Monthly Archives: 8月 1976

アイワ AD-4200

岩崎千明

ジャズランド 9月号(1976年8月発行)

 AD4200の大きな特徴はまずその外観に求められる。スラントデッキと名付けられた20度の傾斜をもつユニークな操作パネルは、テープの走行状態やメーターの監視、そしてつまみの操作を大変容易にしている。
 カセット・デッキにおいては、いわゆるコンポ・スタイルの縦型操作のデッキがすっかり主流となった感があるが、カセット本来の目的や実際の使用状態を考えると平型デッキも捨て難く、また水平メカニズムの安定性を思えば、特に普及型においてこうした製品が開発されるのは十分納得できる。
 もちろん基本性能にも十分留意しており、ワウ・フラッター0・09%、SN比62dBという値は4万2800円という価格を考えれば、特筆に値するものといえよう。また、フェリクローム等の高性能テープに対応すべく、イコライザー、バイアスの独立3段切換が可能であり、いかなるテープに対してもその能力を最大限に発揮させることができる。
 その他の付属機能もローコストとは思えない充実ぶりで、ドルビー・システムの内蔵をはじめ、テープの頭出しの容易なクイックレビュー・キュー、テープが終了するとメカニズムが停止するオート・ストップ機構などは便利。またカセット・イジェクトのオイルダンプ・メカニズムのソフトなフィーリングも高級機の風格がある。
 さて、AD4200の再生音だが、普及型らしからぬ本格派で、デッキ側での音作りを排した姿勢が好ましい。歪も少なく、すっきりとした誇張感のない音はこのクラスでは貴重である。レンジはそう広い方ではないが、バランスがよくとれているので、全体によくまとまっている。
 最近発売されたパブロのカセット・シリーズを聴くと、アコースティックなパブロ・サウンドを伸び伸びと再現してくれた。
 諸特性もこのクラスでは抜群で、エアチェックなどには威力を発揮するだろう。
 カセットの性能向上の努力はカセットそのものの枠を突破し、遂にエルカセットの登場をみたが、カセットデッキ自身も高価格商品が続々と発表されている。このようなカセットの高級化志向の一方で、きわめて完成度の高い普及型商品が着実に企画されているのは大変歓迎すべきである。
 AD4200の魅力は、その高性能に比しての価格の要さに集約されるが、その性能はオーディオ機器としての十分な水準を維持している。

ヤマハ NS-500

岩崎千明

音楽専科 9月号(1976年8月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 ヤマハNS500は、ヤマハの数あるスピーカーの中で、最新の実力機種だ。ヤマハには、NS1000Mという世界に誇るスピーカーシステムがある。つい先頃、ヨーロッパの中でも特に音にうるさいスウェーデンにおいて国営放送が、このヤマハのNS1000Mをモニタースピーカーに選んだという。総数1000本も使われるというこの大事な役割も、品質のそろっている事が前提でなければならない。ヨーロッパ始め世界のメーカーの作るモニタースピーカー数ある中からヤマハNS1000Mが選ばれたのは、もっと注目すべきだろう。
 ところで、このNS1000Mは、1本で10万を超すという高価格だ。誰にでも推められ、また買えるというのでもないだろう。特に最近の若いファンにとっては、いくら世界一の音といっても、スピーカーだけで20万を払うというのは、とても無理で、よほど恵まれていなければ、実現性がない。そこで、この弟分のデビューは、待ちこがれていた。
 NS500は、この待ちにまったNS1000Mの実用型弟分なのである。
 その最大の特長とするところは、ヤマハ独特の技術によって生れたベリリウムダイヤフラムを振動板とした高音用スピーカーだ。NS1000Mでは、中音用と高音用がこの技術で作られたユニットで、それに低音用を加えた3ウェイ・スピーカー・システムだったのが、NS500では、高音がベリリウム・トゥイーターで、それに低音用の25cmウーファーを加えた2ウェイ・システムだ。つまり、ひとまわり小さい外観だけでなく、中味も弟分だ。
 さて、このベリリウム、金属のくせにモーレツに硬くて、その硬さは、宝石なみの超硬度だ。プレスも曲げることもできやしない。それを、半球上の薄膜に作るなんていうことは、とてもできるわけがなくて、だから、いくら理想的な材料といわれていながら、今まで作られていなかった。
 ピアノやオートバイの部品から作っているヤマハが、この難かしい問題を解決して、理想的スピーカーを作りあげたというわけだ。ベリリウム・トゥイーターのおかげで難しいといわれていた高音用の動作が理想的になったため、理論どおりの設計が具体的に製品として、出来あがるようになった。
 NS500は、NS1000Mを作る時に得た技術的なノウハウをさらに加えたという点で、あるいは、NS1000Mよりも一歩一前進したスピーカーということもできる。その力強く、輝きに満ちて、素晴しい音の粒立ちのある再生能力は、NNS1000Mとまったく同じレベルにあるが、さらに、NS500には、もうひとつのプラスがある。それは、歌や、インストルメンタルのソロが、ぐいぐいと間近にせまってくるという形で、再生される事だ。NS1000Mのやや控えめなのにも比べて、音が積極的だともいえよう。
 だから、NS500は、若いファンにとって、今考えられる最も高いレベルの推薦スピーカーであると断言しよう。日本の市場には、多くの海外製を含め国産の限りない製品がひしめきあっていて、それに毎年のように新型が加わり、せっかく新しく手に入れたとしても、2、3年で色あせてしまう。つまり、買う時に、いますぐだけの事でなく、2年先、3年先の事を考えておかなければ損をする。
 だから、ヤマハのNS500を推めたいのだ。ヤマハが世界に誇るベリリウム・トゥイーター付きの自信作なのだから。

