Daily Archives: 1971年9月10日

トリオ KA-3002

岩崎千明

電波科学 10月号(1971年9月発行)
「電波科学テストルーム」より

 トリオが全段直結アンプの新シリーズアンプの戦列に、4万円級の主力製品を加えた。
 この5万円前後という価格は、コンポーネントステレオにおけるアンプの手頃なレベルを意味し、商品としてこれから大いに売りまくりたい層をねらったクラスである。つまり、中心商品なのである。
 私はつい3カ月ほど前、本誌でほぼこのクラスと同じレベルのオンキョー・インテグラ725を、このクラスのベストアンプとして紹介したばかりである。
 KA3002にみられるトリオの商品企画のうまさは、この4万5千円のアンプが、倍近いアンプEKA7002とまったく同じ寸法の、同じデザインポリシーのパネルデザインに統一されていることにある。
 逆にいえば、KA7002は半値近いアンプとほぼ同じ外観的イメージでとられてしまうおそれがある。
 商品、KA3002に対して、メーカー側は、より多くのウエイトをかけているということを、明白に物語るのが、このKA3002のデザインであるのだ。
 僅か数カ月で、紹介し賞賛したオンキョーと肩をならべ、少なくとも、私がいつも愛聴するジャズをプログラムとする場合はオンキョーのインテグラ725にまさるアンプが出現したのだ。
 さらに、ルックスの点では、おそらく、多くのオーディオファンが、今回のトリオKA3002の方に、より魅力を感ずるであろうことは間違いない。
 ルックス、外観上の魅力は、コンポーネントアンプにとってかなりの重要性を意味する。信頼感、融和性というものは、まずその商品に対する外観的な好みから出発するからだ。
 慎み深い第三者的な立場と、コンピュータ的な冷たい限で比較したとしても、トリオの新製品KA3002の方により魅力を感じてしまうのは、外観的な企画のうまさがまず物をいっているのだ。
 しかし、こういう話の進め方をすると、何か、外観以外の内的な性能において、いいわけがましく聞きとられてしまうように思われよう。しかし、これはただひとつの点だけとってみてもトリオKA3002がジャズを聞くに適しているということができ得る。
 このただかとつの点というのは、ほかならない低音のサウンドである。
 ジャズサウンドという再生音があるとしたら、それは、ひとつひとつの楽器の音を、生演奏を間近かで聴くときのエネルギーを感じさせるということにつきる。ここで必要なのはクラシックの場合とはやや要求されるサウンドに違いがある。
 というのは、クラシックではストリングを中心としたオーケストラのハーモニーこそ目的であって、楽器のひとつひとつのエネルギーではない。
 要求されるサウンドが違う以上ジャズに対して低音の音量というか、迫力がまず第一に望ましい。
 この点がある故に、ジャズの再生はクラシックのそれよりむずかしいとし、うのが通念だ。
 トリオのアンプは、他社に先駆け、トランジスタアンプを手がけて以来、常に、このサウンドの迫力、特に低音のエネルギーを再現するのに非常に優れたキャラクターを示してきた。それは、この新形KA3002においてもはっきりと再確認できたのである。
 私はオンキョーのインテグラ725を試聴して、やはり同じことを感じとったのだが、2台を並べて切替えて試聴してみるとトリオの方に、より分があるのを認めないわけにはいかない。
 この違いはさらに使用してみて、オンキョーにおいてのプリアンプにあるということと、オンキョーに低音および中高域のソフトな音色を感じることを申しそえておこう。
 トリオのこのサウンドの迫力は、価格において倍に近いKA7002と同じ線上にあるものであり、さらに新シリーズのスピーカKL5060AマークIIにおけると、共通のサウンドポリシーにあるのも事実だ。
 トリオというメーカーは、どうも製品に対して、正直すぎるようである。
 それは、ステレオ専門メーカーの中でもひときわ技術的レベルが高いという一般的な見方が、そのままうらがえしされて映る面なのである。
 常に、新らしい技術を他社に先駆けて開発しながら、その商品的な巧妙さの点でいつもあとを追い上げるメーカーに一歩退れをとってしまう。そんな技術屋メーカー的体質が、いつも商売の面にちらつくようだ。
 くり返されてきたこういう商売に対する正直さが、今度の普及形アンプにおいては、大きなプラスとなるに違いない。
 それは、サウンドのクォリティーが物語る。
 回路構成の、おそらく簡略化が、かえって各ステージの設計、特にレベルダイアグラム上の構成に大きな利点をもたらしたのであろう。
 普及度といっても質的には高級機との差のない直結アンプでは、トリオの正直さがプラス面のみに作用したとみるべきだ。
 トーンコントロール、アクセサリー回路の充実などという月並みなことを今さらここで述べる必要はない。
 ただ、はっきりいっておきたいことは、最近の直結アンプすべてに共通していえるのだが、スピーカ側に事故がある場合、または、突然の過大入力によるショックなどが、大きすぎる場合スピーカの事故を誘発し、次の瞬間、アンプ出力段が破壊するというトラブルが発生しやすいというウィークポイントが、直結アンプにつきものだ。
 当然出力段保護に万全の対策が講じられていなければならない。
 この保護回路に関して、私はKA3002の回路がどう対策を立てているかを見きわめたわけではない。
 しかし、実際、2週間の使用においては、かなりの過大入力にもびくともしなかったし、むろん、オーバーヒートなどの出力段のトラブルもまったくみられなかった。
 スピーカ端子のショートや、過大入力がつづくと音が一瞬止まるが、すぐにもと通りの音を出してくれ、この時チェックさえすれば、あとはいかなるトラブルの心配もない。
 最後にひとこと誤解をといておきたい。KA3002が、ジャズ再生においてのみ優れた性能を示したからといって、それがクラシック音楽ファンには適していないというわけではない。
 ジャズの苛酷な使用状態に十分威力を発揮すれば、それは最近のクリアーな録音の迫力に満ちたマルチマイク録音を駆使したクラシック再生に際しても、今までより以上に好ましい結果を得られるに違いない。
 ジャズのみを聞いたのは、私個人の好みの問題であって、KA3002が適しているからでは決してない点だ。

