岩崎千明
電波科学 12月号(1971年11月発行)
「メーカー・ディーラーとユーザの接点」より
イヤァーおどろきました。
東京は都心も都心、新橋の駅のまん前に、秋葉原のラジオ街をそのまま、ヤング向きにクールなタッチのハイセンスでよそおって、眼をみはるようなヤングセンターが開かれた。
そこで、早速、編集N氏と、編集部から10分たらずの所にあるこのまばゆいばかりにきらめく照明群のもと、広いフロアーを散歩としゃれこみました。
ヤングといういい方が、この頃やたらにはんらんしているが、このヤングエレセンターはあいまいな狙いではない。はっきりした主張と、ヤングだけに共通する個性とが、この明るく楽しい売場のすみずみにまで、はっきりとみなぎっている。
つまり、ここではヤングだけの電気製品を一堂に集めたスペースなのだ。
だからステレオは著名海外品までも集めてあるのに、電気洗濯機は1台もない。テレビも、カラーを含めて、すべてポータブルサイズの、小さくスマートなのだけしか並んでいない。
ここで歓迎されるのは、現代を生きぬくヤングだけなのである。
各社の主力製品がずらりと薇を並べたセパレートステレオのとなりには、コンポーネントのセクションにアンプが陳列ラックいっぱい。その横にプレーヤ。さらに奥ったコーナーには、なんと50台近いオープンリールのデッキ。
この辺にヤングエレセンターの真髄があるように感じた。
つまりデッキというマニアの最高をきわめた所にまで、十分の神経を使って、ここにきた多くの若者のラジカルなハートを捉えようというわけ。
スピーカが少ないようだがと思いきや、となりの試聴室のじゅうたんを敷いたガラス張りの中に、なんと100本におよぶ、大中小さまざまなスピーカシステム。大はアルテックからタンノイ、パイオニア、サンスイ、小は4チャネルリア用まで、部屋の壁面にぎっしりと積み上げられてあった。
スイッチひとつでこのスピーカをただちに聞きくらべられるというのも、てっていせるヤングの心を見ぬいたニクイばかりの配慮。
若い係の方も、大へんなマニアぶり。売る方だって好きでなけりゃあというところ。
この試聴室で、うっとりしていたら社長の荻原さんがみえた。
「週刊誌の取材に追われてしまって遅くなりました。実はダイナミック・オーディオという名のオーディオ・ショップを秋葉原に2軒、新宿と六本木にそれぞれ開いてまして、若い方のオーディオ熱にすっかり押されまして、この新橋に新らしくオーディオ中心の電化品を集めたのですが、若い方が欲しがる電化製品はないものはない、といったら大げさかな。でも最近のヤング派は大変明るくて自由ですね。
ステレオを自分の部屋にそなえたい、その次はレコード、夜のムードを楽しむための照明。生活を充実させるために必要な手段を、どしどし自分の手で実体験として実現していきますね。
ステレオ聞いてるだけじゃなくて、自分で音楽に飛び込んできますね。だからこのヤングエレセンターでは、エレキギターやアンプまで置いてるんですよ。テープや、レコードはもちろんです」。
しかし、新橋とはまたどまん中ですね、東京の。
「横須賀線や湘南電車が新橋に止るでしょ。秋葉原にいかなくてもすむわけですから、便利になるんじゃないですか。それに、新橋は霞ケ関や虎の門などの官庁街、オフィス街の国電を利用してる方が多いですし、おひるの散歩道ですよ」。
そういえば、この取材班も、うららかな秋日よりの、散歩がてら歩いて来たわけ。
「この店には、オーディオのコンサルタントがいく人もいますが。えーと、吉田くんを呼んできましょうか」。
オーディオに強いヤング派コンサルタント兼店員の吉田くんにひとこと。
「どんなことでも尋ねてください。こんなこと聞くのは恥ずかしいなんて思わず、聞いてくれれば、知ってることはみんな話しますし、良き相談相手になるのが私達の役目です。それに自分の耳で音の良し悪しを確めることですね。本をよんだだけだったり、ひとの言ったことをそのままうのみにしてしまうのは大へんな間違いですよ」。
なるほど、社長さんと同じ意見だった。横から若い学生風のお客様がカセットに録音するコツを尋ねてきた。
お客様といっしょに考えたり話し合ったり、という感じ、これがそのままヤングセンターの体質とみた。
すみからすみまで70mもあるという広い売場はよく見えない向う側がまでも、数え切れない程のさまざまな製品で埋めつくされていた。
若者の広場のようなこの街には、ダークスーツの若いサラリーマンや、学生が、それぞれの生活に密着すべき電気製品の前に佇んでいた。
それは、自分達の未来を、より充実させようとする姿であろう。
そして、ヤングエレセンターはそんな若者のための、新鮮なショッピングの広場といえるだろう。
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