Daily Archives: 1971年11月10日

フィデリティ・リサーチ FR-54

岩崎千明

電波科学 12月号(1971年11月発行)
「実戦的パーツレビュー」より

 FRというブランドで、高級マニアの間でひろく親しまれているカートリッジとアームのメーカーであるフィデリティ・リサーチが、久しぶりにアームの新形FR54を発売した。
 ステレオ業界の中でも、メーカーの数の多いこの分野では、急速に進む技術開発に加え、宣伝的な要素もあって新製品の発表がかなり早いサイクルでなされているのが通例である。
 この中にあって、FRは体質的に共通点のあるグレースとともに、新形発表のチャンスの少ないメーカーである。
 ひとたび市場に送った製品はこれを基に新技術を加えて、いつの時代においても、性能上の高い水準に保つべく努力を積み重ねていく、といった姿勢をくずさない。これは、国内メーカーに少なく、海外メーカー、特に歴史のある老舗によくみられる特長である。
 これが、商業ベース上メーカーとして好ましいかどうかは別として、自社の技術に自信と誇をもっていなければ保つことのできないのは確かな事実だ。
 そして、この色彩を一段と濃く持っているのがFRなのである。
 こう語れば新製品FR54は、同社の従来の軽量級アームFR24とは、全然違ったアームであることがお判りだろう。
 FR24が軽針圧用と、最初から銘うってカートリッジ自重が2grから12grの範囲と使用目的をしぼっているのに対し、FR54は自重4grから32gr、つまり市販カートリッジ中もっとも重い、オルトフォンSPU/GTさえう装着使用できる数少ない万能形の高級アームである。ただ、はっきりしておきたいのは、万能形であっても、無論その性能は、FR24そのものの高感度など動作を上まわるこそすれ、決して下まわるということはない。
 つまり、カートリッジのトレース特性さえ十分に優れていれば、このアームはなんと0.7grで普遍的カッティングレベルのレコードを完全にトレースすることができる。それはシュアV15IIにしろ、ADC25にしろ、エンパイアにしろ、オルトフォンM15にしろ、さらにFR5Eにしても、このアームの組合せにより、最良コンディションで動作してくれることを約束するのである。
 オルトフォンといえば、このFRの新形アームは、オルトフォンの新しいアームと、あらゆる無駄を廃した現代的デザインの共通点を感じる。
 2つ並べてみると、オルトフォンがゆるやかに彎曲するSカーブを打出しているのに対して、このFRは、ストレートな直線を組み合わせたS寺アームである。その組合せも、FRならではの実に美しい組み方が、メカニックな中にも品格と優雅なたたずまいをかもし出しているのである。
 FRのこの姿はすでに2ヵ月前から広告写真で知っていたのだが、現物を前にすると、とうてい写真の上では感じとられ得ない気品に圧倒される。
 欧州オーディオ界にあってずば抜けた技術と伝統とを誇るオルトフォンのアームと並べてみると、両者とも、風格と精密技術の粋を感じるが、FRの方には、それに加えて気品の高ささえただよい出ているのが感じられる。オルトフォンの、冷徹なはだを強調したメタリックなタッチとは対称的といえよう。
 さて、シンプルなデザインの美しさにふれすぎたが、このFR54の真髄は、そのアーム本来の再生にもある。
 アームをFR24からFR54に換えて、針を音溝に落すときにこそ、このアームが発売されたもうびとつの理由が判るに違いない。メーカーの追究する音楽再生の技術の、限りない向上が4年間の間に、2つのアームを出すべき態勢というか、責任というかを育ててきたのであろう。
 このFR54によって、まるでカートリッジはその低域から中域に及ぶ中声域全般にわたって音の豊かさと深さとが加わって、ソロの圧力がひときわ冴える、といってもいいすぎではなかろう。尋ねてみると、このアームの質量分布は、音楽再生の目的で、今まで以上に留意されて設計されたときく。
 軸受けまでのアーム自体が6mm径から10mm径に改められたのは、単に万能の目的だけではなかったとみた。
 ハウリングというディスク演奏上の宿命的欠陥も、このアームは格段と押さえることができ、使いやすくなったというのもうなづけられる。
 使いやすいといえば、カウンターウェイトのロックが、FR24と違ってアーム上の小さなポッチを押すだけで外れて、回転調整できるようになったのも、小さいことなのだが、大きな進歩だ。