〈試聴に用いた横種〉
 トリオ KA7002
 トリオ KT8001
 トリオ KL5060
 トリオ KL3060
 エレクトロボイス エアリーズ
 JBL ハークネス
 フィリップス EL3120カセットデッキ
 トーレンス TD124+SME 3009アーム
 カートリッジ シュアV15/II
 エンパイア 888PE
 フィデリティ・リサーチ FR5E
 グレース F8C
 オルトフォンM15, SL−15

米CBS サンタナ/天の守護神
米RCA プレスリー/オンステージ
米コンテンボラリー シュリーマン

テクニクス SU-3404

岩崎千明

電波科学 10月号(1971年9月発行)
「電波科学テストルーム」より

 4チャンネル用と銘うった市販アンプは’71年8月未現在では、市場にそう多くはない。
 さて、テクニクスSU3404は、パワーアンプは2系統つまりステレオ用のみで、4チャンネル用としてはもう一組のパワーアンプを必要とする。
 だが、しかし、というこのことばはあまり好きではないのだが、テクニクスSSU3404は、4チャンネル用と、はっきり受けとって然るべき長所を実に明確に具えている。というのは44チャンネル用としてのボリウムコントロールと、実に効果的で高品質のデコーダを内蔵している点にある。
 ボリウムコントロールだけについていえば、トリオの、新シリーズアンプも同様の特長を持っているのだが、デコーダは内蔵していない。
 4チャンネルへの変換用デコーダは、山水もトリオも単独形で製品化しており、これは他社でも大体それにならっているようだ。
 テクニクスSU3404のデコーダ回路は、これら独立形デコーダと品質の上では対等のものであるし、音質にしぼれば、市販製品中でもベストのものといい得る。このことは、もっと大きい声でいうべきだし、このテクニクスSU3404の4チャンネル用アンプとしての価値を大いに高めている点でもある。
 SU3404のパネル面の右下にあるMODEつまみ、これがデコーダ回路である。2CHステレオ、マトリクスA、マトリクスB、ディスクリート4CHの4段スイッチに集約された、この見かけの上ではちっぽけな部分は、どうして、どうして中々の本格派だし、中味の濃い高性能ぶりを発揮する
 ステレオから4チャンネル変換の、いわゆる2−2−4方式という、もっとも手ごわい再生における音場の自然さ、SU3404の再生品位はこの自然感という点で、市販デコーダの中でもおそらく最高のものだ。
 しかし、考えてみれば当然かも知れない。テクニクスが、すでに発表したデコーダ、たしかSH3400という製品として独立したアダプタは、いかなるエンコーダ(録音側変換装置)にも、応じ得られるように細心の配慮がなされている点において、他を圧倒している優秀機器だ。
 その音場の自然な再生ぶりは、耳の良いマニアであればあるほど不自然でなくひずみの少ないのにほれ込んで、4チャンネル否定派だったその立場を変えたくなるほどであったのだ。
 さらにつけ加えるなら左右のステレオの合成信号の位相角に対してのいたれりつくせりの配慮が、これほどまでに十分になされている点にもマニアの心理をよく知りつくした設計を思い知らされるのだ。
 音が悪かろうはずがない。
 この優れた変換回路と基本的に同じものが、SU3404のアダプタとして内蔵されているのである。
 SU3404が4チャンネル用と銘うったことに対して、十分にその価値を認めたいのは、実にこのアダプタにあるのだ。
