Category Archives: スピーカーシステム - Page 57

エレクトロボイス Interface:A, Interface:B

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 インターフェイスAは背面にも高音の一部を放射する構造のため、置き方にちょっとしたくふうがいるが、うまく使いこなすと音のバランスのなかなか見事なスピーカーだ。パワーも気持よく入る。ただし音の質は乾いていて、音に透明感があまり感じられず、艶消しの音、という印象を受ける。インターフェイスBは、Aをコストダウンしたということが露骨に感じられる音。原の音に奇妙なくせがつくし、中域がいささかきつい。

JBL 4331A, 4333A, 4343

菅野沖彦

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 JBLの新しいプロシリーズは一層洗練された。その代表的なものは4333Aと4343の二機種である。4331は2ウェイで私としては、どうしてもトゥイーター2405をつけた4333Aでありたい。シリーズとしては文句のつけようもない端然とした系統をもっており、音にも製品企画にもJBLらしい並々ならぬメーカー・ポリシーがあり感心させられるのである。真の意味でのスピーカーの芸術品と呼びたい妥協のない製品群で、今時、他に類例を見ることができない。

JBL 4331A, 4333A, 4343

瀬川冬樹

ステレオのすべて ’77(1976年11月発行)
「海外スピーカーをシリーズで聴く」より

 4320以降のJBLのスタジオ・モニターシリーズの充実ぶりは目を見張るものがあるが,最新型の3機種を聴いて、このシリーズが一段と高い完成度を示しはじめたことを感じた。シリーズとしては4333Aからあえてスーパー・トゥイーターを除いた4331Aの必然性には少し疑問を感じる。新型の4343は単に4341の改良型であることを越えて、すばらしく密度の高い現実感に溢れる音で我々を魅了し尽くす。

ヤマハ NS-500

岩崎千明

音楽専科 9月号(1976年8月発行)
「YOUNG AUDIO 新製品テスト」より

 ヤマハNS500は、ヤマハの数あるスピーカーの中で、最新の実力機種だ。ヤマハには、NS1000Mという世界に誇るスピーカーシステムがある。つい先頃、ヨーロッパの中でも特に音にうるさいスウェーデンにおいて国営放送が、このヤマハのNS1000Mをモニタースピーカーに選んだという。総数1000本も使われるというこの大事な役割も、品質のそろっている事が前提でなければならない。ヨーロッパ始め世界のメーカーの作るモニタースピーカー数ある中からヤマハNS1000Mが選ばれたのは、もっと注目すべきだろう。
 ところで、このNS1000Mは、1本で10万を超すという高価格だ。誰にでも推められ、また買えるというのでもないだろう。特に最近の若いファンにとっては、いくら世界一の音といっても、スピーカーだけで20万を払うというのは、とても無理で、よほど恵まれていなければ、実現性がない。そこで、この弟分のデビューは、待ちこがれていた。
 NS500は、この待ちにまったNS1000Mの実用型弟分なのである。
 その最大の特長とするところは、ヤマハ独特の技術によって生れたベリリウムダイヤフラムを振動板とした高音用スピーカーだ。NS1000Mでは、中音用と高音用がこの技術で作られたユニットで、それに低音用を加えた3ウェイ・スピーカー・システムだったのが、NS500では、高音がベリリウム・トゥイーターで、それに低音用の25cmウーファーを加えた2ウェイ・システムだ。つまり、ひとまわり小さい外観だけでなく、中味も弟分だ。
 さて、このベリリウム、金属のくせにモーレツに硬くて、その硬さは、宝石なみの超硬度だ。プレスも曲げることもできやしない。それを、半球上の薄膜に作るなんていうことは、とてもできるわけがなくて、だから、いくら理想的な材料といわれていながら、今まで作られていなかった。
 ピアノやオートバイの部品から作っているヤマハが、この難かしい問題を解決して、理想的スピーカーを作りあげたというわけだ。ベリリウム・トゥイーターのおかげで難しいといわれていた高音用の動作が理想的になったため、理論どおりの設計が具体的に製品として、出来あがるようになった。
 NS500は、NS1000Mを作る時に得た技術的なノウハウをさらに加えたという点で、あるいは、NS1000Mよりも一歩一前進したスピーカーということもできる。その力強く、輝きに満ちて、素晴しい音の粒立ちのある再生能力は、NNS1000Mとまったく同じレベルにあるが、さらに、NS500には、もうひとつのプラスがある。それは、歌や、インストルメンタルのソロが、ぐいぐいと間近にせまってくるという形で、再生される事だ。NS1000Mのやや控えめなのにも比べて、音が積極的だともいえよう。
 だから、NS500は、若いファンにとって、今考えられる最も高いレベルの推薦スピーカーであると断言しよう。日本の市場には、多くの海外製を含め国産の限りない製品がひしめきあっていて、それに毎年のように新型が加わり、せっかく新しく手に入れたとしても、2、3年で色あせてしまう。つまり、買う時に、いますぐだけの事でなく、2年先、3年先の事を考えておかなければ損をする。
 だから、ヤマハのNS500を推めたいのだ。ヤマハが世界に誇るベリリウム・トゥイーター付きの自信作なのだから。