ソニー TTS-8000

岩崎千明

スイングジャーナル 9月号(1976年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 DDモーターが登場して、それが世界を、少なくともプレイヤーの、今までの常識をすっかり変えてしまってから、もう何年になるだろうか。
 いつの時代にも、まったくといってよいほど、変わる所のなかったフォノモーターが、おそらく始まって以来、革命的な向上を果したといってよいのが、ダイレクト・ドライブ・ターンテーブルであった。ところが、さらにいま、この方式は水晶による、驚異的一定周波数発振器を内蔵させることによって、それを回転の定速制御の中に、くり入れることによって得た、新しい技術〝クォーツロック・ダイレクト・ドライブ方式〟として、ひとつの完成を成しとげたことになった。
〝クォーツロック〟あるいは、クリスタル・ロックと略称される新しいターンテーブルがこれであり、こうした新製品が、主要メーカーからポツリ、ポツリと市場に送られてきつつある。ソニーのTTS8000も、こうした新しいターンテーブルのひとつである。
 注目すべきは、このTTS8000が、ソニーの手によるクォーツロック・ターンテーブルという点なのだ。
 DDモーターの出る以前に、すでに電子制御によって、回転数を一定にしようとする試みは、世界中の主要ターンテーブル・メーカーが、これを試みていた。現在でも、世界的に信頼されている、スイス・ブランドのT社を筆頭に、国内メーカーからも、こうした電子制御モーターが、数多くあったが、その中でもいち早くスタートを切り、大成功を収めたのが、かくいうソニーのTTS3000であった。それは、機構的にはベルト・ドライブ方式であったが。したがって、電子制御に関しては、ソニーは他社に先んずる技術を持っていた。それはテープレコーダーという、新しい回転機器を作り、育ててきたソニーならではの技術でもある。テープ走行用の技術は、ターンテーブルの定速回転のために、拡大応用された、といってよい。
 本来、オーディオという分野は、電気、科学、機械、材料、と幅広い部門の上に成り立ち、その上に音楽的感覚が加わるという、広い範疇の総合技術である。にもかかわらず、オーディオ・メーカーといわれる中で「オリジナル技術」ないしは「個性的技術として、誇るにたるノウハウ」を持っているメーカーが、果して何社あろうか。ソニーはそうした意味でもっとも強力な技術と、ノウハウを持つといい得る、世界にも誇るぺき、技術志向の強いメーカーである。技術のソニーは、トランジスターを創り、TRラジオを創り、テープ・デッキを創り、TRテレビを創ってきた。さらには、TRアンプを加え、電子制御ターンテーブルをものにしてきた。そのキャリアが、クォーツロックド・ダイレクト・ドライブ方式のプレイヤーを完成させた。先に発表された高級プレイヤーPS8750がこれである。このクォーツロック・プレイヤー、DDモーターの最終極点にあるとも言える水晶制御だけに、価格も高い。とても一般のユーザーが、気遅れなしに入手できるといえる程の価格ではない。加えて、この高価格にしては、黒と金属のツートーンのデザインは、あまりにもメカっぽく、音楽をたしなもうという雰囲気に、どうもそぐわないと感ずるファンも少なくないだろう。音楽は、いわゆる人間の精神の奥に根ざすべき感情活動をともなう芸術である。冷たい感触は、こうした人間味を薄めかねまい。
 今回、TTS8000として、ターンテーブルのみが、単独商品として発表された。割安な価格という、プラスも大きいが、それ以上にその使い手の好みに応じて、プレイヤーを創ることができ、ケースを自分の趣味で選び、あるいは装うことができるという、プラスの要素が、価値としては大きいのではないだろうか。
 クォーツロック方式による、回転精度の向上、ワウやフラッターの低減などの電気的、機械的な性能向上は、いわずもがなだが、さらに、クイック・スタート、クイック・ストップの強い良さも、付加的なメリットだ。おそらく一度使ったら手ばなさなくなる使い良さは、かつての名作、TTS3000以来のソニーのモーター技術の伝統でもあろう。