 このデコーダ回路は、マトリクスAにより2−2−4方式の変換回路となるが、これがテクニクスのみのきわめて自然なプレゼンスが得られる。さらにマトリクスBにより現在、市販されているマトリクス4チャンネルレコードやFMステレオ放送を4チャンネルとして復元してくれる。さらにディスクリート44チャンネルのポジションではディスクリート4チャンネルのテープや8トラックマガジン用として用いられる。
 SU3404は私のリスニングルームにはかなり早い時期こお眼見えした。つまりSU3404と同時にである。それは市場にSU3400が発売される直前であった。
 この両者のアンプは外観上からもちょっと見別けがつかないくらいよく似ていたが、音質の点でも、使ってみた所でも全然変ることがない。
 それもそのはずで、SU3404は、ステレオ用のSU3400を4チャンネル化した製品なのである。
 テクニクスSU3404を聞いて、私はこのアンプを居間にあるエレクトロボイスの新形スピーカシステムエアリーズに接続して使うことに決めた。
 それは、テクニクスSU3404の音が、実に品がよく、ふくよかな豊かさに満ちていたからだった。
 エアリーズも豊かな音ののぴを感じさせるスピーカであったから、この良さを発揮するにはSU3404が多くの意味でマッチするであろうと考えたからであった。
 このエアリーズは、エレクトロボイスの伝統をよく表わして低音の豊潤な響きが国産品にない、つやとなめらかさを実に感じさせるが、それにしてもSU3404でドライブしたときに、このふくよかさは一段と増して、スピーカの箱がひとまわりも、ふたまわりも大きくなったような感じさえしたのだ。
 いくら音量を上げても、音のりんかくのくずれることのないのは、見かけによらずSU3404の出力が非常に大きいためだろう。35W/35Wという規格は、おそらくゆとりを十分持っているに違いなく、ハイパワーのまま何時間も鳴らし続けてもびくともしなかったのには、他社の製品でにがい思いをしたことのある私にとっては、実に嬉しかったことを特筆したい。
 それでいて、ローレベルの音に対してもクリティカルな反応を示し、ピアニシモでも音は少しもボヤけることがないのは、低レベルでの低ひずみ特性の良さをも物語る。
 その音はちょっと聞くと、ややソフトタッチで品が良いけれど、力強さが物足りないのでは……と懸念するが、フォルテのときにも、ジャズのソロの強烈さを堂々と再現してくれるのには驚いた。SU3404にも注文をつけたくなるような点がないわけでもない。
 それはプリセットと称するボリウムコントロールのまわりの2重つまみだ。カメラのシボリにおけるプリセットからとったのだと思われるこの機構は、ただ単に見ばえのための飾りでしかない。便利さというよりも、高級品としてのメリットを考えてのメカニズムであろう。使ってみて、プタセットの良さは、いささか納得し難い。
 それからスイッチだJBLアンプのスイッチそっくりのやわらかいタッチの切れ味は、中々の魅力ではあるが、しかしこのスイッチのパネルのカットが角形であるのはなんとなく、パネル面の感じをどぎつくさせているように思う。若者向きということを強く意識したパネルデザインということであれば、もっと他のやり方があったのではという気がする。しかしこの角形の穴は、テクニクスSU3404だけのものであるし、デザインの個性という点ではひとつのポイントになっていることは認めよう。