テクニクス SB-007

黒田恭一

ジャズランド 8月号(1976年7月発行)
「音と音楽・音楽と音──ピストルを持たない007」より

 小さい方がいい。小さい方が、おおむね、美しい。アンプにしても、プレーヤーにしても、ましてカセットデッキにおいておやだ。タバコの箱ぐらいのスピーカーがあればいいのに──といって、笑われたことがある。笑われながら、釈然としなかった。今のところは、やはりどうしても、ゆったりとした、底力のある低音がききたかったら、俗にフロア型といわれるどでかいスピーカーが必要のようだ。スピーカーの原理から説明されれば、なるほどと納得せぎるをえない。しかし、不可能を可能にするのが技術だろうなどと、にくまれ口のひとつもたたいてみたくをる。
 大きい方が、立派にみえるからいいというのは、なんとなく、さもしい。やけに図体ばかり大きい、そのくせにのぞいてみると中がすかすかのアンプなどをみると、音をきく前から、さむざむとした気特になってしまう。その種の手合が、これで結構多いから、困る。そしてメーカーは、ふたことめには、「ユーザーのニーズ」などという。もし柄を大きくしてもらうことが、本当にユーザーのニーズなら、そのユーザーの根性は、なんともさもしい。
 本当にそんな、メーカーのいう「ユーザー」がいるのかと、思う。そこでいわれている「ユーザー」とは、所詮、メーカーが、ユーザーとはこんなものさと思った、その「ユーザー」ではないのか。そこには、一種の、たかくくりの精神が、ちらつく。そういうメーカーが悲しい。そんな風に甘くみられたユーザーも悲しい。
 マニア訪問とか、あるいはオーディオ装置のある部屋とかいったページが、オーディオ雑誌等には、かならずといっていいほどある。そして、いわゆる名器といわれるアンプやプレーヤーがみがきあげられて棚に並んでいる写真がのっている。しかもごていねいに、カラーであることさえすくなくない。ぼくもこれまでに、そういう写真を何度か、とられたことがある。恥しかった。それに、なんとなく、無駄をことをしているように思えてしかたがなかった。その写真をうつす人の腕が、いかにすぐれていても、この部屋でなっている音はうつせないのだから、うつされていて、申しわけなかった。
 その雑誌の編集者だって、本当は、音そのものをうつしたかったのだろうが、それができないので、やむをえず、再生装置というものとか、それをつかっている人間といういきものをうつさざるをえなかったのだろう。音はみえないので、あくまでもやむをえずの処置だったにちがいない。
 たのしもうとしているのが音楽であるかぎり、目は、あくまでも二義的を感覚器官でしかない。肝心なのは耳だ。だとすれば、オーディオ機器は、大きくて目ざわりなのより、小さくて目だたない方がいい。小さいアンプやカセットデッキが美しく感じられるのと、そのこととは、関係があるのではないか。
 小さなスピーカーをきかせてもらった。試作品なので、市販はされていないということだった。そういう特殊な機器について書くのは、なんとなく気がひける。自分だけきけたので、いいきになって、自慢ばなしをしているように思われるのではないかと思うからだ。しかし、その小さくて、粋な姿が気に入ったので、そのスピーカーのことを書いてみることにした。
 テクニクスのスピーカーで、俗称は007というのだそうだ。例の、テクニクス7の、ミニアチュアだ。すべての部分が10分の6の大きさになっている。むろん、あの特徴的な頭の部分もついている。
 普段つかっているJBLのスピーカーの横において、コードをつなぎ、ならしてみた。その姿にふさわしい、かわいい音がした。かわいい音──といういい方には、多分、説明が必要だろう。
 こういう時に、かっこうをつけてもしょうがない、正直に書こう。ターンテーブルの上にのっていたのは、山崎ハコの二枚目のアルバム「綱渡り」だった。すでにそのレコードは、JBLのスピーカーで、一度ならずきいていたから、どんな音がするかは、知っていた。必然的に、あれとこれとでは──といったきき方になってしまった。ちびの007と大きなJBL四三二〇とでは、勝負になるはずもない。007の表面面積は、ざっとみて四三二〇のほぼ三分の一といったところだ。
 そのうちに、段々、007の音になれてきた。それと同時に、山崎ハコの歌をなにかとても懐しい歌をきいているようを気持できいている自分に、気づいた。ぼくは、なんとなく、くつろいでいた。部屋にはひどくインティメイトな雰囲気があった。しんみりときいた。
 音楽の途中で音量つまみをちょこちょこうごかすのが嫌いだ。よく、レコードをかけてしまってから、途中で、大きくしたり、小さくしたりする人がいるが、あれはどうなんだろう、あまり好ましいこととは思えない。よほ大きすぎた時とか、逆に小さすぎた時ならともかく、よほどのことがないと、ぼくは音量のつまみを途中でいじらない。このレコードならこの程度といったことは、あらかじめわかっている。昨日今日レコードをききはじめたわけではないからそのぐらいのことはわかる。
 その、007をはじめてきいた時も、そうだった。その直前にきいたからこそ、山崎ハコのレコードが、ターンテーブルの上にのっていたわけで、そのまま、007できいたことになる。その間に、音量つまみには、一切手をふれていなかった。
 007は、JBL四三二〇より、小型だから当然というべきか、能率がわるい。この辺がちょっと困ったところで、小さなスピーカーをつかおうと思えば、ハイパワーの、したがって大きいアンプをつかわなければならなくなる。具体的にいうと、パイオニアの、C二一+M二二のくみあわせなど、値段を考えると、本当にすてきなアンプだと思うけれど、つかっているスピーカーがフロアタイプならいいが、ブックシェルフだと、30W+30Wということで、充分な結果は得られないのではないか。小さなスピーカーをつかおうとすれば、大きなアンプが必要になり、大きなスピーカーをつかっていればアンプは小さくてもいいというのは、どうしようもないパラドックスのようだ。
 パワーをいれたら、007は、その愛らしい姿に似あわず、張りのある音をだしたが、それはどうやら彼の(007だから、やはり、彼というべきだろう)本領ではないようだった。
 自分のきく位置を、普段より前に、つまりスピーカーの近くにしてみた。音がかなりなまなましくなった。007の横腹は、ローズウッドというのか、小し赤っぽい木でできている。ともかく、その木の材質は、ぼくのつかっている机と同じで、そのことから思いついて、ぼくの机の幅は一七五センチあるが、机の両すみにおいてみた。スピーカーの横腹の材質と机のそれとが同じだから違和感は、まったくなかった。それに、音も、さらにチャーミングなものとをった。
 結局、その夜は、レコードをあれこれとりかえながら、机にむかって、007をきいてすごした。楽しい夜だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんぴりすごした後のようをここちよさが、残った。
 しかしぼくは、次の日の朝、机の上の007をおろしてしまった。理由はふたつあった。ひとつは、しごく単純なことだった。仕事をする時、ぼくは机の上にさまざまな資料をひろげてする習慣で、その際、スピーカーがふたつも場所をとっていてはじゃまだったからだ。もうひとつの理由は、少し複雑だった。ごく親しい、気のおけない友だちと、のんびり時をすごす──ことに対しての、不安を感じたからだった。それはむろん、わるいことじゃない。大変に楽しいことというべきだろう。できることなら、くる日もくる日も、そうやってすごしたいと思うほどだ。
 しかしぼくは、同時に、音楽をきくことを、精神の冒険たらしめたいとも思っている。せっかくレコードをきくのだったら、あそび半分にはききたくないと思う気持がある。そう思っているききてにとって、ききてをくつろがせる007の音は、危険きわまりない。この007は、ききてをおびやかさない。ピストルを持たない、つまり凶器をもたない007だ。007に対決すべきスペクターは、けっこうのんびりできてしまう。007は、やはり、安全装置をはずしたピストルの銃口を、こっちにむけていてほしいと思ったりした。
 ぼくは、自分でもあきれるほど、ケチだ。せっかく買ってきたレコードだから、そのレコードに入っている音は全部ききたいと思う。もしそのレコードがライヴレコーディングされたものなら、聴衆のひとりのしわぶきひとつききのがしたくないと思う気持がある。なんのはずみでかポケットからころげおちた十円玉をひろおうとしてタクシーにひかれそうになるのがぼくだとすれば、テクニクス007には、そんなぼくを、お前はなんてケチなんだ、もっとおっとりしていたらどうなんだといさめるところがある。007のいうことは、もっともだと思う。もっともだと思いつつ、腰を丸めて十円玉をおいかける自分が悲しい。そこで気どっていられないところに俺の、俺だけの栄光があるんだなどと、見栄をはったって、誰も相手をしてくれるわけではない。
 プレーヤーやアンプのつんである台には車がついているから、それを机のそばまでひっぱってきて、「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ」のうちのあれこれを、つまみぎきした。話はそれるが、その全百枚の「遺産シリーズ」は、きいて本当に勉強になるし、おもしろい。特に、ジェリー・ロール・モートンの巻などは、傑作だ。最近は、朝がはやい。きがついたら、東の空がぼんやりと白くなっていた。結局ぼくは、ピストルを持たない007と、朝まで、レコードをききつづけたことになる。
 山椒は小粒でもぴりりと辛い──という言葉を思いだしたのは、翌日、目をさましてからだった。ききては、いずれにしろ、ぴりりと刺されることを期待しているのではないか。甘やかされると、甘やかされたことを不満に思うようなところが、ききて一般にあるといえるかもしれない。
「山椒」の「ぴりり」が、007にほしいと思った。望みすぎになるのだろうか。たっぶりとした、底力のある低音は、でればそれにこしたことはないが、それは多分、フライ級のボクサーにアリみたいをボクシングをしろということになるだろう。もしそんな音がでてきたら、それはそれですばらしいことにちがいないが、ぼくはその時、007のチャーミングを容姿を、いぶかしみの目で見るにちがいない。
 蜂が尻からチロチロっとだす針のような高音がここからきこえた時、007の前のスペクターは、音楽をよりヴィヴィットにうけとめられるようになるだろう。指でつままれて、蜂は、チロチロと尻から針をだす。針先に夏の太陽が光って美しい。蜂の針は、蜂がいきていることの、なによりのあかしだろう。そういうきらめき、かがやき、生気がほしい。小柄な女の子がきらっと瞳を光らせると、とってもチャーミングだ。なのに、この007は、なんとなく伏目がち。
 三〇畳も四〇畳もある広い部屋に住んでいれば、どうということもないのだろうが、そうではないものだから、山のようなスピーカー、岩のようをアンプを、敬遠したくなる。そのためのスペースがあるなら、レコードや本をおいておきたい。おそらくこういう考え方は、おそらく非オーディオ・マニア的発想ということになるだろうが、ぼくはそう思う。当然、小さい方が好ましいということになる。しかしその一方で、再生装置は道具でもあるから、性能ということが問題になる。小さければ小さいほどいいといいきれないところにむずかしさがある。それともうひとつ、使い勝手のことも考えないといけない。いろいろのことを考えあわせないといけないからむずかしい。
 今、普段は、壁につけた大きをスピーカーできき、夜中になって、よほど大音量でききたくなったらヘッドフォンをつかうという方法をとっているが、007を机の上にのせてつかって気がついたことがある。ヘッドフォンとスピーカーの中間のもの、つまりごく近くできいてはえるもの、たとえば面とむかってきくからフェイスフォンとでもいうようなもの、そんなものは考えられないのだろうか。むろんそのフェイスフォンにも、蜂の針のチロチロがほしい。
 どうも今のオーディオ機器全般は、こうあるべきものというところにとどまっていて、つかいてに対しての歩みよりにかけるところがあるように思えてならない。