パイオニア C-21, M-22

菅野沖彦

スイングジャーナル 9月号(1976年8月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 パイオニアというメーカーは企画のうまさでは抜群である。それも、ちゃんと内容のともなった製品を作るし、タイミングも実によい。パイオニアの製品群にはいくつかの本質的相異を見出すことができるようだ。第1はわれわれが大喜びする超マニア・ライクな高級機器である。第2はそのイメージを、たくみに合理化した中級・上級の製品、第3がパイオニアの商品の武器とでもいうべき、オーディオ的スパイスの効いた大衆商品である。この3本の柱を有機的に組み合せ、強固な商品構成を作りあげているのであろう。
 20番シリーズのアンプ類は、そうした分類からすれば、当然第1のグループに属するものだ。それにしては、C21プリアンプが60、000円、M22パワーアンプが120、000円という価格はそう高くないと思われるかもしれないが、30W+30Wのプリメイン・アンプで、しかも、バス、トレブルの音質調整回路つまりトーン・コントロール機能がなしで、180、000円というのは決して安いものではないことに気がつくであろう。プリメインアンプが1W当り1、000円とかいう、おかしな相場からすれば、これはその6倍強の値段である。いうまでもなく、これは、現在のエレクトロニクス技術とオーディオロジーを結びつけた音質の品位の高さを得るために必然的に出た値段である。〝本当の商人は無駄な銭をとらない〟といわれるがまさにその通りであって、むしろ、あまり安いものはうたがったほうがよさそうだ。もっとも、オーディオのように、見ることも触れることも出来ない音を目的とした商品は、買手が要求しないようなところにコストをかけても無意味であるから、いわゆる大衆商品というものは形だけ整えて、見えない音のほうはそこそこにして成り立ち、いうなれば客が馬鹿にされているわけだが、客がそれでよければ何をかいわんやなのである。その道に、客の要求が高ければ高いほど、目に見えないところにコストと時間をかけて、いいクォリティーの音を追求しなければならず、これが、オーディオ製品の一見同じように見えていながら、大きな価格の差をもった製品が出てくる所以であろう。
 C21、M22はまさにクォリティー製品であって、その性能は、同社の最高価格のC3、M4のコンビに劣らないほどなのである。いや、ある面ではむしろ優れているとさえいえる部分もある。トーン・コントロール回路をもたないC21は、信号系路を徹底的にシンプルにしてSNや歪の劣化を嫌う思想から作られただけあって、きわめてピュアーな音が得られる。選ばれたパーツも高級品であるし、よく音質検討がなされていて、洗練された最新の回路構成でまとめられている。機能的には先に述べたように、まったくシンプルなものだが、これは、コンパクトなシステムとして、マルチプルにシリーズ化する意図を持った製品群の中で占めるプリアンプという明確な姿勢を持っているのである。M22パワーアンプは、M4で実証したA級動作のノッチング歪のない音質の透明度と滑らかさを受け継ぐもので、音の柔軟性はきわめて高く、スムースこの上ない。ただ30Wというパワーはいかにも小さく、よほど高能率のスピーカーでもない限り、これでジャズをガンガン鳴らすというわけにはいかぬ。試聴にもいくつかのスピーカーをつないでみたが、アルテックのA7クラスだと、まず十分なラウドネスを得ることができるし、Dレンジもまずまずだが、ほとんどのブックシェルフ・スピーカーでは、フォルテを犠牲にしなければならなかった。つまり、このパワーアンプの本当の使われ方は、小音量で、最高の質の音でイメージの再生を目的とするクラシック・ファン向きか、あるいは、マルチ・アンプ構成としてその中域か高域に使うことだ。エネルギー的に大きな中低域両域は、現在の水準からして最低100Wを必要とする、というのが私の持論であって理想としては、低域を同社のM3、中域をM4、高域をこのM22というラインアップを組むことである。パイオニアもこれを考えてか、ちゃんと、この20番シリーズでは、クロスオーバー・ネットワークD23を同時に用意して発売しているのである。この本質をわきまえて、この一連のハイ・クォリティー・アンプを活しきったら素晴しい装置が構成し得るであろう。