。
 さて、こうした、かってない未知の再生効果の衝撃的体験をしたときから、このアンプDA80は、私に新たなる可能性を提示し拡大してくれたのである。その製品の、オリジナリティーおよびクォリティーの高さは、スタックス・ブランドの最も誇りとするところであり、これはごく高いレベルのマニアの間でこそ常識となっているとはいうものの、「スタックス」というブランドは必らずしもよく知られているわけではない。だからSJ読者の中にも、このページの登場で初めて意識される方も多いことと思われる。スタックスは、国内オーディオ・メーカーの中でも、もっとも永いキャリアーと他に例のないユニークな技術とで知られる、今や世界にもまれになったコンデンサー・カートリッジとコンデンサー・スピーカーからそのスタートを切り、アーム、さらにヘッドフォン、そのためのアダプター・アンプと順次に作ってきて分野を序々に、しかし確実に拡げてきたのち、1年前に、パワー・アンプDA300を発表した。150/150ワットのA級アンプは、ごく一部のマニアの間で、話題になったが商品としては、高価格のため必らずしも大成功とまではいかなかったようだ。今回、このDA300を実用型として登場したのが、このDA80だ。しかし、DA80は、兄貴分たるDA300を、性能的にも再生品位の上でも一歩前進したといって差支えないようだ。AクラスDC構成アンプというその回路的な特長による技術的な優秀性だけが、決してそのすばらしさのすべてではないのだ。おそらくオーディオも商品としてもまた兄貴分DA300は、一歩を譲るに違いあるまい。