テクニクス SB-4500

岩崎千明

スイングジャーナル 8月号(1976年7月発行)
「SJ選定新製品試聴記」より

 テクニクスにおけるオーディオの姿勢は、その着手の当初からひじょうに明確であって、オーディオをあくまで技術的、理論的視点から正しくとらえ、推進してきたといってよかろう。いわゆる電気的請特性、調査と計測によるあらゆるデーターを土台にし、開発が進められてきたのだろう。その時期その時期において発表された製品は、非常に長い期間諸特性の優秀さという点で.他社製品に一歩優先してきたものが少なくない。ロングセラーの優秀品がテクニクス・ブランドには指おり数えるほどに多いのも、こうした技術的裏付けがあってのことというべきだろう。
 永い間、低迷し、初期のモノーラル時代における輝やかしいキャリアが途絶えていたスピーカーが、この一年間驚くべき成功をなしとげた。その源は単に計測一辺倒だったスピーカー開発テクニックを、新たなる実際的な手段によって音楽的完成度を得たからだ。SB7000を筆頭とするシリーズの質の高さについてはすでに多く述べられ、いまさらここにいうまでもないが、比較試聴を最終的な決め手として今までになく重要視した成果といえよう。
 マルチ・ウェイの各スピーカー・ユニットを、聴き手から正確に等距離におき、ボイス・コイルを同一平面上に配置するという具体的な手法を採用して、各ユニットからの音波の位相をそろえるという国産スピーカーでは始めての特徴をアピールして、それが、過去の不評を根絶するのに大きく役立ったことも効果的だった。
 テクニクスのスピーカー・システムは、国内市場の数ある製品の中で、最も注目され、関心をそそられる製品として今や位置づけられることになったのである。SB7000を筆頚に、6000、5000とシリーズの陣容が整ったところで、このシリーズをたたき台とした新しいスピーカーのシリーズが誕生した。SB4500である。
 今までのシリーズに比べて、外観的にも、それははっきり特徴づけられる。ウーファーのエンクロージャーの上に、まったく独立して、ドーム型高音ユニットが箱の上にのせてあるという感じで設けられていた今までのシリーズに比べ、今度のSB4500は、コーン型に変更された高音ユニットは、25cmウーファーのエンクロージャーの上部を一段後退させた部分に取付けられている。従ってスピーカー・システムとしては、上端をへこませたブックシュルフ型といってもよかろう。
 少なくとも、今までのシリーズの一般のブックシェルフ型より不便をかこつ欠点は、新しいシリーズにおいては、解消されたといえる。これは、小さいことのようだが、実用上非常に大きなプラスであり、商品としての完成度を高めている。ところで、SB4500が登場した本当の意義、ないし狙いは、その音と、26、000円台という価格に接する時、始めて判断できよう。今までのテクニクスのスピーカーのもつ共通的特徴から明らかに別の方向に大きく一歩踏み出すという姿勢と、更にその成果とをはっきりと知らされる。今までの、ともすると「品がよくて、耳当りのよい素直な音」というイメージではない、「力」をまず感じさせる。その「力」も、この言葉を使うときに、例外なしにいわれる低音のそれではない。いわゆる中音域、中声部、あるいは、歌とか、ソロとかいわれる音楽のなかの最も情報量の多い、従ってエネルギー積分値の大きい音域で、力強さをはっきりと感じさせてくれる。今までのテクニクスのスピーカーにはなかった音だ。あるいは、今までが優等生なら、今度のSSB4500は少々駄々っ子だが、魅力的個性を発揮するタイプといったらよかろうか。だからその音は、いきいきして、躍動的で、新鮮だ。深く豊かな低音と、澄んだ高音が、この力ある鮮度の高い中音を支えて、スペクトラム・バランスもいい。さらにテクニクスの伝統的な技術的裏付けもデータから、はっきりとうかがうことができ、うるさ型のマニアも納得させることだろう。こうした新路線のサウンド志向は、今日的な音楽に対向するものであることはいうまでもないが、これを受け入れる層の若い年令を考慮して2万円台の価格となったに違いない。しかし、このサウンドを獲得するのに必要なユニットへのマグネットなど物的投資を確めると、この価格は驚くほど安いといえるだろう。

ヤマハ NS-500

岩崎千明

オーディオ専科 7月号(1976年6月発行)