メーカー・ディーラーとユーザの接点

岩崎千明

電波科学 12月号(1971年11月発行)
「メーカー・ディーラーとユーザの接点」より

 イヤァーおどろきました。
 東京は都心も都心、新橋の駅のまん前に、秋葉原のラジオ街をそのまま、ヤング向きにクールなタッチのハイセンスでよそおって、眼をみはるようなヤングセンターが開かれた。
 そこで、早速、編集N氏と、編集部から10分たらずの所にあるこのまばゆいばかりにきらめく照明群のもと、広いフロアーを散歩としゃれこみました。
 ヤングといういい方が、この頃やたらにはんらんしているが、このヤングエレセンターはあいまいな狙いではない。はっきりした主張と、ヤングだけに共通する個性とが、この明るく楽しい売場のすみずみにまで、はっきりとみなぎっている。
 つまり、ここではヤングだけの電気製品を一堂に集めたスペースなのだ。
 だからステレオは著名海外品までも集めてあるのに、電気洗濯機は1台もない。テレビも、カラーを含めて、すべてポータブルサイズの、小さくスマートなのだけしか並んでいない。
 ここで歓迎されるのは、現代を生きぬくヤングだけなのである。
 各社の主力製品がずらりと薇を並べたセパレートステレオのとなりには、コンポーネントのセクションにアンプが陳列ラックいっぱい。その横にプレーヤ。さらに奥ったコーナーには、なんと50台近いオープンリールのデッキ。
 この辺にヤングエレセンターの真髄があるように感じた。
 つまりデッキというマニアの最高をきわめた所にまで、十分の神経を使って、ここにきた多くの若者のラジカルなハートを捉えようというわけ。
 スピーカが少ないようだがと思いきや、となりの試聴室のじゅうたんを敷いたガラス張りの中に、なんと100本におよぶ、大中小さまざまなスピーカシステム。大はアルテックからタンノイ、パイオニア、サンスイ、小は4チャネルリア用まで、部屋の壁面にぎっしりと積み上げられてあった。
 スイッチひとつでこのスピーカをただちに聞きくらべられるというのも、てっていせるヤングの心を見ぬいたニクイばかりの配慮。
 若い係の方も、大へんなマニアぶり。売る方だって好きでなけりゃあというところ。
 この試聴室で、うっとりしていたら社長の荻原さんがみえた。
「週刊誌の取材に追われてしまって遅くなりました。実はダイナミック・オーディオという名のオーディオ・ショップを秋葉原に2軒、新宿と六本木にそれぞれ開いてまして、若い方のオーディオ熱にすっかり押されまして、この新橋に新らしくオーディオ中心の電化品を集めたのですが、若い方が欲しがる電化製品はないものはない、といったら大げさかな。でも最近のヤング派は大変明るくて自由ですね。
 ステレオを自分の部屋にそなえたい、その次はレコード、夜のムードを楽しむための照明。生活を充実させるために必要な手段を、どしどし自分の手で実体験として実現していきますね。
 ステレオ聞いてるだけじゃなくて、自分で音楽に飛び込んできますね。だからこのヤングエレセンターでは、エレキギターやアンプまで置いてるんですよ。テープや、レコードはもちろんです」。
 しかし、新橋とはまたどまん中ですね、東京の。
「横須賀線や湘南電車が新橋に止るでしょ。秋葉原にいかなくてもすむわけですから、便利になるんじゃないですか。それに、新橋は霞ケ関や虎の門などの官庁街、オフィス街の国電を利用してる方が多いですし、おひるの散歩道ですよ」。
 そういえば、この取材班も、うららかな秋日よりの、散歩がてら歩いて来たわけ。
「この店には、オーディオのコンサルタントがいく人もいますが。えーと、吉田くんを呼んできましょうか」。
 オーディオに強いヤング派コンサルタント兼店員の吉田くんにひとこと。
「どんなことでも尋ねてください。こんなこと聞くのは恥ずかしいなんて思わず、聞いてくれれば、知ってることはみんな話しますし、良き相談相手になるのが私達の役目です。それに自分の耳で音の良し悪しを確めることですね。本をよんだだけだったり、ひとの言ったことをそのままうのみにしてしまうのは大へんな間違いですよ」。
 なるほど、社長さんと同じ意見だった。横から若い学生風のお客様がカセットに録音するコツを尋ねてきた。
 お客様といっしょに考えたり話し合ったり、という感じ、これがそのままヤングセンターの体質とみた。
 すみからすみまで70mもあるという広い売場はよく見えない向う側がまでも、数え切れない程のさまざまな製品で埋めつくされていた。
 若者の広場のようなこの街には、ダークスーツの若いサラリーマンや、学生が、それぞれの生活に密着すべき電気製品の前に佇んでいた。
 それは、自分達の未来を、より充実させようとする姿であろう。
 そして、ヤングエレセンターはそんな若者のための、新鮮なショッピングの広場といえるだろう。