 ベリリウム・ツィータおよびスコーカを採用し、モニタースピーカとして好評を博しているNS1000Mの弟分として発売されたのが、NS500である。NS500は25ccmウーハー、3cm口径のペリリウム・ダイヤフラムを用いたドームツィータを配した2ウェイブックシェルフ型であり、NS1000Mをひとまわり小振りにした外観は、ツヤ消し仕上げの、非常にメカニカルな雰囲気とプロフェッショナル・ユースにも合うような大変たのもしい風格を待つ。
 ヤマハの特徴であるベリリウム・ツィータは、今回のNS500においては、口径が23mmと小型で、、そのハイエンドの周波数特性は20KHzを超える程の高い音域にいたるまで、最も理想的なピストン運動動作をたもつことが出来る。しかもこのベリリウム・ツィータの最も驚ろくべき特徴は、1800Hzという非常に低いクロスオーバー周波数でありながら、なおかつ、音楽プログラムにおいて60Wという高い耐入力を持っている点であろう。一般には小口径のツィータにおいてはボイスコイルの質量がかなり制限されるためその線材としてきわめて細い線を用いることか
ら、余り大きな耐入力を得ることでは不利なわけであるが、このベリリウム・ドームツィータでは常識をはるかに超える耐入力を得ている点に注目したい。
 25cmウーハーは当然のことながら2000Hzまでをカバーするべく今までのウーハ一に比べて、低音用の中域における特性を重視した設計がなされており、具体的にほ、コーン紙を自社で独自に開発したものを使用しており、質量が軽いうえに、高い剛性を持っているので、中音域での理想的動作を持ち得る大きな要素となっている。又、このブックシェルフの大きな特徴である重低音の再生は、このすぐれたウーハ一によるところが大きいが、NS1000Mの密閉型とは違って、NS500においてはローエンドを確保すべくバスレフ方式を採用している点を見逃すことが出来ない。このバスレフ方式によって低音域におけるローエンドがスピーカのf0よりさらに拡大されることによって、非常に広い再生帯域を低い方に確保している。これはベリリウム・ツィータによるハイエンドの確保とのバランスを考えると適切な処置といえよう。さらにこのバスレフ方式採用によって、低音用ユニットからの音響幅射が極めてスムーズなため中音での音のクリアな感じがほうふつと感じられる。さらにこのウーハ一には、55mmφ×35mmhの大型アルニコマグネットを用いて、ロスの少ない高能率な内磁型のマグネットサーキットを持ち、こうした強力なマグネットを充分に生かしたショートボイスコイル方式を採用しているため、極めて高能率かつ歪の少ない再生が可能となっている。しかもボイスコイルには200度以上の高温に耐えうる素材を採用するなど耐入力特性に秀れている。こうしたいくつかのユニットの特徴に加え、ネットワークも空芯コイルを用いた極めて豪華な金のかかったネットワークとされ、ロスの少ないことによる高能率化、また音質の劣化も充分に考慮されたものとなっている。
 さらにNS500における大きな特徴は重量級のキャビネットである。松材のパルプを用いたパーチクルボードを用いた極めて重量の重い一体構造となっているわけで、こうしたブックシェルフスピーカのなかでも20kgに近いという極めて重い重量級となっている。しかも、ブラック&シルバーの外観は、ウーハーのアルミフレームおよび支持金具が形づくるレイアウトによって、非常にめだつデザインとなっている。これはこのNS500の価格帯には他社の優秀製品がライバル製品としてひしめき合っているだけに、店頭効果を充分考慮したユニークなデザインといえよう。
 さて、NS500はNS100Mに較べて、外観上もひとまわり少さく、しかも2ウェイ構成であるにもかかわらず、その中音域での音の極めて積極的な響き方は驚ろく程で、特に歌あるいは楽器の演奏等に対して非常に力強い迫力を秘めている。このローエンドからハイエンドに至る極めてフラットな感じの一様なレスポンスを感じさせる音は、現代の最も進んだハイファイ用スピーカのひとつの典型ともいえよう。
 とくに最近増えている若い音楽ファンなどにはNS500はまさにうってつけのヤマハの高級スピーカといえよう。

ビクター S-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、このところ、新しい価格帯として注目されている2万円台のスピーカーシステムとして開発された、S−5のジュニアシステムである。
 基本的な設計方針は、当然のことながらS−5と共通であるが、ウーファーの口径が20cmとなっているのが大きく変っている点である。このウーファーは、軽合金センターキャップ付で、フレームはアルミダイキャスト製である。なお、トゥイーターは6cm口径コーン型で、S−5に採用してあるユニットと同じものだ。
 S−5は、この種の2ウェイシステムとしては、バランスがとりやすい25cmウーファーをベースとしているだけに、帯域バランスがよく保たれ、メリハリが効いたコントラストがクッキリと付いた音をもっている。音色が明るく活気があるのは、やはりビクターらしい特長である。
 S−3は、S−5にくらべると低域が軽くなった反面、スケール感は小さくなる。一般的には、アンプ側のトーンコントロールで補整したほうが、トータルなバランスはよい。トゥイーターは、このクラスとしては粗さが少ないために、適度にクリアーで輝き、トータルなシステムに活気を与えているようである。

ビクター S-5

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムは、共通して音色が明るく、活気のある音をもった製品が多くなっているが、このビクターの新製品も、現在流行しているディスコサウンドやクロスオーバーなどの、ジャズロック系のプログラムソースにマッチした、力強くいきいきした音を狙ってつくられたスピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、前後のバッフルに比重が大きい針葉樹系高密度パーチクルボードを、側版には硬質パーチクルボードを合板でサンドイッチ構造にした特殊ボードを採用し、トータルな音の響きをコントロールするとともに、マルチダクトをもつバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーと6cmコーン型トゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムである。ウーファーは、アルミダイキャストフレームを使い、コーン紙には米ホーレー社製の、腰が強く軽い、ハイ・ヤング率コーンが選び出され、コーン紙中央のキャップは、分割共振が少ない特殊合金製で、いわゆるドーム鳴きを抑えながらクロスオーバー周波数付近のレスポンスをコントロールしている。
 トゥイーターは、ウーファーと同様に、ホーレー社製のコーン紙を採用したコーン型で、最高域のレスポンスを補整するために軽合金製キャップが付けてある。
 各ユニットのクロスオーバー周波数は、2000Hzと発表されているが、クロスオーバーネットワークのコイルには、磁気飽和が高いケイ素鋼板コア入りのタイプを使い、高耐入力、低歪率設計である。なお、レベルコントロールは連続可変型である。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 完成したコーネッタのエンクロージュアには、295HPDとIIILZ MKIIの新旧2種のユニットを用意して試聴再確認をおこなうことにする。この場合、295HPDは、このユニットのデータを基準としてエンクロージュアが設計してあるため問題は少ないが、IIILZ MKIIについては、まったく振動系が異なるため、あくまでテストケースとして使用可能かがポイントになる。なお、IIILZ MKIIでは、低域に何らかのコントロールをする必要があるが、バスレフのポートの全面もしくは一部に吸音材を入れる方法か、板をポートの幅か高さに合わせてカットし、その量を調整する方法が考えられるが、今回は、ポート断面の半分に吸音材を入れた状態が、かなり好結果をしめした。
 295HPDをプロトタイプに入れると壁面を離れたフリースタンディンクの状態でも、低域から中低域にかけて量感が増し、中域が薄く聴える、いわゆるカブリをおこし、ネットワーク補正後でも、コーナー位置ではかなり低い周波数にウェイトをおいたバランスで、音としてはグレイドが高いものであったが、いわゆるタンノイの音のイメージとは、かなり異なった音である。
 最終モデルのコーネッタは、コーナー位置でオートグラフを想い出すバランスと音色を狙っただけに、低域が柔らかく量感があり、中域はわずかに薄く、高域が輝く、タンノイ的バランスの音である。しかし、ユニット自体がワイドレンジ型であるため、トータルの音は、柔らかく、キメが細かいソフトなものとなり、いわゆるタンノイの硬質な魅力とは、やや異なった現代型の音色である。この音はスケール感が大きく、コーナー型特有のピンポイント的なクリアーな音像定位と、充分に引きがある空間のパースペクティブを聴かせる特長があり、あきらかに、ブックシェルフ型エンクロージュア入りの295HPDとは、大きく次元が異なった別世界の音である。
 IIILZ MKIIにすると低域の伸びは抑えられるが低域はソリッドに引き締まり、中域が充実した密度が高く凝縮した音になり、タンノイ独得の高域が鮮やかに色どりをそえるバランスとなる。この音は、すでに存在しない旧き良きタンノイのみがもつ燻銀の渋さと、高貴な洗練さを感じさせる、しっとりとした輝きをもったものだ。まさしく、甦ったオートグラフの面影であり次から次へとレコードを聴き漁りたい誘惑にかられる、あの音である。
 カートリッジは、エレクトロ・アクースティックのSTS455Eや、オルトフォンのVMS20E、M15Eスーパーが柔らかく透明になるソフトでデリケートな音であり、オルトフォンのSPUシリーズが音のくまどりが鮮やかで密度が濃く格調の高い音となるが、とりわけSPU−Aが抜群の音である。アンプは、295HPDには50Wクラス以上のハイクォリティなソリッドステートタイプが現代的な伸ぴやかで粒立ちが細かい音で相応しく、IIILZ MKIIには、ソリッドステートタイプでも充分であるが、パワーアンプには、少なくとも30Wクラス以上の管球タイプを使うと磨きこまれたまろやかな、柔らかく拡がる音場空間をもった立派な音となって、素晴らしい音を聴かせる。

Lo-D HS-503

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 スピーカーシステムの新製品では、バスレフ方式の復活とともに、フロアー型システムが多くなってきたことも、最近の傾向といってよいだろう。
 HS−503は、トールボーイ型のエンクロージュアを採用したフロアー型の新スピーカーシステムである。
 エンクロージュアは、グレイのサランネットとブラック仕上げ塗装とのコンビネーションで、いわゆるモニターシステム的な印象がある。このエンクロージュアは、サランネット下側の部分が4本のネジで取外し可能な構造になっており、取外せばバスレフ型、スペーサーを介してサブバッフルを取付ければバスレフ型と密閉型の中間特性が得られるダンプドバスレフ型、さらに、フェルトパッキングのついたサブバッフルをエンクロージュア本体に固定すれば密閉型と、使用条件と好みにより3機種の変化をもたせることができる。
 ユニット構成は、ドロンコーン付と想われやすいが、ウーファーはギャザードエッジをもつ20cm口径のL−202を2本パラレルにしたツインドライブ型である。このユニットは、磁気回路にショートリングが付き、コーン紙にはラテックスが塗ってあり、歪を減らし、ボイスコイルボビンにはアルミを採用し温度上昇を抑えてある。トゥイーターは、比較的に口径が大きい7cmコーン型で、f0が低く、軽量コーン紙の採用で能率が高い特長がある。

クライスラー CE-100

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 最近のスピーカーシステムの新製品ではエンクロージュア形式にバスレフ型が採用されることが多い。クライスラーのニューモデルは、そのなかでは、比較的に少ない完全密閉型のアコースティックサスペンション方式を採用したシステムである。
 ブックシェルフ型のオリジネーターである米AR社の完全密閉型は、小型なエンクロージュアで想像もつかぬ低音が再生できるメリットがあり、つい最近までは、ブックシェルフ型といえば、完全密閉型を採用することが標準化していたが、最近ではバスレフ型が復活してひとつの流れを形成しているようだ。簡単にこの両者の特長をいえば、完全密閉型は低域再生に優れるが出力音圧レベルが低く、バスレフ型は、逆に、出力音圧レベルは高くしやすいが、低域レスポンスはあまり伸びない。又音色的にも、やや対照的で、前者を重厚とすれば後者は軽快といる。
 CE−100は、このタイプとしては出力音圧レベルが92dBあり、聴感上の能率も高く感じられる。構成は、30cmウーファー、12cmコーン型スコーカー、それにホーン型トゥイーターの3ウェイシステムである。このシステムは、やや重く厚みのある低音をベースとし、明快型の中音、少し線が細い高音でバランスがととのっている。
 ステレオフォニックな音場感は、前後方向の感じをあまり際立たせるタイプではなく、音像も少し大きくまとまる傾向がある。

コーラル CX-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、比較的に小型のスピーカーシステムだが、ユニークな発想をベースとして開発されたメカニズムをもっていることが特長である。
 エンクロージュア上部は、階段状になっており、その部分にトゥイーターが取付けてある。一見したところでは、海外製品に古くからあるスピーカーユニット間の位相差をコントロールするタイプと思われやすいが、ここではトゥイーターユニットが左右方向に、それぞれ90度首を振ることが可能であり、アーチ状の金属の上を前後に移動すれば、上下方向にも±15度の間で角度をコントロールできる。
 これにより、リスニング位置で最良のステレオフォニックな拡がりと、シャープな音像定位が得られるように調整が可能とされているが、ややデッドな部屋などでは、このメカニズムを使って細かく追込んでいけば、かなり、良い結果が得られるものと思われる。
 エンクロージュアは、トゥイーターユニット取付部分の後が開口となっている特殊なバスレフ型で、ウレタン・メタリック塗装仕上げである。ユニット構成は、JBLのLE8Tを想い出すようなメカニックなデザインをもった20cmウーファーと、コーン紙に、コーラルで新開発されたコーティングをした、6・5cmトゥイーターを組み合わせた2ウェイシステムで、爽やかで活気のある音を聴かせてくれる。

オンキョー M-3

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 さきに、ユニークなデザインと音をもったスピーカーシステム、M−6により、注目を集めたオンキョーから、その第二弾製品としてM−3が発表された。
 M−3は、外見上ではM−6とまったく共通のデザインとユニット構成を採用しているために、遠くから見ると見誤りやすいほど、よく似ている。ただし、ユニット構成が同じ2ウェイシステムだが、ウーファーの口径が28cmとひとまわり小さくなり、エンクロージュアのプロポーションも異なっており、結果としてのバッフル版上のユニットのレイアウトは、むしろM−3のほうが良いバランスと感じられる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもつバスレフ型である。ポート部分は取外し可能で、対照的な位置に取付けてあるトゥイーターと位置交換が可能であるために左右スピーカーシステムのスピーカーユニットを、いわゆる対照的配置とすることが可能である。
 ウーファーは、5cm径のロングボイスコイルと直径120mm、厚さ20mmの大型磁気回路をもち、直線性が優れ、かつ大入力と高能率化がはかられている。トゥイーターは、メタルキャップ付きの4cmコーン型である。レベルコントロールは、ユニット間のクロスオーバーの変化までを考えてある再生音モードセレクターと呼ばれる3段切替型である。トータルバランスがよく明るい音色をもつ点ではM−6に勝る。

パイオニア CS-616

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 ハイポリマーを使ったスピーカーシステムを発売するなど意欲的な製品開発をみせるパイオニアの新製品は、現代的な感覚のダイナミックで、歯切れがよく、パンチの効いた音をもつ、3ウェイスピーカーシステムCS−616である。
 スピーカーシステムでは、音色と出力音圧レベルは、密接な関係があり、一般的にダイナミックな音と感じるシステムは出力音圧レベルが高いことが多い。CS−616も、出力音圧レベルは93dBと高く、結果的な音とマッチした値と思われる。
 エンクロージュアは、円筒状のポートをもったバスレフ型で、最大許容入力100W、実質的には200Wに達する入力に耐えられるようにリジッドに作られている。
 ユニット構成は、30cmウーファーをベースとした3ウェイシステムである。ウーファーは、大型のダイキャストフレームを採用し、8本のネジでバッフルボードに取付けてある。コーン紙は、マルチコルゲーションが付き、材質にはカーボンファイバー混入したコーンに、広帯域にわたりスムーズなレスポンスを得るために、音響制動材をコーティングしたものだ。また、磁気回路は、第3次高調波歪を軽減するためとトランジェント特性を改善するために、銅キャップ付である。
 スコーカーは、10cmのコーン型で、フレームは強度が高く共振が少ないアルミダイキャスト製である。コーン紙は、質量が軽く、エッジワイズ巻ボイスコイルの採用で能率が高く、耐入力性が高いタイプである。トゥイーターも、スコーカーと同様にコーン型が採用されている。このユニットも、アルミダイキャストフレームを採用し、リニアリティをよくするために、エッジにはロール型クロスエッジを採用している。
 各ユニットは、いわゆる左右のスピーカーユニットの配置がシンメトリーになっている左右専用タイプで、各チャンネル専用のシステムがペアとなっている。
 CS−616は、3ウェイシステムらしい中域が充実した安定感のある音をもっている。音色は、やや明るいタイプで、中域がやや粗粒子型と受取れるが明快で力強さが感じられるのがメリットであろう。低域は、床から50cm程度離した状態がもっともよいようだ。これ以上、床に近づけると、低域が量的に増えて表情が鈍くなる傾向がある。最適位置でのこのシステムの低域は、量感があり、腰が強く押し出しがよいが、やや重いタイプである。
 ステレオフォニックな拡がりは、このクラスとしてはスタンダードで、前後のパースペクティブをとくに感じさせるタイプではない。音像定位は安定で、コントラストがクッキリと付いた2ウェイシステムと比較すると、シャープさはないが、むしろナチュラルな良さがあるように思われる。トータルなバランスがよく、安定して幅広いプログラムソースをこなすのが、このシステムの持味といってよい。

トリオ LS-77

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このところ、2〜3万円クラスのスピーカーの新製品では、新材料や新デザインを導入した意欲的な製品が多い。
 トリオの新スピーカーシステムは、従来からも、ドロンコーンをもつバスレフ型のスピーカーシステムを開発してきたキャリアーをいかし、さらに、音像定位を明確化するために、例外的なコアキシャルユニットを採用した、注目すべき製品である。
 ブラック仕上げのエンクロージュアは、18mm厚の高密度ホモゲンでつくられ、エンクロージュア内の共振を分散するための補強がおこなわれている。
 使用ユニットは、ダイキャストフレームを採用した25cm口径のウーファーとラジアルホーン付のトゥイーターを同軸上に配置したコアキシャル2ウェイユニットと、同じフレームを使ったパッシブコーン、つまりドロンコーンが組み合わせである。
 マルチコルゲーションが付いたウーファーのコーン紙は、重量が8・3gと軽量であり、酸化チタンがコーティングされている。このコーンは、形状がほぼ、ストレートコーンともいえる、わずかにカーブをもっており、スムーズでキャラクターが少なく、伸びのある中音が得られるとのことである。
 トゥイーターは、振動板に、ルミナーにアルミ蒸着したものを採用し、ホーンはアルミダイキャスト、イコライザーは亜鉛ダイキャスト製で、ホーン鳴きを防止するために、ホーンの裏側にはゴム板を貼付けてダンプがしてある。
 パッシブコーンは、ウェイトを交換して低音をコントロールできるようになっている。標準としては、重量が30gあるウェイトが、コーン中央にネジ止めされているが、別売りのウェイト・オプションPW−77を使えば、低音不足を補う、20gのブースティング用ウェイト、低音が出すぎたり、中低音がカブル場合に使う、40gのダンピング用ウェイトが使用できる。
 標準ウェイトとウェイト・オプションは場合によれば、重ねて使用することも可能であるために、部屋の音響条件や、設置場所により、ウェイトを調整すれば、低音をかなりの幅でコントロールすることができる。一般に、この種のスピーカーシステムでは、部屋に応じて、最適の低音が得ることができれば、トータルなバランスは比較的にコントロールしやすいものである。ブックシェルフ型の特長である設置場所が自由に変えられるメリットに加わえて、パッシブコーンにより低音再生が調整可能な、このシステムは、良い低音再生をするために大きな可能性があると考えてよい。
 このシステムは、ホーン型トゥイーターを使った同軸型ユニットという特長があるために、クロスオーバー周波数が4kHzと高いことが音色にも影響しているようだ。バランス上では、中域が、やや薄く、声の子音や弦に独得のオーバートーンがつくが定位はシャープで、音色は明るい。

ヤマハ NS-500

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、NS−1000M系のシリーズに属する製品である。エンクロージュアは、ブラック仕上げであるが、完全密閉型ではなく、円筒形のダクトをもったバスレフ型が採用してある。
 ユニット構成は、25cmウーファーをベースとした2ウェイシステムだが、トゥイーターに、ベリリュウムを使った2・3cm口径のドーム型が使ってある。
 ウーファーは、円形のアルミダイキャストフレーム付で、ノーメックスボビンと、専用に開発した軽く硬いコーン紙を使用し磁気回路は銅キャップ付のアルニコマグネットを使っていることに特長がある。
 トゥイーターは、20kHz以上までピストン領域をもつ、タンジェンシャルエッジ付ベリリュウム振動板に、エッジワイズ巻ボイスコイルを熱処理してダイレクトに接着したタイプで、17500ガウスの高磁束密度の磁気回路が組み合わせてある。
 ネットワークは、空芯コイルとMMタイプコンデンサーを使用し、ネットワークは樹脂モールドされ、振動の影響を防ぎ、磁気的な影響のない位置に取付けてある。

ヤマハ NS-690II

井上卓也

ステレオサウンド 39号(1976年6月発行)
「SOUND QUARTERLY 話題の国内・海外新製品を聴く」より

 このシステムは、6万円台のスピーカーシステムとして代表的な存在であった、NS−690をベースとして改良が加えられた第2世代のスピーカーシステムである。
 外見上では、レベルコントロールの下にヤマハのバッジが付いた以外には、あまり変化はないが、各ユニットは、全面的に変更してあり、結果としては、モデルナンバーこそ、NS−690を受継いではいるがまったくの新製品といってもよいシステムである。
 ウーファーは、NS−1000系のマルチコルゲーション付コーンが採用してあるのが変った点である。サスペンションではエッジがウレタンロールエッジとなり、ダンパーの材質と含浸材が新タイプになった。また、ボイスコイルボビンは、220度の耐熱性をもつ米デュポン社製ノーメックスとなり、磁気回路では、低歪対策として、センターポールに銅キャップが付いた。
 スコーカーは、トゥイーターともども、新しい振動板塗布剤が採用され、ボイスコイル接着剤の耐熱性が改善されている。トゥイーターでは、ボイスコイルに熱処理が施され、スコーカー同様に耐熱性が高くなっている。
 エンクロージュアも、全面に高密度針葉樹系パーティクルボードを採用し、ウーファー背面にNS−10000同様の補強板を付けてあり、重量が単体で、NS−690にくらべ、36%重い、18・5kgになっている。
 NS−690IIの音は、基本的には、NS−690を受継いでいるが、低域が充実して、安定感を増したために、全体に、音の密度が濃くなり、ユニットの改善で、音伸びがよくなったために、トータルのグレイドは、かなり向上している。

アコースティックリサーチ AR-2aX, KLH Model 4

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 8つのスピーカー・システムということで、それを考えると、いざ名前を挙げるに従って8銘柄では少々物足りないのに悩んでしまう。
 8番目は、英国の名器とうわさ高い「ヴァイタボックス」の大型システムか、あるいは米国のかつてのビッグ・ネーム「クリプシュ」の現在の大型システムか、この2つのうちのひとつを挙げるのが、まず妥当なとこだろう。次点として、英国のローサの、これもコーナー型のホーンシステム。どれをとっても、低音はコーナーホーンで折返し形の長いホーンをそなえている。どれかひとつ、といういい方で、この中のひとつを絞るのは実は不可能なのだが、あえていうならヴァイタボックス。
 但し、これらは手元において聴いてみたいと思っても、それを確かめたことは一度もない。だから、人に勧めるなどとは、とてもおこがましくてできないというのが本音だ。そこで、よく知りつくしたのを最後に挙げよう。
 AR2aXまたはKLHモデル4だ。
 ARは今や2aXとなったが、その原形のAR2を今も手元で時折鳴らすこともあるくらいに気に入った唯一の本格的ブックシェルフ型。ARの低音はしばしば重すぎるといわれるが、それはAR3以後の低音で、AR2においては決して重ったるい響きはない。あくまでスッキリ、ゆったりで豊かさの中にゆとりさえあって、しかも引き緊った冴えも感じられる。高音ユニットは旧型がユニークだが、今日の新型2aXの方が、より自然な響きといえよう。
 KLHのモデル4は、同じ2ウェイでもブックシェルフとしてARよりひと足さきに完成した製品で、ブックシェルフ型の今日の普及の引き金となった名器だ。今でも初期の形と少しも変わらずに作り続けられているのが嬉しい。AR2よりも、ずっとおとなしく、クラシックや歌物を品よく鳴らす点で、今も立派に通用するシステムだ。持っていたい、たったひとつのブックシェルフといってよいだろう。

ヤマハ NS-1000M

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 ヤマハのオーディオ技術は他社と違って、はっきりした特長がある。それはオリジナル技術を持っている点で、アンプのV-FET、スピーカーのベリリューム・ダイアフラムだ。ともに他社にその類似製品があるが、ヤマハの場合、独力に近い形で一から始めて商品化に成功し、製品化にこぎつけたという点でユニークだ。
 ベリリューム・ダイアフラムは、それまでのジュラルミン系のダイアフラムにくらべ2倍も硬度が高く、重さはかえって軽いという驚くべき金属で、これが高音用に用いられると、同じ口径なら1オクターブ上の周波数範囲までピストンモーションが確保される。つまり理想状態でスピーカーが動作する。
 NS1000Mとして中音、高音にこのベリリューム・ダイアフラムを着装したシステムは、おそらく始めて海外製品を越えたサウンドを得たと断言できる。このシステムを聴いて海外メーカーの技術者は、おそらくどれほど驚いたことだろう。
 オーディオファンとして、JBLのシステムと切換えて、それに匹敵するサウンドの国産品が誕生したことを、半ば信じられない形で驚嘆した。それは、もう1年も前か。今、その第2弾としてヤマハNS500がデビューしたばかりだが、普及価格帯にまでベリリューム・ダイアフラムが登場したことには、オーディオ王国・日本の誇りと心強ささえ感じたものだ。
 さて1000Mのデビュー以来、このシステムはいろいろな形で常に座右にあってモニター用としての威力をふるっているが、そのすばらしさは誰かれとなくスピーカーにおいての国産品を見直すきっかけを作ってきた。
 10万円のスピーカーにしては1000Mの外観は少々おそまつかも知れぬが、それは実質本位のなせるためで、黒檀仕上げの14万円の1000の方が、より風格も雰囲気もあるのは当然だ。しかし10万円のシステムというラインの中でのNS1000Mのサウンドの魅力は、何にも増して強烈だ。マニアほどそれを鳴らさんと、やる気を起こさせる。

ダイヤトーン 2S-305

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 世界のスピーカーがすべて「ローディストーション、ワイドレンジ、フラットレスポンス」を目指す今日、その先見の銘をもっていたのがダイヤトーンの305だ、といったら誰かになじられようか。事実、三菱がハイファイ・スピーカーに志向し始めたとき、その目標としたのが前提の3項目であるし、それはなんと今から20年も前のことだった。
 その最初の成果が30センチの2ウェイ305であり、続く2弾が16センチのP610であり、どちらも20年以上の超ロングセラーの製品なのだ。305は最初、良質なる音響再生に目をつけたNHKによってモニター用として使用され始め、今日にいたるも、その主要モニターとして活躍し続けている。30センチの大型ウーファーに5センチの高音ユニットを、1500Hzのクロスオーバーで使うこの2ウェイ構成は、なんとごく最近の英国KEF製のBBCモニターにおいてトゥイーターユニットが2つだが、まったく同じ組合わせの形をしている。これは果たして偶然なのであろうか。KEFのモニターが、よく聴いてみればダイヤトーン22S305と酷似しているのは当然すぎるほど当然だ。三菱305の場合、日本のマニアからみれば国産品という点において、いわゆる舶来品との違いが商品としての魅力の点で「差」となってしまうのが落し穴なのだ。
 だから、もう一度見直して、いや聴き直してみたい。それがこの2S305だ。いくつかの驚くべき技術が305には秘められているが、そのひとつはウーファーのボイスコイルだ。そのマグネットは巨大で、ヨークの厚さに対してボイスコイルが短かい、いわゆるロングボイスコイルの逆の、ショートボイスコイル方式だ。これはダイヤトーンのウーファー以外には、JBLの旧タイプのウーファーだけの技術である。国産品の中にJBLの技術にひけをとらないといい得るのは、なんとこの305だけなのである。JBLなみに手元におきたいモニターシステムというのは、その理由だ。

QUAD ESL

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 スピーカーが振動板というひとつの重量物、いくら軽いとはいってもそれは重さのあるものだが、それを動かして空気中で音波を作り出すことを土台としている以上、作り出した音波自体が避けたくとも、大きな制限を受けることになる。楽器の中に限ったとしても、打楽器以外の天然の音はすべて、重さのある振動板によって作られた音ではないから、もしそれを本物らしく出そうとすると、振動板は「重さ」があってはならない。
 例えば管楽器のすべてがそうだ。木管ではリードが振動して音源となるが、リードは竹の小片で高音用スピーカーの振動板なみに軽い。しかし高音用ユニットでは、木管の音は出そうとしても出るわけがない。ときおり、もっと重い振動板によって軽やかな管楽器の音を出そうということになる。それがバイオリンのような小がらの弦楽器になると、もっとひどいことになる。バイオリンの弦の重さは、高音用ユニットの振動板よりも軽いくらいだから。
 ESLと呼ばれて、今日世界に例の少ないコンデンサー型・スピーカーが高級マニア、特に弦楽器を主体としたクラシック音楽のファンから常に関心を持たれるのは、そうした理由からだ。コンデンサー型システムの音は、あくまで軽やかだが、それは振動板がごく薄いプラスチックのフイルムだからであり、それは単位面積あたりでいったら、普通のスピーカーのいかなる標準よりも2ケタは低い。
 つまり、あるかないか判らないほどの軽い振動板であり、ボイスコイルのような一ケ所の駆動力ではなくて、その振動板が全体として駆動されるという点に大きな特長がある。つまり駆動力は僅かだが、その僅かな力でも相対的に大型スピーカーの強力なボイスコイル以上の速応性を持つ点が注目される。過渡特性とか立上がりとかが一般スピーカーより抜群のため、それは問題となるわけがない。ただ低音エネルギーにおいてフラット特性を得るため、過大振幅をいかに保てるかが問題だが、ESLはこの点でも優れた製品といえる。

JBL L400

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 JBLの最新最強力のシステムが、間もなく始まる6月の米国CEショーで発表される。これはL400と呼ばれる4ウェイシステムで、JBLのコンシューマー用初の4スピーカーシステムだ。おそらく、日本では70万円前後の価格で年内に発売されることになろうが、その母体はすでにあるスタジオモニター4341であろう。L200がスタジオモニター4331・2ウェイシステムと同格、L300が同じく4333・3ウェイと同じランクにあるのと同じように。
 このL400は、当然ながら38センチの低音ユニット、25センチの中低音用。ホーン型中高音用はLE85相当のユニットつき。それに077相当の高音ユニットの4ウェイ構成で、その狙うところは低歪、広帯域フラット再生だ。現代のハイファイ技術をそのままの姿勢でスピーカーに拡大した形といえよう。
 ところで、こうしたスピーカーのあり方は今日の全世界では共通なのだが、それがJBLシステムとして、他社との違いは何か、という点を具体的に追い求めていくと、D130ユニットになってしまう。D130は38センチ形のフルレンジだが、30センチ版がD131という名として知られており、これは4ウェイ5スピーカーのスタジオモニター4350の中低音用として、今日もっとも注目され、アピールされている。
 このように、JBLユニットのフルレンジの原形たる38センチD130から発したJBLサウンドが、もっとも現代的な形でまとまったのがL400に他ならない。L400はJBLの一般用システム中パラゴンを除き、最高価格のシステムになる。パラゴンは左右ひと組で3、600ドル。L400はひとつで1、200ドルは下るまい。ステレオで、3、000ドル近くでパラゴンに近い。L400の良さは具体的に接してみないと定かではないが、モニター4341から発展した音楽用で、低音をより充実して、ハイファイ志向に強く根ざした広帯域リブロデューサーの最強力形には違いあるまい。

JBL D44000 Paragon

岩崎千明

サウンド No.6(1976年5月発行)
「岩崎千明のグレート・ハンティング これだけは持ちたいコンポ・ベスト8(スピーカー編)」より

 ステレオ全盛の今日、ステレオ用として十分に意識され考えられたスピーカー・システムが果たしていくつあろうか。ステレオ初期からあった「ステージ感のプレゼンス」を考慮して、高音を周囲360度に拡散するとか、音の直接放射を壁面に向けて壁からの反射音によって「拡大されたステレオ感」と「遠方音源」の両面から「ステージ感」を得ようとする試みはヨーロッパ製を始め、多くの英国製品にみられた。
 しかし、リスニング・ポジションをかなり限定されてしまうという点で、今日の主流となっている全エネルギー直接輻射型システムと何等変わることはない。つまり、現在のスピーカー・システムをステレオ用として使うことは、モノラルにおけるほど広い融通性を持っているわけではなくて左右2つのスピーカーの間の、ごく限られた一定場所においてのみ、正しいステレオ音像が得られるにすぎない。そのスピーカーの大小、部屋の大小に拘らず、理想的にはただ1人だけに限られる。
 パラゴンの場合、驚くべきことに、その設置された部屋のどこにあっても、ステレオ音像はほとんど変わることなく、両スピーカーの中心にある。たとえ部屋のどこにいて聴こうが、変わることはない。こうしたスピーカーが他にあるだろうか。
 しかも特筆すべきは、このシステムが低音、中音、高音各ユニットともホーン型のオール・ホーンシステムであるという点である。
 パラゴンが、現存するオール・ホーン型の唯一のシステムであるということだけでも、その価値は十分にあると、いってよいが、パラゴンの本当の良さは、ホーン型システムというより以上に、ステレオ用としてもっとも優れた音響拡散システムであるという点を注目すべきだ。ただ1人で聴けば、コンサートホールのステージ正面の招待席で、ステージを見下ろすシートを常にリスニングポジションとして確保できる。また部屋を空間と考えれば、その空間のどこにあっても、もっとも優れたステレオ音像を獲得できる。パラゴンでなければならぬ理由だ。

タンノイ Cornetta(ステレオサウンド版)

井上卓也

ステレオサウンド 38号(1976年3月発行)
「マイ・ハンディクラフト タンノイ10″ユニット用コーナー・エンクロージュアをつくる」より

 試聴は例により、ステレオサウンド試聴室でおこなうことにする。用意したスピーカーシステムは、今回の企画で製作した〝幻のコーネッタ〟、つまり、フロントホーン付コーナー・バスレフ型システムとコーナー・バスレフ型システム2機種で、それぞれ295HPDユニットが取り付けてある。また、これらのシステムとの比較用には、英タンノイのIIILZイン・キャビネットが2モデル用意された。一方はIIILZ MKII入りのシステムで、もう一方は英国では “CHEVENING” と呼ばれる295HPD入りのシステムである。
 試聴をはじめて最初に感じたことは、2種類の英タンノイのブックシェルフ型が、対照的な性質であることだ。
 まず、両者にはかなり出力音圧レベルの差がある。それぞれのユニットの実測データでも、295HPDが出力音圧レベル90dB、IIILZ MKII93dBと3dBの差があり、聴感上でかなりの差として出るのも当然であろう。それにしても、295HPDの出力音圧レベルは、平均的なブックシェルフ型システムと同じというのは、HPDになりユニットが大幅に改良されていることを物語るものだろう。
 第二には、IIILZが聴感上で低域が量的に不足し、バランスが高域側にスライドしているのと比較し、295HPDでは低域の上側あたりがやや盛り上がったような量感を感じさせ、高域にある種の輝きがあるため、いわゆるドンシャリ的な傾向を示す。しかし、質的にはIIILZ MKIIのほうが、いわゆるタンノイの魅力をもっているのはしかたがない。量的には少ないが、質的にはよく磨かれている。一方295HPDでは逆に、とくに低域が豊かになっているが、ややソフトフォーカス気味で、中域から中高域の滑らかさが、IIILZ MKIIにくらべ不足気味に聴こえる。
 次に、295HPDの入ったオリジナルシステムと、今回製作した2機種とでは、当然のことながらブックシェルフ型とフロアー型の間にある壁がいかに大きいかを物語るかのように、少なくとも比較の対象とはなりえない。同じユニットを使いながら、この差は車でいえば、ミニカーと2000c.c.クラス車との間にある、感覚的な差と比較できるものだ。まだく両者のスケール感は異なり、やはりフロアー型の魅力は、この、ゆったりとした、スケール感たっぷりの響きであろう。
 2種類のコーナー型システムは、フロアー型ならではの伸びやかな鳴り方をするが、予想以上に両者の間には差がある。
 フロントホーン付コーナー型は、低域がよく伸び、中低域あたりまでの量感が実に豊かであり、とても25cm型ユニットがこのシステムに入っているとは思われないほどである。また、高域はよく伸びて聴こえるが、中域の密度がやや不足し、中高域での爽やかさも少し物足りない。ただ、ステレオフォニックな音場感は、突然に部屋が広くなったように拡がり、特に前後方向のパースペクティブの再現では見事なものがある。音質はやや奥まって聴えるが、くつろいでスケール感のある音楽を楽しむには好適であろう。聴感上バランスではやや問題があるが、ステレオフォニックな拡がりの再現に優れている。
 一方、コーナー型では全体に線が細い音で、中域の厚みに欠けるために、ホーン付にくらべかなりエネルギーが不足して感じられる。いわゆるドンシャリ傾向が強い音であり、ステレオフォニックな拡がりも、とくに前後方向のパースペクティブな再現が不足し、音像は割合に、いわゆる横一列に並ぶタイプである。
 スピーカーシステムの構造としては、フロントホーンの有無だけの差であるが、フロントホーンの効果は、ステレオフォニックな空間の再現で両者の間に大幅な差をつけている。オーバーな表現をすれば、一度フロントホーン付のシステムを聴いてしまうと、ホーンのないシステムは聴く気にならなくなるといってよい。つまり、豊かさと貧しさの差なのだ。
 概略の試聴を終って、次には幻のコーネッタに的をしぼって聴き込むことにする。このシステムの低域側に片寄ったバランスを直すためには、高域のレベルを上げることがもっとも容易な方法であるが、実際にはもっともらしくバランスするが、必要な帯域では効果的ではなく、不要な部分が上がってしまうのだ。いろいろ手を加えてみても解決策は見出せない。次には仕方なく、ネットワークに手を加えることにする。
 狙いは、高域側の下を上昇させ、低域側の下を下降させことにある。合度&と来で決定した値にしたところ、トータルバランスは相当に変化し、鈍い表情が引き締まり、システムとしてのグレイドはかなり高くなる。しかし好みにもよろうが、ローエンドはやや締めたい感じである。方法は、バスレフポートをダンプするわけだが、これはかなり効果的で、ほぼ期待したような結果が得られた。補整をしたシステムは、ますますホーンなしのシステムとの格差が開き、ほぼ当初に目標とした音になったと思う。ここまでの試聴は、レベル、ロールオフとも0位置に合わせたままで、特別の調整はしていないことをつけくわえておきたい。
 このシステムに使用するアンプは、中域の密度が高く、中低域から低域にわたりソリッドで、クォリティが高いタイプが要求される。少なくとも、ソフトで耳ざわりのよいタイプは不適である。逆に、ストレートで元気のよいものも好ましくない。プリメインアンプでいえば、少なくとも80W+80Wクラスの高級機が必要であろう。